琵琶湖・田子の浦の戦い~選びし道の果てにあるものは

    作者:長野聖夜

    ●風雲、急を告げ
    「……皆。伏見城攻略戦、お疲れ様。皆が、彼等と戦うことを選んだから、壬生狼組の被害も最小限にすんだみたいだよ」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230) が微笑みを浮かべて労いの言葉を掛けると、灼滅者達は少しだけ胸を撫で下ろし、其々に苦笑を零す。
     優希斗がそんな灼滅者達を見回してから、表情を引き締めた。
    「だからこそ、だね。天海大僧正は、壬生狼組と合流して、全軍を琵琶湖に向かわせた」
     因みに、既に琵琶湖大橋では、天海勢力と安土城怪人勢力の睨み合いが発生しており、小規模ではあるが、遭遇戦も始まっているらしい。
    「この状況下で、天海大僧正は、君達に後方から安土城怪人の本拠地を攻撃する様に、と要請してきた。それ自体は同盟に沿っており、問題がないんだが……」
     優希斗の呟きに、灼滅者達が嫌な予感を覚え、其々の表情で続きを促すと、彼は息をつきつつ、再度灼滅者達を見回した。
    「……多分、うずめによる別系統の未来予知の力による故意なのは間違いないけど。静岡県沖の田子の浦の海岸に、軍艦島が上陸する為に接近して来た。……君達には今回の戦い……琵琶湖と、軍艦島、どちらかに急行して貰い、今回の戦いに、対処して欲しいんだ」
     優希斗の呟きに、灼滅者達が其々の表情で返事を返した。


    ●2つの選択
    「……琵琶湖の合戦に快勝すれば、安土城怪人勢力を壊滅出来る可能性がある。逆に、琵琶湖の合戦に敗北すれば、天海大僧正が壊滅するけど」
     壊滅それ自体は、武蔵坂学園としては、致命的な問題にはならない。
     ――武蔵坂学園が協定を反故にした結果、今後の他のダークネス勢力との交渉等に、悪影響を与える可能性が高いことを除けば。
    「……正直、今ダークネスとの交渉に悪影響を与えるのは、得策とは思えない、けれどね。武蔵坂の中で、内部分裂が起きる危険もありそうだし」
     沈痛そうな表情の優希斗に、灼滅者達が互いに顔を見合わせる。
    「一方、田子の浦での戦いに勝利したら、もしかしたら軍艦島に逆進軍して、軍艦島勢力を壊滅できるかもしれない。けれど、この戦いに敗北するか、放置すれば軍艦島勢力は、白の王セイメイの勢力に合流するだろう」
     セイメイの勢力には将の器となる者達が少ないが、戦力そのものは保持している。
     此処に軍艦島の有力な将達が合流すれば、一大勢力として、大変な脅威になるだろう。
    「……可能であれば、その合流も止めるべき、だとは思うんだけれど。でも……戦力を二分せざるを得ない状況だから、厳しいのは間違いないだろうね」
     因みに、他の班と相談し、どちらかに戦力を傾けることも不可能ではない。
     また、相談して戦力を2分すれば、どちらの戦いでも勝利できる可能性が上がるが、その分、両方の戦いに敗北するリスクも上がる。
    「まあ、どんな道を皆が選んだとしても……この戦いの結果が、今後の情勢に大きな影響を与えるのは、間違いないだろうね」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で返事を返した。
    「……正直なところ、今回の戦い、絶対的に正しい答えは無い。どの選択を選んだとしても、今の勢力図に、何らかの影響を与えるのは間違いないだろうから。……だから、君達の選択次第なんだ」
     そこまで話をした所で1つ息をつき、一礼する、優希斗。
    「どうか皆、自分達にとって最善の道を選んでほしい。……その結果君達の身に何かあったら、俺達は必ず探し出して見せるから。……皆。どうか、気を付けて」
     顔を上げて見送る優希斗を背に、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)
    セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)
    夜川・宗悟(彼岸花・d21535)
    ルナ・リード(夜に咲く花・d30075)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)
    荒谷・耀(護剣銀風・d31795)

    ■リプレイ


     ――出陣前。
    「義時さんの屍を乗り越えて来たんだ……。意地で負けたら、彼に会わす顔がない!」
    「そうですわね。では……参りましょうか」
     出陣の直前、自らの決意を示す水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)に同意する様に、ルナ・リード(夜に咲く花・d30075)が静かに頷く 。
     伏見城攻略戦の折に、討ち取った武者アンデッドの言葉が、彼等の脳裏を過っていた。
    「行きましょう、皆さん」
    「ああ! いよいよだな!」
    「……約束を果たしにいざ向かわん! 戦場へ!」
     同じく共に戦った荒谷・耀(護剣銀風・d31795) の促しに、傍にいた白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が頷き、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076) が愛刀を抜いて戦場を指し示し、雄たけびを上げながら仲間達と共に走り出す。
     ――全てに決着を、つける為に。


    「挟撃か! お前らはさっさと本陣に戻れ!」
     迫りくる灼滅者達に気が付き、ペナント怪人達に指示を出すのは、左手にガトリングガンを、右手に鋏を握りしめた青年、紅・猟弥。
    「此処から先には行かせないぜ、灼滅者!」
    「僕達の相手はあんた、だね」
     口の端に笑みを浮かべながら、夜川・宗悟(彼岸花・d21535) が音も無く背後に忍び寄り、鳴り響く聖歌と共に、その足を撃ち抜いている。
    「チッ……」
    「出来ることをする。ただ、それだけだ」
     咄嗟に後ろを振り返りかけた猟弥の僅かな隙を見逃さず、有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)が猟弥の鋏に、ウロボロスブレイドを絡み付かせた。
    「強敵だろうが、絶対に負けないぜ!」
     僅かなその間に、明日香が素早く白い霧を展開し、自分達の力を強化。
    「負けませんから……!」
     霧によって猟弥の視界から姿を隠した、その背に天使の様な翼を広げたセレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)が死角から現れ、足の腱をクルセイドソードで断つ。
    「隙ありだぜ!」
     左足から鮮血を流しつつ後退する猟弥の右足を、咲哉が刀で斬り裂き、足止めした。
    「ちっ……忌々しい奴らめ……!」
    「一気に終わらせます……!」
     僅かに眉を顰める猟弥に、耀が冷たく鋭い氷柱の様な『風花』の矛先でその身を抉る様に貫くと、血を吐き出しながら猟弥が耀の急所を狙ってガトリングガンで撃ち抜こうとするが……。
    「私達にとって、邪魔な方は全て排除させて頂きます」
     決意を籠めて呟きルナが腰に巻いた帯を射出しガトリングガンを絡め取った。
     銃口が回転し、無数の弾丸が吐き出されるが、ルナのレイザースラストにより銃口がブレ、耀を撃ち抜きつつ致命傷には至らない。
    「耀さん、無理はするな!」
     旭が案じつつその指先に光を集めて小さな弾丸にして撃ち出し、彼女の傷を癒す。
    「さっさと終わらせてやるぜ!」
     旭が耀の傷を癒す間に明日香が不死者殺しクルースニクを抜き放ち、右足の腱を斬り裂く様に踊りかかった。


     速攻で片を付けるつもりだったが、連戦を意識して攻守を揃えた陣形では、想定よりも追い詰める速さはやや遅い。
     けれども、宗悟が相手の動きを読みルナ達に伝え、咲哉が敵の呼吸を読み取り連携を強化するその作戦は、着実に猟弥の体力を削っている。
     加えて耀の捨て身の猛攻、セレスティやルナによる同じバッドステータスの積み重ねは、確実に猟弥の動きを奪い、彼への負傷と疲労を蓄積させていく。
    「ちっ……まさか、俺がこうも苦戦するとはなぁ……!」
    「さっさと倒れろ! 急いでいるんだ!」
     全身を朱に染めた猟弥と戦う傍ら、仲間達を守り続けていた明日香が怒号と共に返し、不死者殺しの究極の形の1つして作り上げられたとされる、絶死槍【バルドル】に捻りを加えて突き出し猟弥の胸を撃ち抜く。
    「行くぜ!」
     ディフェンダーとして仲間を守り続けて負傷を重ねた咲哉が明日香に合わせて【十六夜】を地面に突き刺し、漆黒の刀の影に猟弥を食わせ、続けて猟弥の動きの癖を見切った宗悟が脇腹を突き刺す様にウロボロスブレイドを突き出し黒死斬。
     脇から腹にかけてを貫かれ、猟弥が喀血する間に、セレスティが妖の槍の穂先から粉雪の様な弾丸を撃ち出し、猟弥の肩を凍てつかせる。
    「そこですね!」
     セレスティに続いて咲哉たちに守られながらも傷だらけの耀が、軍神の加護を得ることが出来るとされる御雷蓄えた雷を、矢の様にして撃ち出し、傷だらけの猟弥を襲う。
    「ちっ……一人だけでも!」
     避けられぬ、と悟った猟弥が自らの鋏を耀の心臓を狙って突き出す。
     紙一重の所で体を傾け、心臓を貫かれることは免れたが、肉を抉られ、大量の血液が流れ落ち、一瞬だが意識を失いかける。
     ――でも……。
    (絶対に……負けられませんから……!)
     大量出血からの死の危険を感じて堕ちかけたが、不意に脳裏に『彼』の姿が過る。
     ――それは、彼女にとって帰るべき場所。
     だから……。
    「はぁぁぁぁっ!」
     堕ちることへの恐怖を力に変え周囲を震撼させんばかりの叫びをあげて傷を塞ぐ。
     その時には、耀の雷光は、正確に猟弥の心臓を射抜いていた。
    「くそ。この俺が……誰も潰せることなく、逝くのかよ……」
     そのまま地面に崩れ落ちた猟弥を見て、軽い眩暈が耀を襲うが、深呼吸を一つ。
     新鮮な空気に肺が満たされ、なんとか平静な状態を保つ。
    「大丈夫か?!」
    「耀さん?!」
    「大丈夫です。ありがとうございます」
     咲哉とセレスティの気遣いに耀が微笑むのにそっと胸を撫で下ろしながら、疲労で僅かに顔を青ざめさせたルナが情報共有のメールを他班へと送る。
     間断なく続く戦いの音の中で、旭が、続々と敵が駆けつけ、膨張を続ける戦場を見つけた。
    「……のんびりしている時間はなさそうだね」
    「ああ、このまま行……クッ」
     旭が確認しつつ癒しの風で最も損傷の激しい前衛を癒すが、それでも前衛の中では最も力の弱い明日香の消耗は著しかった。
    「あまり、悠長にはしていられませんが……明日香先輩は、僕と代わって下さい」
     咲哉やセレスティ、耀は直前の猟弥の止めの為に、サイキックを使用している。
     一方、明日香は幸いにも未行動。
     なんとか、彼女だけが交代する時間は作れる。
    「……すまない」
     悔し気に俯きつつも頷き、明日香が雄哉と隊列を交代。
    「……急ぎましょう、皆さん」
     位置情報を確認したセレスティに宗悟達が頷き、そのまま最激戦区となる戦場へと急行した。


     続けて襲い掛かって来たダークネスと各班毎に戦う灼滅者達。
     咲哉達もまたその列に加わり敵と斬り結び、乱戦へと没頭していく。
     他班との連携は厳しい状況ではあるが、近くで他の灼滅者達が戦っていると言う事実が、彼等の士気を否応なしに高めていた。
     そんな時、だった。
    「自分がここに残って敵を食い止めるので、全軍撤退せよ」
     戦況の不利を見て取った威厳ある重苦しい声が、戦場全体に響いた。
    「! この声……まさか……!」
     誰よりも早く明日香が反応し、目の前の敵にクルースニクで一太刀浴びせて隙を作り、包囲を縮めるべく駆け出す。
    「明日香先輩!」
     敵からの一撃を受け止めながら、雄哉が駆けていく明日香に声をかけた。
     その一瞬の隙をついて、敵が包囲網を潜り抜け素早く戦場を離脱する。
    「待て!」
    「咲哉先輩、今は明日香先輩達を!」
     耀に声を掛けられ敵を見逃し、先行するセレスティ達を追う咲哉。
    「まさか、ここで巨大化フードを使わされるとは思わなかったぞ」
     包囲を縮めていた全班の耳に届く声。
     同時に、グングンと巨大化していく、安土城怪人。
    「皆様、お下がりください!」
    「グローバルジャスティスの目的は、本当に天海でさえ受け入れられるものなのかよ!?」
     危険を察したルナが警告を発する間にも、明日香が怒鳴りながら城にクルースニクで斬りかかる。
    「安土城怪人! お前と天海大僧正の因縁は……?!」
     彼女に合わせる様に咲哉が声を張り上げながら刀にサイキックを纏わせ追撃。
     まるで、それらの声への返答の様に、安土城怪人の前に火縄銃の幻影が現れ、宗悟達に狙いをつけていた。
    「全ての銃口がお前達を向いているぞ。怖かろう?」
     ドキューン、ドキューン、ドキューン!
     耳を劈く程の轟音と共に撃ち出される弾丸。
    「させない」
     明日香を庇うべく雄哉が飛び出し、両腕を交差させて殺戮の嵐に飲み込まれ、大きく体を仰け反らせる。
    「何て巨大さだ。でも、殺し合いは愉しめそうだなぁ」
     紙一重で躱して掠っただけにも関わらず、肩の肉と服を吹き飛ばされる、宗悟。
     しかし、臆することなく笑みを浮かべながら、宗悟がウロボロスブレイドで城壁の一部を斬り裂き、ルナがレイザースラストで宗悟の与えた傷を射抜く。
    「すみません。あなたを見逃すことは、出来ません……!」
     苦し気に呻きながら、耀が漆黒の一輪シューズで踊る様に華麗に立ち回りつつ、加速をつけた炎の回し蹴りを放ち、城壁の一部を焼き払う。
    「皆! 死ぬなよ!」
     セレスティの集気法が雄哉の傷を癒すのを見つつ、旭が自らの傷を押して、癒しの風。
     先の戦いからの連戦で、消耗しているセレスティ達を、倒させるわけにはいかなかった。
    「巡れ我が体内のサイキックエナジーよ」
     自らの体内のサイキックエナジーを活性化させ、傷を癒す安土城怪人。
     巨大化して距離を離され、先程まで近くで戦っていた灼滅者達の姿が見えない。
    (皆、大丈夫だよな……?!)
     他班の仲間達の無事を信じて、死角から姿を現し、刀で下段から安土城怪人を斬り裂く咲哉。
    「どうしたんだい? もっと、もっと愉しませてくれよ」
    「さあ、お覚悟はよろしいでしょうか」
     苦笑を零しながら、宗悟が十字架戦闘術を駆使して城を翻弄する間に、ルナが影でその身を縛り、雄哉達が畳みかけた。
    「灼滅者よ、お前達は何故、これほどの力を持ちながら……!」
     呻きながら、『天下布武』と書かれた旗の幻影を大量に呼び出しビームを撃ち出す安土城怪人。
    「やらせない」
     最初の戦いで大きく消耗していた耀を雄哉が庇い、更にセレスティが咲哉を庇う。
     強烈なビームに撃ち抜かれ、昏倒しそうになるが……。
    「此処で負けたりしませんから……!」
     自らの決意を口に出して意識を保ち、姿を掻き消し黒死斬。
     セレスティの槍による突撃に貫かれ動きを止める城の隙を見逃さず、ルナが美しいソプラノヴォイスで聖歌を朗々と歌いあげ、クロスブレイブの聖歌の力を更に高めて弾丸を撃ち出しその身を凍てつかせ、続けてクルースニクによる明日香の真っ向両断を囮に、宗悟が死角からまるで咢を開いた蛇の様な勢いでウロボロスブレイドを突き出した。
    「グレイズモンキーよ、救援は無用。お前は生き延び、そして伝えるのだ」
     宗悟の一撃に絡め取られ傷つきながらも、火縄銃型の幻影で一斉掃射。
     宗悟達を撃ち抜こうとする弾丸から、雄哉が明日香を、咲哉が宗悟を、セレスティが旭を守る盾となり、咲哉とセレスティが集気法で回復し合い、雄哉がウロボロスシールドで応急処置。
     更に雄哉達に、旭が清めの風。
     だが、蓄積が原因か、回復しきれない。
    「まだだ!」
     明日香がバルドルで怪人を貫き、宗悟やルナ、そして耀が連続攻撃。
    「まだだ、まだ倒れぬ。我が愛しき部下達が逃げ延びるまで、我は倒れるわけにはいかぬのだ」
    「畳みかけましょう、皆さん!」
     息もつかせぬ速さで風花の先端で怪人の急所を斬り裂く耀の信頼に応えるべく、旭が飛び出し鐵断を頭上で回転。
    「……優しさを捨てるさ、仲間が死ぬくらいなら。死ぬほど後悔するより、余程いい……!」
     決意と共に鐵断を振り下ろし、怪人を袈裟懸けに斬り裂く旭。
     続けて雄哉が攻撃をしようとした瞬間……。
    「我が命の輝きを見よ、天下布武ビーーームぅ!」
     『天下布武』の旗の幻影が現れ、無限のビームが撃ち出される。
    「くっ……まずい!」
     雄哉が突出している耀を両腕を広げて庇う。
     咄嗟にウロボロスブレイドを結界の様に展開するが、ビームにその防護も撃ち抜かれ、想定以上の負傷を受け闇堕ちする暇もなく雄哉が倒れた。
     既に凌駕しているセレスティを守る為、咲哉が刀でビームを受け、絶対的な熱量に嬲られ意識を失いそうになるが……。
    「今度は……最期まで見届けさせてもらうぜ!」
     奥歯を噛み締めて意識を保ち、気合と共に戦場を駆け抜け城に一太刀。
     追随する様に耀が雷光で怪人を貫き、旭が鐵断で空気を斬り裂き生み出した風の刃で斬り刻んだ。
     だが、彼等も既に満身創痍だ。
    「まだ……まだですわ……」
     負傷は最も少ないが、精神と体力の消耗は、ルナも仲間達と同じだった。
     度重なる衝撃に疲弊して休眠を欲する体。
     けれどもそれに鞭打って、影に魔力を籠めて襲撃させ、怪人を縛り上げた。
    「これが三段撃ち三段目。この銃撃を耐えられたならば、お前達の勝ちだ」
     現れる火縄銃の無数の幻影。
    「させません……!」
     耀が攻撃を止めるべく、その腕を養父であったアラヤの様に変貌させて殴りつけ城を穿つが、銃撃は止まらない。
    「皆様!」
     思わず後ろを振り返るルナの叫びを掻き消す様に、弾丸の雨が容赦なく降り注ぎ、巻き起こった破滅の嵐が大地を抉り、凄まじいまでの土煙がルナ達の視界を奪った。
     ――しかし……。
    「ならばこの勝負……俺達の勝ちだ……!」
     土煙の向こうから全身を撃ち抜かれ、何時倒れてもおかしくない程の傷を負った咲哉が飛び出し、刀で耀の穿った傷を鋭く抉る。
     そのまま膝をつくが……。
    「そうだ! オレ達の!」
     彼を飛び越え、明日香がバルドルで、咲哉の刀で抉られた傷口を広げ。
    「私達の、勝ちです……!」
     火傷と裂傷でボロボロのセレスティが、クルセイドソードで急所毎、怪人を下段から斬り裂き。
    「あんたの負けだよ、この死合い!」
     宗悟が弔いの聖歌を歌う黙示録砲を発射。
     撃ち抜かれて大損害を受けつつも、立ち続ける安土城怪人。
    「……これ以上は!」
     傷だらけの旭が闇堕ちの覚悟を決めたその時、安土城怪人が宙に浮く。
    「二条!! 大麦!!」
     奇妙に戦場に響いたそれに、旭と同じく堕ちようとしていたルナもまた、ハッ、と空を見上げた。
    「ダイナァッ、ミィーーーーーック!!!」
     城はそのまま……スローモーションの様に地面に吸い込まれるように落ちて行く。
     ……ズン、と凄まじい衝撃と共に起こる、麦色の大爆発。
    「はぁ、はぁ……はあぁ……んんっ」
     爆発の中心点にいた彼の荒い息遣い。
     痛いほどの、静寂。
     次の瞬間、彼が地面に倒れ、青い空に向かって腕を突きだした。
    「やったん……だな……!」
     明日香の呟きが漣の様に広がり、勝鬨の雄叫びと、無数の拍手が、戦場全体に雷鳴の様に鳴り響く。
    「皆様!」
    「皆!」
     歓声の中、ルナと旭が、疲れから座り込んだ耀の傍で勝敗を見届け倒れた咲哉とセレスティ、そして雄哉の傍に駆け寄ると、セレスティが目を開き、静かに微笑んだ。


    作者:長野聖夜 重傷:文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076) セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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