バレンタインデー2016~プレゼントを探して

    作者:君島世界

     バレンタインデーを目前にしたショッピングモールは、例年以上に賑やかであった。
     モールの中央、特設催事会場に所狭しと並ぶのは、全国の有名スイーツショップからの出店カート。その上に行儀よく陳列された、なかなか手に入れられないような高級チョコレートは、まさしく飛ぶように売れていた。
     周囲の雑貨店群も、品揃えでは負けてはいない。冬の寒さのピークを――あるいは、いずれ来る春を迎えるための装いであったり、一年中使える小物であったり、そういったプレゼントに最適な品を店先に並べ、ついでにプライスオフの札を挿して、チョコレート狙いの紳士淑女を招くのだ。

    「ええ、仁鴉さんにも材料用のチョコね。予算は? ……うわあ」
     スマートフォン片手にモール内を行くのは柿崎・泰若(高校生殺人鬼・dn0056)だ。自分用に購入した薄手のマフラーを早速かけ、ゆっくりと次の店へと行く。
    「いやいや、私も基本家族チョコよ、仁鴉さんと同じで。それでも結構な量なのよねー。実家のおじいちゃんと、父さん母さん、兄ぃが3人に妹2人……は」
     ふと、とある存在と目が合った。チョコ色の毛につぶらな瞳、ずんぐりむっくりの体格の……要はクマのぬいぐるみである。ちなみに手乗りサイズ。
    「――これでいっか。じゃ、何か追加とかあったら連絡頂戴な」
     泰若は瞳の色違いのクマを3匹かごに入れ、店の奥へと入っていく。

     会場にはラッピングサービスを行うコーナーもある。あくまでハンドメイドにこだわる人のために、簡単なラッピングを教える催しもあるようだ。
     用意したプレゼントを、鮮やかな包み紙で包み、リボンをかけてメッセージカードを添えて。特別な想いを、特別な日に、特別な人へ送る為には、一手一手に真心を込めて飾るのが極意だという。
     バレンタインを目前に、あなたも一度、ショッピングモールに出かけてみませんか?


    ■リプレイ

    ●前日譚
     ――気づかれないように。
     玉城・曜灯はそっと、草那岐・勇介の背中を眺めていた。
    「父さんと母さんには去年、手作りチョコを上げたんだけど、今年はどーしよーか。曜灯は?」
    「え、あたし? あたしは、ね……」
     腕を組む勇介に、曜灯は横に並んで一緒にショーウィンドウを見上げる。
    「パパとママへのプレゼント、毎年すごく難しいのよね。その、パパがなんでも出来ちゃうから」
    「そっか。曜灯も結構悩むんだね」
    「そうよ」
     ちら、と横目で見る。思い悩む様子の2人を見かけ、三國・健が助勢に入った。
    「父ちゃん母ちゃんかー。誕生日とか記念日辺りにプレゼントって考えなくもなかったけど、そりゃ折角のチョコ祭りだし? 誰かに貰えるってならマジ嬉しいけど何がイイだろうなー?」
    「あはは、何それ健ちゃん。アドバイスなのに一緒に悩んじゃってる」
     と、戻ってきた羽柴・陽桜。
    「いっそ共同で何か作るってのもありかもね。なんでも出来るといっても、子供からのプレゼントは嬉しいもんだと思うよ」
     なるほど……と勇介が店内を探すと、ふと気になるアイテムが目に入った。
     ポップコーンメーカーだ。突撃する勇介に曜灯がついていく。
    「わ、これいいなあ! 自分が欲しい! ね、曜灯?」
    「ああもう、子どもなんだから……!」
     はしゃぐ勇介と苦笑いする曜灯に、陽桜は目を細めて。
    「ところで健ちゃんは? プレゼントする予定とか、こんなの欲しいとか――あ」
    「じゃあさ、ポップコーンにチョココーティングしてみるのは? 最近あるだろ、揚げたポテトに――」
     というのが、【ものくろきねま】の今の日常。

    「今回はありがとう、美冬さん。俺1人だけだと、洋服を買うのも一苦労で……」
    「七海さんと一緒に買い物するのは楽しいですから。あ、荷物持ってもらっちゃって、ごめんなさいです」
    「ふふ、大丈夫です」
     んしょ、と荷物の持ち手を直し、笑顔で返す七海・莉緒。
    (「そういえばそろそろ、バレンタインかぁ……」)
     うーん……としばし物思いにふけると、先を行く天城・美冬が立ち止まり、振り返っていることに気づいた。
    「っと、ごめん。ちょっと考え事してた」
    「ですか……? では、一体何を」
     莉緒の中ではもう答えはでていた。ただ、少しの気恥ずかしさがあって。
    「ちょっとの間だけ、ひみつ。楽しみにしてて」
    「はい。では、楽しみにするですよ」
     そう答えた美冬の掌は、言い訳を探すように、すこしだけ宙をさ迷った。

    「えへへー。久しぶりのおデート、だね」
     うきうきとモール内を歩く少女、柏木・たまき。
    「まずは小物屋さんからでしょうか、お互い目的は、『すきな人への贈り物探し』ですから」
     共に行く鈴木・昭子も負けじと、鈴の音軽やかに。
     ――どちらが先を行くとも、後を行くともなく。
    「ところで、たまきちゃんは、何色がすきですか? 品物探しの参考にしましょう」
    「んぅ、私? 私は……白、かな。どんな事も優しく受け止めてくれるような、……まるで昭子ちゃんみたいだよ、ね。
     昭子ちゃんは、何色が好き……かな?」
    「わたしは……そうですね。ピンク、桜色、春のいろ。冬を越えて咲くような、弱いけれど強い色、そんなすきなひとの色が、わたしのすきな色、なのです」

    「デートしましょ、レイ! ……気分くらいは浸りたいの」
     と言われて、まさか拒否権も無いだろうとやってきたレイ・エトワブランである。デート相手のラーナ・セルクシノエは、上機嫌にお店を眺めていた。
    「チョコ、自分でも買いたいな……でも甘いものの食べすぎは……」
    (「……彼女からの好意に関しましては、返事をしたつもりなのですが」)
     不思議と楽しさを感じている自分を、面白いなと思うレイ。ふと、目に付いた一輪の花を、ラーナの隙をついて購入してみた。渡す。
    「え、アタシに……?」
     ……おや、ラーナさんが固まりましたね。
    「僕に見とれたのですか」
    「お、王子様みたいだからって見とれてなんかないわよ、バカっ!」
    「さて、そこまでは言ってませんよ」
     売り言葉に買い言葉で、これならいつもどおり。

    「おまたせ侑二郎! これも荷物持ち宜しくねー」
    「……っとと、ふう」
     杜乃丘・ひよりの手によって積まれる化粧箱を、森村・侑二郎は重心移動でなんとか安定させた。そろそろリアルに前が見えなくなりそうだ。
    「は、はい、頑張ります! でもひよりさん、大丈夫ですか? お金とか――」
    「んー?」
     にやりと向き直るひよりの手には、見慣れぬ色のプラスティックカード。つまり、お金持ちである。
    「さ、次行くわよ侑二郎。マフラーと手袋は、全種類揃えるわ」
    「あの、そんなに沢山買って、何に使うんですか?」
    「え? 毎日違うデザインと色を楽しむためよ?」
     うわ、となんとも言えない表情を見せる侑二郎に、ひよりはさらに荷物を積み上げていく。そろそろ冷や汗をかき始めた侑二郎に、ひよりはくすりと笑みを浮かべた。

    「こんっ、どーだぁっ!」
     試着室から飛び出し、その場でくるりと一回転してみせたのは、奉洞院・琉衣。自称装身具の大きな狐耳・狐尻尾ともあいまって、葉隠・政道に勢いよく親指を上げさせるには十分すぎる攻撃力を誇っていた。
    「す……っげえ可愛いぜ、琉衣! さすがクララ、任せて正解だった!」
    「うん、相変わらずクララさんのセンス良いよねっ!」
    「そうかな? ルイ自身が持つ可愛さを演出するんだから、さほど難しい事では無いと思うが」
     答えるクラリーベル・ローゼンも、まだ回っている琉衣を眺め頬を緩ませる。と、それに気づいた琉衣は、意味深な笑顔で琉衣に向き直った。
    「ん? ああ、そう言えば。始めようか?」
    「こんっ、おっけー♪」
     と、2人は政道へ、左右から同時にプレゼントを差し出す。
    「待たせたかな。さて、私たちからマサミチに、手作りチョコの贈呈だ」
    「こんこんここで問題です。『どっちのチョコが美味しいか』、当ててみて?」
    「え? へへ、何度貰っても嬉しいな、こういうの……」
     言いつつ包みから1つずつチョコを取り出し、にやけながらも味見をして。
     答えは――。
    「――答えは、どっちも美味しくてどっちも大好きだ!」

    「どれがいいかなあ、っと」
     和風文房具の店、万年筆の棚で色々ためつすがめつしているのは、久成・杏子だ。店奥には通りすがりの柿崎・泰若がいて、鉛筆削り用ナイフを手に取っている。
    「やすわか先輩。万年筆って、どんなのが使いやすいなのかなあ? 知ってる?」
    「え? んー、ごめんなさいキョンさん、私だと正直、丈夫でとがってるの、としか」
    「書きやすさ重視、なるほどなの! その点は大丈夫そう……なのだけど」
     こうして、プレゼントを探しているだけでもどきどきするのはきっと、初めてのおひとりショッピングのせいだから――なのよ、ね?

     そぞろ歩くは、清楚な白のワンピース――雨嶺・茅花と、シックな黒のスーツ――飛嘉・舜。
     2人は高級洋菓子店を覗き回り、良いのを見つけるたびに黄色い声を上げるのであった。
    「ね! 舜、見てこれ。かわいい……」
    「うわ、なにこれ素敵! おいしそう!」
     ショーケースの中で、宝石のように輝くチョコレイト。首元にリボンを付けた、さまざまな動物を模したそれらは、札を見れば一流職人の新作だという。
    「決めた、これ買う! けど、んー、誰かにあげるなんてもったいないような気も……」
    「あら? 舜は、『誰か』にあげる気なの?」
     問われ、しかしニヤリと、意地悪げに答える舜。
    「そういうかーやさんは……あー、聞くまでも無いか」
    「何よ」
    「何さ」
     しばし睨み合って、でもすぐに2人とも、あははと笑い出して。

    「ねねー柴さん、可愛いのあったよー。ほら」
     と、柴・観月の袖を引くのは、何故か死んだ目の玖律・千架だ。
    「うん、可愛いラッピングだね。資料写真に撮ってもいいかな?」
    「ウン、イインジャナイカナー……」
     ため息で返す千架をよそに、観月はシャッターを切るのであった。
    (「知ってた。此処に行くって決まったときからこうなるって、千架さんは知ってたよ……!」)
     心の声まで涙声。色々諦めて自分用のを探していると、ふと。
    「俺は……あ、これにしようかな」
    「んぁ? ――わ、なにそれ! そのピンクとミント、千架さん滅茶苦茶クリティカル!」
     観月が手に取った包みに、千架は目を奪われた。
     が。
    「うん、これが一番可愛い。家で多方向から見て、今描いてるヒロインのプレゼントにアレンジしようかなって」
    「デスヨネー……」

    (「甘いものはそこまで好きじゃないけど」)
     来てよかったなと、見崎・遊太郎は思った。花宮・括が楽しそうにチョコを選んでいるのを見ると、つい邪魔して遊んでみたく……ではなく。
    「あ、ゆうちゃんにあげるのは手作りだから。これは自分用!」
     とのことなので、ここはおとなしく見守ろうと思うのである。
     思うだけだが。
    「ところで括は、どういうチョコが好き?」
    「んー、ヌガー入りのだけは苦手。牙にくっついちゃう気がして……」
    「なるほど。なら、これは大丈夫だね」
    「んむ!」
     と、遊太郎は、試食コーナーで見つけた『ある』チョコレートを、括の口へと突っ込んだ。
    「ん……とろっとして、おいしい……っけど、これ!?」
     顔を赤らめ、予想通りの反応を見せる括に、遊太郎はいたずらな笑みを浮かべるのであった。

    「料理用のチョコとー、包材とー、あ、リボンも買いましょう! これをどう美味しく綺麗に作り上げるかが腕の見せどころですよ。ふふ」
     上機嫌でかごに手作りチョコセットを入れていくのは、神御名・詩音だ。その傍らで水無月・カティアは、すこしだけ照れて頬をかく。
    「それは……はい、すごく楽しみです。あはは……」
     ずーっと詩音が腕に抱きついてきているのは、嬉しいやら恥ずかしいやわらかいやらで。
    (私も、詩音さんに贈るプレゼントが欲しいのですが」)
     まさか本人に聞くわけにも行かず、うーん……と念波を送ってみる。
    「――おや? なんだかカティアさんから視線を感じるような」
    「え、いえ! そんなことは」
     と、それを敏感に感じ取ったらしく、詩音はカティアに向き直って。

    「今日位は好き放題買っても良いでしょ。流石に煩く言わないよね」
     と言い残して、クリームチョコを大量に買い込む三好・遥に、花屋敷・一悟は心の中で返す。
    (「そんな日だなんて、私は一言も言ってないんですが」)
     口に出せないのは、あの遥が心底楽しそうに、きらきらと輝いて見えたから、だ。
    「――?」
     ふと。
     遥は一悟の方を見ると、こちらはこちらで、思い至ることがあって。
    (「そういえば僕は、こいつの誕生日、知らない」)
     思えば行動は即座。売り場から抜け出して、会いに行く。
    「ん。どうした、遥」
    「一悟、君の好きな物は何。君自身のこと、なんでもいいよ。教えて。
     僕はまだ君を知らなすぎるのに、君が僕を知りすぎているのは、不公平でしょ」
    「……っ」
     詰め寄られて、一悟は小さく息を呑む。

    「……あれ? 泰若じゃないか。キミも買い物かい?」
    「あ、ギルドールさんも来てたのね。ふふ、ちょうどさっき、予算使い切っちゃって」
    「満足の行く買い物ができたようだね。何を買ったのか、見せてもらっていいかな」
     と、ギルドール・インガヴァンが通りすがりのクラスメイトと歓談していると。
    「ギルドールくんお待たせーっ。ざんねん、ここにはなかったよ」
    「……ま、これで期待通り」
     ぱたぱたと駆けてきた桃之瀬・潤子と、エコバックにスイーツ食材を満載した花澤・リアンが戻ってきた。泰若と手を振って別れ、【白亜の大聖堂】の3人で次の店へ行く。
    「で、潤子は何を買うつもりなんだ」
    「私はぬいぐるみだよ。かわいいやつ! リアンくんと、ギルドールくんは?」
    「ふーん……俺はまあ、あるヤツ」
    「僕も潤子と同じで、ぬいぐるみが良いかなって思うけど、沢山あって目移りしてしまうね」
    「あ! ぬいぐるみと言えば!」
     と、潤子はギルドールに向き直った。
    「さっき見せてもらったぬいぐるみ、あれも可愛かったなー。お店の場所ってギルドールくん、聞いた?」
    「うん。ここからすこし歩いたところのファンシーショップだって。次はそこに行こうか?」
    「ファンシーショップ……まあ、そこなら」
     探している花の飾りもあるかもしれないなと、リアンは頷いた。

    「あの春物のジャケット、えあんさんに似合いそうよ?」
     ……語尾にハートマークが付きそうなほどに、甘く、甘く。
     葉新・百花は、エアン・エルフォードに話しかける。組んだ腕にすりすりと、遠慮なく甘えてくる彼女を、エアンは微笑ましく思って答える。
    「ああ、悪くないな。こういうシルエットも好きだよ」
    「わ、そうなんだ♪ なるほどなるほど……」
     うんうんと、深く頷く百花。
    「で、ももは何が欲しいの? 例えば……そうだな、この並びのお店から選ぶとしたら」
    「んー。春になったら、お靴も軽くしたくない? あ、春のお財布って縁起がいいんですって!」
     と、四方八方に指差してまわる百花の動きが、ふとある一点で止まる。
    「あ……♪」
     エアンはそれに気づいて、指の先にあるものを見やる。……なるほど。
    (「髪飾り、だね」)

    (「う……これは少し、緊張しますね……」)
    (「いちごくんと……その、彼氏彼女になってから、こういうのって初めてだし……」)
     と。
     初々しさ全開で、それでもちゃんと手を繋いで歩いているできたてカップル、黒岩・いちごと墨沢・由希奈。特に由希奈は顔の紅潮がものすごく、湯気でも出ているのではと思わせるほどだ。
    「由希奈さん、あの」
    「いちごくんっ! その、そのね……!」
    「…………」
    「…………」
     しばし顔を見合わせる2人。
    「どうぞ、由希奈さん。お先に」
    「じゃ、じゃあ、私から言うよ……言うから」
     心臓がバクバクして、声が震えそう。でも。
    「……いちごくん。これからも、よろしくね?」
     言えた。上目遣いで、相手の様子を伺うと。
    「こちらこそです。これからも末永くよろしくですよ」
     恋人の、心の底からの笑顔が、そこにはあった。

    「迷ったけど、自分を信じて!」
     橘・清十郎が買ったのは、耳まで覆える深めのニット帽であった。以前プレゼントしたマフラーと組み合わせられるよう、同じく白を基調としたものだ。
    (「雪緒さんを目で追わないようにするのは大変でしたが、これならきっと!」)
     綺麗にラッピングされた紙包みを小脇に、清十郎は浮き足立って道を急ぐ。
     一方。
    「これに決めたのです!」
     伊勢・雪緒が手に取ったのは、牛革製のキーケースだ。免許を取ったばかりの恋人が、いつか自分の車を持ったときにも使えるよう、六連のものを選んだ。
    「清十郎、喜んでくれるといいな……ありがとうって、言ってくれるかな……」
     自分の温度をしみこませるように、雪緒はきゅっと掌に包んで。
     ――そして2人はもう一度、約束の場所で出会う。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月13日
    難度:簡単
    参加:35人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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