「伏見城の戦いは無事に勝利する事が出来たっす」
湾野・翠織(中学生エクスブレイン・dn0039)は、そう切り出した。
だが、この戦いで、スサノオ壬生狼組の被害が少なかった事もあり、天海大僧正は、全軍を琵琶湖に向かわせて、安土城怪人との決戦に挑もうとしている。既に、琵琶湖大橋では両勢力のダークネスがにらみ合いを始めており、小競り合いも始まっている状況だ。
「天海大僧正勢力からは、自分達が琵琶湖大橋で戦線を膠着させている間に、後方から安土城怪人の本拠地を攻撃して欲しいという要請が入ってるんすよ」
この要請は、協定に沿ったものだ。しかし、問題は別にある。第2次新宿防衛戦直後から行方をくらませていた軍艦島が静岡県沖に出現、田子の浦の海岸に上陸しようと近づいてきたのだ。
「これは偶然じゃないはずっす。日本のご当地幹部であるザ・グレート定礎が、安土城怪人勢力と連携して作戦を行なった、そう考えるのが自然っす……エクスブレインの予知と別系統の予知能力を持つ、刺青羅刹・うずめ様による作戦の可能性もあるすけどね」
どちらにせよ、武蔵坂学園は戦力を二分して対応する必要が出た。琵琶湖の戦いを優先するか、或いは、軍艦島の戦いを優先するか。どちらが正しいかは不明だ。
「だからこそ、そこをみんなに決めてほしいんす」
琵琶湖の戦いに大勝利すれば、安土城怪人の勢力を壊滅させる事も可能だ。逆に、琵琶湖の戦いに敗北すれば、天海大僧正の軍勢は壊滅してしまうだろう。天海大僧正勢力が壊滅する事は、致命的な問題ではない、のだが。
「形的には見殺しにした、ともみられるっすからね。今後のダークネス勢力との交渉などに悪影響を与える可能性は高いっす」
対して田子の浦の戦いに大勝利すれば、上陸しようとする軍艦島に逆侵攻して、軍艦島勢力を壊滅させる事も可能だろう。だが、田子の浦の戦いに敗北した場合、軍艦島勢力が白の王勢力に合流してしまう可能性が高くなる。軍艦島勢力は勢力規模としては大きくないが、有力なダークネスが多く参加している。
「この軍艦島勢力と、戦力は大きいが有力な将が少ない白の王勢力と合流する事は、強大なダークネス組織の誕生を意味するっす。阻止できるならば阻止したいとこっす」
戦力を2分して戦えば、両方で勝利できる可能性があがる。しかし、両方が敗北する可能性も高まるリスクがある。どういう結果が出たとしても、この戦いの結果が、今後の情勢に大きな影響を与えるのは間違いない。
「みんなに対応してほしいのは、今回の騒動に動いているソロモンの悪魔っす」
琵琶湖の戦いには、ソロモンの大悪魔ザガンが召喚した配下と思われる、牛人型のソロモンの悪魔が。田子の浦の戦いには、ソロモンの大悪魔・海将フォルネウスが召喚したと思われるソロモンの悪魔がそれぞれいる。みんなにはそのどちらかの相手を選んで、戦ってほしい。
「琵琶湖の戦いは、陸上で。田子の浦は、上陸してくる相手と海岸で戦うことになるっすよ」
翠織はそこで一度言葉を切ると、表情を改めて口を開いた。
「今回は、どの選択が正しいという事はないっす。だからこそ、みんなが考えて選んでほしいっすよ」
参加者 | |
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ダグラス・マクギャレイ(獣・d19431) |
清浄・利恵(華開くブローディア・d23692) |
儀冶府・蘭(正統なるマレフェキア・d25120) |
空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198) |
片桐・慎也(グリーンホーン・d25235) |
可罰・恣欠(リシャッフル・d25421) |
大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988) |
ファムネルエルシス・ゴドルテリアミリス(わんわんにゃぁにゃぁ・d31232) |
●
琵琶湖――その日、そこは再び戦場と化した。
「最終的に何処が残るか未だ解りゃしねえが、潰せる所は確実にってな」
ごきり、と拳を鳴らして、ダグラス・マクギャレイ(獣・d19431)は息を吸う。獣がごとき嗅覚は、そこに闘争の匂いを感じていた。既に、琵琶湖周辺ではいたるところで戦いが始まっているのだろう。
「倒せそうな勢力はできるだけ追い詰めたい所だね」
「あぁ、安土城怪人勢力を壊滅できるせっかくの機会だ」
清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)の言葉を、空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)が言い捨てる。その視線はフードの下から真っ直ぐに、森の中の立つ巨大な影へと向けられた。
「どころで、どなたか赤い布をお持ちではございませんか?」
「何に使う? 牛であるまいし」
可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)のボケを殺したのは他でもない、その巨影だ。人の体に、牛の頭――どこから見ても自然の生き物ではない、ソロモンの大悪魔ザガンが召喚した配下。牛人型のソロモンの悪魔だ。
「ごしゅじん、牛にゃ」
「マスター、カルビだわん」
ぱぺっとのにゃぁさんとわんさんに、ファムネルエルシス・ゴドルテリアミリス(わんわんにゃぁにゃぁ・d31232)はコクリとうなずく。そのいいように、牛魔は人のように口の端を持ち上げると巨大な斧を肩に担いだ。
「ザガン様の命により、参戦する」
「なるべく素早く倒させてもらうよ」
儀冶府・蘭(正統なるマレフェキア・d25120)の言葉と同時、灼滅者達と牛魔が身構える。その中で、震える拳に片桐・慎也(グリーンホーン・d25235)は力を込めた。
(「なんか手が震えてきてるや、情けねえの。場違いにも程があるけど……必ず無事で帰るなんて嘘言っちゃったからな」)
白い吐息と共に、慎也は不敵に笑う。嘘を本当にするために、怯えも震えも全部肚に据えて、嘘つき通して――。
(「葉月のところに帰るんだ!」)
「協力して一気に行くよ!」
大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)が言い放つそこへ、牛魔が斧を翼のように広げ駆け込んだ。
●
「グ、ラ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ゴゥン! と牛魔の龍翼飛翔が、大地を砕き巻き上げる。その舞い散る土を飛び越えて、陽太はフードを跳ね上げた。感情無き瞳が見抜いた隙を、陽太はcMillanCMS5を振るい牛魔を大きく切り裂く!
「頼む」
「おぉ!」
そして、獣がごとく鋭く踏み込んだダグラスが、雷を宿したその拳を振り上げた。鈍い打撃音と共に、ダグラスの抗雷撃が牛魔の顎を打ち抜く。のけぞった牛魔、その巨体へ恣欠は魔導書から1ページ引き抜き言い捨てた。
「この場合、レバーは牛のものなのでしょうか? 人のものなのでしょうか?」
ヒュガ! と恣欠の手から偽りの巧工帯が射出され、牛魔の脇腹に突き刺さる。しかし、牛魔は構わない。そのまま、前へと出た。
「いきますよ。わんさん。にゃぁさん」
そこへ、ぱか、とわんさんの口を開けたファムネルエルシスが影を走らせる。三つ首の犬、ケルベロス状の影が牛魔へと食らいついた。両足を噛まれ、牛魔の動きが鈍る――蘭の射ち放ったレイザースラストが構えた牛魔の斧と火花を散らした。
「大夏さん!」
「うん! これ以上、お前の好きにはさせないよ!」
受け止めて完全に牛魔の足が止まった瞬間、霊犬であるシロの浄霊眼による回復を受けた彩が跳躍、空中で一回転してからの跳び蹴りが炸裂する。ズン……! という鈍い重圧、彩のスターゲイザーが容赦なく牛魔の足を更に止めた。
「よう牛野郎。お偉いバール様達が灼滅されたもんだから、安土城怪人に媚び売れって命令か? 大変だなあ!」
巨大なオーラの法陣を展開、天魔光臨陣を発動させながら慎也があえて挑発する。しかし、牛魔は小さく喉を鳴らすのみだ。
「天海に尻尾を振る半端者どもが。よく言う」
「沈みかけの勢力に味方するとは、君の主は見る目が無いらしいね。 そして、君は捨て駒かな?」
ドーピングニトロで自己強化、利恵の畳み掛けるような挑発に、牛魔は白い吐息をこぼした。ビキリ、と凍てついていく空気、牛魔は斧を肩に担いで吠えた。
「ザガン様の深謀遠慮、我ごときに推し量れるものかよ!」
ギュガ! と吹き荒れるフリージングデスの冷気の嵐。利恵を中心としたそこに、氷の柱がそびえたった。
「うしの癖に、多芸だわん」
わんさんが、呆れたようにこぼす。ファムネルエルシスもそれをうなずきで肯定、そのやり取りに蘭も呼吸を整えた。
「ちょっと、てこずりそうだね」
蘭のその予想は、正解する。ソロモンの悪魔である牛魔は、ただ腕力だけの相手ではなかった。近距離から遠距離、単体攻撃も範囲攻撃も卒なくこなす――強敵と表現するのが正しい、そういう敵だ。
「よく、動く」
機動力でかき乱しながら、陽太が言い捨てる。しかし、その動きに牛魔はしっかりとついてきていた。巨体であろうと鈍重さは欠片もなく、その大きな斧さえも軽々とこちらの動きについてくる。
ギギギギギギギギギギギギン! と斧が、灼滅者達の武器が、火花を散らした。足を止めて迎撃する牛魔の姿に、どこか感心したように恣欠はぽんと手を打つ。
「ああ、これが牛歩戦術、というものでしょうか?」
「違ぇよ」
いっそのほほんと言った恣欠に、ダグラスがツッコミを入れる。ただ、時間稼ぎという意味ならば、恣欠の感想も誤用ではない。
「次が詰まってんだ、俺ぁ面倒事は嫌いだからよ。手っ取り早く、立ち塞がるヤツぁ叩いて潰す事にしてんだよ」
余力を残して、軽々と突破できる相手ではない。そう判断を下して、ダグラスが疾走した。牛魔は、それに肩に担いで斧を合わせ、全力で振り下ろした。
「が、ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
牛魔の渾身の龍骨斬り、迫るそれをダグラスはMiachを構え振り上げた。ガギン! と舞い散る火花、回転するMiachの杭が牛魔の斧と相殺、そのまま大きく体勢を崩した。
「やっちまえ!」
「任せて」
獣の勘がこじ開けた間隙、それをシロの投擲した六文銭と彩の縛霊手の一撃が続く。霊力の網に覆われもがく牛魔へ、彩の爪先が蹴り上げられ牛魔の顎を蹴り上げた。
「が、は!?」
「にゃぁさん!」
「任せるにゃ!」
強引に、地面から足を引き剥がされた牛魔。そこへファムネルエルシスのにゃぁさんから伸びたマンティコア状のオーラが、牛魔の巨体を絡めとった。
そこへ、蘭が雷光の魔杖を振るい――ドン! と一条の電光が、牛魔を撃ち抜く!
「可罰先輩!」
「捌かせていただきます」
恣欠が請け負い、その指を躍らせた。ヒュオン! と不可視の糸が荒れ狂い、牛魔の巨体を切り裂いていく。しかし、牛魔も斧を盾に、その攻撃を空中で受け切った。
ガゴン、と地面を砕きながら着地する牛魔、そこへ舞うような足取りで軽装鎧――利恵が懐へと潜り込む。
「ここで、押し切らせてもらう!」
そのまま利恵が横回転、繰り出されたシールドに包まれた裏拳が牛魔の脇腹に突き刺さり、その巨体がくの字に曲がった。
「ぐ、が、あ――!!」
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
震える手足を叱咤するように吠えて、慎也がそこへ駆ける。下段から振り上げられるサイキックソードの切り上げが、大きく牛魔を斬り裂いた。
そこへ、宙を跳んだ陽太がババババババババババババババッ! とerschossen Stuck Papierを展開、弾丸状へと形を変えてMcMillan CMS5へと装填する――!
「狙い打つ――!」
鳴り響く銃声、陽太の渾身の一発が牛魔の胸板を打ち抜き牛魔を文字通り爆発四散させた……。
●
ソロモンの悪魔である牛魔との死闘は、予想以上に彼らに消耗を迫っていた。だからこその、心霊手術――しかし、その時間を終えた直後、それは起きた。
「な、んだ、あれ……!」
慎也が、思わず我が目を疑う。ズズズン……! と地響きを立てて、巨大な城が遠くに現れたからだ。
「まさか、ここで巨大化フードを使わされるとは思わなかったぞ」
「巨大化フード、あんな奥の手を……」
ファムネルエルシスは言い切るよりも早く、駆け出していた。ここから戦場は遠い。完全に遅れを取った状況だろう、しかし――。
「どうやら、本番には間に合いそうだ」
利恵は、気付く。安土城怪人の元から、敵の兵力が撤退していくのを。今なら、届く。あの安土城怪人に! だからこそ強く、利恵は言い放った。
「貴方の覇道も、ここで終わりだ。その攻撃はこの盾で受けきる。今こそ落とすぞ、その天守閣!」
――巨大化した安土城怪人との戦いは、ただただ壮絶を極める事となった。安土城怪人の元へたどり着いたのは、14チーム――単純に計算するだけで、100人を超える灼滅者達がそこで死闘を繰り広げたのだ。
「我が命の輝きを見よ、天下布武ビーーームぅ!」
ヒュガ! と安土城怪人から一条の閃光が戦場をなぎ払い、どぱぁ! と地面が爆ぜて爆発が連鎖する。それに、ダグラスが歯を剥いて笑った。
「派手だなぁ、おい!」
「楽しみすぎです!」
思わず、蘭がそう指摘してしまうのも仕方がない。まるで、怪獣映画に出てくる兵隊にでもなった気分だ。
しかし、この人数である。いかに強大な力を誇る巨大化安土城怪人でも、限度が近かった。
「これが三段撃ち三段目。この銃撃を耐えられたならば、お前達の勝ちだ」
ジャガジャガジャガジャガジャガ――と空中に三千丁の火縄銃の幻影が出現、盛大な銃弾の豪雨が降り注いだ。その中を、灼滅者達はなおも諦めずに巨大化安土城怪人へと向かっていく。
「あの足から、止めていく」
陽太はそのまま地面をすべり、巨大化安土城怪人の足へと黒死斬を繰り出した。文字通り、その足は石垣だ。それでも、度重なる攻撃とダメージの蓄積が亀裂を走らせる!
「シロ、私達も!」
そこへ、彩がシロと共に続く。
「ここは、通さない!」
シロの斬魔刀が、彩の全体重と加速を載せた縛霊撃が、更に亀裂を大きくしていった。
「わんさん!」
そして、ファムネルエルシスの呼びかけと共にケルベロス状の影が、巨大化安土城怪人へと張り付く。彼らだけではない、多くの灼滅者達が死力を尽くして、巨大化安土城怪人を止めるために総攻撃を重ねているのだ。
「弁慶の泣き所、といったところですか」
「ああ、そう考えると痛そうですね」
そして、恣欠は笑みと共に漆黒の弾丸を投擲、蘭の轟雷が突き刺さる! ガツン、と動こうとしていた巨大化安土城怪人の石垣に突き刺さり、ビキビキビキ、と亀裂を加速させた。
「誰かを天守閣へ届かせれば、こちらの勝ちだ」
「そうみたいだな」
利恵の跳躍してからの跳び蹴りに、慎也も両手を振り払い影の刃を走らせる。重圧が、鋭い影の斬撃が、どんどんと巨大化安土城怪人の足を削っていき――。
「出し惜しみ出来る程の余裕は無えからよ。くれてやるのは全力での攻撃だ、遠慮しねえで受け取んな」
疾走したダグラスが、獣が牙を突き立てるようにその拳で巨大化安土城怪人を殴打した。巨大化安土城怪人の巨体が、揺らぐ。
その直後だ――安土城怪人の体が宙に浮いたのは。全員の総攻撃で足を止められた一瞬の隙、その巨体が地面へと叩き付けられ大爆発を巻き起こしたのだ。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その光景に、思わず慎也が吠える。巨大化安土城怪人が、倒れた――怯えが、勝利の興奮へと塗り替えられていく。勝鬨の雄叫びと、無数にも思える拍手が、戦場全体に雷鳴の様に鳴り響いた……。
●
「終わったね」
フードの下でため息をこぼし、陽太は肩をすくめた。この戦い、安土城怪人という一勢力のトップを倒せた、そういう意味ではこれ以上ない大金星だったろう。
「いやぁ、暴れたぜ」
そう、心の底から思っているダグラスに、蘭は苦笑する。全員が死力を尽くした、だからこそ得られた大金星だ。余力を残す余裕などはない。単純に、この場の空気が活力を与えているのだろう。
しかし、拍手喝采は未だ鳴り止んでいない。今回、巨大化安土城怪人との戦いはそれほどのものだったのだ。
この勝利が、この先どのような未来をもたらすのか? それを知る者は、まだいない。ただ、勝った――その事実が、拍手の音と合わさってただただ心地がよかった……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年2月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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