プレスター・ジョンの国防衛戦~女吸血鬼の屈辱

    作者:悠久

    ●プレスター・ジョンの国
     豪華な洋館風の一室は、戦いの只中にあった。
     飾られた調度品が次々と倒れ、破壊され、見る影もなく荒らされていく。
     室内を縦横無尽に行き交うのは4つの人影。鞭剣が舞い踊り、幾重にも刃が閃き、何度も交錯して火花を散らす。
     やがて、意志持つかのような帯が空間を貫き――上がったのは、女の悲鳴だった。
     人影の1つ、黒いドレスを纏った女が力なく倒れていく。床に散らばった長い髪は豪奢な金色。露わになった首元には、醜く忌まわしい意匠の首輪が嵌められていた。
     奴隷級吸血鬼・エリーゼ。かつて灼滅者と戦った末に敗れ、プレスター・ジョンの国へと招かれた残留思念である。
    「……っ! お前達、わたくしをここまで辱めたその行い、許されると、思って……」
    『うるせぇんだよ、ババア』
     女を囲むように見下ろしているのは、ベースボールキャップを被った3人の少年だった。
     そのうちの1人が、エリーゼの背へ躊躇いなくナイフを振り下ろす。
     刃は容易く背へ潜り込んだ。エリーゼの体がびくりと痙攣し、やがてその動きを止める。
    『チッ、このクソ年増が。散々手こずらせやがって』
    『おい、グズグズするな。さっさとプレスター・ジョンを殺しにいくぞ』
     ゆっくりと消滅するエリーゼには目もくれず、少年達は足早にその場を去っていく。 

    ●武蔵坂学園
    「大津・優貴先生が、高熱を出して倒れてしまったんだ」
     教室に現れるなり、宮乃・戒(高校生エクスブレイン・dn0178)はそう告げた。集まった灼滅者達を見回す顔に、いつもの柔和さは欠片も見えない。
    「どうやら、歓喜のデスギガスが、プレスター・ジョンの国に攻め込んだことが原因らしい」
     デスギガス勢力の目的は『プレスター・ジョンを暗殺し、プレスター・ジョンの国の残留思念を奪い、その残留思念をベヘリタスの秘宝で実体化させる』ことだと想定される。
    「プレスター・ジョンの国には、慈愛のコルネリウスによって多数のダークネスが送られているからね。……デスギガスの勢力に加われば、大変なことになるかもしれない」
     プレスター・ジョンの国に攻め込んでいるのは、シャドウによってソウルボードに招かれた六六六人衆。
     彼らは最近闇堕ちした序列外の六六六人衆らしい。戦闘力は低いのだが、その分、複数で行動しているようだ。
     六六六人衆の目的は、プレスター・ジョンの暗殺。そのため、プレスター・ジョンを守ろうとする残留思念と戦闘になっているという。
     ただ、残留思念の中には、攻め込んできた六六六人衆に呼応してプレスター・ジョン殺害を目論むものもおり、戦況は混迷を極めている。
    「皆にはプレスター・ジョンの国に向かい、残留思念のダークネスと共闘しつつ、攻めてきた六六六人衆を撃退して欲しいんだ」
     戒は再び灼滅者達の顔を見回すと、手元の資料を静かに捲った。
     敵対する六六六人衆は3人。ベースボールキャップを被った不良少年のような外見をしている。
     ポジションは2人がディフェンダー、1人がスナイパー。それぞれ殺人鬼に似たサイキックを使用。加えて、後衛の1人はダイダロスベルトのサイキックも用いるとのこと。
     対して、共闘することになるダークネスの残留思念は、ヴァンパイアのエリーゼ。かつて絞首卿ボスコウによって忌々しき首輪を嵌められ、隷属させられていた吸血鬼の1人だ。
     エリーゼはキャスターのポジションに位置。ダンピールに似たサイキックに加え、ウロボロスブレイドを用いる。
     かつては灼滅者と敵対した彼女だが、今ではプレスター・ジョンの国で誇り高く穏やかな暮らしを送っている。
     彼女にとって、六六六人衆は自身の領域を侵す敵だ。共闘を持ち掛ければ、渋々ながらも了承するだろう、と戒。
    「ただ、気になるのは……デスギガス勢力のシャドウも、コルネリウス勢力のシャドウも、今回の戦いには加わっていないようなんだ」
     どこか別の場所で戦っているのか、或いは、協定などがあるのか。
    「四大シャドウの動きにも注意する必要があるだろうね。なんにせよ、僕は君達の活躍に期待しているよ」


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    上名木・敦真(大学生シャドウハンター・d10188)
    桐淵・荒蓮(タカアシガニ調教師・d10261)
    八葉・文(夜の闇に潜む一撃・d12377)
    内山・弥太郎(白狼騎士・d15775)
    可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)
    羅刹・百鬼(一人ぼっちの百鬼夜行・d27920)
    天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)

    ■リプレイ


     プレスター・ジョンの国――。
     豪華な洋館風の一室は、既に戦いの坩堝と化していた。
     首輪を嵌めた漆黒のドレスのヴァンパイア・エリーゼが鞭剣を振るい、六六六人衆である3人の少年達を迎え撃つも、多勢に無勢。
    『ハハッ、どうしたババア! もっと抵抗してみせろよ!!』
    「っ……!」
     ナイフを振り回す少年。エリーゼは悔しげに歯噛みするも、ただ翻弄されるまま。
     だが、そのとき。騒乱を断ち切るように飛び込む8つの人影があった。
    「ひゅー、見る目のねー礼儀知らずのガキの相手たぁ、ツいてねーなー美人のねーさん」
     羅刹・百鬼(一人ぼっちの百鬼夜行・d27920)は好戦的な笑みを浮かべると、傷だらけのエリーゼへそう呼び掛けた。
    「あら、意外と元気そうじゃない。自由に暮らせてないのは変わらないみたいだけど」
     続けてそう呼びかけた天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)は、エリーゼの残留思念へ慈愛のコルネリウスが力を与えた現場に立ち会い、戦った灼滅者達の1人だ。
    「お前は、あの時の成り損ない……!」
    「今度はデスギガスに巻き込まれたわよ、あなた」
     さっと顔色を変えたエリーゼとは対照的に、雪は無表情のまま静かにそう告げて。
    『ンだ、テメェら! まさか、オレ達の邪魔をしようってのか!?』
     突然の闖入者に面食らっていた少年達が、再度の攻撃姿勢を取る。
     桐淵・荒蓮(タカアシガニ調教師・d10261)は、彼らからエリーゼを護るように立ち塞がった。
    「以前は敵同士だったが……ここでは手を組まないか。少なくとも、貴女の領域を護る手伝いくらいはできるはずだ」
    「しつけのなってないガキ共を懲らしめるため、優雅な貴女のお手伝いをしましょう」
     荒蓮の呼びかけに、八葉・文(夜の闇に潜む一撃・d12377)もそう言葉を重ねる。
     なにかとこの場所には世話になっている身だ。荒らされるのであれば、阻止したい。
    「お互い思うところはあるでしょうが、今回は無粋な侵入者共を排除するために共闘しませんか?」
     上名木・敦真(大学生シャドウハンター・d10188)は少年達を牽制するように構え、そう提案した。
    「勿論、こいつらを倒した後は我々も退かせていただきます」
    「わたくしが、成り損ない達と!?」
     灼滅者達の呼び掛けに驚いたのか、エリーゼが声を荒げる。
     可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)は飄々とした笑みを浮かべ、彼女を宥めるように両手をひらりと振った。
    「まーまーまーまー、確かに私達も侵入者ではございますが、要件が終われば即座に立去る身……そこの補欠3人組よりはマシでございましょう」
    『あァ!? 今なんつった!?』
     六六六人衆の少年達が、殺意も露わに恣欠を睨みつける。
    『誰が補欠だ! ザコが、でけェ口叩きやがっ……!』
     だが、少年達から発せられた悪口雑言は、爪弾かれた弦の音色によって遮られる。
    「罵りに余裕がありませんね。例え選ぶ言葉が汚くとも、せめて落ち着いて言うものです……」
     楽器を鳴らした睦月・恵理(北の魔女・d00531)は、優雅な笑みを浮かべ、少年達をゆっくりと見回して。
    「……それではまるで狩られる側の様ですよ、序列外さん?」
     苛立ちで動きが雑になれば儲け物――と、六六六人衆の神経を逆撫でるように恵理がそう告げれば、彼らは殺気を増した視線を灼滅者達へ向けた。
    『上等だ! テメェら全員ぶっ殺してやる!!』
     少年達からどす黒い殺意がゆらりと立ち上り、灼滅者達目掛けて放たれる。
     内山・弥太郎(白狼騎士・d15775)は右に西洋剣、左に日本刀を構えた。その体は白い炎をごうと巻き上げ、黒い髪は白く変じていく。
     やがて、現れたのは白狼の如き耳と尻尾を備えた姿。
    「こんな広い世界で防衛戦だなんて、分が悪いですね」
     しかし、負けるわけにはいかない。武蔵坂学園では、大津・優貴先生が高熱を出して倒れているのだ。
     プレスター・ジョンの国を守らなければ、先生の身に何が起こるかわからない。なら、たとえダークネスでも味方に付け、戦う。
     決意を込め、弥太郎は向かい来る敵を見据えた。


    「さぁて! 少しは楽しませてくれよ、三下殺人鬼共!」
     拘束服姿の百鬼が、口に咥えたナイフから呪いの風を巻き起こす。
     荒々しいその叫びに呼応するように、毒は容赦なく六六六人衆の少年達を包み込んだ。傍らのナノナノも、主人に続けてたつまきを巻き起こす。
     灼滅者達の先手に少年達は舌打ちひとつ、苛立ちも露わに戦場を疾走する。
    「鳴神抜刀流、霧淵荒蓮だ。おいたが過ぎる悪ガキどもにはキツめのお仕置きが必要だな」
     荒蓮はすらりと抜刀すると、少年達を見据えて名乗りを上げた。刹那、素早く地を蹴り、護り手の少年の懐へ飛び込むと、幾重もの斬撃を閃かせる。
     死角を的確に突いた荒蓮の攻撃は、同時に敵の護りをも斬り剥がして。
     護りの薄い場所へ、恵理は容赦なくソニックビートを響かせた。
    「遺恨はさておき、まず無粋な連中にお帰り願いましょう? レディ・エリーゼ」
    「……仕方ないわね。お前達の手を借りるとしましょう」
     どこか親近感を滲ませる恵理の言葉。エリーゼは特に抵抗する様子もなく、鞭剣を素早く敵へ放つ。
    「ウチは刃。あんたらの闇を切り裂き、穿つ……刃や」
     鞭剣が少年を拘束した隙を逃すことなく、文は素早く跳躍し、赤い羽根を纏う蹴りを叩き込んだ。敵の体勢が大きく崩れ、強固に足止めされる。
     だが、次の瞬間。体勢を崩した少年の全身から黒い殺気が噴き上がり、中衛へと襲い掛かった。
    「皆さん、下がってください!」
     弥太郎と霊犬のサイゾーは咄嗟に文の前へ飛び出し、敵の殺気を受け止めた。
     吹き付ける漆黒の霧が体を痛めつける。だが、弥太郎は即座に白狼の如き炎を纏い、足止めされた敵目掛け、鬼気迫る斬撃を放った。
     ――怯みはしない。武蔵坂学園では、今も優貴先生が苦しんでいるのだ。
     と、そのとき。もう1人の敵が、弥太郎の死角へ潜り込むように刃を閃かせて。
    「おっと、そう易々と攻撃を集中させるとお思いで?」
     恣欠は器用に刃の軌跡へ割り込むと、自らの体を盾として弥太郎を庇った。
     深く抉られた傷の痛みは、どこか胡散臭い笑みで黙殺して。直後、恣欠は零距離からオーラキャノンを放ち、敵を吹き飛ばす。
    「チームワーク、というやつでございますよ。もっとも、あなた達には縁のない言葉かもしれませんがねぇ」
    『あァ!? そりゃどういう意味だ、テメェ!』
     恣欠の言葉に、後衛の少年は苛立ちも露わに体へ巻き付けた帯を射出する。
     飛来した帯を頬に掠らせながら、敦真は敵の前衛目掛けて戦場を駆けた。
     敦真の頬が切れ、一筋の血が流れ落ちる。厄介なことに、後衛の少年はこれから更に命中精度を上げることだろう。だが、今は彼に構っている暇はない。
     灼滅者達の作戦は、一点集中による確実な各個撃破。攻撃を集中させるべきは敵前衛の護り手、その片割れだ。
     敵はできる限り迅速に排除する――敦真は瞬時に片手を鬼神化させ、灼滅者達へ再度の攻撃を仕掛けようとしていた少年を大きく殴り飛ばした。
     攻撃の勢いを殺し切ることができず、少年の体が壁へ強かに打ち付けられる。
     刹那、傍らへ雪兎の名を冠した槍を携えた雪が、静かに地を蹴った。白い軍服の裾がひらりと揺れる。
    「逃がさないわ」
     螺旋の回転を帯びた刺突が、壁ごと敵を貫く。同時に、槍を持つ雪の力も増幅されて。
     少年の口から漏れるのは、声にならない悲鳴。
     だが、まだまだ倒れはしない。雪を睨みつける敵の目が、そこから滲み出る殺気が教えてくれる。
     雪は――灼滅者達は、欠片の油断も抱くことなく、それぞれの武器を構えて敵と相対した。


     灼滅者達と六六六人衆の戦いは佳境に突入しようとしていた。
     既に敵前衛の1人は倒れ、残る1人も行動阻害が蓄積されている。
     一方の灼滅者達はといえば、負傷の蓄積からそれぞれが回復に手番を割くことが増えていた。攻撃頻度が落ちたものの、その代わり、誰ひとり欠けることなく戦場に立ち続けている。
     押し寄せる殺意と無数に閃く刃の軌跡が、幾度も灼滅者達を苦しめ、傷つける。
     だが、ナイフを握る少年の足元がふらつくのを見て取った恵理は、すかさず室内で倒れかけた家具を利用し、彼の行く手を阻んだ。
    「ほら、粗雑にするから……くすくす」
     可憐にさざめく恵理の笑い声は、敵にしてみれば神経を逆立てるものに他ならない。
    『テメェ、ぶっ殺してやる!!』
     少年は殺意も露わに恵理を睨みつけると、瞬時に彼女へ刃を突き立てた。
     その痛みはひどく鋭く、恵理は一瞬顔を歪める。しかし同時に、少年の体さばきが雑になっていることを見逃さない。
     恵理はすかさず縛霊手の一撃を叩き付け、後退の遅れた少年を大きく吹き飛ばした。
     続け様、エリーゼの鞭剣が紅を帯びて敵の力を奪い取る。その息はひどく荒い。彼女もまた大きく消耗しているようだ。
     一方、深手を負った少年を癒すため、後衛の少年が意志持つ帯を伸ばす。
     だが、帯が届く寸前、荒蓮は前衛の少年目掛け、強かにバイオレンスギターを叩き付けた。
     直後、荒蓮の体を弾くように意志持つ帯が少年の体を覆うも、期待するほどの回復効果は得られない。戦闘開始時から、荒蓮は敵の護り手達へ集中的にアンチヒールを重ねていたのだ。
     とはいえ、同時に付与される守護まで防ぐことはできない。
     意志持つ帯の護りを破ったのは、恣欠の放ったアンチサイキックレイ。
    「おや、存外に他愛ない護りでございますねぇ」
     護りが霧散したことを確認すると、薄笑みを浮かべた恣欠は白紙の魔導書を閉じて次撃に備えた。その横をすり抜けるように、敦真の手にした蝋燭から生まれた炎が次々と飛んでいく。
     炎は瞬く間に少年の全身を包み込み、間もなくその動きが完全に止まる。
    「さて、あと1人で終わりですね」
     敦真はふう、と息を吐いた。その体には既にいくつもの傷が刻まれている。故に、決して油断の色はない。
     対して、明らかな狼狽を見せたのは敵の少年である。
    『く、くそっ!!』
    「そこで待ってな! 今、アタシ達がぶっ倒してやるからさぁ!!」
     荒々しい笑みも剥き出しに、百鬼は戦場へ清めの風を生み出し、敦真をはじめとした前衛の仲間達を癒した。ナノナノと霊犬のサイゾーも、集中的に負傷した護り手達を癒して回っている。
    『ち、くしょ……やられてたまるかよォォォッ!!』
     少年は懐からバタフライナイフを取り出すと、高速の動きで灼滅者達へ迫る。刃の行く手に立つのは――弥太郎。
     死角へ回り込み閃くその斬撃が、深々と体を抉った。しかし弥太郎は顔色ひとつ変えず、敢えて冷静に受け止めて見せて。
    「次は、僕の番です……!」
     少年が後退のために手を止めた瞬間を見計らい、弥太郎は日本刀を振り下ろした。素早く重い斬撃が、敵の体を肩から腹部にかけてざっくりと切り裂く。
    「苦しいですか? でも、大津先生はきっと、それ以上に苦しんでいるんです!」
     弥太郎の見据える目の前で、少年の体が大きくよろめく。
     その隙を逃さず、文は大鋏を携えて戦場を駆けた。
    「断ち方は挟むだけやないんよ」
     文は両刃の鋏を少年の体へ突き刺すと、持ち手の片方を踏み付けて――。
    「開いて……断つ!」
     ざくり。次いで、悲鳴。敵の体が大きく断たれ、その力が文へと吸い込まれていく。
     だが、最後の抵抗にと少年の放った、文狙いの斬撃が、すかさず庇いに入った霊犬のサイゾーを消滅させた。
     そのとき、消えゆく霊犬の背後から白い人影が飛び出す。
     雪だ。眼鏡の奥の冷静な瞳が、まっすぐに六六六人衆の少年を見据えている。
     攻撃後の虚を突くように、雪は瞬時に少年へ肉薄した。落涙を構え、零距離から膨大なまでの魔力を流し込む。
    『ぐぅっ……!!』
     少年の口から漏れる悲鳴は、遅れて起こった小爆発にかき消されて。
     後に残るのは、膨大な魔力の残滓と、ゆっくりと地へ倒れる少年の姿だけだった。
    「……お休みなさい」
     小さく呟く雪。まるで涙のように落ちた薬莢の音が、戦い終えた空間に響き渡る。


     洋館風の一室は、たった今終えた戦いの激しさを表すように荒れ果てていた。
    「招かれざる客の帰り道は……あらへん」
     急速に消えていく六六六人衆達の亡骸を前に、文が無感情にそう呟く。
    「所詮は序列外のお使いですかねぇ……搖動につぐ搖動といったところですか」
     ふむ、と。飄々とした笑みを浮かべ、ひとつ頷く恣欠。
    「さてさて、チェックメイトはいつになる事やら」
    「……あんな風に表情を歪めていてはね」
     恵理もまた、ちらりと六六六人衆の亡骸へ視線を向け、そう呟いて。
    「私は、穏かに暮し始めた今の貴女はきっと美しいんだと思います……醜く顔を歪めて他人に当り散らさずにいられなかった貴女よりずっとね」
     改めてエリーゼを見つめ、恵理はゆっくりとそう話し始める。
    「気の毒なあの男の人を殺した事で、貴女が見苦しく自制をなくしていた事実は永遠に形に残ってしまいました。その事だけは、あの人へのせめてものお弔いに覚えて、背負って行って貰いましょう」
    「まあ、なんだ。ここなら他人様の迷惑にもならんし……穏やかな暮らしが、続くといいな」
     荒蓮は倒れた家具を元の場所へ戻すと、エリーゼへ共闘の感謝を告げる傍ら、労いにも似たそんな言葉をかけて。
    「あなたがこうして静かに暮らしてる間は、力になってあげてもいいわよ。なんだか巻き込まれ体質みたいだし」
     雪もまた、そう言葉を重ねる。
     エリーゼは肩を竦めると、その顔に浮かぶ苛立ちを隠そうともせず、長い金髪をかき上げた。
    「まったく、本当に忌々しい相手ね、お前達は。けれど、今回ばかりは感謝しておきましょう。ああ、大きな借りが出来てしまったわ」
    「ええ。……今度こそ、あなたに自由な翼が与えられん事を」
    「……それでは御機嫌よう、エリーゼさん」
     雪と恵理の言葉を別れの挨拶として、灼滅者達はその場を後にする。
     シャドウや六六六人衆が近くに潜んでいるのでは、と百鬼は周囲を見回すが、その心配はなさそうだ。
    「他の皆さんは、大丈夫でしょうか」
     敦真は流れる血を拭いながら、ブレイズゲートのあちこちで戦う仲間達へ想いを馳せる。
    「ええ、きっと」
     弥太郎は静かに頷いた。――勝利を、信じて。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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