●愛を囁くメイドノ土産
すっかりと肌寒くなった、冬の名古屋は大須。
拡がるアーケードの下に様々な店舗が並ぶ……その一角にある、とあるメイド喫茶。
そんなに大きくない店舗だから、アットホームな雰囲気を大事にしている訳で。
「ふぅ……ねえ、そろそろ開店の時間じゃない?」
「え? あ、そうだねー。それじゃー私、外に出るねー』
「うん、お願い-♪」
そんな言葉を交わし、長袖のメイド服に着替える彼女。
そして鏡に映った自分の服装に、くすっ、と微笑み。
「さ、て、と……それじゃあ今日も頑張るわよ♪』
と、意気揚々と店の外へと出かけるのであった。
「皆様、お集まり戴けましたね? それでは早速にはなりますが、ご説明を始めさせて戴きますね」
と執事服に身を包んだ野々宮・迷宵は、集まった灼滅者達に深々と一礼し……そして、早速依頼についての説明を始める。
「本日、皆様に向かって戴くのは愛知、大須のメイド喫茶になります」
「このメイド喫茶は、そんなに大きな店舗ではないので、店員さんの数も四、五人程度。その内の一人が、フライングメイド服を着てしまった様なのです」
「彼女は妖艶な笑みを浮かべ、店の前を通る人達を誘っており、今はファンを増やしているフェイズの様です」
「当然、時間が過ぎれば過ぎる程に、彼女のファンは増えていく事になります。余りに多くのファンが増えてしまうと、どんな事が起こるかも解りませんので、今のうちにフライングメイド服をしっかり灼滅し、正しいメイド喫茶に戻して戴きたいのです」
と、そこまで言うと、続けて迷宵は。
「このフライングメイド服さんは、どうやらちょっと色仕掛け気味な方向で、一般人をメロメロにしている様で……その色仕掛けに引っかかってくれないと、さっさと次のターゲットに代えてしまう様です。なので、彼女の誘いに乗るようにする必要があります」
「そしてメイド喫茶の中で、彼女と共に一時を楽しむ……そして、彼女を店外へと誘い出す事が出来れば、恐らく第一関門は突破、という事になるでしょう」
「彼女を店外へと誘い出し……人気の無い所で仕掛ける様にすると良いかと思います。幸い奇襲を仕掛ければ、最初の2、3分の間は彼女はメロメロにしたファンの方達は集まってきません」
「尚、彼女のファンの方達は、身を挺しての盾になる様です。なので、彼女のファンが来れば、自然と戦う時間が延びてしまう事になりますので、ご注意ください」
そして、迷宵は。
「何にしても、彼女はメイドさんというのが好きなんだと思います。そんな彼女の心を踏みにじるフライングメイド服は、早々に討伐戴けるよう、お願いします」
と、また深く一礼するのであった。
参加者 | |
---|---|
皇・銀静(陰月・d03673) |
九条・泰河(祭祀の炎華・d03676) |
セラフィーナ・ドールハウス(人形師・d25752) |
禰・雛(ありのひふき・d33420) |
セティエ・ミラルヴァ(ブローディア・d33668) |
白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072) |
ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784) |
柚木・柚香(マジカルゆずりん・d36288) |
●夢の一時
冬、愛知県名古屋市大須。
アーケード街に並ぶお店は、電気店や飲食店、雑貨店……。
そんな飲食店の一大勢力に、メイド喫茶がある……そのメイド喫茶の店員さんに牙を剥いたのが、フライングメイド服。
「メイド喫茶にフライングメイド服……興味深いな」
と禰・雛(ありのひふき・d33420)が軽く笑みを浮かべる。
……そんな雛の言葉に、珍しく男装なウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)が。
「そういやなーんか前にも似たような仕事、やった事あるわね。まぁその分、必要以上に気負わずにいけそうだ」
と笑うと、それに白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)とセティエ・ミラルヴァ(ブローディア・d33668)、皇・銀静(陰月・d03673)も。
「しかし愛知にまでフライングメイド服、飛び回ってきてるのか。かなり広範囲に飛んでるんだな、フライングの服って」
「そうね。私も話には聞いていたけれど、実物を見るのは始めてなのよね。これは着たら操るタイプなのかしら? フライングメイド……やっぱり変っているわね」
「そうですね……面倒な相手です。本当馬鹿な代物が本当に多い……世界はどうなってしまうのか。嘆くべきでしょうか」
「ま、そうだなー。しかしメイド服ってデザイン良い服を台無しにするなんて気が引けるけど、はた迷惑な事が起きる前に消させて貰うぜ!」
「ええ……さっさとはがしてしまいましょう」
と、そんな三人の言葉に対し……柚木・柚香(マジカルゆずりん・d36288)は。
「……それにしても愛知ですか。愛知と言えば、ゆずのライバル蒲郡みかんが有名な所ですね。甘み高く、酸味もほどよく効いた美味しいミカンだと聞きます。ライバルの味を知る為にも、一度その蜜柑を食べたいですね」
眼をらんらんと輝かせる柚香。
それに対し、セラフィーナ・ドールハウス(人形師・d25752)が。
「そうですね……確かに食べてみたい所ですが……蒲郡はここから結構遠いと思いますよ?」
……確かに大須から蒲郡までは、大体片道1時間半。
流石に今から行って還ってくるとなると、その間に被害が広がるかも知れない。
「え? ……そんな時間、もうありませんか?」
と柚香の言葉にええ、と頷くセラフィーナ。
「うーん……仕方在りません。では素早くこの依頼を終わらせて、みかんを買いにいきましょう!」
と、ただでは挫けない柚香に周りの仲間達も苦笑。
そしてウィスタリアが。
「さーてと。それじゃさっさと始めようか。おれと泰河でメイドをナンパ、って事でいいよな?」
と、九条・泰河(祭祀の炎華・d03676)に確認。
「ええ……でも、実を言うとナンパって得意ではないんだよね。でもやるからには全力で」
ぐっと拳を握りしめる泰河。
「ああ、宜しくなー。それじゃ他の皆は、待ち伏せ場所を捜しといてくれな?」
「了解です……ああ、一応これを渡しておきますね」
と銀静がウィスタリアに渡したのは、一枚の紙。
その紙に標されているのは、一人の少女の写真と、プロフィール。
「……これは?」
と泰河が尋ねると、それに銀静は。
「今回のフライングメイド服の彼女について調べた情報です。少しは興味を惹く助けになれば、と」
「……よく調べたな」
少し驚いた表情のウィスタリアと泰河。
……まぁ、何にしても彼女の興味を惹くことは、この作戦のポイントであるのは間違い無い訳で。
「ま、解った。それじゃ行ってくるなー」
とウィスタリアと泰河は大須の町へと繰り出し、残る灼滅者達は、待ち伏せ場所へと向かった。
●愛を囁く
そして……泰河とウィスタリア二人、大須の街角を歩く。
ぶらぶらと歩きながら、頭に叩き込んでおいた彼女の写真を元に、探しながら歩く。
……暫し歩いていると、店の前でチラシを配っている……彼女の姿を発見。
冬というのにひらひらなスカート……そして、カワイイ笑顔で、店の前を通りがかる人達にチラシを配る。
……その笑顔に釣られて、店へと吸い込まれていく人、続々。
「まぁ……確かに惹かれる気持ちは解らなくも無いね。あの服装と、猫なで声に掛かれば」
と泰河が苦笑し、そしてウィスタリアも。
「……ああやれば、男心をくすぐれる、ってのを無意識に解ってるのかもなー……っとと、出てきた。良し、次はおれ達が引っかかる番だな」
と言いながら、ウィスタリアと泰河二人、メイドさんの元へ。
『メイド喫茶です~。お時間、ありませんか~? 是非、よっていってくださいね~♪』
と猫なで声と共にチラシを渡してくると……それを受け取り。
「……キミ、カワイイね」
と泰河が微笑む。
それにそんなことないですよぉー、と笑いながら微笑みかける彼女。
「ねえ、お時間ありませんかー? メイドカフェ、寄っていってくれませんか?」
と、その言葉にウィスタリアが。
「……折角だし、寄ってく?」
と小首を傾げ、それに頷く泰河。
『ありがとうございます~♪ お二人様、ご来店です~♪』
軽いステップで、二人の手を引き、店内へ。
……店は確かに、お客さんが10人も入れば一杯になる位の小さなお店。
そして彼女からメニューを貰い、幾つか注文……そして泰河は店の中を見渡しながら。
「こういうメイドさんのお店って始めてだけど、素敵な場所だねー」
『そうですか~。ありがとうございますぅ~♪』
頭を下げる彼女。
目の前でスカートがひらりと舞う……それに泰河が更に。
「だけど……素敵な格好だねぇ……こう……洗練されてるって言うのか……完成度が高いっていうのかな。そして着こなすお姉さんも、その立ち回りが素敵なんだよ♪」
『あらあら、本当ありがとうございますぅ♪ ご主人様は、メイドさんに詳しいんですかぁ?』
「詳しい、って言えるかどうかは解らないなぁ……まぁ、多少は人より詳しいかもしれないけど」
……と、泰河は色々と調べてきたメイドについての蘊蓄を語り始める。
それに嬉しそうに会話する彼女……そんな二人の会話の横で、ウィスタリアはラブフェロモンをそれとなく使用し、他のフロアスタッフを魅了していく。
……大体魅了も終わり、そしてオススメの食べ物を一通り平らげたところで。
「……ねえ、暫く忙しいの? 若しも良ければ、だけど……もう少ししっかりとお話したいな、ってね」
と、店外へと誘う泰河。
……勿論、他の店員さん達の目もあるので。
『えー……それはちょっと、困りますぅ』
と困ったフリ。でもすぐに。
「大丈夫大丈夫……他の店員さんには、ちゃんと話は通しておくからさ……ね? それじゃ、一端外で待ってるよ」
と泰河は囁き、そしてウィスタリアは、他の店員に。
「少しの間、彼女をお借りしたいんだけど……いいかな?」
と囁く。
ラブフェロモンに、メロメロの店の店員達は、いいですよー、と。
そして二人店の外へ……数分後に、彼女も店から出てきて。
「着てくれたね。ありがと。それじゃ、ちょっと落ち着ける所に行こうか」
と、仲間達の待つ所へと連れ出す。
……そして連れ出している間に、歌音はプラチナチケットで、裏口から店に侵入。
そして……店舗関係者を装い、フライングではないメイド服を一着持ち出すのであった。
そして……二人から連絡を受けた、待ち伏せ班の仲間達。
店から少し離れた路地裏で、姿を隠し……彼女の到着を待つ。
歌音の作戦もあるので、少し大回りをしながら、待ち伏せ場所である、路地裏まで到着する彼女。
そんな彼女を見ながら、雛は。
「……ふむ。あれは癒やし、なのだろうな。彼女の存在はとても大きいらしい」
と、メイド服に感心。
……まぁ、確かにメイド服で接客する事で、誰かの癒やしになっているのかもしれないし、雛の言う言葉もあながち間違ってない。
ともあれ、彼女を放置しておく訳にもいかないのも確かな訳で。
そして、彼女に向かい直る泰河とウィスタリア。
『もう……こんな所につれこむなんて、悪い人達ね♪』
と妖艶に微笑む彼女……と、その瞬間に、セティエがサウンドシャッター、雛が百物語を使用し、その周囲から一般人を引き離す。
そして、前と後ろの両面に、灼滅者達が立ち塞がる様に姿を現す。
「ゆずに磨かれる美貌! マジカルゆずりん、参上です!」
ずびしっ、と構える柚香。
と、それに彼女は。
『ふふふ……やぁーっぱり、そういう事だったのね? 何だか怪しいなぁ、って思ったもの』
微笑む彼女。
でも、そんな彼女に。
「無差別に誘惑して迷惑掛けてるメイド服! 元峰鳳学園ヒーロー、マギスティック・カノンが更正してやるぜ!」
と歌音は声高らかに宣言すると、すぐに至近距離まで接近。
そして至近距離からの閃光百裂拳の一撃を叩き込む。
……が、彼女はギリギリの所で、その一撃を躱す。
『危ない危ない……顔はやめてくださいよぉー』
猫なで声の彼女……何処か余裕な雰囲気を漂わせる。
……すぐに、籠絡済みの仲間がやってくるだろう、という希望。
でも、ここは路地裏。
仲間が着たとしても、灼滅者達を挟んだ逆側になるのだが……気付いていない様である。
そして、そんな彼女に対し、泰河が。
「ごめんねお姉さん……そのメイド服は、例えるなら呪いの人形みたいなものなんだ。だから……解放させて貰うよ」
と宣言すると共に、縛霊撃。
更にセラフィーナは、ビハインドの聖堂騎士と連携しながら、除霊結界とシールドバッシュ。
そしてセティエはスターゲイザー、雛がレイザースラストを放ち、彼女の動きを確実に制限していく。
更にクラッシャーの銀静、歌音、柚香は、それぞれ彼女の一番近い所まで接近して。
「行きますよ! マジカルユズパーンチ!」
「せっかくいい服だってのに、使い方が悪すぎて魅力が色あせてしまうぜ! メイド服は奉仕する人が着る服であって、奉仕させる為に着る服じゃないんだぜー!!」
「そうですね……さぁ、痛くない内に、しっかり倒して差し上げますよぉ」
と三者三様、彼女に声を掛けながらも、縛霊撃、リングスラッシャー射出、そして螺穿槍と高いダメージの攻撃を続けて行く。
流石にこれら攻撃を全てかわせる程、彼女は手慣れていない。
一撃、二撃と喰らい、服がビリッ、と破け始める。
……流石に服が破られて、少し不味い事を察知。
でも……仲間はまだ居ない。
『くっ……何よ、遅いわねえ!!』
少し怒りを孕んだ言葉を叫ぶ彼女。
そんな彼女に、敢えて。
「素敵なメイド服……それはいくらだってあるよ。着る者を狂わせるような召し物が召し物として頂点に立つことなどありはしないんだから。だって……其れは最早服としての意義を失っているからね」
と泰河の言葉に、セティエが。
「そうね。今の貴方は、メイド服に支配されて、メイド服に操られている。それが望みではないでしょう?」
と尋ねたその瞬間。
『うぉおお!!』
『彼女を虐める奴は赦さないぞおおお!!』
と、大声を上げて突撃してくる彼女の仲間達。
……でも、路地裏の両面には、灼滅者達の壁。
どうにかその壁を突破しようと奮闘するが……。
「君達の情熱は素晴らしい……しかしながら、少し眠っていて貰おうか」
と、雛とセティエ、歌音とウィスタリアの手加減攻撃で、次々と気絶させていく。
……そして数分の後には、彼女の仲間は全て伸びる。
『……もう……役立たず!!』
と叫ぶ彼女。
そんな彼女に、セラフィーナが。
「役立たず……というのは、些か酷いと思いますよ? ……全て、貴女がフライングメイド服の力で誑かしたのですから、ね」
と、しっかりと言い放つ……そして彼女へ。
「マジカルユズスプラッシュ!!」
と、除霊結界で柚香が一閃喰らわせ、更にセラフィーナが封縛糸で彼女を縛り付ける。
そして、銀静が。
「……ふふ。さぁ、これで最後ですよ」
とニヤリと笑い……そして、渾身の戦艦斬りで、フライングメイド服を木っ端みじんに破壊するのであった。
●メイドの土産
「……またつまらぬものを剥いてしまった」
と呟く銀静。更に雛が。
「ああ……お疲れ様だ」
と告げる。
そして……フライングメイド服の拘束から解き放たれた彼女。
当然、フライングメイド服が破けた下には……下着しか着ていない訳で。
「ととと……はい、男性陣は回れ-右-!」
と歌音の声に、男性陣は視線を背ける。
そして彼女に、すぐに歌音が持ってきた着替えの服を、女性陣が着替えさせる。
……程なくして、彼女は目を覚ます。
『……う、ぅん……あ、れ……?』
と、ぼんやりとした視線を漂わせる彼女。
そんな彼女に雛が。
「……大丈夫か?」
と、声を掛けると、え、ええ……と。
「……メイド、か……メイドという仕事をやり遂げる貴女を、尊敬するよ」
と言う雛に、歌音が。
「そうだな。ちょっと疲れちゃったのかもなー? ま、無理はすんなよ? メイドの仕事、頑張ってな!」
と彼女の肩を叩いて励ます。
それに……おずおずと、頷く彼女。
そして彼女を店まで連れて帰り、彼女と別れる。
手を振ってくれる彼女に、銀静が。
「愛……そんなもの……幻想でしかない。欲望を都合良く綺麗な言葉にしただけです」
と銀静の言葉に頷きながら。
「さーてと……まだ帰るまで時間はありますよね? みかんの味を知りたいのですけれど、購入まだ間に合いそうでしょうかね?」
柚香は蒲郡みかんに、まだ興味があり……折角だから、と、蒲郡みかんを買いに、町へと向かうのであった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年1月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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