琵琶湖・田子の浦の戦い~どて煮とポットロースト

    作者:佐和

    「以前ボクが言った名古屋どて煮怪人、本当に居たんだね」
     黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)の確認するような言葉に、八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)はこくりと頷いて、広げた地図の1点を差し示した。
     しかしそこは名古屋ではなく、そのさらに西方にある湖。
    「……琵琶湖?」
     柘榴が難しい表情を見せたのは、そこに安土城怪人の本拠地があると知っているからだ。
     折しも先日、柘榴自身も赴いた伏見城の戦いで、天海大僧正に加勢した灼滅者達が勝利を上げたばかりの相手。
    「天海大僧正、安土城怪人と決戦、する」
     再び秋羽はこくりと頷く。
     灼滅者達の選択と助力により、伏見城の戦いにおいてのスサノオ壬生狼組の被害は少なく抑えられた。
     そのため天海大僧正はすぐさま全軍を琵琶湖に向かわせたらしい。
     既に、琵琶湖大橋で両勢力のダークネスが相対し、睨み合い、小競り合いも始めている。
     同時に、天海大僧正は武蔵坂学園に要請を出してきた。
     琵琶湖大橋で天海大僧正勢力が戦線を膠着させている隙に、後方から安土城怪人の本拠地を叩いてほしい、と。
    「そうだ。協定があったんだよね」
     先の第2次新宿防衛戦での同盟を思い出し、柘榴は今がその時かと納得する。
     そして、名古屋どて煮怪人は、安土城怪人の勢力に加わっているらしい。
    「じゃあすぐに琵琶湖に行かないと」
     教室を出ようと立ち上がった柘榴だが、しかしその袖をくいっと秋羽が引いて止め。
    「軍艦島、静岡沖に、来てる」
     告げられた別案件に、柘榴は驚いて振り向いた。
     第2次新宿防衛戦直後から行方不明となっていた軍艦島。
     それが姿を見せ、田子の浦の海岸に上陸しようと近づいてきているという。
    「こんな時に……」
    「多分、偶然じゃ、ない」
     歯噛みする柘榴に、秋羽は首を横に振った。
     軍艦島にいるザ・グレート定礎が、安土城怪人と連携したか。
     もしくは、刺青羅刹・うずめ様の予知からの作戦か。
     詳細は分からないが、意図的な動きではあるようだ。
     軍艦島を迎え討つとすると、場所は田子の浦の海岸。
     アメリカンコンドル配下のポットロースト怪人と戦うこととなるだろう。
     ちなみに、ポットローストとは、牛の塊肉を煮込んだアメリカの家庭料理。
     どちらにしろ牛煮込み料理です。
     まあ、そんな目先の相手は置いておいて。
    「どちらかにしか行けないよね?」
     柘榴は地図に視線を落とす。
     琵琶湖のある滋賀県と、田子の浦のある静岡県。
     片方を片付けてから次へ、とはいかない距離だ。
     となると、全体で戦力を分ける必要があるわけで。
     柘榴は、それぞれの戦いの結末を考え、ざっとまとめてみる。

     琵琶湖の戦い
     勝利 安土城怪人勢力の壊滅も可能?
     敗北 天海大僧正軍勢が壊滅
        武蔵坂学園が協定を反故にしたと思われ、今後の交渉等に悪影響?

     田子の浦の戦い
     勝利 軍艦島内に逆侵攻できれば軍艦島勢力の壊滅も可能?
     敗北 軍艦島勢力と白の王勢力の合流?

     どちらかの戦いに戦力を集中すれば、そちらの勝利の可能性は上がるが、戦力を欠く他方の戦いは敗北となるだろう。
     とはいえ、戦力を等分すれば双方の戦いに勝利できる、とは言い切れない。
     安土城怪人勢力は、伏見城の戦いで敗れたとはいえその多くが撤退できていたため、戦力をほぼ維持したままであり。
     軍艦島勢力は規模としては大きくないけれども、有力なダークネスが多く存在している。
     戦力を2分して双方敗北、となる可能性も当然ある。
     間違いないのは、どの結果でも今後の情勢に大きな影響がある、ということだけだ。
     だからこそ、選択は灼滅者達に委ねられる。
     琵琶湖へ赴くか。
     田子の浦へ赴くか。
     灼滅者達に問うような視線を投げる柘榴を見て。
    「……どっち、行ってもいい。
     でも……どっちに、行っても、皆で無事に、帰ってきて……」
     秋羽はぎゅっと手を握った。


    参加者
    一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)
    西場・無常(特級殲術実験音楽再生資格者・d05602)
    神前・ミランダ(朝露の歌・d18727)
    堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)
    水無月・詩乃(砕蹴兵器彼女・d25132)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    響塚・落葉(祭囃子・d26561)
    吉武・智秋(秋霖の先に陽光を望む・d32156)

    ■リプレイ

    ●まずは名古屋どて煮怪人を
     前情報通りとはいえ、琵琶湖大橋は戦乱の真っ只中だった。
     天海大僧正勢力を全力で迎え討つ安土城怪人勢力。
     そして武蔵坂学園は、安土城怪人勢力の後方から鬨の声を上げる。
    「さぁて、伏見城のツケはきっちり清算しとかねぇとなァ」
     血色の炎を思わせる赤いハルバードを肩にかけ、一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)はサングラスの下でにやりと笑った。
    「天海僧正との約定もありますし、安土城勢力を少しでも削り落としに参りましょう」
     応えるように微笑む水無月・詩乃(砕蹴兵器彼女・d25132)も、紫紺の和傘を撫でるようにそっと手を添える。
     神前・ミランダ(朝露の歌・d18727)の傍らにはビハインドの執事・レイモンドが控えるように姿を現し、灼滅者達は覚悟と準備とを整えていた。
     そして黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)が、本陣を目指して進む先にその姿を見つける。
    「出たね。名古屋どて煮怪人」
     愛知ではなく滋賀で会い見えることになった相手。
     柘榴は速度を上げて一気にその懐へ飛び込むと、オーラを収束させた拳を叩きつけた。
     手応えを感じると同時に後ろへ飛び退けば、そこに智巳の障破裂甲が打ち込まれる。
    「どて煮……何か美味そうじゃな」
     くんくんと味噌の香りをかぎ取って、お腹がちょっと惹かれてしまう響塚・落葉(祭囃子・d26561)だが、その足元ではしっかりと流星の如き煌めきが生まれ。
     足並みを揃え隣に並んだ吉武・智秋(秋霖の先に陽光を望む・d32156)と合わせて、油断も手心もない蹴りを放つ。
     堪えて体勢を整えたどて煮怪人はキッと顔を上げ、灼滅者達を見回した。
    「おみゃー、何者だがや!?」
    「境を繋ぐ堺の守護ヒーロー、ここに参上!」
     問いかけを待ってましたと言わんばかりに受け止めて。
     ライドキャリバー・ザインの上でびしっとポーズを決めた堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)が言い放つ。
     そのまま放たれたご当地ビームに、どて煮怪人はど派手に吹っ飛んでくれた。
     だが怪人もやられてばかりではない。
     向かい来る前衛陣に向けて、牛すじを煮るように炎をまき散らした。
    「……奴は少々熱々だな」
     その様子を無表情に眺めながら、西場・無常(特級殲術実験音楽再生資格者・d05602)は黄色にスタイルチェンジさせた交通標識を振る。
     仲間を回復し支える無常の動きに、どて煮怪人がギロリとその視線を向け。
    「牛すじでしたら、カレーがありますね」
     その気を惹きつけようと詩乃は違う牛すじ料理を挙げながら、死角へと回り込み鋭く傘を振るった。
     ミランダも挑発するように、少し大仰に首を傾げて。
    「どて煮……とは、どんな味なんでしょう?」
    「そうそう、どて煮って知名度低いよね! しかも、見た目もぱっとしないしね!
     大阪のたこ焼きやお好み焼きと比べ物にならないよ!」
     癒しの旋律を奏でながら、丁も煽るように続ける。
     ミランダは、悔しそうに顔を歪める怪人の、どて煮を象った頭部をじーっと見据えた。
    「見た目は……美味しくなさそうです……」
    「どえりゃあうみゃあが!」
     反射的に怪人は、手にどて煮を生み出すと、ミランダに向けて投げつける。
     そのメシテロ攻撃がミランダに当たる直前、割って入ったのは智秋。
    「ありがとうございます」
    「戦いは、数だから……」
     どんな味かちょっと試してみたかったかも、と思いつつも、心からの感謝を伝えると、智秋は、ぽつりと短く応えた。
     味方が1人でも多い状態で長く戦えるように。
     レイモンドを連れていることもあり、一番体力の低いミランダを気遣ってくれたようだ。
     それは名古屋どて煮怪人戦の先も見据えた対応でもある。
     そしてすぐに回復の手が自分へと向けられたことを確認し、その癒し手である無常がまた狙われぬように智秋は動いていく。
     ミランダも赤い交通標識を掲げ、レイモンドの霊撃に合わせて振り下ろした。
    「とろくせゃあ!」
     今度は手にしたどて煮を食べて、怪人は回復を図りBSを吹き飛ばす。
     キュアもブレイクも持つどて煮怪人だが、大したBS付き攻撃を持たない。
     ならばとにかくダメージを重ねようと、柘榴は前へ前へと出て、その杖を叩き込む。
    「叩き潰してやるぜ味噌野郎!」
     同じクラッシャーの智巳も、紫のパイルバンカーを思いっきり叩きつけ。
     落葉もまずは当てていこうと、槍を捻り突き出した。
     そんな攻撃重視な仲間を、無常と丁の奏でる音が支え。
     戦いは単純なダメージの与え合いの様相を呈していく。
     灼滅者達も負傷するものの、だがそれ以上にどて煮怪人の傷は多く深く重なっていき。
     不安定な姿勢から投げられたどて煮を、庇ったレイモンドが受け止め姿を消し。
     その消える背を無駄にせんと詩乃が踏み込み、どて煮怪人の足を和傘で斬り裂く。
     膝をつきながらも鍋を叩きつけんとする動きを、智秋のダイタロスベルトが絡みつくように受け止めた。
     動きを止めたそこを狙い、柘榴が罪を断ち切る鋭い斬撃を繰り出せば。
    「うむ。美味いどて煮であった。
     じゃが、ここでおしまいじゃ!」
     合わせて飛び込んでいた落葉が、その杖と魔力とを叩きつけ。
    「味噌こそ、至高……っ!」
     巻き起こった爆発の向こうに、名古屋どて煮怪人の姿は消えていった。

    ●本陣を狙って
     1つの戦いを終えても、まだ戦乱は続いている。
    「ゆっくりしてる時間はない、かな」
    「そのようじゃな」
     周囲の状況を見渡した柘榴に、視線を合わせて落葉が頷く。
     他班も次々に最初の敵を撃破しているようで、灼滅者側は勢いづいているようだった。
     その状況は、事前に他班の者とメールアドレスを交換していた無常の携帯にも次々と届いていて。
    「多くが安土城怪人へと向かっているようだ」
     端的に情報を告げながら、無常は自分達の現在位置と名古屋どて煮怪人撃破の報を手早くメールに乗せた。
    「それじゃ俺らも大将首狙っていくか」
     負った傷を気にすることなく、智巳がにやりと不敵な笑みを浮かべる。
     それに頷くミランダの横に、レイモンドの姿はない。
     本当は心霊手術を施したりしたいところだが、この勢いと契機を逃さぬためには、10分間という休憩の時間すら惜しい。
     少し心配そうな表情を見せていた詩乃も、覚悟を決めたように皆に強く視線を返した。
     そして灼滅者達は安土城怪人の居る場所へ向け動き出す。
     先行する他班の後を追う形となったからか、大きな障害となる相手には出会わない。
     とはいえ、全く戦わずに進めるほど甘い状況でもなく。
    「手負いのアンデッド発見じゃ。それ!」
     飛び出した落葉が蹴りを放てば、直後に詰め寄った柘榴が拳の連撃を叩き込み。
     すぐにその場を退いた2人の動きに合わせて放たれた丁のご当地ビームが直撃。
    「邪魔だ邪魔だ。とっとと退きなァ!」
     駄目押しのように智巳がバベルインパクトを撃ち込み、武者アンデッドを撃破する。
     勢いに乗せてさらに進む灼滅者達。
     だがその時、辺りに声が響き渡った。
    『我がここに残り、敵を食い止めよう。全軍撤退せよ』
     戦場全体に聞こえたのではないかという声の主を、全員がすぐに思い当る。
     敵の総大将、安土城怪人。
     それを証明するように、周囲にいたダークネス達の動きが変わる。
     交戦から撤退へと。
     防戦に転じた相手を、逃がすかとばかりに智巳は追いつめその拳を放ち。
     詩乃も和傘と共に殺気を開く。
    「安土城怪人を討ち取るチャンス、ですね」
     確認するように呟けば、ミランダが影を操りながら頷いて見せた。
     戦場に大将だけが残るのならば、最大の好機に違いない。
     進む足にさらなる力を込めようとした、その矢先。
    「何だありゃ……」
     それに気づいた智巳が、声を上げた。
     視線は進もうとしていた先……いや、その上方を見ていて。
     倣うように前を見上げた柘榴は、即座に理解した。
    「巨大化!?」
     そこに在ったのは、巨大な安土城怪人の姿。
     原因は当然、ご当地幹部の奥の手である巨大化フードだろう。
     パワーアップした安土城怪人を倒すには、より戦力が求められる。
     しかし、奥の手を使わざるを得ない程に追い詰められている、ともとれる。
     ピンチでありチャンスでもある光景に騒めく灼滅者達。
     だが、そこに。
    「ペナント怪人が向かってきているらしい。応援要請だ」
     無常がリーファ・エア(夢追い人・d07755)からのメール受信を告げる。
     それは天海大僧正勢力と戦っていた者達。
     先ほどの撤退命令を受けて動きを変えたようだが、それが安土城怪人の元に向かうようになってしまっているらしい。
     安土城怪人のその向こうに本拠地である竹生島があるからか。
     命令に背き安土城怪人を助けようとしているのか。
     意図は分からないが、安土城怪人の元に援軍があるのはまずい。
     無表情ながらもどこか伺うようにじっと見つめる無常に、皆迷うように顔を見合わせ。
     ならば、と柘榴は仲間達を見据えて告げた。
    「ボク達は安土城怪人の元に向かった皆を支援しよう。
     ペナント怪人達は絶対にあそこには行かせない」
     決意を込めた言葉に、皆は顔を見合わせ互いの意思を確認して。
     それぞれ柘榴に頷き返すと、無常に場所の指示を乞うた。

    ●ペナント怪人を食い止めろ
     メールにあった場所では激しい戦いとなっていた。
     ペナント怪人より圧倒的に灼滅者の数が少ないのがすぐに分かる。
     鮮血にまみれた館・美咲(四神纏身・d01118)の盾も、回復役の興守・理利(赫き陽炎・d23317)にも、余裕どころか焦燥が見えていて。
     そんな劣勢を確認した丁は、言葉よりもと一撃を放つ。
    「堺市ヒーロービーム!」
     高らかに響き渡る声と共に、ペナント怪人の1人が撃ち抜かれた。
     敵味方の視線を集め、丁はにっと笑って見せる。
     不敵に。そして仲間達を鼓舞するように。
     その横を駆け抜けた智秋は、七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)へ迫る。
     攻撃を終えたばかりなのか、悠里は死角から迫るペナント怪人に気づいていなかった。
    「だめ……!」
     走る足に炎が生まれ、その勢いのまま蹴りを放てば。
     ペナントを燃やされた怪人が、高々と宙を舞う。
     そこに鋭い槍が穿たれた。
    「ウニの一撃、ペナントを通す……!」
     うにうにとウニの棘を動かす雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)と、姿を消すペナント怪人に、智秋は目を見開いた。
     驚くその視線を感じてか、棘を伸ばし挨拶する丹に、智秋は思わず微笑む。
     会釈を送ってから踵を返し、戻ってくるその姿の向こうを眺めたミランダは。
    「私達はこちら側を」
     戦況を見極め、任せてほしいと短く告げれば、忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)が頷きで了承の意を伝える。
     それを確認して振り返ると、詩乃がふわりと微笑んでいた。
    「皆さん、無理は禁物ですよ。全員揃って帰りましょう」
     どんな戦果よりも、味方全員無事の帰還が大事だと、詩乃は優雅に和傘を開く。
     そのままくるりと傘を回し、ミランダが示した側の敵へと向ければ、ガトリングのように冷気のつららが撃ち出された。
     ミランダも自らが示した場所を守らんと、影を刃に変えてペナントを切り裂いていく。
     応援に数を揃え、足並みを合わせた灼滅者達は勢いを増し、ペナント怪人を食い止めて。
     智巳が掬い上げるような一撃でペナント怪人を殴り飛ばすと、その先でペナント怪人が断ち斬られて倒れ消える。
     眉を寄せる智巳の前に、スサノオ壬生狼組の1人が姿を見せた。
     屈強そうな、組長かと思われるその後ろには、さらに2人の壬生狼組。
     そうか、と智巳は思い至る。
     ペナント怪人が移動したならば、それを討たんとしている天海大僧正勢力の者達が後を追って来るのは当然だ、と。
     3人だけで他の壬生狼組や慈眼衆などは見えないが、先鋒を務めていた者が先駆けとしてまず現れたのだろう。
     となれば、これから敵と共に味方も増えるというわけで。
    「……ハッ、また共闘だなァ!」
     伏見城の戦いを思い出しながら、智巳は砕龍爆斧の龍因子を解放する。
     ちらりとこちらに視線を投げて来る壬生狼組。
    「遅れはとらねぇよ!」
     にやりと笑った智巳は、力強く地を蹴ってペナント怪人に襲い掛かった。
    (「祝勝会のダンスパーティ……楽しかった、な」)
     前衛に増えた青陣羽織を見て、無常が思い出したのは成道会とそれの記憶。
     今は肩を並べ、共に戦う相手だが、今後、その関係がどうなるかは分からない。
     それでも、あのパーティは。そして、今この瞬間は。
    「今こそ盟約……果たすとき!」
     無常は癒しの音を奏で、パーティの時のように、今度はサイキックでDJを務めようと、踊るようにペナント怪人に挑んでいく仲間達の背を支えていく。
     その旋律に丁のギターが音を添え、ザインのエンジン音が頼もしく鳴り響く。
     成道会での精進料理を思いつつ、智秋もきゅっと口元を引き締めて。
    「まずは、数から減らさなきゃ」
     ペナントを斬り裂く詩乃の傘を追うように、巨大な蒼い刀と化した腕を振り抜いた。
     一方で、複雑な心を抱くのは柘榴。
    (「ダークネスと協力するのは業腹だけど……」)
     壬生狼組にも向いてしまう殺意を抑えながら、ぎゅっとロッドを握りしめる。
    (「それで人間の被害自体を減らせるなら仕方ないかな」)
     自分に言い聞かせるかのように思いながら、背に展開するのは蝶の羽。
     飛ぶような勢いでペナント怪人へ向かえば、何の声かけも必要とせずに落葉が合わせて。
     八重歯を見せるその笑顔に、柘榴は少し迷いが晴れた気がした。
     そして揃って振り上げられた2本の杖は、ペナント怪人を爆破する。
     完全に優勢となった戦場を、詩乃はそれでもまだ油断せずに見据えて。
     その時、後ろで麦色の大爆発が起こった。
     振り向くと、先ほどまでそこにあった土城怪人の巨体が消えている。
    「……倒したの?」
    「やったね! 皆すごい!」
     丁の歓声に、ペナント怪人達にざわざわと動揺が広がった。
     総大将が倒されたとなれば当然だろう。
     あからさまに戦意を無くしたペナント怪人はもはや敵ではなく。
     その場の最後の1人を蹴り倒した落葉は、勢いのまま柘榴に駆け寄り、その手を取った。
    「うむ、勝ったのじゃー!」
     勝利宣言は次々と、他の灼滅者達や天海大僧正勢力からも挙がっていき。
     ザインに寄りかかるようにして立つ丁も、智巳と笑みを交し合う。
     喜びの声に聴き惚れるように、無常は静かに瞳を閉じた。
     力が抜けて、ぺたんとその場に座り込んだミランダを、心配して智秋が覗き込み。
     もう大丈夫と言うように、詩乃がその背に繊手を添え、優しく支える。
     ミランダは詩乃の手の温もりに、戦いは終わったのだと実感して。
    「帰ったら……大切な人と、ゆっくりしたいですね」
     綻んだ口元から、柔らかな願いが零れ落ちた。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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