怠惰な睡眠

    作者:のらむ


     六六六人衆レイズは、非常に面倒くさかった。
     何が面倒くさいという訳でもない。というか何が面倒か考える事も面倒くさかった。
     だがいくら面倒くさくとも、適当に人は殺す。特に理由は無いし、一々理由を定めるのも面倒くさい。
     面倒臭さに端を発する様々な要因から、レイズは片腕をドリルへと改造し、片腕を己の血液を弾とする機関銃へと改造し、両脚を自動で動くタイヤへと改造した。これが彼にとって最も楽で合理的な選択だったのだろう。
     そんな不気味で狂ったレイズの姿を見た人々は当然気味悪がるが、レイズにとってはそんな事はどうでも良かった。一々反応するのが面倒くさいからだ。
     ちなみにレイズは随分前から、心霊スポットとして有名なとあるトンネルを拠点としていた。
     こんな場所を拠点とする理由は1つ。人がほとんどやってこないからである。
     当然人殺しはするが、なんかそんな気分じゃない時に人と会えば一々気味悪がられる為怠いらしい。
     面倒臭さを嫌い、楽を追求するレイズは、今日も怠惰に殺戮を行う。

    「…………ああ、もう夜か」
     レイズはとある真冬の夜、自らの拠点としている山奥のトンネルの中で何かの物音に目を覚ました。
     目を開け身体を起こすとそこには何故か、居る筈も無い2人の男女が、レイズの姿を前に呆然と立ち尽くしていた。
    「あ、あ…………」
    「………………」
     全身が改造されたレイズの姿を前に凍り付く2人に、レイズは眠そうな目を向ける。
    「ば、ば、ば、ば、バケモノだ!!」
    「うるさい」
     大きな叫び声を上げた男にレイズは銃口を向けると、撃ち放った無数の血の弾丸で男の足を吹き飛ばす。
    「ア、ア、アアアァァァアアアア!!」
    「だからうるさいって」
     瀕死の男は最後の力で声を上げるが、レイズはあっさりと遮り男の胴体をタイヤで轢き潰した。
    「ヒッ…………」
     手から落ちた懐中電灯に照らされた男の成れの果てに女は竦みあがり、レイズはその女にも銃口を向ける。
    「なにか喋ったら殺す。今は誰かを殺す気分じゃないからさっさと帰れ。そしてもう二度とここに来るな」
    「…………」
     女は涙を抑えながらしきりに頷くと、身を翻しあっという間に逃げ去って行った。
    「俺の安寧を邪魔するなよ、クズが……」
     忌々しげに吐き捨てると、レイズは再び身体を横たえる。
     死体と化した男と目が合って若干気分が悪かったが、片づけるのが面倒くさかったのでそのままレイズは寝た。
     

    「六六六人衆序列五一五位、レイズ。身も心も怠惰に支配されたこの男の殺人を、今回私は予知しました。皆さんは現場へ向かい、これを阻止して下さい」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「時間は深夜。場所はレイズが拠点としている心霊スポットとしても有名なとあるトンネル。こんな時期にこんな場所に肝試しに訪れてきた運の悪い2人の男女がレイズと遭遇し、結果として男性が殺害されます」
     灼滅者達はあらかじめトンネルへと向かいレイズと戦闘。撃退または灼滅する事が出来れば。今回のレイズの殺人と、しばらくの間レイズが大きな事件を起こす事を防ぐことが出来る。
    「皆さんがトンネルに向かうのは男女が訪れる2時間前。他の一般人の姿も全くありません。レイズとの真っ向勝負となるでしょう」
     ウィラはそう言って資料をめくり、続けてレイズの戦闘能力の説明に入る。
    「以前にも皆さんと闘った事のあるこの男ですが、相変わらず趣味の悪い外見をしており、相変わらず強いです。遠近両方に対応した攻撃を持っており、その攻撃はとても精確。避けるのは至難の業と言ってもいいでしょう」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。性格も見た目も最悪な輩ですが、その強さは本物です。どうかお気をつけて。皆さんが無事に、目的を達成出来る事を願っています」


    参加者
    神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)
    枷々・戦(異世界冒険奇譚・d02124)
    布都・迦月(幽界の斬弦者・d07478)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    飯倉・福郎(原典怪奇・d20367)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)
    日輪・義和(汝は人狼なりや・d27914)

    ■リプレイ


     六六六人衆レイズが潜むというとあるトンネル。
    「極度の面倒くさがりと言う辺りにシンパシーを感じ……てたまるか。よし倒そう」
    「まあ、奇妙奇天烈に身体を改造したのが合理的だと考える奴に、共感できる筈もないな」
     布都・迦月(幽界の斬弦者・d07478)と備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)はそんな事を話しつつ、トンネル内を突き進む。
    「今回の相手は六六六人衆か。気合を入れて臨まなければな」
    「……ま、程ほどにやりましょうかねぇ……」
     神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)と飯倉・福郎(原典怪奇・d20367)がそう呟いてからしばらくが経った頃。
    「…………? 誰だ、こんな場所に」
     六六六人衆レイズは、暗闇に包まれたトンネル内でふと目を覚ました。
     カツカツと反響する足音とライトの光に、不快げに目を細める。
    「アンタがレイズか。これ以上、お前の好きにはさせない!」」
     枷々・戦(異世界冒険奇譚・d02124)が身体に灯された炎でレイズの全身を照らしながら叫ぶ。
    「面倒と思っているのは分かるが、それはこちらも同様。これ以上お前に面倒をかけられたくはない」
    「まあそういう訳で、お前はここから逃がす訳にはいかない」
     日輪・義和(汝は人狼なりや・d27914)と大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)がそう言い切ると、レイズは機関銃をドリルを灼滅者達に向ける。
    「どうやってここが分かったか知らないけど、とりあえず帰れ。帰らないなら死ね。俺の安寧を妨げるな」
    「『貴方は私を殺してくれる?それとも殺されるのかしら?』……当然私達は帰りませんよ。折角貴方を殺しにきたんですから」
     月姫・舞(炊事場の主・d20689)はスレイヤーカードを解放すると、静かな笑みを浮かべ刃を向ける。
     冷たいトンネルの中、灼滅者と六六六人衆の殺し合いが始まった。


    「もう死ね。とりあえず死ね」
     機関銃から放たれた血の弾丸が、灼滅者達に降り注ぐ。
    「確かにあの攻撃は避け難いな……だが、お前らの背中は預かった。存分に戦ってくれ」
     迦月は仲間たちに向けそう言うと。清浄なる風が仲間達の身を包み傷を癒していった。
    「避けられないなら、護るまで……行くぞ」
     鎗輔は霊犬の『わんこすけ』に呼びかけると、『断裁靴』に力を込め、共にレイズに向けて駆け出した。
    「ちょろちょろ動くな。照準あわせるのが面倒くさい」
    「そうか。だったらお望み通り近づいて当てやすくしてやるよ」
     一気にレイズに接近した鎗輔はそう言い捨てると、鋭い跳び蹴りでレイズの胴体を打ち付け、それに続いたわんこすけが斬魔刀でレイズの身体を切り裂いた。
    「ああ、確かに当てやすい」
     直後、レイズが突きだしたドリルが鎗輔の身体を抉り取る。
    「痛い。が……狙い通りだ」
     激しい痛みを坦々と受け止めた鎗輔は、そのままレイズの胴体を掴みあげ一気に持つ上げる。
    「古書ダイナミックだ」
     そして投げ飛ばされたレイズの身体が床に直撃すると、激しい爆音と共にレイズの身体が吹き飛んだ。
    「そのまま動くな、こいつを喰らわせてやるよ」
     地面に倒れ伏したレイズに接近したエマは鬼の拳を振り上げ、レイズの顔面に強烈な一撃を叩きこむ。
    「不快だ」
     身体を起こし吐き捨てたレイズの前に、刀を構えた白金が進み出る。
    「大丈夫だ、その不快さも煩わしさももうすぐ終わらせてやる」
     一気に踏み出し刀を振り降ろした刹那、煌めく斬撃レイズの身体を斬った。
     そのまま地面を転がりレイズとの距離を取った白金は、鋼糸を手にレイズとの間合いを測り直す。
    「面倒くさい奴だ」
     レイズは殺意と気怠さが混じった視線を白金に向け、
    「……あれだ、そんなに面倒なら全部楽になる方法があるぞ。まず、この輪に首を通すといい。その摩訶不思議な胴体と頭を一瞬でサヨナラ出来るぞ」
     白金が鋼糸で作った輪を見せる。
    「生憎俺は生きる事は面倒くさくならないんだよ。何故か」
    「ふむ、いい考えだと思ったのにな」
     そう言うと白金はスルリと糸を放ち、レイズの全身に巻き付ける。
     そして一気に力を込め糸を引っ張り上げると、レイズの全身がギリギリと締め上げられた。
    「今ですね……この隙を逃す訳にはいきません」
     すかさずレイズの懐まで接近した舞は光の刃を腹に突き立て、その力を砕いた。
    「まだこっちの被害も少ないですし、出来ればさっさと撤退してくれると助かるんですけどねぇ」
     福郎はくるくると『冥観刃』の刃を回し一気に振り払うと、そこから放たれた霧が仲間のジャマー能力を高めていった。
    「六六六人衆的には1人位死んで欲しい。面倒だけど」
     激しく回転するタイヤで突撃したレイズは、灼滅者達の身体を吹き飛ばしていく。
    「そうですか。まあどっちにしろ私はひたすらウザイ戦法を取るのみですが」
     福郎は淡々と仲間に向け癒しの矢を放ちその力を高めて行っている最中。福郎のビハインド『師匠』が音も無くレイズに忍び寄る。
     レイズがその存在に気付いた時にはもう遅く、次の瞬間には師匠が放った霊力の一撃が身体を貫いていた。
    「痛い。眠い。そして死ね」
    「そう簡単にやらせるか!!」
     レイズは機関銃から無数の血の弾丸を浴びせかけるが、戦とそのビハインド『枷々・烽』が仲間の前に飛び出し、その弾丸を身体で受けとめた。
    「……中々死なない標的なんて、死ぬ程面倒くさいな」
     レイズは未だ十分体力が残っていた様だが、倒れない灼滅者達に面倒くささを改めて感じ始めていた。
    「ああ、確かに面倒くさいだろうな。だがいいのか? 僕等から逃げようと、我々は君を逃す事はない」
     義和はレイズに言い放つと、日輪の紋章を模ったシールド『金城鉄壁』を構える。
    「いや――逃がしてくれるなら好都合か。余裕を持って仲間と共に君の元へと来れるからね」
    「仲間……? んー…………」
     含みを持たせた言い方にレイズは面倒くさげに首をひねり思考を巡らせるが、
    「決着はここで付けよう――来い。日輪の『金狼』が相手になろう」
     義和が放った盾の一撃がレイズの身体を穿ち、レイズの身体はふらつきながら後ろへ退がる。
    「どの道少しは数を減らさなきゃこの閉所からは逃れられないか。いいよ。不本意だけど相手になる。そして死ね」
     突き出されたドリルは一瞬にして義和の身体を貫くと、その体力を一気に奪い去る。
    「グ…………まだだ」
     気を失いそうになる痛みも振り払い、義和は金色の居合刀『金剛不壊』を手にレイズへ迫る。
    「そのドリルごと、断ち切る」
     そして義和が放った金色の斬撃は、レイズのドリルを砕きその腕を深く斬りつけた。
    「なんでまだ生きてるんだよお前らは。ほんと嫌いだ」
    「……ふん、舐めて貰っては困るな。僕達は灼滅者だ」
     義和がレイズの言葉に返すと、レイズは肩を竦め武器を向け直す。
     戦いはまだ続く。


     未だ灼滅者達に倒れるものはいないが、じわじわと追い詰められ始めてはいる。
     しかし今回灼滅者達は攻撃に重きを置いた短期決戦での勝利を目指していた。
    「可能ならば撤退する前に追い詰めたい所だ」
     白金は戦況を確認しつつ呟くと、激しい拳の連打でレイズのタイヤを砕き散らしていく。
    「痛い、痛いな。今度は痛みを感じなくなる改造でもしてみるか。面倒くさくなければ」
     レイズは緩い殺意の波で灼滅者達を包み呟くと、即座に迦月が動く。
    「……まだ、誰も倒れさせるわけにはいかない」
     迦月が放つ光の輪は仲間の身体を護る様に包み込むと、その傷を癒し防護能力を高めていった。
    「回復手……近付いてこない分面倒ではないけど、時間が経てば経つ程お前らが強化されていくのは面倒臭い」
    「お前はこの短い時間で何回面倒くさいと言うつもりだ」
    「面倒臭いと言うのが面倒くさくなるまで」
    「そうか」
     迦月は静かに答えると、女神の名を冠す弓『木花開耶【散】』を構えた。
     そして番えた矢に癒しの力を込め放つと、射抜いた仲間の傷を癒しその感覚を呼び起こさせる。
    「暇さえあれば寝ている極度の面倒臭がり。正直全くの他人事とは思えなかったが……やっぱり違うな。俺とお前は」
     そう呟きながらも、迦月は戦場を見渡し戦況を見定める。
    「攻撃をする暇は無いと踏んでいたが、実際その通りだったか……だがそれでいい」
     自分が仲間の傷を癒し戦線を維持させていれば、仲間は攻撃に集中できる。
    「まだまだ終わりじゃないぞ、レイズ。俺たちのしぶとさを見せてやる」
     そして迦月は再び仲間の傷を癒しながら、戦線の維持に努めるのだった。
    「クソが。もうさっさと死んでくれ。頼むから」
     レイズは再び血の弾丸を放つと、その一撃に鎗輔の霊犬が消滅する。
    「仕事は果たしてくれた。僕も僕の仕事を果たすとしよう」
     鎗輔はそう言いレイズに突撃すると、勢いがついた後ろ回し蹴りでレイズの鳩尾を抉る。
    「はあ……あのさ、もういいかな、此処から消えて。もうホント面倒臭いんだけど」
    「ここで私たちを生かしたまま逃げれば、もっと面倒くさい事になるだけですよ?」
     本気で嫌そうなレイズの言葉に冷静に返した舞は、光の剣を構えながら続ける。
    「私達はあなたが死ぬまで、あなたを殺す事を決して諦めません。ここで逃げても必ず殺しにいきます。何度でも」
    「…………えー」
     結論を出しかねている様子のレイズだったが、舞は躊躇なく攻撃に出る。
    「まずは一撃」
     舞が光の剣を振るうと、眩い光の斬撃が次々とレイズに放たれ切り裂いていく。
     そのまま舞は燕斬の愛刀『濡れ燕』に持ち変えると、数多の命を斬ってきたその刀を再び構える。
    「面倒くさいというのなら、その生も終わらせてあげましょう」
     舞は笑みを浮かべながらも、レイズの一挙一動に中止しながら機を見定める。
     レイズが動きを止め機関銃の狙いを定めようとした瞬間、舞は前に跳び出した。
    「悪を極めんとした男の業(わざ)と業(ごう)を見なさい。血河飛翔っ、濡れ燕!」
     命を取る事に特化したその一撃は、レイズの胸を断ち、彼が今まで感じた事も無い苦痛を与えた。
    「グッ!! …………クソ忌々しい刀、そして女だ。久しぶりに本気で殺したくなりかけた」
    「本気で私を殺したくなったら、いつでもお付き合いしますよ」
    「黙れ」
     レイズは更なる殺意と共に舞に狙いを定めたが、その直後後頭部に鈍痛が走る。
    「やる気になるのは結構だが、僕等の事を忘れてもらっては困る」
     義和が再び放った盾の一撃が、レイズの頭を殴り壁まで叩き付けたのだ。
    「…………分かった、お前から殺してやる」
     レイズがそう呟いた次の瞬間、義和の身体を巨大なドリルが貫く。
    「……ここまでか」
     攻撃手として戦いを続けてきた義和だが、ついにその一撃で意識を失い、その身体は地に倒れ伏す。
    「くそ、このままじゃ……いや、まだだ、まだ負けてない! 行くぞ烽、こいつにキツい一撃を喰らわせてやろうぜ!」
     戦は竦みそうになる心を無理やり奮い立たせると、装着したバベルブレイカーをフル駆動させビハインドの烽と共にレイズへ突撃する。
    「…………ここだ!!」
     そして戦が放った巨大な杭がレイズの身体を貫き、烽が振り下ろした刀がレイズの背を斬りつけた。
    「離れろ亡霊」
     戦はタイヤを駆動させ前衛に突撃すると、灼滅者達を庇ってきた烽がついに消滅した。
    「これは…………いや、もう駄目だな。勝てるかどうか微妙だよし逃げよう」
    「……ここで逃げたら外で大勢待ち構えてる仲間に連絡する。俺らが連絡入れたらあんたのこと血眼で探してくれるよ。ここでちゃんと口封じしとかなきゃまずいんじゃないのか?」
     戦は物凄いハッタリを堂々とかますと、レイズは一瞬逡巡する。
    「外に仲間……? くそ、考えるのが面倒くさい。いや待て、そんなに大勢が来ているのなら流石に俺のバベルの鎖が感知してもいい筈……」
    「時間切れだ、もう一撃いくぞ!!」
     戦はエアシューズに業火を灯し、再びレイズに接近する。
    「ここで死んでおけば永遠に眠ってられるぜ。お前の安寧とやらを壊した詫びに、本当の意味での安寧をくれてやるぜ!!」
     そして放たれた重い蹴りが。レイズの胴体を抉り激しい炎は全身を焼け焦がす。
    「ああ、クソ、何故ここまで俺の邪魔をする。黙って死んでくれればそれでいいのに」
     レイズは痛みと面倒くささの中で己の血を吸い上げ、再び弾丸と化したそれを灼滅者達に放つ。
    「グ、もう限界か……やっぱり強いな……だけど出来るだけの足止めはした。後は頼んだぜ……」
     その銃撃に戦は膝を付き、そのままバタリと倒れ意識を失った。
    「そういう訳で俺は消えるからお前らもさっさとどっか行け。そして死ね」
     攻撃を終えたレイズはそういうと、いきなりタイヤを走らせる。
     本来ならばもっと早々に撤退を決め込んでいてもおかしくはなかったが、灼滅者達の投げかけによってその判断を行うのがかなり遅れた様であった。
    「誰が、逃がすか、よ!!」
     エマは当然レイズを逃がすつもりは無く、その背に鬼の拳を叩きこんだ。
     灼滅者達の包囲からレイズは完全に抜け出せた訳ではないが、徐々に戦場はトンネルの出口へと動いていく。
     トンネルの外へ出れば一気にレイズの撤退の成功率は高まるだろう。
    「それまでに終わらせるしかねぇな」
     エマは杖をブンブンと振りながらレイズを追うように駆け、その奇妙な身体の急所を見定めていく。
    「さっきも誰かが言ってたけどな、ここで逃げてもどうせまた追われるだけだぞ。こっちだって面倒だし、もうこれで終わりにしねえか」
    「死にたくはない。何故か」
    「どこまでも好き勝手な奴だ……これでもくらいな!!」
     そして突き出された杖の先端がレイズの首を抉り、レイズの動きが一瞬鈍る。
    「今だ、一気に仕留めるぞ!!」
    「六六六人衆が、そう簡単に死ねるか」
     エマの呼びかけに応えた灼滅者達が一斉にレイズに攻撃を仕掛け、レイズは血の弾丸の雨を放つ。
     灼滅者達はその銃撃を避け、あるいは受け止め、レイズに一斉攻撃を放った。
     舞が放った斬撃が肩を抉り、
     鎗輔が放った跳び蹴りが胸を穿つ。
     迦月が放った一本の矢が心臓を貫き、
     白金が放った糸が全身を縛り上げる。
     そして魔力を込めた杖を振り上げたエマが怒涛の勢いでレイズに迫り、
    「これでどうだ」
     爆発的な魔力が込められた打撃はレイズの脳天を打ち、流し込まれた魔力は彼の改造されきった内臓をまとめて吹き飛ばした。
    「…………」
     声は無かった。
     身体の中央に焼け焦げた空洞が出来たレイズはガシャンと音を立てて倒れる。
    「序列五一五を倒すか。俺を奇妙だのなんだと言っていたけど、俺から言わせればお前達の方がよっぽど奇妙で不気味だ。気持ち悪いよ、灼滅者」
    「……最後の言葉はそれで十分か」
     エマの問いかけに少し考える素振りをみせたレイズだがすぐに首を振り、
    「考えるのが面倒臭い」
     そう言って目を閉じたレイズはもう二度と目を開ける事は無かった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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