プレスター・ジョンの国防衛戦~ハニーゴールドの月裏

    作者:中川沙智

    ●再び歯車は廻る
    「あらあら。困ったわね、こんなに無粋な方々だなんて」
     プレスター・ジョンの国。
     その中ほどで、少女は蜂蜜さながらの黄金巻き毛をふわり揺らす。そのかんばせには薄く苦痛が広がっていて、燈した微笑みに陰りを這わせる。額から滴るのは、赤。
     少女を取り囲むのは4名の少女達だ。肩で大きく息をしている金の娘と、苦戦の後はあれまだ余力を残している4名の少女達。どちらが劣勢であるか、火を見るより明らかだ。
     少女達の中でリーダー格と思しき娘は長い桃色の髪を翻し、剣を突き出して淡々と告げた。
    「もう一度言います。そこをどきなさいチェネレントラ・フラーヴィ。私達が本気で言っているのは同じ六六六人衆ならわかるはずです」
    「……そうね」
     金の娘――チェネレントラは身体の支えにしていた漆黒の大鋏を振り翳し、陶然と笑んだ。
    「けれどお生憎様。私はいつまでも王子様を探していられるここを存外気に入っているの。――まだ、踊る事はできるのよ」
     瞬間、チェネレントラは大きく跳躍し少女達の渦中に降り立つ。黒き刃を閃かせて少女達の肢体を鋭く、無造作に斬り刻む。臓腑を裂いた2人の膝を地につけさせたその刹那、視界が赤く染まる。首を鋭く深く抉られたのだ。
     チェネレントラは意識を手放す。
    「……早くプレスター・ジョンを殺しに行きましょう」
     反転する意識の中で、少女の声を聴きながら。
     
    ●怒涛
    「優貴先生が高熱を出して倒れちゃったわ。その原因が――歓喜のデスギガスが、プレスター・ジョンの国に攻め込んだからだって、わかったのよ」
     小鳥居・鞠花(高校生エクスブレイン・dn0083)は集まった灼滅者達の顔を見渡して、真直ぐに告げた。曰く、デスギガス勢力の目的もおおよそ想定出来ているという。すなわち、『プレスター・ジョンを暗殺し、プレスター・ジョンの国の残留思念を奪い、その残留思念をベヘリタスの秘宝で実体化させる』という事。随分物騒な事を思いついたものである。
    「プレスター・ジョンの国の多数の残留思念が復活して、挙句デスギガスの勢力に加われば一大事よ。戦争でどうにか首を取ったような大物とかを復活されたら目も当てられない」
     だからそこに介入してもらうわ。落ちた沈黙に了解の意を察し、鞠花はファイルを紐解いた。
    「プレスター・ジョンの国に攻め込んでいるのは、シャドウそのものじゃないみたい、シャドウによってソウルボードに招かれた六六六人衆よ。その六六六人衆達は最近闇堕ちした序列外みたいでね、戦闘力はそう高くないわ。ただ、複数名で行動しているらしいの」
     六六六人衆の目的はプレスター・ジョンの暗殺。まずは頭を落とそうという肚だろう。プレスター・ジョンを守ろうとする残留思念と交戦中らしい。
     ただ、残留思念の中には攻め込んできた六六六人衆に呼応しプレスター・ジョン殺害を目論む者もいるとか。それもあって戦況は混乱している。
    「皆はプレスター・ジョンの国に向かって頂戴。残留思念のダークネスと共闘あるいは敵対しながら、攻めてきた六六六人衆を撃退して欲しいのよ」
     まずは攻めてきた六六六人衆について鞠花は説明を始める。どうやら対峙することになるのは4人の少女らしい。勿論少女とはいえ六六六人衆、侮る事は決して出来ない。
    「構成はディフェンダー2名、クラッシャー1名、スナイパー1名。武器はディフェンダーがWOKシールド、クラッシャーがクルセイドソード、スナイパーがクロスグレイブ……を使うみたい。勿論全員殺人鬼から、作戦の参考にして頂戴」
     性格は冷静沈着な者から明朗快活な者まで様々だが、粗忽者は誰もいない様子。つまりきっちりと敵として取り組まないと足元を掬われるという事だ。
    「そして六六六人衆と戦っているダークネスは六六六人衆512位だったチェネレントラ・フラーヴィよ。何度か武蔵坂と戦ってるし戦争でも見えたから知ってる人もいるかしら。彼女はプレスター・ジョンの暗殺に反対の立場を取ってるみたい。一時限りではあるけど、肩を並べて戦えるわ」
     サイキックは殺人鬼のものと断斬鋏のもの、シャウトから5種類を選んで使用する。複雑な想いを抱く人もいるかもしれないが、曲がりなりにも元512位だ。戦力として計上できるのは確かだろう。
    「この戦いはデスギガス軍の戦力増強という意味合いもあるけど、四大シャドウの戦いの前哨戦でもあるでしょうね。状況によっては慈愛のコルネリウスとの交渉も視野に入れるべきかしら……ともあれ、それは今する事じゃないわね」
     そう、今すべき事は目の前の敵を撃退する事。
     鞠花はファイルを閉じて力強く声を上げた。
    「行ってらっしゃい、頼んだわよ!」


    参加者
    宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)
    目・茸(オルベア・d19289)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    シルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)

    ■リプレイ

    ●あまいいと
     宇宙の果ての青にきらめく、眩い光。
     それがチェネレントラの視界の片隅を灼く頃、プレスター・ジョンの国を訪れた灼滅者達の一部が、高い足音を立てて駆けてきた。
     鮮やかに降り立ったのは、金の娘にとって清々しくも新しい、見覚えのある魂の色。奇襲とは初手先手でなくては出来ないもの、アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)が沫紫の髪を翻し六六六人衆とチェネレントラの間を阻むように割り込んだ。それに続きシルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)が腕から生えた鋏――人造灼滅者ならではだろう――で桃色髪の少女の腕を切り刻む。攻撃順が巡ってきたのはそこまでだったが、初手のインパクトを考えれば充分だ。
    「王子様ってガラでもないんだけどね。助けにきたぜ、お姫様ってなあ!」
     低く腰を落とし長尺の鉄杭を構えたレオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)は不敵に笑い、後衛を担う仲間達に背を向ける。その様子を見届けて浅く頷いたのは唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)だ。視線を流した先にいるのは金の娘、清廉な物腰を保ちながら声を紡ぐ。
    「貴女とまた戦場でまみえることになろうとは……此度は貴女の助力に参りました。信用して頂けるでしょうか」
     あの六六六人衆達の目的叶えられれば、僕達の方も困るのです。
     そう告げられて瞬き三つ。次々と姿を現す灼滅者達に気を取られた六六六人衆らの隙を突き、チェネレントラは疾く後方へ跳ねる。蓮爾の言葉を咀嚼した後、灼滅者達を見渡して花のように微笑んだ。
    「まあ共闘して頂けて? ふふ、こんな機会があるだなんて。びっくりだわ」
    「私だってそうだよ、まさかこうして肩を並べて戦うことになるとはねー。えへへ、すっごい楽しみ!」
     月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は溌剌とした明るさで笑みを返した。ねえチェネチェネ、お久しぶり元気してた? なんて戦場では不似合いな台詞も、友達と久々に会った時には尋ねるのがお約束だ。
     対して初めて訪れたプレスター・ジョンの国を前にし、ぐうるり視線を巡らせているのは目・茸(オルベア・d19289)だ。つい今まで黒い髪の六六六人衆の少女の背を蹴飛ばす事で奇襲に一役買っていた娘の姿とは思えない。
    「……へえ……こんなんなってんにゃなあ……」
     とはいえずっと眺めているわけにもいかない。ふるふると首を横に振りぺちんと頬を叩き、敵を真直ぐに見据える。その傍らを一足飛びで接敵した四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)は白銀の刃を目の前の六六六人衆に突きつける。
     チェネレントラとはサイキックアブソーバー強奪作戦の時に戦場で刃を交わした事がある。けれど己の手で仕留め損ねる事は叶わなかった。そして、今。
    「今回は共闘になった事と言い、此もまた巡り合わせなのかな」
     零した言葉は花弁のように、大鋏姫にふわりと掬われる。運命の糸は女神でなければ操れぬもの、そうでない自分達に出来るのは手繰った糸を辿るか、断ち切るかのどちらかしかない。
     ならば。
    「邪魔なんて無粋にも程があるわ。何よ、その金色女を助けるっていうの」
    「君達のやろうとしてることは、俺たちにとっても都合が悪くってね」
     秀麗な眉間を寄せた赤毛の少女と対峙して、宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)は言い切った。今は残留思念とはいえかつての六六六人衆五一二番に思うところがないわけではない。
     だが優先させるのは目の前にいる六六六人衆序列外の少女四人を排する事だ。冬人は改めて向き直り緑玉の瞳で前を見据えた。
     灼滅者の誰もチェネレントラに敵対意識を持っておらず、共闘する旨をきちんと伝えたこともありスムーズに臨戦体勢を整えることが出来た。自分達は後衛に立つ青い髪の少女から優先的に倒すつもりだと告げれば、だったら私は前に立つ子達の気を引いているわねと大鋏姫は鋏を鳴らす。
    「へえ。一筋縄ではいかないようね」
     奇襲で体勢を崩された少女達も、桃色の髪の少女の指示で即座に立て直す。引きずられないあたり腐っても六六六人衆なのだろう。
     いざ。
     誰ともなく口に乗せた決意と共に、戦いの幕は切って落とされる。

    ●ぬれたつみ
     癒し手として顕在したのは茸のウイングキャット、チョボ六のみ。回復手段こそ各々で用意されてはいるが、この場の戦いに挑んだ灼滅者達の姿勢がいかに前のめりであるかがわかる。
    「守るために戦うなら肩並べる理由にゃ上等よ。さあ、アゲていこうか!」
     言葉の始めは大鋏姫に向けたもの、開幕を飾ったのはレオンの放つ氷柱の弾丸だ。冴えた冷気を纏う一閃が迸る。全体の標的は後衛に陣取った狙撃手たる青髪の少女、けれど蝕む冷気で貫くのは、盾となる赤髪の少女と決めていた。
     捉えた肩口が即座に、凍る。
    「ちっ、小賢しい!」
    「これで終わるとは思わないでよ!」
    「まったくです。ジンギスカンさん食べちゃって下さい」
     防護力を上げる帯を肢体に巻き付けるいろはの傍らを、アイスバーンの子羊型影業が疾駆する。青い髪の少女を大きな口を開けて呑み込んだ。さて子羊の中で見る夢は悪夢か否か。
    「後ろを狙われてるわ、護ってあげて」
     桃色の髪の少女が護り手たる仲間に指示を飛ばす。成程リーダー格とはよく言ったものだ。
    「良かったら桃色のでも殴っててよ!」
    「心得たわ!」
     だから玲がチェネレントラに頼んだ方針は結果的に正しかったと言えるだろう。舞踏の如き足取りで桃色少女に接敵し、数多の刃を閃かせる。
     無造作に切り傷を与えた鋏は血を得ることで更なる呪力を付与されるよう、その威力を見届けた蓮爾は己のビハインドであるゐづみにも目配せを送る。即座に放たれるのは霊気に障害を齎す波動。青色の髪の少女が痛みに顔を顰めた隙を見過ごさず、『蒼』の液体を迸らせた。
     だがその前に立ち塞がったのは黒髪の少女だった。青は滴りて腐食を加速させる。合間を縫って茸が石化の呪いを走らせるが、それも赤毛の少女に受け止められる。
    「うー、面倒なやっちゃなあ!」
     リーダーが健在で護り手が残っている間は、定めた優先順もなかなか決め打ち出来ないかもしれない。だが一念も貫けば岩をも通すと信じ、冬人は穏やかな容貌に似合わぬほど獰猛な影の刃で、真直ぐに青色の少女を斬り伏せる。
     次いで駆けたのはシルヴァーナだ。冬人の影業が与えた軌跡をなぞるように腕の大鋏を振るう。鋏を模る影は傷口を幾重にも開いていく。
     敵もやられてばかりではない。反撃開始とばかりに青い髪の少女は歯の奥を噛み、十字架型の碑文を構える。飛んできたのは業を纏った光の砲弾、攻撃手であるレオンを狙ったそれに回り込んで弾いたのは玲だ。その反動を利用しそのまま霊光を放出すれば受けきれるわけもなく直撃する。
     白光を纏いし大剣を構え桃色の髪の少女は吼えた。衝撃を受け流すべく構えたいろはの刀と鍔迫り合いを演じ、尚も斬り飛ばさんと体重を乗せた。負けるわけがないと力を籠めるも身体が軋む。しかしそれも一拍の事、掛け声と共に相手の剣を弾く。
     刀に乗せるは気概と誇り、刀身を閃かせていろはは告げる。
    「六六六人衆とは何度も殺しあってるけど、やっぱり君たちは序列外なせいか誰にも『格』が及ばないね」
     青い髪の少女が膝をつき、消滅間近という状態で言い捨てたその言葉は、何よりも雄弁に現実を言い表していた。

    ●とけるつき
    「ハサミコンビネーションでござる!」
    「まあ素敵! 楽しいわ!」
     勝手にハサミ仲間的なシンパシーを感じていたシルヴァーナだったが、どうやらチェネレントラも鋏の共演を気に入ったらしい。仲間の手で付与された制約も嵩む頃とあって、ジグザグに切り刻む事数十回。更に傷も負荷も増やし続ける。
    「相変わらずおっかねー攻撃だこと。そのハサミあとでくれね?」
    「それは駄目♪」
     レオンの投げた軽口に、大鋏姫は満面の笑みで返す。そんなやりとりが成立するほどには、戦局は灼滅者達側に傾いている。チョボ六がリングを光らせ破魔の力を広げてくれた事もあり、負傷は多々あれど制約に頭を抱える事にもなっていない。
     敵側はと言えば既に青髪の少女は消滅し、桃色の髪の少女の盾として立つ二名にも余裕は感じられない。その様子を俯瞰するように眺め、蓮爾はやや睫毛を伏せる。
     元を質せばチェネレントラも六六六人衆の少女達も同じダークネスだ。
     同じ種族でも一枚岩で無い、それはダークネスでも人でも同じなのだろう。
    「そしてその括りは僕にとっては意味が薄い。……この内に持っている身、どうして隔てることが出来ませう」
     胸にそっと手を置くも、その奥が熱いのは心の臓か魂か。
     そして再び視線を走らせる。注意深く見定めていた事が功を奏す。数多と重なる攻撃の嵐、それがより効果的に決まるのは。
    「……黒髪の方は気魄の力を、赤髪の方は神秘の力を。それぞれ苦手としているように思います」
    「やっぱそー思う? 奇遇だな、全面同意だ!」
     一名だけであれば見過ごしも出ただろう。だがそれが二名によるものとなると精度も増す。蓮爾とレオンは短く頷きあい、各々の殲術道具に力を籠めた。
     玲のライドキャリバー・メカサシミがアクセル全開で黒髪の少女に突貫する。守りを固めたにも関わらず押し切られる敵の様子に予測は確信に変わる。
     レオンが長い髪を靡かせ駆けた次の瞬間、メカサシミの陰から杭打機を突き立てる。その手応えは確かに致命傷となりえるもの、高らかに笑った時にははらわたごと抉る勢いで突き上げる。叛逆としては随分過激な一撃となった。
     対して蓮爾は舞台で舞を一指しといった風情の優雅な動きで、利き手を前へと差し出した。そこに彩を落とすのは『蒼』、青き砲台と化した腕から死の光線が放たれる。確実に捕えたのは赤毛の少女、蝕む毒素は確実に体力を奪っていく、呼吸を荒くしている事からも明らかだ。
     舌打ちした桃色の髪の少女が大剣から癒しの風を巻き起こそうとする。が、誰よりも彼女の動きを注視していたいろはがそれを許さない。身体を使い動線を阻めば、桃色の少女は露骨に嫌悪感を顕わにする。
    「そんな顔されてもね。認識の誤りでしょ、そっちの」
    「そうだよーちょっと甘いんじゃないかな!」
     いろはの背を押すのは玲が指先から齎す癒しの霊光。軽やかに指を鳴らせば回復の力が染み渡り、いろはが攻撃へと向かう力となった。
     眼前に掲げるは儀式に用いる神刀の如き構え、唇から執着を纏う怨恨に纏わる怪談を語りだす。目と目がかち合ったせいか囚われた少女はしたたかに身を打ち付けられる。衝撃は幾重にも重なり、零れる息には血の気配がする。
    「こうやって血しぶき見ると落ちつく……ほっとする」
     本能のように自然に、茸は息を漏らす。
     戦いから生まれ来る衝動。それを高揚、そして彼女にとっては安堵と呼ぶのだと鮮やかに理解する。戦いを好んでいるわけではない、はずなのに。
     翠の髪が波打つ。茸は次をと求めるように馳せた。両の掌に霊光を集中させて黒髪の少女の懐に滑り込む。顔が見えるほど、否、鼻先が触れるほど、吐息が重なるほど近くで、携えた霊光を眼前で破裂させる。何かが砕ける、崩れる音がする。
     目の前で黒色が霞み消えゆく様を、視る。
     敵も庇い合っていた分体力の消耗も平均化されていたのだろう。だからか、黒髪の少女が消滅した次の手も廻らぬうちに赤い髪が水雲と消える。
     残されたリーダー格の少女も、目に見える形で傷が蓄積していた。
    「こんな、ところでッ……!!」
    「残念ですけど、あなたの夢はここで終わりです……」
    「それに、ここで逃がしたら君は人を殺すだろ?」
     それは個人的にすごく、許せないんだよね――そう言いながら冬人は鎖繋がるナイフを手に床を蹴った。
     アイスバーンは仄かに夢に揺蕩うような眼差しを、それでも桃色の髪の少女からは逸らさない。夢の終幕には夢の使者が必要とばかりに、プレスター・ジョンの国に影の子羊を走らせる。牙を剥く。
     喉元を喰い破られて尚倒れぬ少女に、冬人は『通行止め』というより『行き止まり』という終焉を突き付ける。ナイフの刃というより柄も含めたすべてで殴り倒す。響き渡って余りある衝撃は現へ食らいついていた少女の根源ごと穿ち尽くした。
     残留思念のように再び復活する余地のない、死の底へと送り込む。

    ●みちるゆめ
     六六六人衆の少女四人すべての消滅を確認した。レオンは全体の戦況を気遣ったが、この場では判断のしようもなかったしチェネレントラも詳しくは知らないようだった。ただ国そのものに異変が起きていない以上、その主であるプレスター・ジョンにも問題はないのだろうと推測するのが精一杯である。
    「なあチェネレントラ、最近変わったこととかあらへんかった?」
     一方で昨今のプレスター・ジョンの国に残留思念が増えていない現状に茸は首を傾げる。この国には今回以前に変化はなく、そもそもあのシャドウに会えていないんじゃないかしらとはチェネレントラの弁だ。勿論『あのシャドウ』はコルネリウスの事だ。茸の名前は覚えてもらえたようだけれど。
     そのコルネリウスに伝言はあるかといろはに問われたが、大鋏姫は首を横に振る。本来はもうこの世に存在していない身に過ぎた機会よと言われれば、そうなのだろうと思うしかない。
     そんな中。
    「サイン下さいでござる」
     などと器用に色紙まで用意したシルヴァーナがチェネレントラにお願いすると、断る理由もないのかサインを書いてくれた。普通に名前を書いただけのようなので、流麗な筆記体は読みづらい事この上ないが。
     そもそもかつて敵対した六六六人衆と一緒に戦うなんて事態がイレギュラーだ。違和感を感じたのは玲だけではないだろう。
    「まあ、これも縁ってやつかな」
    「そうね。またここに来てくれたらご挨拶くらいは出来るわ」
     そう囁く大鋏姫は今回の共闘に胸を弾ませた模様。
     それは恐らく角度こそ違えど、精神の狭間の国に来る前に灼滅者と織りなされた絆のかたちなのだろう。
     胸中の複雑な気分を持てあますように、冬人は困ったような笑みで首を傾げる。彼の隣でアイスバーンが視線を巡らせれば、親しみ深い精神世界の果てを見ているような様子の蓮爾を見かける。
     ふと見上げれば己が持つそれと同じ青い世界。愛しき人が教えてくれたこの世界、人の世は脆く儚く。
    「……故に、生はひときは輝くといふこと」
     それを心に抱えていけるなら、きっと。

    「今回は助けてくれてありがとう。――ごきげんよう、皆々様」
     果てを越えて明日へ進む灼滅者達を見送って。
     チェネレントラは、淑女の如き礼をした。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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