飲み込んで! 僕の 恵方巻きブレード!

    作者:空白革命


     太鼓のドンドコなリズムにのって、無数の男たちが円陣を組んで回っている。何かの犯人かなってくらい黒い全身タイツのまっくろマンたちの手には、きっちり長い恵方巻き。
     中央に縛り付けられたイケニエは、不自由な両手をぎしぎしといわせてもがいていた。
     その頭上には、なんと巨大な魚影が浮かんでいる。よく見えないが、なんか巨大なマグロにも見える。
    「我はシャドウ。悪夢の代行者である。恵方巻きを楽しみにしつつも『まあその辺の太巻きでいいや』と思っているそこのお前に、恵方巻きの悪夢をみせてくれよう」
    「エホーウ!」
    「エホーウ!」
     まっくろマンたちが一斉に飛びかかる。
    「魔剣恵方ブレード! 今年の恵方は、おまえの口だァ!」
    「「エホーウ!」」
    「モゴーウ!?」
     柱にしばられたおっさん(四十七歳無職)は口に恵方巻きを突っ込まれ、なんとか飲み込んだら次を突っ込まれというソフトな拷問をうけることになったのである。
     

    「予想はしてたわ」
     白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)は真顔でコーヒーをすすった。
     ところはかわって武蔵坂学園の空き教室。シャドウに悪夢を見せられているおっさんがいると聞いて、季節柄恵方巻きかなと思ったらその通りだった幽香である。
     どうせおっさんなんだろうなと思ったらその通りだった幽香である。
     もはやおっさんがソフトな拷問を受けてるくらいでは驚かない、そんな幽香である。
    「でもこのままじゃおっさんが恵方巻き嫌いになっちゃいますよ。助けてあげましょう!」
     現場はおっさんのソウルボート内。
     恵方巻きブレードを武器にするまっくろマン10体が兵隊として配置されている。
     こいつらを倒し、おっさんをソフト拷問から救うのだ!
    「損失の大きさはともかく、シャドウを好き勝手させるのもシャクよね……やりましょう、きっちりと」
     幽香は瓶とセットで売られた醤油(グッドデザイン賞受賞)を片手に、きらりと目を光らせた。


    参加者
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    鈴鹿・美琴(二刀流・d20948)
    難駄波・ナナコ(クイーンオブバナナ・d23823)
    端城・うさぎ(リンゲンブルーメ・d24346)
    レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)
    白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)

    ■リプレイ


     足下に魂のサークルが走り、光のフィールドが立ち上る。
     鈴鹿・美琴(二刀流・d20948)はどこからともなく現われたふた振りの剣を同時に引き抜いた。
    「「エホウ!」」
     真っ黒な夢の兵隊たちが硬化した恵方巻きを握って襲いかかってくる。
    「随分とふざけた相手だが、手は抜かん」
     目の中に走る光。振り込まれる恵方巻き。
     一手早く居合い斬りを繰り出し、恵方巻きを弾く。振り込んだ回転を殺すこと無くもう一刀にオーラを纏わせ、後続の敵に斬撃を浴びせる。
     オーラが火花を散らし、まっくろマンを吹き飛ばしていく。
     そんな彼女の後ろから同時に飛びかかるまっくろマン。
     この体勢から防御はしない。攻撃と同時に飛ぶことでダメージリスクを抑える方が得策だ。
     だが彼女が予想した打撃は訪れなかった。
     横合いから放たれた鉛玉のスコールがまっくろマンたちに降り注ぎ、恵方巻きをまっくろマンもろとも物理的に押していったのだ。
    「そこまでだぜ!」
    「その声は」
     振り返る美琴。
    「レイチェル!」
    「おうよ」
     おきまりのガトリングガンをひっさげたレイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)が鼻頭を親指でぬぐった。
    「哀れなオッサンに餌を恵んでやろうって心意気、大いに結構! しかし! あまつさえ今時流行らねえ風習押し付けようってえ、さもしい根性は見過ごせねえぜ!」
     ガトリングガンに弾帯をセット。起き上がって再び襲いかかろうとするまっくろマンたちを右から左へ掃射していく。
     現われたミケランジェロ(ウイングキャット)が猫魔法を連射。弾幕に混ぜ込んでまっくろマンをノックバックさせていった。
    「ほらほらどうした! ミケ! 夢のなかだからな! 好きなだけ食べちゃって良いぜ!」
    「アリカさん、行きましょう!」
     黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)はビハインドのアリカが召喚すると、レイザースラストを一斉展開からの一斉発射。間を縫うように空を駆けるアリカの斬撃がまっくろマンを切り裂き、その隙を見てフィヒティミト・メーベルナッハ(媚熱煽姫・d16950)がバトルオーラをわき上がらせながら殴りかかる。
    「……これは」
     美琴は剣の柄をぎゅっと握った。
     シリアスの波が来ている。
     どうやらバナナ大権現も調子が出ないみたいだし、レイチェルさんもコピペしたのかなってくらいまんまな台詞を言っている。今日はスタイリッシュバトルアクションの日なのだ。
     勝利。いやさ勝訴である。
     美琴おねえさん(実年齢9歳)は目をきらりと光らせた。
    「勝った、バナナ空間に勝っ――」
    「おぐう!?」
     両腕を掴まれたフィヒティミトが恵方巻きを突っ込まれていた。
    「だっ、だめ、こんな黒くて太いもの突っ込まれたら、あ、あたしおかしくなっちゃ、ふぐ、むむう!」
    「…………」
     しばらく、フィヒティミト先生が恵方巻きを加えたり握ったりなんなら胸の谷間に挟んだりするさまをご想像ください。もしくは挿絵をください。
     とはいえこのゲームは全年齢。子供だって見てるんだからこれ以上のことは――。
    「えほっ、げっほ、やめて、もうむ、むぐ!? あ……ふう、おっきいよお、あたしのなか、いっぱいだよお……お、おごおっ!」
     あの。
    「んふ、もっとほしいの。もっとちょうだい」
     えっと。
    「ほしいの、恵方巻き」
    「……」
     美琴ががっくりと両手両膝をついていた。敗訴である。
     慌てた様子でスライドインしてくるいちごさん。
    「あ、えっと、ミトさんスイッチ入っちゃったみたいなんで、しばらく放っておきましょうか?」
    「そ、そうか……スイッチ入ったなら仕方ないな」
    「何のスイッチだろうなあ」
    「何のスイッチでしょうねえ」
     何のスイッチかわからないなあ。
     スライドインしてくる難駄波・ナナコ(クイーンオブバナナ・d23823)。
    「エロスイッチだよ」
    「あえて言わないようにしてたのに!」
     あえて言わないようにしてたのに!
     ガトガンババーっとやりながら遠い目をするレイチェル。
    「タイトルの時点で避けられない運命だったろ、これは」
     ウイングキャットのミケランジェロが腕組みしてうんうん頷いていた。
     片手でなでこなでこしてやるレイチェル。
    「世界がホモで満たされなかっただけ無事とすら言えるんじゃね?」
    「他人事みたいに……」
    「はっ! 声が聞こえる!」
     ナナコが急に白目をむいて天を仰いだ。
     なんか地面にバナナの皮を大量に敷いた魔方陣を君で中央で正座していた。
    「なに呼び出そうとしてんだこいつ」
    「これがバナナ空間」
    「違うと思う」
    「来ます来ます、天恵がががががががビー!」
     白目剥いたままガタガタ震えたナナコはぴたりと止まった。
     軽く引いたいちごたちが見守っていると、明瞭な声で語り出す。
    「『……こえま……か……聞こえますか。わたしはバナナの女神』」
    「おいなんか変なの下りたぞ」
    「『あなたが落としたのは金のバナナですか? 銀のバナナですか? それとも大学の単位ですか?』」
    「思いの外大学生に寄り添う女神なんですね」
    「『私をスルーした正直なあなたには、重大な真実を教えましょう』」
    「重大な……」
     ごくんと息を呑むレイチェルといちご。
    「『バナナにチョコをかけると、チョコバナナになります』」
    「「……」」
    「『やくだてるのですよ』」
    「「……」」
     ぽつんと立ち尽くすレイチェルといちご。
     地面にのの字を書き続ける美琴。
     エロピンみたいなことを続けるフィヒティミト。
    「さすが、専門家がいると空気が違うわね」
     シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)はバナナ食いながら神妙な顔をした。というかいつも神妙な顔をしているシャルロッテである。
    「とはいえ、このままだと話が終わらないわ。私たちで始末をつけましょ」
     ため息まじりに髪をかき上げる白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)。
    「頼むわね、うさぎ」
    「うん、がんばろう、ね! た、たれみみちゃん、も」
     端城・うさぎ(リンゲンブルーメ・d24346)はつま先でちょっぴり跳ねると、抱っこしたウィングキャットに呼びかけた。
     垂れ耳というかスコティッシュフォールドのウイングキャットである。
    「ええと、縛られてるおじさんを助けて、わるーいシャドウさんをメッてすればいいんだよね。がんばる、よ!」
     腕から飛び上がったたれみみちゃんが猫魔法を展開。まっくろマンへ乱射し始める。
     その中をてってこ走って行くうさぎ。
     殴りかかってくるまっくろマンだが、ぴょんとジャンプで回避すると相手の肩を蹴りつけた。
    「めっ!」
    「エホウ!?」
     蹴り倒されるまっくろマン。
     その直後を狙ったまっくろマン二人によるフライングクロスアタックが炸裂。オーラでガードしたうさぎだが、激しく吹き飛ばされる。
     なんとか両足から着地。倒れないようにブレーキをかけつつ、最低限の祭壇効果を編み込んだ毛糸の手袋を両手に出現させ、自らのダメージにリカバリーをかける。
     追撃に走ってくるまっくろマンだが、後ろから絶妙なタイミングで放たれたたれみみちゃんの肉球ビームがまっくろマンの額に直撃。のけぞった所にうさぎがちょこちょこ駆け寄った。
    「えいっ」
     女子キック(両手をガッツポーズにしてバランスをとりつつ片足で小ぶりなキックを繰り出すやつ)を放つうさぎ。すねに直撃したまっくろマンは目に見えないエネルギーによって激しく転倒。あたまから地面に落ちた。
     いい調子だ。
     うさぎはにっこりわらって振り向いた。
    「幽香ちゃん、今……だ、よ?」
     いつものテンションで言葉が詰まったのではない。
     幽香が正座して恵方巻き食っていたからである。
     最初に小皿に出した醤油にちょんちょんつけた恵方巻きを南南東を向いて正座したままだまーって恵方巻きをもーぐもーぐし続けていた。
     慣れない人はこれをやるとちょっと喉がきついが、焦らず食べれば別に難しいことはない。
    「……」
    「……」
     沈黙と沈黙がぶつかりあう。
     うさぎは助けを求めるように振り返ると、シャルロッテが。
    「……」
     黙って恵方巻き喰っていた。
     というか、バナナとクリームとスポンジでできた恵方巻きを喰っていた。
    「はっ、それはまるごとバ――」
    「権利をいうものを考えろ!」
     遠慮無く商品名を言おうとしたナナコを、専用ハリセン(刀の柄からハリセンが生えたやつ)で殴り飛ばす美琴。
     バナナの恵方巻きを食べ終えたシャルロッテが、親指のクリームを舐めとってから空を見上げた。
    「マグロドリームね。さあ出てきなさい、出てきた途端全力で潰してあげる。たとえこの身を闇に堕としてでも……」
    「何言い出してるのあの子」
    「わ、わかんない……」
     急に世迷い言を言い出したシャルロッテに、幽香(食後)とうさぎはどん引きしていた。
    「アガムノメンとプレスター・ジョンの戦いが始まるこのタイミングに私を足止めするとは、相当な策士のようね。さて、どこからの差し金かしら」
    「本当になんの話をしてるのかしらあの子……」
    「あ、あたしに聞かれて、も……」
     さらなるどん引きを示す幽香とうさぎ。

     そして。
    「……」
    「……」
    「……」
    「……」
    「……」
    「……」
    「……」
    「……」
     八人は南南東を向いて正座すると、だまーってもぐもぐしていた。
     バナナを。
    「ってなんでだよ!」
     バナナを食べ終え、皮を地面に叩き付けるレイチェル。
     その足下ではミケランジェロとたれみみさんがスティック状のかりかりをひたすらかりかりしている。ちょっと離れた場所で恵方巻きもぐもぐやるアリカさん。
     レイチェルは立ち上がった。
    「戦闘はどうなった! おっさんは! 恵方巻きを硬くして殴りつけてくる敵は!」
    「もういいじゃない。それより……」
     正座を崩して乙女座りしたフィヒティミトがいちごの腕を引っ張った。
    「いちごちゃんの恵方巻きも食べたいな♪」
    「ひいっ!」
     いちごは引いた。
     関係ないけど語尾の音符を表記する際にタイプミスで淫婦と出てこのままでもいいかなと一瞬だけ思った。ほんと関係ないけど。
     とかやってるとレイピアと恵方巻き掲げて飛びかかるアリカさん。それを羽交い締めにするいちご。
    「わー! だめですアリカさんその人は敵じゃないですから!」
    「おっさんが恵方巻きを突っ込まれるこの事件……」
     幽香、となりの騒動を完全にスルー。恵方巻きを葉巻きみたいに持つと、気だるげに身体を傾けた。
    「犯人は現行犯。凶器は恵方巻き。しかし混沌の迷宮入り。真犯人は……マグロ」
    「ん?」
     それまで小動物みたいに恵方巻きをちょっとずつ食べていたうさぎが首を上げた。
     真面目なのか不器用なのか、口いっぱいに頬張っている。
     ハムスターみたいだな、と幽香は思った。
     食べ方も『もももももっ』て感じだし。
     その一方で。
    「自分は真面目にやろうと思ったんだ。バナナ空間の噂は聞いていたから覚悟もしていた。できることをやるつもりでいたんだ……」
    「うんうんわかるよ。わかるわかる」
     ちびちびと恵方巻きをやる美琴の肩を、ナナコは世にもいい加減に叩いていた。
    「あたい今だから言うけど、実はド下ネタNGなんだ」
    「そうか。意外だな」
    「あたいの救出依頼を至極真面目に描いたのになぜか『下ネタはいかがなものかと』ってクレームが寄せられたことがあってだな。バナナって一歩間違うと下ネタに見えるんだな」
    「そうか。意外だな」
    「あたいをなんだと思ってんだ!」
    「食べ終わったかしら?」
     剣を担いだシャルロッテが立っていた。
     なんかまっくろマンのしかばねがピラミッド状に積み上がっていた。
     その頂上にシャルロッテが立っていた。
    「「……」」
    「マグロドリーム、必ずたどり着くわよ。あなたの居場所へ」
     最後全部持って行ったなこいつ、という顔で見つめる一同と共に、シャルロッテはソウルボートから離脱した。

     かくして、シャドウによる悪夢は払われた。
     おっさんは終始縛られたままだったし割とソフト拷問は続いていたしそれがクセになったらしいが。
     そんなことは些細なことだ!
     たたかえ、灼滅者たちよ!
     ……と言っておけばちゃんと締まる気がしたので、言っておくのだ!

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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