プレスター・ジョンの国防衛戦~あそびのつづき

    作者:高遠しゅん

     あの城に、いる。
     あたしをこんな所に閉じ込めた奴がいる。
    「もう死ぬのは嫌だ」
     磨いたローファーの爪先が石畳を踏む。プリーツスカートは膝の上程度、下品にならない長さ。ブラウスの胸元にはチェックのリボン。これは気に入ってよく着けていたものだ。上着は紺色のブレザー、襟の形が上品。
    「殺してやる。切り刻んで、粉々にしてやる」
     きっちり編んだお下げの髪を揺らし、前髪は邪魔にならぬようピンで留め、伊達眼鏡の清楚な少女は凶悪な笑みを浮かべた。
     目の前にそびえるのは壮大な城――プレスター・ジョンの城という名を、少女は知らない。鮮明に覚えていることはただ一つ、二度も灼滅者に殺されたことだけだ。憎悪がどす黒い殺気となって身体を取り巻いている。
    「ねえ、あんたたち」
     少女は自分の後ろを歩く、強すぎる殺気に咳き込む男二人を見もせずに言った。
    「どれだけぶっ殺せば、あたしはここを出られるのさ?」


    「新年から事件続きだ」
     櫻杜・伊月(大学生エクスブレイン・dn0050)は缶コーヒーを一口含んでから告げた。学園の教師であり、ラグナロクでもある大津・優貴先生が、突然高熱を出して倒れたと。彼女は学園に在籍する中でも特に異質な力を持っている事を、学園の灼滅者で知らない者はない。
    「歓喜のデスギガスが、プレスター・ジョンの城に攻め込んだ」
     優貴先生のソウルボードはプレスター・ジョンの国と繋がっている。そのためか体調を崩しやすく、灼滅者たちが対処することで現在まで事なきを得ていた。
    「デスギガス勢力の目的は、プレスター・ジョンの国の残留思念だ。丸ごと奪って、ベヘリタスの秘宝で実体化させる。実現したなら、大変なことになる」
     プレスター・ジョンの城に存在する残留思念は少なくない。過去に大規模な戦いで灼滅した、名の知れたダークネスも存在が確認されている。それらが再び実体を持ち、一斉に攻勢に出たとしたら。街を蹂躙するとしたら。
     缶を机に置き、硬い表情で伊月は手帳を広げた。

     プレスター・ジョンの城に攻め込んでいるのは、シャドウの力でソウルボードに招かれた六六六人衆だという。最近闇堕ちしたばかりの者で、戦闘力は低いが複数で行動しているのが厄介だ。
    「目的は、プレスター・ジョンの暗殺だ。だが、戦況は混乱している」
     プレスター・ジョンを守り戦う残留思念と。
     侵入してきた六六六人衆とともにプレスター・ジョンを殺害し、シャドウの力を得ようとする残留思念。
     残留思念の思惑も様々だ。今ある場所を受け入れ守ろうとする者もいれば、受け入れず現世での思いに囚われたままの者もある。そういった者たちが、外部から干渉された際にとる行動は、本能が余計に現れるのかも知れない。
    「君たちには、プレスター・ジョンの国に向かい、残留思念と行動する六六六人衆を撃退してほしい」

     伊月は数冊のファイルを示す。過去の依頼の報告書らしい。
    「私が視た残留思念は。元六六六人衆、序列六三三位。古池・まなび」
     過去に三度灼滅者と戦い、灼滅されてなお慈愛のコルネリウスに導かれ蘇り、再度の灼滅をもってプレスター・ジョンの国に送られた少女だ。一般人を遊びのように多数惨殺し、最期の最期まで自分の生に執着した彼女は、武蔵坂の灼滅者を深く憎悪している。鋼糸繰りを得意としていた。
    「加えて、序列外の六六六人衆の男が二人付いている」
     シャドウの力でプレスター・ジョンの国に侵入した六六六人衆は、プレスター・ジョンを殺害したなら生き返ることができるとまなびに吹き込んだ。二人とも解体ナイフを使って妨害してくる。六六六人衆らしく、殺戮を好む性質だ。
    「六六六人衆が何故デスギガスに協力したのか。何を企んでいるのかは不明だが、状況によっては慈愛のコルネリウスとの交渉が視野に入るかも知れない」
     伊月は手帳を閉じ、残っていたコーヒーを干す。
    「無事の帰還を。優貴先生のためにも、全員での帰還を待っているよ」


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    宮廻・絢矢(群像英雄譚・d01017)
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)
    桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    ヴォルペ・コーダ(宝物庫の番犬・d22289)
    烏丸・碧莉(黒と緑の・d28644)

    ■リプレイ


     不思議な空間だった。
     空の向こうに浮遊する空間がいくつも見える。森林公園でもあるかのように美しく整えられた木々、地は石畳の区域で、目の前には城が見える。その城も目の前に見えるようにも、遙か遠くにあるようにも見える。遠近感が掴めない空間だ。
     ブレイズゲート、プレスター・ジョンの国。慈愛のコルネリウスに導かれた残留思念が行き着く先。一見は穏やかで平和そうに見えるこの世界には、幾多のダークネスが生と死を繰り返している。
    「ちょっと新鮮な気持ちですね」
     烏丸・碧莉(黒と緑の・d28644)は、あまり訪れたことが無いブレイズゲートの光景を見回す。この広大な世界が学園の教師のソウルボードと繋がっているとは、にわかに信じがたい。
    「死して尚、死ぬんやね」
     千布里・采(夜藍空・d00110)は溜息交じりに呟き、先を歩く霊犬の揺れる尾を見る。死後静かに眠るという概念は、ダークネスには通じないようだ。
     プレスター・ジョンの国を守ろうと動き出した残留思念もいると言うが、この場にいる灼滅者たちが出会う残留思念は違う。侵入してきた六六六人衆と手を組み、現世に黄泉がえりを果たすために動いている。プレスター・ジョンを倒せば、現世に実体を持って生き返ることが可能なのだと。ベヘリタスの秘宝が力を与えるらしいが、秘宝そのものがどういった物であるかは未だに不明だ。
     戦端は一瞬で切り開かれた。
     肌を刺すような殺気が爆発するとともに、金色の鋼糸が宙を切り裂いた。
    「『武蔵坂』! 殺しに来たな、あたしを殺しに来たな!!」
     やる気のなさそうな黒スーツの男二人を従えて、どこからともなく現れた制服姿の娘が声を上げた。黙っていたなら成績と教師受けが良さそうな委員長風の娘だが、その顔に浮かぶのは明確な憎悪と怨嗟。
    「お久し古池さんです。なんか知らないけど大変そうですね、かわいそ!」
     宮廻・絢矢(群像英雄譚・d01017)が笑って手を振れば、その足下を鋼糸が深く抉った。軽く地を蹴って避けたなら、獣の唸りに似た声が娘の口から漏れる。
     元六六六人衆、序列六三三位、古池・まなび。かつては六六六人衆の本能のまま、服を着替える気分で人間を殺していた。三度の交戦で灼滅されたが、後味の悪さは未だ桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)の心に爪痕を残している。
    「古池……」
    「殺してやる。今度こそ八つ裂きにして、殺してやる!」
     言葉が届いているのかすら怪しい。怨嗟に醜く歪んだ瞳には、かつて自分を灼滅した者の顔しか見えていないようだ。
    「お前も、お前も、お前も、あたしを殺そうとした。殺した!」
     突き刺さる視線に、藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)は表情も変えない。その横顔を横目に見るのは斑目・立夏(双頭の烏・d01190)。過去にまなびと縁のある徹也がどう思っているのか、付き合いの長い友人であっても横顔から読み取ることはできない。
    「こじらせ系女子っていうのか。面倒だな」
     思わず呟いた木元・明莉(楽天日和・d14267)に、ヴォルペ・コーダ(宝物庫の番犬・d22289)は違いないと苦笑を返した。ヴォルペの腹は来る前から決まっている。高校時代の制服を雑に着崩し、にやりと気障に笑って見せた。
    「踊っていただけますか、まなびちゃん。どちらかが倒れるまで」
    「あたしはもう死なない。死ぬのはあんたたちだ、あたしが殺すんだ!」
     けらけらと耳障りな笑い声を響かせるのと、黒スーツの六六六人衆二人がナイフを構えるのはほぼ同時。ダークネス三人の殺気が膨れあがり、周囲を巻き込んで大きく弾けた。


     まなびが解放したどす黒い殺気が吹き荒れた後は、にじみ出す夜霧が辺りに充ちる。シャドウが送り込んだ、二人の六六六人衆が妨害をかけたのだ。霧を切り裂くように、金色の鋼糸が迸る。
     包囲の陣を敷いた灼滅者たちが身構える前に、黒いスーツの男が跳んだ。タイの色は赤、赤茶けた髪を殺気で逆立て、安っぽいシャツがだらしない。ナイフは血錆びて刃が欠けている。もう一人の青タイの男は背が低く、ずんぐりした体で鉈のごとき刃を逆手に勢い振るった。
    「赤からだ!」
     低く地を蹴った明莉が身の丈もある斬艦刀を構え、横薙ぎに霧をなぎ払う。腹を割かれた赤タイの男が奇声を上げて刃を向けた先には、『The divine protection of birds』の銘持つ盾がある。
    「何度復活しようと、灼滅対象であることに変わりはない」
     徹也の無感情な低い声、固めた拳に雷を宿す。盾から逸れた刃が腕を肩を深く切り裂くが全く構うことなく、計算し尽くされた機械のごとき正確さで死角からの抗雷撃を叩き込んだ。赤タイの男が堪えきれず距離をとる。
    (「何やっとるん、徹やん」)
     高らかに歌い上げるのは天上の調べ。立夏は敵に催眠を与えながら、友の背を見る。傷を庇えば敵に弱みを見せることになるが、徹也の戦い方は自分を顧みない。戦いの場で心配していると言えば徹也の実力を侮っていることになるのだろうか、しかし大切な友が傷つく様は見たくないのだ。
    「ちょっとあんた、何勝手なことしてるのさ!」
     まなびが金切り声を上げる。赤タイの男はちらりとまなびを見るが、青タイの男と目配せしては再び夜霧を喚んだ。
     ハンチングの鍔に無意識に手をやり、南守は三人の様子を観察する。
    「……そうか」
     赤タイと青タイの二人には連携する意思が感じられる。その点、まなびは二人と息を合わせるなどかけらも思っていないのだ。六六六人衆は本来、徒党を組む性質ではない。用心深く執念深く、序列を争う本能を持つのだ。まして元序列持ちと、闇堕ちしたばかりの序列外となれば。
     南守が縛霊手から展開した祭壇は、霊的因子を強制停止させる結界を張り巡らせる。立夏の唄とともに、足並みを乱すには十分な手段になる。
    「さ、お行き」
     采が送り出した霊犬が、赤タイの男の間に立ちはだかった。含み笑い、ひゅんと回した標識が黄の光を点滅させ、前衛たちに加護を与えた。生き続け、死に続けるこのブレイズゲートは、まなびにとっては檻のようなものだ。さぞ今まで歯がゆかっただろうと、察することができる。
    「可哀想とは、思わんけどなぁ」
     くふり、笑って影を繰る。地を迸る影の鉤爪が、赤タイの男を雁字搦めに縛り付けた。青タイの男が振るった鉈は、霊犬の刃が食い止める。
    「癒しの風よ」
     碧莉が喚ぶのは癒しの光。呪縛を解き放ち加護を与える清らかな風。長い黒髪が風に舞い、優雅にゆらめく。
    「仲間を助けてあげて下さ……!」
     目の前に金色の鋼糸が広がる。前進を切り刻み、絡め取ろうとする糸に碧莉が巻き込まれる瞬間、
    「おっと。おいたは駄目だよ、お嬢さん」
     碧莉を護りの要と見抜いたまなびが放った鋼糸を、ヴォルペは片腕で受け止めた。一瞬でぼろぼろに切り刻まれても、唇には軽い笑みが乗ったまま。すかさず碧莉が再度風を喚ぶ。それが自分の役目だから。
    「邪魔だよ、あんた」
    「殺してくれるなんて最高だな」
     眦をつり上げるまなびに、ヴォルペはサングラスの下の目を細め。
    「殺せるなら、だけどね?」
     纏う帯が躍るように狙いをつけ、まなびの足下に打ち込まれる。惜しい、外したかと笑ってみせれば鋼糸が再び放たれる。その横合いからホイール音を響かせ、炎の尾を引く蹴りを入れたのは絢矢だ。
    「あんたは!」
    「絢矢くんさんです。覚えててくれました?」
     縁があったのか、三度の邂逅でまなびを灼滅した一人。
    「顔だけじゃなく名前も覚えてくださいね」
     挨拶代わりに炎の蹴りをもう一撃。炎に巻かれ、まなびは一瞬息を詰める。炎に焼かれて死んだ日のことを思い出したのか、握り込んだ拳が震えている。
    「あたしを殺した奴だ。あんたと、あんたと……あんた」
     視線は絢矢と南守、そして徹也の上を巡る。
     耳障りな笑い声が弾けた。ああ、これで殺せる。ずっとずっと殺したかった奴を殺せる。あんたたちを皆殺しにして、あたしは。
    「あたしは生き返るんだ。みんなみんな殺してやる。殺してやる!」
     金の鋼糸が放たれた、と灼滅者たちが身構えた瞬間。
     切り刻まれたのは青タイの六六六人衆だ。何が起こったのか分からないという顔で、背後から放たれた鋼糸に四肢を落とされ、首を落とされ。地面に落ちる前にぐずぐずに溶けて消えた。
    「仲間も……殺すんですか」
     呆然と呟く碧莉に、まなびはけたたましい笑い声で返す。
    「誰が仲間だって? あんたたちは、あたしの獲物だ」
     殺しの邪魔をするなら、同じ六六六人衆であろうと関係ない。
    「仲間なんていないよ。生き返る方法教えてくれたのは嬉しいけどねぇ」
     六六六人衆は、互いに殺し合うのが本能。序列にも入れない堕ちたての奴に獲物を取られるなんて、序列持ちには恥以外の何物でもない。後ずさった赤タイの男も、傷を負っている上、まなびの殺気に呑まれ身動きが取れずにいた。
     灼滅者たちの目の前で、赤タイの男も刻まれて消えた。


     この執着はどこからくるのか。生に、死に、なりふり構わず縋りつく。時には同族ですら手に掛けて、自分の望みや命を優先させる。その姿はどこか――人間臭い。
    「てか、俺達灼滅者に似てるのか」
     明莉は独りごち、過去の報告書にあったまなびの言葉を思い出す。まなびは嘗て、言ったのだ。『灼滅者は人間よりダークネスに近い』と。違いない。人間にはない闇と同じ力を使い、灼滅者はダークネスを狩る。
     光を弾く鋼糸の封印を弾き返し、合間を縫うように明莉は駆ける。正面からと見せかけて死角へ回り、撃ち込んだ鋼鉄の拳はまなびを守る力を砕く。
    「認めたくないけど、事実だな」
    「ち、く、しょうっ!」
     娘は伊達眼鏡の奥で灼滅者たちの陣形を探り、後方を移動する立夏を捕らえた。狂喜に歪み指先で繰る糸が、めちゃくちゃな軌跡を描き立夏に届く、寸前。
     身を投げ出した徹也が斬撃を浴びた。欲も得もない、ただ友が傷つくことを許さない一心での行動だ。
    「何してるのさ、馬鹿じゃないの?」
    「お前が殺害すべき対象は、俺だろう」
    「この、あほぅ! わいは平気やさかい、自分の事考えや!!」
     攻撃のために貯めていた気を集め、立夏が叫んだ。徹也の襟首を掴み自分の後方へと押しやれば、無表情の中にも訝しげな色が微かに浮かぶ。
    「私たちを馬鹿にする限り、あなたは私たちに勝てません」
     碧莉が幾重にも風を喚びながら唄う。
     人間だからこそ生きるために助け合い、かばい合う。自分の得のために同族を切り捨てるダークネスには、決して理解できない力。人間である証。
    「あなた独りでは、私たちに勝てません。逃げますか? それとも、まだ戦いますか?」
    「黙れ、黙れ!」
     編み出された鋼糸の結界は、動揺のためか精度が甘い。唇の片端を上げてヴォルペが跳んだ。糸の合間をくぐり抜け、まなびの至近に肉薄する。
    「三度でも四度でも、殺してあげるけどね。お嬢さん」
     振り抜いた標識が赤く点滅する。華奢な体をくの字に折って、吹き飛び二転三転するも立ち上がるのは六六六人衆の挟持か、それともただの偶然か。
    「ほんまに弱いんやねぇ、誰も切り刻めてませんで?」
     采の纏う布端が、夜闇じみた影を含む。伸び上がった帯が降下するとともに、霊犬が跳ぶように駆けた。闇を宿した帯と霊犬の刀に切り裂かれ、まなびは喉の奥から絞り出すような悲鳴を上げる。己の心の傷を、目の前に引きずり出されたのだ。最も見たくない、傷を。
    「あんたさんのトラウマ、よぅ見てみ?」
    「そうそう。古池さん、とびっきり強い子じゃないんですし」
     無邪気な中にもどこか倒錯した笑みを浮かべ、絢矢は膝を折らないまなびにたたみかけた。エアシューズのホイールを鳴らして無造作に歩み寄り、軽く蹴り上げればあっさりと急所が削れる。
     ダークネスであるまなびが死んでいる間、灼滅者たちは成長してきた。変わってきた。絢矢もまた、まなびを灼滅した頃とは違う自分を感じている。生きている限り、人間は成長できるのだ。
    「外に出られても、他の強い奴に殺されちゃうんですよ」
     こんなふうに、ね。
    「……ころし、て、やる。あたしは、生きて、生き返って」
     最後の力を振り絞り放った鋼糸は、南守の肩を貫いた。
     南守はその痛みを、かつて見殺しにせざるを得なかった少女の痛みと重ね合わせる。
    「こんなの痛みのうちに入るかよ」
     今も耳に残る末期の声。痛い、怖い、助けて、助けて――悲鳴、血の流れる音、腕が足が首が落ちる音。思念として残ることもできない無念の魂があるのに、そうさせたまなびが実体を再び得るなど。
     許さない。天がそれを許したとしても、俺は絶対に――!
    「もうお前には誰一人殺させない!」
     『桜火』の銘もつライフルから真っ直ぐに伸びた光線が、まなびの胸に風穴を開ける。
     虚空に腕を伸ばしたまま、生に執着した惨めな思念が散る。ボルトアクションの音とともに、幻の薬莢がからりと地面に落ち消える。
     どこからか風が吹いた。

     プレスター・ジョンの城は変わらずそこにあり続け、戦闘の痕跡すら残っていない。
     消えた残留思念はしばらくすれば再びこの国に蘇り、死に続けるのだろう。妄執に囚われたまま。
    「それじゃあ。さようなら、悪い人」
     復活したら、また会いに来ますね。
     そうして生者たちは歩み続ける――光と闇の狭間を。

    作者:高遠しゅん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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