雪に埋まった温泉で

    作者:森下映

     カフェの1席。タブレットやパンフレットをみながら、旅行先を決めているカップルがいる。
    「あ、ここの温泉にしない?」
    「ん? でもこの温泉のあたりって、3月でも大雪がふることがあるらしいぜ」
    「へえ? でも雪見しながら露天風呂もいい感じかも!」
    「それが『温泉が埋まっちまうくらい降る』って噂があるんだよな〜」
    「え〜、それはいくらなんでもないでしょー!」
    「だ、だよなあ?」 
    (「噂になっているということは……危ないかもしれませんね」)
     深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058)は笑い合う2人の後ろを通り過ぎ、学園へと急いだ。

    「やっぱり都市伝説が出現しちゃってたよ! 樹さん、報告ありがとう!」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)は樹にぺこりと頭を下げると、説明を続けた。
    「温泉を雪で埋めちゃう都市伝説が出現するのはここ。かなりな高級温泉旅館みたいだね。もともと1日に数組しか予約をとらないところなので、灼滅に向かってもらう日は貸し切りにしてあるよ」
     問題の都市伝説が出るのは、この旅館でもっとも大きい8人部屋用の露天風呂。部屋に面しており、直接入れるようになっている。
    「『3月にこの部屋に泊まった人が『露天風呂に面した障子と窓を開ける』と、露天風呂が雪で埋まってしまうんだけど、3月にになってからこの部屋泊まるのは、みんなが初めて。だからここで灼滅しておけば、被害は出さないで済むね」
     都市伝説の本体は、蓑帽子に藁靴、着物姿の雪ん子4人。
    「小さい女の子みたいな見た目だよ。雪で露天風呂を埋めた後、しばらくはこっちの様子を伺っていて、呼びかけると4人で近くへやってくるよ」
     そのまま戦闘に持ち込んでもokだが、
    「一緒にたっぷり雪遊びをしてあげると、弱体化するみたい。露天風呂は完全に埋まっているから、本体を灼滅するまでは踏み抜いて落ちてしまうようなことはないよ」
     弱体化してくると、雪ん子たちは眠そうにあくびをしたり、目をこすったりするようになる。サイキック攻撃をしかけると、雪ん子たちも戦闘モードになり、雪玉を投げてきたり、氷のように冷たい風をふかせてきたり、大量の雪を落としてきたりする。全員クラッシャー。
    「みんなならすぐに戦闘に持ち込んでもなんとかなる相手だとは思うけど、春の雪遊びも楽しいかも。もちろん灼滅した後はゆっくりお風呂が楽しめるよ。部屋には湯浴み着の用意もあるから、みんなで入れると思う。じゃ、よろしくね!」


    参加者
    ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)
    黒咬・翼(ブラックシャック・d02688)
    日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)
    ディアナ・ロードライト(暁に輝く紅玉・d05023)
    フィオナ・ドミネーター(硝子の細剣・d08925)
    逆島・映(中学生シャドウハンター・d18706)
    荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)
    深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058)

    ■リプレイ


    「温泉に来た人が雪に埋もれちゃったら大変ですし、今のうちに何とかしないと、ですねっ」
     旅館に到着。深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058)が言った。
    「温泉にゆっくりしに来たのに埋もれたら、風邪ひいちゃいますからね」
     友人のフィオナ・ドミネーター(硝子の細剣・d08925)。フィオナは、樹から贈られたお守り、Field mustard of Sun-shineを持ってきている。
    「今年は雪はもう見れないし、ちょっと残念ですけど……対処しちゃいましょ~」
    「確かに温泉が雪に埋もれてしまうのは困るな」
     甘い声は黒咬・翼(ブラックシャック・d02688)。
    「雪ん子たちにとっては温泉を埋めるのが遊びなのかしら……?」
     ディアナ・ロードライト(暁に輝く紅玉・d05023)が首を傾げると、黒狼の子供のような見た目の霊犬、刃も一緒に首を傾げた。
    「そうかもな」
     翼の表情は変わらないながらも、ディアナに返す言葉からは優しさがにじみ出る。
    「温泉で雪遊びちゅうんも楽しそやねぇ。でもうちらも風邪ひかんようには注意せんとなぁ」
     長い三つ編みにおっとりとした口調は荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)。
    「雪遊びの後はばっちりあたたまれそうですよっ♪ ほら!」
     樹が障子を開けると、そこには広々とした露天風呂。ディアナも外を眺め、
    「お部屋にこんなに広い露天風呂がついてるなんて……雪遊びも温泉も一杯堪能したいわ」
    「温泉でぬくもる前の雪遊びもまた一興だな。適度に体を動かしつつ、依頼も片してしまうとしよう」
     翼が言った。
    「雪ん子さんたちと一緒にたっぷり遊んであげたいです。あ、」
     逆島・映(中学生シャドウハンター・d18706)は、ナノナノのふわりんに、
    「もちろんふわりんも一緒です」
    「ナノー!」
    「わたしも雪ん子さんたちとめいっぱい遊んで、満足してもらいたいです」
     日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)も窓の外を見ながら言った。と、隣のミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)も、
    「そうだね、せっかくだし雪遊びを目いっぱい楽しんであげようか。楽しんでお仕事すませちゃお」
     微笑み合う恋人同士の横顔が窓に映る。
    「それじゃ、行きますよっ」
     樹が窓を開けた途端、一瞬で温泉は雪に埋まった。


    「思いっきり遊んじゃいますよー! 作戦のうちですからね!」
     フィオナが言い、
    「雪玉作り放題、投げ放題やわ」
     雪に降りながら千鳥も言う。と、木の影に藁帽子が見えた。さっそく映は、
    「一緒に遊びませんかー?」
    「ナノナノ」
     ふわりんも呼びかける。ディアナも音の壁を展開、
    「一緒に雪遊びしましょうー?」
     刃も雪に足あとをつけながら、わん!
     すると雪ん子たちが藁靴でこちらへやってきた。予知通りの小さな女の子、まずはふわりんと刃が気になる様子。樹は頃合いを見て、
    「私たちと雪合戦しませんか? っと、わかるでしょうか」
     しゃがみ、雪を拾ってぽふぽふ。
    「こうやって雪玉をつくるんです」
    「私も作りますよー」
     フィオナもしゃがむ。樹の素直に流れる黒髪とフィオナの白いウェーブのかかった髪の先に雪の結晶がほろりとついた。
    「中に石をいれたりとかそういうのはダメですよー?」
     当然サイキックも使わないお約束。雪ん子達も見よう見まねで作ってみる。
    「ほな、うちらもつくろかぁ」
     千鳥も雪を手にとり、
    「わたしも作っちゃいますです」
     翠は多めに雪を掬うと、
    「ミリーさんにもはい、です」
    「ありがと。ほら、こうするんだよ」
     ミルドレッドは雪ん子に作り方を見せる。
    「俺たちも作るか」
    「そうね」
     翼とディアナも雪を掬い上げた。映は、
    「ふわりんも作ってみますか?」
    「ナノ!」
     雪をもたせると、ふわりんは冷たさに目をぱちぱち。
    「このままバトルロイヤルしてしまいますか?」
     映が言う。千鳥は、
    「せやねぇ。遊びながらがこの子らにはいいかもしれんねぇ」
     笑いかけると雪ん子も笑顔に。
    「ぐーぱーで組み分けとかいかがでしょうか?」
     翠が言い、
    「せーの。で、これか、これを出すんだよ?」
     ミルドレッドが雪ん子にぐーとぱーを教え、
    「行くか。せーの、」
     翼のかけ声で、組分け決定。
    「2人はうちと一緒なぁ?」
     千鳥が雪ん子達に言った。と、雪ん子は千鳥の手を2人で片側ずつ握る。刃もわん! 千鳥は、
    「せやね、刃も一緒やね」
    「刃ともどもよろしくお願いするわね。もちろん翼と樹も」
     ディアナが言った。
    「ああ」
     翼が頷き、
    「がんばりますっ。フィオナさん、負けないですよっ」
     樹が言う。フィオナも、
    「こっちこそですよー! ね、みんな?」
     フィオナと同じチームの雪ん子たちが、はーいと雪玉を持った両手を上げた。
    「ボクたちもがんばろう。映とふわりんもよろしくね」
    「はい! ふわりん、がんばりましょう」
    「ナノー!」
     ふわりんも張り切っている。
    「同じチームになれて嬉しいのです」
     翠が言うと、ミルドレッドも、
    「ボクも一緒になれてうれしいよ」
    「でも、別のチームでも手加減はしなかったですよー!」
    「ボクだってばっちり勝負するつもりだったよ!」
     仲の良い2人に雪ん子もにこにこ。
    「ではでは勝敗は……楽しんだもの勝ちですっ!」
     樹が言い、ミルドレッドの、
    「いっくよー!」
     で雪合戦開始。
    「遊びとはいえ、やるからには全力でいくぞ」
     と雪玉を構える翼に、
    「せっかくやし目一杯やらんとなぁ」
     千鳥も狙いをつける。
    「負けないから。……あ、」
     ディアナは縁側に積まれた桶を見つけ、
    「盾代わりになるかも……」
    「スキありっ!」
    「きゃっ」
     ミルドレッドが投げた雪玉から、とりあえず刃を守ったディアナの前、
    「俺の目が黒いうちは、雪玉を全て防いでやるさ」
     翼がディアナに向かって立ちながら、後ろ手に雪玉をキャッチ。
    「……」
     キュン。と恋に落ちる音がした。同じ人にさて何度目か。
     翼はそのまま身体を翻して雪玉を投げ返す!
    「ミリーさん、そこですっ!」
    「了解!」
     翠の声に、翼の玉をミルドレッドが見事飛び越え、翠がぽんと放った雪玉を空中でつかみ反撃の雪玉! 桶を持ってぽうっとしているディアナを刃が鼻でつんつん。ディアナはっとして、
    「今度こそ翼は私が守るんだから!」
     桶を構え直して見事防御。
    「うちらも負けてられへんねぇ」
     と千鳥が投げると、雪ん子達もぽいぽいと雪玉を投げた。投げ返す翠だが、雪ん子達には優しめに。それに気づいたミルドレッドが微笑む。フィオナは雪玉をかわして逃げながら、
    「当てられる前に当てますよ! そう簡単に当たるわけふぁ!?」
     ぱふんと当たった雪玉に、喜ぶ雪ん子。フィオナは笑って、
    「やられましたーっ。では樹さん覚悟ですっ!」
    「わぷっ!?」
     雪玉が樹に炸裂。
    「やりましたねっ!? でも次は私がひゃわうっ!?」
     今度は雪ん子達の雪玉が。
    「もうっ! 追いかけちゃいますよーっ♪」
     パタパタと樹が追いかけると、楽しそうに雪ん子が逃げる。
    「あ、刃」
     追いかけっこに混じろうと駆け出した刃をディアナが追いかけ、
    「ミリーさん、映さんが大変です!」
    「よーし、翠。一緒に助けにいくよ!」
     翠とミルドレッドが駆け出した先では、
    「わふっ。な、なんでですかー?」
     なぜか次々雪ん子達にぶつけられてしまう映の周りを、ふわりんがぱたぱた。
    「反撃しますですよ!」
     翠が言うと、きゃーっと雪ん子達が散り、
    「うちも相手やで?」
     と言った千鳥の後ろに隠れて、顔を出す。
    「望むところだよ!」
     ミルドレッドも颯爽と銀のツインテールをなびかせる。
    「わたしも加勢しますよ〜!」
     フィオナも参戦、千鳥危うし! と、
    「待て待て〜っ、わ!」
    「刃も待って……、きゃ!」
     樹に雪ん子に刃にディアナ。に次々雪玉が。当たって増々大はしゃぎの雪ん子と刃に釣られて笑顔の樹とディアナだが、
    「ディアナが受けた分は倍にして返させてもらうぞ……」
     本気っぽい人、いた。雪玉を華麗に放つ翼に、笑い声絶えぬまま乱戦に突入した。


     雪合戦後は、ディアナが雪ん子に追加で降らせてもらった雪を使い、皆で遊び道具を作成。翼に傾斜をつけた大玉の上にのせてもらってはすべりおりたり、ふわりんや刃と駆けまわったり、かまくらに入ったりして遊んでいる雪ん子達を眺めながら映は、
    「私のルーツが七不思議使いだったら、いつも一緒に居られたのですけど……」
    「せやねぇ……」
     千鳥も言った。そして時間。翼に抱えられ目をこする子、かまくらの中でうとうとする子。追いかけっこ中に疲れてしまった子は、ミルドレッドがおんぶ、翠が背をとんとんしながら連れてきた。
    「今日は楽しかったですけど……これで、お別れです。ごめんなさい……」
     巫女服姿の樹が言い、ミルドレッドが静かに広げた殺気の中、歌い始める。できるだけ優しく。その気持ちを込めて。
    「くま太郎」
     こちらも巫女姿の千鳥。巨大な熊のぬいぐるみの中の式神を操り、ぐんと伸びた両手で雪ん子を包みこんで捕らえる。そこへ漆黒の月隠りに身を包んだ翼が、とん、と寝かしつけるような帯の一撃。ディアナは障壁が広がらないことに気づくが、
    「回復はまかせてくださいです」
     緑の袴の巫女装束。右手に御幣、左手に髪に飾られた花と同じ色の神札を携えた翠が言い、
    「ナノ!」
     ふわりんも応え、刃もまかせてと主人を振り返った。
    「ありがとう」
     ディアナは魔女の篭手【陽炎】に炎を宿すと、雪ん子へ送る。フィオナは掌に集まる熱に力を集中しながら、
    「雪遊び楽しかったですよ。だからせめて痛まず苦しまず……終わらせたいのです」
     放たれた炎の奔流に交じるように走る、燕尾服に手袋姿の映。ソードに宿した影の一撃に1人、消滅した。
     皆は確実に攻撃を重ねる。ミルドレッドは雪ん子へ手加減した攻撃を加え、
    「翠、最後お願い。眠らせてあげてね?」
     翠は頷くと、眠りへ誘う符を貼り、
    「次に目が覚めたときは、もっとたくさんいっしょに遊べると良いですね」
     微睡みながら消えていく雪ん子へ。
    「寂しいけれど、楽しい時間はいつかは終わるの」
     樹の歌声に最後の雪ん子の姿が薄れていく中、ディアナが言う。
    「また雪の降る時期まで静かにお休みなさい……」
    「うちの七不思議に加わってくれたら嬉しいなぁ。まだまだいっぱい遊べ、……?」
     千鳥は雪ん子が何か伝えようとしていることに気づいた。
     ――ア、ブ、ナ、イ、ヨ。
     そう、真下は温泉。
    「おおきになぁ。くま太郎、頼むで」
     くま太郎は千鳥と映を腕に抱えてひとっとび。
    「刃、おいで、……!」
     刃を抱っこしたディアナの身体がふわっと持ち上がる。もちろん翼の腕。ミルドレッドと翠は手を繋いでジャンプ!
    「樹さん大丈夫ですか〜?」
    「ありがとうございます」
     今はもう雪のない地面。樹にフィオナが手を差し伸べた。
     映は目を瞑って手を合わせ、
    「楽しんでもらえたのでしたら、うれしいです」
    「ナノ……」
     ふわりんも一緒に。
    「温泉のみなさまには申し訳ないですけど、来年も会いたいなーって思ってしまうのです」
     翠が言い、ミルドレッドは返事の代わり、繋いだ手に力をこめる。
    「つ、翼……もうおろしてくれて大丈夫よ……?」
    「そうか」
     翼はディアナをおろしたものの、照れ照れディアナは刃をおろすのを忘れている。
    「さあ、それでは温泉でまったり過ごしましょうっ」
     気分を変えるように樹が言った。と、
    「やっぱり混浴でしょうか?」
     おずおずと映。千鳥は、
    「気になるんやったら、肌が隠れる湯浴み着選ぼか?」
    「ありがとうございます」
    「ナノ〜」
     映と一緒にふわりんもぺこり。


    「雪で冷えてもうた分、しっかり肩まで浸かって温まらんとねぇ」
     千鳥が言った。ワンピースは短め丈、小柄ながらスタイルの良い千鳥は、ホルターネックも相まって、中学生とは思えない湯浴み着姿である。
     映は長めのワンピースの下にショートパンツもはき、ふわりんと一緒にそろっと温泉の端に入る。
    「すっかり冷たくなっちゃった……」
     着替えた現れたディアナに、
    「流石に雪遊びした分はしっかり浸からないと。風邪をひいてしまうからな」
     先に浸かっていた翼が言った。と、
    「……ね、翼、これ可愛い?」
     チューブトップにショートパンツ姿のディアナがくるっと回ってみせる。
    「ああ。似合っている」
     翼が言った。ディアナは嬉しそうに翼の隣に足をいれると大きめの桶にお湯をくみ、
    「はい、刃も温まってね」
     翼は庭を見渡し、
    「高級旅館だけあって露天風呂から見える景色も絶景だな……日頃の疲れも取れるいい機会だ」
    「本当ね……ね、翼……後で髪を乾かすの手伝ってくれたら嬉しいわ……」
    「ああ、髪もついでに梳いてやるからな」
     翼がディアナの頭を撫でる。
    「あ……翼の手、冷たい……」
     ディアナは翼の手をとり、両手で包むと、
    「あっためてあげる……」
     幸せそうな2人、桶の中では尻尾がぱたぱた。ミルドレッドは、
    (「ディアナたちもいるからいちゃいちゃは控えめかなぁと思ってたけど、これは負けてられないかな」)
    「さ、後は2人でデート楽しもう♪」
    「はいっ。雪遊びで冷えた体を温めますです」
     翠と湯浴み着は色違いのお揃い。ミルドレッドはチューブトップとショートパンツの黒、翠は緑。並んでお湯に浸かる。
    「くっついたらもっと温かいと思うのですっ」
    「ん、温かいよ。温泉よりも翠の身体が温かい、かも?」
     ミルドレッドは翠に身体を預けてしばしのんびり。と、
    「ひゃぁっ?!」
     突然ミルドレッドの悲鳴。翠が腰に手を回して脇腹をくすぐったのだった。
    「翠ー?」
     むー。とミルドレッドがちょっぴり頬をふくらませると、
    「えへ、反撃だってどんとこいなのですよ……ふにゃっ!?」
     くすぐり返された翠も悲鳴。さらにミルドレッドは翠をぎゅっ。
    「これが1番のお返し?」
     くすくす笑う。
    (「(このまま首筋に噛み付いて血を吸いたいけど、さすがに我慢かな? 人目もあるからキスも? するならこっそり……)」
    「!」
     唇に柔らかい感触。ミルドレッドの赤い瞳が丸くなる。翠は唇を離し、
    「してくれないから、しちゃいましたのですよっ」
     今度は翠がむー。ミルドレッドは笑い、今度は自分から。
    「フィオナさん、お背中流してあげちゃいますねっ」
     腰掛けて少し身体を冷ましていたフィオナの隣には、手桶と手ぬぐいを持って樹が座った。
    「ふぁ、ありがとうですよー。じゃあ後で樹さんも」
     と今度は樹のほうが流される番になり、
    「ひゃ?!」
     思わずびくん。そして足をのばし、もう1度お湯に浸かる2人。
    「こうしてゆっくりぬくぬくもいいですねぇ……」
     樹が言うと、
    「はい心もゆっくりできて、段々と眠たく……」
     フィオナが小さくあくび。いつのまにか頭と頭をくっつけて、2人分の寝息。
    「2人とも湯冷めせんようになぁ」
     肩にお湯をかけてやる千鳥。その後ろ、雪ん子達の笑い声が聞こえたような気がした。

    作者:森下映 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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