琵琶湖・田子の浦の戦い~二者択一

    作者:聖山葵

    「伏見城の戦いの勝利、おめでとうと言わせて貰おう」
     君達を出迎えた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は、天海大僧正が全軍を琵琶湖に向かわせ、安土城怪人との決戦に挑もうとしているようだと明かした。
    「先の戦いでスサノオ壬生狼組の被害が少なかったこともおそらくは原因の一つだろうが」
     その結果、既に琵琶湖大橋では両勢力のダークネスがにらみ合いを始めており、小競り合いも始まっているらしい。
    「天海大僧正勢力からは、自分達が琵琶湖大橋で戦線を膠着させている間に、後方から安土城怪人の本拠地を攻撃して欲しいという要請が入っている」
     この要請は、協定に沿ったものであり問題は無い。
    「だが、この戦いに呼応して想定外の事件が発生してしまったのだよ」
     第2次新宿防衛戦直後から行方をくらませていた軍艦島が静岡県沖に出現し、田子の浦の海岸に上陸しようと近づいてきたのだ。
    「この軍艦島の出現、偶然ではあり得ない」
     日本のご当地幹部であるザ・グレート定礎が、安土城怪人勢力と連携して作戦を行ったか、それともエクスブレインの予知と別系統の予知能力を持つ、刺青羅刹・うずめ様による作戦か。
    「故に、どちらにしても武蔵坂学園は戦力を二分して対応する必要が出てきてしまったという訳でね」
     琵琶湖の戦いを優先するか、或いは軍艦島の戦いを優先するか。
    「このいずれかの戦いへの参戦をお願いする」
     ただし、どちらに参戦するかを決めるのは作戦に参加する君達が決めることだ。
    「説明を続けよう。まず、琵琶湖の戦いに大勝利すれば、安土城怪人の勢力を壊滅させる事も可能となる」
     だが、逆に琵琶湖の戦いに敗北すれば、天海大僧正の軍勢は壊滅してしまうだろう。
    「天海大僧正勢力の壊滅が致命的な問題になるとは言えないが、武蔵坂が協定を反故にして見殺しにしたと言うことになれば、今後あるかもしれないダークネス勢力との交渉などに影が差すのは言うまでもない」
     腕を組みつつ頷くと、はるひは次にと続け。
    「田子の浦の戦いに大勝利すれば、上陸しようとする軍艦島に逆侵攻して、軍艦島勢力を壊滅させる事もできるかもしれない」
     もっとも、こちらの戦いで敗北した場合、軍艦島勢力が白の王勢力に合流してしまう可能性が高くなる。
    「軍艦島勢力は、勢力規模としては大きくないものの有力なダークネスが多く参加している。軍艦島勢力と、戦力は大きいが有力な将が少ない白の王勢力と合流する事は、強大なダークネス組織が誕生すると言うことだ」
     よって、阻止できるならば阻止するべきなのだ。
    「戦力を二分すれば、両方で勝てる可能性があるが、双方で敗北する可能性も高まる。故に悩ましくもあるのだがね」
     どういう結果が出たとしても、この戦いの結果が、今後の情勢に大きな影響を与えるのは間違いないだろう。
    「今回の選択、どちらが正しいと言った正解はない。だからこそ、どちらに向かうかの判断は君達に委ねよう」
     過酷な戦いになるかも知れないが、よろしく頼むとはるひは君達に頭を下げたのだった。



    参加者
    炎導・淼(ー・d04945)
    高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)
    園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    上土棚・美玖(高校生ファイアブラッド・d17317)
    牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)
    ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)

    ■リプレイ

    ●開戦
    「琵琶湖大橋の戦いから一年以上経つのか……」
     ポツリと呟く炎導・淼(ー・d04945)の視界に入るは、頭部がペナントの人影が幾つかとそれに混ざる数名分のシルエット。
    「位置情報の方はお願いするっすよ? おっけ」
     ちらりとウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)を見た嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)は無言で頷くウィスタリアを確認すると視線を前へと戻し。
    「出来る限りのことはしましたし、後は祈って殴るだけですねー」
     携帯電話をしまった園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)もスレイヤーカードの封印を解く。
    「……行きましょう」
     己の恐怖を吹き飛ばすかの様に少しだけ溜めてから高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)は仲間を促し。
    「はい、参りましょうか」
     ビハインドの知識の鎧と共に牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)がこれに続くと、周囲で鬨の声が上がり、安土城怪人の軍勢の一部が一同の元にも向かってくる。
    「さあ、これからが鉄火場ね」
    「うみゅ、決戦の幕開けなの」
     ライドキャリバーの紫に騎乗した上土棚・美玖(高校生ファイアブラッド・d17317)の声に小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)が応じ、口火は切って落とされた。
    「……頼りにしてる」
     ≪ La Santa Bracciale ≫内部の祭壇を展開する美玖は自身を戦場へ運ぶ愛機を軽く撫でた。無茶をすることは移動中伝えてある、だから。
    「ペナばっ」
    「びゃっ」
     霊的因子を強制停止させる結界に捕まり、悲鳴をあげるご当地怪人の内の一人目掛けて、紫が突っ込む。
    「がふっ」
    「……さあ、トラウマに内側から爆ぜるの」
    「おナペッ」
     跳ね飛ばされ宙を舞うペナント怪人は「臨兵闘者皆陣列在前」の九字を美海が唱えた瞬間、言葉通り内から破裂し。
    「これでっ」
    「があっ、安土城怪人様、ばんざぁぁぁい」
     追いすがるように飛んでいた紫姫の縛霊手、堕天使の黒翼で作った握り拳に叩きつぶされ、断末魔を残して爆発する。
    「本当にここの強さは残念、つーかあっさりっすねっ」
    「ガッ」
     さっそく一人目のご当地怪人が倒されたのを見て、呟いた絹代が嗾けた影を刃と化しみそカツ怪人の味噌を散せば。
    「その分本当に数は多いんだがなっ」
     バベルブレイカーを振り上げ、ご当地怪人達に肉迫した淼はその足下へ叩き付けるよう杭を打ち込んだ。
    「てばっ」
    「もちゃべっ」
    「あの時は失敗したが今日で成功の上書きさせてもらうぜ」
     衝撃波へたたらを踏むご当地怪人達へ言い放ち。
    「いやあの時って言われても何のこ」
    「にゃ」
    「かつどっ」
     ツッコミを入れようとしたみそカツ怪人は、ウィングキャットの寸が放った肉球パンチを顔面に貰い。
    「知識の鎧、今ですよ」
    「かっあびゃ」
    「もちゃべっ」
     更にバベルの鎖を瞳に集中させたみんとの指示で晒された知識の鎧の顔を見て、他のご当地怪人共々悲鳴をあげる。
    「おのれ、やられっぱなしでいると思」
    「何処を見てるのかしら?」
    「がペナっ」
     一方的に攻撃される様子を歯噛みし、反撃に転じようとしてウィスタリアの出現させた逆十字にペナント怪人の一人が引き裂かれ。
    「これで二人目です」
    「ぎっ、み、みそカツはふめ……つ」
     遥香の伸ばした影に両断されたみそカツ怪人が爆発四散する。
    「ひぃ、ひぃぃ」
    「くっ、みそカツが……あいつらなんて連係だっ手羽よ。割り込む隙がねぇ。しかもディフェンダーの後ろから」
    「ひ、ひるむなもちぃよ! それに解説は要らんもちぃ! ここからが私達のターンもちぃ、くらうもちぃ!」
    「お、おぅ。行くペナっ」
     立て続けに起きた仲間の死に幾人かのご当地怪人が戦慄するも、お餅っぽい怪人が叱咤しつつビームを放てば、他の怪人がこれに続いた。

    ●質VS量
    「皆の仇ペナぁ」
    「へもぢばっ」
     ダンッと地を蹴ったペナント怪人に一撃を見舞われたお餅っぽい怪人が餡を吐きつつ吹っ飛ぶ。仲間割れの理由は先程逆十字で引き裂かれた時精神を損傷したのだろう。
    「お、落ち着け味方ペナ!」
    「くそっ、厄介な相手だっ手羽よ。これでも喰らぇっ」
    「守るのです、知識の鎧っ」
     何とか正気に戻そうとする別のペナント怪人の横で顔を歪めた両腕が手羽先の怪人が跳び蹴りを放てば、みんとの声に反応した知識の鎧がウィスタリアの前に仁王立ちする。
    「ひとまず回復なの」
    「ありがとうございます、しかし、本当に数が多いですね」
     美海の展開したオーラの方陣に癒やされ、感謝の言葉を述べつつ紫姫は敵を見る。既に両手の指を越える数のご当地怪人が倒れ、味方の一撃をくらった餅の怪人を始め、幾人かのご当地怪人は満身創痍。
    「当たれっ」
    「落ちろっ」
    「ちぃっ」
    「うおおおおっ、煮込みぃっ」
     数を活かしてビームは弾幕と化し、ビームを避けようとした灼滅者目掛け振ってくるのは跳び蹴りを繰り出すご当地怪人。
    「がはっ」
    「こうも数が多いと、塵も積もればなんとやらだな」
     跳び蹴りを避けざまマテリアルロッドでご当地怪人を殴り飛ばした淼は苦い顔で呟き。
    「個々が大したことがなくて助かりましたねー」
    「うぐ……あ、ちょっと待、煮込みぃぃぃ」
     殴打された場所からの爆発に呻いた土鍋頭の怪人が遥香の影に飲み込まれた。
    「援軍は必要なくても、こっちからの援軍も無理っすね」
    「ペナんばっ」
     鼻に指を突っ込んでいた絹代はふっと姿勢を低くすると、高速で回り込んだ死角から身を守る物ごとボロボロのペナント怪人を両断する。
    「範囲攻撃が効いてきたのか随分弱ってるのは多いし」
    「畳みかけ時では、ありますね。行きますよ」
     美玖の言葉を継いだみんとがご当地怪人達の身体から熱を奪う。
    「ぎゃああ餅が硬くなるもちぃぃ」
    「うあああっ冷凍食品は勘弁だっ手羽ぁ」
    「逃さない、目指すは全敵制覇! なの」
     悲鳴をあげ凍り付き始めたご当地怪人達を待つのは、ぎゅりんぎゅりんエンジンを吹かせ突っ込んで行くライドキャリバーとその騎乗者。
    「もちばべっ、ぎっ、安土城怪じ、もっちゃあぁっ」
     跳ね飛ばされ空に舞ったご当地怪人は、身体が地に接するよりも早く、断末魔をあげ爆発する。
    「おのえ、ペナぁぁぁ」
     僅かに遅れて絶命し爆発するペナント怪人。
    「ぐうっ、またあの結界だっ手羽よ」
    「……貴方のご当地は何なの? 私なりに布教するから教えてなの」
     もはや立っているのがやっとの両腕手羽先なご当地怪人が顔をしかめれば、味方のフォローにまわっていた美海が問う。
    「手羽先だ。あと、味噌煮込みとみそカツの奴も伝えてやってくれると嬉しいっ手羽よ。餅の奴は地域が違うからあんまり話する機会なかったしな……それから、ペナントの連中は数が多くて実は俺もしっかり把握してねぇ」
    「ちょ、あんまりペナ!」
    「酷いペナ!」
     かすれた声で答えたご当地怪人に仲間のペナントか偉人達が抗議するが、あの数では仕方ない。
    「まぁ、だいたいそんなとこだ。じゃ、いくぞ」
     話しを切り上げ、満身創痍の身体で地を蹴れば、手羽先怪人は灼滅者達との距離を詰め。
    「喰らえっ、手羽先ぃ」
     狙われたのはが美海でなく紫姫だったのは、単に前に立っていたからだろう。広げた両腕で相手を抱え込み、持ち上げてから叩き付ける、筈だった。
    「すみません」
    「あ……すまねぇ、安土城怪人様、俺……」
     紫姫に触れるより早く、ツララに貫かれたご当地怪人は前のめりに倒れ込むと爆発四散し。
    「ああ、また」
    「くっ、こうなればペナ」
     残されたペナント怪人や他のご当地怪人も満身創痍。
    「せめて最後に一太ペナぁぁぁ」
     一矢報いようとしたペナント怪人が生じた雷に焦がされ倒されたのを皮切りに、戦いは掃討線へと移行して行く。
    「くっ、たかだか十人足らずのなり損ないと一台と一匹に……こんなことがっ、こんな事があってたまるかペぎゃっ」
     やがて最後まで残っていたペナント怪人も倒れ伏せば、足っているのは灼滅者達とサーヴァントのみ。
    「他の班戦闘もそろそろ終わってる筈、心霊手術が終わり次第先に進みましょう!」
    「そっすね。とりあえず、討伐完了だけ送信してっと」
     美玖の言葉に同意した絹代は形態の操作を終えると顔を上げ。
    「ま、どっちにしてもこっからが本番だな」
     紫姫の呟きに振り返る淼は続けた、さっさと直して次へ行くぞ、と。

    ●戦いの行方
    「んむー、グレイズモンキーは来ませんねー」
     周囲を見回しつつ、ポツリと漏らしたのは、遥香だった。
    「とりあえず、あっちの戦力は充分そうですね」
    「ま、あんだけ突っ込めば安土城もひとたまりもないっしょ」
     他の面々と乱入してくる有力敵の存在を警戒しつつみんとが口を開けば、応じた絹代も既に戦場と化した安土城怪人の方へと目をやり。
    「っても、油断は禁物だろうよ。乱入やそれに準じる何かがありゃ、状況がひっくり返ったっておかしくないしな」
    「みぃ」
     めんどくさげな顔で周囲の変化に気を配る淼へ、相づちを打つよう寸は鳴く。
    「そうですね……この戦いの後で霊玉が転がってくるなんてこともやめてほしいですし」
    「いずれにしても、天海大僧正勢力は助力してくれた同盟相手。なら私達がすべきはこの戦いを勝利で終わらせることだけよ」
     どことなくフラグっぽいことを口にしつつ視線を逸らした紫姫の横でライドキャリバーに跨った美玖は戦場を見つめる。個々にいるのが、大将首など関係なく、ただ手伝いをしたい美玖一人であったなら今頃眼前の戦いに参戦していたことだろう。むろん、前方の味方が窮地に陥れば有力敵など関係なく一同は救援に向かったと思われるが、今のところ八人が救援に向かう程の窮地は訪れず。。
    「しかし、姿を現さないわね……グレイズモンキーにしても、他の増援にしても」
     呟くウィスタリア達が警戒を始めておおよそ三分。
    「今居るのがここだから、あの辺りが怪しいのだけ……ど?」
     スーパーGPSと地図を照らし合わせ、ウィスタリアが現在地確認をした直後のこと。
    「全軍撤退?」
     直後に下される撤退命令。
    「どうするっすか、あれ?」
     撤退を始めた取り巻きに向かうべきかという意味合いの問いへ首を横に振ったのは誰だったか。
    「確かに、撤退するなら撤退するでそれを支援するためこちらに向かってくるダークネスが居るかも知れませんね」
     安土城怪人を残して退いてゆくダークネス達を視界の端に入れつつ、みんとはウィスタリアの示した方向を見つめ、再び戦局が動いたのは、この二分後。
    「あれは……」
    「おいおい……何かあればとは言ったがよ」
     ぐんぐんと安土城怪人が巨大化を始めたのだ。
    「そんな奥の手があるのは予想外だったの」
     幾人かの灼滅者は驚くが、それでも撤退させた取り巻きの分、戦力は減っており、戦いは続くが、救援に新手のダークネスが現れることはなく。
    「グレイズモンキーよ、救援は無用。お前は生き延び、そして伝えるのだ」
     きっかけは、孤軍奮闘する安土城怪人の口から名指しの撤退命令が出たことだった。
    「救援は無用と言うことは、ここに来る気はあったってことですねー」
    「そうですね、ただ……逆に言うと他の有力なダークネスは既に撤退命令に従ったと言う事でもあるのでしょうね」
     唸った遥香へみんとが同意し。
    「なら、警戒はここで切り上げてグレイズモンキーの捜索に移行するってことでいいっすかね? 有力な敵なら一人でも多く灼滅しておきたいとこっすし」
     安土城怪人との戦いは灼滅者側が優勢、だからこそ絹代の提案に反対する者もない。
    「こっちに救援に来るつもりが有ったって言うなら、そんなに離れた場所にもいないですねー。探してみましょー。ただ、遭遇した場合、近づき過ぎると危ないかもです!」
     謎の忠告を付け加えつつも遥香は歩き出し。
    「フェンフェンフェーン」
     どこからか悲しげな鳴き声が聞こえたのは数分後のこと。
    「あっちなの」
     美海の示した先、影に隠れるようにして移動していたのは、傷だらけのグレイズモンキーだった。

    ●千載一遇
    「単独はちょっと想定外だけど、問題はないの」
     別班の灼滅者とかそれとも天海大僧正勢力にか、そのシャドウはかなりの痛手を負った様子なのに対して警戒に徹した板事も有ってか美海達は殆ど消耗していない。
    「フェッ」
     何かに気をとられていたのか、それが声を上げた時、美海の唱えた九字で身体は内から爆ぜ。
    「さ、第二ラウンドっすね。敵が居るなら、こっちは好きに暴れさせてもらうだけっすよっ」
     新手に気付き向き直ろうとするグレイズモンキーに絹代の操る影が刃と化して襲いかかる。
    「フェンッ」
    「いきますよ、知識の鎧、マキハラントメイガス――」
     とっさに身体を傾けて回避しようとすれば、今度はビハインドによびかけつつみんとが同時に攻撃を仕掛け。
    「フェーン」
     発生する意図的な雷がグレイズモンキーを焦がす、息つく暇も与えぬ連係攻撃はそれら全てから身をかわすことを許さず。
    「おらぁッ」
    「みぃッ」
     ジェット噴射で飛び込んできた淼を援護するように寸も猫魔法を行使する。
    「フェ、フェェェン」
    「逃がしませんっ」
     再び二方からの攻撃に晒され、飛びずさろうとしたそれの退路を断つは堕天使の黒翼。
    「フェ、ン」
     インパクトの瞬間、放出された網状の霊力がグレイズモンキーに絡みつき。
    「けど、妙ですねー」
    「どうした?」
    「いえ、まったく反撃してこないなーと」
     影を操り、袋叩きに加わりつつ遥香は仲間の声に答える。
    「言われてみればそうだわね、けど――」
     手を止める理由にはならないわとウィスタリアは逆十字を出現させて牽制し。
    「フェ」
    「いくわよっ」
     ライドキャリバーの機動力を活かし、後方に回り込んだ美玖が愛機と共に突撃した。
    「フェーン、フェ、フェンッ」
     弾き飛ばされ地を転がるがようやく止まった先も灼滅者達の包囲網の中。
    「ここまでよ……シャドウハンターとして、あなたを討ち取るの」
     荒鎮の十字剣を手に地を蹴ると美海はトドメを刺すべく斬りかかり。
    「っ」
     届くに見えた非物質化した刃はグレイズモンキーの影から生えた別のモノを斬った。
    「あれは、確か……シャドウポーン」
     影が実体を得たが如き姿のそれを札幌迷宮戦に参戦した者なら見たことがあったかも知れない。
    「と言うことは、横やりを入れてくれたのは、贖罪のオルフェウスですか」
    「ちっ、あと少しだってのに」
     灼滅者達の中には闇堕ちさえ覚悟していた者が居た、だが、影から出現した援軍の数は八。グレイズモンキーも数に入れれば、二、三人が闇堕ちしても戦況が覆るとは思えず。
    「フェーン」
     険しい顔をする一同の前で、一鳴きしたグレイズモンキーはシャドウポーン共々闇に溶けるように消えていき、残されたのは灼滅者達とサーヴァントのみ。
    「せめてこちらにもう少し戦力が有れば……」
     拳を握り締めた誰かの口からポツリと言葉が漏れた。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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