プレスター・ジョンの国防衛戦~毒殺領域と白衣の男

    作者:のらむ


     プレスター・ジョンの国。数多のダークネスの残留思念がひしめくこの王国の片隅に、とある学校の保健室を模した空間があった。
     そしてその保健室の椅子に座り静かにコーヒーを啜っている白衣の男がいた。
     かつて灼滅者達に灼滅され、その残留思念までもが囚われてしまったその男の名は、元六六六人衆序列六三〇位、茂木・徹。
     生前は死こそが救済であるという理念の元殺人を繰り広げていたが、死んでからその考えは改められ、今では理念なき殺人者となっている。
     彼は自らが殺された保健室でゆったりと腰かけながら気の遠くなる程長く無為な時間を過ごし、そこに訪れた者に毒入りコーヒーを振舞うのである。
     彼が囚われてどれ程の時間が経ったか、記憶も定かではないが、ある日ある時、この静寂は打ち破られた。
     パリン!!
     と甲高い音と共に窓が打ち破られると、その保健室に赤、青、黄、黒の4人の忍者、六六六人衆が姿を表した。
    「…………おや、随分と自由奔放なお客様だ。一旦落ち着いて、コーヒーでも飲んだらどうだ?」
    「「「「お前はどちら側だ」」」」
    「何?」
     4人の忍者はそれぞれの武器を構え徹に問いかけると、徹は首を傾げながらコーヒーを啜る。
    「「「「プレスター・ジョン側に付くのか、プレスター・ジョンを暗殺する為動くのか。どちらだ」」」」
    「………………」
     その一言でおおよその状況を把握した徹はカチャリ、とコーヒーカップを机に置く。
     と、次の瞬間。徹が放った無数の毒針が、忍者達の身体に突き刺さった。
    「これが答えだ。これでも私は存外ここを気に入っているんだよ、番外君。まあ正直勝てるとは思わないが……久々に私が生前研究していた薬……じゃない、毒を存分に振るうとしようか」
    「「「「死ね」」」」
     忍者達が放つ刃や火薬が徹の身体を吹き飛ばし、徹が放つ無数の毒が忍者達の身体をズタズタに蝕む。
     この戦いの果てに立っていたのは、3人の忍者であった。
    「1人やられ、3人の内1人は瀕死か……無駄な時間を過ごした。すぐにプレスター・ジョンの元へ」
     黒の忍者がそう呟くと、残った3人の忍者は何処かへと消え去って行くのだった。


    「どうも皆さんこんにちは、そして緊急連絡です。優貴先生が高熱を出して倒れてしまいました」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「どうやらその原因は、歓喜のデスギガスがプレスター・ジョンの国に攻め込んだ事らしいです」
     デスギガス勢力の目的は、『プレスター・ジョンを暗殺し、プレスター・ジョンの国の残留思念を奪い、その残留思念をベヘリタスの秘宝で実体化させる』事と想定されている。
    「あの国にひしめく残留思念達が復活しデスギガスの勢力に加われば、間違いなく非常にまずい事になります」
     プレスター・ジョンの国に攻め込んでいるのは、シャドウによって、ソウルボードに招かれた六六六人衆達である。
    「彼らは最近闇堕ちした序列外の六六六人衆のようで、戦闘力は低いのですが、その分複数で行動しているようです」
     六六六人衆の目的はプレスター・ジョンの暗殺であり、プレスター・ジョんを護ろうとする残留思念と戦闘になっている。
     一方で攻め込んできた六六六人衆に呼応し、プレスター・ジョン殺害を目論むものもおり、戦況は非常に混乱しているという。
    「ですので皆さんはプレスター・ジョンの国へ向かい、残留思念のダークネスと共闘、あるいは敵対しつつ、攻めてきた六六六人衆を撃退して下さい」
     そしてウィラは資料をめくると、若干渋い顔になる。
    「そしてこの場にいる皆さんが担当するダークネス達なんですが……ええ、まあちょっと言いにくいんですが、敵となるのは4人の忍者姿の六六六人衆。そして味方、というか状況的に共闘せざるを得ないダークネスも、まあいわゆる六六六人衆です」
     正直六六六人衆と一緒に戦うなんて嫌だという者もいるかもしれないが、そうしなければまず勝ち目はないので覚悟はしておいて欲しいとウィラは言う。
    「味方側の六六六人衆は、生前は生からの救済者を気取っていた毒使いの六六六人衆、茂木・徹。彼が使用する毒は非常に強力で、彼自身もジャマー能力に長けています。彼自身灼滅者達にそこまで恨みは無いようで、敵とないと分かればあっさり協力してくれます。という訳で上手く利用して下さい。はい」
     そして敵となるのは、赤、青、黄、黒の4人の忍者の六六六人衆。
    「全員共通して殺人鬼のサイキックを使用しますが、それに加え赤と青は巨大な盾を手に前に出るディフェンダー型、黄は炎と氷の摩訶不思議な忍法風サイキックで敵を翻弄するジャマー型、黒は様々な忍具で精確に敵を狙い撃つスナイパー型となっています」
     ちなみに戦う場所はかつて徹が灼滅者達に倒された保健室風の場所。手狭だが特に戦闘に支障が出る事はないだろうとウィラは説明し、赤いファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。この戦いはデスギガス軍の戦力増強と言う意味合いもあるでしょうが、なにか大きな戦いの前哨戦であるかもしれません。もしかしたら今後、慈愛のコルネリウスとの交渉も視野に入れるべきかもしれません……ですが今はとにかく、目先の脅威を排除して下さい。優貴先生の為にも、確実に目標を達成して下さい。お気をつけて」


    参加者
    一・葉(デッドロック・d02409)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)
    木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    海北・景明(鉱山にとり残された彼・d13902)
    踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)
    朔良・草次郎(蒼黒のリベンジャー・d24070)

    ■リプレイ


     プレスター・ジョンの国の片隅ある小さな保健室の中に、六六六人衆茂木・徹と、4人の忍者の六六六人衆が対峙していた。
     仲間になるか否か、4人の忍者が茂木にそう投げかけた、次の瞬間。
     パリン!! と再び窓が割れる音が響き、8人の灼滅者達が姿を表した。
    「どーも武蔵坂学園警備でーす。我らが優貴先生のソウルボードを荒らすヤツは許しませんってな」
    「ま、そういう訳だ。先生の安全の為にも、お前達にはここで潰えてもらう」
     先陣を切り保健室に飛び込んだ一・葉(デッドロック・d02409)と武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)は、忍者達に殲術道具を向けそう告げる。
    「今度はどんな客かと思えば……私を二度も殺した灼滅者じゃないか。何の用だ?」
     茂木は薄い笑みを浮かべ灼滅者達を見やり、珈琲を啜った。
    「貴方に協力するわ。その代わり毒の威力、見させてね」
    「保健室の静寂を護るのも生徒の務めですよ」
     神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)と結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)がそう言うと、茂木は笑みを深める。
    「……いいだろう。そこのエセ忍者共を仲良く一緒に殺そうじゃないか」
     茂木はそう言い、懐から無数の毒薬を取り出し戦闘の構えを取る。
    「……一度殺した相手と共に戦うというのも、妙な気分だ」
    「全くだ。あんな悪趣味野郎が一時的にでも仲間になるなんて、夢にも思わなかった」
     かつて茂木と戦った事のある踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)と朔良・草次郎(蒼黒のリベンジャー・d24070)が、複雑そうな表情で茂木の横に立つ。
    「あんたの専門は毒だったな。そっちの方は任せるよ」
    「ま、貴方とは面識もないけど。とりあえず好きにやって頂戴。あと毒入りコーヒーはいらないわよ」
     木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)と海北・景明(鉱山にとり残された彼・d13902)がそう茂木に投げかけ武器を構えると、茂木を敵と認識した忍者達も忍具を手に取る。
    「「「「死ね」」」」


    「神命、敵前衛を抑えながら味方の援護よ」
     華夜は霊犬の『荒火神命』にそう命令すると、カツカツと忍者達の前に進み出る。
    「さて。それじゃあ忍者さん、私と影遊びしましょ?」
     華夜は足元の影を操り巨大な人型を形成すると、黄の忍者に向け放つ。
    「させん」
    「あら、無粋な子もいたものね」
     そこに飛び出した赤の盾に影を受け止められるが、華夜はそのまま赤の身体を人型の影で抑え込み、ギリギリと締め上げる。
    「死ね」
     直後、後方に控えた黒が華夜に向け鎖鎌を放つが、そこに飛び出した荒火神命がその攻撃を受け止めた。
    「なかなか良い根性ね、坊や。でもあなたと遊ぶのはもう少し後。それまで我慢してね」
     そう言って赤の身体を放り投げた華夜は、バスターライフルを構え狙いを定める。
    「今度は誰にも邪魔はさせないわ。しっかりと受け止めてね」
     そして放たれた巨大な光線が、黄の身体を貫き深い傷を与えた。
    「……答えないでしょうけど、一応聞いてくわ。貴方達を動かしたのは『???』って人?」
    「貴様等に与える情報は1つもない」
    「でしょうね。これで心置きなく戦えるわ」
     自らの問いを一蹴された華夜は、表情一つ変える事無く戦いを続けるのだった。
    「お前に自由に動かれたら面倒なんでな。妨害させて貰うぞ」
     華夜に続きキィンは指輪の魔力を解放し、魔の弾丸を黄に直撃させその動きを封じていく。
    「「死ね」」
     赤と青が刀を構え二連の斬撃を放つが、2人の前に跳び出した勇也はこれを真正面から受け止める。
    「同じ六六六人衆とはいえ、序列持ちと番外の力量はここまで違うか。これなら俄然戦い続けられる」
     そのまま勇也は赤と青の間を潜り抜け、黄に向けて接近する。
     鉄塊の如き大剣に業火を纏わせた勇也は、その刃を勢いよく振り上げた。
    「よりにもよって黄色か。これまた『忍ぶ』放棄したというのが上手くあてはまりそうな輩だ」
     そして放たれた灼熱の斬撃が、黄の身体を焼ききりその全身を炎で包む。
    「小癪な。我が忍法で冥土に送ってくれよう」
     黄は両手でややこしい印を描くと、何処からか放たれた氷の竜が勇也に襲い掛かる。
    「サイキックで忍法を再現したか。その意味不明な印に何の意味があるかは知らないが、これで忍者を気取るならそれこそお笑いだ」
     冷静に攻撃を見定めた勇也は大剣で氷の竜を受け止めると、そのまま黄の脇に踏み込み炎を纏わせた拳を握りしめる。
    「ついでに言っておくと、今日ここで冥土に送られるのはお前ら4人の方だ」
     炎の拳は吸い込まれるように黄の鳩尾にぶち当たり、壁まで吹き飛ばされた黄色はバタリ床に崩れ落ちるとそのまま二度と動く事は無かった。
    「中々の腕前だ。更に腕を上げた様だな、灼滅者」
    「まあてめぇに褒められても全く嬉しくないがな」
     茂木が立ち塞がる赤に無数のメスを突き立てると、草次郎はその脇から氷の刃を放ち黒の身体を貫いた。
    「それにしても、堕ちたての六六六人衆なのに、忍者が4人。いやもう3人ですけど。すごいですね、同じ趣味の方達が集まったのですか?」
    「…………」
     静菜に問いかけられた黒は完全に無視したが、静菜は更に続ける。
    「それとも誰か1人の発案衣装で色違いを揃えたのでしょうか。あ、もしかして掛け声が『イヤー!』の方達だったり」
    「うるさい死ね」
     凄い馬鹿にされた感じがした黒は私怨混じりに手裏剣を投げまくり、静菜を狙い撃つ。
    「通しはしない」
     しかしそこに立ち塞がった釼が手裏剣を受け止め、闘気の塊を放ち反撃した。
    「ありがとうございます、釼さん。私も自分の仕事を果たすとしましょうか」
     そう言って静菜はウロボロスブレイドを構え、黒の動きを見定める。
    「確実に切り裂きます」
     そして放たれた鋭い刃が、黒の身体に巻き付きその肉体を一気に引き裂いた。
    「群れるだけあって、確かに大した力量じゃねーな」
     葉は眼前に立ち塞がる青の肩を槍で突き刺し、そう呟いた。
    「あと1人潰せば、だいぶ楽になるわね。ただ黒はリーダー格っぽいし、黄色よりはしぶといかしら」
     景明は暖かな言霊の力で仲間たちの傷を癒すと、チラリと茂木に目をやる。
    「ここが貴方のテリトリーなら、貴方に有利に組み替えられないの?」
    「残念だがそれは無理だ。そんな力があればもう少し広い保健室を用意している」
    「保健室なのは変わらないのね」
     そして景明はダイダロスベルトを大きく展開すると、黒に向け勢いよく射出し、その全身を貫いた。
    「シャドウに唆されてこんなところで序列を上げようと徒党を組むなんて、まるで六六六人衆とはいえないわね」
     攻撃と同時に景明が挑発を投げると、黒は眉間にしわを寄せ景明を睨む。
    「黙れ。徒党を組むのは貴様等も同様であろう」
     黒が投げ放ったクナイを受け止めた景明は、冷静に目を閉じ息を大きく吸う。
     そして景明が紡いだ歌詞のないスキャットが、黒の魂を直接揺らす。
     黒は苦しげに胸を抑え倒れ込むと、そのまま全身が灰となり消滅していった。
    「忍者の癖に散り際は実に平凡だな。辞世の句の1つでも詠んだらどうだ」
     茂木はそう言いつつ、空の注射器を投げ捨て新たな注射器を取り出した。
     戦いはまだ続く。


     残る忍者は青と赤。黄と黒が想定以下のダメージしか与えなかった状況ではあるが、2人はひたすら灼滅者達に攻撃を仕掛けていた。
    「私ならばもう撤退する頃合いだ。まあ生前の私はそれに失敗した訳だが」
    「中々の自虐ですね」
     茂木が毒爆弾を投げた直後、静菜は青に向けて氷の刃を放ち、その肉体を凍り付かせた。
    「青も赤も力量は大して変わらない、か。ならばより弱っている青から潰すとしよう」
     釼は拳に込めた闘気を雷へと変換すると、青の真正面から勢いよく突撃する。
    「いくらお前が盾でその身を守ろうと、俺はその盾ごとお前を砕いてみせる」
     そして放たれた拳が青の盾を突き破り顔面に直撃すると、青は大きくよろけながら後ろへ退がった。
    「おのれ……!!」
     青は全身から放った殺気を前衛に浴びせかけるが、釼はそれを身じろぎ1つせず受け止めた。
    「その程度か。こういっては何だかそこの偽医者の方がまともな殺気を放っていた」
    「お褒めに預かり光栄だな」
    「事実を述べたまでだ」
     薄い笑みを浮かべる茂木に坦々と返した釼は、青の一挙一動を観察し闘気を拳に込める。
    「…………そこだ」
     放たれた闘気の塊は青の鳩尾に突き刺さり、大きな衝撃を与えた。
    「追撃するぞ」
     青が衝撃に体勢を崩した一瞬の隙を見逃さず、勇也は大剣を駆使した熱い斬撃を叩きこんだ。
    「交渉下手くそのリーダーが倒れたかと思えば、その部下2人は大した頭も使わず戦いを続ける、か」
     キィンは漆黒のオニキスが飾られたベルトループを伸ばしながら、2人の忍者を見やる。
    「忍術使いってのはもっと器用なものかと思っていたよ。潔いが、もう少し考えたらどうだ」
     そして放たれたベルトループは、青の盾の隙間を掻い潜って身体に突き刺さる。
    「……我等を邪魔する貴様等は必ず殺す」
    「そうかよ。無駄だと思うが……な!!」
     青が投げ飛ばした巨大な盾を弾いたキィンは、そのまま一気に青の懐まで潜り込む。
     そして身体を掴み上げたキィンは、全身の力を両腕に込める。
    「これで終わりだ」
     豪快なフォームで投げ飛ばされた青は壁に衝突した瞬間霧散し、消滅していった。
    「残るは1人ね。攻撃手さえ先に倒してしまえば、そう強くない相手だったみたい」
     作戦方針が上手くいった事を確信しつつ、景明は盾の一撃で赤の身体を抉る。
    「毒も相当回ってるみてぇだしな。だがまあ、最後まで油断はせずにいるか」
     全身が青く六本腕のシャドウ形態と変化している草次郎は、6本の腕に影の槍を持ち赤に突撃する。
    「避けれるもんなら避けてみやがれ」
     そして放たれた六連の刺突が、赤の全身を抉り一気に追い詰めていく。
    「その攻撃には見覚えがあるな。物凄く痛い奴だ」
    「ああ。テメェを殺した時に比べるともっと痛くなったから、お前に味合わせてやれないのが残念だぜ」
     そんな軽口を茂木に放った草次郎は、影の槍を収め闘気を集め始める。
    「いい加減くたばっとけ」
     螺旋の軌道を描き放たれた6つの闘気の塊は、赤の全身に突き刺さりその身体を地面に叩き伏せた。
    「ぐ、この……!!」
    「あら、勝手に動いちゃ駄目よ。赤い忍者さん。……接近戦なら私も強いのよ?」
     痛みに膝を付く赤に接近した華夜は十字架を振り降ろし、その膝を叩き砕いた。
    「グアア……!! くそ、確かにこの場で我等は負けたかもしれない。だが我が同胞達が必ず……!!」
    「急に多弁になったな。どうした? まあそんな事より、足元がお留守になってますよっと」
     呻く赤にさざめくノイズの影『bug』を放った葉は、赤の全身を影に喰らわせその魂を浸食した。
    「中々粘ったみてぇだが、いい加減お仲間の元へ逝ってもらおうかコスプレ忍者君」
     そう言って光の剣を構えた葉は、軽い足取りで赤との間合いを詰め剣を振るう。
    「次来る時はウチのホームセキュリティーはすげー厳しいって事を勉強しておくんだな――お前らには覚悟が足りなかった」
     放たれた光の斬撃は赤の身体を一閃すると、赤は盾の力で僅かながら傷を癒していった。
    「さて、それじゃあ締めといきますか。しぶとい忍者共にトドメをさす時がようやく来たって訳だ」
     葉がそういって槍を構えると、赤は灼滅者達に向け殺気を放つ。
     しかし灼滅者達はその殺気を受け止め、あるいは避けると、一斉攻撃を叩きこんだ。
     草次郎が放った氷の刃が全身を凍結させ、
     静菜が放った鬼の拳が顔面を殴り飛ばす。
     釼が放った炎の華が全身を焼け焦がし、
     景明が紡いだメロディーが脳を直接揺らした。
     華夜が放った人型の影が動きを封じ、
     勇也が大剣の一撃を胸に放つ。
     キィンが魔の弾丸を放ち動きを封じると、
     葉が突きだした刃が心臓を貫いた。
    「ここまで喰らってまだ生きてるか……おい茂木、トドメはあんたにくれたるわ。礼はコーヒーでいーぞ。ただし毒入りじゃねぇ方な」
    「ククク……毒抜きのコーヒーなんて刺激に欠けると思うが、まあいいだろう」
     茂木は赤とのすれ違いざまに首筋に注射器を突き立て、透明な毒を流し込んだ。
    「これでこいつは死んだ」
     茂木がそう呟いた直後、赤の忍者の皮膚はみるみる内にどす黒く変色していき、最後には全身から血を噴き出して死んでいった。
    「こんなグロイ死に方ならもっと早く言え」
    「ああ、すまんな。お詫びにコーヒーを二杯入れてやろう」


    「さあ、コーヒーが入ったぞ。良ければ飲むといい」
    「最初に言ったけどお断りね」
     戦闘が終わると茂木は何事も無かったかの様にコーヒーを淹れたが、景明は丁重に断った。というかほぼ全員断っていた。
    「お前は、自分を殺した灼滅者の事を覚えているのか? ……まあ、だったらどうしたという話ではあるが。あとお前のコーヒーは絶対にいらん」
    「さてな。おぼろげかつ断片的に覚えている様な気がしないでもない。という程度だ。他の連中が同じかどうかは知らん。お前の顔にはなんとなく見覚えがある、と思う」
     釼の言葉に茂木はそう返し、珈琲を啜る。
    「以前徹さんとプレスタージョンの国でお会いした時には戦えるほどの力は無かったはずですけれど……誰かから力を貰った覚えはありますか?」
    「さっぱりわからんな」
     茂木の返答に静菜は少し残念そうな様子であった。
    「それにしても、自分が殺された場所で優雅にコーヒー飲んで、夢だと判ってても同じ事の繰り返し……諾々と生きてんのは、夢も現実も大して違いはねぇんだな」
    「刺激の無い無為な時間が、こいつの居場所という事か」
     葉とキィンがそう投げかけると、茂木は静かに頷き、
    「まあ大体そんな所だ。正直この外の世界にさしたる興味も湧きはしない」
     と呟いた。
    「さて、茂木さん。私達は帰るわね。まあ、用があればまた来るわ」
    「俺達にはまだやるべきことが山積みだからな」
     華夜と勇也がそう言い保健室の扉を開け放つと、茂木は静かに立ち上がる。
    「そうだな、折角の機会だ。最後に1つだけ……」
    「おっと、お前には何度言われたか覚えちゃいねぇからな。予め言っとくぞ。テメェの様な大人にゃならねぇから安心しろ」
    「上出来だ」
     そのまま次々と扉をくぐり去っていく灼滅者。
     草次郎も同じく扉をくぐろうとしたが、不意に茂木の方を振り返る。
    「……それと、もう1つ。テメェに感謝する日が来るたぁ、思わなかったぜ。よりにもよって、悪趣味な奴によ」
    「クックック……私も灼滅者に感謝される日が来るとは思っていなかった。まあ精々命を落とさない様気をつけろ。私の様な悪趣味な大人に負けない大人になれるといいな」
    「最後まで上から目線だなお前は」
     そして草次郎もまた扉をくぐり、一同は学園へと帰還した。
     奇妙な共闘は、こうして終わりを告げたのだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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