「やっほー♪ 今年もバレンタインの季節だねえ」
調理用チョコレートを抱えた空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が、にこやかに家庭科室のドアを開けた。
「みんなは、今年どんなチョコを用意するの? 私は、今年も何か作ろうかなって思ってるよ」
家庭科室には一通りの調理道具が揃っている。
紺子はここで、朝からバレンタイン用のチョコレートを作るつもりのようだ。
「ねえ、一緒にチョコレート作らない? どんな味か試食しあうのもいいよね。きっと、素敵なチョコができるよね」
バレンタイン間近に家庭科室にて。
一緒にチョコレートを作りませんか。
●作って試食、チョコの会
その日家庭科室では、甘い匂いと楽しい生徒達の会話があふれていた。
「今年のチョコはこれ!」
そう言ってミュリリ・ポリック(色々盛りキマイラっ娘・d23714)が作ったのは、大きな丸いチョコレートだった。
「紺子ちゃん、今年も面白いのを作っちゃった!」
「ええ?! なになに? これは、中に何か入ってるんだよね?」
紺子が興味深そうにミュリリのチョコレートを覗き込む。
一見、ビスケットなどで飾り付けられた普通の大きな丸いチョコレートだ。だが、去年も、割ったチョコレートの中から何か出てきたはずだ。今年もきっと何かある。紺子はそう思い、期待を込めたまなざしでミュリリを見た。
「それじゃあ、割ってみるよ!」
ミュリリは頷き、丸いチョコを半分に割った。すると、やはり中からとろりとしたクリームが溢れて来る。
「うん、って、わあ!! 生クリーム? それから、チョコがいっぱい!!」
丸いチョコから出てきた生クリームと小さなチョコレートを見て、紺子が手を叩く。この小さなチョコレートは、色々なゼリーをチョコでコーティングしているのだと言う。
楽しくて、わくわくするチョコレートだった。
「他の人はどんなのを作っているかなー?」
ミュリリがきょろきょろと室内を見回す。
周辺からは、様々な甘い匂いが漂ってきていた。
マリー・オリオール(名も無き歌姫・d24705)は用意したチョコレートを刻み始めた。
隣にはノエル・エトワブラン(月を求める脆き太陽・d11228)の姿がある。
日本では女の子からチョコレートをあげると聞いたから、マリーは幼馴染のレイに、日頃の感謝を込めてプレゼントしたいと思ったのだ。
「喜んでくれるといいわね」
色々あったけれど、折角ならずっと仲良くしていたい。
「絶対喜ぶと思うよ」
ノエルが頷く。
レイの好みから言っても、甘さ控えめのガトーショコラはちょうど良さそうだ。ノエルの双子の兄は、家族以外には素直ではないところもあるけれど、少なくとも絶対に受け取ってくれると確信を持って言える。
包丁を持つのは苦手だからと、ノエルは材料を計ったり混ぜたり手伝った。
その間に、マリーはこっそり型を二つ用意する。そのうちの一つはノエルに内緒のものだ。
やがて冷ましていたチョコレートが固まった。
「どうかしら。一緒に味見しましょ」
二人は出来上がった一つのチョコを分け合って味見をしてみる。
ほろ苦いチョコを口に含みながらノエルはふと、顔を上げた。
(「そういえば、オレはマリーから貰えるんだろうか」)
「当日のお楽しみよ」
それに気付いてマリーが応える。
「嬉しいな。なら、楽しみにしておく」
どうやら顔に出ていたらしいと思いつつ、自分は花束を渡そうと心に決めるノエルだった。
もちろん、彼女のバレンタイン一日を貰えるだけでも、十分なプレゼントではあるのだが。
マリーは先ほど隠したもう一つのチョコレートのことを思う。
レイにはケーキだけだけれども、ノエルにはちゃんと、他にも用意しているのだから。
「ここで作るのは試作、試作だからね!」
黒島・もいか(豊後水道のマーメイド・d22385)はずずいと身を乗り出してアルヴァン・ルティック(青い月を求めて・d21573)に念を押した。
今日ここでアルヴァンに渡すものを作ればいいと思っていたけれど、良く考えたら、渡す相手と一緒に作るのもおかしな話だと思ったのだ。
「もいかのは試作かぁ。ま、もいかの手作り食えるなら何でもいいさ」
少々必死なもいかを見てアルヴァンは微笑む。
「嬉しいぜ、もいか」
そして、さて、とアルヴァンも腕まくりをした。
「今年もこの季節が来たか。張り切って腕ふるっちゃうぜ」
そう言うアルヴァンも、『試作』を開始した。
見た目はシンプルに、味は少し濃厚な感じにブラウニーを仕上げていく。
もいかは手順通り溶かして整形してトッピングして。それから残ったチョコレートを使ってホットチョコレートを作った。
それをアルヴァンの目の前に差し出す。いれたてのチョコレートドリンクは、おいしそうな湯気をほかほかとあげていた。
「ほら、飲んであったまればいいじゃない」
きっと、とても温まることだろう。
「さすがイイ女だな、もいか」
カップを受け取ったアルヴァンも、作っていたブラウニーを出した。
「それじゃ俺から試作品こと誕生日のお祝いをプレゼントだ」
「え、なに、私に誕生日プレゼント!? 急に何よ……」
驚いて、そして、もいかは照れたように頬を染める。
「俺としたことが遅くなってごめんな、もいか。ひと月遅れだけどハッピーバースデーだ」
顔を真っ赤にするもいかを見ながら、ブラウニーを切り分けてやった。
「遠慮なく食ってくれよ」
「しょうがないわね、いただいておくわ!」
小さく咳払いをして呼吸を整え、ブラウニーを口に運ぶ。
それは口の中で心地よく溶け、ほろりと苦く甘い味がした。
「……ありがと」
小さなもいかのつぶやき。
「今日はぐーぱん無しで頼むぜ」
アルヴァンは笑って受け止めた。
椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)と星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)は二人で色々なチョコレートを作っているようだ。
「お二人ともこんにちはー♪ どんなの作ってるの?」
そこにひょっこり紺子が現れた。
「私、なんにも準備してないんですよね。なので、今日は味見役を……って見てるだけなのも、退屈なので、お手伝いをしています」
えりながチョコレートを湯銭で溶かしながら答える。
「そうなんだー。味見役も作るのも楽しいよねー」
頷きながら、紺子もその辺りをうろうろとし始める。どうやら、チョコレートの匂いの他に、何やら様々な香りを感じ取っているようだ。
「紺子さんもよかったら味見をお願いしますね」
「わーい。味見楽しみー♪」
紗里亜が微笑む。
準備してきた材料は、ビターチョコレートにドライフルーツ、それに香り付けだ。
「それにしても紗里亜さんは難しそうな作り方をしてます。本格的?」
えりなが並んだ材料と紗里亜の手元を見比べる。
「今年はちょっと大人っぽい味を目指します♪」
そう言って、紗里亜はリンゴに香り付けをした。それをビターチョコに詰めて、スライスアーモンドで封をする。えりなの言った通り、細やかな作業と手間をかけた一品だ。
「これ、良い香りですね」
「凄くいい香りするよねー」
えりなと紺子が感心したように出来上がったチョコレートを見た。
「どうぞ、味見してくださいね」
「それじゃあ、いただきます」
促され、チョコレートを食べてみる。
「当たり前だけどちょっぴりビターな味だけど、ふんわり甘さが出てる気がします♪」
えりながにっこりと微笑んだ。紺子も隣で頷いている。
「えりなさんは何か作らないの?」
「私ですか? そうですね。折角なので、私も一つ……」
今までチョコレートの湯煎や流し込みを手伝っていたえりなが、星型を手に取った。
「やっぱりお星様ですよね」
聞いた通りに作れば、何とかできそうだと思う。
そうだ。チョコレートを溶かしてこの型に流し込むだけ。それだけで良いはずだ……。
紗里亜は更に色々なバリエーションのチョコレートを作っている。
干しブドウにオレンジ。そして、取っておきは、干し柿だ。さまざまな食材に風味付けをしてチョコレートで包んでいく。和の風味はどんな味になるのだろう。
いくつものチョコレートが出来上がる。
「って、う~ん、何だか気分が良くなってきたような……?」
濃厚な匂いに包まれ、えりなが首を傾げた。
「ふふ、たくさん作っちゃいましたけど、まだまだありますよ。全部試食しますか?」
親友の姿を見て紗里亜が笑った。
さて、皆がチョコ作りに励む中、皇・銀静(陰月・d03673)も、それなりの材料を揃えここへ来ていた。
「宜しい。『真の』チョコを作りましょう」
銀静はそう言って、丁寧にハート型のチョコレートを作る。
流し込むチョコレートは、大量の高級カカオを使用し、一から作り出したと言うシロモノだ。ただ黙々と、精密に、徹底的に五日間かけて精錬したと言う。
さて、出来上がったハートのチョコレートに、食紅で白くしたチョコでペイントを施していく。
器用な銀静の手が、美しい整った形の翼を描いていく。
「我が一念……我が苦悶……それら全てをこのチョコに込めて作りましょう」
集中して作ったチョコレートは、濃厚な香りが漂うものとなった。
試食は自由とした。
興味を持った者が一つ二つと摘んでいく。
それらが皆、口に含んだ瞬間、遠い目をして立ち尽くした。
銀静も一口、味見をしてみる。
「……ええ……本当に……苦い……ですね」
これは、遠くを見つめざるを得ない。
何しろ、徹底的に砂糖やミルクを排除して作ったのだ。これは、純然たるカカオを更に濃縮高濃度にした超高濃度カカオのチョコだと自負するもの。
「罰ゲームにでもお使いなさい」
と、銀静は近くに居た学生に伝えた。
ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)と日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)は二人で仲良くチョコレート作りをしていた。
もっとも、お互いに贈る相手は目の前にいるわけだけれども。
「こうやって混ぜるんだね。上手くできるといいけど」
「きっと美味しくできますよ。あ、ミリーさん指にチョコが」
少しぎこちない動きのミルドレッドの手に、翠が自分の手を添える。
見ると、確かにミルドレッドの指先にチョコレートが飛んでいた。顔を上げると、目が合う。翠が微笑んでミルドレッドの手を持ち上げ、ぺろりとそれを舐め取った。
交わる視線から、温かい感情があふれてくる。
しばし見つめ合い、再び作業に戻った。
二人はいくつか出来上がったチョコレートを並べてみた。
「本番用の上手くできたのは明日のために取っておいて、試作品は今食べちゃお」
ミルドレッドが言うと翠が嬉しそうに頷く。
「はい、あーん♪」
差し出されたチョコレートに翠が顔を近づけた。元から、指に口づけするつもりでチョコレートを食べる。
「ボクの指まで舐めなくても……恥ずかしいよ」
照れたように頬を染めるミルドレッド。
翠は周りを見回して、こそっと、唇にチョコを咥えた。
「え、翠からのお返し……って、どうして咥えているの?」
びっくりするミルドレッドに、『わたしも試食してください、なのです』とカンペが突き出される。
「翠ごと試食って……もしかして口移し……?」
おろおろと周囲を見て、事態を把握し、顔を赤らめ、ミルドレッドは小さく頷いた。
「え、と、その………いい、よ」
二人の唇が重なる。
翠はその後、ミルドレッドをぎゅっと抱きしめた。
黒咬・翼(ブラックシャック・d02688)とディアナ・ロードライト(暁に輝く紅玉・d05023)も、二人でチョコレートを作っていた。
翼は、今年はラズベリーのジャムを入れたガナッシュにしてみようと思っている。彼女も甘いのが好きだろうし、きっと喜んでくれるだろう。
一方、ディアナも、思う。
翼の料理はすごく上手なので、自分も、同じくらい美味しいものを食べてほしくて随分練習したのだ。チョコレートを作るのも、最初に比べて随分上手になったと思う。
「ね、食べてみて……」
ディアナは、はいあーん、と。なるたけ低い位置でチョコレートを差し出した。翼はそれに合わせるように身をかがめて……。
その隙に。
ディアナが、そっと、翼の唇にキスをした。
「今がチャンスだと思って」
身長差のせいで、普段は自分から仕掛けようとしても、どうしても届かないからと。
いたずらっぽく笑うディアナを、翼は一瞬驚いたように見詰める。
「あ、チョコもはい」
顔が離れ、照れ隠しのようにディアナはチョコレートを翼の口に放り込む。
ちょっとほろ苦い感じに仕上げてみたのだ。
「おいしい?」
「……うむ、美味しい。ディアナも随分上手に作れるようになったな」
何となく、してやられた気分だ。
思いながら、翼はディアナの顎に手を伸ばす。
お返しにと、キスを返した。
そして、今度こそ本当に、ディアナの顔は真っ赤になった。
「ほろ苦いが、キスの味もあって甘かったな」
「ん、本当ね。チョコの味すごく甘い……」
顔を赤らめるディアナを見て、翼は微笑む。
「この甘さなら何時でも歓迎だが」
甘い、二人の時間が流れた。
周囲からも、甘くてとろけるようなチョコレートの匂いが漂っている。
この日、家庭科室のチョコレート作りは、遅くまで続いた。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年2月13日
難度:簡単
参加:12人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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