「皆のお陰で、伏見城の戦いは無事に終えられた。敵は逃がしたが、こちらの損害も少なく何よりだ」
初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)が、笑顔をのぞかせた。
「スサノオ壬生狼組の被害が少なかった事もあり、天海大僧正は、全軍を琵琶湖に向かわせて、安土城怪人との決戦に挑むつもりだ。既に、琵琶湖大橋では天海・安土城怪人両勢力のダークネスがにらみ合いを始めており、小競り合いも始まっているらしい」
そして天海大僧正勢力の次なる要請は、自分達が琵琶湖大橋で戦線をこう着させている間に、後方から安土城怪人の本拠地を攻撃して欲しいというものだ。
「要請自体は協定に沿ったものだし、問題は無いのだが……想定外の事態が生じた」
杏が困ったように眉を寄せた。
「このタイミングで、第2次新宿防衛戦直後から行方をくらませていた軍艦島が、静岡県沖に出現し、田子の浦の海岸に上陸しようと接近してきたのだ」
これが偶然という事はありえない。おそらく、日本のご当地幹部であるザ・グレート定礎が、安土城怪人勢力と連携して作戦を行ったのだろう。
「あるいは、エクスブレインの予知と別系統の予知能力を持つ、刺青羅刹・うずめ様による作戦かもしれんが……いずれにせよ、武蔵坂学園は戦力を二分して対応しなければならなくなった」
琵琶湖の戦いを優先するか、それとも軍艦島の戦いを優先するか。どちらが正しいかは判らない、と杏は言う。
「皆の意思で、どちらの戦いに参加するか決定して欲しい」
琵琶湖の戦いに大勝利すれば、安土城怪人の勢力を壊滅させる事も可能となる。
逆に、敗北すれば、天海大僧正の軍勢が壊滅してしまうのは必至。
「天海大僧正勢力が壊滅する事は、致命的な問題ではないが、『武蔵坂が協定を反故にして見殺しにした』という事になってしまえば、今後のダークネス勢力との交渉などに悪影響を与えるかもしれない……」
一方、田子の浦の戦いに大勝利すれば、上陸しようとする軍艦島へとこちらから侵攻して、軍艦島勢力を壊滅させる事が出来るかもしれない。
反面、敗北した場合、軍艦島勢力が白の王勢力に合流してしまう可能性が高くなる。
「軍艦島勢力は、勢力規模としては大きくないが、有力なダークネスが多く参加している。戦力は大きいが有力な将が少ない白の王勢力と合流すれば、互いの弱点を補いあった強大なダークネス組織が誕生してしまう」
この作戦には、複数の灼滅者の班が投入される。
琵琶湖と田子の浦に、学園側の戦力を二分すれば、両方で勝利できる可能性が上がるものの、同時に、両方で敗北する可能性も高まるので、大きなリスクを抱える事になる。
「この2つの戦いでどのような結果が出たとしても、今後の情勢に大きな影響を与える事は間違いないだろう。他の灼滅者の班もこの作戦に参加するから、君達の班の行動が全てを決めるわけではないが、重要な戦力の1つである事は間違いない」
選択するのは、皆自身だと、杏は強調する。
「全てをうまく収める方法はないのだから、どの選択が間違っているということはない。しかし、何らかのアクションを起こさねば、事態は動かないのも事実だ」
よりよき未来に近づけるよう、皆の力を貸してくれ、と杏は頭を下げたのだった。
参加者 | |
---|---|
寺見・嘉月(星渡る清風・d01013) |
桃野・実(水蓮鬼・d03786) |
月見里・无凱(深遠揺蕩う銀翼の泡沫・d03837) |
ゲイル・ライトウィンド(ホロウカオシックコンダクター・d05576) |
香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830) |
幡谷・功徳(人殺し・d31096) |
遠波・瑠璃花(波間の迷い子・d32366) |
ヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384) |
●行く手を阻む銀斧の牛鬼
風雲急を告げる琵琶湖。
双方とも大戦力を投入し、安土城怪人側に至っては、幹部クラスが集まっているようだ。
遅れを取るな、と灼滅者達は、安土城怪人勢力の後方から攻撃を仕掛けた。
「今後の為にも、天海勢力を壊滅させるわけにもいくまいて。『総てを肯定し抗い続ける、Endless Waltz!』」
持てる戦力を全解放し、月見里・无凱(深遠揺蕩う銀翼の泡沫・d03837)が駆ける。
「しかし天海側も考えたものだね……下手をしたらこっち側の体面落としかねない協定だもんね」
「全く。……まあ、助けるからには、後々使える程度には生き残って頂きたいですね」
壬生狼組の奮戦を遠目に観つつ、敵陣を目指すゲイル・ライトウィンド(ホロウカオシックコンダクター・d05576)達の行く手に、巨大な斧が飛来した。
地面に突き立った斧を引き抜いたのは、牛頭の魔人。
「ザガン眷属、ソロモンの悪魔でありますな。皆さん、事前の打ち合わせ通り、よろしくであります」
「おう」
七不思議の壱・緋緋色金の姿へと転じたヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384)に、幡谷・功徳(人殺し・d31096)が首肯する。
そしてゲイルのナイフから溢れた魔霧が、戦いはじめの合図となった。
「……1つ、聞きたい。名前は?」
悪魔に蹴りかかりながら、桃野・実(水蓮鬼・d03786)が問うた。
「大悪魔でもない自分が名を明かすのはおこがましい。『銀斧(ぎんふ)』とでも呼ぶが良い」
言って悪魔のかざした戦斧が、鈍く輝いた。
その一薙ぎをかわすと、斧を踏み台にした実は、空中で体をひねる。繰り出された蹴りを、斧で受け止める『銀斧』。
その足が地面に沈んだとみるや、无凱が槍を突き出す。白い衝撃波の輪を生みつつ、悪魔を狙う。
すると『銀斧』は空いた手で、強引に槍をつかんだ。
「幡やん、次、よろしく」
「おうよヤマさん」
无凱が槍を手放すのと入れ代わりに、功徳が迫った。クロスグレイブで『銀斧』の強靭な肉体を、打ち、叩き、潰す。その流れの中で无凱の槍を弾き、回収する。
「連携見事なり」
「本気で褒めてくれてるなら嬉しいけどね!」
破壊と秩序。斧と香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)の交通標識が激突する。
生じた衝撃波が互いの体を後方へ弾いた時、『銀斧』の手元には、既に魔力が練り上げられていた。
「我が主ザガン直伝の錬金術。受けて凍れ」
冷気と衝撃の白煙を上げて、氷結弾が発射された。その狙いは、
「瑠璃花!」
翔の声はわずか遅く、氷弾は遠波・瑠璃花(波間の迷い子・d32366)に直撃していた。
「我も1つ問う。灼滅者よ、何故戦う。自分達の行いが正しいと信じるか」
「何が正しいかなんて、るりには分かんないです」
片腕を氷結させながらも、気丈にかぶりを振る瑠璃花。
「それでも、信じる先に向かうだけ……です」
すると、瑠璃花の体を蝕む氷塊が、しゅうしゅうと溶けていく。
寺見・嘉月(星渡る清風・d01013)の癒しの矢が傷口に吸い込まれ、氷も痛みも溶かしたのだ。
「強化回復は僕に任せてください、誰も倒れさせたりしませんから」
「さあ、反撃であります」
ヘイズがその手に炎を浮かべる。しかしその温度はあまりに冷たく。
続けて、挟み撃ちのように、瑠璃花が蹴りを繰り出す。その足は、灼炎でコーティング済み。
冷たい炎と熱い炎。両極2つが、『銀斧』の体躯を焼いた。
●火花散る戦場
実の頭上を、斧が薙いでいく。はらりと舞う髪、数本。
回避時の低い姿勢を維持したまま、下方から炎熱蹴りを腹部に見舞う。
「我には守りの加護がある」
『銀斧』の言葉通り、その牛身は禍々しきオーラに包まれている。これが、灼滅者の攻撃を阻害してきたのだ。
だが。『銀斧』の視界を、一筋の光が通り過ぎた。
「犬……!?」
「……クロ助だよ」
実の霊犬・クロ助が、着地した直後、『銀斧』のオーラが霧散した。
その瞬間、妖槍に影をまとわせ、无凱が『銀斧』を貫いた。ずるり、引きずり出される闇の塊は、『銀斧』のトラウマか。
无凱に促され、距離を詰めるゲイル。ねじくれたナイフが相手を蝕む闇を、炎を、増幅させていく。
灼滅者達の攻撃の手は、緩むことを知らない。仲間が攻撃に徹せられるよう、嘉月が回復を一手に引き受けているからだ。
「僕達はここで時間をかける訳にはいかないんです」
リングスラッシャーが弾けたかと思うと、数珠つなぎとなって仲間を守護する。
「ありがと!」
嘉月に感謝しつつ、翔は蹴りを連発する。『銀斧』のガードを崩すと同時に、足に宿した火勢を増していく。本命のグラインドファイアが炸裂すると同時、瑠璃花のチェーンソー剣が悪魔に刃を立てた。肉を裂き、骨を削り、『銀斧』の心の闇さええぐり出す。
「ぐう、まだ我が愛斧は砕けぬ」
振り下ろされた銀の斧が、ゲイルの肩口に食い込んだ。
「くっ……!」
「大人しく焼き肉にでもなっときゃいいんだがな」
ナノナノさんがゲイルの治癒に徹する中、功徳が隠していたガンナイフのトリガーを引いた。相手の挙動の裏をかくように軌道を変えると、その右眼を穿った。
「この人数相手で視界半減は厳しいだろ」
「ハンデだ……!」
傷を一顧だにしない『銀斧』の頭上へと、落下してくるヘイズ。その姿は、あたかも真昼の流星。
「いいや、これで終わりであります……!」
それまでのダメージの蓄積に耐え切れず、斧が破砕する。その残骸ごと、ヘイズのキックが『銀斧』の胸板を貫いた。
●勇ましく進軍せよ!
「いよいよ戦いも大詰めですかね」
『銀斧』の灼滅を確認し、嘉月が周囲に目を配った。
同様に戦いを終えた班を見つけると、次なる共闘のため、また手当てのために、皆が駆け付けようとする。だが、
「!」
とっさに、その場を飛びのくヘイズ。
一太刀を浴びせようとしたのは、武者アンデッドだ。他にも、宇都宮餃子怪人や、妖刀怪人の姿も見える。
「ちっ、のんびり休んでる暇も与えちゃくれないか。過労死すんぞ」
舌打ちし、功徳が再び構えを取る。
翔も、ここが現在進行形の戦場である事を、改めて思い知る。
「ああもう、安土城怪人を見つけられれば早く終わるんだけどなー……」
が、万全の状態でないとはいえ、傍に大勢の灼滅者がいるという状況は、皆の士気を大きく高めていた。
灼滅者優勢に見えた戦いは、3分ほど経過した頃、その様相を一変させる。
「自分がここに残って敵を食い止めるので、全軍撤退せよ」
戦場全体に響き渡ったのは、安土城怪人の声であった。
命令には絶対服従なのか、それとも部下を思う気持ちを察したのか……大人しく後退していくダークネス達。
灼滅者達は追撃するが、この混戦状態では、逃走する側の方が有利であった。
「……待った。なら、安土城怪人はもう無防備だよな」
実の指摘に、嘉月達が足を止める。
これは、またとない好機。
周囲から誰ともなく声が上がり、それに共鳴した灼滅者達が、一斉に安土城怪人を包囲する。
「瑠璃花、怪我だけは気をつけろよ?」
「翔さんこそ無茶しないでくださいね! じゃないとオヤツ抜きの刑になっちゃうです!」
翔に応じる瑠璃花の視線の先、安土城怪人が何かを取り出し、口に運んだ。それはオヤツではなく、
「まさか、ここで巨大化フードを使わされるとは思わなかったぞ」
巨大化チョコを食べた安土城怪人は、その名の通り、城の如き威容へとみるみる巨大化していく。
「天を衝くとはこのことですか……こちらも連携して……ッ!?」
ゲイルがとっさに地を蹴った。
戦場を圧迫していく安土城怪人から逃れようと、各班が分断されていく。当初のチームを維持する事で精一杯だ。
「武力で天下統一を成し、ゆくゆくは世界征服を行なう我が野望、ここで潰えさせるわけにはいかぬ」
戦場中に声が響くや否や、『天下布武』と書かれた旗が大量に出現した。
次の瞬間、旗が一斉にビームを吐いた。乱れ舞う破壊の雨が、灼滅者達を薙ぎ払う!
爆風に髪を乱されながらも、実が槍を携え、无凱が鋏を構え、安土城怪人の巨躯に立ち向かう。
「ここで敵のボスとやり合う事になるとは思わなかったな。運がいいのか悪いのか」
灼滅者をまとめて握りつぶそうとする腕を駆け上ると、ゲイルがチェーンソー剣を唸らせる。片手を巨大ブレードに組み替えた翔も、間接部分を狙って刃を突き立てる。
すると、安土城怪人の背後に、ゆらり、影が現れた。影の正体は火縄銃、そしてその数は十、二十、百……否、総数三千丁!
「全ての銃口がお前達を向いているぞ。怖かろう?」
そして三千の発砲音が鳴り響く。
死角などありはしない。後方に控える灼滅者達が、容赦なく撃ち抜かれていく。
「こう畳みかけられてはきついやもしれませんね……」
もつれそうになる足を叱咤して。
戦場を駆け回りつつ、嘉月が癒しの矢を飛ばし続けるが、次第に徒労感にさいなまれる。
「もっとも、これだけ的が大きければ、外しようがないでありますな……!」
ヘイズが、『九条葱宗』を振るった。虚空に咲くは炎の花。
「逃がさないからっ!」
数秒の間をおいて着弾した炎が、怪人の外壁をわずかに黒く焦がす。
功徳の追跡弾や瑠璃花のダイダロスベルトも、天守閣部分を狙うものの、瓦が数枚はじけ飛んだだけのようだ。
「いい城だな。守りは硬くて移動可能ときてる」
功徳の皮肉も、安土城怪人の耳には届かない。
●琵琶湖大決戦!
3桁に届こうかという灼滅者たちのサイキックを一身に浴びては、いかに巨大怪人といえど、無傷ではいられない。
「巡れ我が体内のサイキックエナジーよ」
しかし、外壁の、瓦の、石垣の損傷が、瞬く間に修復されていくではないか。
力に勝る安土城怪人と、数に勝る灼滅者。
ゲイルがシャドウの力すら振り絞り、自らを支える。
他の仲間達も、満身創痍。嘉月の途切れぬ支援がなければ、ここまで持ちこたえられなかったに違いない。
「灼滅者よ、お前達は何故、これほどの力を持ちながら……!」
「……約束は守る。そのために戦ってる」
業を煮やしたようにビームを放つ安土城怪人に、実が返す。怪人の耳には届いていないと知りつつも、自身の想いを再確認するように。
懸命に斬り付けていた无凱が、危機を直感し、周囲に離脱を促した。
「グレイズモンキーよ、救援は無用。お前は生き延び、そして伝えるのだ」
火縄銃の一斉射撃を続けながら、どこかにいるであろう相手へと、安土城怪人が呼び掛ける。
「ここで決着を付ければ、天海との同盟の約定は果たせる。これで、終わらせる!」
諦めず、何度目かの拳の雨を降らせる翔。ヘイズの緋緋色金奇譚が、その損傷箇所に合わせて、怨恨を注ぐ。
「まだだ、まだ倒れぬ。我が愛しき部下達が逃げ延びるまで、我は倒れるわけにはいかぬのだ」
怪人が修復する隙に、功徳がありったけのオーラをぶつけた。反動で自分も吹き飛ぶが、仲間がそれを受け止めてくれる。
「我が命の輝きを見よ、天下布武ビーーームぅ!」
尽きぬ野望に満ちた破壊光線の嵐が、猛威を振るう。
倒れていく灼滅者を視界の端に収めつつ、ジェット噴射で瑠璃花が行く。
「ここ……です」
敵の額に当たるだろう部分に突撃、反対側から一気に突き抜けた。
「これが三段撃ち三段目。この銃撃を耐えられたならば、お前達の勝ちだ」
三度目の弾丸の洗礼は、前線から後退していたゲイルをも飲み込んだ。力なく吹き飛ぶ中、目だけで仲間に伝える。『構うな』と。
圧倒的な力によって、いよいよ屈服させられようとする灼滅者達……しかし。
不意に、安土城怪人の体が、上下反転した。
土煙の中から飛び出した灼滅者の1人が、巨体を地面に叩きつけたのだ。
麦色の大爆発が、周囲の空気を、大地を揺るがす。
そして、再び威容を現した安土城怪人が動き出す事は、二度となかった。
「……勝利だ」
天へと突きあげられた拳を見た誰かが、勝ち鬨を上げた。
安土城怪人、灼滅の時であった。
作者:七尾マサムネ |
重傷:ゲイル・ライトウィンド(カオシックコンダクター・d05576) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年2月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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