バレンタインデー2016~手作りで伝わる想い

    作者:湊ゆうき

    「2月が近づくと、街中がチョコレートであふれてて幸せですよね~」
     教室でバレンタイン用のチョコレートが載ったチラシを眺めながら、榛名・真秀(中学生魔法使い・dn0222)がうっとりと呟く。
    「プレゼントするのも選びがいがあるだろうね」
     スイーツ好きな真秀ならば、美味しいチョコを知っているはずだ。誰かにプレゼントするにしてもきっとその人にあったものを贈るのだろう。そう思って橘・創良(高校生エクスブレイン・dn0219)は声をかけたのだが。
    「違いますよ~。いや、違わないんですけど。プレゼント用より自分用です。今年はどのチョコにしようか、何個食べようか、もういろいろと考えちゃって……!」
    「……あ、そうなんだね。でもそうだよね。チョコレートは女の子の方が好きだろうし、せっかくならチョコレート食べたいよね」
    「そうですよ! むしろわたしが欲しいくらいです! ま、だから自分で買うんですけど」
     真秀の言葉に、なるほどと思案顔の創良。
    「そう思っている女の子も多いだろうし、きっとプレゼントされたら嬉しいよね。それに、男の子もせっかくの機会だから、チョコレートを贈るのもいいんじゃないかと思うんだ」
    「逆チョコですね! サプライズっぽくて女の子は喜ぶと思いますよ!」
     真秀もうんうんと同意する。
    「じゃあせっかくだし、調理実習室を借りてみんなでチョコを作ろうか。作ったことがない人も教え合ったりしてやれば、きっと上手くできると思うし」
     調理道具もそろってるしね、と創良は付け足す。
    「大好きな人へはもちろん、お世話になっている人とかにもいいですね。男の人にもたくさん参加してもらえるといいですね!」

     2月14日。大切な人に手作りチョコを贈ってみませんか?


    ■リプレイ

    ●手作りに想いをこめて
     武蔵坂学園の調理実習室はバレンタインに向け、たくさんの生徒達で賑わっていた。
    「陽桜ちゃんは何作るの?」
     持参した材料を出しては準備を進めている羽柴・陽桜(こころつなぎ・d01490)に、榛名・真秀(中学生魔法使い・dn0222)が興味津々で訊ねる。
    「作るのが好きなのはシフォンケーキなのですけど、たくさんの人に配るなら、クッキーもいいなぁって思ってるのです」
    「わ、シフォンケーキも作れるの? すごいなあ」
     不器用な真秀は、湯煎のいらない生チョコを橘・創良(高校生エクスブレイン・dn0219)に勧められ、作ることに。
     陽桜は手際よく、ボウルで材料を混ぜ合わせ、粉をふるい、クッキーの生地を作っていく。
    「チョコレートとチョコクッキーで小さなお菓子のお家にしようかな」
    「それは楽しみだね」
     陽桜の呟きに、創良も完成が楽しみで思わず笑顔になる。創良はナッツやドライフルーツを入れたホワイトチョコのロッシェを作っている。
    「ココアたっぷりのさくさくクッキーに、アイシングでかわいく飾り付けしたいなぁって思います!」
     クッキーが焼き上がり、アイシングでデコレーションすればあとは組み立てだ。
    「えっと……バランスよくお家組み立てできるかが鍵なのかな? 創良さん、組み立てのお手伝いをお願いしてもよいですか?」
    「うん、もちろんだよ」
     創良が支え、陽桜がアイシングを利用し、クッキー同士をくっつけていく。
    「わあ、絵本から飛び出してきたみたい」
     真秀も目を輝かせて可愛いお菓子の家の完成を喜ぶ。
    「真秀さんもよかったら食べてください!」
     いくつか作ったうちの一つを陽桜が差し出してくれる。食べるのがもったいないと少しためらいながらも、真秀は嬉しそうに口に運ぶ。
    「うん、見た目も味もばっちり! これならお店で売れるよ!」
    「スイーツ好きの真秀さんにお墨付きもらったらバッチリですね♪」
     陽桜はにっこりと、桜の花がほころぶような柔らかい笑顔を見せた。

    「乙女の戦いに備えてチョコ作り!」
     南谷・春陽(インシグニスブルー・d17714)がそう声を上げれば、
    「いざ乙女の決戦!」
     篠村・希沙(暁降・d03465)も気合いを入れて頷き返す。二人はぐっと拳を握りしめ、努力を誓うと、早速チョコ作りに取りかかる。
     希沙はガトーショコラに挑戦。ボウルに材料を入れ、丁寧に混ぜ合わせていく。その隣で作業する春陽の手元を見れば……。
    「先輩のん、めちゃ美味しそう!」
     ナッツやマシュマロ、蜜漬け果実が材料として並んでいる。
    「ショコラテリーヌを作ろうと思って」
     濃厚なチョコ生地に入れる材料は、大切な人にもらった幸せの欠片達に見立てて──。
    「女子力高い……そゆのもあるんですね」
     ふむふむと頷きながら、メモを取る希沙。ガトーショコラの生地がボウルの中で完成すれば、四つ葉型の生地に流し込んでいく。希沙にとって思い入れのあるこの形。
    (「切り分けたらハート型……」)
     自分で考えては、ものすごく恥ずかしくなってしまう。
    「希沙ちゃんの四葉の形が可愛い! あ、希沙ちゃん知ってる? クローバーって真ん中にLOVEが入ってるのよ」
     春陽が空中にcloverの綴りを書いて示す。
    「だから大切な人への特別な贈り物にぴったりだと思うの」
    「へっ、ら、らぶ? ……ほんまや!」
     ますます顔を赤くしては恥ずかしがる希沙。
    「先輩のんもたくさん愛情入ってるから!」
     焼き上がり、想いと幸せの欠片たちが詰まった切り口は宝石箱のように綺麗だろう……春陽もそううっとりと考え、思わず乙女モードになってしまった自分自身が恥ずかしい。
    「か、彼氏さんってどんな方なんですか?」
     焼き上がりを待つ間、希沙は照れ隠しも兼ね、春陽に聞いてみる。
    「優しくて頼りになる人、かな」
     小声で返ってきた言葉には、確かな愛情が込められていて、希沙もほわりと和んでしまう。
    「希沙ちゃんの彼氏さんは?」
     思わぬ切り返しに、また照れてしまうが、笑顔で返す。
    「えと、可愛くて格好良くて、敵わへん人です」
     こんな会話ができることが嬉しくて、お互い喜んでもらいたいですね、と希沙は微笑む。
    「……あ、ええ匂いしてきた! へへ、先輩先輩、味見タイムしましょ!」
    「ええ、喜んで!」
     焼き上がりはもう少し。二人の想いがこもったチョコ生地が、いい色に焼き上がってきていた。

     チョコレート作りで勝負することにした東雲・悠(龍魂天志・d10024)とコロナ・トライバル(トイリズム・d15128)。
     チョコ作りは初めてながら、悠は溶かして冷やすだけと聞いている。それなら自分にもできるはずだ。
    「簡単だぜ! さぁ溶鉱炉はどこだ!」
     対するコロナは、ふと疑問に思った。
    「チョコで何を勝負するんだろう? 作ったお菓子の種類? 量? 美味しさ?」
     細かいことは決めていなかったが、まあいいか、と思い直す。
    「まぁ、全部で勝てば問題ないよね!」
     そうして、ガトーショコラにチョコクッキー、ホワイトチョコのマフィンにチョコブッセと種類も味も様々なチョコスイーツを作り始める。レシピと調理器具さえあれば、コロナには問題なく作れるのだ。
    「……甘さは控えめにしておこう」
     種類が豊富なので、完成したら結構な量になる。悠が負けたら、全部食べてもらおうと心に決めたコロナだった。
     一方、悠はというと。
    「チョコを溶かせばいいんだもんな」
     レシピも見ずにとりあえず鍋にチョコを突っ込んでみる。火にかけると、なんだか焦げ臭かったり、鍋に焦げ付いたりしつつも、悪戦苦闘の末、ハート型に流し込む。
    「ふう、疲れた……もう、板チョコでいいじゃないか……誰だよ、チョコなんて簡単とか言った奴……」
     やれやれと呟けば、コロナが作り終え、紅茶を用意して待っていた。
    「なんかコロナの作ったものがすっげぇ美味そうに見えるぜ……」
     そしていざ食べ比べの実食!
    「うん、まぁまぁだな」
     自分のチョコを食べながら悠。
    「ん? なんか苦くない? ちゃんと湯煎した?」
     コロナは首を傾げる。
    「ちゃんと鍋に火をかけて溶かしたぞ」
    「!?」
     気を取り直してコロナのチョコ菓子たちをいただく。
    「ウマッ!? これマジで作ったのか!? スゲーな!」
    「まぁ、悠君相手にお菓子勝負じゃ勝つのは当たり前かな。さぁ敗者は黙って全部食べれば良いのさ」
    「全部食っていいの!? ヤッター!」
     逆に喜ばれてしまった。レシピ通りだから、普通なんだけどね、と思いながらも美味しそうに食べる様子を見れば悪い気はしない。
    「くっ、これで勝ったと思うなよ!  来年は見てろよな!」
     負け惜しみを言いつつも、悠がチョコ菓子を食べるスピードが全てを物語っている。
    「とりあえず……湯煎の仕方、教えてあげようか?」
     コロナが悪戯っぽく微笑んだ。

     今年はバレンタインにチョコを手作りと言うことで、笙野・響(青闇薄刃・d05985)は気合い充分!
    「綾乃さんは甘いのと甘さ控えめ、どっちが好きかな?」
     隣にいる高宮・綾乃(運命に翻弄されし者・d09030)にそれとなく聞いてみる。
    「まぁ、甘い方が……響さんは?」
    「あ、わたしも甘いの好きかな」
     ホールのチョコレートケーキを作ろうと考えている響だが、せっかくなら綾乃の好みのケーキにしようと、こっそりと綾乃の好みを調査。引き続き、他愛ない会話で好みを聞き出していく。
    「さてさて、お菓子は普段あまり作りませんが……まぁ手順通りにやれば失敗はないでしょう」
     落ち着いた手つきで綾乃が作るのは、チョコクリームのマカロン。なかなか手間のかかる一品だが、綾乃はひとつひとつ丁寧に確実にこなしていく。
     一方、響は料理の腕は人並みながら、大好きな人にあげる手作りお菓子ともなると、失敗したくない想いが強く超緊張。チョコレートを溶かすための湯煎をじーっと見つめたりと、作業が難航していた。
     そんな響を可愛らしいと思いながら、綾乃は緊張をほぐすため、何度となく話しかける。
    「綾乃さん、手際いいなあ……」
     うらやましげに呟く響。その手際と、時に美貌に見惚れてしまったりと、意外なトラップが響を待ち受けていた。
    「気楽で大丈夫ですよ、響さんの作ったものってだけで私はすごく嬉しいんですから」
     綾乃に励まされつつ、デコレーションでも手が震えてしまったけれど、無事に完成!
    「これも乗せてみます?」
     綾乃の提案に、チョコマカロンがケーキに乗ると、とてもお洒落なチョコケーキの出来上がり。
    「綾乃さんのマカロンは、お店で売ってるのみたい」
    「響さんのも良くできていますよ」
     その言葉に響は顔を輝かせる。
    「綾乃さん好みのケーキにできたかな?」
     想いをこめた手作りケーキが誇らしげに輝いていた。

     星倉・妃奈子(サンドリヨン偽典・d29128)と星倉・夏己(ちぐはぐウィザード・d32087)は従姉弟同士で仲良くチョコケーキを作ることに。
     夏己は女の子が欲しかった母親に女の子として育てられ、親戚の妃奈子ですら、つい先日まで夏己を女の子だと思っていた。そのことを後ろめたく思うような、緊張するような心地でいた夏己。
    「ひなちゃんは甘い方がいい? 甘さ控えめ? ボク、甘さ控えめのが好きなんだよねーえへへ」
    「私も、甘さは控えめの方が好きかしら」
    「わあ、ひなちゃんも?」
     従姉が今までと同じように接してくれているので、ほっと安心する。
     妃奈子にとっても、事実を知った時は正直驚いたのだが、話してみれば性別は関係なく、夏己は夏己なのだ。男の子だとしても、やっぱり自分にとって可愛い従弟であり幼馴染み。だから、これまで通りで。
    「じゃあ、ビターチョコケーキにしましょうか」
     そう言いながらも、料理は一通りできるけれど、得意な方ではない妃奈子は得意だという夏己にいろいろと教えてもらう。
    「お菓子作りはママに教わったから結構得意なんだ。ひなちゃんが苦手ならボクが頑張っちゃう」
     チョコレートの湯煎にしても、薄力粉をふるうのにしても、手際よく作業する夏己に、妃奈子はしっかり者になったのね、としみじみ。いろいろと教わりながら、楽しく作業は進む。
    「せっかくだから、可愛いデコレーションにしたいなあ。女の子だもん、可愛い方が嬉しいよね?」
     笑顔を向ける夏己に、妃奈子も微笑みを返す。
    「やっぱりそうね」
     そしてとっても可愛いチョコレートケーキが完成!
    「よーし、できた!」
     二人で一緒に完成させたケーキとなると感慨深い。
    「あ、最後に魔法をかけなきゃね。バレンタインが楽しい日になります様に!」
     その言葉には、妃奈子とずっと一緒に遊べるようにという祈りを込めて。
     妃奈子はそんな夏己を見て、感謝の気持ちを込めて優しく微笑む。
    「楽しいバレンタインをありがとう、可愛い魔法使いさん」

    「2人はどんなチョコ作るか、もう決めてきた?」
     虹真・美夜(紅蝕・d10062)が雪片・羽衣(朱音の巫・d03814)と花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)に問いかける。今日は三人で一緒にチョコを作るのだ。
    「なまじ相手が料理できる人間だと、毎年この時期は何も作ったものか悩むのよね……」
     料理上手な恋人は素敵だが、乙女としてはちょっぴり悩ましくもある。
    「……美夜ちゃんのお悩みはとっても良くわかる。料理上手さんには何作ろうか悩むよね」
     ましろがうんうんと頷く。
    「なにつくろーかなー。おねいちゃんたちと一緒だと豚汁チョコとか作る余地がないや」
    「ういちゃんもお悩み中? わたしは、オレンジピールをチョコでコーティングしてオランジェットにしようかと」
     オレンジピールのほろ苦さが大人っぽいのではと選んでみたのだ。
    「私は家で渡すつもりだから、一緒に食べられそうなものにしようと思って……」
     美夜はフローズンイチゴのチョコフォンデュ。凍らせた苺にチョコをまとわせるお洒落な一品。
    「苺美味しそ~」
     まだメニューが決まっていない羽衣は、二人の作業を眺めながら何にしようかと考えている。
    「去年がチョコ麻婆だったし、今年はまともなものにしないとなー」
     チョコドーナツにしようか……いや、やっぱりとんでもないものの方が喜ぶかしら……と、やや迷走気味。
    「うーん、いい香り」
     チョコを溶かしては、辺りに漂う香りにましろは幸せ顔。オレンジピールの爽やかな香りとともにうっとりとしてしまう。
     美夜はパイ生地を作り,焼いている。雪の結晶の型に固めたチョコが粉砂糖で化粧され、苺と一緒にパイを彩る。
     羽衣は結局ドーナツを作ることにしたようだった。
     大好きな子達が、それぞれの大切な人を想って作っている姿は、見ていてとても温かい気持ちになる。ましろは二人を眺めながら、その手際の良さにも刺激を受けた。
    「わ、わたしもがんばらなきゃっ」
     そしてそれぞれのチョコスイーツが完成する。
    「2人は上手く出来た? 良かったら、お茶でも飲みながら味見してれると助かるんだけど」
     美夜が味見用にと余分に作ったスイーツを二人に見せる。
    「形が綺麗なのをプレゼントにするとして、余分なのはみんなで食べちゃうのよ! 揚げたては、それはそれでごちそうだから! 三人でお茶するの!」
    「出来立てのお菓子とお茶で、乙女のティータイムだね」
     羽衣とましろの作ったスイーツもお皿に盛って、楽しいお茶会が始まる。
    「揚げたてのドーナツは本当にごちそうだね」
     羽衣のチョコドーナツにましろが顔をほころばせれば、
    「オレンジピールのほろ苦さ、チョコに合うわね」
     美夜が大人っぽいましろのオランジェットに舌鼓。
    「美夜さんのパイもフローズンイチゴのチョコフォンデュもすっごく美味しい!」
     味見の結果は上々。きっとどのスイーツも、渡された幸せ者たちは喜ぶに違いない。
    「みんな、すてきなバレンタインを過ごせますように♪」

     2月14日。それは特別な一日。
     そわそわしたり、どきどきしたり。
     全ては大切な人の笑顔が見たいから。
     Happy Valentine!

    作者:湊ゆうき 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月13日
    難度:簡単
    参加:12人
    結果:成功!
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