プレスター・ジョンの国防衛戦~紅き悪魔の場合

    作者:天風あきら

    ●夢の国に在りし紅き悪魔
     麗々しく輝く城を、紅い視線が見下ろしていた。
     彼の名はレヒト・ロート。かつてはソロモンの悪魔アモンの配下で、一部の武闘派と言われた者達を率いていた者である。
    「それが今や、死んだ挙句に夢の国に囚われの身とはねぇ」
     正確には、今この場にいる彼は残留思念に過ぎない。
     気楽に自らの境遇を見つめるレヒト。最早外の世界と関わることもない……と思っていたが。
    「レヒト・ロート。その事態を打開するために、我々が来たのだ」
    「そう。お前を再び、現実の世界へと解き放つために……」
     レヒトの背後に控えていた、二人の男女。二人の放つ殺気は、彼等が六六六人衆であること、そしてその中にありながらも序列外の実力でしかないことを示していた。
    「ああ、わかってるさ。じゃあ行くか。『王様』を殺しに」
     レヒトはにたりと嗤い、真紅の外套を翻した。
     
    ●夢の国、緊急事態
    「大津・優貴先生が倒れた」
     篠崎・閃(高校生エクスブレイン・dn0021)は、苦々しい顔をして告げた。
     優貴先生と言えば、その身にシャドウの痣を宿している稀有な存在である。
     彼女が倒れたのは高熱のため。そしてその原因は……歓喜のデスギガスがプレスター・ジョンの国に攻め込んだことだと言う。
    「……!?」
     あまりの事実に驚愕する灼滅者達。
     更に閃は話を続ける。
    「デスギガス勢力の目的は、『プレスター・ジョンを暗殺し、プレスター・ジョンの国の残留思念を奪い、その残留思念をベヘリタスの秘宝で実体化させる』事と思われる」
     プレスター・ジョンの国には既に多数の残留思念が在る。それらが復活し、デスギガスの勢力に加われば……大変なことになるかもしれない。
    「プレスター・ジョンの国に攻め込んでいるのは、シャドウによってソウルボードに招かれた六六六人衆だ。彼等は、最近闇堕ちした序列外の六六六人衆みたいで、戦闘力は低い。ただし、その分、複数で行動しているらしい」
     六六六人衆の目的はプレスター・ジョンの暗殺。そして、プレスター・ジョンを守ろうとする残留思念と戦闘になっているようだ、と。
    「ただ、残留思念の中には、攻め込んできた六六六人衆に呼応してプレスター・ジョン殺害を目論む者もいて、戦況は混乱している」
     ダークネスとしては、どちらかと言えば後者の方が多そうだ……という閃の個人的感想はともかく。
    「皆にはプレスター・ジョンの国に向かい、残留思念のダークネスと共闘或いは敵対しつつ、攻めてきた六六六人衆を撃退して欲しいんだ」
     よろしく頼む、と頭を下げられては断れない。そう答えた灼滅者達に、閃は礼を述べた。
     そして閃の話は続く。
    「皆には、プレスター・ジョンを殺そうとしているソロモンの悪魔レヒト・ロートを倒してもらいたい」
     その名を聞かなくなって久しい悪魔の名を、再びエクスブレインから聞く日が来るとは思わなかった。
    「レヒトは鋼糸を使うソロモンの悪魔。双方のサイキックを使ってくるだろう。そして更に、二人の六六六人衆が協力している。二人は解体ナイフ使いみたいだね」
     そうして閃は、話を区切った。
    「デスギガス勢力のシャドウも、コルネリウス勢力のシャドウも、今回の戦いには加わっていない。どこか別の場所で戦っているのか、或いは、協定などがあるのか……。四大シャドウの動きには気を配らなくてはならないだろうね。ともかく、今回はこの事件を……頼んだよ、皆」


    参加者
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    識守・理央(オズ・d04029)
    西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)
    竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)
    遠野森・信彦(蒼炎・d18583)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    日下部・優奈(高校生エクソシスト・d36320)

    ■リプレイ

    ●嫌な奴
     不思議な光射すソウルボード。ダークネスだったモノ達が立ちはだかる中、進撃するやはりダークネスだったモノ。
     そこに、紅い彼もいた。
    「ハッ、どうしたどうしたぁ!? そんなもんじゃねぇだろ、ダークネスの底力ってのは!」
    「ぐっ……」
     鋼糸で首を刎ねられた男を前に、レヒト・ロートは血に濡れた高笑いを上げた。
    「くくっ、現実では叶わなかったこと……灼滅者だけでなくダークネスとの戦いすら体験できるとは。この世界も悪くねぇ」
    「そこまでです! メイドキーック!!」
    「!?」
     ほくそ笑んだレヒトに対し、突如突っ込む蹴り姿。それは踝まで届くフリルが清楚で艶やかなメイドのシルエット──米田・空子(ご当地メイド・d02362)のものだった。
    「まったく……この間もソロモンの大悪魔さんが現われたりして色々と大変だったので、レヒトさんまで復活してしまったらちょっと大変なのです」
     その裾を払いながら、空子はご当地ヒーローらしく姿勢を正す。その身繕いをナノナノの白玉ちゃんが手伝ったりして。
    「レヒトさんもやりたいことはあると思いますが、もう少しプレスター・ジョンさんの国でお休みいただけると嬉しいのですよ」
    「やっほ〜✩ レヒトちゃん元気してた〜?」
    「お久しぶりですねぇ」
    「……誰だお前ら」
     挨拶してきた殺雨・音音(Love Beat!・d02611)と、船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)に対し、失礼な返答をするレヒト。
    「ご挨拶ですねぇ、烈光さん」
     すると亜綾は傍らに控える霊犬の団長代行猫烈光さんをむんずと掴み、レヒトに投げつけた。
     しかしそのもふもふは、レヒトの右頬を掠るに留まる。
    「冗談だ。自分の本体にトドメ刺した奴らの面、忘れるかよ」
     笑みを深くするレヒト。
    「ま、知らねぇ顔もいるみたいだがな」
    「んん……申し訳……ありませんが……わたし……あなたの事……ほとんど……知らないのです……」
     顎で示されたうちの一人、西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)が首を傾げる。
    「匿って……頂いたのに……反逆……なさるとは……まさに……恩知らず……」
    「匿われた? 俺的には『縛られた』って感じなんだけどな」
    「成程。話を聞く限りイヤな性格の奴だったらしいが……噂は間違っていなかったようだ」
     こちらもレヒトと面識のない日下部・優奈(高校生エクソシスト・d36320)が、顔をしかめる。
    「日が浅いので優貴先生とも親しいわけではないが……お世話になる学園の教師だ、全力で力になろう」
    「──ってことは、お前達はまた俺の前に立ち塞がるって訳だ。……何度目だろうな」
     一瞬、レヒトの目は遠くを見やる。
    「ここで大人しくしてた方がいいと思うよ。生きるの下手みたいだし」
     しかしその意識を引き戻すのはやはり灼滅者──竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)。
    「まあ言っても止めないだろうから、力ずくで止めるけどね」
    「わかってる奴もいるじゃねぇか」
     レヒトの狂気染みた笑みが深くなる。
    「……レヒト・ロート。元アモンの一派か。正々堂々勝負といこうじゃないか。そうさ、正面切って真っ向からだ」
    「いいねぇ。数で勝りながら『正々堂々』とか口にする。その灼滅者のプライド、へし折ってやるよ」
     識守・理央(オズ・d04029)の意気込みを、鼻で笑う。本当に嫌な奴だ。
    「レヒト、またあんたと戦うことになるなんてな。何度でも相手してやるよ、かかって来な!」
     指先で誘うのは、遠野森・信彦(蒼炎・d18583)。それに乗らない相手ではない。
    「ああ。露払いなんてしてないで、お前らも出てこいよ。本気でやらないと……死ぬぜ?」
    「……」
     背後に控えていた六六六人衆の男女が、レヒトの前に進み出て無言でナイフを構える。あくまで脇役に徹するつもりだが、おめおめと殺されるつもりもない。
     この出会いもしくは再会は、何かを生むのか、何も生まずにすむのか。
     それは、灼滅者達の手で切り開かれる未来だ。

    ●考え方は十人十色
    「ぶっこんで……いきますよ……」
     大きな胸をたゆん、と弛ませて六六六人衆に肉薄する玉緒。アッパーカット気味に突き上げられた拳が炎を纏い、男の顎を捉える。その一挙一動ごとに揺れる胸と臀部が目を引く。露出の多い巫女装束風の着物姿だから尚更だ。
    「レヒトさんは……しばらく……放置プレイ……あとで……遊んで……差し上げますので……大人しく……しておいて……くださいね……?」
    「はっ、ふざけた格好の割にやるじゃねぇか」
    「あなたが言いますか」
     トンチキな格好で言えば、レヒトも似たりよったりだ。
     空子の言葉に、レヒトは吹き出した。
    「ぶっ……はは、違いねぇ! それにお前もな!!」
    「一緒にしないでくださいー。空子は早く終わらせて、あんぱん食べたいのですよ」
     言いながら、音音の傷を縛霊手の指先に集めた霊力で癒やしていく空子。相棒の白玉ちゃんも登を一生懸命治す。
    「ありがとなんだよ♪」
    「サンキュー」
     返される笑みが、また力を生んでいく。
    「おおおおおっ!」
     烈帛の気合は信彦から。蒼い炎を抱いたクルセイドソードが光を引きながら、斬撃を描く。その切先は六六六人衆の男の胸元を綺麗に引き裂いた。一撃を受けて倒れた男に、女は舌打ちして灼滅者達に向き直る。
    「──レヒト。あんた、正義がどうとか言ってたよな」
    「……ん? ああ、言ったっけな、そんなこと」
     自分の言葉が他人の胸に何を刻んだのか、そんなことに興味はないと言わんばかりのレヒトの返答。
     そうか、だがそれならそれで良い。
     信彦は、続ける。
    「俺は正義の定理を知らねぇんだ。ただ、自分が良いと思うことをやる。悔いの無い生き方をしたいだけだ」
    「くくっ、イイね正直で。そう言う意見も嫌いじゃないぜ」
     主が敵と言葉を交わしている間に、ウイングキャットの藤太郎が仲間を回復して回る。癒やしてもらった仲間が礼を言う間もなく離れて行くのが、愛想なさすぎて逆にツンデレ気味を感じさせる。
     そしてその裏側で、理央が六六六人衆の女に向けて影を伸ばす。
    「!?」
     その影は肥大化し、女を飲み込むまでに成長した。
    「──僕はあの時、弱かった」
    「くっ……」
     思い出すのは、鶴見岳での悔恨の戦い。
    「鶴見岳ではじめてソロモンの悪魔と戦い、膝を屈することしかできなかったんだ。……だけど今は違う。僕は過去のままじゃない!」
    「……!」
     理央の影に身体を握り潰された女は、声もなく苦悶する。
    「ふん、各個撃破、ってところか。生意気に地味で確実な作戦立てて来やがって」
    「ああ。お前のように、死んでもなお倒されるというのは哀れみを誘うがな」
     優奈が全身を回転させて女に接近する。回転に合わせて眼前に構えたクルセイドソードが軌跡を生み、それは触れる『罪』を傷つける斬撃と化す。
    「がっ……」
     傷口と口元から血を溢れさせてよろける女。既に同列に戦っていた男とともにダメージを蓄積していたので、流石に厳しい。
     だがここで退くことも負けることも同義。即ち──死が待つのみ。
     ならば戦うしかないのだ。
    「ところで、プレスター・ジョンも分割存在だけど殺せるの? まさか、そんな事も考えて無いとか?」
     そんな決死の覚悟を固めた女を差し置いて、彼女の肩越しにレヒトへ語りかける登。
    「ん? ああ、考えてなかったな」
    「本気か……」
     さらりと答えたレヒトに、思わず頭を抱えたい気持ちになりながら登はシールドを広げた。
     彼の背後からライドキャリバーのダルマ仮面が飛び出し、女目がけて突撃する。跳ね飛ばされた女は、宙を舞い地に叩きつけられ動かなくなった。
    「やられたか」
    「それより、どうするつもりだったんだよ本当に……」
    「あー、他にも六六六人衆やら蜂起したダークネスの残留思念とかいるらしいから、そっちに接触すればいいかと思ったんだ」
    「結構他人任せだね……デスギガスに都合よく使われてるだけじゃないかな?」
    「そうかもな」
     あっさりと首肯するレヒト。
    「でもいいのさ、それで。この馬鹿騒ぎに一手打てただけでも、価値はある」
    「どういう意味ですかぁ?」
     間延びした亜綾の疑問符に、レヒトは指を突きつけた。
    「お前達に会えた」
     目を丸くする灼滅者達に、レヒトは嗤った。
    「あの憎たらしい武蔵坂から、灼滅者を引っ張り出せた。それだけでも現状に楔を打てたと言うもんだ。なら無駄じゃない」
    「そういうものでしょうかぁ? ──まぁ、今は……行きますよぉ、烈光さん」
     言葉の意味を考えるのを後回しにして、亜綾は戦場を駆け回っていた烈光さんを呼び戻した。尻尾を振って戻ってきた烈光さんを、むんずと掴み上げる。
    「必殺ぅ、烈光さんミサイル」
     と、レヒトの眼前に投げつけられた烈光さん。哀れ。
    「……っと」
     それをこともなげに避けたレヒト。しかしその一瞬があれば、亜綾には充分だった。
     その時既に空飛ぶ箒でレヒトの頭上まで移動していた亜綾。そこで箒から手を放し落下、重力加速度を加えて突撃。構えるのは……バベルブレイカー。
    「グラヴィティインパクトっ」
    「ぐっ……!?」
     思いもよらない、反射的にガードする腕すらも打ち貫く一撃。
     一呼吸置いて引かれたトリガー。
    「ハートブレイク、エンド、ですぅ」
     どんっ!
     地を伝い走る衝撃。
     しかしまだ、倒れるには至らない。亜綾は誰にもわからないくらいに小さく歯噛みした。
    「六六六人衆ちゃん達の野望を阻止出来れば、復活はしても外に出られないレヒトちゃんも涙目になるしかないよね〜✩ ねえねえ、今どんな気持ち? どんな気持ち〜?」
    「いや、意外と悪くないぞ」
    「え〜? 無理しちゃって〜✩」
     怒りを煽りそうな音音のからかいに、レヒトは頭を振った。
    「本当に悪くない。むしろ、お前らがこっちに構ってくれて良い気分だ」
    「へ〜、レヒトちゃんもかまってちゃんだね〜♪」
     音音が笑う。だが笑うのはレヒトも同じ……それが気味悪い。
    「そんなレヒトちゃんには、ネオンちゃんキャノンを、プレゼントしてあげるね〜✩」
    「そりゃどうも!」
     音音のガトリングガンからばら撒かれた爆炎の弾丸が、レヒトの足元で炸裂する。
     そう、それは避けた。しかし。
    「レヒトさん……お約束通り……遊んで差し上げます……」
    「必殺、メイドビーム!」
    「喰らえぇぇっ!」
     玉緒のバスト揺れ付きの拳が、空子の光線が、そして信彦の赤い炎の蹴りが続けざまに突き刺さり、レヒトは地に沈んだのだった。

    ●また迎える終わりと
    「あー、また負けたか。何度目だろうな」
     レヒトは数を数えようとして一瞬でやめた。数える指を上げる力も残っていないのか、それこそ本当に数え切れないのか。
    「お前なんかただの通過点だ。とっくの昔に終わった亡霊だ! 大人しく──すっこんでろッ!」
     そう吐き捨てて彼に背を向けた理央は、拳を震わせていた。
    「亡霊、か……」
     苦しいはずなのに、口元に浮かんだのは笑み。
    「不死の世界みたいなもんだろうけど、出ることは許されない。倒されて、生き返っての繰り返し」
     それを見て、信彦も言葉を降らせる。
    「……悔いのない面して逝ったのに、こんなんじゃつまらねぇよな。俺だったら退屈すぎて暴れちまうよ」
     そんな感情が爆発しての今回の行動だったのか。
     ──答える声は無かった。
    「レヒトちゃんも頑張ってはいたと思うけど、運が悪かったよね〜♪ ネオン達に今回の件が知れたこともそうだし✩」
     音音の明るい笑い声が、今は救いのようだった。
    「難しいコトは分からないけど、ネオンはクオンと一緒ならそれで幸せ♪ そんな所を潰そうとする人達には怒っちゃうんだぞ✩」
     最愛の弟の名を口にして、首を傾げる音音。
    「予知……出来なかった敵……や……伏兵が居る……かも……しれませんし……国内を……廻って……みるのです……」
    「賛成。プレスター・ジョンの所にも行ってみようよ」
     戦いが終わってすぐだと言うのに、次の行動を提案する玉緒と登。
     警戒してしすぎることはない。賛同する皆を見て、最近武蔵坂で戦うことになったばかりの優奈は密かに吐息をついた。
    「久しぶりに激しい運動をしたので疲れた……」
     一人、また一人とその場を離れる面々。
     風に晒される死体に墓標は不要だろう。

     また、プレスター・ジョンの国で。

    作者:天風あきら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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