プレスター・ジョンの国防衛戦~不動の山

    作者:立川司郎

     終わらぬ時。
     終わらぬ戦い。
     プレスター・ジョンの支配する ブレイズゲートの中では、かつて灼滅者達が戦った様々なダークネス達が犇めいていた。
     繰り返される戦いは、永遠に時間とともに尽きぬ闇を彼らに与え続ける。
     その永遠の時間の中、ただ座して瞑想しつづける男がある。
    「柴崎先生、異変が起きたようです」
     かつての業大老派のアンブレイカブル達が、柴崎の所へと駆けつけてきた。
     慌てた様子の彼らを一瞥する事もなく、柴崎は無言を貫いた。
     普段は集まる事のない彼らが、今は指導者を求めるように柴崎の元へと集結してくる。
     柴崎が返事をせずとも、彼らは話をしはじめた。
    「六六六人衆がここに攻めてきています。……奴等はかなりの数で、どうやら他のダークネス達も防衛線を張っているらしいです」
     どうやら六六六人衆は、プレスター・ジョンの元へと向かおうとしているらしく、それを阻止しようとしたダークネス達と交戦状態にあるという。
     プレスター・ジョンを護る為に戦うのか。
     それとも、六六六人衆に加担するか。
     迷いが隠せないアンブレイカブル達の元に、しばらくすると別の組織のダークネス達も集まってきた。
    「どっちに加担すんのもめんどくせェ」
    「柴崎、このブレイズゲートのダークネスの中でも、貴様は上位存在だ。お主が動くなら、我らもそちらに向かおう」
    「チッ、結局他人に決めて貰おうって魂胆なんでしょ?」
     ザワザワと話し合うダークネス達。
     彼らの熱気が高まって来たあたりが、柴崎がすうっと顔を上げた。
     一瞥した柴崎の視線を受けて、全員が静まりかえる。
    「取るに足らぬ番外の殺人鬼を相手にするも、つまらぬ。はなから雑兵しか送って来ぬ戦いならば、傍観した方が良いわ」
    「では、六六六人衆が勝った場合は……」
    「その時は奴等の言い分を聞くとしよう」
     ここまで攻めてくる以上、何か思惑があるのだろうと柴崎は話した。
     ダークネス達は顔を見合わせ、ヒソヒソと話し合う。
     組織を持たない者、誰かに頼って生き延びようとする者、強者に縋る者、かつての業大老派の同門にすり寄る者。
     それぞれの思惑で、ダークネス達は戦いに加担せず、戦況を見守るのであった。
     
     灼滅者達に入った一報は、優貴先生が高熱を出して倒れたというものであった。
     慌ただしい様子で教室に集まった灼滅者達を前に、相良・隼人(大学生エクスブレイン・dn0022)は淡々と状況を説明する。
    「予想しているかもしれねェが、原因はプレスター・ジョンの国にある。歓喜のデスギガスが、プレスター・ジョンの国に攻め込んできたらしい。奴等の目的は、プレスター・ジョンの暗殺だ」
     あのブレイズゲートの主である、プレスター・ジョンを暗殺し、その国にいる残留思念をベヘリタスの秘宝によって実体化させる事にあると思われた。
     そうなれば、かつて倒したダークネス達が大量に復活する事になる。
    「あそこにいるのは、和解出来そうなダークネスだけじゃねェ。……復活したらめんどくせぇ事になる奴もいる。奴をデスギガスの軍勢に加わらせる訳にはいかねぇ。……そうだ、柴崎・明だ」
     現在シャドウによって六六六人衆がソウルボードに招かれ、プレスター・ジョンの国に攻め込んでいる。
     彼らは最近闇堕ちしたような序列外で戦力は低いが、複数で行動する事で戦力を補い合っているという。
     彼らの目的はプレスター・ジョンの元に攻め込み、暗殺する事にある。
    「プレスター・ジョンの国にいたダークネスの中には、プレスター・ジョンを護る為に立ち上がった者もいれば、攻めてきた六六六人衆に同調している奴もいる。そのどちらにも着いていない中立派もいくらか居て、柴崎も恐らくまだ動いていない中立のうちの一人だ。この中立派の動き次第で、戦況が少し変わってくる」
     動かないならそれでかまわないが、もし柴崎が敵に回るような事があれば、他の中立派の多くも寝返る可能性が高い。
     もし戦況が拮抗している時に彼らが寝返れば、プレスター・ジョンの元まで乗り込まれてしまう事も考えられる。
    「柴崎に、プレスター・ジョンを防衛するように説得しほしい。……最悪でも中立のままで構わねぇが、奴と取り巻きが敵側に回るような事になれば不味い事になる」
     柴崎をどう説得するかは、灼滅者達に任せると隼人は話した。
     戦いになる事も考えられるが、柴崎一人ならば成長した今の灼滅者八人で勝てると言う。
     あくまでも目的は柴崎をデスギガス側に行かせない事。
    「柴崎は状況を把握していないはずだし、ブレイズゲート外の情報も入ってないはずだ。戦いを挑んでも良いし、それらの情報等上手く使えば柴崎の説得に役立つだろう。結果的に柴崎が中立を貫くか、プレスター・ジョンに協力してくれればかまわない。……まぁこっちの戦況が押されてりゃ、柴崎に出て貰ってお前達も駆けつけるしか後が無くなる訳だがな」
     あまり柴崎一人の説得に時間を掛ける訳にもいかないし、優希先生の為にも時間は掛けられない。
     デスギガス勢力のシャドウもコルネリウスの勢力も姿がなく、今回の戦いの裏で彼らが何をしているのかは見えて居ないという。
    「この戦いはデスギガス達の戦力増強という意味もあるが、四大シャドウの戦いの前哨戦でもあるだろう。状況によってはコルネリウスとの交渉も視野に入れるべきかもしれねぇな」
     デスギガスに加担した六六六人衆の狙いもまた、分かって居ない。
     くれぐれも長丁場は避けるように。
     隼人はそう警告すると、皆を送り出した。


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    最上川・耕平(若き昇竜・d00987)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)
    夜川・宗悟(彼岸花・d21535)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    山田・霞(オッサン系マッチョファイター・d25173)
    御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)

    ■リプレイ

     プレスター・ジョンの国に足を踏み入れると、何をするでもなく彼が座して瞑想している姿を見かけるという。
     周囲を有象無象と彼が呼ぶダークネス達に囲まれ、柴崎明は変わらずそこに在った。
     ……懐かしい。
     強い奴ほどあっけなく逝ってしまうものだと、つくづくそう思う。瞑想するその姿に最上川・耕平(若き昇竜・d00987)は、高揚感と懐古とが混ざり合った感情がわき上がっていた。
    「まさかまた逢う事が出来るなんてね」
     ここには様々な、消え去ったはずのダークネス達が居ますから。と、椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)は耕平に言うと先を立って歩き出した。
     なつみは柴崎と戦った事がないが、耕平を始め幾人かはかつて柴崎と戦った事があるようだった。
     思いを馳せる耕平達に、なつみは何も言わなかった。
    「また彼と相対する事が出来るとは、心が躍りマス。……とはいう、大津先生が心配デスから、この騒ぎは何とかしなくてはいけませんネ」
     楽しそうな声でそう言う霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)を、なつみはふと笑って見返す。
     不謹慎だが、楽しみだという気持ちは皆押さえられないようだ。なつみは決して戦いたいわけではないが、うん。
    「戦わなくて済むならそうしましょう」
     と、念を押してなつみが言う。
     分かったと言うようにラルフはこくりと頷いた。
    「柴崎一人に従うというなら、話が早くていい」
     最後尾を歩いていた夜川・宗悟(彼岸花・d21535)は、周囲に集まったダークネス達を見まわしながら言った。
     プレスター・ジョンの国にこれだけのダークネスが居るというのは、入ってみて初めて実感する事だ。
     これだけのダークネスが解き放たれたら、どうなるだろうか。
     一致団結する……という事だけは、無さそうだ。
     宗悟の思念は既に戦いに向けられており、説得の為に柴崎の元へと向かった仲間の後に続いて無言で歩く。
     任せるよ。
     宗悟が言うと、了解と楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)がひらりと手を挙げて答えた。
    「シケたツラして隠居中の柴漬けオジサンその他の皆、お元気ィ?」
     軽いノリで声を掛けた盾衛を、柴崎は静かに見返す。
     今まで、数え切れない数の灼滅者達を見送った彼の心は、これ位では動じる事はなかった。むしろ、反応なさすぎてつまらない。
     盾衛は鼻で笑うと、耕平と顔を見合わせる。
    「六六六がウジャウジャ来てるの知ってんだろ? 連中の話聞きたくない?」
     盾衛が聞くと、周囲のダークネスが反応を示した。
     既に周囲では戦いが始まっており、ただならぬ気配が伝わってきた。日頃団結心のないダークネス達も、焦りは感じるらしい。
    「どうも連中のお目当て、プレジョンをイワして、オメェらを蘇生するつもりらしいよ」
     その後、自分達の配下とするのだという。
     盾衛が話すと、周囲はざわざわと騒ぎ始めた。
     耕平は更に話を続け、こちらの立場を明らかにする。灼滅者側としては、ソウルボードの持ち主である教員が助かればそれで良いと言い切る。
    「ここに何かあれば、優貴先生に影響が出る。そちらとしても、住処であるこの国を護る事に異論はないはずたけれど」
     耕平が言うと、柴崎がすうっと顔を上げた。
     ……話を聞こう。
     柴崎はそう言うと、立ち上がった。

     時計を計りながら、花衆・七音(デモンズソード・d23621)は灼滅者側の事情について説明をした。
     現在は、灼滅者がプレスター・ジョンの国で戦うダークネス達に加担する形で参戦している。
    「つまり、プレスター・ジョンの所まで突破されんように六六六人衆と戦うて防衛に回って欲しいんや」
     そして、その為には時間が無いのである。
     出来るだけ早めに話を付け、そして参戦してもらいたい。うまく戦況が流れていれば、柴崎がいなくとも灼滅者側で全勝しているだろう。
     だが、今後もし同じ事があれば?
     そう考えると、今話が流れても良いという問題ではないだろう。
    「正直なところ、あなたを敵に回す回さない以前に、デスギガスなんぞの配下になるあなたを見たくないのですよ」
     ラルフがそう言うと、クハハッと笑った。
     それはラルフの本意であった。実にうさんくさい笑い方であったが、デスギガスの配下としていいように使われ、それを倒すというのは残念だしつまらない。
    「せめて、動かないで頂けると有り難い」
    「蘇生を行う術があるというならば、相手側に着くダークネスは少なくなかろう。……何故それを言った」
     柴崎が、盾衛に問うた。
    「あン? だって知ってる情報隠したままじゃ、フェアじゃねえじゃん」
    「出せる情報は、裏がある情報という事か」
     タダで蘇生出来るとは思わぬ事だ、と中立派に言うように呟いた。
     ここでなつみが、更に言葉を進める。
    「私達とあなた方の関係で言えば、二つに一つでしょう」
     いずれ私達がプレスター・ジョンを灼滅しにくるその時まで鍛錬をして強くなった私達と戦うか、それとも他の勢力の思惑に乗って蘇り、望まぬ戦いに駆り出されて捨て駒にされるか。
     他の勢力に躍らされるのは、あまり面白くない展開であろう。
     なつみはそう思うのだが、柴崎の表情からすると、そうでもないかもしれない。
     心身を削るような熱い戦い出来ればそれで満足だと思うなら、それが誰かの思惑であろうが自分の意志であろうが、構わない……と。
     ぽつりと、そう言ったのは山田・霞(オッサン系マッチョファイター・d25173)であった。
     なつみが霞に視線を向けると、霞は納得したように笑った。
    「……そうだよな」
     そこまで堕ちた奴は、選んでなんか居ない。
     だが、まだこちら側にいる霞はこう望むのである。
    「率直に言わせてもらう。……今は敵には回らんでほしい。君とヤるのに、つまらんしがらみなんぞあっちゃ、勿体なさすぎるってモンだ」
    「業大老だって死んじまったぜ。……あのオジサンはこっちに来てないから、もうあんたの目的は果たせないんだろ?」
     盾衛が続けて言う。
     仲間の話を聞いていた御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)が、思い返すように口を開く。
    「のう柴崎。貴殿は我が武蔵坂に編入するより前に、先輩方が倒した猛者と聞いておる。貴殿だけではなく、既に業大老もロシアンタイガーも居らぬ。今更デスギガスに与したとて、貴殿が戦うべき相手はもう存在しないぞ」
     そのロシアンタイガーを倒したのも灼滅者。
     我らは成長しているのだ、と百々は告げた。
     細い手指を広げて、五を作る百々。
    「五分、くれままいか。……我らは急いでいるのでな」
     百々が言うと、七音はちらりと時計を見た。
     そろそろ時間が余りない事を、仲間に視線で知らせる七音。そして、柴崎にこう提案したのであった。
    「せやな、五分や。簡単な余興やで。それで、ここに来る六六六人衆より上等な遊び相手や、ってこと見せたる。そこからは、あんたの方で決めたらええやろ」
     百々と、そして全員の要求を聞いた柴崎は思案するが、反対に中立派のダークネスは割れて居るようだった。
     ぽつりと耕平が言う。
    「業大老は最後にこう言っていたよ。『我を倒した者達よ、勝て! 勝ち続けろ!』ってね」
    「爺め、弱ったな」
     柴崎は楽しそうに大笑いをした。
     軽く肩を動かしながら、柴崎が周囲を見まわす。
    「行くなら早く行くがいい。……そして次に逢う時は味方であるよう祈っておけ」
     柴崎の言葉を聞き、宗悟が断斬鋏をしゃきんと鳴らした。
     始めるのかと聞いた宗悟は、ようやく待ち合わせに友達が来たようにどこか嬉しそうな表情に映った。

     時間は五分。
     真っ先に動いた盾衛が、まず耕平に向けて矢を放った。決して飛び込むだけが盾衛の戦いではなく、後ろから真っ直ぐ放った矢に込められた力と同じように、守り支える力となる。
     五分に全力を尽くす為。
    「行っけェ!」
    「分かってる」
     七音は短く言うと、飛び込んだ。
     ベルトを自在に操り、七音はスピードを生かして攻め立てる。ベルトと自分の意志をぴたりと合わせ、柴崎の動きに目を凝らす。
     相手の反応は早く、即座に七音に合わせて応じた。
     -早い。せやけど、見えへん程でもない-
     七音はうっすら笑った。
     次は当てる、と確信した笑み。
     柴崎が拳を握り締め、足を踏み出す……と思うと、ぐんと身が迫っていた。はっとした七音の前に、霞が立った。
    「……っ!」
     下から繰り上げる拳が、霞の胸元を抉る。
     衝撃で一瞬声を失った霞に、背後から百々が声を掛ける。
    「山田!」
     百々は名を呼び、ベルトを放った。体に巻き付き締め上げたベルトが、霞のダメージを軽減する。ようやくほっと息をつくと。霞は再び身構えた。
     一つ一つ、拳を受け止め繰り出す度に、あの時との差を感じていた。
     しらずうち、霞から笑みが零れる。
    「……この程度、じゃあないだろう?」
     挑発のような言葉が、霞から出た。
     あの時はもっと強かった。
     あの時はもっと、ずっと上だった。
    「笑っているのか?」
     百々が呆れたように霞にいう。
    「いや、時間の流れというものを感じてね」
    「そうだな。……時間は常に流れ続ける。ここ以外は」
     それはとても残酷な事実であった。
     百々は次の一手にそなえ、しっかりと目を見開き柴崎の動きを見つめる。

     相手の目線を、自分達に向けなければ。
     なつみは、シールドごと柴崎に飛びかかっていく。
     体ごと飛び込むようにしてシールドを叩き込んでみるも、柴崎の体をぴくりとも動かす事が出来ない。
     合わせて宗悟が、回り込むように横合いから鋏で切り掛かる。鋏の刃先が柴崎の道着を切り裂くが、手応えは浅い。
    「速いな」
    「……それに重い」
     なつみは、その堅さに息を飲む。
     しかしずしりと重い一撃は、柴崎にとっても思わぬ感触だったのだろう。我が手を見下ろし、柴崎は目を細める。
    「なるほど、徒党を組んだ爺の弟子よりも弱いと思っておったが……わずかな間で此程に成長するものか」
    「残念デス、もっともっと強くなって戦って欲しいとおもってマシタ」
     ラルフは笑うと、胸元からハンカチを引き出した。帯のように連なる色とりどりのハンカチを、奇術のように操りながらステップを踏む。
     躍るように、ラルフは後衛から間合いを詰める。
     手が操る布の虹は、ナイフのように鋭く柴崎を斬り払った。
    「……柴崎殿は、弱者は消えゆく塵だと言いまシタ。でも塵は成長しませんし、強くもならないのデスよ」
     自身の成長に反し、消える事も成長する事もない存在。
     それは幻に等しく。
     ラルフは柴崎の足元を切り裂いて、その動きを止めた。あの時ではこうも上手く足止めは計れなかっただろう。
    「こっちのターンデスネ!」
    「この時を待っていた。……借りを返す時を!」
     飛び込んだ耕平が、動きを止めた柴崎に拳を叩き込む。
     守りはウィングキャットのピオニーに任せ、ただひたすら拳を叩き込む事に専念する耕平。柴崎の動きを、今は追う事が出来た。
     柴崎が周囲をぐるりと見まわしたのを、耕平が気付く。
    「……こっちが先だ!」
     連撃で押す耕平と、包囲した七音が槍で貫く。七音の槍を片手で掴み、柴崎が槍ごと振り払って耕平の拳に対峙する。
     耕平の動きまでは見きれず、その拳を体に浴びる柴崎。
    「こいつも喰らえ」
     ありったけの力で、宗悟がクロスブレイブを放った。
     冷気が白く煙り、柴崎の体を覆い尽くしていく。ぬう、と身を乗り出した柴崎が拳を振るうと、宗悟は身を下げる。
     冷気を帯びた柴崎が、包囲網を睨め付けた。
    「むしろ動く手間が省けたというものだ」
     うっすら笑ったその表情は、余裕であるのか……それとも戦闘に対する喜びからであるのか。
     畳みかけるように飛び込む耕平と七音に、柴崎は拳で返した。
     七音を庇ったなつみが地面に転がり、カバーする為に霞が攻撃に転じる。
     ぐい、と口元を拭うと血が手甲に染みついた。
    「まだ追いつける……」
     小さく呟き、なつみは低い姿勢から飛び上がるように蹴りで弧を描いた。
     そのまま姿勢を取り戻しつつ、蹴りを放つなつみ。どうすれば効率よく当てる事が出来るか、どうすればよりダメージを与えられるか。
     5分という時間は、あまりにも短い。
     気付くと、七音のタイマーが鳴っていた。なつみは呆然と、立ち尽くしたまま……ゆっくり周囲を見まわす。
     知らずうち、他のダークネス達もじっと観戦していた。
     なんだか見世物になったようで、少し気恥ずかしい。
    「……もう五分か」
     宗悟が、息を吐きながら言った。
     百々がそっと蝋燭を翳し、黒い煙で覆っていく。その闇が、少しでもなつみや霞達の痛みを癒してくれるように…と百々。
     まだ、戦いは残って居るのだから。
    「のう柴崎。貴殿が望めば、また我らも来よう。されど、六六六人衆が勝てば貴殿は望むように戦えるとは限らんぞ」
     そう言いながら、百々は蝋燭を下げた。
     あの時より強くなった、と感じるのは霞や耕平、盾衛やラルフといった一度手合わせした仲間が一番よく分かって居る。
    「戦いを止めた、という事はこちらの要求を飲んだとみていいのか」
     霞が聞くと、柴崎はふと笑った。
     其れもまたよし。
     と、その一言を聞いて盾衛が目を輝かせる。
    「お、オジサンもこの退屈な日常に訪れた祭りに乗っかっちゃう? ンじゃ、折角だから参加してこうぜ!」
    「祭りならば参加せねばなるまいな。……それでは俺は行くが、お前達は何時まで群れるつもりだ」
     ちらと後ろを振り返り、柴崎が聞いた。
     百々が、戦いが終わった事を告げる。
    「柴崎との相談は終わった。貴殿らも、即座にここの防衛に回ってくれ。……そうでなければ、我らも柴崎も相手になる事になるが」
     ざわざわと話し合っていたダークネス達が、ぽつりぽつりと幾人かで散っていく。業大老派のアンブレイカブル達は、柴崎の後を追うように走り出した。
     随分、大勢に慕われとるみたいやな。
     その背中を見つめ、七音が苦笑を浮かべる。
    「おっと、その台詞は禁句デスヨ」
     ラルフが、口止めをするように小声で七音に言う。
     慕われているなんて言っているのが聞こえたら、引き返してくるかもしれない。今は、戦いはもう十分だ。
    「大津先生が心配ですカラ」
     確かに心配ではあるが、それにしては他の四大シャドウが見えないのも不気味である。
     宗悟はここに来るまでもあちこち目を光らせてみたが、堕ちたばかりの六六六人衆のようなダークネスが多かったのが気になる。
     宗悟の心配を察したのか、霞が軽く背を叩いた。
    「すぐに他の地区と連絡を取ろう。まだ苦戦している所があるかもしれない」
     踵を返して走り出した仲間を追い、耕平はちらりと柴崎を振り返る。いつか、あの背を追い越す日が来るというのだろうか。
     あの時越えられなかった壁が、今はずっと低く感じて。
     それは自分自身の成長に他ならないのだ。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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