琵琶湖・田子の浦の戦い～敵はどちらにあり？

■リプレイ

●鬨の声
　琵琶湖を北と南に分ける琵琶湖大橋。その橋の上で、天海大僧正の軍勢と安土城怪人の軍勢による、天下分け目の戦いが始まっていた。
　最終決戦だけあり、琵琶湖大橋の手前に築かれた安土城怪人の本陣には安土城怪人本人やグレイズモンキーなど、主だった幹部達の姿も見える。伏見城に配置していた戦力の多くが無傷で合流したこともあり、戦いは安土城怪人側が優勢かと思われたのだが……、
「いざ！　琵琶湖決戦の地へ！」
　本陣の後方で、宮武・佐那（極寒のカサート・d20032）の澄んだ声が響き渡った。それに呼応するかのように、そこかしこで鬨の声が上がる。
「武蔵坂の灼滅者だと！？　いつの間に本陣の背後に回り込んだんだ！」
「まずい、挟み撃ちにされるぞ！」
　事態に気付いた安土城怪人配下のペナント怪人達が騒ぎ出す。
「押しとおらせて、貰います！」
　そんなペナント怪人達を撃滅すべく、普・通（正義を探求する凡人・d02987）が駆け出した時。
「ヤラセナイノデス！！」
　本陣の中から飛び出してきたのは、金色の炎と虎柄の毛皮を纏った、肉感的な女性イフリートだった。
「コガネツメ、ゼッタイ、ナース達守ルノデス！！」
　イフリート・コガネツメはその名の通り金色に輝く爪で、通を切り裂かんと腕を振るう。だがその一撃は、海弥・障風（阻む風・d29656）が解体ナイフで受け止めていた。
「義理堅いのか、完全に籠絡されてるのか。……どっちでもいいな、やる事は一つだ。お前も望んでるだろう？」
　コガネツメの鋭い爪はそれで威力を殺しきれるものではなく、障風の腕を切り裂く。だが、同時に障風の解体ナイフも、コガネツメの腕に複雑な傷を刻んでいた。両者は、一旦飛び退いて距離を開ける。
「天海大僧正とは今手を取り合ってるし、ここは通らせてもらうよ」
　ジグバール・スィーラ（永久に満ちぬ柘榴・d15196）が静かな声でそう告げると、ロケットハンマーを足下に叩きつけた。たちまち巻き起こった震動が大地を震わせ、コガネツメのバランスを崩す。
「ジグ、ナイスだ」
　タイミングを見計らっていたかのように、ユーリー・マニャーキン（天籟のミーシャ・d21055）がローラーダッシュでコガネツメに急接近していった。そしてそのまま、摩擦熱を炎に変えて燃えさかる蹴りをコガネツメに叩き込む。
「アグッ！！　デモ、アタシハ負ケナイノデスッ！！」
「こちらも負けるわけにはいかないの。押し切るつもりでいくわ」
　続けてレイネ・アストリア（壊レカケノ時計・d04653）が動いた。
『惑わぬ心、織り成す虚実、見透かさん』
　封印解除コードを口にすると、出現した白基調の刀を両手に取り、間髪入れず上段から斬り下ろす。
「シャアーッ！！」
　その一撃を両手の爪で受け止めたコガネツメだったが、その爪に細かなヒビが入ったのを見て、驚愕に目を見開いた。
「ヨクモ、アタシノ大切ナ大切ナ爪ーッ！！」
　そのまま、狂乱したかのように金色の炎を纏った爪をレイネ目掛けて振り上げ、彼女の和装を切り裂く。
「ちょっとしたことですぐに我を忘れるなんて、所詮はイフリートですね」
　リーファ・エア（夢追い人・d07755）が放った飛び蹴りがコガネツメの足を止めさせた隙に、月島・アリッサ（妄想爆発破天荒ガール・d28241）が影を解き放ち、暴れ回るコガネツメを絡め取っていた。
「この世に悪があるかぎり！　正義の魔法は不滅なの！　ジャスティース☆ウィッチ！」
　ついでに、ドヤ顔での名乗りも忘れないアリッサなのだった。

●黄金の爪
「ココハゼッタイ、通サナイノデスーッ！！」
　コガネツメが、両の腕を交差させるように爪を振るうと、彼女が全身に纏っていた金色の炎が帯のように広がり、灼滅者達を包み込んでいった。が、
「！？　炎ガ広ガリスギテ、ヨク燃エナイノデス！？」
　炎は前衛に立つレイネ、ユーリー、障風の３人に加え、ライドキャリバーの犬、ビハインドのルイード、霊犬のチェムノータと空丸をも巻き込んでいく。だがそれ故に炎は拡散し、威力自体は弱まってしまっていた。
「よく耐えたぞ空丸！」
　自らの霊犬を激励すると、アリッサは日本刀でコガネツメに打ちかかった。コガネツメは反射的に爪で刀を捌くが、また少し、爪に亀裂が生じる。
「マタ爪ガ！？　デモイイノデス！　後デ、イケナイナースサンタチ二治シテモラウノデス！！」
「随分といけないナース達に恩を感じているようですけど。残念ですが、全てを助けるという事は……敵の敵も助けてしまう、ということなのです」
　通が、どこか悲しそうに呟きながら、縛霊手から放った結界でコガネツメの動きを封じ、
「ここはまだ先鋒戦みたいな所だ。とっとと終わらせて先に進ませてもらうからな」
　障風が赤の交通標識でコガネツメを殴りつけた。
「ウニャアッ！　アタシハ、頑張ルノデス！！」
　コガネツメも、やられっぱなしではいない。動きを鈍らせつつも、黄金の爪を振るい、金色の炎を撒き散らす。その猛攻に、常に最前線でコガネツメと向かい合っていたユーリーの全身が炎に包まれた。
「ユーリ！」
　佐那が悲鳴に近い声を上げて防護符を飛ばし、炎を鎮火していく。
「助かった、佐那」
　ユーリーは短く礼をすると、コガネツメ目掛け暁王剣【засуха/чемпион】の非実体化した剣先を突き刺した。咄嗟に飛び退き致命傷を避けたコガネツメだったが、
「そう動くのは読めていたよ」
　そこへ、クロスグレイブを構えたジグバールが迫っていた。ジグバールはクロスグレイブを巧みに操り、コガネツメの動きを引きつけていく。
「ヴーッ！　オマエ、ジャマナノデスッ！」
　焦れたコガネツメが、腕を交差させるように振るい、金色の炎の帯を巻き起こした。その炎は、今度はジグバールを含む、後方で支援を担当していた灼滅者達に向かっていく。
「そんなに攻撃を散らせていては、戦いには勝てませんよ？」
　自らも炎に巻かれながらも、リーファはクルセイドソード『L・D』を振るい、巻き起こした聖なる風で炎を鎮火していく。
　そして、
「此処は、私の距離よ」
　その間にレイネは、二刀の刀――氷雨と凍姫を構え、コガネツメの懐に飛び込んでいた。
「ウニャッ！？」
　コガネツメは慌てて黄金の爪を振り上げ守りの構えを取ったが、レイネの振り下ろした一撃はその黄金の爪を粉々に打ち砕き、そのままコガネツメの頭をも叩き割ったのだった。

●進軍
　周囲を見渡せば、他の灼滅者達のチームも、立ち塞がったダークネスを灼滅し、進軍を開始していた。
「よーし、このまま琵琶湖周りのほかの敵に殴り込みだ！」
　アリッサの威勢の良い掛け声に、それぞれに傷を癒していた灼滅者達は頷いた。
「少し、遅れを取りましたか」
　ユーリーの言葉通り、既に多くの班が安土城怪人の待ち構える敵本陣へ突入している。とはいえ、彼らは安土城怪人の元へ向かうことを最優先しているため、討ち漏らしている敵も少なくなかった。
「残った敵を確実に討ち取っていくのも大切な役目だよ」
　ジグバールが、他の班を背後から襲おうとしていた武者アンデッドの足を止めるべく、ロケットハンマーを打ち下ろして震動を発生させる。
「王様、最近また太ってきたからちゃんと動くんだよ！」
　佐那はウイングキャットの王様に指示を出しながら除霊結界を展開し、
「今はいい関係を築けてる天海大僧正さんとの約束を果たすべき時だよね」
　通は襲いかかってきた宇都宮餃子怪人に、制約の弾丸を撃ち込んでいった。
　敵の本陣で異変が生じたのは、その時だった。
『自分がここに残って敵を食い止めるので、全軍撤退せよ』
　突如戦場全体に響き渡った大音声。それは、安土城怪人その人の発した、撤退命令だった。
「撤退だって？　せっかく大物を叩くチャンスだと思ってたのに、拍子抜けだな」
　障風が言葉通り体の力を抜く。だが、それはまだ時期尚早だった。
「まって。撤退してくるっていうことは、つまり……」
　レイネが言い終えるより早く、全員がその事実を目の当たりにした。すなわち、琵琶湖大橋から後退した軍勢が、自分達の方角へ殺到してくる光景を。幸い、敵は撤退を最優先しているため、こちらに直接向かってくる者はいないようだが。
「だけど、このままだと戦場全体が混乱して、安土城怪人に逃げられてしまうかもしれませんね」
　リーファが険しい顔で呟いた時、二つの出来事がほぼ同時に起きた。
　一つは、敵本陣で、突如安土城怪人が巨大化したこと。その大きさは、距離の離れたここからでも充分見える程だ。
　そしてもう一つは、
『撤退するペナント怪人を発見！　増援頼む！』
　少し離れたところに位置取っていた班の興守・理利が発した割り込みヴォイスが、一同の耳に届いたこと。
　見れば、既に殺到するペナント怪人との戦闘が発生している。
「巨大化した安土城怪人も気になりますが、まずは彼らを助けるべきでしょうね」
　ユーリーの言葉に頷き、一同は駆け出した。あらかじめ他の班とアドレスの交換をしていたリーファは、一斉に救援メールを送信するのも忘れていない。
「私達も加勢しましょう。他のグループにも救援要請のメールをしておきました」
　リーファは聖なる風を吹かせ、劣勢になっていた理利の班の前衛陣を回復させる。
「頑張ろう空丸！　もうひとふんばりだ！　あとそこのちび……障風くんもファイトだぞ！」
　アリッサが霊犬の空丸と、既にペナント怪人と交戦している障風を励ましつつ、自身も日本刀で手近なペナント怪人に斬りかかった。
　更に通知を受け取った別班が駆けつけ、
「堺市ヒーロービーム！」
　堺・丁が高らかに響き渡る声と共に、ペナント怪人の１人を撃ち抜けば、
「そっちへは行かせねぇ！　派手にいくぜ！」
　別の方角からやってきた七瀬・悠里が、ダイダロスベルトを全方位に射出してペナント怪人達を貫いていった。
　こうして戦いは、両軍入り乱れての乱戦模様となっていったのだった。

●乱戦
「ご当地怪人さんたちは、もっと穏便に活動すればいいのですよ……」
　影の触手でペナント怪人を絡め取った通がそっと呟く一方で、
「強敵との戦いになるかと思ったら雑魚の群れか。俺達の敵じゃないな」
　障風は解体ナイフを手に、小さな体を生かしてペナント怪人達の合間を縦横無尽に駆け回り、彼らのアイデンティティーであるペナントを切り裂いていく。
「このまま見逃すと後々厄介そうですからね」
「数には数で対抗するとしましょう」
　そして仲間達が動きを封じたペナント怪人を、ユーリーとレイネが一体一体仕留めていった。
　だが、後がないペナント怪人達も必死である。彼らの決死の攻撃は決して侮れず、コガネツメ戦の傷が残っていたビハインドのルイード、霊犬の空丸、ライドキャリバーの犬が次々と消滅していく。
「いつもありがとうな、ルイード。今回は無理をさせてしまった」
　ジグバールは自身のビハインドに詫びつつ、ルイードに止めを刺したペナント怪人目掛けて、ロケットハンマーを叩きつけた。
「このまま消耗戦になるとつらいですね」
　次々と仲間達を回復させていたリーファが眼鏡の下で眉根を寄せた、その時。
「なんだい、苦戦してるみたいじゃあないか」
　かけられた声の方に目を向ければ、そこには狼の頭に萌葱色の羽織の剣士の姿。天海大僧正軍の先鋒たる壬生狼組が、敵陣を突っ切って駆けつけてきたのだった。
「あなたは……」
　リーファが目を瞠ったのは、そこにいたのが伏見城の戦いで共闘した壬生狼組だったからだ。
「借りを作りっぱなしってぇのは性に合わなくてね。返しに来たんだよ」
　言うや、壬生狼組は白い炎を纏った蹴りでペナント怪人を吹っ飛ばした。
「狼さん達、心強いです！」
　ウイングキャットの王様と共に精一杯仲間達を支援していた佐那の顔が輝く。
「まだまだ敵は一杯だけど、やってやれないことなんてなぁーいっ！」
　アリッサもそう言って気合いを入れるが、ペナント怪人の数はまだまだ多い。壬生狼組が参戦したことで、ようやく五分五分の戦力といったところだ。決して気を抜ける状況ではなかった。
　そして、乱戦の煽りをもっとも受けているのは、仲間の盾となり続けていた障風と、霊犬のチェムノータだった。同じく壁役だったサーヴァント達が消滅したことで、必然的に彼らにかかる負担も大きくなる。
「大丈夫ですか？　少しでも弾避けになるように、私も前に出ましょう！」
　佐那がポジションチェンジを申し出て前衛に加わる。が、
「喰らえ、起死回生のペナントキーック！！」
　ペナント怪人の一体がレイネ目掛けて繰り出したキックをかばいに入った障風が、とうとう攻撃に耐えきれずに膝を折った。
「大丈夫か、障風！」
　追い打ちをかけようとするペナント怪人の動きを制約の弾丸で封じたアリッサが声をかけると、障風は苦痛を堪えながらも不敵な笑みを浮かべる。
「当然だ。俺は他のやつらとは一味違うからな！」
　だが、もはや彼の戦線復帰は難しそうだった。
「これは中々厳しい状況だね」
「確かに」
　 共にクロスグレイブを構えてペナント怪人と戦っていたジグバールとユーリーの表情からも、いつしか余裕が消えている。
「……いえ、この戦い、私達の勝利です」
　そう断言したリーファが見つめるのは、周囲の戦況ではなく、巨大化した安土城怪人の姿。そして、彼女の声につられてそちらに目を向けた全員が、安土城怪人の巨体が倒れ、地面に激突して動かなくなる様を目撃した。やや遅れて、勝ち鬨が本陣から上がる。
「あ、あわわ……安土城怪人様が！」
　ペナント怪人達が戦意を喪失していくのが、目に見えて分かった。
「戦う意志を無くした者を倒すのは、心苦しいけど」
　レイネの振るう刃が、ペナント怪人を切り裂いていく。
「これで、決着だよ！」
　アリッサの言葉通り、戦意を喪失したペナント怪人達を灼滅するのに、そう時間はかからなかった。
「どうやら大勝利のようだねぇ。癪ではあるがお前さん達のおかげだ、礼は言わせてもらうよ」
　共に戦っていた壬生狼組が、そう言って頭を下げる。
「こちらこそ、救援にきてもらって助かりました」
「本当にありがたかったです！」
　ユーリーと佐那が慌ててそう礼を返し。
「……天海大僧正さんとの協力関係が、ダークネスとの共存の一つの形になればいいなぁ」
　ダークネスとの共存を夢見る通は、そう強く願うのだった。

作者：Ｊ九郎	重傷：海弥・障風（阻む風・d29656）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年2月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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