プレスター・ジョンの国防衛戦～螺旋は、再び拳を握る

■リプレイ

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　――それは、冗談のような戦いだった。
「ふ、ざけ――！」
　青年が、吼える。じゃかん！　と開いた巨大な鋏を振るう――はずが、大きく鋏を持つ手が跳ねる。
「力押ししか、できないと思ったか？」
　そう言った羅弦は左手で青年の肘を打った、それだけだ。しかし、魔力による衝撃が相殺という結果を導き出したのだ。そのまま、羅弦は螺旋のオーラを大蛇がごとく振るい、三人の六六六人衆達を飲み込み――。
「ひ！？」
　耐え切れず、少女の六六六人衆が胴部を貫かれ粉砕される。鮫のように笑った羅弦は――不意に、頭上を見上げた。
「来たか」
　光の粒子が一条の矢のごとく、羅弦へと襲いかかる。ゴォ！　と鈍い打撃音、羅弦の腕に蹴りを受け止められ白波瀬・雅（光の戦士ピュアライト・d11197）は着地、胸を張って言いきった。
「武人の流儀と言うのなら、自分も高らかに宣言するっすよ。希望と愛の光を胸に！　光の戦士、ピュアライト！」
「灼滅者！？」
　身構える六六六人衆の動きが、止まる。そこへ、加藤・蝶胡蘭（ラヴファイター・d00151）の声がかけられたからだ。
「助太刀だ、死にたくないならここは一旦共闘するぞ」
「あぁ！？　余計な――」
「加勢してやる、何方が分が悪いか考えなくてもわかるだろう？」
　青年の言葉は、重ねられた楓・十六夜（蒼燐乖夜・d11790）の駄目押しに飲み込まれる。それに、羅弦が小さく肩を震わせた。笑ったのだ。
「まったく、抜け目のない。戦いを窺って、機を見たか」
「お前のウォーミングアップが終わる前じゃないと、こっちも厳しいんでね」
　一宮・光（闇を喰らう光・d11651）の言葉に、羅弦は笑みを濃くする。月村・アヅマ（風刃・d13869）が呼吸を整え、口を開いた。
「久しぶり。折角の手合わせだけど、小賢しいのは勘弁してくれ」
「何の、お前等が細工を行なうのは、前から承知よ。それもまた、お前等の強さであろうさ」
「分かり易すぎるな！　だがそれがいい！　このままじゃ本気でプレジョン倒しちまいそうだし全力で止めるぞ！」
　淳・周（赤き暴風・d05550）の言葉に、羅弦は一歩前へと踏み出す。ズン……、という地響きにも似た圧力と共に羅弦は言い切った。
「ああ、その通りだ。お前等を蹴散らし、小休憩でもして存分に暴れさせてもらおうか」
「『灼滅者の力、それは個の強さよりも群の強さ、一片に偏らぬ多様性』『その力がどこに至るのか、見届けてみたくもあった』」
　不意に投げかけられた言葉に、羅弦が視線を向ける。その視線を受けて、安田・花子（クィーンフラワーチャイルド廿・d13194）は凛と告げた。
「残留思念となった今、その記憶があるかどうか分りませんが、その思いに応える時が来たようですわね」
「久しぶりだね、羅弦。キミが憶えているかはわからないけれど。本気のキミと戦えるのなら是非も無い、武人として、存分に戦うとしようか」
　北逆世・折花（暴君・d07375）がそう告げた時だ、六六六人衆の青年が口を開く。
「気張れよ、半端者ども。このおっさん、おかしいったらねぇぞ？」
「そうだな」
　アヅマも、それに同意する。羅弦は地面を踏み砕きながら、螺旋の大蛇を躍らせた。
「改めて名乗ろう、武人の流儀だ。アンブレイカブル、羅弦――推して参る」

●
　ゴガン！　と戦場に破砕音が鳴り響く。巻き起こる砂煙、その中で光がヴヴン！　と巨大なオーラの法陣を展開した。
「右です！」
「ああ！」
　光の声に、すかさず折花が地面を蹴る。砂煙の中、疾走していた羅弦の真正面へと立ち塞がった。振りかぶった腕を異形のものへと変化させ、折花は渾身の力で繰り出す！
　ガギン、という金属同士が激突したとしか思えない音が響いた。折花の鬼神変を羅弦が真っ向から拳で受け止めたのだ。
「キミの本気は、この程度じゃないだろう？」
「まぁな」
　ズン！　と拳を繰り出したはずの折花が、軽々と吹き飛ばされた。そこへ、六六六人衆の二人によるハサミの一撃とガンナイフの銃弾が飛ぶが、それを羅弦はクロスさせた腕で受け切る。
「加藤・蝶胡蘭だ。推して参る！」
　ヒュガガガガガガガガガガガガン！　とそこへ蝶胡蘭のレイザースラストが射出された。羅弦は肘、膝、裏拳とその布を打ち払う。が、その間隙に鋭い手刀の一撃が羅弦を切り裂く――死角から滑り込んだ十六夜の一閃だ。
「名は名乗らん、オレは武人ではないからな。それに馬鹿正直に正々堂々戦う気はない」
　告げた十六夜が、身を沈める。その半瞬後、雅の燃え盛る後ろ回し蹴りが羅弦を捉えた。
「お願いするっす！」
「シャドウハンター、クィーンフラワーチャイルド２世！　参りますわ！」
　そこへ、花子の撃ち放った漆黒の弾丸とビハインドのセバスちゃんが繰り出した霊障波が重なった。ズドォ！　という爆発の中を、しかし、構わず羅弦は踏み出した。
「良し！　よく練られた連携だ！」
「褒めるのは、まだ早い」
　蒼炎闘衣を足に集中させたアヅマの跳び蹴り、スターゲイザーを羅弦は左の拳で真っ向から受け止める。それに合わせて、右の拳を炎に包んだ周が続いた。
「淳・周、行くぜ！」
　周のレーヴァテインによる炎拳と、羅弦の螺旋の右拳が激突する。アヅマと周、二人の攻撃を両の拳で受け止めて、羅弦は豪快に振り払った。そのまま、吹き飛ばされたアヅマと周が着地するのを見て羅弦はカカと笑う。
「クカカ！　強くなった！　よくぞ、そこまで練ったな」
「ええ、強くなったそのはずですのにね」
　花子は、強くなって初めて理解した。羅弦の強さの底が見えるまでに至って、ようやくこの男の本当の強さを。
「戦って疲弊したみんなに、ぶつけさせる訳にはいかないっす」
　雅が、そうこぼす。もしもこの男を野放しにすれば、大きな損失は免れない――自分達がいるこの戦場こそ、その瀬戸際なのだ。
　羅弦は、笑う。狂える武人は、楽しげに、ただ思う様に暴れ回った。

●
（「しかし……相変わらず技の威力も圧力も半端じゃないな……！」）
　破壊が吹き荒れる戦場の中心で、アヅマが息を飲む。羅弦は、思う様に暴威を振るう、それだけだ――それだけで、灼滅者達だけではなく六六六人衆達でさえ嵐の中を耐え凌ぐような窮地に立たされていた。
「――ぉおおおっ！！」
　羅弦の真正面、折花のハイキックのフェイントからの踵落としが、炎と共に繰り出される。羅弦は、それを巨大な左手で受け止め――。
「オリバー！」
「ああ！」
　雅の声に、折花は逆の足で羅弦の肩を足場に跳躍。オーラの光を全て拳に集中させた雅の右拳が、羅弦の胸部を強打した。
「速度と重みのあるよい拳だ。だが――」
　構わず、羅弦が前に出る。ズズ、と押されて雅の靴底が地面を擦り、六六六人衆の少年がガンナイフを手に羅弦に襲いかかった。
「連携が、温い！」
「ぐが！？」
　しかし、刃が届くよりも早く羅弦の左の回し蹴りが六六六人衆の少年の首を薙ぎ払い、魔力の衝撃が炸裂した。それに続き、羅弦は再行動。螺旋のオーラによるブレイドサイクロンで薙ぎ払う！
「セバスちゃん！」
　花子の声に応えて、セバスちゃんが蝶胡蘭を庇った。六六六人衆の少年とセバスちゃんが螺旋の大蛇に食いちぎられ、吹き飛ばされる。
「――そこまで、気配を殺すか！」
　そのまま、羅弦が振り返りざまの裏拳を放つが、空を切った。身を沈めた十六夜が、黒く禍々しい冷気をその足へまとい羅弦の足を切り裂く！
「残留思念だろうが生きていようが関係ない――其処に「在る」のであれば殺す」
「呪いがごときその覚悟は見事！」
　羅弦は、そのまま十六夜へと肘を落とそうとする。しかし、周の回り込む動きの方が、刹那速い。足を切られてわずかに乱れた体勢、それを利用して周が羅弦の巨体を投げ飛ばした。
「いっけええええええええええええええ！！」
　ゴォ！！　と爆炎が立ち上る――周のご当地ダイナミックだ。だが、爆発の中から受け身を取って、羅弦は転がり出る。その勢いを利用して、すぐに立ち上がった。
「セバスちゃんの分まで、お返しいたしますわ！」
　花子の影を宿した槍が、真っ直ぐに繰り出される。それを、羅弦は左右の拳で受け止め、弾き、逸らしていった。
「回復する！」
「フォローする」
　光が天魔光臨陣を発動させ、アヅマがその脊から炎の翼を広げる。その炎の中から、蝶胡蘭が踏み出した。その動きに、羅弦が笑う。蝶胡蘭の動きが以前と違う事に気付いたからだ。
「左のみは止めたのか？」
「左のみ、なのは昔の話しだ。闇堕ちを経験して、自分と向き合って、今は少しだけだが、右も有りだ！」
　ならば、と羅弦は腰を落とした。蝶胡蘭もそれに応じて、真っ向から拳を交わす。それに、呼吸を整えて六六六人衆の青年が吐き捨てた。
「化け物が」
　その感想を否定する者は、いない。もっともな意見だ。既に六六六人衆も青年一人、灼滅者側もサーヴァントであるセバスちゃんを失い、大きく損耗していた。
（「ですけれど、羅弦様もそれは同じですわ」）
　花子の予想は、正しい。五人の六六六人衆を相手にした上に、途中から灼滅者達が共闘したのだから、当然とも言える。
（「ここまでやって、ようやく互角。その事の方が異常か」）
　羅弦の動きに意識を研ぎませながら、十六夜は目を細めた。もしも、共闘がならなければここまで上手く事は運ばなかったかもしれない――こちらが、どれだけの消耗を強いられたか定かではない。
　それでも、危うい状況を重ねに重ね乗り越えてきた。だからこそ至れる場所がある――。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！」
　ゴウン！　と左右の拳を螺旋で包み、羅弦が駆ける。破砕機のごとき一撃が、折花を捉えた。
「倒れる、ものか――！」
　折花が凌駕し、踏みとどまる。しかし、再行動の二撃目。本命の右が折花へと迫り――。
「させるかあ！！」
　それを周が、その身を盾に受け止めた。体中が砕け散るような衝撃、しかし、周もまた凌駕してなお耐える！
「これを凌ぐか」
　羅弦が、思わず歯を剥いて笑った。だが、そこへ鋭いアヅマが言い放つ。
「上だ！」
　上を見上げれば、そこには六六六人衆がいた。その殺す事への嗅覚が気付いたのだ――これ以上ない、好機を。
「頭数、減らさせてもらおうか！！」
　羅弦だけではない、灼滅者達さえ飲み込む鏖殺領域が戦場を黒く塗り潰した。共闘が終われば、敵となる相手だからこそここで確実に――その選択は、間違いではないだろう。
「オリバー！」
　雅が、思わずその名を呼ぶ。周は、かろうじてアヅマが庇った。しかし、折花は――。
「まぁ、文句はありはしないがな」
「……お前」
　黒い殺気が引いていく中、折花は見た。自分を庇った、巨大な背中を。誰も倒れていない――その事実に、六六六人衆が目を見張り、ビキビキビキと石化していく自分の手足に視線を落とした。
「やってはならない真似をしたな、お前は」
　十六夜のペトロカースだ、それに続き真正面からアヅマの蹴りが石化していった六六六人衆を打ち砕いた。あまりにもあっけない、最期であった。
「――――」
　散った六六六人衆に、アヅマは一瞥もしない。その必要を感じない、だからこそ羅弦とすぐさま向き直った。
「さて、ならば行くか」
　羅弦は、拳を握る。限界が近い、その事を誰もが知っていた。
「来い、灼滅者」
　全力で、それで倒せなければこちらが薙ぎ払うと言外に。
「あぁ、行くぞ」
「ええ、参りますわ」
　蝶胡蘭が、花子が、そして灼滅者達がそれに応える。
　これが、この戦い最後の交差となる。倒せれば勝ち、倒せなければ羅弦に蹂躙される事となるだろう。互いにそれを理解したからこそ、灼滅者達は今この時に、全力を振り絞った。

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「一番槍は、もらったぜ！」
　羅弦が、腰を落として身構える。そこへ駆け込んだのは、周だ。ただただ、全力を込めて振るった周の燃える拳が羅弦の右拳と激突した。
「――ッ！」
　互いの拳が大きく、弾かれる。舞い散る火の粉、そこへ死角から滑り込んだ十六夜のアンチサイキックレイの魔法光線が降り注いだ。
「白波瀬」
　その呼びかけに応え、雅が動く。羅弦が魔法光線の雨を物ともせずに突進するのを雅が低く滑り込み、羅弦を突進の勢いを利用して蹴りあげた。そのまま、雅も跳躍――足で羅弦を空中で捉え、両脚による飯綱落としで地面へと叩きつけようとした。
　した、で終わったのは、羅弦が強引に左腕を引き抜きその拳で地面を殴打、威力を削いだからだ。
「花子さん」
「ええ、先代より賜りしこの槍をもって……お逝きなさい！」
　花子が槍を構え、着地したばかりの羅弦へと突撃。螺旋を描いた刺突を繰り出した。それを羅弦は、両腕でかろうじて受け止める。
「まだだ！」
　折花が跳躍、花子の頭上を飛び越え燃え盛る回し蹴りで羅弦を捉えた。その連撃を受けて、羅弦が吹き飛ばされる。
「食らいつけ！」
　そこへ、光の足元から伸びた影が狼を形どり、襲いかかった。空中で羅弦を抑え込み、その首元に牙を突き立て影の狼は羅弦と共に地を滑る。
「ク、カカカ！！」
　影の狼を、羅弦は笑って強引に引き剥がした。だが、その瞬間に生まれた隙に、アヅマの跳び蹴り――スターゲイザーが炸裂する！　ガゴン、と地面を砕き、羅弦の巨体が地面に叩き付けられた。しかし、羅弦は体中を軋ませながら立ち上がる。
「今、だ！！」
　後方へと着地したアヅマの声に、蝶胡蘭が駆けた。
「あの時の約束だ。研鑽、怠らなかったぞ」
　固く右拳を握り、蝶胡蘭が正拳を繰り出す。羅弦はそれを重圧の中でなお受け止めようとして――間に合わない。
「見事」
　蝶胡蘭の正拳が胸部を殴打、羅弦を文字通り粉砕した。その成長ぶりを確かに見届けた、そう笑いながら羅弦は掻き消えていく。
「武人の流儀というやつだ。灼滅者、折花。キミを倒した者の名だ、受け取って逝くといい」
「また再戦を、この国があればきっと」
　折花の名乗りと、蝶胡蘭の言葉に羅弦は笑みのみを残した。その姿を見送り、花子が呟く。
「羅弦様……此度の戦、満足のいくものとなれば幸いですわ。またお会いしましょう」
　これが、終わりではないのだ。このプレスター・ジョンの国がある限り、その問いの答えを知る機会もあるだろう。
「しかし六六六人衆……一体何を企んでいるのかしら？」
　花子のその問いに、誰もが答えを持たない。ただ、戦い抜いた。これで、多くの仲間達が目の前に戦いに全力で取り組めるだろう――ここに、彼らの戦いは終わりを告げた……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年2月8日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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