デッド・ステーション

    作者:雪月花

    ●あるサラリーマンの日常、そして……
     郊外に憧れのマイホームを買って、早十数年。
     朝は満員電車に揉まれ揺られ、会社ではしがない管理職。
     残業に追われ、会社を出るのが終電間際なんてザラだ。
     朝顔を合わせる妻以外に、家族と過ごせるのは日曜祝日くらいなもの。
     大きくなってきた息子は最近なんだか反抗的で、年頃の娘も目を合わせてくれない。
     彼はそれでも、働き続ける。
     愛妻弁当が、いつしか会社近くの定食屋のワンコインランチに変わっても。
     事業仕分けの如く小遣いが大幅に削減されても。
     家族の寝顔を眺めては、こいつらは自分が守るんだと疲れた心身を奮い立たせて。
     そう、いつか子供達が立派に巣立って、ちょっと寂しくなった家で妻とふたりのんびり暮らす日が来るまで、変わらない毎日が続くと思っていた。

     その日も帰りは遅く、深夜のホームには殆ど人気がない。
     近くに自分と同じようにお疲れ模様のスーツ姿の女性が1人、ベンチに横たわっている、ネクタイを緩めた酔っ払いらしい男性が1人。
     ホームに出て来た駅員が、酔っ払いの状態を確認しようとこちらに向かってきている。
     竹尾・等(たけお・ひとし)は彼らから視線を移し、まだ電車が到着する様子のない暗い線路の先のランプを眺めた。
     いつもの変わらない風景。
     このままいつも通り、やって来た電車に揺られて帰宅する、筈だった。
    「……?」
     闇の中で蠢くものがあったような気がして、等は訝しげにその一点を凝視した。
     何かがいる。
     等が眺めている間にもそれは近付いてきていて、人の形をしていることが分かった。
     やがて、ホーム脇の階段を上ってきた集団が電灯に照らされた。明らかにおかしい。
     土気色の肌、所々破れた服に、損傷した箇所から流れた血の跡が残っている。
    「な、なんだ……!?」
     駅員も女性も、突然訪れたホラー映画の一幕のような光景に唖然としている。
     等の呟きも飲み込むように、死者の行進は彼目掛けて突き進んでいた……。
     
    ●そして教室
    「日夜家庭を守る為に戦い続ける企業戦士。彼がノーライフキングの眷属どもに襲われる未来をお前達に告げろと、サイキックアブソーバーが俺を呼んだ!」
     パズルのピースが入った袋を握り締めながら、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は眼光鋭く口火を切った。
    「眷属達はノーライフキングの命を受け、有能な配下となる人間を主の許に連れて行こうとしている……勿論、死体としてな」
     今回そのターゲットとなったのは、竹尾・等という中年男性。
     ちょっと後退し始めた額と段々出てきた下っ腹、お年頃の子供達との関係が悩みの、気の優しげな男性だ。
     職場では少し頼りなく見られがちなものの、部下思いで好かれているらしい。
    「放って置けば彼だけでなく、その場にいた一般人も一緒に殺され、連れ去られてしまうのは必定。お前達の使命は、眷属達を迎え撃ち、彼らを死の軍勢から救い出すことだ」
     ダークネスが支配するこの世界では、現状救える可能性を見出せる一般人は一握り。
     それでも、圧倒的な力で蹂躙されていく人々を見過ごす訳にはいかない。
    「お前達は、普通に乗客としてホームに入ってくれて構わないが、あまり大人数の姿が襲撃前の眷属達から見えるのは好ましくないな。それと、襲撃を受ける前にホームにいる一般人達と接触するのは避けた方が無難だろう」
     全員でなくとも何処かに隠れるなりして、人数を少なく見せた方がいいようだ。
    「眷属のゾンビ達は15体程か……爪や牙に毒を持つが、幸い遠距離に及ぶ攻撃手段はなく、耐久力が高めな以外はあまり強くはない。
     ただ、ポール状の武器を持った1体だけは強化されていて、強力な打撃を放ってくるから注意してくれ」
     普通に戦って殲滅させるだけなら、充分集まった灼滅者達で遂行出来る相手ではあるというが。
    「何分にも、その数とホームの広さが問題だ。人命を考えれば、一端避難誘導に回る者がいるといいかも知れないが、そちらにあまり人数を割いてしまうと、今度は食い止める側の負担が大きくなるからな」
     他の一般人はホームの外まで出られればとりあえずは安全だが、ターゲットとされている等は執拗に狙われるだろうとも言う。
     説明しながら、パズルのピースを一般人と眷属達に見立てて机の上に並べていたヤマトが顔を上げた。
     その目には、信頼の光が宿っている。
    「彼らの命が蹂躙されてしまう運命……それを変えられるのはお前達灼滅者だけだ! 頼んだぞ」


    参加者
    東雲・由宇(神の僕(自称)・d01218)
    篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)
    双麻・陽向(泰の光・d01915)
    ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)
    風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)
    ティファーナ・ルーナ(聖光たる誅魔の清銃侍聖女・d04034)
    九条・村雲(サイレントストーム・d07049)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)

    ■リプレイ

    ●冷たい闇の彼方から
     つんと冴えた空気が鼻を抜けていく。
     深夜の人気の少ない駅のホームは、降り注ぐ蛍光灯の光も何処か寒々しくて、篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)は思わず首を縮めた。
    (「うー、深夜の寂しいホームでゾンビさん達を待つとか、すごく……ホラーな感じです、ね……」)
     曇りのない翡翠のような大きな瞳で、ちらと右の方を見遣る。
     近くにあるベンチの上で、さっきまでぐてっと寄り掛かっていた男性が重力に負けたように姿勢を崩し始めていた。
     少し離れた白線の内側には、色々な意味でちょっと丸い感じの、コートを着た男性がいる。
     あれが等だろう。
     ホームを抜けていく冷たい空気が、心許ない前髪を揺らしている。
     もっと遠くに立つ女性と等の間くらいに、他のホームや改札口と繋がる地下道への階段があった。
     ホームにいる者からは姿が見えないが、灼滅者達の半数はそこに身を隠している。
    (「深夜に死者の行進見るとかトラウマもんよね……」)
     何もなくとも不気味さを感じてしまう雰囲気が、夜の駅にはある。
     冷たい壁に背を凭せ掛けながら、東雲・由宇(神の僕(自称)・d01218)はふぅと息を吐く。
     薄っすらと白くなった空気が掻き消えるのを、双麻・陽向(泰の光・d01915)が柔和な表情で眺めている。
     壇上から頭部や武器が見えないよう、姿勢を低くしながらじっと待つ九条・村雲(サイレントストーム・d07049)は、齢17にして寡黙な男という言葉が似合いそうだった。
     シスター服を纏ったティファーナ・ルーナ(聖光たる誅魔の清銃侍聖女・d04034)は、そんな彼の横で階段にちょこんと腰掛けている。
    (「エイティーンが使えれば良かったんだけど……」)
     活性化していないサイキックやESPは当然使えないものの、仲間達に紛れて自動改札を抜けたお陰か、目立たずに済んでいる。
     眷属との戦いの時は姿を見せずにはいられないけれど、きっとゾンビ達のインパクトの方が強烈だろう。
     防具を重ねて着ることは出来ないけれど、防具の形状が妨げにならなければ、殲術道具ではない普通の服を上から着ることは可能なようだ。
     頼もしい仲間達もいるし、気合を入れて頑張ろう! と拳を握り締めた小鳩だけれど、
    (「や、やっぱりちょっと恐いので、にゃんこな人達を眺めて癒されましょう。うんうん」)
     こくこく頷いて、今度は左を見遣る……と、少し先にいた黒猫と目が合った。
     猫に姿を変えた西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)はニイィ、と赤い眼を細める。
    「……」
     ちょっと怖かった。
     もう1人猫になった仲間がいた筈と眼を凝らすと、長身の若者――ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)が静かに佇む向こうに、その小さな黒い背が見えた。
     しかし、風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)は線路へと降りる階段の側に腰を下ろして眷属の警戒に余念なく、熱い視線を送っても振り向いてくれそうにない。
    (「た、頼みのにゃんこがー」)
     切ない心の声は露知らず、彼方の腰が軽く浮いた。
     眷属達の蠢く様が、闇に紛れてゆっくり近付いてきている。
    「……もう少し、引き付けてからの方がいいかもな」
     尻尾をブンと揺らす彼方に、ホームの備品の配置などに目を配っていたヴェルグが小さく声を掛けた。
     いち早く気付いた自分達が動き始めてしまうと、まだ眷属の姿を確認していない一般人達がどう反応するかも予測出来ない。
     ヴェルグは改めて、脇の階段以外にホームへ上れる場所がないか確認した。
     階段はホームの反対側にもあるようだが、そこまで大回りして来るような頭は眷属にはなさそうだ。
     と、視線を巡らせていると、等がこちらをじっと見ているのに気付いた。
     正しくは、ヴェルグ達の先にいる、眷属達を見ているのだろうけれど……。
     反対側の隅にいた駅員も、酔っ払いに声を掛けるべく近付いてきている。
     頃合か。
     彼と視線を交わした彼方はピンと尻尾を立てると、変身を解いてある物を口に運んだ。

    ●築くは救いの導
     合図の笛が鳴ると同時に、ヴェルグが仲間を呼ぶ大きな声。
     駅員のホイッスルとは違う、何処か丸みを帯びた音は、彼方が持ってきたリコーダーの頭のものだった。
     間髪入れずホームへの階段から待機していた灼滅者達が飛び出し、小鳩もカードの力を解放する。
    「仕事開始だ……」
     ホームの白線の上を、村雲を乗せたライドキャリバーが滑り出す。
    「クク、時間だ、相棒。ヒハハハ……!」
     赤い眼の黒猫が、体毛そのままに黒尽くめの人の姿を取る。
     柄と刃が一体化した黒い鎌を握ると、紙のように白い顔に嗤いを浮かべ、ぎょっとしている小鳩と共にホームの端へと駆けていく。
    「な、なんだ?」
     予測とは若干異なるニュアンスで呟く等はとりあえず置いて、陽向はホーム端に直行する村雲と別れて酔っ払いと駅員の許に留まった。
    「ここは僕達に任せて」
     いきなり走り出した若者達に、事態が飲み込めていない駅員に優しく声を掛けると、徐に酔っ払いの寝ているものの隣のベンチに腕を伸ばした。
    「よっこい……しょっと」
    「き、君達一体……」
     掛け声の割に軽々とベンチを抱える少年に目を白黒させていた駅員だったが、等がじっと見ているホーム端に目を向けて固まる。
     階段を境目に、戦いは既に始まっていた。
     5人の灼滅者達が、代わる代わる階段に立つ眷族に攻撃を加えている。
     階段の幅はたいしてなく、一度に上がれる眷族は詰めてやっと2列。
     あぶれた眷属達が呻きながら階段脇のホームの下にまで広がっているが、登ることも出来ずにぺちぺちと灼滅者達の足許を叩いたり引っ掻いたりしている。
    「貴様らなら、これも耐えられるかァッ!?」
     その手も武器も覆わん限りの鮮血のような炎を迸らせて、織久は大鎌を一振りした。
     炎に舐められた階段とホーム下にいる眷族達に、今度は十字架の光が放たれる。
    「絶対にこのホームの人達は、誰一人ノーライフキングには渡さない……!」
     まだあどけない顔に決意の色を浮かべた彼方の前で、役目を終えた十字架が消えていく。
     彼も、訳も知らずに屍王に狙われていた頃があった。
     まるで背に負った傷跡と共にある悲しい思い出が、多くの敵にも立ち向かう力を与えてくれるようだ。
    「うぅ……」
     恨めしげな顔のゾンビとご対面した小鳩は、緋色のオーラを宿したチェーンソー剣を思いっきり突き出した。
     村雲が降車したライドキャリバーがすかさず彼女を守るように前に出て、村雲が構えたバスターライフルの援護射撃がその頭上を飛び越えて眷族達に降り注ぐ。
     ヴェルグもバリバリと小鳩の攻撃に体力を持っていかれた眷族に向け、捻りを加えた槍の一撃を見舞ってやった。

    「終わるまで私達の後ろに隠れてて!」
     離れた場所からベンチを抱えてきた由宇の言葉にも、動けずにいる駅員を追い越して、並ぶ自動販売機と接するように持ってきたベンチを下ろす。
    「ゾンビの側が背になるようにね」
     陽向もここが防衛線になった時の状態を考えて間を残し、ベンチを整えた。
    「大丈夫です、神様とボクたちがお守り致しますから」
     ティファーナが微笑み掛けると、等は不思議そうな顔で見返している。
     突然現れたゾンビ達と、それに抗う若者。
     日常の中に生きてきた者にとっては、奇想天外なことだろう。
     彼らが立ち尽くしている間に、簡易なバリケードの設置は終わった。
     スペースを上手く使えたお陰で、ベンチの数も少なくて済んだ。
    「よし……みんな、バリケードの準備は出来たよ!」
     割り込みヴォイスを使った陽向の声が、眷属を食い止めている灼滅者達の背に阻害なく届き、村雲が片手を挙げるのが見えた。
     彼らが後退を始めると、眷族達もぞわぞわと追い掛けてきた。
     身近に生きている者がいるせいか、進攻は5人の速度に合わせて行われているように見えるが……等を気にしているような素振りを見せる死体もある。
    「ここはとにかく……避難しないとね」
     陽向が徐に酔っ払いの手を取り、軽々と背負ってしまうと、今度は由宇がパニックテレパスを発動した。
    「んじゃあ逃げましょうか、ついてきて!」
     急に不安げな様子を見せ始めた一般人達に号令を掛けて歩き出すと、彼らもそれに付いて来る。
     背を向けた等や一般人にに反応したように、ぽつぽつと5人から離れていく眷族達。
    「ヒハっ……させるか!」
     早足になり掛けた奴らが、織久のバニシングフレアで焼かれていく。
    「お前たちはここで全滅するんだから、氷漬けになっちゃえ!」
     今度は彼方のフリージングデスが、眷属の1体を凍てつかせるが、まだ倒れるに至らない。
    「ま、まだ倒れないんですかー」
     ざしゅざしゅと氷ごと服を裂くようにラッシュで斬り込んだ小鳩が、悲鳴にも似た声を上げながらバリケードまで退避する。
     ヴェルグが旋風輪で追い縋る眷族達を蹴散らしている間に、村雲とそのライドキャリバーがバリケードの間を埋めた。
     今、眷族達に接しているのは織久と村雲、そしてライドキャリバー。
     広がった眷族達が押し寄せて、ギシギシ鳴るベンチを押さえたりしながら、残る3人も応戦した。
    「降り注げ!」
     キャスターに移行した彼方が、天星弓に番えた矢を高く掲げて次々と放った。
     遠距離の攻撃なら、ベンチを跨いで眷族達に当てることが出来る。
     流星雨のような矢を受けた眷族達の1体が、漸くぐらりと傾いで膝を突く。
     でろでろと溶けていく骸を、押し合いへし合い前に出ようとした仲間達が踏み潰していく……。

    ●耐え凌いだ先に
    「バラバラに逃げたりすると危険ですから、お声を掛けるまでは此処を動かないで下さいね」
     地下通路を経て改札の前に逃れた一般人達が、ティファーナの声に素直に頷いている。
    「何があったんですか?」
    「それが……」
     出てきた駅員に、ホームから脱した駅員が説明をするものの、要を得ない反応が返ってくるばかり。
    「しょうがないな~」
     埒が明かないと判断した由宇はもう一度パニックテレパスを使った。
    「落ち着いたら伝えに来るから、それまでホームに来ちゃダメよ」
    「あ、この人お願いします」
     言い含める彼女の傍ら、陽向は全く目を覚ます気配のない酔っ払いを駅員に引き渡した。
    「この状況でよく起きないわね……」
     意外と大物なのかしらと呆れる由宇。
    「戻りましょう、みんなが心配です」
     ティファーナはそう促すと、傍らに浮かぶビハインドのラミア・ナルガを見遣った。

     ホームに作られたバリケードでは、熾烈な持久戦が続いていた。
     あれから何体かは倒したものの、眷族達の数はまだ両手に余る。
     一撃のダメージは然程でなくとも、何体もの敵が次々と入れ替わり攻撃を仕掛けてくる状況では、毒の力を抜いても体力の減りが早い。
    「変わります!」
    「……頼む」
     蓄積するダメージの上に、更にポールの一振りを受けた村雲の前に割り込むように、小鳩は踊り出ながら炎の翼を広げ、仲間達の傷を癒していく。
     彼方が後ろに退った村雲に温かな光を注がせ、治療を引き継いだ。
     多くの攻撃を引き受けていたライドキャリバーは倒されてしまい、その場はヴェルグによって埋められている。
    「ヒ、ヒハハハハ!!」
     狂ったような笑い声を上げて回復を図る織久にちょっとビクつきながら、
    「で、できるだけ早めに片付けますよー!」
     と声を上げる小鳩。
    「ま、同感だな」
     レーヴァテインの炎で攻撃の集中している眷族を焼き払いながら、ヴェルグも呟いた。
     これで5体目。
     着実に討ち取ってはいるが、まだ3分の1だ。
     今のところはなんとか凌いでいるものの、ポールを武器とする眷族の攻撃を食らってしまえばうっかり倒れかねず、予断を許さない状況が続く。
     先は長い……。
     と気が遠くなりそうになっているところに、階段から響く靴音が聞こえた。
    「お待たせ!」
     バリケードを守る灼滅者達に駆け寄りながら、陽向はにっこり笑って傷を負った面々にヒーリングライトを施していく。
    「大分くたくたみたいだけど、ここからが正念場よ……死者らしく大人しくしてなよ」
     高速演算モードで脳を活性化させた由宇は、降臨させた眩い十字架の輝きを眷族達に浴びせ掛けた。
     攻撃の手が緩まった敵に、全員が揃ったことで勢いを増した灼滅者達は次々と攻撃を集中させていった。
    「ボクは回復をするから、ラミア、お願い!」
     ティファーナが仲間をジャッジメントレイで癒す傍ら、ラミアは銀の髪を靡かせて銃を構え、ティファーナの願い通り仲間達を援護した。
     中・後衛が揃っただけでも戦線はぐっと安定し、眷族達は順調に数を減らしている。
     倒せば大体の眷属は溶けて消滅していくが、何体かはそのまま残ってベンチの背凭れにだらりと寄り掛かっていたり、他の眷属に踏まれてもみくちゃになってしまっていた。
     これもまた、屍王の餌食になった者達の末路か。
     灼滅者達の胸に過ぎる思いも、様々だ。
    (「等さん達の許へは行かせない――!」)
     契約の指輪から魔法弾を放ちながら、陽向の瞼に過ぎる顔。
     大切な、とても大切な家族がいるだけに、等が愛する家族の元に帰れるようにという思いもひとしおだった。
    「西院鬼さんはやらせないよ」
     由宇から鋭い光条を受け取りながら、織久は嗤いながら大鎌を予測出来ない方向から振るう。
     服ごと引き裂かれた眷属に、彼方のフリージングデスが決まる。
     凍え付きながら傾いでいく骸。
     あと1体、残るはポール状の武器を持つ眷族のみ。
     生前筋骨隆々だったらしいそのゾンビは、濁った叫びを上げながら武器を振り回す。
     破壊的な攻撃を掻い潜って体力を削っていくのは大変だったが、バッドステータスに絡め取られて動きが鈍くなったところに一気に畳み掛けていく。
     村雲が二丁の銃を構えると共に、ヴェルグが敵の懐に飛び込んだ。
     螺旋を描くように槍を突き込み、胴を蹴って刃を引き抜くと共に飛び退いた瞬間、村雲の銃が火を噴いた。
    「死者は死者らしく土に返るのだな……」
     当たり違わずゾンビの胸を射抜く銃弾。
     ポールを派手に転がしながら、最後の眷属はどうとホームに倒れた。

    ●夜のしじまに
     静けさを取り戻したホームに、電車が滑り込んでくる。
     バリケードに使ったベンチはとりあえず元の場所に戻したものの、ホームの端の方には若干眷族達が残した妙な跡が残ってしまっていた。
     形がそのまま残ってしまった遺体は、村雲達が担いで何処かへ運んで行ったお陰で、跡形もないけれど。
     なにやら腑に落ちない顔をしている駅員が笛を吹くと、等を乗せた電車のドアが閉まった。
     ホームに立つ灼滅者達を前に、彼の唇が動く。
    『ありがとう』
     と。
     仲間達と一緒に走り出す列車を見送りながら、由宇は目を細めた。
    「大丈夫、これからも変わらない日が続くよ。
     その為に私達がいるんだから……」

    作者:雪月花 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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