「魅惑のチョコレートドリンクでございますか……」
里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)の手に握られていたのは、一枚のチラシ。
そこに書かれていたのは、家庭科室でチョコレートドリンクを作ってみませんかという、お誘いのようだ。
「なるほどなー、調理室を使って、皆でチョコレートドリンクを作るっていうヤツか」
清政の手元を覗き込むように、話し掛けてきたワタル・ブレイド(中学生魔法使い・dn0008)は、悪戯めいた笑みを浮かべてみせて。
「で、アンタはチョコレートドリンク作れるのか? 自称執事」
「わたくしは初めてでございますが、作り方は至ってシンプルでございますので、料理が苦手な方でも問題ないかと存じます」
チラシには『初心者歓迎!』『誰でも簡単に作れます!』という言葉が並んでいる。
「たしかに、レシピも何というか……シンプルだよな……」
作り方は本当に、小鍋にミルクと刻んだチョコレート、お好みに砂糖を入れるだけ!!
混ぜながら中火で煮溶かして、ごく軽く沸かしたあと、好みのマグカップや耐熱グラス、魔法瓶などにいれて完成だ。
「これだけでも美味しくできますが、チョコレートをホワイトチョコやビターチョコに変えましたり、ミルクを少なくして濃いめに抽出したエルプレッソや、紅茶をいれますと、見た目も風味も変わるかと……」
「クリーマー、ホイッパー、フードプロセッサーとかで攪拌すれば、ふわっふわの表面になりそうだな!」
ナッツやアーモンド、マシュマロを乗せたり、チョコペンでイラストやメッセージを描いたり、アラザンなどを散らして仕上げてみるのも楽しそう!
「ドライフルーツや、ホワイトチョコにミントを入れますと、大人の味でございますね」
「なるほどなー、これならオレにもできそうだ」
材料や必要な器具は全て用意されているけれど、こだわりの材料があれば、自分で持ち込んでも大丈夫。
作ったあとは、試食会という名前のお茶会が予定されているので、出来上がったチョコレートドリンクを皆で試飲するのも、良い思い出になるだろう。
「チョコレートドリンクに合う軽食の持ち込みも大丈夫とのことですので、お友達やサーヴァントお誘いの上、皆様も如何でございましょう?」
ふと顔を上げた清政は、教室に集まっていた1人1人の顔を見回して。
1人で参加するのも良い思い出になるけれど、誰かに教えて貰った方が、より上手に、そして楽しく作ることが出来るから、と。
「縁の欠片も無しと諦めた方も、皆で作って飲み干せば、きっと楽しゅ――」
「オレ達みたいな育ち盛りの学生っていうのは、甘いモノには目がないからな!」
「うぅ、スルーされました……」
思いと日頃の労いを込めて。
皆で一緒に手作りチョコレートドリンク、作ってみませんか?
●魅惑のチョコドリンク
調理室に足を踏み入れると、甘い香りと共に仄かな温かさが包み込んでくる。
周囲を見回せば、どの調理台も楽しく賑わっているようだ……。
「まァなんとゆうか、女子にチョコを贈ってもいいッスよネーみたいな?」
意外に慣れた手付きで仕上げていく立夏に、今日子も負けてはいられないと、色合い良くミントを乗せていく。
(「でも、あのエプロンの柄には負けてもいいかもしれない」)
立夏のエプロンには『生涯現役』の四文字もとい、謎の気合いが……。
今日子のチョコドリンクにも立夏の期待の眼差しが注がれていたけれど、それはそれ。
「浸食されてないか?」
「フフンフンフン♪ 大人の味で攻めるッスよん」
ドライフルーツのバナナを乗せていた立夏に、今日子が口を挟んだのが運の尽き。
調子に乗った立夏があーんを求めたり、やりたい放題になったのは、また別の話♪
「大丈夫? 手伝おうか」
「うむ、大丈夫だ。チョコを溶かせばいいんだろう?」
恋人の初めての手料理に心が浮かれたのも束の間、明らかにアヤシイ手付きの初美に不安を覚えた真咲は、すぐに手伝いを買って出て。
「あの、真咲? その皆がいる場所なので後にしてくれると……」
後ろから抱き抱えるように真咲に手を取られた初美は、思わず硬直――ッ。
まだ昼だぞ、と囁いてみせるが……。
「ちゃんと教えるから、大丈夫」
しかし、真咲は動じない。
何はともあれ、調理の手付きが駄目なのは変わりないので、初美はぎこちない動作でエスプレッソを入れて泡立てる。
「砂糖大目で甘くしておこう……後で、味わえるかも、だし」
そして、周りに沢山飛び散りながら、何とか完成!
その惨状に苦笑を洩らしていた真咲も、自身のチョコドリンクにホイップクリームを浮かべ、砕いたナッツとココアパウダーを振り掛けて。
「どうかな教授――痛っ!」
ドヤ顔を決めた真咲に、初美は容赦ない蹴りを入れたのでした♪
「双調さんは、ココナッツミルクとパウダーを使うのですか?」
「ええ。おいしく出来るといいのですが」
双調と並んで調理していた【フィニクス】の空凛は、未知の飲み物に心が躍っていて。
空凜が火傷しないように見守っていた双調からも、この日を待ち望んでいたのが伝わってくる。
「折角だし、チョコナッツ風味に仕上げてみようかな」
勇弥が用意してくれたシロップに健は目移りしながら、アーモンドとヘーゼルナッツを乗せていく。
「色々ありますが、此処は敢えて違うフレーバーで」
ブリティッシュスタイルのメイド姿の鈴音は暫し思案すると、シロップに手を伸ばす。
シンプルなベースに、フランボワーズのシロップを一滴。甘いチョコにフランボワーズの酸味が、コントラストになるから。
そんな真剣な鈴音をぱしゃりと携帯端末に納めた清の視線が、闘志を燃やすバンリと靱に止まった。
「気合と共に刻むべし刻むべし刻むべしー!」
「くっ、良い仕事してますね!」
激昂の気合いと共にホワイトチョコを刻むバンリに、靱も負けじと黙々作業に没頭中!
「こにも負けないよぉ~。えいっえいっ」
「それじゃワタシも……」
2人に触発された清が沢山のチョコを刻み始め、さくらえも腕を捲った時だった。
「……あ、さくらはキャロブな」
エスプレッソを淹れていた勇弥が当然のように取り出したのは、チョコに似た植物。
同時に。周囲にもカフェイン禁止中だからと暴露するのも忘れません♪
「俺の目の前でぶっ倒れて、救急搬送されたぐらいの中毒だから」
「とりさん、ひどいっ! そこでそれ暴露するわけ?!」
笑みを引きつらせながら抗議するさくらえに、今度は健とワタルがプッと笑いを殺す。
「チョコにもカフェインって含まれてたっけな!」
「そして今度はチョコスライムか、難儀だなぁ」
「やーめーてー!」
さくらえが悲鳴を上げる中、勇弥は情状酌量はまだ早いと首を横に振り、目の前で齧ってみせる。
「キャロブもイケるぞ、結構」
「なるほど、今、旬はキャロブ……」
勇弥の言葉に額を抑えていた靱も、どれどれと味見を買って出て。
「ふぬふぬ……滋味ぶかい優しいお味!」
「キャロブなんて初めて聞いたけど、それって美味いのか?」
失礼と1つ口にしたバンリが舌鼓を打つと、健も興味津々に手を伸ばす。
「キャロブで作るのも、牛乳使うのかな……」
牛乳を飲むとお腹が痛くなる実は、1人溜息を洩らしていて。
味見を遠慮する実に、傍らの霊犬のクロ助がしょんぼり尻尾を垂らした時だった。
「牛乳もいいけど、豆乳もおすすめですよ」
「え、豆乳? 霊犬も飲める?」
顔をぱっと上げた実に、鈴音は後で味見させて欲しいと頷き、クロ助も俄然元気に尻尾を振りだして。
それを見た空凛と双調も、霊犬の絆の分を作り始めた、そんな中。
「むぅぅ、ちょっとくらい見逃してくれてもいいのに……っ」
さくらえの足元では、霊犬の加具土が監視中♪
拗ねたように加具土を撫でながら、さくらえは1人キャロブを齧っていたのでした。
「見かけも可愛いし、すっごく美味しそう。流石だなぁ……」
「いつもはシンプルに作るだけだから、今日は少し凝ったものにしてみたの」
樹のチョコドリンクは、ビターチョコにエスプレッソを足した甘さ控えめのもの。
その上に泡立てたミルクを乗せ、手際良くココアパウダーでハートを描いていく樹の手元を、拓馬は感心するように見つめていて。
「拓馬くんはどんな感じにしたの?」
「俺のはあと少しで出来るかな」
拓馬は濃い目の珈琲を混ぜたベースに、メープルシュガーとシナモンを少し加える。
最後にピンポイントで、可愛いマークが入ったマシュマロを浮かべて完成だ。
「少しはバレンタインっぽくなったかな?」
顔を上げると、チョココーティングしたスライスオレンジを乗せていた樹と目が合う。
「よければ交換して、両方とも味見をしてみたいわ」
「そうだね、分け合いながら一緒に飲もう」
視線も思いも、仄かな甘さと愛しさと共に――。
「えっ、きりこそんなにチョコ細かく刻むん?!」
「こ、紅茶と混ぜるですから、チョコだけより冷えやすいかなあって」
抹茶チョコを溶かし、ハチミツとクルミを散らしていた茸の隣では、霧湖がアッサムの葉とシナモン、カルダモンのパウダーを一緒に煮込んでいて。
「キリコは丁寧。すごい、レストランの人みたい」
二つの作業を平行して進める霧湖に、ウナは関心しながら叩き砕いたホワイトチョコを豪快に小鍋に入れ、少し煮込むと小皿を手に取った。
「ウチなんかこんな大雑把やのにー。あ、オヤビンソレ何入れてるん?」
「アンズをプロセッサでペーストにしたもの。甘いの強いからミルクで味整える」
漂うシナモンの香りに癒されながら、茸は真剣に火加減を見ていたきりこに習って弱火で煮込む。
マシュマロを口にしたウナはカップに注ぐと、仕上げに茶漉しで粉砂糖を一叩き。
「はい出来上がり」
ウナの隣では、霧湖が茸のマシュマロにチョコペンで、ウィングクキャットのチョボ六の顔を描いていて。
白いデミタスカップにちょんと乗ったマシュマロは、可愛すぎて飲むのが勿体ないくらいだった。
「焦らずゆっくりと、ですね~♪」
空は温めたミルクを火から下ろすと、刻んだビターチョコを加えて溶かしていく。
砂糖で甘さを整え、最後に隠し味のスパイスを加えていけば……。
「完成ですっ!」
黒猫のタンブラーに注いで、スカーフをイメージした赤いリボンを巻いて。
優しい甘さに、ほろ苦さとピリッとした刺激を感じる、探偵風味のチョコドリンク。
真っ赤なストローを添えて、感謝の気持ちを込めて――。
「空凜さんのマシュマロは上手くココアに溶けましたね」
「はい、とても美味しそうに出来ました。……あ、仕上げにシナモンパウダーを」
仕上げにバニラエッセンスを垂らす双調を見て、空凛もパウダーを振り掛ける。
「はぁい、こにスペシャルのできあがりぃ~」
続いて完成した清のドリンクは、仄かに香るオレンジシロップが印象的で。
マシュマロと生クリームをふんだんに乗せ、ココアプレッツェルを添えたものだ。
「お、すげ、みんな美味そう!」
勇弥が瞳を瞬き、実の鼻孔をくすぐる中、次の逸品は……。
「雪解けさくらの森とりさん添えでございます」
靱がさくらえに捧げたのは、カフェインレスに拘った和の芸術!
キャロブと牛乳を混ぜ、その上に生クリームと桃色のマシュマロが積み重なり、周辺にはきな粉がぱらり。
甘い黒蜜が細く枝状に散り、ちょこんと鳥型マシュマロが添えてあった。
「すごーい! これ写メってもいい?」
瞳をキラキラ輝かせたさくらえとは反対に、清は羨ましそう……。
「お茶請けもありますよ」
鈴音が広げたバナナパウンドケーキとドーナツに大きな歓声が沸くや否や、シナモンパウダーを振り掛けていたバンリの手が止まる。
「ドリンクそっちのけになってしまいそーでありますね!」
バンリがふんすと鼻腔を動かせば、大好物のドーナツを前に清の瞳も人一倍キラキラと輝いて。
一仕事を終えた靱の手も自然とドーナツに伸びていた。
「はい、絆もどうぞ」
空凛の足元に寄り添ってきた絆にも、キャロブと豆乳を混ぜたものを。
双調と絆と並んで味わうチョコドリンクは、夢のような極上の味わいと美味しさだ……。
「皆揃ったみたいだし、乾杯でもするか!」
健が乾杯の音頭を上げた時、さくらえがその前に一枚撮りたいと呼び止める。
甘くて暖かい温もりが包む中、思い出のシャッターがぱしゃりと落ちた。
●魅惑の試食会
調理が一段落し始めた頃。
調理室のテーブルにはドリンクの他にも、腕によりを掛けた手料理が並べられていた。
「まあ、味はわるくねぇかな」
葉が錠と作ったのは、刻んだチョコとミルクを鍋に入れただけのシンプルなもの。
案の定、面倒な作業は全部押し付けられた錠だけど、満更でもない表情の葉に口元がニヤけてしまう。
「なァ、葉。お前どんなの作ったんだよ。味見してやっから一口よこ……飲みたいので愚かな俺にお恵みください」
「んだ? こっち見んなボケ。ふつーのチョコドリンクだ」
心底うざそうな顔を返す葉に、錠は五体投地の勢いで己のチョコドリンクを差し出す。
「ああ、また無駄にオサレに凝ったの作ってんのな」
何でまた無駄に愛らしい、ナノナノのラテアート風なんだよ。
腹に入れば同じだろうと思うものの、ふわふわの泡に浮かぶナノナノの笑顔が無駄に可愛くてムカついて、軽くスプーンで混ぜてみせる、が……。
「猟奇も狂気も味わってくれよ?」
底から見え隠れするのは、血肉に似たベリージュレ。
ニヤける錠に、葉は呆れと関心が混ざった溜息を吐くしか無かったという。
「え~とまぁこんな感じかな~」
「織兎も自分で作ったんだ? あ、まーまれーど入れるのはどう?」
見よう見まねでチョコドリンクを完成させた織兎は、ミカエラのアドバイスにウィングキャットのまーまれーどを自身の頭に乗せる、そんな中。
「おりとんもホイップ要るかしら、マシュマロもあるわよ」
チョコグラタンを人数分取り分ける銘子に、嬉々と駆け寄る【元社務所】の仲間達。
「なごなごも食べる~? このへん、香ばしくっておいしいよ~♪」
「ちょこグラタンだなんて面白いですねぇ」
味見の構えのミカエラが手招きすると、和も興味津々に瞳を輝かせて。
ミカエラは銘子の側にいた霊犬の杣を呼び寄せると、遠慮なくひしっと抱きしめた。
「小次郎さん試飲をお願いします」
歌を口ずさみながら、紗里亜はカップにミルクチョコを流すと、その上に抹茶ラテを静かに注いでいく。
仕上げにホワイトチョコの切片を重ねた花を浮かべると、まずは小次郎の元へ完成した抹茶チョコドリンクを運んだ。
「へぇ、コレが……うん、流石です」
味見を頼まれた小次郎も、腕自慢の紗里亜が作るドリンクが気になっていた様子。
「男にはビターっぽい方がいいかもです」
「……なるほど、ではビターチョコでもう一杯」
後は、シナモンかバラのシロップで香りづけするのも良いかもしれない。
――と、その時だった。小次郎の背後に妙な気配が!
「あれ、今回は小次郎作らなかったのー? ちぇー」
「今回は味見に徹するつもりですよ」
妹分のミカエラの奇行にも、小次郎は生温かい眼差しで見守るつもりであーる。
「小次郎くん監修って事で期待度が上がるわね。なごちゃんはどんな感じ?」
「なごさんは、黒糖入りの和風チョコドリンクを作ったわよ」
銘子の声に食べる手を止めた和も、作ったチョコドリンクを皆に振舞う。
「ワタルくんの猫マシュマロ可愛いな~」
「フ、お題は猫の黄昏だぜ」
織兎の視線の先には、これでもかと猫マシュマロを詰めた、ワタルの迷作が……。
だが、奇行はこれで終わらないッ!
「んとんと、あのね、杣、これ、もらってくれる?」
ミカエラが杣に差し出したのは、スープカップの苺アイス。
……に、ホットチョコを注いでアフォガード風にしたものでして。
「……ええと本命じゃ、ないわよね?」
まさか、霊犬の杣にも貰えるなんて。
少し不安そうな銘子を他所に、チョコを貰って抱き抱えられた杣は、機嫌良く尻尾を振っている!?
「創作意欲を刺激されます」
「色々工夫できそうで私も作ってみたくなりますね♪」
試食側に徹していた小次郎も色んな意味で刺激されたらしく、紗里亜も小次郎のアドバイスを元に作ったドリンクを皆に振舞っていて。
「そろそろダイエット、なんて思っていたけれど……」
バレンタインは恋人のイメージがあるけれど、そんな日に皆でわいわいするのも楽しくて仕方無い。
こんなに楽しくて美味しいなら、ダイエットは明日からで……いいよねっ!
「わ、ミラちゃんのうさぎが描いてある……!」
女子に混じって気が引けていた來地も、ミランダのラテアート風ドリンクと交換して楽しんでいて。
チョコと紅茶をベースにスチーマーで泡立てたミルクに描かれたうさぎは、お店顔負けの出来栄えだ。
「來地さんが……作ったチョコレートドリンク……とても可愛いです」
ホイップクリームに苺チョコのハートチップが散りばめられ、大きめのハートクッキーは、食べてしまうのが勿体ないくらい。
「記念に写真を撮っても……いいでしょうか」
「僕も写真撮りたいな、並べていい?」
2つ並べて写真を撮り、同時にひと口。
見た目は可愛いけど、來地のビターが効いた大人の味わいに、ミランダの口元が緩む。
「ふふ……こんなに上手くできたら二人でお店を出せるかもしれませんね」
「ミラちゃん美人だし、それ目当てにお客さんが集まりそうで怖いなぁ」
そんな幸せを噛み締めながら、2人はゆっくりと味を口に運んでいく――。
「いつも一緒に遊んでくれてありがとなー!」
一足早い気持ちだと【空部】の朱那が並べた小さいカップには、雲の上をイメージしたホワイトチョコドリンク。
たっぷりホイップクリームに虹色チョコを挿し、ジンジャーとレモンパウダーを効かせた味わいに、朱那も満足気で。
「シューナちゃんも狭霧くんも、ホントに同年齢の友達って感じだよ」
「俺もこうしてセンパイ方と話せるの、凄く楽しい」
年下だと思うことが少ないくらい、しっかりしている。
瑠音の言葉に狭霧はきょとんと首を傾げつつ、一緒に楽しめるだけで充分だと頷いて。
ビターチョコにオレンジジャムを加え、ホイップクリームを乗せたドリンクの爽やかさに、瑠音が舌鼓を打った時だった。
「そういや瑠音っち年上だっけ?」
「じっくり話せる機会、もっと欲しいって思ってたから嬉しいなっ♪」
マシュマロとアラザンを乗せたドリンクで手を温めていた朱那がとぼけると、瑠音もにっこり笑ってみせて。
「瑠音っちこそ観察対象じゃん?」
「観察対象って……」
これは、自分も先輩達の様子をニヤニヤ見守る流れなのか?
2人に習って狭霧が戯けるように笑ってみせたのが、運の尽きだった。
「さぎりんは流石の女子力だから観察も期待できそ」
「ふふ、誰かと居たら、こっそり見ちゃおっかなー」
「――っ!」
同時にからかわれる形になった狭霧は、思わずドリンクを吹き出しそうに。
今日に感謝を、そして明日にも――。
「夜深のはホットミルクみたいだけど、凄く甘い香りがしてる」
ホワイトチョコがベースの夜深のドリンクから漂う香りに芥汰は瞳を細め、自身のドリンクに口をつけようとした時だった。
「あくたん、は……あ。飲用、少々、待ッテ!」
ふと何かを思いついた夜深は、芥汰のドリンク上に桃色のチョコペンで少し歪なハートを描いていく。
「えへへ。我、らブ、も。一緒、どウぞ!!」
甘さ控えめで苦味たっぷりのエスプレッソの上に、ふわっと浮かぶ甘い愛の形。
ならば、飲まなければ男が廃るッ!
「……甘い」
しかし、これも愛ゆえにだから望む所まで!
夜深の愛情が籠めらている分、目一杯イタダキマスッ!
「チョこドりンく……御家でモ、作成可能、でショか?」
幸せの味わいに瞳を輝かせていた夜深が、ふと真顔で芥汰を見つめる。
勿論、返す言葉は「是非」だ。
「……また一緒に作りましょ」
その時は、またハートのおまじないと共に。膝の上には夜深を囲って、ぬくぬくと――。
「甘ぇー! なんだろうな、このデザートとも飲み物とも言い難い感覚!」
口に広がる甘さに目頭を抑えた祐一は、それでも何処か楽しんでいる様子。
「ミルクいれるのもうまそーです」
マグカップに視線を落とした仁恵も、もう一度口に運ぼうとした時だった。
「前はさ、こーいうのって興味も持たなかったんだけど」
楽しむことはできなくても、楽しもうとするのは大事なこと。
そういう意味で、仁恵が色々教えてくれたことは本当に感謝していると祐一は告げる。
「……元々持ってない振りをしていた君が、元々持っていたものなんじゃねーですかね」
勝手に諦めていただけ。
そう淡々と返す仁恵に、祐一は1年分のテストってことで、と続けて。
「今の俺がにえのお眼鏡に叶うかはわかんねーけど」
「点数はつけてあげません、だってにえは先生じゃねーですからね」
それでも点数が欲しいと言うなら。
「……そうですね、こういう時に何て言えばいいか言ってみて下さいよ」
「よければ少し交換しないか?」
「おう、いいぜー」
少しづつ色々飲みたいという今日子にワタルは頷き、前衛的なドリンクを披露する。
「ちゅうか二人のがオレより手慣れてないッスか?」
「誠に恐れいります」
ビター風味のチョコドリンクに立夏が舌鼓を打つと、清政も美味しいと口元を緩ませた。
「さむいからホカホカするなーシアワセやね」
「ほっとして美味しいです」
皆と交換しながら自分のも美味しく飲み干した茸は、自身の出来栄えに満足そう。
小さなカップに注ぎ分けていた霧湖と共に、清政とワタルにも勧めると、2人は身体が温まると口を揃えて。
「匂いも味も色々で、温まるね」
日本に来て良かった。
ウナは幸せを噛み締めるように、口直しのハムサンドを頬張る。
今日、この日この時に生まれた、40種類以上のチョコレートドリンク。
その味わいと甘さと温もりは、明日の思い出も彩ってくれるだろう――。
作者:御剣鋼 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2016年2月13日
難度:簡単
参加:37人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 6
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|