鼻孔を擽る、甘い香りに瞬いて。
ふわりと揺れた芳しさは、カレンダーの文字列をなぞるように忠実に。
St Valentine's Day――日本では、愛を伝える日なのだと言う。
それは、何処か和の装いを感じさせるこのカフェ兼小物屋とて同じ。
クッション代わりのふんわりとした座布団に腰を落ち着けて、アンティークの椅子に腰掛ければ目の前に出されたチョコレイトの香りを暫し楽しむ。
寄り添い合った黒猫の尻尾が作るハートの取っ手。
白いミルクに融けたチョコレイトの様に、君の心にあればと願って。
「バレンタインデーだもの、わくわくしちゃう」
不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)の指先が、一つ、小さなチョコレイトを摘む。仄かなアーモンドの香りが芳しい其れを音を立てて噛み締めて彼女は一枚のチラシを差し出した。
「マナと汐先輩で偶然見つけたお店なんだけど、『和カフェ・花散里』。
バレンタインのイベントがあるらしいの。折角だから一緒にどうかな、って」
アンティークで飾られた店内は柔らかな白熱灯で照らされている。
爆ぜる暖炉の音さえも、何処か風流に思えてしまう程の。
「和菓子もあるけど、洋菓子もあるんだっけ?
和カフェって名の通り、抹茶とかもあれば――洋風に、ホットチョコレートとか?」
楽しみだと唇の端に笑みを宿した海島・汐(高校生殺人鬼・dn0214)はカフェのメニューを思い出す様に、フォンダン・ショコラやパルフェ、タルト、餡蜜……そして、オムライスやサンドウィッチなどの軽食メニューを口にした。
「併設の小物屋さんでお買い物も出来たり、御給仕のお手伝いも募集してるし、あとは匂い袋とかの作る体験会もしてるみたい?」
優しい華の香りが鼻孔を擽る、香り袋に思いを込めて――誰かを思って作れば、それはこの世界に1つだけのオリジナルになるだろう。
折角の日だからと店主も気合十分なのだろう。
「ね、折角の日だもの。大好きな人と、お友達とかクラスメイトとか、みんなの思い思いの人と過ごしましょう? マナ、ハッピーなイベントは大好きなのよ!」
皆へ幸福が訪れます様に、幸福そうに『ハッピーエンド』を紡いで。
●
芳醇な珈琲の香りに混ざり込んだチョコレイト。擽る香りに誘われて、木の扉を開いたならば暖かな光が漏れ出でた。
桃色の着物と白いエプロンとカチューシャを纏って、めろはテーブル席へと腰掛けた優京へと笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませ、ご注文は何に致しますか?」
――和カフェ『花散里』は御給仕手伝い・アルバイター募集中。
「抹茶と餡蜜を頂こうか」と柔らかく告げた彼は春の気配を感じる様に目を細める。
すき焼きが好きという情報をゲットして、今度は作ってあげようと心に決めた。それから、指切りをして彼の好きな餡蜜を一緒に食べようと誓い合おう。
抹茶白玉黒蜜パフェと焙じ茶、大福をオーダーした春陽はそそくさと席を立つ。女給の姿をすれば惹かれると告げた月人へと、ちょっとした悪戯だと春陽は着物を身に纏う。
「お待たせいたしました」
「あー、連れは席を外してるんでこっちに……春陽?」
小さな悪戯に可愛いと唇に乗せたら、次は思い出作りの話しをしよう。揃いのカップは共に過ごす日になればと頬を掻いて。
「実はな、和菓子は結構好きなんだよ、俺」
空の言葉に美智は彼の出身、仏国を思い浮かべ洋菓子派と微笑んだ。
抹茶パフェとホットケーキ、苺タルトを分け合おうと美智はスプーンで掬い上げる。
「はい、あーんです♪」
「ぬ……人が多い所でそれは、ちょっと恥ずかしいが」
折角のデートだと恋人同士の楽しみ方を味わって。空からお返しと差し出された一口を含んで笑いあった。
黒に赤椿を咲かし、髪に梅櫛を飾った結奈に似合うと頭を撫でた茨は濃紺の長着を身に纏う。
ホットチョコレートに白玉パフェ、苺のホットケーキを並べれば、机上は楽しさに満ち溢れる。鼻先にクリームを付けた大和撫子の姿に茨は小さく笑った。
「ん、クリーム付いてるし、取ったげるよ」
掬いあげた甘みを唇に含んで――この甘い時間に酔いしれる様に、頬を熱くする。
深紅に白百合を描く着物地のワンピースは愛らしい。紅音の隣に腰掛ける狼煙は眼鏡とワイシャツ、グレーのベストと店の雰囲気に合わせた装いで。
チョコレートミルクレープにミルクティ、珈琲とミルクレープと対象的なオーダーは食べ比べが出来ると狼煙の一寸した悪戯の心。
「あーん」
やられっぱなしじゃ悔しいから、頬に一つ口付けを落とそう。
「抹茶のホットチョコと、苺大福と相性がいいのに驚くわ」
曜灯の言葉に勇介は手元のストレートティが小豆と抹茶のパルフェにうってつけな事に笑みを漏らす。
隣同士、凭れかかる曜灯が差し出す苺大福に勇介は反撃する様にそっとハートの最中を差し出した。
「……こっちのも、美味しいよ」
照れ臭さよりも、今は幸福が胸を過ぎるから――美味しさも膨らんでいく。
和メイド服の裾を摘むユーリは恥ずかしそうに「変じゃない?」と首を傾げる。神父様への給仕サービスはドキドキの連続で。
「あーん」と差し出すスプーンに千尋は「かわいい」と笑みを浮かべる。
恥ずかしいと頬を染めるユーリに続き佳奈子が視線を右往左往させながら「どうぞ」とそっとフォークを差し出した。
「おいしい、ですか?」
勿論と笑みを乗せる千尋は恥ずかしげな彼女に逆にあーんとしたくなると冗句めかす。
ラストはタシュラフェル。くい、と顎を掬い上げた彼女の大胆さにユーリと佳奈子が赤く上気した頬を抑える。
「……顔が近いよ? ――どうせなら、口移しで食べさせてくれても」
それは、静かな所で、と囁いて。3人の給仕に千尋は瞳を細めた。
●
書生服に眼鏡をかけて、和装に緊張したポンパドールは女給姿のりねをみつめ「カワイイ」と笑みを浮かべる。
「おにいさんも似合うと思います」と頷くりねは慣れぬ給仕をスタート。しかし――給仕が心配だとポンパドールはりねをちらりちらりと見つめる。
休憩時間はクリームソーダとクリームあんみつを楽しんで、記念撮影と小物屋へ行こうと約束して。頑張ろうともう一度やる気を入れた。
藤紫を身に纏ったリュネットは「黄緑色はロニの色、ね」と微笑んだ。
どうだーと胸を張るローニィにリュネットは小さく笑みを浮かべた。
『季節のメニュー』を全部とはしゃぐローニィに「半分こしましょ?」とリュネットは唇に笑みを乗せた。
「リュネ、リュネ! ココア、ひげついてるぞ!」
「わわ、ついつい飲むのにムチュウになってしまったのよ……! ねえねえ、あなたにもおヒゲ、ついてるわ」
『おいしい』は友達と食べるともっともっと――それこそ倍になる位においしくなるものだのだから。
鳥の子色の着物は祖母のお下がりだと鈴は幸せそうに笑みを浮かべる。
臙脂の袴に合わせる為に父から拝借した紺の着物は何処か『オジさん臭い』かと千慶は頬を掻く。
「ねえねえちょっとちょうだい」と鈴は机の上に並ぶエビピラフやクリーム餡蜜、抹茶のパンケーキを分け合う提案をする。
ふ、とタイミングを逃したと千慶は鈴へと「袴も似合ってるよ」と微笑みかけた。
思い切り頭を叩いたのは照れ隠し。赤い顔を隠せないから――きっと、気付いただろうけど。
珈琲党だった自分が紅茶を飲み慣れたのは淹れてくれる人が居るからと壱はぼんやりと思う。
これもあげると、チョコレートにムースを乗せて、差し出す彼にみをきは嬉しそうに微笑んだ。
「こ、この今頂いたチョコ。一つしかなかったのでは……!」
飲み込んでしまった――口から飛び出す謝罪、反省、そして羞恥。頬に昇る熱にからかう様に壱は「俺のは後で」と悪戯めかして笑う。
「――あとで、必ず」
『ずるい君が食べるのは準備したチョコだけでいい』と黙って手を伸ばす悔しげな顔を思いっきり笑ってやろう。
書生姿は南瓜行列以来だろうか。敢えてのクール系で接客をこなすヒカリは『恋のキューピット』
天使みたいに可愛いし超似合うと思うと言う彼の言葉に真鶴は頷いた。
「さて、飲み物お持ち致しました」
仕事が終われば拗ね返った『あの子』のお土産を選ぼう――ハッピーエンドを運ばなければ。
矢絣袴姿に白いエプロンを合わせ、給仕に勤しむ陽桜は友人を見つけたと盆を手に、顔を上げる。
「真鶴さん、こんにち……えと、いらっしゃいませ、です」
「こんにちはなの! オススメは何かしら?」
笑みを浮かべた真鶴へ陽桜は頷き、お勧めメニューを指差した。
隅の席に腰かけて、和服姿の雄哉は抹茶と和菓子を口に含む。
「……うん、たまにはいいものだね」
和装で抹茶を味わい、和の空気に浸る雄哉へと汐と真鶴は声を掛ける。
「よ、一人? 皆と混ざらないのか?」
へらりと笑った汐にちら、と視線を向けた雄哉はふるりと首を振る。
皆と楽しめないんです――楽しんじゃいけない。その言葉の真意を探る様に真鶴は小さく首を傾げた。
●
大好きなものを、大好きなかたと分かち合える時間。
散耶は抹茶のシフォンケーキとホットチョコレイトを選びとる。沢山頼むのは折角の日だと笑う彼女へ乙彦も釣られて口元を綻ばせた。
「宜しければ、私のもどうぞ」
そう差し出すフォークを手繰り寄せ、抹茶タルトと違う味わいに彼は美味しいと瞬いた。
頬に上った熱の意味を手繰る様に「火弦――いや、散耶」と名前を呼べば、擽ったさが背を撫でた。
好きな人と一緒ならば何よりも楽しいと郁は修太郎へと微笑みかける。
バレンタインディの限定メニューを選ぶ修太郎に郁も「私も」と微笑みかける。ホットチョコレートとドーナツ。紅茶とチョコレートパルフェ。
何時もなら珈琲だろうにと首を傾げる郁の視線に修太郎は「口の中があっまーい!」と戸惑った様に肩を竦めた。
「僕のホットチョコ飲んでみる?」
「うん。じゃあ交換に」
差し出す生クリームに欲しい事がバレたかと修太郎は楽しげに笑って見せた。
隣り合って、腰掛ける悟と想希はメニューを視線でなぞる。
選びとったメニューを並べて二人で手でハートをつくり、写真を撮った想希に「らぶらぶフラッシュや!」と悟は満足そうに頷いた。
ふわりと落ち付く空気がそこにはある――
「俺の隣は想希専用に空けてあるから」
「君の隣だから、こうして落ち付くんですね」
寄せた肩と絡めた指先が、どこまでも暖かかった。
「瑠羽奈、どうですか? 似合ってます?」
和風のロリータドレスを身に付けた緋凍へと瑠羽奈は「優雅でお似合いですわ」と微笑んだ。
優雅なアフタヌーンティを満喫する様に『あーん』と差し出す緋凍に瑠羽奈は頬を赤らめる。
「こちらのタルトも美味しいですから。はい、緋凍、あーん」
ほら、とチョコレイトタルトを切り分けて向ける彼女に嬉しいと緋凍は幸福そうに微笑んだ。
「ふふー、美味しいおやつー。楽しみなのです」
満面の笑みの夕月にアヅマは落ち付くと和のテイストをその身で受けとめる。海外は男性からプレゼントする事もあると彼はサプライズに「奢らせて貰おう」と口にした。
「夕月さん、最近は依頼頑張ってるから」
幸福そうに、どれにしようかなと口々にメニューを告げる彼女へとお手柔らかにと苦笑を浮かべるアヅマは頬を掻く。
「じゃあ、アヅマ君、アヅマ君、バレンタインなんです。好きなのを一品どうぞ。私のおごりです」
幸福な時間はゆっくりと――ゆっくりと流れて行くものだから。
「どうしたんですか、漣。バレンタインデーにデートなんですから笑って下さいよ」
チョコケーキセットと抹茶をお供に仁恵は唇を尖らせる。
本命がいる手前、バレンタインだからこそ困っていると口にすれば「にえが相手だと不満です?」と意地悪く瞳が細められる。
「まぁ、ケーキ美味しそうっすから割り切って楽しむっすかね」
「そっちのケーキ半分分けて下さい。にえのケーキ一口分けてあげますよ」
悪魔の契約が如く、一口上げたから半分と等価交換(ニエイズム)を発揮した彼女へと漣はぽそりと呟いた。
「そんな事してるから太るんスよ、もー」
――その後、彼を見た者は…………。
●
カフェで一服。併設された小物屋へと向かう安寿の背を追って陽己はなれない空間に足を踏み入れる。
「和風のアクセサリーも可愛い……あ、このマグカップ素敵」
唇に乗せた笑みと共に安寿は花のモチーフを目にして「誕生花じゃないかな?」と陽己へと振り仰ぐ。
「いい機会だ。お互いで買って交換しよう。俺は水沢の蓮華を。水沢は俺のシャガを」
――決意の花だと口にする事は出来ないけれど。毎日共に在ると暖かさを感じさせてくれるだろう。
小太郎と希沙にとって好みの空間に心が弾み、「すごい」と笑い合うのも愛しさが膨らんで。
「これええな。何々、めお……と……ばし」
口にすると途端に気恥ずかしさが喉の奥から現れる。息を飲み、握りしめた商品の重みが頬に昇る熱と同じ様で。
「きっ、希沙さんがよろしければ、この辺のに……しません、か?」
頷きと共にレジまでの間、掌をぎゅっと握りしめた。
慣れない分野であろうとも真琴が楽しいならばと七波は小物を選びとる。
彼の選んだ尻尾でハートを形作るマグカップ。生活の端に存在する愛らしさに真琴は瞳を細めた。
「可愛いですよね……」
揃いで、と提案する真琴へと、バレンタインを満喫してくれるなら嬉しいと七波は微笑んだ。
――後で、チョコレートは貴方だけへ渡すから。
「あ、動物の箸置きなんてのもあるんですね」
可愛らしいなあと笑みを零した氷霧へと差し出された犬の様な狼の形の箸置き――犬の様だとでも言うのかと拗ねた氷霧へ伊織は笑う。
「あんたんお気に入りはこの子です? ほなそれはオレからのプレゼント、ってことで」
氷霧の手にした狐の箸置きをさらりと手にとってラッピングの依頼をする伊織を追って「仕方なく、なんですからね」と拗ねた様に氷霧は云う。
彼の手にした狼は、自分なのだろうかと心の端に少し止まって。
黒猫のペアマグカップ、何処か彼に似合う気がすると巽はそっと手に取った。
振り仰ぐ霧夜は彼の手にしたマグカップが屋敷に居る黒猫を彷彿とさせる。ふと、克ち合う視線で「何か、『俺に』贈らせて下さい」と巽は恭しく頭を垂れた。
「……これがいい」
和柄の長財を手にした彼に微笑んで、巽は「紅茶が美味しいそうですよ」とカフェへと彼を手招いた
この場所にあるものは新鮮だから――「ちぃ」と呼ぶなでこが選びとった簪に、千聖はちりめんの撫子ヘアゴムをなでこへと手渡す。
目新しいアクセサリーに二人揃ってお姫様みたいと微笑んだ。
「これ、ちぃみたいでかわええなあ」
「だったらなーちゃんはこの子だね!」
てのひらサイズの小さなクマと桃色ちりめんの耳をした犬を手にとって。これにしようと二人で決めた。
「ところで、朔は今年どんなチョコにするんだ?」
嵐にとっては恋人との初めてのバレンタイン。勿論、朔之助は思いが通じたばかり。
ハート型と口にする事さえも覚束無い彼女に嵐は思わず笑みを零す。
「あ、嵐ちゃんは――」
これに、と即決した声は、嵐の愛しい彼をイメージする小紋柄の藍色の匣。朔之助が手にした青地に金を散りばめた小物もイメージに合致して居て。
「二人の喜ぶ顔、早く見たいな?」
勿論、早く見たいと朔之助は嬉しそうに大きく頷いた。
●
「おや、匂い袋ですか」
やってみたいと微笑む薫へと一緒にやろうと翔也は白地と薄緑色の袋を選び取る。
部屋のインテリアに合う様にと真剣に選ぶ彼を見つめて、緑が自分、白が彼なのだと気付いた薫は頬に熱を募らせる。
「共用するならラッピングはなくても良い気がしますが、折角ですし」
包装紙と彼をイメージした焔の赤で巻き付けて。使うのが楽しみだと翔也と薫は笑い合った。
水色の生地に、『桜』の香りを合わせるのは想いから。薄桜の地に桜と鈴の絵を描いて花音のイメージに会うと満足そうに朔楽は香りを選ぶ。
「僕、白檀好きなんだよね」
選ぶ香りに、ラッピングを施して、朔楽は瞬いた。濃紺の水色に桜飾りと金の鈴を飾った花音手製のラッピングは朔楽のサーヴァントをイメージしたと微笑みを浮かべた。
「桜うさぎさんですっどうぞですっ」
濃紺に白檀ベースに桂皮を入れて落ち付いた雰囲気を作り上げた紅子はちらりと傍らを見詰める。
奏夢をイメージした匂い袋から想像する情景は――今日の事かと彼は冗句めかして笑って。
紅茶と比べれば小物はセンスを問われると赤と白の千鳥柄で金魚を作る奏夢は華やぐ金木犀をこっそりと詰め込んだ。
「薫りで紅子がきたって分かるのはいいかも」
「すぐに奏夢を傍に感じられるね。あ、普段からやし変わらんかな?」
二人だけの時間を感じられる――次は、香りを纏って何処か遠くへ行ってみようか。
笑みを零す成海が手にしたのは雪輪桜紋が彩る白地の布。雪解け水を思わせて――吉祥文様が似合う人へと仄馨る桜を選ぶ。
「ステキな文様のお布も好いけれど、ニッポンといえば刺繍も大好き」
雪の様にまっさらな木綿に空色の糸で描く思いは白檀に柑橘とバニラを潜めて。
贈りたい人はどんな人と、問い掛け綻ぶ表情に「妬けちゃうじゃない」と冗句めかして。
星型の匂い袋を手に乗せてイコは「馨るのは想う心ですもの」と唇に笑みを乗せた。
「こういう事してると、いかにもカップルって感じだな」と茶化す高明に桜花は頬をカッと赤らめる。
鷹を描いた布地に星を縫い付け、シダーウッドの香りを詰め込めば青のリボンでまとめたシンプルな品が出来上がる。
「射撃で失敗しないように、落ち付きそうな匂いを選びましたわ」と得意げな彼女へと華やかな花柄と無地を合わせたテトラ型の匂い袋を手渡した高明は微笑んだ。
「爽やかで元気あふれる南国気分、プルメリアは君にぴったりだと思うぜ?」
繋いだ掌の温もりに、頬の熱さが、ああ、もう――
「香りって五感の中で一番記憶と結びつき易いって友達に聞いた」
一緒にお香を組み合せようと笑う璃衣へと翔琉は頷く。互いを作り合うのもいいと彼が選んだ桜の香にほんのりとアーモンドを混ぜ込んだ。
彼女の誕生花を閉じ込めるのは薄桜色に小花を描いた袋。対する璃衣は黒と金の和柄に上品な甘さを閉じ込めた。
「この香りを嗅ぐ度に思い出すのは今日の事――より璃衣のことかな?」
世界で一つだけの璃衣(かおり)を纏った翔琉――そんな言葉へと何年一緒に居ると思うんだと挑戦的な彼女から受け取って。
真剣な表情で作るスヴェンニーナの横顔を見下ろして流が小さく笑みを零す。
薄紅のちりめんにゼラニウム、シダーウッド、レモンを少々。独占欲が生まれた気がすると彼女は唇を噤む。
白地のちりめん友禅柄に百合を詰め込んで、唇に乗せた独占欲――「俺も随分、欲張りになったな」
聞こえてしまったその言葉に、かぁと頬に上がった熱のを感じスヴェンニーナは俯いた。
「にお、い、ぶくろ……。にお、い、えらん、でも、いいで、すか」
呟く初衣へと朱彦は「初衣さんにとて、ええ匂いなんやったら俺も嬉しい」と笑みを零した。
牡丹と白檀は甘く辛く大人の香を思わせて。牡丹の袋に雪の結晶を付けた彼女の独占欲はちらりと見せた。
淡い水色に雪の結晶を添えて。白檀と竜脳の爽やかな香を朱の紐と鈴で閉じ込めれば互いの色に、香がほんのりと揺れている。
●
悩ましげな心桜の真剣な表情を明莉は見詰め小さく笑みを零す。明莉に関する事ならば特に真剣だと気合を入れる彼女が迷った末に手に取ったのはペパーミント。
銀糸で刺繍された和の巾着で詰め込んだ香りに気付く様に、「心桜はどんなの作ったんだ?」と冗句めかして彼は聞く。
『ここあ型』に詰め込んだ優しげな香りを桃紐で閉じ込めて。内緒と笑った明莉の袖をくいと引いた心桜は「明莉先輩、抹茶ミルク飲みたい」と呟いた。
手先が器用ではないという雪音へ「何故ちゃれんじゃー精神を発揮するのじゃ」とルティカは肩を竦める。
勿論、針に糸を通す事を苦戦するのはご愛敬。対するルティカは器用なもので作業は随分と進んでいる。ラベンダーの香を選ぶルティカに対し、ユーカリの葉を詰め込んで雪音は誰へ渡すのかとルティカへと問い掛ける。
「――クラスメイトへの土産じゃ。さて、小物も見に行こうぞ」
贈り物は何がいいかと手にした黒地に少しの花を飾ったちりめん。
安息香を混ぜ込んで、朱紐と鈴で飾った依子は「男の子には甘いかも」と小さく笑った。
指先サイズの水晶の梟を香りと共に忍ばせて不苦労、福朗、猛禽の目は彼に似ていると針と糸に籠めた縁起と共に。
「彼を護ってくれます様に」
小さな巾着袋は舞い散る紅葉と一頭の獅子の姿がしっかりと描かれている。
普段からお世話になっている相手へとチョコと共に贈ると意気込む空は優しく暖かい、見守られている様な――そんなイメージを描いて懸命に用意していく。
「どんな香りがいいですかねっ」
悩ましげな空に萌愛はアドバイスしながらホワイトティーに丁子や桂皮のスパイスを加えていく。
「これなら、男性でも変じゃないでしょうか?」
どうですかと汐へと問い掛ける彼女へと、鼻孔を擽る香りに「いいチョイスだなぁ、ほっとする」と頷く。
深い藍に西木糸で細やかに石蕗が刺繍された香り袋は胸を落ちつけて、彼女はほっと息を吐いた。
赤い髪と纏う焔が映える様。朱に金糸で破魔文様を刺繍して。華月は心をこめて作り続ける。
陽の光りを感じられるような――柑橘の香りに願いを込めて。
金茶の和紙へ杏色のリボンを掛ける。護る事が信条だと言う人の心を護れる様――祈りと共に呟いた。
「どうか、貴方に幸いあれ」
共に過ごした春の香が鼻孔を擽って紡は目を細める。優しい桜の香りを薄紅の花を形に選び、針を進めるのは秒針の如く――
傍に在れる様にと祈りながら、優しい夜の色纏った藍染めのストールと共に、思い描くのは春の宵。
「喜んでくれる、かな」
恋心揺らした冬の日は、仄かに暖かく花芽吹く頃だった。
作者:菖蒲 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年2月13日
難度:簡単
参加:78人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 0
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