冬真っ盛りの北の地域で、若生・若(若桜・d20457)が耳にした噂が1つ。
「あの踏み切りで亡くなった男の子の幽霊、出るらしいよ。夜の踏み切り前に、ぽつんとコタツが現れて、そこに入っている男の子の幽霊が、死神みたいなゾッとする笑顔を向けて、なにか言って来るんだって。でも顔が怖すぎるから、なにを言ってるのか聞き取れずに、遭遇した人は逃げちゃうんだって」
「怖いっ! 亡くなった子は可哀相だけど、幽霊はやだなぁ……そんな怖い笑い顔見せるなら、怖いこと言ってるんじゃない?」
怯えきった2人の女子高生は、全身を小刻みに震わせた。
「死神みたいな笑顔……名づけるなら、死神スマイルと言ったところか。この幽霊は都市伝説だ。どうやらコタツに入りながら、誰かと、冬の旬な食べ物を味わいたいみたいだな」
「冬の美味しい物! いいじゃないか、是非とも食べたいね」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の言葉に、若がノリノリで返す。
「終電車が過ぎた夜に、この踏み切りの前で待機していると、コタツと一緒に都市伝説は現れるぜ。この場所は一般人も避けている為、人払いは必要無いな。サウンドシャッターが有れば良いぐらいだ。コタツは大きいので、8人以上は入れるぜ。コタツの上には土鍋が有って、豚肉、豆腐、カニ、水菜、大根などが入った季節の鍋が用意されている。楽しく会話しながら美味しそうに食べていれば、都市伝説は満足して弱体化するぜ。冬の旬の物を、持ち寄るのもオッケーだ」
ヤマトは解いたキューブ状のパズルを机の上に乗せ、両手を組む。
「リンゴやミカン、カボチャやサツマイモなんかも旬な食べ物だな。存分に堪能して来ると良い。だが、都市伝説は必ず倒してくれよ」
参加者 | |
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風間・海砂斗(おさかなうぃざーど・d00581) |
仲村渠・弥勒(マイトレイヤー・d00917) |
獅子堂・永遠(だーくうさぎ員・d01595) |
皇・銀静(陰月・d03673) |
若生・若(若桜・d20457) |
成田・樹彦(サウンドソルジャー・d21241) |
赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118) |
栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201) |
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寒い夜空の下で待機していた灼滅者たちの前に、突如、大きなコタツが出現した。
都市伝説だ。
コタツの中から出て来た小さな男の子、都市伝説の少年が、ニタリと笑顔を向けて来る。
一般人なら背筋に寒気が走り、逃げ出すこと間違い無しだろう。
しかし集まったのは灼滅者。
そんなことぐらいで逃げたりはしない。
『おなべ……一緒に食べよう? コタツも、おなべも、あったかいよ……みんなで一緒に……楽しく、あたたまりたいな』
ゾッとするような笑顔からは想像もつかぬほど、年相応の高い声で、控えめに誘って来る。
「北の大地はとても寒くて、年中無休で冷え性の低体温の私にはキツい……場所と鍋に感謝」
オシャレさも女子力も捨て、防寒着に身を包んだ若生・若(若桜・d20457)がサウンドシャッターを使い、素早くコタツに入る。
大の大人が何人も入れそうなほどに大きなコタツは、それはそれは暖かく、包み込むように若を迎えた。
「こんばんは、お鍋とは素敵ですね。ご一緒させて頂いて宜しいですか?」
皇・銀静(陰月・d03673)が話し掛けると、少年はこくりと頷く。
人数が多いのが嬉しく、少年は体を左右に小さく揺らして鼻歌まで歌っている。
(「誰かと冬の旬な食べ物を味わいたい都市伝説さん、かわいそうです」)
少年に対して同情的な栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)も、コタツに入る。
「おなべ食べられるって聞いて。ふみきり前だけど。ふみきりにこたつって、すごいシュールだなー。おじゃましまーす」
風間・海砂斗(おさかなうぃざーど・d00581)がチラリと踏み切りに視線を流してから、マフラーもコートも外さないままコタツに入った。
すると、どうだろうか。
防寒着など必要無いほどに、全身がぽかぽかと暖かくなるではないか。
これが都市伝説のコタツである。流石である。
「しかし、どこかの大学でやっていた野外でのこたつ使用がこのような魍魎を……?」
獅子堂・永遠(だーくうさぎ員・d01595)はエイティーンを使用して18歳に変身し、首を傾げる。
「僕も入って良いんだよね? わ……あたたかいね」
『この地域、寒いから……コタツもおなべも、寒さを感じないぐらい、あったかいよ』
コタツに入った成田・樹彦(サウンドソルジャー・d21241)が、あまりの暖かさに少し驚くと、少年が怖い笑顔で言葉を返す。
「ぬくぬく炬燵で美味しいお鍋が食べられると聞いて!」
賑やかさが好きな仲村渠・弥勒(マイトレイヤー・d00917)は、ノリノリだ。
「鍋を存分に食べるぞ。鍋奉行は、誰かがやってくれるだろう」
赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)は、ミカンを持参していた。
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「炬燵といえばミカン。ということで、どうぞ」
心の拠り所となっているフード、すごいミカンを碧が全員に配る。
「炬燵にミカンは必須。すごいミカンの出番だ……! 何がすごいかというと……とにかくすごいんだ……!」
熱弁する碧の言葉を聞きつつ、若が早速、すごいミカンを食べる。
「美味しいねえ、実に美味だよ。私から持って来た具材はイノシシ肉と、それに付随する野菜……つまりイノシシ鍋なのだよ!」
『……ミカン、美味しい。イノシシのお肉、ぼく、食べたことが無いから楽しみ……』
どーん! っと、イノシシの肉を掲げる若に対し、少年は土鍋の蓋を取る。
湯気が緩やかに立ちのぼり、あらかじめ入っていた鍋の中の具材は煮立ち、食欲をそそる香りが灼滅者たちの鼻先をくすぐる。
「鍋があるのか……。いいだろう」
やや警戒していた永遠だったが、少年に敵意が無いことが分かると、警戒を解く。
そんな永遠に、少年は箸を手渡した。
『器も有るよ。いる?』
「このコタツあったかすぎ! ぬくぬく天国……あ、うちは生卵とポン酢を溶いて食べるから器よろしくねー♪」
少年の問いに、コタツのあたたかさに浸っていた弥勒が、手をあげて答える。
「生卵とポン酢の合わせ以外だと、皆はどんな感じー? 色々試してみたいなぁー♪」
楽しそうに仲間たちに話し掛ける弥勒。
和気あいあいと会話を楽しみ、コタツに入りながら鍋も楽しむ。
「いただきます。あったかいお茶と、冷たいジュースを準備してきましたので、みなさんどうぞ」
茉莉は食前の挨拶を丁寧にしてから、野菜を中心に食べ始める。
「ジュースを飲みますか?」
『うん……ありがとう、おねえちゃん』
少年に対しても声を掛け、頷く少年に、茉莉はジュースの入ったコップを渡す。
「怖い顔だって平気! まあいろんな人がいるからね……おれは気にしなーい」
怖すぎる笑顔を浮かべている少年を見ても、海砂斗は気にしない。
明るい調子で言い、海砂斗は少年に笑顔を向ける。
「卵は入れて良いですか?」
食材を加え、味をととのえてゆきながら、銀静が少年や仲間たちに問う。
少年の笑顔に対し、銀静は褒めも否定もせずに自然体で、普通に接している。
「最強の防寒をして来たけど……コタツも鍋も笑えるぐらいあったか過ぎるから、これ要らないね!」
「おれもー。マフラーにコート、ちょっと暑いぐらいだなー」
若がコートやブーツをポイポイっとライドキャリバーの上へ投げ、逆に海砂斗は育ちが良い為か、きちんと脱いだものは畳んで横に置く。
「ところで、さっきから肉を食べていないねえ、風間君」
「おれはお肉よりおとうふ派!」
からかうように若が言うと、海砂斗は元気良く主張した。
「豆腐派かー。島豆腐なら持ってきたよー。島豆腐は普通の木綿豆腐より固くて、煮崩れしないんでーす」
持って来た長ネギやキノコ類などの具材も付け足しながら、弥勒が説明した。
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「貴様。顔はともかく……心は優しいな。嫌いじゃない」
永遠が少年を褒め、満足そうに鍋を楽しむ。
「イノシシ鍋は最高! この濃厚な食感と味……!」
碧が肉に食らいつき、幸せそうな表情をして鍋を堪能している。
「いえーい! 鍋パーティだぜー!! あ、風間君の分の肉は、仕方ないから私が食べよう」
仕方ないと言いつつも、若は食べられる肉の量が増えたことに喜んでいる。
「餅巾も良いよねー。お餅お餅ー♪」
「美味しそうだね仲村渠君。私にもくれ給えよ」
「あ、若ねーさん、そっちオレの分だよー」
「細かいことは気にせず、鍋パーティを楽しもうぜ!」
弥勒と若がなんだかんだで楽しそうにしているのを見て、銀静が静かに頷く。
「お鍋は皆で食べて孤独を癒す……其れはいい物です。お鍋はいいですねぇ……この豚肉……臭みが無くて口の中で蕩けますね……御飯が進みます」
ご飯を持参して来た銀静は、鍋とご飯の両方を味わっている。
「みんなであったかおなべはいいね! こんなとこでおなべなんて、めったにできないよね、楽しいー! あ、シラタキある?」
『シラタキ、好き? じゃあ、入れるね……』
食べている間は無言だった海砂斗が、咀嚼を終えて飲みこんでから、言葉を放つ。
少年はシラタキを追加し、程よく熱が通ったシラタキを器に盛り、海砂斗に差し出す。
「こうやって炬燵に入って皆で鍋囲って食べるのって……やっぱり良いものだな」
「そうだね。みんなと楽しく食事ができるのは、いいものだね」
「……こうして皆で鍋を囲む……本当はとても……尊い物なんですよね……」
仲間たちを見回し、碧がしみじみ言うと、樹彦と銀静が同意を示す。
美味しいものには目がない永遠は、次から次へと鍋の具材を口に運び、黙々と食べ続けている。
「飲み物が無くなっている人は、いませんか?」
気配りの利く茉莉は、飲み物を注いで回っていた。
やがて土鍋の中の具材がほぼ無くなると、シメをどうしようかという話になる。
「何をシメにするかは皆で決めて貰いたい。ただの白米でも良いし、中華麺でも良い。両方持って来たから好きな方を選んでくれ給え」
「シメは何でも好き。ごはんでも麺でもおいしく食べられるよ」
「美味しければ、どちらでも」
若の言葉に、海砂斗と永遠が続く。
「特に無いのでしたら……最後の締めとして……御飯と卵を入れますか」
「たまご雑炊! いいねえ!」
料理が好きな銀静が早速、ご飯を鍋の中に入れ、喜ぶ若。
「こうして煮えて来たら卵を入れて……完成です。どうです? 美味しいですか?」
「シメも美味いのだな。面白い趣向の鍋パーティだ」
早速食べ始める仲間たちを見て銀静が問うと、永遠は鷹揚に頷きながら答える。
「最後まで美味しいです」
「シメの雑炊! 美味しいねー♪」
驚き半分、喜び半分といった様子で茉莉が感想を述べ、弥勒も上機嫌で食べている。
「うわ、忘れてた。カップアイス持ってきたんだ。やっぱ冬はおこたにアイスっしょ!」
食後のデザートまで海砂斗によって用意され、雑炊を完食した灼滅者たちはアイスも味わう。
あたたかなコタツの中に入りながら、食べるアイスは絶品だ。
アイスが完食される頃には、少年は既に弱体化していた。
「君には邪気は見いだせないですね。すみません……できれば抵抗しないと助かります」
銀静が素早く戦闘態勢に入り、きらめく飛び蹴りを少年に叩き込む。
「ごちそうさま! おなべおいしかった、ありがとう」
海砂斗は飛ばした魔法の矢で、少年を射抜く。
「ごちそうさまでした」
茉莉が食後の挨拶を丁寧に告げてから、捻りを加えた槍で少年を突き、ウイングキャットのケーキは猫魔法を放つ。
「俺は……お前と食べれて楽しかったぞ。お前はどうだった?」
碧がそう問いながら、ビハインドの月代と共に攻撃を重ねる。
樹彦の強烈な斧の一撃が入ると、少年は倒れた。
『ありがとう……たくさん来てくれて、楽しかった……嬉しかった……ありがとう……』
「ごちそうさまー。ありがとねー」
弥勒が声を掛ける中、都市伝説の少年はコタツと鍋と共に、完全に消滅した。
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「さ、さささ……寒い! コタツが消えて一気に寒くなったよ!」
若は慌ててライドキャリバーの元へ駆け寄り、途中で一度転んだが、なんとかブーツやコートを身にまとう。
「帰る前に、綺麗に後片付けをします」
都市伝説の少年が消えた場所へ向けて手を合わせ、しばらく黙祷していた茉莉は、片づけを始める。
「都市伝説やみんなと楽しく食事が出来たね」
満足そうに言う、樹彦。
「本当はこういう時、大人なら晩酌もするものでしょうかね」
怪我人が居ないか確認してから、片づけを手伝いつつ銀静がぽつりと言葉を零す。
「おなべしたがる都市伝説ってなんか面白いよね」
マフラーとコートを着ながら、海砂斗が笑う。
「鍋を囲んで美味しいものが次々と出て……面白かったな」
同意する永遠は、満足そうだ。
(「また……こうして鍋を囲めたら良いな……」)
碧は少年が最期に礼を言っていたのを思い出し、温かい気持ちになる。
「炬燵でぬくぬく天国、無くなっちゃったねー。寒いのは苦手なんだよねー、早く帰ろー?」
弥勒が仲間たちに声を掛け、灼滅者たちは仲良くその場を後にした。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年2月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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