琵琶湖・田子の浦の戦い~岐路を塞ぐ悪魔

    作者:夕狩こあら

    「兄貴、姉御、お疲れ様でしたッス!」
     伏見城の戦いで勝利した灼滅者達に、日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)が敬礼を捧げた。
    「この戦でスサノオ壬生狼組の損耗を抑えた天海大僧正は、琵琶湖に全軍を進め、安土城怪人との決戦に挑むみたいッス」
     既に琵琶湖大橋では両勢力が睨み合い、小競り合いも始まっているという。
    「天海大僧正勢力からは、自分達が琵琶湖大橋で戦線を膠着させている間、後方から安土城怪人の本拠地を攻撃して欲しい、との要請が入ってるッス」
     協定に沿った要請に問題は無いが、この戦いに呼応して想定外の事件が発生した。
    「第2次新宿防衛戦直後から行方をくらませていた軍艦島が、静岡県沖に出現し、田子の浦の海岸に上陸しようと接近してきたんス!」
     軍艦島の出現は偶然ではなかろう。
     恐らく日本のご当地幹部であるザ・グレート定礎が、安土城怪人勢力と連携して作戦を行ったと想定される。
    「或いはエクスブレインの予知と別系統の予知能力を持つ、刺青羅刹・うずめ様による作戦かも分からないッスけど、何れにせよ武蔵坂学園は戦力を二分して対応しなきゃならないッス」
     琵琶湖の戦いを優先するか、軍艦島の戦いを優先するか――。
     どちらが正しいかは判らない。
    「作戦に参加する兄貴らの意思で、どちらの戦いに参加するか決めて欲しいッス!」
     ノビルの言は更に続く。
    「琵琶湖の戦いに大勝利すれば、安土城怪人の勢力を壊滅させる事も可能ッス。逆に敗北すれば、天海大僧正の軍勢は壊滅……」
     天海大僧正勢力が壊滅する事は、致命的な問題ではないが、武蔵坂が協定を反故にして見殺しにしたという事になっては、今後のダークネス勢力との交渉などに悪影響を与えるかもしれない。
    「そして田子の浦の戦いに大勝利すれば、上陸しようとする軍艦島に逆侵攻して、軍艦島勢力を壊滅できるかもしれないッス」
     逆に田子の浦の戦いに敗北した場合は、軍艦島勢力が白の王勢力に合流してしまう可能性が高くなる。
     軍艦島勢力は、勢力規模としては然程大きくはないが、有力なダークネスが多く参加している。この勢力と、戦力は大きいが有力な将が少ない白の王勢力と合流する事は、強大なダークネス組織の誕生を意味するため、阻止できるならば阻止すべきだ。
    「戦力を2分して戦えば、両方で勝利できる可能性がある一方、両方で敗北する可能性も高まるので、大きなリスクを抱える事になるッス」
     どういう結果が出たとしても、この戦いの結果が、今後の情勢に大きな影響を与えるのは間違いない――。
     丸眼鏡を押し上げて言うノビルは真剣そのもの。
    「どの選択が正しいという事はないんで、どの戦場で戦うかは任せるッス」
     より良い未来に繋がるように――兄貴らの力が必要だと言うノビルは、
    「ご武運を!」
     ビシリと敬礼して、説明を終えた。


    参加者
    館・美咲(四神纏身・d01118)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    志賀神・磯良(竜殿・d05091)
    興守・理利(赫き陽炎・d23317)
    高嶺・円(蒼鉛皇の意志継ぐ餃子白狼・d27710)
    天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)
    蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925)

    ■リプレイ


     威嚇と牽制に小競り合いを起こしていた両勢力が、遂に乾坤一揆の決戦を迎えた――。
     碧落は喊声に満ち、怒涛の進撃が地響きとなって足を揺らす中、天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)は焼け付く烈風に艶髪を靡かせながら、鴻大なる黒叢へと攻め込む。
    「随分と血腥い情勢になったな」
     その声も忽ち自軍より突き上がる鬨の声に呑まれるが、仲間の言を沈着の裡に拾うは興守・理利(赫き陽炎・d23317)。
    「この優勢のまま有力敵にまで矛が届けば幸甚ですが」
     陣形、戦力、共に分がある此度こそ好機。
     琵琶湖大橋にて相対する天海大僧正勢力と安土城怪人勢力、その後方より進軍した武蔵坂学園は、実に兵員の3分の2を割いた圧倒的戦力と、敵背を強襲する形で軍庭に割り入る有利を得ている。
    「向こうも最終決戦に幹部を揃えてきたろうしな」
     総力戦――故に誰をも逃すまじ、と必殺の気概に燃える槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)の足は速く、迎撃に討って出る敵勢を真先に捉えた。
    「嗚オオヲヲヲ!」
    「モ゛ヲォォォ!」
     本陣は奪わせまいと数多のダークネスが大挙する中、土埃舞う戦場に閃光を放つ――否、日輪を額に反照させた館・美咲(四神纏身・d01118)は、好戦的に花顔を耀かせ、
    「天海に手を貸すのは色々と気が進まん部分もあるが、闘るからには全力じゃ」
     神獣型強化装甲服【麒麟】が包む躯を剣戟の中へ躍らせる。
     後衛より注がれる光輪に援護を得つつ、堅牢を増す楯は道を拓き、
    「個人としては関わり薄いが、同盟相手だからな」
    「約束を反故するのも気分が悪いしね」
     続く夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)と志賀神・磯良(竜殿・d05091)は、熱気の渦と衝撃波が時に刃となって肌を切るのも構わず、その炯眼に攻口を見出したか――片や光矢を射て自陣の鋭槍を研ぎ澄まし、片や影を這わせて標的を掴めば、闇黒の鎖を千切った魁偉が愈々哮った。
    「武蔵坂の小童が、本陣を獲れると思うてかァ!」
     緒戦の相手はソロモンの悪魔。
     猛角を迫り出す牛の面容が大呼し、人型の腕が戦斧を振り降ろす。
    「我に血を奉げよ!」
     その刹那――、
    「天海じいちゃん……義理は果たさせて貰うよう!」
    「ぬっ!」
     颯と軌跡を潜り抜けた白狼――獣人と化した高嶺・円(蒼鉛皇の意志継ぐ餃子白狼・d27710)の足蹴りが超重力に叩き伏せ、挙動を楔打った。
     その凛然に歯切りする間もない。
    「さぁて、いっちょ暴れるとするかね……!」
     軽快な声が耳を過ぎったのも一瞬、墜下する円に代わって飛翔した蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925)が、2撃目のスターゲイザーを肩口に見舞う。
    「、をッ!」
    「今回はキッチリ仕事させて貰うぜ」
     穹色の瞳が伏見城の天守閣より見た光景は未だ新しい。先の戦いで多くの敵を逃した悔しさを忘れぬ彼は、その色をゴーグルに隠し――敵脇を抉る日和の白撃を見届けた。


     鉄壁の防御なくして攻撃なし、とは言うたもの。
     情報に乏しい敵、或いは増援、そして目指す有力敵と渡り合うに楯の損耗を抑えた彼等の策戦は功を奏し、現に攻勢を得て強敵を突き放している。
    「力自慢でもしそうな躰で、キャスターとはのぅ」
    「モッフッフ。これぞ意外性!」
    「己が力に自信がないのか、とんだ小者ぞ」
    「何ィ!」
     縛霊撃を衝き入れると同時、美咲は攻撃を集めんと挑発し、見事煽られた敵が熾烈なる斧撃に斃さんとすれば、康也が破邪の剣閃を挟んで角逐する。
    「キッチリぶっ飛ばす! そんで全員守りきる!」
    「やってみろ! その前に貴様を潰すッ!」
    「その前の前にぶっ飛ばす!」
    「その前の前の前に潰す!」
     血汐を噴きつつ睨み合う両者、武は幾分相手にあろうが、3枚目の盾――阿曇が浄霊眼に支えれば相剋は揺るがず、
    「……いつもありがとう。今回も頑張ろうね」
    「わふっ」
     その主、磯良が祓串より退魔の霊力を迸らせれば、抗衡を破られた巨躯が体幹を崩して前衛に差し出される。
    「流石に余裕ぶってくっころやってる場合では無い。姫騎士モードで臨もうか」
     ドMメス豚属性を封印した日和は、只々「強い佳人」。微塵も弱点を見せぬ彼女が螺穿槍に膂力を増せば、前衛は一層看過できぬ強靭を得る。
    「生餌どもが虚仮威しを、ッ!」
     折角の機動性も台無しに、猛牛の如く突進する敵には中・後の牽制が効き、
    「これで目隠しになるかな?」
    「――ッ!」
     黒塊の驀進を嫋やかに交わす円はまるでマタドール。一縷の隙も逃さぬ金瞳が擦れ違い様に焔の奔流を浴びせて視野を奪えば、紅蓮を割って飛び込むは目も醒めるような赤髪。
    「熱いだろ? 俺が冷ましてやるよ」
    「おををッッ!」
     炎の次は氷が馳走か、鋭き灼眼に敵を射た治胡は氷針を撃ち込んで激痛にもてなし、全身に痛痒を走らせた魔牛は闇雲に斧を振るのみ。
     その戦斧が荒狂う黒風を呼んで灼滅者の肌を裂き身を斬るも、理利が即座に夜霧に覆えば自陣に深刻な乱れはなく、
    「早々からKO者を出す訳にはいきません」
     過酷な連戦を想定して戦陣を支える黒き狭霧は、縛霊撃を駈る空の出処と軌跡を寸前まで隠し、攻撃をも援護した。
    「お前を餌に、大物釣らせて貰うぜ」
    「ッ……ッッ!」
     頑強と俊敏を兼ね揃えた精鋭が、ここに身動きを完全に奪われる。
     魔牛は皮肉めいた言に抗うべく呪詛を吐くも、凍てる死は身軽な彼を捕える事は出来ず、遠退く長躯に代わって敗色が近付くのみ。
     全員が感情の絆を繋げば連環は鉄鎖の如く、怒涛の猛攻に叫喚する間もない。
    「速攻で叩き潰すよう」
     踏み止まってはいられぬと、神速で切先を走らせるは円の【沖膾蒼鉛】――餃子となめろうの力を宿した聖剣は敵の誇りである猛角を手折り、
    「悪いが今回はもっと大物を狙っているんだ。早く退いてくれ」
    「何、だと……ッ」
    「言葉通りさ」
     有態に言ってのける磯良は透徹たる麗顔を崩さぬ儘、縛霊撃に捕えた躯を追撃に託す。
     阿曇に回復を指示しつつ、飄々たる言を神楽舞に添える様は常と変わらぬも、その水眸は――笑っていない。
     続く空は凄まじい駆動音を伴いつつ鋸刃の回転を袈裟に走らせ、
    「行くぜ! 前座はさっさと引っ込みな!」
     邪眼を剥いた魔は夥しい紅血を噴き、地に赤き海を作った。
    「嗚おおをっ!!」
     死に抗う闇は己が血に滑りながらも戦斧を握り、踏み揃う守盾を破らんとするも、
    「全力を以てすれば妾を倒せると思うたか」
    「楯は壊させねぇ!」
     創痍を受け取る代わり、美咲が雷光迸る拳撃に魁偉を折り曲げ、続く康也が【Tieren der Wildnis】の閃きに斧を砕けば、武器を失った凶獣は踏鞴を踏んで後退する。
     両者のカウンターアタックに機を得た治胡と日和は龍虎と相成り、
    「アンタを、倒させて貰うぜ」
     地を駆る治胡は宛ら煉獄の獅子――灼罪の紅炎は渦を巻いて巨躯を呑み込み、
    「惑い彷徨いながら闇に還るが良い」
    「……ォ……ッ、ッッ!!!」
     天翔る日和は風花の如く護符を降らせると、苦渋を絞って暗霧と消える闇を眼下に敷く。
    「回復を」
    「頼む」
     彼女の着地を光輪の癒しに迎えた理利は、制勝に安堵する間もなく戦力を確認し、
    「正直言うと、天海が安土城怪人と敵対した理由を明かしていないのが気になりますが」
     進むしか、戦うしかない身に過ぎる懸念を汗と共に拭いつつ、砂塵の先を凛と見詰めた。


     本陣に近付けば、敵の層が厚みを増すのは仕方ない。加えてソロモンの悪魔――精兵を駆逐した彼等の気勢を潰さんと敵が群がれば、休みなき連戦に鉾と楯は漸う磨り減る。
     今、道を塞ぐは不良羅刹か、剣戟を往なして先行こうとする一同は執拗な捕縛を浴び、
    「命ァ獲らせて貰うぜェ!」
    「しつこい男も嫌いではないが、今日は遠慮するぞ」
     普段なら喜悦の嬌声を以て痛撃に甘んじるであろう日和も、地を這う触手を疾風の斬撃に蹴散らし緊縛を拒む。
     霊犬の消失に楯を補った治胡は、自ら傷負う事で仲間の足を進ませ、
    「俺の道を見失わぬよう――進路を守る」
     惨憺たる創痍から燃立つ炎は赫々と、纏う闘気【伏竜鳳雛】は灼光を紡いで戦友を癒す。
     斯くして拓かれた道の先を見た円は、脇に迫る鬼神の怪腕を餃子闘気に弾きつつ、聡い耳に異変を、曇りなき瞳に異景を映して息を呑んだ。

     全軍撤退せよ――。

     先の戦いで損耗を抑えた天海勢と、多くの戦力を割いた武蔵坂の援軍に耐え切れず、遂に安土城怪人が撤退命令を下す。
    「安土勢が……退却するよう!」
     安土城怪人が本陣に残って両勢力を抑える間、総員撤退すべし――戦場に響き渡った号令に、地に響く跫音が変わり、熱気が変わり……微細な変化を嗅ぎ取った彼女は、声を辿る他班の背を見ながら、その奥で肥大する闇に目を瞠った。
    「巨大、化……!」
     遠目にも分かる安土城怪人の巨大化に続く言もない。
     最終決戦に秘技を以て挑む首魁、一同の足は自ずと其方へ向かう処だが――。
    「――いけない」
     理利の端然が初めて顰み、その紫瞳は土埃に薄らと揺れるペナント群を射た。
    「退軍命令で、全軍が一斉に押し寄せてきます!」
     天海勢と相対する連中が背を見せて退却するとならば、安土勢の後陣を衝いた武蔵坂に残兵が殺到するのは必至。
     何より撤退方向には安土城怪人が居る。兵らは旗頭の救援に来る訳ではないにしろ、戦場の混乱に乗じて首領に逃げられては元も子もない。
     橋から撤退してくる敵を堰き止め、邀撃してこそ完全勝利――咄嗟に弾き出した戦術が、強い発声と成って戦場を翔け渡った。
    「撤退するペナント怪人を発見! 増援頼む!」
     突堤を成すには数が足りぬと判断した理利は右方に、緊迫を受け取った康也は左方に声を割り込み、周辺の仲間に合流を促す。
    「殆どが安土城怪人の討伐に流れているが……集まってくれ!」
     幾人に声が届くかは分からない。多くの班が有力敵を狙って動いている以上、戦況の変化に応じて機動を変えられる部隊はそう多くなかろう。
    「それまでは……耐えるのみ、か」
     上等、と影を滑らす磯良は、迫る苦境を前に苦笑と自嘲を入り混ぜたような艶笑。
     宿敵からの援軍要請に複雑な思いを抱えていた彼は、押し寄せる混沌に心中を投影して皮肉を溢し、
    「此処を抜けられては戦が終わる。辛抱じゃ」
     全ての血と汗を無駄にすまいと、美咲はワイドガードに防御を固める。
     言は毅然ながら、小柄な躯は敵か己かも分からぬ鮮血に染まり、死闘の渇求だけが彼女を立たせていた。
    「そこを退けぇい!」
    「押し潰してくれる!」
     然し多勢に無勢。
     変えた楯すら摩損する危機的状況に焦燥が差した――その時。
    「私達も加勢しましょう。他のグループにも救援要請のメールをしておきました」
     癒しの聖風を戦がせるリーファ・エア(夢追い人・d07755)が戦場に冀望を齎し、仲間の鋭撃が敵勢を押し返す。
    「増援――!」
    「こっちからも!」
     更に通知を受け取った別班が駆けつけ、
    「堺市ヒーロービーム!」
     窮地を救うはやはりヒーロー、堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)が四の五の言わず光条を叩き込めば、
    「そっちへは行かせねぇ! 派手にいくぜ!」
     別方向には伸びる翼撃に敵躯を縛した七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)が、頬に繁吹く血を拭いつつ現れた。
    「悠里!」
     伏見城でも共闘した友の加勢に、空が喜ばぬ筈がない。
    「んじゃ、へばってる場合じゃねーな!」
     小気味良く口角を持ち上げた彼は再び碧天に躍り、婚星の尾を引く踵落としにペナントを引き裂き――笑った。


     増援を叫ぶ声が仲間に届き、その仲間が通知して、更に応援を呼んでくれた。
     一気に戦力を増した灼滅者は琵琶湖大橋を前に怒涛を堰き止める布陣を展開し、志気も十分に安土勢を迎撃している。
     加えて、天海勢の力を得た事も大きかろう。
    「敵陣を割って旗が来るぞ。あれは……」
    「スサノオ……壬生狼組!」
     最初に気付いたのは日和と空。見覚えのある顔の傷に、彼等が先の戦いで同行した隊士達と判れば、壁を成すペナント怪人らを直ぐさま薙ぐ。
    「焼き払え!」
     七不思議奇譚『サイボーグ・カバ』が姫騎士を傍らに開口してビームを弾けば、
    「おっと、馴れ合いはしないんだっけ?」
     空がズタズタラッシュに敵躯を両断し、千切れる肉の間より浅葱色の羽織を見る。
    「貴様らなどもう忘れたわ」
    「既に伏見城で捨てた命。骸に話しかけるとは酔狂な」
     相変わらずのツン――然し此処で精鋭を得た事は大きい。
    「安土は此処で終わらせる」
    「ご助力願います」
    「他の壬生狼組は……?」
    「潰えてなければ進む足ぞ」
     理利と円が続々と現れる隊士らに見知った顔を捜すのも無理はない。伏見城で共闘した者達の無事を、再会をと思うのが二人の情。
    「然し天海の先鋒が突っ切ってきたとは……残兵も分断され、討ち易くなりました」
     厚みも削れたか、と潮合を見極めた理利は此処に攻撃へと転じ、小太刀【陽炎幽契刃】は急所だけを刃に喰ろうて命を屠る。
     布陣は次第に鶴翼を成して敵を囲繞し、
    「逃がさないからっ!」
    「グゥ、ッ!」
     新たな加勢に支えられた円は、流星と化して光帯びる蹴りに敵躯を射止める。
    「一気に押し込む」
    「はいっ!」
     斯くして増援を得た彼等が次第に優勢を得始めた頃、爆風と轟音が「時」を知らせた。
    「安土城怪人が……!」
    「おおおぉぉ!」
     麦色の大爆発に続く灼滅者の勝鬨、天海勢の雄叫びが、首魁の最期を告げ知らせる。
     遠目にも判る死は残兵らに敗北を突きつけ、
    「……向こうは終わったようだね」
    「ならば此方も畳まねばなるまいて」
     戦意を喪失させる彼等に終焉を手向けるは、磯良と美咲。
    「敵を逃して禍根を残す様な不間はしない」
     流麗なる玉容を冴刃の如く、磯良は仲間と他班の力を信じて果敢に敵陣へと身を躍らせ、フォースブレイクにペナントを引き裂き、
    「うおおぉ安土城怪人の仇!」
    「参るが良い! さあ、死合おうぞ!」
     美咲は地獄まで付き合うか、決死の剛拳に活殺の雷拳を突き合わせ、血飛沫をしとど浴びて尚耀く。
     今や戦場は志気を失った兵と、玉砕覚悟で特攻する兵、其れを掃討する兵と混沌たる様相を呈しているが、勝利を証したのは康也と治胡のコンビネーション。
     血と戦塵に塗れた両者は既に満身創痍ながら、喊声を背に勇壮と、
    「これで最後! キッチリぶっ飛ばす!」
    「戦の顛末、見届けてやるよ」
     凶獣の黒牙が敵躯を呑み込むと同時、赫然たる焦熱が被せるように逆巻けば、煉獄に堕とされた闇は今際の咆哮を上げる事すら叶わず灼滅される。
     ふわりと着地した足に燃えゆくペナントを組み敷いた治胡は、
    「康也、またおでん持ってきてるなら貰おーかな」
    「ある。ほらよっと」
     黒煙と消えるそれを踏みつつ缶おでんを受け取ると、激闘に角を凹ませた缶詰――その不思議な温かさに微笑を零しつつ、
    「……やっと休める」
     と、万歳の満ちる蒼穹に吐息し、皆と共に腰を落とした。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ