琵琶湖・田子の浦の戦い~チームアグレッシブ

    作者:空白革命

    「さて皆、伏見城での戦い、すごかったな。見事に勝利だ。
     話を聞く限りだと、スサノオ壬生狼組は豊富な残存兵力で琵琶湖の安土城怪人に決戦を挑むらしい。既に琵琶湖大橋で膠着状態に入ってる。
     でだ。
     現在武蔵坂学園と同名を結んでる天海大僧正勢力から、琵琶湖大橋を抑えてる間に後方から安土城怪人拠点を攻撃する要請が来てる。
     ここまではいいんだが、この期に想定外の事件も起きちまってる。
     第二新宿防衛戦から行方をくらませてた移動軍艦島が静岡県沖に出現したらしい。狙いは田子の浦海岸。
     おそらくザ・グレート定礎が安土城怪人と連携作戦をとったんだろう。まあもしかしたら、刺青羅刹うずめの予知能力による作戦かもしれないが、どのみち武蔵坂学園は戦力を二分する必要がでてきたってのは確かだ。 と言うわけで、決めてくれ。
     琵琶湖の戦いに行くか。
     軍艦島の戦いに行くか。
     このチーム自体は分断できないから、どちらかにしか行けない。しっかり話し合ってくれ」
     状況を整理しよう。
     琵琶湖の戦いが勝利すれば、安土城怪人の勢力を壊滅できるかもしれない。
     逆に琵琶湖で敗北すれば天海大僧正勢力は壊滅するだろう。
     この事実は、もし今後ダークネス勢力と交渉をはかろうした際に協定相手を捨て駒にしたとして問題になってくる。
     一方軍艦島勢力に勝利すれば、軍艦島勢力を壊滅させられるかもしれない。
     勿論こちらも、敗北すれば白の王勢力と軍艦島勢力が合流してしまう。この二つが合流すれば少数精鋭型の危険なダークネス組織になってしまうだろう。
     どちらも同じくらいに重要で、同じくらいに勝利したい戦場だが、両方をとるということは両方に敗北しかねないという危険でもある。
     重要性の比較は、せねばなるまい。
    「これは今後の情勢を左右する大きな選択肢だ。だからこそ皆に選んで貰いたい。俺たちはそれに死ぬまでついて行く。頼んだぜ」


    参加者
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)
    本田・優太朗(歩む者・d11395)
    海川・凛音(小さな鍵・d14050)
    東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)
    十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)
    只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)
    白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)

    ■リプレイ

    ●琵琶湖戦線
    「安土城怪人様のために!」
     武者アンデッドが繰り出してくる刀。それを宙に浮いたイチジクが魔力壁によって受け止めた。
     刀が弾かれよろめく武者。素早く飛び込んだ東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)が剣を握る。
    「まずはこいつらから、ですね。手間……」
     振り込み一閃。武者から刀がはじき飛ばされていく。
    「は、かけさせない!」
     トドメをさそうとした八千華を横から襲うべく切り込んでくる別の武者アンデッド。カブトの装飾と二刀流といういでたちからしてただのアンデッドではない。こいつがこのチームのリーダーというわけだ。
     だがリーダー武者の刀は途中で止められた。
    「こいつは任された」
     十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)が水平に翳した刀によってだ。
     円月を描くように刀を振り払う瑞樹。リーダー武者は怒濤のラッシュをかけてくるが、それを防御の構えで次々に弾いていった。
     両刀いっぺんに叩き付けたところでやっと守り刀を抜いて同時に受け止めると、前蹴りでもってリーダー武者を突き飛ばした。
     瑞樹の全身にできた刀傷に布がひとりでに巻き付き、強制的に治癒していく。
     白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)の艶やかな兵児帯によるものだ。
    「敵のスタミナがかなり減っていますね。ここへ来る前から既に弱っていたんでしょうか」
     周囲の状況を確認する雪緒。八千華も武者アンデッドを切り捨てると、雪緒の守りについた。
    「こちらの戦力がかなり多いですからね」
     天海大僧正軍の後方から進撃した武蔵坂学園灼滅者は現在優勢にあった。
     武者アンデッドたちも本陣防衛のために戦っている状況だ。目に見えて押している。
    「この分だと素早く突破できそうだ」
     天方・矜人(疾走する魂・d01499)は武者の斬撃をロッドで受け止めると、電撃を流しながら打ち付け、そのまま相手を爆発させた。
     ロッドをくるくると回して構え直す。
     彼らの狙いは『もっともいけないナース』だ。元ゴッドセブン。クロキバの籠絡や怪人の勧誘などあれやこれやとやった結果最終的に安土城怪人の傘下に入った淫魔である。
    「露天風呂戦以来か。あの時は逃がしたが……」
     爆発によって鎧がはじけ飛んだ武者に、武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)は巨大な鉄塊のような剣を叩き込んだ。
     斬るというより粉砕する勢いである。武者庵デッドがはじけ飛び、ギリギリ残ったギリギリ残った部位を勇也は力強く踏みつぶす。
    「あとは、彼を倒せば……突破できます」
     本田・優太朗(歩む者・d11395)はダイダロスベルトを硬化させると、人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げた。
     大量に分裂した布槍がリーダー武者へ殺到。
     二刀流で必死に弾こうとするリーダー武者だが、あまりの勢いに防御しそこね、鎧の各所に布槍が突き刺さった。
     突き飛ばされる形になったリーダー武者は樹幹に激突。一旦刀を手放し、弓矢を連射しはじめる。
     只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)は飛んできた矢をアイドルステップで回避。
     被っていた箱をくるんと回し、ウィンクフェイスにチェンジした。
    「援護、おねがいします!」
    「了解」
     海川・凛音(小さな鍵・d14050)が指輪を突きだした姿勢で魔力弾を連射。
     矢を空中で相殺しはじめる。
     数発抜けていった弾が武者に命中。アンデッドを動かしていたエネルギーラインが断絶され、腕がぐったりと垂れた。
    「今です」
     凛音が言うやいなや、葉子が突撃。リーダー武者を背後の樹幹ごとパンチで粉砕した。
     へし折れて倒れる樹木を背に。振り切り姿勢を解く葉子。
     一方で凛音は箒を取り出すと、助走をつけてジャンプ。空中で箒へ跨がる。
    「では早速、索敵を始めます。目標を見つけたら連絡を」
     ハンドサインを出しつつ、凛音は空高く飛び上がった。

    ●もっともいけないナース
     凛音は空中から攻撃目標の『もっともいけないナース』を発見した。どうやらペナント怪人と何か話した後味方の撤退を始めているようだ。
     ハンドサインを出す凛音。
     それを受けた矜人は、すぐ近くで同じ攻撃目標を持っていた仲間に呼びかけた。
    「狙いは同じだよな? オレたちは左から攻める。挟み撃ちでどうだ?」
     犬耳が印象的な少女、炎帝軛である。
    「わかった。わたし達は右から攻めよう」
     矜人は彼女のチームと左右へ分かれて走る。
    「聞こえたか凛音! 俺たちは左だ!」
    「了解、妨害戦闘(ジャマー)ポジションに移行します。お気をつけて」
     凛音は矜人のサインを受け、箒からぴょんと飛び降りた。
     空中でバベルブレイカーを装着。もっともいけないナースと一緒に時間稼ぎをしようと残った『いけないナース』たちめがけて飛び込んだ。
    「攻撃開始」
     重力を乗せた打撃が地面ごと破壊。
     そこへ矜人が両刃のクルセイドソードで切り込んだ。
     吹き飛ばされていくいけないナースたち。
     が、彼女たちとてタダモノではない。手を握り合うと、矜人たちをびしりと指さした。
    「今日こそ結成するわよ。MIN48――のセンターチーム!」
    「聞いてください、『教えて聴診器』!」
     ナース、一斉歌唱開始。
    「くっ、ディーヴァズメロディか!」
    「させませんよ!」
     雪緒は黄色いプレートに筆で『十八禁』と書き殴ると、地面にざっくり突き立てた。
     歌唱領域が阻害され、かき消されていく。
    「デビューライブのところ悪いですが、ステージジャックです。どうぞ」
    「ハコ! オンステージ!」
     膝折ジャンプで飛び出した葉子が、両手のオーラを天空に放った。
     オーラが七色のレーザービームとなり、ナースたちに降り注いでいく。
    「みんなありがとー! 聞いてください、『二人っきりダンボール』!」
     光が降り注ぐ中、マイクを握った葉子は振り付きで歌い始めた。
    「一気に行きましょう」
    「心得た」
     黄金のロッドを構えた優太朗と刀を抜いた瑞樹が突撃。ライブを破壊されてひるんだナースたちを容赦なく切り払うと、そのまま彼女たちのガードを抜けていく。
     ロッドと刀を振り切り、回転ブレーキ。
     彼らの背後でナースたちが次々に爆発していく。
     だが防衛ラインを築いたナースは彼女たちだけではない。
     点滴スタンドやカルテボードを握ったナースたちが飛びかかってくる。
    「イチジク!」
    「ムニャ」
     イチジク(ウイングキャット)が大量に魔方陣を描いて防御を開始。
     八千華は点滴スタンドを剣で弾き上げると、ナースたちの間を駆け抜けていく。
     一方で、ナースのカルテボードを巨大な剣の腹で防御した勇也。
     仲間のチームが『もっともいけないナース』に接触したのを確認した。
     ここからはやりとりが聞こえないが、どうやらナース側は撤退を優先しているようだ。
     その一方で、安土城怪人が巨大化をはじめ、轟音と共に地面を踏みつけ始めていく。
     ナースたちはこの混乱に乗じて逃げるつもりだろうか。
    「挟み撃ちにして正解だったな。東堂、回り込むぞ」
    「はい! イチジク、ここは任せるよ!」
     彼らを足止めしようとするナースたちを押し込めるように割り込むイチジク。
     勇也たちは、優先攻撃目標であるところの『もっともいけないナース』の退路を断ち始めたのだった。

    「今度も逃がしてくれないかなー。私、もっと沢山人助けしたいのよー。灼滅者のみんなも癒やしてあげるからー、ね?」
     可愛らしい眉を寄せ、首を傾げて指を立てるナース。
     覚えのあるテンションだ。勇也はこれに随分と悩まされたが……既に手の内は知っている。
    「あの時はクロキバに邪魔されただけにすぎない。ここで倒す」
    「「ももなす先輩、逃げて!」」
     配下のナースたちが勇也を足止めしようと襲いかかってくる。
     が、それを八千華が受け止める。
     かたや剣で。かたやシザーナイフで。
    「ここまで来たんです、絶対に逃がさない!」
     まとめて振り払い、片方のマウントをとる八千華。シザーナイフを逆手に握ると、ナースめがけて突き立てた。
     もう一方のナースが八千華頭部を殴りつけようとAEDを振り上げるも、それを優太朗がクロスグレイブで殴りつけることで阻害した。殴り倒されるナース。
    「彼女は、ここで倒させて頂きます」
     優太朗は腕をデモノイド因子で剣化させると、ナースの胸を深々と貫いた。
     剣とシザーナイフをそれぞれ抜く二人。
     そこへ。
    「もー、しょーがないにゃーあ」
     もっともいけないナースの子供じみた高い声、ではない。
     殺意の籠もった低い声と共に、優太朗と八千華がほぼ同時に蹴り飛ばされた。
     サッカーボールのように激しく吹き飛ばされていく二人。
     一度にできるようなことではない。高速のダブルプレイが同時攻撃に見えたのだ。
     そして再びもっともいけないナースを確認した時には、その姿は巨大なエネルギーの羽根を身体に纏っていた。ハートの入った目も、ギザギザに歪んでいる。
     羽が広がると同時に衝撃が走り、勇也たちまで吹き飛ばされる。
    「あるてぃめっともっともいけないナース、さんじょう」
    「負けませんよ、アンコールステージ!」
     葉子が大量のサイリウムをばらまくやいなや、架空のステージセットが召喚された。
     スパークとスモークに包まれた葉子は豪華なドレスにチェンジ。ナースを指さすと、青い稲妻が放たれた。
     が、ナースはそれを殴って消滅させる。
     更に帯電した拳をぐわりと開くと、葉子めがけてフィンガースナップを放った。
     逆に電撃を浴びた葉子のフェイステクスチャがハート目に変わっていく。
    「あわわっ!?」
    「葉子さん、下がって!」
     雪緒が割り込み、アリーナチケット(葉子の手配り)を振りかざした。
    「誰彼構わず癒やしてきた? 一見善良ですが、悪魔のような発想ですね。永遠に戦いを終わらせないつもりですか」
     葉子のフェイステクスチャを修復させていく。
    「距離をとるだけ不利です。近接攻撃で追い詰めてください。凛音さんっ」
    「まずは動きを止めます」
     凛音は制約弾を乱射しながら突撃。
     その全てを手刀だけではじき飛ばしてくナース――に、正面からドグマスパイクを叩き込んだ。
     爆発したかのように吹き上がる粉塵。
    「やったか!」
     直撃!
     かに見えて、ナースは手のひらだけで凛音のスパイクを受け止めていた。
     いや、手と腕を貫通している。
     歯を食いしばるナース。凛音の顔面を鷲掴みにすると、注射器のようにとがった爪を立てる。
    「わたしは、もっと、もっと――!」
    「悪いが話を聞いてやる時間はねえぜ!」
     その腕を、矜人が分解したブレードによって交差切断。
     損傷した腕を抱えるようにして、ナースはよたよたと後じさりした。
     どこからともなく包帯を口で引っ張り出し腕に巻き付けていく。
     強制的に修復させた腕で包帯を掴むと、鞭のように振り回す。
     二刀流に構えたブレードで鞭を弾く矜人。
     そこへ、瑞樹が隙を突くように割り込んだ。
     守り刀へ包帯をわざとまき付けさせ、引き寄せるようにして太刀で切りつける。
    「いっ!?」
    「それ以上はやらせん」
     今度こそ動かなくなった腕を垂らすナース。
     無防備なその身体に、瑞樹はさらなる斬撃を繰り出した。
     横一文字大回転斬り。
     胸を切り裂かれたナースは、仰向けにどさりと倒れた。
     エネルギーの羽根もギザギザのハート目ももうない。
     身体を起こそうと震える顎。
     その顎に、勇也の剣がつきつけられた。
     巨大な鉄塊のような剣だ。
    「久しいな。だが、さよならだ」
     あとのことは単純だ。
     ふりあげ。
     ふりおろす。
     それだけで、『もっともいけないナース』の小柄な身体は跡形も無く灼滅した。
    「……」
     勇也は駆けつけた別チームの仲間たちを一瞥してから、瞑目した。
     彼らがナースを生きたまま捕獲したいと考えていたことも、話し合いを試みていたことも知らなかったわけではない。
     だが直接戦った彼にはナースの危険性を見過ごすことはできなかった。雪緒の弁ではないが、敵であっても味方であっても、彼女は戦いを激化させる要因となる。
     そんな彼女は『もっともいけないナース』勢力は多くの配下を戦場から逃がしていた。恐らく今後、その動向を追うこともあるだろう。
     やることはまだ、沢山ありそうだ。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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