プレスター・ジョンの国防衛戦~終幕後も紫煙は香る

    作者:一縷野望

     無骨な無垢棒に絡みつくように紫煙が空に昇る。寄りかかるように立つ中年男は10代半ばの少女へ口をひらいた。
    「はい、報告」
    「ひゃ?! あーええっと……」
     ゲームカードめいた護符を握りしめてモジモジ。
     そもそも何を報告するのだ? 先程逢ったばかりのこの男に。名前も知らぬ――残留思念に。
    「はい、クビー!」
    「ええええええ?!」
    「ほう・れん・そう……社畜なら大事よ?」
     男は携帯灰皿に煙草を押しつけて、ぱこりと閉じた。
    「ボクは社畜じゃないです! ただ殺せればいいんですよっ、そう……殺したいなぁ」
     でも折角の殺せるチャンスなのに、あぶれてしまった。
     チームを組む他の序列外に「攻撃もしたい」と口にしたら素気なく断られた。
     ……拾ってくれたのは煙草臭いくたびれた背広の残留思念だけだった。
    「わかったわかった。おじさんがうまく使ってやるよ」
     光堕ちた瞳にかつての自分を見て取り、残留思念『処』はにたり。
    「じゃまぁ行くかいね、ご本尊――プレスター・ジョンをぶっ殺しに」
     ……別に上目線で匿ってくれたそいつに特段の感情は、ない。
     ただ此方側の方が戦いが盛りだくさんで面白そうだから寝返っただけの話だ。
    「そうそう、自己紹介。おじさん処さんっての。少年は?」
    「少女ですよぅっ! ボク、島崎・来夏(しまさき・らな)です」
     

    「優貴先生が高熱で倒れた」
     ただ一介の教師が病欠しているのとはわけが違うとわかっている様子の灼滅者達へ、灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)は続ける。
    「歓喜のデスギガスが、プレスター・ジョンの国に攻め込んだのが原因だよ」
     デスギガス勢の目的は『プレスター・ジョンを暗殺し、プレスター・ジョンの国の残留思念を奪い、その残留思念をベヘリタスの秘宝で実体化させる』だと想定される。
     多数の残留思念が復活しデスギガス側につくとなると、恐ろしい程の戦力増大となってしまう。
    「阻止をお願い」
     更に説明は続くと言い置いて、標は一旦区切り文庫本めいた手帳を繰る。
     
    「プレスター・ジョンの国に攻め込んでる人員は、シャドウによりソウルボードに招かれた六六六人衆。最近闇堕ちしたばっかの序列外だね」
     戦闘力の低さを補うため複数でチームを組んでいるようだ。
     対する防衛側は、プレスター・ジョンの国側の残留思念。
     これらの間で喧々諤々の丁々発止。
    「ただねー、残留思念の中には攻め込んできた六六六人衆に呼応して寝返った奴もいてさー……実は今回みんなに相手して欲しいのは、そっちの奴なんだよね」
     そう言うと、標はかなり古い所まで手帳のページを戻す。
    「今回の相手は『元六六六人衆』の処って男と、そいつが連れてる序列外一人だよ」
     処が使用するのはマテリアルロッドと殺人鬼のサイキック、序列外は護符揃えと鏖殺領域。ポジションはクラッシャーとジャマーの組み合わせだ。
    「処の過去の戦闘データを見るに、基本前・中衛と殴り合うのが好きな人。でも勝つために好みのスタイルに固執しない狡猾さはあるよ。あと……」
     更に古いページへ到り、標は続ける。
    「人を使うのも割と上手、かな」
     自分が最大限の力を発揮できるように、部下をうまく立ち回らせる。
     その実、配下の来夏をジャマーに置いたのは防護符のBS耐性付与含め、そのスペックを最大限に生かすために違いない。
    「かなりの難敵だよ。どうすれば集団の相手に押し切られて『負けるか』も知ってるから、ね」
     単純な力押しや散漫な作戦だとまず負ける。また意識しようがしまいが気を抜くモノ、拙いモノがいればそこからあっさり崩してくる。
     
    「デスギガス、コルネリウス、双方の勢力下のシャドウは今回の戦いに加わってないよ。協定か、はたまた別の処でドンパチやってるのか……ま、落ち着いたら考えたいトコだよね」
     とにかく、把握できた状況に介入して先へ進む――不器用だろうがそれが武蔵坂のやり方だ。四大シャドウの前哨戦、確り絡んで足がかりを作りたい所である。


    参加者
    九条・雷(アキレス・d01046)
    犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)
    シェリー・ゲーンズボロ(白銀悠彩・d02452)
    レイ・アステネス(高校生シャドウハンター・d03162)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    ディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617)
    シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)

    ■リプレイ


     確かに異質だった。
     安寧壊されし者の憤怒ぶちまけられた空間の中、ここにだけは一夜の祭りめいた浮かれが漂っている。
     いの一番に回り込む犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)を盾に、マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)は仮面あてがうように頬に手をふれはしゃぎ笑い。
    「此処は退屈? お相手するよ、おじ様」
     ドールめいたシェリー・ゲーンズボロ(白銀悠彩・d02452)の形良い唇は小気味良く傾ぐ。
    『それ、飲み屋街で俺みたいな男に言っちゃだめよ?』
     煙草を外し嗤う中年は冗談口でご満悦。
    『ま、三人釣れるたぁさい先良いねぇ』
     再び煙草を咥えた刹那膨れあがる殺意に、森田・供助(月桂杖・d03292)は交通標識を握りしめた。
    (「先手取らせてくれる程、甘かねぇか」)
    『島崎ちゃん、チュートリアル終わりね。本命来たし』
    『は、はい!』
     首裏の棍に腕をぶらりはりつけめいた男の脇で、茶髪を遊ばせ放つは同じ殺意、狙いもまた同じ前衛四人。
     来夏担当の仲間をあっさり害する処を前に息飲むシフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)
    「行くぞ、合わせろシフォン!!」
     気圧された肩を押したのは、螺旋の帯絡めた腕伸ばすディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617)
     帯を屈み躱す来夏の腹は、鋏からは逃れられずに血花をパッと散らした。
    「金ぴか、当たってないよ」
     軽口に揺らぎをはたき落としてくれた感謝を滲ませるシフォン。そう、まだ序盤。以降は分けて対応できるはず。
    (「指示を聞く余裕ないぐらい攻めたてる!」)
    『いたた……きゃ!』
     息もつかせず、足元から立ち上る影にまかれ少女の姿が消えた。
    「面白そうな方につく、というのは理解できるし同感だね」
     いきなり奔りだした戦いにも悠然とペースを崩さずに、レイ・アステネス(高校生シャドウハンター・d03162)は夢の跡たる国から二人へ興味の移行を完了した。
    『ひっ!』
     あけた目の前を掠める九条・雷(アキレス・d01046)の指。仰け反り避ける来夏の瞳は処を探している。しかし処が見ているのは、雷のレンジの狭い攻撃に身を固くしたディエゴだった。
    『……俺が殴る奴殺っときゃいーの、あと星はいらね』
    『じゃ導眠符ですね』
    「――ッ」
     何故中衛から五星結界符が届く? ならば最初から自分も螺穿槍を絡めて……いや、いや…………誤認が見せる錯誤にディエゴの中、構築した作戦が揺らぎ躊躇いが浮かぶ。
     ――綻び、見つけた。
    「人を使う、とは物事の全体を見通す・変化に気付く能力あってこそですね」
     すかさず口を挟む沙夜の中、厭な予感が渦巻いた。だができるコトをする、それだけ。
    『俺、怠慢だから窓際平社員よ?』
    「煙草ごと斬ってあげる」
     シェリーの腕断ちの剣に続き、沙夜は重力狂わせの蹴打を繰り出して、双方で気を惹きに掛かる。
    『やだよ、煙草取られたら死ぬ死ぬ』
    「もう死んでるよね」
     ここは死したる魂が留まるシャドウの国、それを防衛なんて――軽い違和感を抱くシェリー。
    「中々好みだよおじさん、気が合いそう」
     躱した処とすれ違い様、うっそりとした声を漏らしたのは、雷。
    『あらそう?』
     ――満更でもないなんて上辺だってわかってる。
    「だから殺しにきたよ」
     ――アンタとあたしが殺りたいのはただそれだけ。
    「精々足掻いてみせるから楽しんでいってよ」
    『だったら俺を殴ってよ、そんなガキ相手してないでさぁ!』
    「おっさんそんなに戦いが好きか」
     弾み浮かれる声にやはり気が合わないと溜息、重ねられた列攻撃の傷を塞ぐべく、黄色の標識を掲げる供助。
    「俺は、嫌いだよ」
     俯瞰すれば既に綻びが到る所に芽吹いていると、気付いてしまった。
     しかし嘆いていられない――如何に把握し如何に癒し如何に隠すかが、勝負。
     ひゅんッ。
     剣とは思えぬ鈍器めいた重たい音、処は辛うじて棍をぶつけ横に流す。
    「おっおー」
     くるり。
     白レースを翻し振り返ったマリナは、零れ落ちそうな瞳であっかんべー。
    『ちっ……お前の次でいいから、回復』
    『? 処さん、避けるんでしょ』
    『お守り寄越せっつってんだよ』
     マリナの立ち回りを処は脅威ととり、来夏を攻めへ集中させられなくはなった。
    「そうそう、マリナ達をほっといたら、ご自慢の火力がダメダメになるんだおっ」
     戦場で編み続ける策で穴を塞いでしまえ!


     ――そもそも抑えとは何ぞや?
     よくあるのがディフェンダー数名をメインターゲット以外に張り付かせる方法だ。
     だが序盤は回避を大いに見込める敵が、余り当たらぬ攻撃を繰り出す『盾役』を殴ってやる義理はどこにもない。故にただ置くだけなのは良策とは言い難い。
     現に今回、処は自分に張り付く三人には構わずに、ディエゴへの集中攻撃を選んでいる。来夏も習い、結果早くも最大火力は地につきかけているのだ。
    「金ぴかっ、大丈夫?!」
    「うるせぇ、とっとと道作れ」
    「そんだけ元気あれば大丈夫だよね」
     腹打たれ血を吐くディエゴからの叱咤にシフォンは顔をあげた。
     想定していたのは処と来夏の分断。
     だが交錯する戦場では物理的な分断はそもそも無理で、意識面でのターゲットの誘導は残念ながら為されていない。
    『処さ……』
     ゲームカードをチラ見する来夏へシフォンは膝で蹴り掛かる。更に踏みつけ回避の自由を奪った。
     そこへ精度をあげたディエゴの氷が無数に突き刺さった。命中率の高いクラッシャーほどの脅威はない。そういう意味では、序盤の時点で彼へ攻撃を集中させてしまったのはひたすら痛い。
    「社畜じゃなくてもほう・れん・そうは大事だと思うけど」
     なんて流麗なレイの台詞は自らが発する耳劈く音で打ち消される。続き雷の拳が横殴り、シフォンに加え二人の攻撃は更に蓄積した妨害力を削いだ。
    『……』
     吸い尽くした煙草を棄てもう一本、火をつけた男の脇でカードを傷にあてがい立つ少女の足に揺らぎはない。
     一方で、片手持ちの棍を操り三人の攻撃をいなす男も相変わらず。
     ――彼は好きな方法で戦っている。
     それが供助を黙らせる理由の一つ。もう一つは回復への集中を切らせたら最後、戦線が崩壊すると理解しているから。
     姉のように昂ぶらない。でも攻めを焦がれるのは同じ胎で育った二卵性。ディエゴに鎧着せ厄介な催眠を払い落とす。
    『お……外れた』
     さすがに全て躱せるわけでは、ない。そしてマリナの攻撃は、一度喰らうと三つの阻害、二回目にして二つ目が消し飛んだと喉鳴らし、水平にした棍でディエゴの首を断つように喉元を狙い打ち。
    「誰も壊させないよ」
     喰らいつき阻むシェリーは、握り止めた棒から迸る追撃を奥歯を噛みしめ堪えた。
     重たい一撃だ。こんなモノを護り手以外が受け続ければひとたまりもない。
     では何故、防御に秀でた護り手が最初から怒りを付与を狙い処を引き付けないのか? そうしなければ、敵の牙が集中して向くのは防御に劣り他のポジションへなのに。
     そう、灼滅者側が集中攻撃をするのと同じく、思考能力のある敵も集中して数を減らそうとする。
     護り手が攻撃を寄せぬならいっそ、八人全員で来夏へあたった方が潰せる速度があがり結果として勝ちに近づくはずだ。
     さて、ここでもう一度――そもそも抑えとは何ぞや?


     ディエゴを叩き倒し、次なる標的は同じくクラッシャーの雷。来夏の列攻撃の蓄積ダメージを生かすなら当然の帰結だ。
    「煙草銘柄なァに? 勝ったらソレ貰おうかな」
    『女性が煙草吸うの、おじさんどうかと思うよ?』
     供助の鎧で催眠を祓われた雷の口元は不敵につり上がる。
     本音は直接殺し合いたい。
     ……でもきっと、それは叶わない。
     やるせなさ込めて水平に振った鎌に深く切られ序列外はカードを取り落とす。
     そこへすかさず射手二人の避け難い攻撃が来夏を狙い打ち。特にレイは、経験の浅さを仲間の動きをよく見て続くコトで充分過ぎるぐらいに補っている。
    『うぅ……まだまだ』
     付与で剥がした影と防御破き、しかし落ちた回復量に来夏は眉を顰めた。
     外さぬ攻撃で畳みかけるシフォンの狙いははまったか、指示外の自己回復が増えている。
    (「ロスが生じはじめている」)
     行動標的の推測が外れたもののすぐに立ち位置を修正し阻害を狙う沙夜。しかし斃れてはならぬと自身の体力を過剰に気遣う姿勢との齟齬が生じ、効果的に働かない。
    『チッ』
     先に当てた自身の重力狂わせが効き、沙夜の振り下ろした剣は処の威力を奪う。
    「おっ? 舌打ちなんて余裕がなくなってきたんだおっ」
     想定より早く牙を折られ来夏が粘るのは目に見えている。
     それでも味方の鼓舞とデコイとなるすべく、マリナは生意気に唇を動かす。そしてその言葉に意味を持たせるべく振るった剣は沙夜と同じ位置をしこたま打った。
    『ああ面倒くさいよねぇ、まったく』
     期待するように仰いだお守りは、澄んだ焔にて三枚ほど灼き切られた。
    「残留思念も火は熱いのかな」
    『ははっ、煙草に火を入れるにゃあ火力強すぎ』
     シェリーの挟む焔、ダメージ自体は控えめながら地味に厭な手だ。
     部下は怯んで役立たず――ならば力尽くの仕事を見せるしか、ない。
     雷へ肘を入れる処へと走り込むシェリー、しかし今度は一歩遅かった。
    『ほら、怖いのいなくなったから、次は俺の回復ね』
     棍で突かれ脳を揺らされた雷はそんな台詞を耳に意識を手放した。
     二本目の牙も折られ更に命を延ばす妨害に見せかけた敵側回復手。これがどういうコトか、来夏を速攻で潰すつもりでいた灼滅者達は厭と言うぐらい理解している。


    「シフォン、気を付けろ!」
     斃れてしまったのは全て来夏狙いの攻撃手――その事実に唇を震わせるシフォンは、反響する供助の声に咄嗟に躰を捻る。
    『あーらら、外しちった』
     雷が捕らえたのは、ピアニーピンクの残像。
    『徹底的に攻撃手を潰す作戦ですね』
    『そういうのバラすんじゃねぇの』
     半分は当たり、だがもう半分は二人を落とした際に一番の揺らぎを見せ崩しやすいと踏んだから。
     回復で再び増えるお守り。精神的余裕を得た来夏は此処から冷静に立て直し攻撃にも回るだろう。
    「難しい事を考えるのは止めて……」
    「わたしと遊ぼう?」
     手の甲に盾を浮かべた娘が二人、中年男へ飛びかかる。
    『ちょっ……っぶねぇての』
     棍を両手持ちに変え辛うじて捌いた処の左右、沙夜とシェリーは降り立った。
    「……」
     隙あらば崩されると警告されていた。
     逆にそれぞれに隙がなければ、一番に攻撃が向いたのは『わかりやすく』厭な攻撃をするマリナの可能性はあった。来夏の列攻撃が死ぬそれは、苦渋の選択。ディフェンダーも攻撃を寄せ想定通りの運びだったかも、しれない。
    (「今からでもその苦渋の選択を取らせてみせるおっ」)
    「ふふっ、本当にシフォンお姉ちゃん狙いでいいのかおっ?」
     踊るように踵でノック、地面から生えた影をつまみ上げて男へ振るう。
    『アンタの攻撃は、絶対くらいたくねぇの!』
     だが本来は八人で潰すべき敵、残念ながら三人からの攻撃だとまだ安定した命中は望めないようだ。故に彼は狙いを変えない。
    「死んだ後も好き勝手しやがって」
     嘆息と共に供助はディフェンダー二人へ向けて標識を翳す。長期戦に耐えうるには、彼女達を倒れさせないのが必須。
    「プレスター・ジョン――シャドウに好き勝手されるの、ヤなんだけど……」
     立て直す時間なんて与えない! シフォンは腕を撫で呼び寄せた蒼で斬りかかる。
    「今はそっちの好き勝手が、ヤ」
    『きゃ! 避けられないですよ!』
     避けづらい軌道に翻弄されて肩から袈裟に傷作る来夏へ、すかさずのオーラが正確に着弾する、レイが放ったモノだ。
    (「大丈夫なんて、言ってられなくなったかな……」)
     端整な瞳を僅かに眇め、レイは自身の抱える闇を手繰り息を吐いた。
     もし、誰かが命落とす事態に晒された、なら。
     もし、誰もが膝をつき彼らを灼滅する事叶わないの、なら。
     ――でもできる事ならば、私のままで、いたい。


     ディフェンダーが攻撃を寄せはじめたコトで、軋みながらもようやく策は形を為す。しかし全ては遅かった――。
     沙夜とシェリーの元に処の攻撃が逸れたらすかさず来夏は防護符を投げる。また、最初にある程度来夏の攻撃に晒されていた二人は、自身の体力が半分を切った辺りで積極的なひきつけを止めた。
     結果、泥仕合はここで止み、処と来夏はシフォンを下しきる。
     集中攻撃で来夏を斃す狙いは完全に瓦解、今や処へ攻撃を向ける者が多い歪な形へと陥ってしまった。
     もうここまで来れば、敵は最後のダメージソースのレイを狙う。絡めたのが列攻撃で、相応の傷も与えられているからだ。
    「もうボロボロのはずだおっ」
     マリナが敷いた足元で煮えたぎる影を忌々しく見下ろし処はぼそり。
    『お守りちょーだいよ』
    「……本当にそれで後悔しませんか?」
     血塗れの手で守護のカードを掲げる来夏へ、沙夜は口元の血を拭い淡々と揺さぶりをかける。
    『俺を生かさないと、お前どの道死ぬよ?』
     紫煙と共に吐き出された声は同じぐらい淡々と冷え込んでいた。
    『……』
     小刻みに震える唇、ぐしゃりとカードを握りしめると来夏はすとレイを指さす。
    『ボクは……攻撃が、したいんです』
     これが最期になるのなら、ずっと解除されて効かなかった催眠に踊らされる様を見てみたい!
     六六六人衆の端くれは血で真っ赤になった歯を剥き圧力を籠めたカードを風にのせる。
    「生憎わたしは護るのが好きなんだ」
     割り込み盾となったシェリーが惑いに酔う前に供助は渾身の力を注いだ鎧で彼女の精神と躰を護る。
    「君の人生はその選択は、面白かったかな?」
    『――!』
     来夏がラストシーンを飾るは、荘厳にして輝かしき死神。だが生かされた一手で来夏を狩り取ったレイは、しかし次の処の手で叩き斬られた。

     ――覚悟決めし彼が意識を飛ばした時点で、殴り合いは終焉へと流し込まれる。

    『君ら引かないねぇ』
     シェリーが下された所で、呆れたように棍を下ろした処はまた新しい煙草へ火をつけると気怠げに雷の躰を吊り上げる。
     煙草が落ちて狂気が喉元に当てられた刹那――棍も、残留思念から転げ落ちた。
     先程マリナが絡めた影が腕に絡み叩き落として、いた。
     純白ワンピの彼女は体当たり。弾み落ちる雷の躰を受け止めた供助が背負い、既に二人を背負い離脱する沙夜に続いた。
    「――ッ……おっ」
     編まれぬ言葉、でも笑顔だけは思い切り向けて身動きできぬ男の前から倒れ伏す二人を引き摺り歩き出す。

     綻びが一つならばこうはならなかっただろう。
     全ての結果は細かな事象が重なり為される。
     だから。

    作者:一縷野望 重傷:九条・雷(アキレス・d01046) ディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617) シフォン・アッシュ(銀幕のお姫様・d29278) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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