黒い家族

    作者:紫村雪乃


     門を閉じると、生真面目そうな青年は振り返った。
     夜霧の中。大きな洋館が闇の中に佇んでいる。
    「さあ、いこうか」
     初老の男が促した。
     名は手塚周一郎。物理学者である。
     青年の名は荒井雅也。もう一人いる娘は内村朋香。ともに手塚の助手であった。
     やがて三人は洋館の入口に辿りついた。
     その時だ。ざわりと木々が鳴った。びくりとして朋香が身をすくめる。
    「ははは。風だ。怖がるのはまだ早いよ」
     からかうように雅也が笑った。同じように苦笑し、手塚が扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。ロックを解除。扉を開いた。
    「むっ」
     手塚は顔をしかめた。カビ臭い湿った空気が顔に吹きつけてきたからだ。
     手塚は電池式のランタンを掲げた。洋館に電気は通じていない。
     ランタンの光に浮かび上がる部屋の様子。思ったよりも荒れてはいなかった。以前に一度、同じように調査に訪れた者があったようだが、それきりだ。その者たちは洋館の中で亡くなっていたらしいが、詳しいことわかっていなかった。
     手塚は埃の積もった大きなテーブルの上に電子機器をおいた。電磁波を測定する機械だ。その他にも幾つかの計測機器があった。
    「僕は二階を見てきます」
     告げると、ランタンを手に雅也は二階へとむかった。その背を見送ると、手塚は機器の調整をはじめた。朋香が手伝う。
     野村拓也。かつてのこの屋敷の持ち主の名だ。
     一年ほど前、強盗に襲われ、野村一家四人は惨殺された。それ以降、この屋敷には幽霊が出ると噂されている。
     深夜二時。灯していた光を消した時に。
    「馬鹿な」
     手塚は笑った。幽霊など実在するはずがない。すべては科学で説明できる。
     その時であった。二階から雅也が降りてきた。
    「別に異状はりません」
     告げると、雅也もまた機器の調整をはじめた。
    「そろそろだな」
     手塚がいった。そしてランタンの光を消した。
     一分。
     三分。
     十分過ぎた。異変は起こらない。
    「やはりな」
     手塚はランタンに手をのばした。が――
     手塚の手が凍りついた。
     気配が、する。ゾッとするほど冷たい何かの気配が。
     からくり仕掛けのようなぎごちない動きで手塚は振り向いた。
     その眼前。わずか十センチメートルほどの距離にソレはいた。
     この世にあってはならぬモノ。真っ黒な顔のおぞましき存在が。
     手塚の口から迸りでた悲鳴はすぐに途絶えた。


    「黒い家族という都市伝説があります」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者たちを見回した。
    「惨殺された家族が住む洋館。そこに怨霊が出るというものです。けれど、これはただの噂話ではありません。人々の恐怖心が怨念と結びつき、霊的存在を生み出しました」
     姫子はわずかに身震いした。確かに教室の中は肌寒いのだが――。
    「その都市伝説は四体。体躯は惨殺された家族と同じ体型。ただ全身墨を塗りつけられたように漆黒の色をしています。だから表情はわかりません。見えるのは不気味に見開かれた目のみです」
     言葉を切ると、もう一度姫子は身を震わせた。それからちらりと背後をみやり、続けた。
    「都市伝説が現れるのは深夜二時。家族が殺害された時間です。明かりを消さなければ現れないため、都市伝説を視認することは難しくなると思います。都市伝説の武器は長刃のナイフ。凄まじい威力を秘めています。さらには痺れの効果も与えるようです。さらにはフリージングデスのような攻撃も仕掛けてきます」
     姫子は灼滅者たちをあらためて見回した。そして、懇願するように告げた。
    「哀しき都市伝説に終止符をうってください」


    参加者
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    絡々・解(僕と彼女・d18761)
    黒絶・望(実りし望みを抱き果てゆく花・d25986)
    オルゴール・オペラ(空繰る指・d27053)
    リーライナ・アンデルスロア(ヴィランズロア・d33284)
    城崎・莉々(高校生エクソシスト・d36385)

    ■リプレイ


    「ふうん」
     小柄で華奢、可愛らしい顔立ちの少女が声をもらした。
     年齢は十代半ば。綺麗な金髪に透けるような白い肌の持ち主だ。白の帽子は彼女のお気に入り。名はリーライナ・アンデルスロア(ヴィランズロア・d33284)という。
    「だめですね」
     リーライナはふんと鼻を鳴らした。そして眼前の洋館を見上げた。
    「何がだめなのですか」
     リーライナに問いかけたのは生真面目そうな美少女であった。年齢はリーライナとそれほど変わらないだろう。が、ずっと大人びて見える。それは前髪につながるサイドを顎のあたりで切りそろえた――俗にいう姫カットのせいかもしれない。
    「気に入らないんです」
     リーライナは少女――城崎・莉々(高校生エクソシスト・d36385)にこたえた。
    「気に入らない?」
     さらに莉々は問い重ねた。この場に至って気に入らないという理由がわからない。
     いや、気に入らないといえば、莉々にとってはすべてが気に入らなかった。罪もない一家が惨殺されたということ、さらには人の恐怖心によって作り出された都市伝説が、無残な殺人をなぞるように今また殺人をおかしているということなどすべてが、だ。
    「はい。悲劇的な筋書きを履行するだけなんて」
     リーライナは可愛らしい顔をしかめてみせた。
     ただ襲うだけ。恨むだけ、何も考えないまま。
    「そんなのってどこが楽しいんです? 伝説って、こう……たとえ悲しい物語でも人の胸をうつものですよね。アレには」
     リーライナは洋館を見つめた。風もないのに揺れるカーテンを。
    「美しさがありません」
    「馬鹿馬鹿しい」
     ふふん、と。夜を織り成したような漆黒のドレスをまとった、その人形めいて整った顔立ちの少女は吐き捨てた。
     少女――オルゴール・オペラ(空繰る指・d27053)は、その儚げな外見には似合わぬ強く冷たい視線を洋館に据えると、続けた。
    「都市伝説と本物の家族なんて、どうせ違うものだもの。誰かがきっとそうなんて分かったふりした妄想」
    「おや」
     深くかぶっていた帽子を指でついと上げ、絡々・解(僕と彼女・d18761)という名の少年は可笑しそうに笑った。
    「ずいぶんと家族やら絆やらって言葉が気に入らないようだね」
    「そんなことはないわ」
     碧玉のような瞳をオルゴールは解にむけた。その胸の裡の炎を押し隠して。
     幼い頃。物心ついた時からオルゴールは地下空間に閉じ込められ、淫魔の慰みものとされてきた。
     孤独と絶望。その奴隷的境遇の中で、暖かな家族など得られようはずもなかった。
     家族など滅びてしまえばいい。そう、オルゴールは思う。が、こんなに腹立たしいのはどういうわけだろうか。
    「それはキミが普通の、可愛くて脆い女の子だからだよ」
     声に出さず、胸の裡で解はつぶやき、ビハインド――解がミキちゃんと呼んでいる――に片目を瞑ってみせた。
    「じゃあ、いくぜ」
     若者は入口ドアのノブに手をかけた。がっしりした体躯と虎のように精悍な風貌の持ち主だ。名を長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)という。
     と、またしてもカーテンが揺れ動いた。が、兼弘に恐れる風はない。世界の秘密と護る意志を託された時から、兼弘はとうに怯えは捨てている。
    「待ってください」
     莉々がとめた。そして祈りを捧げた。
    「お邪魔します。――主の祝福が、私達にも相手にもありますように」
     そして――。
     ぎいぃぃぃ。
     軋みつつ、暗黒の淵は開いた。


     凍てつくような夜気の中、その奇妙な十六歳ほどの少年は部屋を見回した。女と見紛うばかりに美しい少年だ。
     が、奇妙なというのは、その外見のことはなかった。黒絶・望(実りし望みを抱き果てゆく花・d25986)という名のその少年は目隠しをしているのであった。
     呪い。
     望は、ある一人の人物以外の全ての可能性の死を視てしまうのであった。
     それは、あまりにも哀しく、おぞましい呪いである。通常ならば正気を保ってなどいられない。目隠しは、悲愴な運命に対する望のささやかな抵抗であった。
    「都市伝説とはいえ、こんな怨霊が出るなんて余程凄惨な事件だったのでしょうね。かわいそうに……」
     望は嘆息した。そこはリビングである。
    「けれど、その哀しき伝説は今夜、終わりを告げる」
     己自身に言い聞かせるかのように兼弘はいった。うなずいたのは、どこか物騒な目の色の少年である。兼弘が虎であるなら、少年は狼といったところか。
     撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)。灼滅者であった。
    「そのとおりでごぜえやす、長沼の兄さん。おおっと」
     慌てた様子で、娑婆蔵は振り向いた。二十歳ほどの娘が階段に足をかけたからだ。
    「エウロペアの姐さん。どちらにいかけるんで?」
    「知れたこと」
     足をとめると、娘は振り向いた。蒼い月光にさらに蒼く。優美な娘であった。西洋人であるためか、彫りの深い顔立ちをしている。
     エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)。最後の灼滅者であった。
    「敵を迎え撃つための準備じゃ」
    「本当でやすか」
     じとりと娑婆蔵はエウロペアを見据えた。
    「此度の仕事にゃ脱ぐような用向きはどこにもありやせんぜ。よござんすね、姐さん」
    「わかっておる」
     エウロペアは鷹揚にうなずいた。

     二十分ほど後。
     二階からエウロペアが降りてきた。その手にはホースが掴まれている。
    「目張りはすませておいたわ」
     オルゴールが告げた。
    「家具も片付けておきました」
     リーライナが部屋の隅に目をむけた。テーブルや椅子が壁際におかれてある。
    「よかろう」
     満足そうにうなずくと、エウロペアは二階の娑婆蔵に声をかけた。するとホースから勢いよく液体が噴出した。
     エウロペアはホースで水を室内に撒き散らしはじめた。さらには自らの身にも水をかける。肌を濡らす事で、僅かな空気の流れさえも感じ取ることができるようにという用心であった。と――。
     その時に至り、ようやくエウロペアは自身の艶っぽい姿に気づいた。濡れた着流しが肌に張り付いて身体の線が浮き上がり、寒さのためにピンと立った乳首の位置や形までもがわかるようだ。
    「わ、わらわは風呂に篭る。来るでないぞ!」
     羞恥に身体を桃色に染め、足音高くエウロペアは階段を駆け上がっていった。入れ替わるように現れたのは娑婆蔵だ。
    「どうしたんでやす、エウロペアの姐さんは?」
    「いつものやつさ」
     解がくすくすと笑った。
    「そろそろ時間ですね」
     望が静かに告げた。目隠ししているのに、どうしてわかったのか。ともかく奇妙な少年であった。すると暗視ゴーグルをつけたエウロペアが二階から降りてきた。同時、望を除く六人もまた暗視ゴーグルを装着する。
    「ねーゴーグルかっこよくない? スパイっぽくない? これからお宝貰いに忍びこんじゃうくない? あっ、それ怪盗か!」
     解がはしゃいだ声をあげた。この場の雰囲気などまったく気にしていない様子である。
     オルゴールはそんな解を無視し、ランタンに手をのばした。彼女の心の仄暗い部分が解の軽いノリを拒否しているのだ。
     深夜二時。俗に言う丑三つ時である。
     オルゴールはスイッチをおした。ランタンの光が消え、室内に真闇が立ち込める。
     一分。
     三分。
     十分過ぎた。
    「……そう言えばアル。猫だから夜目、って効くの?」
     傍らでふわりと浮かんだ翼猫に莉々が目をむけた。
     その時だ。望は異変を感じ取った。急速に室内の温度が低下していく。
    「……来やすぜ」
     娑婆蔵が目を眇めた。
     気配が凝縮していく。禍々しい気配が。
     刹那、バシャリと音が響いた。水をはねる音だ。
     壁を背にして立つ四人――望、オルゴール、リーライナ、莉々の眼前、ぬうと異形が現出した。


     それは影のように見えた。
     四体。体型は大人の男女が二、十歳ほどの少女と少年が二。あわせて四体だ。
     顔は見えない。まるで墨を塗りつけたように真っ黒な相貌をしていた。ただ、目のみ見て取ることができた。血筋の絡みついた不気味な双眼のみが。
    「じゃっ」
     四体の異形――都市伝説の手が動いた。常人には視認不可能な速度で。
     が、灼滅者たちは常人ではない。闇を裂いて疾るナイフの長刃を視界の隅で捉え、四人の灼滅者は動いた。
     リーライナと莉々は横に跳んだ。が、わずかに遅れた。リーライナが刃に切り裂かれる。莉々は躱した。それはアルビオンが盾となったからで。
     そして、望とオルゴール。二人は反射的に殲術道具を現象化した。
     ダークネスを殺すための殲滅武器。二人のそれは大鎌と剣であった。
     ガキリッ。
     闇に火花が散った。白々としたナイフの刃と怨念をやどしたようなぬらりとした鎌刃、そして聖なる十字架を想起させる剣刃が噛み合う。
    「現れたようですね。さて、始めましょう。いえ、終わらせましょう。この悲しい都市伝説を……」
     大鎌――『Laminas pro vobis』をかまえた姿勢のまま望が告げた。その隣ではオルゴールが都市伝説と刃越しに相対している。
    「殺されたこともない癖にそんなに睨むなんて生意気ね?」
     血の坩堝のような都市伝説の目を、冷たい瞳でオルゴールは睨みつけた。が――
     うっ、と望とオルゴールは息をつめた。都市伝説の刃がゆっくりと迫ってくる。恐るべき膂力であった。
    「離れていただきやしょうか」
    「わらわらが相手をしてやるほどに」
     娑婆蔵が殲術武器をかまえた。包帯で巻いた十字架――トンカラ砲だ。エウロペアはただ繊手をのばしている。
    「トンカラトンと言え!」
     娑婆蔵が叫んだ。それはトリガーとなる発声である。トンカラ砲から帯が噴出された。
     同時、エウロペアの腰からも帯が翔ぶ。それは彼女の着物をまとめていたものであった。当然、着物ははだけ、裸身が露わとなる。エウロペアは下着を身につけていなかったのだ。
     真闇のために見えぬであろう。そうエウロペアは高を括っていた。が、灼滅者たちは暗視ゴーグルを装着している。蜜の滴るようなむっちりとした乳房も、真っ白で肉感的な股間も仲間たちには丸見えであった。
    「ぎゃああああ」
     流星の速さと質量をもったふたつの帯に撃たれ、都市伝説が身をのけぞらせた。耳を塞ぎたくなるほどのおぞましい絶叫だ。ゆるくなったふたつの刃を望とオルゴールがはじいた。
    「やりやし――くっ」
     苦鳴は、しかし、娑婆蔵とエウロペアの口からもれた。まるで液体窒素を浴びたかのように二人の身体が凍りついていく。分子運動そのものを操作する超絶的な都市伝説の魔力であった。
     その時だ。娑婆蔵とエウロペアを凝視する都市伝説の魔眼の前に、岩のように分厚い体躯が立ちはだかった。兼弘である。
     兼弘の瞳と都市伝説のそれが相対した。哀しみの光をやどした瞳と、ただ憎悪の炎を燃え上がらせただけの瞳が。
    「やあ、そんな目をしてどうしたんだい? 悪いが犯人はもういなくなってるし、そんな想いはもうあってはいけないんだ」
     兼弘は淡々と告げた。
    「ぎいぃぃぃぃ」
     硝子を爪で引っ掻くような咆哮を発し、都市伝説がナイフを振り回した。


    「くっ」
     リーライナの口からごぼりと鮮血が溢れ出た。
     ナイフの一撃は激烈。鎖骨ごと肺まで切り裂かれている。のみならず身体が動かない。痺れてしまっている。
    「回復、いりますか」
     大鎌を手に、望が問うた。
    「……頼みます」
     リーライナが血の滲む声をもらした。すると望が大鎌を振った。
     吹く一陣の風。闇の中にあってさえ煌くそれは、サイキックにより生み出された超常の風だ。リーライナの傷を癒すとともに、その身の痺れすら消し去ってしまった。
    「ありがとう。これで」
     サイキック発動。亜空間に封印されていた殲術道具を空間転移。再合成する。リーライナの手に白紙のスクロールと影を先端にまとわせたペンが現れた。が――
     リーライナにするすると都市伝説が迫った。再び氷片のような白刃が閃く。
     戞然。
     雷火を散らし、刃はとまった。受け止めたのは鋏の刃である。
     殺すためだけに磨き上げられた歪で、それ故にこそ美しい凶器。解はそれを偏執鋏と名づけている。
    「刃物の扱いじゃあ、キミらには負けないつもりだよ」
     ニッと笑んだ解はきゅるきゅると鋏をジャグった。その手並みは鮮やかすぎ、都市伝説ですら鋏の動きを追いきれない。
    「その目を狙わせてもらうよ」
     横薙ぎの一閃。闇ですら断ち切れた。なんで都市伝説を断ち切れぬわけがあろう。
     ぎゃあ、と仰け反った都市伝説めがけ、リーライナの手から解けたスクロールが迸り出た。
     稲妻のように流れる紙刃。そこには影の文字が刻まれていた。物語そのものが浄化の呪力である。
    「筋書きを改竄しましょう。楽しい都市伝説に変えちゃいましょう」
     幸せと微笑みに満ち溢れた家族。物語はすべてハッピーエンドだ。
     一撃を受け、都市伝説は消滅した。何故か怨嗟の声はもらさなかった。

     刃をはじかれた二体の都市伝説――男と女にむかって莉々は手を掲げてみせた。
     次の瞬間である。空間に巨大な十字架が現出した。水晶を刻んだかのような澄明な材質の十字架である。
     莉々の口から聖句が発せられた。それこそトリガー。十字架より無数の光の矢が放たれた。
     その光は人間世界のものではない。故に都市伝説が消えることはなく、光の矢にズタズタにされた。
     そして、もうひとつの断罪。すなわち十字の剣流。白光を背負い、オルゴールは馳せた。
    「あなたたちは、もう壊れているの。だから」
     泣き笑いのような表情が一瞬オルゴールの美しすぎる面上をかすめ、次の瞬間、十字の剣が二度はねた。唸る剣風は都市伝説を切り裂いている。

     そして、兼弘。
     横薙ぎの都市伝説の一閃を、彼は車輪状の武器――『Genghis Khan』で受け止めた。ガキィン、という硬く重い音が響く。一瞬散った火花に浮かび上がったのは、どこか哀しげな兼弘の顔だ。
    「お前の一撃は重い。怖いぜ、とてつもなく、な。でも退くことはできない。何故なら、俺たちはこの話を終わらせに来たからだ」
     兼弘は咆哮を発した。その手が掴む巨大十字架――『Lamb of God』が嵐のように空間を席巻。都市伝説を殴り、打ち据え、砕いた。


     どれほど時が経ったか。気づけば、ただ闇の沈黙のみがあった。混じる吐息は灼滅者たちのものだ。
    「これで依頼完了ですね。明かりを点けましょう。そろそろ皆さん光が恋しくなってきたでしょう?」
     望は微笑みを顔に押し上げた。ランタンに手をのばす。
     光が生まれた。それは小さく、しかし確実に闇を切り裂く月光にも似て。
    「うん?」
     娑婆蔵はふりむいた。エウロペアが怪訝そうに問う。
    「どうしたのじゃ?」
    「それが」
     幾つかの笑い声がした。楽しそうな、まるで誕生日のお祝いをしているかのような楽しそうな笑い声が。
     照れたように娑婆蔵は笑った。
    「きっと風の音でやしょう」
    「そうじゃな」
     満足したようにエウロペアは微笑した。

    作者:紫村雪乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ