琵琶湖・田子の浦の戦い～灼滅者達の選択

■リプレイ

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　琵琶湖大橋で両軍が入り乱れる。
　天海大僧正軍と安土城怪人の軍勢。
　安土城怪人勢力は、天海大僧正との最終決戦に、主だった幹部は全員揃っていた。安土城怪人の軍勢は強力だが、灼滅者の力があれば勝機は充分にある。
　灼滅者達は、鬨の声をあげて後方から襲撃に入った。
「な、何だ！　灼滅者だと！？」
「敵襲！　新たな敵襲だ！」
「迎撃だ、迎撃しろ！！」
　本陣防衛のため、安土城怪人側の勢力が動く。灼滅者達の刃と、ダークネスの刃が、激しく撃ち乱れる。
「天海との盟約に基づき、安土城は武蔵坂学園が獲らせてもらう。死にたくなければ掛かって来い！」
　秦・明彦（白き雷・d33618）は先陣を切って、敵本陣を守るソロモンの悪魔に攻撃を仕掛ける。黒鉄の棍によるフォースブレイクが炸裂した。
「何を、生意気なっ」
「返り討ちにしてくれる！」
　ソロモンの大悪魔ザガン配下たる、牛人型のソロモンの悪魔達がいきり立つ。手にした巨大な槍を、力任せに振るった。
「その攻撃、遮らせてもらうよ」
　ビハインドのカルラと共に、三蔵・渚緒（天つ凪風・d17115）は、重い一撃を受け止める。仲間の連携を補助し、盾となって立ち回り。鬼神変で反撃して、ＥＮ破壊を付与する。サーヴァントは霊撃を合わせた。
「これだけ綺麗にタイミングが揃うと、もう笑うしかないですね」
「なら、とりあえず笑っとこうか。にゃはは」
「……いや、それはものの例えというやつですよ？」
　橘・樹月（ヴァイスガーデン・d00641）と来栖・律紀（ナーサリーライム・d01356）の二人は顔見知りだ。構ってもらえて嬉しそうに全力で（真面目に）にふざけながら、律紀はブレイドサイクロンを後衛に放つ。樹月は呆れてツッコミながらも、ブラックフォームで自身の攻撃力を上げた。
（「勢いでここまできちゃったけど、これで義理は果たしたし、もし私たちを使い捨ての駒なんかにしたら、許さないんだから」）
　事前に、四刻・悠花（高校生ダンピール・d24781）は念のため配置を確認し、逃げ道の見当をつけておいた。戦闘では仲間への攻撃を棒で邪魔しながら、フェニックスドライブとワイドガードを交互に使用して回復を中心に。
「怪我は……私が治します」
　メディックとして、花園・桃香（はなびらひとひらり・d03239）は味方がバッドステータスに侵されればすぐにリバイブメロディを施す。霊犬のまっちゃは、主人を守るように浄霊眼で回復を手伝った。
「被害を減らしていく為にも力は惜しみません」
　ティノ・アークライン（一葉ディティクティブ・d00904）はクラッシャーとして火力を発揮する。命中率を重視して、まずはレイザースラストで敵を斬り裂きにかかった。
「ちっ！　舐めるな、叩き潰す！」
「させん、フォローするのじゃ」
　ソロモンの悪魔が突出する仲間を狙うと、望月・心桜（桜舞・d02434）はカバーに入る。できるだけ攻撃を後衛に回さないように、カオスペインで怒りを撒く。
（「依先輩達の動きも、用心せねばじゃのぅ」）
　ここのエリアも、他の場所でも。
　あちらこちらで戦火が広がり、轟音が響き渡る。
（「守りは考えず、先手を取る」）
　勢いに乗る明彦が、次いで神霊剣を発動させた。白銀のクルセイドソードが、敵の霊魂と霊的防護を直接破壊する。
（「但し、単独での無茶は禁物」）
　仲間の動きを読んで、連携した上での攻撃重視。
「認識している敵以外からの奇襲も警戒しないとね」
　渚緒も戦場であることを常に意識し、声掛けで仲間内の連携を高める。スーパーＧＰＳで位置関係を把握しながら、神薙刃を振るった。
（「そうだねぇ。気が散らない程度に、奇襲も注意して――」）
　敵の斧をギリギリのところで躱し、律紀はレイザースラストで狙いを精密にして攻撃を当てる。髪の毛一本の差で重傷を負いかねない、息詰まる接近戦だ。
「まあ、二兎を追う者は一兎をも得ずとも言いますし。ここで確実に、厄介の種をひとつ潰したい所です」
　鏖殺領域を使った後に、樹月はトラウナックル、デッドブラスター、ティアーズリッパーを見舞っていく。鋼糸と茨を象った影業が、戦場に映える。
「くっ、こいつら！」
「……まだ、回復には余裕がありますね」
　今の所、戦況は灼滅者側に分がある。
　回復役の桃香もレイザースラストで狙いを定め、霊犬も攻撃に回って畳み掛ける。
「狙いを合わせて、確実にいきます」
「っ！」
　その言動には余裕と自信が覗かせる。
　だが、役割には忠実に。ティノの螺穿槍が、ソロモンの悪魔を貫く。一体の牛人型の悪魔が倒れて、戦場から退場した。
「火力を上げましょう」
　好機と見た悠花が緋色のオーラを纏い、一撃を繰り出す。敵陣の後列にはオーラキャノンが唸った。
「何を！　ここは突破させるわけには！！」
（「怒りのまきすぎには注意じゃのぅ」）
　怒りに任せて、牛の姿をした悪魔が斧による旋風で列攻撃を打ち鳴らす。心桜はバランスを見ながら、回復役と声を掛け合って清めの風と祭霊光を使い分けた。ナノナノのここあも回復をサポートする。
　しっかりと、戦線を維持する灼滅者側に対し。
　ソロモンの悪魔達は、一人また一人と消耗してついには倒れていく。
「目指すは安土城怪人の首級！」
　状況に合わせた技で大暴れ。近接した敵へと、明彦の手刀による幻狼銀爪撃が命中。牛型の敵は、たまらずによろよろと後退して四散する。
「押し切れそうだね」
　渚緒がレガリアスサイクロンで、敵前衛のエンチャントをブレイク。カルラも同列へと顔を晒した。
「にゃはは、他の班も頑張っているみたいだねぇ」
「こちらも負けては、いられませんか」
　笑顔を浮かべ、飄々と律紀がブレイドサイクロンで敵を削る。その様は、チェシャ猫のように気紛れ且つ自由奔放だ。更に敵が怯んだところへ、樹月が高速の動きで死角に回り込みながら、身を守るものごと斬り裂く。
「……ぐ、ぬかった」
　また一体の敵が、光の泡となって消える。
　この隙に桃香は、天魔光臨陣で後衛をヒールして優先的に傷を癒す。ティノはレイザースラストで詰めにかかった。
（「ともかく、被害は最小限に抑えられるように」）
　悠花が魔力を込めた突きを決める。
　ソロモンの悪魔は内側から爆発して、思わず膝をついた。
「これで、とりあえず終わりじゃ」
「……無念。安土城怪人殿、ザガン様、申し訳ありません」
　心桜の猫神が、霊的因子を強制停止させる結界を構築する。最後の悪魔は、 塵となって消滅した。

●
「結構やられましたね」
「心霊手術を使っておきましょうか」
「それなら、メディックの方には温存してもらって、私が先に――」
　灼滅者達は、戦場から少し離れた。
　連戦に備えて、メンバーの態勢を整える。
（「万が一の事態に備えて、背後を警戒しておかないとですね」）
　まだ、周囲では戦闘が続いている。桃香が胸から下げる懐中時計にそっと触れた。これは、他班で戦う恋人からもらった大切なものだ。
「どうやら……」
「こちら側が優位、みたいだねぇ」
　回復中に、攻撃を受けないように注意しながら。
　皆が今の状況の把握に努めた。灼滅者達は、可能な限りお互いや他班の者と番号やアドレスを交換し合っている。携帯電話やトランシーバー、あるいはハンドフォンから得られた情報を総合すると――。
　他の班の者達の多くが、安土城怪人打倒へと向かっている。
　安土城怪人の周囲は、さすがに多数のアンデッドが守っていたが、戦力を集中した灼滅者側が有利に戦いを進めているようだった。
　ならば、自分達のやることは一つ。
　灼滅者達は回復を済ませると、頷き合って進軍を開始した。
「後ろは気になりますが……行きましょう」
　背後への緊張を途絶えないようにして、樹月は進む。仲間達も安土城怪人の元へと一直線。敵本陣は、大将を守らんと未だに多くの取り巻き達が残っていた。
「また、灼滅者達が突破してきたぞ！」
「討て、討て、討ち返せ！」
「安土城怪人様に、近付けるな！」
　宇都宮餃子怪人、武者アンデッド、ソロモンの悪魔、不良羅刹、妖刀怪人などが、こぞって押し戻そうと殺到してくる。
「ここで――」
「負けるわけには」
「……いかんのじゃ」
　渚緒が怪人の蹴りを受け止め、明彦は剣を大きく振りかぶり、心桜が悪魔の意識を自分へと向けるようにする。
「――安土城怪人まで」
「あと少し……」
「だからねぇ」
　悠花がアンデッドの攻撃を、棒で流して邪魔をする。ティノの槍が、羅刹を穿った。律紀が放つＤＥＳアシッドが敵を襲う。
「この、灼滅者が！」
「我々が押されている、だと！」
　ここだけではない。
　他の班の灼滅者の面々も善戦している。この流れを押し返すのは容易なことではなく。そして、ついに――
『自分がここに残って敵を食い止めるので、全軍撤退せよ』
　と。
　安土城怪人が命令を下す。
　このまま戦っても勝ちは無いと考えた、この一声は戦場全体に響き渡った。
「て、撤退だ！　撤退の命令が出たぞ！」
「し、しかし……ここで、退くのは……」
「馬鹿っ。大将の命令だぞ、従え！」
　安土城怪人の軍勢は、戦闘を放棄して敗走を始める。これは即ち大本命への道が開いたということであった。
「今こそ安土城怪人を討ち取るチャンスだ！」
　どこからか、そんな声が聞こえる。
　これ幸いと灼滅者達は、逃げる取り巻きを攻撃しながら敵大将へと接近する。安土城怪人は、駆けつけてきた多数の者達に囲まれた。
「まさか、ここで巨大化フードを使わされるとは思わなかったぞ」
　隠し持っていた巨大化チョコレート。
　それを食したことにより、安土城怪人の身体がまさに、城のような大きさへとぐんぐん巨大化していく。周りの灼滅者達は、巨大化に巻き込まれないように急いで後退。そびえ立つ巨体が、こちらを見下ろして戦意を漲らせた。
「武力で天下統一を成し、ゆくゆくは世界征服を行なう我が野望、ここで潰えさせるわけにはいかぬ」
　安土城怪人の周囲に『天下布武』と書かれた旗が大量に現れると、その旗から、天下を武で統一する程の強力なビームが放たれる。前列の灼滅者達全体へと、強烈な火力が集中した。
「若輩者ですが、全身全霊でお相手します！」
　元より、倒されるのは覚悟の上。
　守りは考えず、熱線に耐え。一番槍をつけんとばかりに、明彦は目標としていた安土城怪人へと全力攻撃をぶつける。
「全ての銃口がお前達を向いているぞ。怖かろう？」
　空中に三千丁の火縄銃の幻影が現れる。
　安土城怪人により、今度は後衛にと銃撃の雨嵐が降り注いだ。
「戦場に出ることを望んだからここにいる。だけど誰かを死なせるわけにはいかないよ。皆無事に帰るんだから」
　思いを乗せた、渚緒の居合が一閃。
　納刀状態から一瞬にして抜刀し、敵へと煌めく。他の各班の灼滅者達も、巨敵へと砲火を集中させる。
「巡れ我が体内のサイキックエナジーよ」
　安土城怪人は、体中のサイキックの巡りを活性化させる。ダメージを回復し、自分をキュアした。
「有力敵を倒すよりも全員が無事帰還することのほうが、わらわ、大事じゃからなあ」
　相手が回復している間にと。
　心桜は他の者の状態を見て、ヒールとキュアで味方を支えた。
「灼滅者よ、お前達は何故、これほどの力を持ちながら……！」
　再び、多くの旗が現れ。
　安土城怪人が、ビームが乱発する。それは多数の標的を捕えるが、同時に多数の逆撃を誘因した。
「出会ってしまった以上は仕方がありません。全力で挑ませていただきます」
　天海の動きは気になる。最後尾について、後ろから襲われないか常に警戒していた。また、迷わないように来た道を記憶してある。
　だが、今は目の前の相手に集中して。
　悠花が緋色のオーラを纏わせた打撃を繰り出す。
「グレイズモンキーよ、救援は無用。お前は生き延び、そして伝えるのだ」
　長篠式三千丁銃撃ダイナミック。
　安土城怪人は、火縄銃の幻影を操り。他の戦場から、自分の方へと向かおうとするグレイズモンキーに呼びかけた。
「他のことに気を取られている場合ではないですよ」
　皮肉をにじませて、樹月はデッドブラスターを放つ。
　敵を蝕む漆黒の弾丸と、敵の無数の銃弾と交錯してはじける。
「まだだ、まだ倒れぬ。我が愛しき部下達が逃げ延びるまで、我は倒れるわけにはいかぬのだ」
　呻きながらの、富国強兵ヒーリング楽市楽座。
　その体を活性化させて、安土城怪人はまだ戦場に立ち続ける。
「さて、どうなるかな」
　レイザースラストで、律紀は敵を打ち払う。
　回復を行う怪人に、また新たな傷が増殖を始める。
「我が命の輝きを見よ、天下布武ビーーームぅ！」
　一喝と共に、安土桃山天下布武ビームが吹き荒れた。
　それは、本当に命を絞り出すがごときで、光の乱舞が止まらない。
（「協力し合い全力で挑みます……そして、出来れば仕留めたく――」）
　ティノが、影を水のように扱う。
　そのまま恐竜の咢の形を作り、影喰らいとなって激突する。
「これが三段撃ち三段目。この銃撃を耐えられたならば、お前達の勝ちだ」
「どうか……」
　仲間の犠牲は絶対に出したくない。
　懐中時計に触れて、桃香はメディックとして最後まで味方を癒す。これを手にするのは、不安な時……そして、決意をした時だ。
　無数の銃弾の、一斉掃射。
　三度火縄銃の幻影が現れ、弾丸の雨が容赦なく降り注ぐ。破壊の嵐が灼滅者を呑み込み、その暴威に力尽きた者が膝を付いた。
　だが――
「ならば、私達の勝利だ……！」
　土煙の中から、味方の一人が飛び出す。
　猛攻に耐え抜いた者達による、決定的な逆襲。
　鬼の拳を叩き付ける。続けてまた違った人影が星のように降り落ちて飛び蹴りを見舞い、烈火を帯びたローラーをシューズごとぶつけた。
「二条！！　大麦！！」
　安土城怪人の足にしがみつき、全身全霊を込める者がいる。
　戦場全体の灼滅者達が目を瞠り。固唾を呑んで見守り、あるいは助力をした。
「ダイナァッ、ミィーーーーーック！！！」
　ある灼滅者による、大声が唸りをあげる。
　渾身の力で安土城怪人の巨体はひっくり返り、城が倒れていく。そして安土城怪人が地面に激突した瞬間、響く轟音とともに麦色の大爆発が起こった。
「……終わったのか？」
　それは誰の呟きだったのか。
　安土城怪人は地面に沈んだまま動かない。
　誰かは勝鬨を上げる余裕もなく地面に倒れ、また別の誰かは喝采をあげる。大勢の灼滅者達が、腕を掲げた。
　敵大将、安土城怪人。
　強大な宿敵を、討ち取った瞬間だった。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年2月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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