琵琶湖・田子の浦の戦い~島は東に城は西に

    作者:泰月

    ●それはおそらく1つの分水嶺
     伏見城。
     安土城怪人勢力が建てた城を巡る戦いは、武蔵坂の介入によって、安土城怪人勢力の撤退と言う結果に終わった。
    「スサノオ壬生狼組の被害が少なかった事もあって、天海大僧正は、全軍を琵琶湖に向かわせて安土城怪人との決戦に踏み切ったわ」
     夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)は、続く西の状況を話し始めた。
     既に、天海大僧正勢力は、琵琶湖大橋から攻撃を始めていると。
    「向こうが琵琶湖大橋で戦線を膠着させている間に、後方から安土城怪人の本拠地を攻撃して欲しいという要請が入っているわ」
     それ自体は協定に則った要請だ。
     方針も悪い案ではない。
     だが――ダークネス組織は、他にもいるのだ。
    「第2次新宿防衛戦の後、行方をくらませていた軍艦島がね。静岡県沖に出現したの。田子の浦の海岸に上陸するつもりみたい」
     このタイミングの軍艦島の出現が、偶然である筈がない。
    「ザ・グレート定礎が安土城怪人と連携したのか、予知能力を持つ刺青羅刹・うずめ様による作戦――ってとこだと思うけど、確証は掴めてないわ」
     問題は、そこではない。
     『どちらに』対応するのか、或いは『どちらにも』対応する、のか。
     それを決めなければならない。
    「琵琶湖と田子の浦、それぞれの状況を整理するわね」

     まず、琵琶湖側。
     敵は安土城怪人の勢力。今回は天海大僧正勢力との連携作戦。ここで大勝利すれば、一気に壊滅させる事だって可能だろう。
     逆に敗北すれば、天海大僧正の勢力が壊滅する事になる。
    「まあ、それ自体は致命的な問題ではないけれど、武蔵坂が協定を反故にした、天海大僧正を見殺しにした、と言う事実が生まれてしまう事になるわね」
     そうなれば、今後、他のダークネスとの交渉などに悪影響を与えるかもしれない。

     続いて田子の浦。
     敵は軍艦島。勢力規模としては大きくないが、多彩である。
     此処でうまく出鼻を挫けば、上陸しようとする所に逆侵攻をかけて、軍艦島勢力を壊滅させる事も出来るかもしれない。
     逆に敗北すれば、上陸した軍艦島勢力が白の王勢力と合流してしまう可能性が高くなると言う。
     軍艦島には、有力なダークネスも多い。有力な将が少ない白の王勢力との合流は、強大なダークネス組織の誕生を意味する事になる。

     両方に対応するなら、戦力を二分せざるを得ない。
     それは両方に勝利できる可能性もあるが、両方で敗北する可能性も低くないと言うリスクを抱える事になる。
    「琵琶湖を優先するか、軍艦島を優先するか。どちらが正しいのかは、予知の範囲では判らない。だから、また皆に判断を任せる事になるわ」
     何れにせよ今回の戦いの結果は、今後の情勢に大きな影響を与える事になるのは間違いない。だから、どちらを選ぶのが正しいと言う事はないのだろう。
     西か東の、二者択一。
     選択は、戦う者達に委ねられた。


    参加者
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782)
    野良・わんこ(世界大紀行・d09625)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    天城・理緒(黄金補正・d13652)
    大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)
    荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)
    月影・黒(吸血鬼と大蛇・d33567)

    ■リプレイ

    ●選んだ戦場
     静岡県、田子の浦。
     駿河湾を望むその地は、今、戦場になっていた。
    『戦闘を始めるよ。こっちは寡兵ではあるけれど、学園灼滅者の絆と底力で頑張ろうね』
    『幸運を祈るよ!』
    「アメリカンコンドル様たちの邪魔はサセマセーン!」
     無線機から離れた仲間達の声が聞こえると同時に、目の前の岩頭も口を開く。
    「させない? それはこっちの台詞だ!」
     真っ先に飛び出した大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)が、螺旋に回す槍を敵の岩頭に突き込んだ。
    「ラッシュモアヘッドってアメリカ大統領の顔岩やっけ?」
    「イエス! 良く知ってマスネ?」
     荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)の問いに、サムズアップする岩頭。
    「人間の彫像が自分の体っちゅうのは、なんや思うところとかないんかな」
    「大統領の偉大さを示してアメリカナイズする為に、ピッタリの頭デース!」
     千鳥が撃ち込んだ天の羽衣を避けようともせず、自信たっぷりに答えるラシュモア。
    「ビコーズ、灼滅者の細腕で、ラシュモアヘッドの岩を砕けはしマセーン!」
    「その岩頭しか狙わないとでも思ったのか?」
     効かないと吠えるラシュモアヘッドの足に、月影・黒(吸血鬼と大蛇・d33567)の断罪の影が絡みつき、刃を突き立てる。
    「それに、同じ所を攻撃し続ければ、どれだけ固くてもいつか砕けます!」
     よろめいたラシュモアヘッドに、野良・わんこ(世界大紀行・d09625)が飛び掛り――岩頭にゴッチン。
     頭を押さえうずくまるわんこの頭上で、ウイングキャット・キハールが魔法を放つ。
    「邪魔をするから、ペインを感じるのデース!」
    「計画、か。容易くセイメイに合流させる訳には行かないね」
     無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)は護りの力を持つ符を引き抜きながら、どうだと言いたげなラシュモアヘッドに言い放つ。
    「計画? ホワッツ?」
    「とぼけても、無駄だの」
     不思議そうなラシュモアヘッドに、狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782)はオーラを纏った拳を連続で叩き込む。
    「何のコトデスカネー」
    (「彼奴らの目的地は富士だと見たが……違うのかの? どちらにしても、ハードな一日になりそうだの」)
     はっきりしないラシュモアヘッドの様子に内心で首を傾げながら、伏姫はすぐに間合いを離す。
    「増援が来る前に、こいつは倒しておきたいですね。なつくん」
     入れ替わる形で天城・理緒(黄金補正・d13652)が破邪の光を纏う剣を振り下ろし、ビハインドも刃を振るう。
    「琵琶湖の方に、余計な横槍入れられるかもしれませんし。此処で叩いておきましょう。その為には、この水際で阻止しないとですね!」
     森沢・心太(二代目天魁星・d10363)は祖母のお守りを握り、障壁を纏った拳を岩頭に叩き込む。
     敵の背中越しに海を見れば、軍艦島と軍艦が並んで浮かんでいた。

    ●戦の行方
    「これでどうだ」
    「ラシュモア式バトルヘッドバンギングでお返しデース!」
     岩頭と生身の境の急所を狙うエマの刃を、ラシュモアヘッドは岩頭を無茶苦茶に振り回して弾き返し、勢いそのまま飛び掛った。
    「フンフンフンッ!」
    「これ、は、足にきますねっ」
    「まだまだ続きマース! トウ!」
     飛び出した心太に頭突きの連打を叩き込み、ラシュモアヘッドは後ろに跳び上がる。そして頭から着地すると、ギュルルッと猛スピードで回転してみせた。
    「これぞラシュモアフレイムヘッドバッド!」
    「何でそれだけ頭振り回して、目が回らないんだ!」
     摩擦の炎を頭に纏って飛び出したラシュモアヘッドを食い止めながら、理緒は思わずツッコミの声を上げていた。
    「HAHAHA! この岩頭、そんなヤワな神経してまセーン!」
     神経が残ってるのかも怪しい岩頭に、理緒は煌きと重力を纏わせた蹴りを叩き込む。
     打ち上がった所に、なつくんの霊障で飛んできたタイヤが直撃。
    「八房は回復を」
     霊犬に指示を出しつつ、伏姫が地を蹴る。
    「摩擦を利用するのが岩頭の専売特許ではないと、教えてやるとするかの」
     その言葉通り、摩擦の炎を纏った蹴りが岩頭を揺らす。
    「こんな技もありますよ!」
     理央の符が巻かれた腕に雷気を纏わせ、心太が拳を振り上げる。
    「ガッデム! しかし、この頭は砕けマセーン!」
    「さっさとくたばれ。今日は後が閊えてる」
     たたらを踏んだラシュモアヘッドに、黒の振るう大鎌が弧を描いて迫る。
     ガギンッ、と鈍い音。漆黒の刃が弾かれるが、ラシュモアヘッドの頭にも小さいがはっきりと亀裂が刻まれていた。
    「ホ、ホワッツ!?」
    「驚いとる暇は、あらへんよ」
     動揺を隠せないラシュモアヘッドに、千鳥は万を超える符が作る縛霊手を叩き込む。
    「殴ってダメなら投げ飛ばす!」
     わんこが、岩頭に絡み付いた霊力の網を掴んで振り回し、斜めに投げ落とした。
    「これでとどめだ。おーらよっと!!」
     ふらつきながら立ち上がるラシュモアヘッドに、エマがバット型のロッドに魔力を込めて渾身のフルスイングを叩き込む。
    『こちら花守班、予知された敵を撃破。周囲の警戒に入るねー』
    「我らもラシュモアヘッド撃破。援護要請なくば、敵増援に備える」
     無線機からの通信に、伏姫は敵が砕け散るのを見届けながら無線機を取って返す。
     程なく、他の班の勝利を伝える声も無線機から届く。
     田子の浦に集まった11チーム、初戦は欠ける事無く勝利を得られたようだ。
     だが――戦いがこれで終わらないのは、誰もが確信していた。
     それはすぐに、現実のものとなる。
    「あのでかいのって……グレート定礎、ですよね」
     明らかに規格外に巨大な敵影に、理緒が呟く。
    『軍艦島から有力敵多数出現! え、え、うずめ様もいるよ!』
     無線機から聞こえる声に視線を変えてみれば、多数の羅刹の向こうに長い黒髪の少女が見えた。
     イロモノ動物園みたいな軍団を率いる褐色の少女は、アフリカンパンサー。
     青を基調にした鎧を着込んだ異形の軍団は、海将フォルネウスのものか。
     島の横に付けられた艦からは、さっき倒したのと良く似た岩頭達がアメリカンコンドルに率いられている。
    「さぁて。劣勢確定は判っていたけど……これはどうしたものかな」
     回復役を交代しながら、理央は軍艦島の全戦力を前に拳を握り締めた。

    ●背水の陣
     軍艦島の全戦力が、11チームで上陸を防げるモノではない明らかだった。
     だが――諦めるにはまだ早い。
    「なあ。あれ、沈みだしとらん?」
     千鳥が指差した先で、軍艦島はゆっくりと沈みだしていた。島の維持に使っていたサイキックエナジーをも使ってきた――と言ったところか。
    「……ああ。これって、敵は背水の陣って事にですね」
     心太の言葉に、何人かが笑みを浮かべる。
     軍艦島に戻ると言う選択肢は捨てた、総力戦と言う事か。
    「前に軍艦島に攻め込んだ時は、うずめの居場所に届きすらしなかったよね。戦場に出てきてる今は、千載一遇の機会かも」
    「確かに、うずめの予知は危険ですよね」
     うずめの軍団の方を見て理央が言うと、理緒もそれに賛同し頷いた。
    「エマも構わないよ。誰が相手でも思いっきりぶん殴る」
     ぶんぶんとバット型のロッドを素振りするエマ。
    「俺も問題ない」
     殺意を隠さず、黒も頷く。ダークネスは残らず殺したいくらいだ。種族も順序も問題ではない。
    「決まりだな――狗神だ。我らはこれより、うずめを狙う!」
    「やった! うずめちゃんと戦える!」
     無線機に向かって告げる伏姫の横で、わんこが楽しげな声を上げる。
    『了解! 花守班、8人と6体の大所帯でうずめ様に向かうよー』
    『了解! 狙いはうずめ様だ』
     無線機から他の班の声を聞きながら、8人はうずめのいる軍へと駆け出した。

    「奴らをうずめ様の元に進ませるな!」
     号令を上げる星入りの階級章をつけた軍服姿の羅刹。
    「しっ」
     その頬を、障壁を纏った理央の拳が真っ直ぐ撃ち抜く。
    「風穴を開けるとするかの」
     槍衾の要領で銃剣を構えて並ぶ羅刹の一角に、伏姫はガトリングガンを向けた。
     ガガガッと立て続けに銃声を響かせ、大量の弾丸を浴びせかける。
     ズブリ。
     銃撃を耐えた羅刹の腹部から、突き出る漆黒の刃。
     くたばれ、と吐き捨てて。黒は怨嗟の篭った鎌を引き抜き、咎の波動で薙ぎ払う。
    「まさに戦って感じですね!」
     敵の隊列が乱れた所に、心太が鬼の拳を叩き込む。
     間を置かずにエマが鬼の拳を、千鳥が無数の符が作る拳を別々の敵に叩き込んで、崩れた敵の壁を全員一気に突破する。
     うずめを守る敵を全て倒す事は考えていなかった。
     同じようにうずめを狙う班がいる事で、敵の護りは分散している。弱い所を倒して、強固な所は怯ませて突破できる。
     退路の確保に動いてくれている仲間もいるので、前だけを目指す。
     考えるのは、うずめに届く事。
     そして。
     怯ませた隙に羅刹を跳び越えようとした、何度目だったか。
    「あれ? もしかして、このまま行っちゃえます?」
     敵の頭上のキハールがあまり狙われていない事に、わんこが気づいた。
     ――逡巡は一瞬。
    「うずめちゃん、見えましたっ!」
     単に跳び越えるのではなく、羅刹の頭を踏み台にして。敵の頭上にまで跳び上がったわんこは、狙っていた黒髪ツインテールを見つけて、弾んだ声を上げた。
     そうだ。倒す必要がないのなら、まともに相手にする必要もない。
    「行かせるなっ」
     そのまま羅刹の頭を蹴って進み出したわんこを止めろと、響く怒号と銃声。
    「無堂さん!」
    「わかっているよ、森沢部長」
     放たれる風の刃と銃弾を、心太と理央が体で遮る。
    「仕方ないですね……なつくん」
     それで力尽きるのは判っていたが、理緒はビハインドを向かわせて、自分は剣を掲げて浄化の風を放つ。
    「うずめちゃん! あーそびましょー!」
     仲間の援護を得て、護衛の羅刹達をごぼう抜きに突破したわんこが、遊んで貰うかのようなはしゃいだ声を上げて、黒髪めがけて殲術道具を振り下ろす。
     やっと届いた一撃は――赤い光に包まれたごぼうだった。

    ●瀬戸際
     うずめを仕留められるかもしれない。
     そう、思えたのだ。その時は――。

    「ちっ。先に死にたいか!」
     舌打ちした黒が、鋏を敵に深く突き立てる。
    「ザ・グレート定礎様の指示だ。ここは通さん!」
     血の様な赤刃に喰われるのも構わず、定礎怪人は金槌を振り下ろした。
     それを雷気を纏った拳が迎え撃ち――砕けたのは、心太の拳の方。
    「~~っ!」
     激痛に上がりかけた声をこらえた心太が、別の金槌が吹っ飛ばされる。何とか受身を取るが――限界を超えて庇い手を続けた体は、これ以上言う事を聞きそうにない。
    「ここに来て、定礎怪人の増援とは、ね!」
     更に振り下ろされる金槌を、理央は障壁を纏った拳のショートアッパーで打ち上げ、すぐにサイドステップで回り込んで、左のストレートを叩き込む。
    「心の狭い連中ですね……!」
     どこからか撃ち込まれた弾丸に撃たれて悪態をつきながら、理緒は縛霊手の指先から癒しの霊力を放つ。
     なつくんを撃った羅刹を殴りたいが、それどころではない。
     うずめに一撃を入れた直後、ザ・グレート定礎とその配下が動き出した。増援を得た羅刹達の勢いが増した結果が、この状況だ。
    『こちらは撤退します。皆さんもお気をつけて』
    「潮時かもしれんの」
     無線機越しに撤退を告げる声を聞いて、伏姫は風を放とうとした羅刹をガトリングガンで黙らせながら呟く。
     もう少し戦力があれば、うずめを討てたかもしれないが――。
    『何処も彼処も状況が悪ィな、花守班も撤退する』
     無線機から、またも撤退を告げる声。
    「おい、皆、後ろもきつそうだし、これ以上は無理だ!」
     襲い掛かって来る羅刹をバット型ロッドで殴り倒しながら、エマが声を上げる。
     確かに後方の戦場も押されているようだった。
     ザ・グレート定礎を殿は、申し出た班が進行を止めてくれている。その間に退かなければ、撤退できなくなるかもしれない。
     だが、敵も簡単に逃がしてくれそうにはない。
     特にわんこだ。ごぼうが届いた代償と言うべきか。お怒りな羅刹達に囲まれ、猫のキハールの姿も既にない。
    「小娘! 貴様は逃がさん!」
    「んにゅっ!?」
     雷を纏った鬼の拳が、わんこの背中の押し潰す。
    「……ええかげんにせえよ、あんたら」
     妹分の危機に、千鳥の声から、今までの柔らかさが影を潜めた声が毀れる。
     周囲に黒い式のようなものが浮かび、頭部には長さの違う2つの角が現れていた。
     力強さを増した鬼の拳で羅刹をなぎ倒すと、千鳥は意識のないわんこの体を持ち上げ後ろの仲間へと投じた。
    「頼むで」
    「……任されました」
    「狗神だ。我らもこれより撤退する」
     わんこを理緒が受け止めたのを確認して、伏姫が無線機に告げる。
     千鳥が敵の群れに飛び掛り、6人が踵を返し――。
    『うずめ様は言いました。この戦いで闇堕ちした灼滅者の中に、我等の盟主となりえるものがいるかもしれない』
     うずめの言葉が、聞こえた。
    『うずめ様は言いました。闇堕ちした灼滅者は可能な限り、白の王の下に連れ去りなさい』
     続く言葉に、羅刹達の動きが変わる。
     撤退を阻もうとしていた動きが、闇堕ちした千鳥へと。
     だが、この混戦だ。追撃が完全に止みはしない。
    『クソッ、私達だけじゃ突破しきれねぇ! すまねえが応援を頼む!!』
     無線機からも、切羽詰った声が響く。
    「応援してあげたいけど、余裕がな――このっ」
    「邪魔だ!」
     エマが鬼の拳をぶつけて相殺した敵の鬼の拳に、黒が怨みの篭った刃を振るう。
     その時、陸から海へと風が吹いた。
    「いえ、この風向きなら――狗神さん、煙幕を使うと伝えてください。無堂さん、これを敵に投げて。僕はこの様なので」
     拳と肩の骨をやられた心太が差し出した筒を、理央は黙って受け取った。
    「狗神だ。煙幕を使う。利用出来るならしてくれ」
    「投げるよ」
     伏姫が無線機に言った一瞬の後、理央の手で、発煙筒が敵の中に投げ込まれる。一気に上がった人工煙は風に流され、敵の側に広がっていく。
     それでも煙の中から闇雲に放たれる銃弾や風の刃を掻い潜り、駆けて行く。
     戦場の外へ、少しでも遠くへ。
     撤退する直前に聞こえた、うずめの言葉。その後の敵の動き。
     伝えなければならないモノを抱え、敵中を突破した他の仲間と共に、灼滅者達は戦場を離れるのだった。

    作者:泰月 重傷:野良・わんこ(小学七年生・d09625) 
    死亡:なし
    闇堕ち:荒吹・千鳥(詠風・d29636) 
    種類:
    公開:2016年2月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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