琵琶湖・田子の浦の戦い~戦いの天秤

    作者:三ノ木咲紀

    「まずは、伏見城の戦いお疲れ様や! この戦いに勝利できたんは、大きい思うわ」
     にかっと笑ったくるみは、集まった灼滅者達にぺこりと頭を下げた。
    「この戦いでスサノオ壬生狼組の被害が少なかったこともあってな、天海大僧正は全軍を琵琶湖に向かわせて、安土城怪人との決戦に挑もうとしとるみたいや。既に、琵琶湖大橋では小競り合いも起こっとるみたいやね」
     天海大僧正勢力からは、自分達が琵琶湖大橋で戦線を膠着させている間に、後方から安土城怪人の本拠地を攻撃して欲しいという要請が入っている。
     この要請は協定に沿ったものなので、問題は無い。
     だが、この戦いに呼応して、想定していない事件が発生したのだ。
     第二次新宿防衛戦直後から行方をくらませていた軍艦島が、静岡県沖に出現したのだ。今は田子の浦の海岸に上陸しようと近づいてきている。
     軍艦島の出現は偶然という事はありえない。
     おそらく、日本のご当地幹部であるザ・グレート定礎が、安土城怪人勢力と連携して作戦を行ったと想定される。
     あるいは、エクスブレインの予知と別系統の予知能力を持つ、刺青羅刹・うずめ様による作戦かも知れない。
     どちらにせよ、武蔵坂学園は戦力を二分して対応する必要が出てしまったのだ。
    「琵琶湖の戦いを優先するんか、軍艦島の戦いを優先するんか……。どっちが正しいんか、うちには分からへん。作戦に参加しはる皆の意思で、どっちの戦いに参加するんか決めたってや」
     琵琶湖の戦いに大勝利すれば、安土城怪人の勢力を壊滅させる事も可能となる。
     逆に、琵琶湖の戦いに敗北すれば、天海大僧正の軍勢は壊滅してしまう。
     天海大僧正勢力が壊滅する事は、致命的な問題ではない。
    「そやけど、武蔵坂が協定を反故にして見殺しにした、っちゅーことになれば、今後のダークネス勢力との交渉やなんかに悪影響が出るかもやなぁ」
     田子の浦の戦いに大勝利すれば、上陸しようとする軍艦島に逆侵攻して、軍艦島勢力を壊滅させる事が出来るかも知れない。
     逆に、田子の浦の戦いに敗北した場合、軍艦島勢力が白の王勢力に合流してしまう可能性が高くなる。
     軍艦島勢力は、勢力規模としては大きくないが、有力なダークネスが多く参加している。
     この軍艦島勢力と、戦力は大きいが有力な将が少ない白の王勢力と合流する事は、強大なダークネス組織の誕生を意味する。
    「そやさかい、こっちも阻止できるんやったら阻止するべきやなぁ」
     戦力を2分して戦えば、両方で勝利できる可能性が上がる。
     しかし両方で敗北する可能性も高まるため、大きなリスクを抱える事になる。
    「どういう結果が出たとしても、この戦いの結果が、今後の情勢に大きな影響を与えるのは間違いあらへん」
     くるみは難しい表情で腕を組んだ。
    「今回は、どの選択が正しいっちゅー事はあらへん。そやさかい、どっちの戦場で戦うかは皆に任せるわ。どっちになっても悔いのないように、よう話し合って決めたってや」
     くるみは難しい表情のまま、ぺこりと頭を下げた。


    参加者
    忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    土岐・佐那子(朱の夜鴉・d13371)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    アデーレ・クライバー(地下の住人・d16871)
    七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)
    雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)
    真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302)

    ■リプレイ

     琵琶湖大橋から、鬨の声が上がった。
     先を急ぐ灼滅者達の行く手を塞ぐように現れた鎧兜姿の大将は、警戒態勢を取る灼滅者達に槍を突きつけた。
     同時に飛び出してきた配下武者が、怒涛のように襲い掛かって来る。
     真っ直ぐ放たれる気魄に、ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)は盾を展開した。
     Escudo de luna llenaから守りの力が溢れ出し、迫り来る居合抜きを防ぎきる。
     有力な敵が数多く参戦する戦い。今はその緒戦に過ぎない。
    「ここで躓いていては話になりませんわ!」
     盾を振り抜いたベリザリオに、配下武者の二連撃が重く響いた。
     深いダメージを負ったベリザリオに、白い帯が舞い降りた。
     真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302)はラビリンスアーマーがベリザリオを癒したのを確認すると、配下武者を見渡した。
    「然して敵に興味は無いんだけどね。……たまには体動かさないと、ってね!」
     どこか消化不良そうに肩を回した櫟は、迫り来大将武者の攻撃に備えた。
     大将武者が巨大な槍を構え、突進を仕掛けた。
     癒しが完全に得られていないベリザリオに向けて、螺旋の槍が迫り来る。
     穂先が命中する直前、華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)の霊犬・一惺が動いた。
     強烈な一撃が一惺を捉え、消滅させる。
     一惺が作った一瞬の隙を、灯倭は逃さなかった。
    「一惺! よくも!」
     翻った粉雪が火の粉となり、大将武者を強打する。
     ぐらついた大将武者に追い打ちを掛けるように、七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)はクロスグレイブを構えた。
    「伏見城で逃がした分も取り返してやる!」
     流れ出る聖歌と共に放たれる砲撃が、大将武者を氷結させる。
     氷壁が大将武者を覆った隙を突き、忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)の断斬鋏が閃いた。
     大将武者はサーヴァントを一撃で消し去った破壊力を誇っている。付与されただろう攻撃力強化は、削っておかなければ。
    「あなたの力……ここで断ち斬る!」
     鋭い刃が大将武者の強化された槍を傷つけ鎧を切り裂く。
     大きなダメージを負った大将武者は、低くうめくと戦列へと戻った。
     ひとまずの均衡を確認した雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)は交通標識を手にした。
    「皆、落ち着いてこなぁ」
    「バステ注意」と書かれた黄色い標識から溢れる癒しが、前衛を包み込む。
     力を得たアデーレ・クライバー(地下の住人・d16871)は、サングラスを外し、寄生体を発現させた。
     左半身のアザから溢れ出した寄生体が、冷気を帯びる。
     アデーレは左手を大きく突き出すと、冷気の魔法を解き放った。
    「そぉれ、凍れ! そして砕けろ!」
     極寒の冷気が、敵前衛に吹き荒れる。
     氷の彫像のように透明な氷片を纏わせた配下武者に、土岐・佐那子(朱の夜鴉・d13371)が駆け出した。
    「いざ!」
     掛け声と共に飛び出した佐那子の腕が、鬼神のように変化する。
     大きくジャンプし上段から叩き付けた巨大な腕が、凍り付いた配下武者を捉える。
     そこへ、ビハインドの八枷が動いた。
     死角から迫る霊撃が、配下武者を貫く。
     二人の息の合ったコンビネーションに、配下武者は甲高い音を立てながら砕けて散った。


     戦意を緩めない大将武者の視線を、佐那子は真っ向から受け止めた。
     今この瞬間、田子の浦では激戦が繰り広げられているだろう。
     田子の浦に向かった皆の勝利を信じ、また向こうから信じられた勝利の為に。
    「私達は、全力で戦うのみ!」
     決意を露わにした佐那子のクロスグレイブの全砲門が開かれた。
     無数の弾丸が、配下武者に突き刺さる。
     ぐらついた配下武者は、何とか持ち直すと衝撃波を前衛へと放った。
    「その攻撃……通しませんわ!」
     守りを薙ぎ払う衝撃波の前に、ベリザリオは再び盾を展開した。
     広く展開した守りが、衝撃波とせめぎ合う。
     そこへ、追い打ちを掛けるように衝撃波が襲った。
     衝撃波が前衛に叩き付けられた時、白い羽が配下武者を薙いだ。
     真っ直ぐ伸びる白いベルトが、配下武者を締め上げる。
     うめく配下武者に、悠里はにやりと笑った。
    「そろそろ落城しそうだな!」
    「より、そちら寄りの力で倒されるんです。気分はいかがでしょうか?」
     言い終わるのが早いか、アデーレは足元に杭を打ち込んだ。
     発生する振動波が、縛られる配下武者に襲い掛かる。
     衝撃を受けた配下武者は、細かいヒビを無数に入れると砕けて散った。
     配下を全て倒された大将武者は、大きく吠えると槍を振り回した。
     回転する巨大な槍が、前衛を薙ぎ払う。
     猛烈な攻撃を何とか耐えきったベリザリオに、白い帯が再び舞い降りた。
     集中攻撃に傷ついていた体に、再び立ち上がる力が宿る。
     櫟はビハインドのイツツバをチラリと見た。
     おどおどするビハインドに、苛立ったように大将武者を指差した。
    「ほら、さっさと攻撃!」
     その言葉に背中を押されたように、イツツバは銃を構えた。
     放たれる衝撃波に大将武者がうめいた時、玉緒の断斬鋏が閃いた。
    「まずは防御を……斬る!」
     鋭い鋏が縦横無尽に大将武者を切り裂き、防御能力を下げる。
     大きくできた隙に、二人が動いた。
    「そう簡単にはいかせないよ!」
     灯倭のクルセイドソードが、大将武者を大きく切り裂く。
    「年貢を納める日ぃが来たんよぉ《G IPAMIS PARM NIISO》」
     丹の槍が急所を貫き、大将武者は動きを止めた。
     大きく両手を上げた大将武者は、甲高い音を立てると砕けて散った。


    「皆さん、大丈夫ですか?」
     心配そうに声を掛けたアデーレは皆の負傷具合を確かめた。
     列攻撃によるダメージはあるものの、深刻なダメージは負っていない。
     武者達との戦闘で負った傷を癒した灼滅者達は、一息つくと周囲を見渡した。
     この周囲は小康状態を保ってはいるが、未だに戦闘の気配は続いている。
    「敵の主力は、琵琶湖から静岡に行く道に逃げると思うんだ。だから、そっちを中心に行けばいいと思う」
     地図とスーパーGPSを照らし合わせながらルートを予想する悠里の言葉に頷き、全員でそちらへ向かった。
     途中出会う敵を撃破しながら目的地点に到着した時、巨大なサイキックエナジーに振り返った。
     安土城怪人が、城のように巨大化していた。
     同時に、敵の数が増す。急いで安土城怪人の元へ向かおうとした時、着信音が響いた。
     玉緒が通信機器を確認すると、目を見開いた。
    「救援要請です! ペナント怪人の大群が出たみたい。位置は……」
     リーファ・エア(夢追い人・d07755)からのメールを読み上げた玉緒に、丹は提案した。
    「じゃあ、救援に行かなねぇ!」
     丹の声に、全員が頷く。
     現場へ駆けつけた時、戦場は苛烈さを増していた。
     撤退してくるペナント怪人の群れが、灼滅者の一班を取り囲むように襲い掛かっている。
     救援に駆けつけた班も加わって、何とか均衡を保っていた。
     その中に知り合いがいたのだろう。悠里は駆け出すと、白いベルトを解き放った。
     白い翼のような帯が、蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925)に襲い掛かろうとしていたペナント怪人を捕縛する。
     ペナント怪人を高々と掲げた悠里は、敵の注意を引きつけるように声を上げた。
    「そっちへは行かせねぇ! 派手にいくぜ!」
     伏見城で共闘した友を救った悠里の声に呼応するように、アデーレは冷気を解き放った。
    「あなたとは直接因縁はありませんが、覚悟してくださいね」
     極寒の冷気が、持ち上げたペナント怪人を包み込む。
     粉々に砕かれたペナント怪人を隠れ蓑に、ペナントの先を槍のように細く鋭くしたペナント怪人が、死角から悠里に突進を仕掛けた。
    「だめ……!」
     いち早く気付いた吉武・智秋(秋霖の先に陽光を望む・d32156)は、エアシューズを起動するとペナント怪人を蹴りつけた。
     炎を纏った鋭い蹴りが、ペナントを燃やし高々と跳ね上げる。
     宙を舞ったペナント怪人を、丹の槍が貫いた。
     ウニの棘の一部のようにも見える槍がペナントを貫き、急所を裂かれて消える。
    「ウニの一撃、ペナントを通す……!」
     ウニの棘をうにうにさせる丹に、智秋は驚いたように目を見開いた。
     挨拶するようにしゃきん! と棘を伸ばす丹に智秋は微笑みを返し、小さく会釈する。
     戦列へと戻る智秋を見送った丹は、周囲を見渡した。
     ほんのわずかな小康状態を確認した神前・ミランダ(朝露の歌・d18727)は、玉緒の目を見て告げた。
    「私達は、こちら側を」
     ミランダの短い言葉の決意に、玉緒は頷き背中を預けた。
     繰り広げられる連携に力を得た佐那子は、クロスグレイブを構えた。
    「あなた達の相手は、私達よ!」
     クロスグレイブの全砲門から放たれる銃弾が、ペナント怪人のペナントに穴を開ける。
     弱ったペナント怪人に、八枷の霊撃が迫った。
     撃ち抜かれたペナント怪人が、千切れて消える。
     スナイパーに移動したベリザリオは、Garaa de bestiaを大きく振りかぶった。
    「ここは、必ず守るわ!」
     放たれる縛霊撃に、ペナント怪人は砕けて消えた。
     次々と撃破する灼滅者達に、ペナント怪人が突進をかけた。
     ペナントを大きく回転させながら後衛へ迫るペナント怪人に、灯倭は駆け出した。
    「させない!」
     攻撃を弾いた灯倭の隙を突いて接近したペナントが、続けざまに櫟へと攻撃を仕掛けた。
     二撃、三撃と続く攻撃の一つ一つはそれなりに重い。
     しかも攻撃を受けると、回避しにくくなっていくようだ。
    「ああもう、しつこい!」
     苛立ったように自分にラビリンスアーマーを使った櫟は、迫るペナント怪人に苦笑いをこぼした。
     ペナント怪人の切っ先が、ふいに曲がった。
     イツツバが放った霊撃がペナント怪人の先端をへし折ったのだ。
     そこへ、玉緒の鋏が閃いた。
     ペナント怪人を真っ二つに切り裂いた玉緒は、櫟に話しかけた。
    「大丈夫ですか?」
    「……ま、何とかね」
     おどおどと主を気遣うイツツバをチラリと見た櫟は、迫るペナント怪人の群れに殲術道具を構え直した。


     どこから湧いてくるのか。ペナント怪人達は更に現れると、灼滅者達に襲い掛かってきた。
     殲術道具を構える灼滅者達に第一陣が殺到する直前、ペナント怪人が切り裂かれた。
     続く攻撃に、ペナント怪人達は小さな布くずとなって消える。
    「加勢に来た!」
     第一陣を葬り去ったスサノオ壬生狼組が、灼滅者達の戦列に加わる。
    「あなた達……どうして」
    「以前の借りを返しに来た。それだけだ」
     灼滅者達をざっと見て知り合いがいないと判断したスサノオ壬生狼組は、後ろについた二人の壬生狼組をチラリと見た。
    「俺はコガネ。右がシロガネで左がアカガネ。予備戦力とでも思ってくれ」
     素っ気なく言い放ったコガネは、迫るペナント怪人に日本刀を構えた。
     隙のない気魄の籠った構えに、ベリザリオは頷いた。
    「正直、有り難いわね。……来るわ!」
     ベリザリオの声に呼応するように、ペナント怪人達が殺到した。
     残りのペナント怪人と合わせて、八体のペナント怪人が現れた。
     現れた敵に、アデーレは地面にバベルブレイカーを突きさした。
    「悪意を以て悪意を断つ! ……なんてね」
     バベルブレイカーから放たれる衝撃が、ペナント怪人達を襲う。
     思わず足を止めたペナント怪人に、玉緒は素早く駆け寄った。
     死角から放たれた鋏が、ペナントを切り刻む。
    「鋏の正しい使い方、かも知れませんね」
     細切れになったペナントに、玉緒はにっこりと微笑んだ。
     前衛のペナント怪人に、流星が煌めいた。
     灯倭の蹴りが流星を帯びながら、ペナント怪人を沈める。
    「こいつらをここで止めないと、安土城怪人戦にどんな影響が出るか……!」
     灯倭は遠くに見える安土城怪人を見上げた。
     ペナント怪人達は、安土城怪人のいる方へと向かっている。
     何故向かっているのかは分からない。
     だが、これだけの数が戦場に乱入したら、安土城怪人に逃げる隙を作ってしまうかも知れない。
     ここで食い止められるかどうか。それは、戦いの天秤を勝利へと傾けるための重要な錘だった。
    「そろそろ落城すりゃいいのに!」
     心を込めて思いを口にした悠里は、レイザースラストを放った。
     鋭い帯が、ペナント怪人を切り裂く。
     バラバラになったペナントを乗り越えるように迫るペナント怪人は、傷の癒えきらない櫟に殺到した。
     迎え撃ったベリザリオは、エアシューズを起動した。
    「しつこいペナントは、嫌われるぜ!」
     思わずアウトロー口調が出たベリザリオの蹴りは、ペナント怪人を鋭く捉え、一撃で沈めた。
    「ここは守ります! 必ず勝って帰りましょう!」
     決意を新たにした佐那子が、ペナント怪人の攻撃を受け止め、受け流す。
     迫るペナント怪人の攻撃を、アカガネが防いだ。
     腕に刺さるペナント怪人を無造作に蹴り抜いたアカガネは、櫟の無事を確認すると視線を戻す。
     残る一体の攻撃を回避した櫟は、護ってくれたディフェンダー陣を見渡した。
    「ああもう!」
     櫟はバイオレンスギターを構えると、弦を掻き鳴らした。
     言葉にならない癒しの音楽が、前衛を癒していく。
    「ええ曲やねぇ」
     ぽつりと感想を漏らした丹が放つコールドファイアが、ペナント怪人達を凍らせる。
     ペナント怪人達が動きを止めた時、更なる敵増援がやってきた。
     リーダー格のペナント怪人が猛突進して、灯倭に向かっていく。
     ダメージを覚悟した灯倭の前に、一匹の霊犬が飛び出した。
    「一惺!」
     十分の時を経て復帰した一惺は、主を守るとその隣に降り立った。
     灯倭は一惺の頭を撫でると、殺到するペナント怪人に向き合った。
    「おかえり、一惺――いくよ!」
     鳴いて応える一惺に力を得た灯倭は、粉雪を起動させた。


     戦いは続いた。
     次から次へと現れる増援は、溢れんばかりだ。
     灼滅者達もそれらを捌いていくが、終わりが見えない状況は体力も気力も消耗させる。
     自らを叱咤激励しながらペナント怪人達を倒し続けた時、安土城怪人がついに撃破された。
     巨体が姿を消すと、ペナント怪人達は戦意を失い逃げ惑った。
     ペナント怪人達を掃討するのには、さほどの時間はかからなかった。
     周囲が平穏を取り戻し、あちこちから勝ち鬨の声が上がった。
     日本刀を納めたコガネは、灼滅者達にすっと頭を下げた。
    「……お前達の助力がなければ、俺達はとうの昔に敗けていた。礼を言う」
    「……。例えダークネスでも、約束は守るわ」
     玉緒は複雑そうに腕を組むと、視線を逸らした。
     コガネは頭を上げると、少し笑ったようだった。
    「……そうだな。今後、刃を交えることがないように祈るだけだ」
     コガネは二人の腹心を従えると、その場を立ち去った。
     日差しを遮るような、安土城怪人の巨体はもうそこにない。
     戦いの天秤は、灼滅者達の大勝利へと傾いたのだった。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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