遅すぎた鏡開き、鏡モッチアV登場

    作者:聖山葵

    「おかーさん、鏡餅カビてるじゃん! もーっ」
     だからさっさと鏡開きしておくべきだったんだよ、とおかんむりな子供に虫の居所が悪かったか、吐き捨てた言葉が原因だった。
    「別に良いじゃない、鏡餅ぐらい」
    「……鏡餅くらい?」
     へぇ、と洩らし反芻した我が子の態度が神経を逆撫でしたのか。
    「良いわよ、捨てれば良いんでしょ、捨てれば」
    「あ」
     飾ったままになっていた鏡餅を言うが早いか、掴んでゴミ箱にたたき込む。
    「鏡餅が……」
    「ほら、これで文句ないでしょ?」
     問題は解決したと言わんがばかりの母親だったが、それは母親側のみの話。
    「なんで……なんで捨てるのよっ、あああああっ」
     ポツリと呟いた少女のシルエットは、次の瞬間、爆発的に膨れあがり。
    「な、玲子?」
    「もちぃぃ……」
     呆然としつつもかろうじて絞り出した声に向き直る我が子だった異形は敵意の篭もった目で母親を見ると。
    「あ、あぁ……」
    「覚悟はいいもちぃな? 鏡餅をかびさせた上に逆ギレして捨てたこと、存分に後悔させてやるもっちゃぁぁぁっ!」
     眼光に射すくめられて動けない母親めがけご当地怪人鏡モッチアVは殴りかかったのだった。
     
    「確かに、鏡開きには随分遅いね」
     ポツリと呟いたのは情報提供者の貴夏・葉月(地鉛紫縁が背負うは終末論・d34472)だった。
    「一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が起ころうとしていてな」
     だが、人の意識を残したまま踏みとどまるケースのようなので、灼滅者の素質があるなら助けてきて、駄目なら完全なダークネスになってしまう前に灼滅をと言うの座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)がからの依頼だ。
    「今回闇もちぃする少女の名は、華上・玲子(かがみ・れいこ)。高校一年の女子生徒だな」
     鏡餅をかびさせた母親との口論の末、鏡餅を捨てられたことでご当地怪人鏡モッチアVに変貌した少女は激昂した勢いでそのまま母親に殴りかかるらしい。
    「反抗期も私は歓迎だが、一般人相手にダークネスの攻撃は重すぎる。拳 が届く直前の介入であればバベルの鎖に引っかからず済むのでね」
     はるひ曰くディフェンダーが介入タイミングに割り込めば母親を庇うことは可能とのこと。
    「感情にのせられて手を出してしまうものの、おそらく本気ではない。故に、母親の生死がおそらく少女を救えるかどうかを分ける」
     庇った後は、何とかして母親を避難させる必要も出てくるだろう。闇もちぃした一般人を救うには戦ってKOする必要があり、戦いは避けられないのだから。
    「現場は華上家の居間。だが、戦うなら場所を変えようと言えば鏡モッチアVは同意する。この部屋にはかびているとは言え鏡餅があるからな。場所を変えるなら建物に日開野でないこの家の庭を推薦しておく」
     また、鏡餅を差し出せば、話を聞いてくれる方向へ持って行くのは簡単だとか。
    「よって、キミ達には鏡餅を渡しておこう」
     尚、闇もちぃ一般人に接触し、人の意識に呼びかけることで弱体化させることが出来る。
    「戦いを優位に運ぶ為、狙ってみるのもいいだろうな」
     玲子が闇もちぃした原因を考えると母親に謝らせるか、愚痴を吐き出させるのに付き合うのが効果的だろうとはるひは言う。
    「最後に、戦闘になれば鏡モッチアVはご当地ヒーローのサイキックで応戦してくる」
     弱体化していれば、あっさり片が付くかも知れないなと続けると、はるひは君達に向き直り。
    「闇堕ちの危機、家庭の危機、どちらも捨て置けんのでね」
     玲子のことをよろしく頼むと君達に頭を下げたのだった。
     


    参加者
    アンディ・サイゾウ(白にして霧雨・d04097)
    黒絶・望(果てる運命にある無力な花・d25986)
    イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)
    鑢・七火(零ノ太刀・d30592)
    佐藤・一美(凍姫・d32597)
    貴夏・葉月(地鉛紫縁が背負うは終末論・d34472)
    有馬・南桜(エクスプリスハート・d35680)
     

    ■リプレイ

    ●混沌は門前から
    「鏡餅で親子喧嘩から闇堕ちか……」
     夕焼けでオレンジ色に染まるアスファルトを黒く切り取っていたイヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)の影が不意に止まった理由は次の一言で知れた。
    「あそこだったね」
    「そのはずだ」
     同じ民家を視界に収めて頷いた鑢・七火(零ノ太刀・d30592)は目的地に向け、再び歩き出す。
    (「親子と云えども気持ちの掛け違いで擦れ違いが起こる……悲劇になる前に食い止めないとな」)
     声には出さず、胸に秘めた形で独り言ちると門に手をかけ、有馬・南桜(エクスプリスハート・d35680)の方を振り返った。
    「……有馬、気負いすぎるなよ?」
    「あ、ありがとう」
     おそらく他者の応援ではなく直接エクスブレインの依頼を受け任務に望むのが初めての自身を気遣っての一言に南桜は礼の言葉を口にし。
    「鏡餅怪人……まだ実物は拝めていないけど、ディテール凄いらしいですぅナノ。イヴちゃんや有馬ちゃん、しかと目に焼き付けておくですよぉナノ?」
    「おい……」
     自分に向けての言葉なら最初に決めていたとおりスルーしようした七火もそれが南桜に向けば、親御さんから大切な娘さんを預かっている身として佐藤・一美(凍姫・d32597)の言葉は捨て置けなかったのだろう。
    「ちょっと待てよ、一美先輩」
     ただ、声を上げようとした瞬間、もうツッコんだ者が居た。
    「間に焼き付けるだけで良い訳ないだろ! 鑢兄ちゃんの嫁にスカウトするとかしないと、安産体型だったらだけど」
    「その手がありましたかぁナノ」
    「とりあえず、あの二人の言うことは真に受けるなよ、有馬」
     いや、それをツッコミと言ってよかったのやら。イヴの指摘に一美がポンと手を打つが、七火は今度こそスルーした。
    「しかし、ご当地怪人で胸囲が129センチて何処突っ込んだらいいんだ」
     一方でイヴもスルーされたことを気にせず、はるひからもたらされた情報に頭を抱えている辺り、状況は明らかにカオスであり。
    「……おしゃべりはそれぐらいにしてそろそろ参るでござるよ、各々方。拙者達で彼女を救って見せるでゴザル!」
    「そうですね。……癒しの導き手降臨。いきましょうか、望さん」
    「はい、はづねぇ」
     それでも話を纏めるべく仲間達を促したアンディ・サイゾウ(白にして霧雨・d04097)の声に応じた貴夏・葉月(地鉛紫縁が背負うは終末論・d34472)はスレイヤーカードの封印を解くと黒絶・望(果てる運命にある無力な花・d25986)を伴い中に踏み込んだ。

    ●V
    「存分に後悔させてやるもっちゃぁぁぁっ!」
     まさに殴りかかった瞬間だった。
    「天が呼ぶ! 星が呼ぶ! 月が呼ぶ! 子供達を守れと俺に言う! この刃は仲間の為! 一心不乱の情熱の為に! 拙者の名前はアンディ・サイゾウ! 只今見参!」
    「へっ」
     突然乱入してきた忍者が名乗りを上げた時、人はどうすればいいのだろうか。
    「すとーっぷ!!」
    「がっ」
    「あ」
     ご当地怪人とその母親との間に割り込もうとした葉月の声も繰り出されるパンチを止めることは能わず、あっけにとられたご当地怪人は気をとられ、母親との間に割り込んできた見知らぬ異性を殴り飛ばした。
    「ちょっ、大丈夫もちぃか? いきなり出てくるとか危ないもちぃよ」
     もっとも、人の意識が残っているからか元少女は心配そうな表情を自分が殴った相手に向け。
    「……今回の怪人はでけぇ!」
     遭遇するなり説得でも制止でもない言葉を口にしてご当地怪人の胸を凝視した灼滅者がまず一人。
    「何とか言うか……玲子先輩大きすぎる」
     二人は赤面し。
    「へへ……世界はでかいな」
    「もしや、玲子ちゃんのVなカップは血す」
     何やらしきりに頷くイヴの前方で期待を込めて視線をスライドさせた一美が遺伝子の不思議に対面して硬直する。
    「いやぁ、前のタタリガミや今回にしても闇堕者は色々やね」
     何故か突然遠くを見たのは、予想と現実が違っていたからか。
    「て、そんな場合や無かったわ。ささ、こっちににゃんだば♪」
    「えっ、あ、ちょ」
     我に返るなりまだ呆然としていた母親の手を引っ張ると、ライドキャリバーの虎鉄丸に守らせつつその場から連れ出し。
    「なっ、待つも」
    「盛大な親子喧嘩に巻き込まれたな……」
     殴られた約一名が身を起こしたのは、丁度連れ出される母親をご当地怪人が追いかけようとした時だった。
    「さて、もちぃあか?」
    「もちぃあって何もちぃ?! 鏡モッチアVもちぃ! って、それより大丈夫だったもちぃか?」
     呼びかけに抗議しつつもすぐさま話を変えてご当地怪人は己が殴ってしまった相手を気遣い。
    「ああ、それより――」
    「食べ物には魂が宿っているのです。それを捨てるなど言語道断、ですよね。さて、ひとまず鏡餅用意したので食べませんか? 愚痴くらい聞きますよ?」
    「そうでござるな、故に拙者達は玲子殿の気持ちを聞きたい! ここに鏡餅もある故まずは語っていくでゴザル」
     応じた仲間の言葉を継いだ望とアンディが手にした鏡餅を差し出した。
    「頂きますもちぃ」
     効果は覿面だった。
    「どうやらあちらはもう大丈夫そうですね。……こんにちは、お母さん」
     完全に母親から餅とご当地怪人へ対応する仲間達に注意が移ったのを確認すると、葉月は元少女の母親に向き直り、挨拶し。
    「玲子ちゃんがああなったんは、鏡餅を捨てたからなんや。あれは闇堕ち言うてな……」
     その挨拶をワンクッションにし、一美は説明を始めた、そして数分後。
    「あたしの……あたしが捨てたから」
     我が子の変貌した原因が自分にあるという事実は衝撃的だったのだろう。
    「ミスをしたなら謝りなさい……これは、子供にも教える教育上当たり前のことですよね」
     呆然とする元少女の母親にまず投げられたのは、葉月の言葉。
    「うっ」
    「黴の生えた物を食するわけにはいきませんから、捨てるのは良いとしても、逆切れの挙句ってのは、全く持って……いけませんね」
    「ぐふっ」
     呻いた所へダメ出しが容赦なく突き刺さり、現実に言う人が居なさそうな断末魔をあげるも、葉月は止まらない。
    「お嬢さんは、只今大変なことになっています。このままでは、貴方はお子さんと永遠におさらばしなくてはなりません……そうならないためにも、貴方の心からの謝罪が必要です」
    「せやで、今ならまだ間に合うんや! 可愛い我が子の為にお願いします!」
     真剣な表情で言う葉月の言葉を肯定しつつ一美が頭を下げ。
    「鏡餅は地方によって宿る神様が違うって聞くよ?」
    「へぇ、よく知ってるもちぃな」
     二人がかりで母親の説得が続いている間、場所を移したご当地怪人と南桜達残りの面々によるお餅を食べながらの鏡餅トークも続いていた。
    「私は、料理は好きなのだが、日本に鏡餅の料理は180種類あるらしいな」
    「それだけ鏡餅が愛されてるってこともちぃ。なのに、母さんは……」
    「まぁまぁ……こっちの料理もいかがですか?」
     そして、時折トークを不満や愚痴に繋げるご当地怪人を宥め、愚痴を聞き、時には料理を勧めて押しとどめ。
    「そういえば鏡餅ってどうして蜜柑を上に置くんでしょうね?」
     望が疑問を口にした時だった。
    「お待たせしました」
    「あ、はづねぇなのです」
     元少女の母親を連れた葉月達が姿を見せたのは。

    ●謝罪の後に
    「ごめんなさい、玲子。あたしが悪かったわ。本当にごめんなさい」
    「なっ」
     灼滅者達の前で散々愚痴をこぼした後だけに母親の謝罪は大きかったと思われる。
    「今更そんなこと言っても、鏡餅は」
    「鏡餅ならここでござるよ?」
     衝撃を受け後ずさる鏡モッチアVへ追撃を加えたのは、ゴミ箱から回収していた鏡餅を掲げてみせるアンディ。
    「うぐっ」
    「鏡餅ちを大切にする信心深い所はいいところだけどな」
    「玲子殿の鏡餅愛に拙者も感激でゴザル! ならばこそ拳ではなく言葉で語り合うのでゴザル」
     反論の根拠を潰され、鏡餅への思いを賞賛されたところで暴力に訴えるべきではないと諭されれば。
    「お母さんの逆切れは確かに宜しくない。でも、だからと言って貴方も切れてしまっては同じなのですよ」
    「はづねぇの言う通りです」
    「玲子殿ような美人がこの件で不幸になれば鏡餅も悲しいと思うでゴザル」
    「う、ぐ、も、もちぃぃ」
     尚も続く灼滅者達の説得に頭に手をやった元少女は呻きつつ膝をつき。
    「おのれ、もう少しの所だったもっちぃにっ」
     態度が豹変したのは、その直後。
    「玲子?」
    「下がって下さい、お母さん」
     減退する威圧感とは裏腹に灼滅者達へ向けた敵意もあらわな姿が何を意味するかは明白。
    「追い込まれ、表に出てきたようでござるなダークネス。ではあとは拙者達に任せるでゴザル、忍法ッ!」
     言うが早いか、手で印を組みつつアンディはビームを撃ち出す。
    「もちゃべっ」
    「有馬」
    「どかしこまりましたわ」
     顔面にビームが直撃し、仰け反ったのを見て聖碑文の詠唱した七火の呼び声に南桜は自身のダイダロスベルトを解き、全砲門を開放したクロスグレイブを鏡モッチアVに向ける七火の身体へと纏わせた。
    「へっ、あれなら鑢兄ちゃんもあの胸に挟まれようと問題ないな、いくぜ」
     割と不穏なことを口にしつつ帯の先端をご当地怪人に向けた誰かはそれを射出し。
    「ぢゃっ、もぢゃべっ」
     帯が乱射される光線がコンボの如く連続して元少女の身体に突き刺さる。
    「おっと、それで終わりやないで」
    「もぢばっ、もべっ」
     たたらを踏んだところで今度は霊的因子を強制停止させる結界が構築され、巻き込まれた鏡モッチアVは悲鳴をあげて尻餅をつくと突っ込んでいった虎鉄丸にはねられ。
    「そういえば闇堕ちと闇もちぃの違いってなんなのでしょうか。其の辺の知識疎くて。まぁ、やることは変わらなそうですけどね」
     望はポツリと漏らすなり鎌を構えれば。
    「そもそもチャンスですし」
     更に言葉を吐く。
    「行きますよ、はづねぇ」
     促す一言への返事は確認するまでもなかったのだろう。
    「なっ、早」
    「弱体化して、あなたの反応が遅くなっただけですよ」
     死角に回り込んだ時、元少女を挟み込むようにして反対側に立った葉月は断罪の刃を振り上げて居たのだから。
    「それに――」
    「もきゃあっ、もべがっ」
    「菫さんの事を失念して貰っても困ります」
     頭上に持ち上がっていたソレが鏡モッチアVへと落ちてきたのは、斬られた上、ビハインドの菫に霊撃を叩き込まれた直後のこと。
    「も、もっっちゃぁぁぁっ」
    「玲子ぉぉぉぉ」
     庭に二人分の絶叫が響く。
    「ど拙い状況ですわね、少しばかり」
     南桜は叫んだ母親の方をちらりと見て呟く。闇落ちについての説明はしてあるが、愛娘が攻撃されるシーンが絶賛公開中なのだ。
    「どあれで意識がお母さんの方に向かないとは思いますけれど」
     求められるのは、短期決戦だろう。そして、弱体化のなった今なら十分可能であり。
    「もちぃぃ、こんな、こんなことがっ」
    「玲子殿ような美人がこの件で不幸になれば鏡餅も悲しいと思うでゴザル、故にッ」
     蹌踉めきつつも身を起こす元少女へ、自らを手裏剣に見立て回転しつつ突っ込む忍びが約一名。
    「ぬぅぅ、くっ、もっちゃああっ」
     傷つきつつも迎え打つべく飛んだご当地怪人が一人。
    「がっ」
    「もちゃばっ」
     両者は交差し、互いにダメージを負って墜落するも、ご当地怪人への攻撃はこれで終わらない。
    「うっ、ううっ」
    「さぁ、元に戻ってもらいますよ、玲子さん!」
     再び起きあがろうとした鏡モッチアには既に望が指輪を填めた指を向けており。
    「はづねぇはアンディさんを――」
     要請と共に指輪から放たれた魔法弾は、まさに集中攻撃再開の合図。
    「ちょ、ちょっと待もちゃぁあぁぁ」
     待てと言われ、攻撃が止まる筈もない。
    「うぎ、くっ、鏡餅、のためっ」
    「イヴちゃん、どこれで決めますわよ」
     袋叩きに遭い、ズタボロになってそれでも尚、身構えようとするご当地怪人を前に南桜は呼びかけ。
    「おうっ」
    「これで」
     超弩級の一撃を繰り出すべく前に飛んだ味方の後ろから帯を射出する。
    「あ……もぢゃああっ」
     届いたのはどちらの一撃だったか。悲鳴をあげ倒れ込む元少女の肩から鏡餅が消え、縮みながら崩れ落ちると残ったのは元の姿に戻った少女だけであった。

    ●和解と門出
    「玲子先輩、いや師匠と呼ばせて貰うぜ!」
     元に戻った少女が意識を取り戻すなり真っ先に宣言し、近寄ったのはイヴだった。
    「なぁ、オレた、ぐえっ」
    「そこまでだ」
     ただ、最後まで言うより早く襟首を七火に掴まれ、つんのめったのだが。
    「大変だったでゴザルな、まずは母親とじっくり話し合うといいでゴザル!」
    「そ、そう? ありがとう」
     寡黙な七火の言わんとすることを察したアンディが口を開き代弁すれば、頭を下げた少女は母親の元へ歩み寄る。
    「親子水入らず、いいものですねぇナノ」
    「その点は完全に同意するでござるが……語尾の方はツッコミ待ちでござるか?」
     声は届かぬ物の何やら会話している様子を見て呟いた一美に頷きつつもアンディは何とも言い難い表情を浮かべ。
    「お待たせ……その、助けてくれてありがとう」
     数分後、憑き物が落ちたかのように晴れやかな顔で戻ってきた少女は若干まごつきつつもきっちりと灼滅者達へ頭を下げて見せた。
    「本当に、ありがとうございました」
     話すべき事は話したのだろう、後方の母親も灼滅者達の視線に気づくと頭を下げ。
    「これにて一件落着です。食べ物は粗末にしてはダメですよ」
    「なぁに、大したことはしてないぜ。それより師匠、良かったら学園に来てみないか?」
     一つ頷いた望が二人に語りかければ、礼に応じたイヴは手を差し伸べる。
    「学園?」
    「武蔵坂って云う、君や私たちの様な人が集まる学園があるの。興味があったら、来てみて」
    「玲子先輩が来てくれたら、わたしも嬉しいです」
     オウム返しに問うた少女へ補足したのは葉月で、南桜がこれに首肯を添え。
    「同じ鏡餅仲間もいるのですよぉナノ」
    「餅仲間?」
     更に一美がアピールポイントを上げると少女はすぐさま食いついた。
    「一美殿の言うとおりでござるよ。その餅仲間であれば一人、面識があるでござるしな」
    「そうなんだ……会ってみたいな」
     アンディの言葉が決め手となったのか、少女はポツリと漏らすと母親の方を振り返り。
    (「会ったら一波乱有りそうでござるが……」)
     元に戻って一回り小さくなったとは言え、反動でたゆんと揺れる程に大きいそれが巻き起こす問題についての懸念をアンディはとても言うことが出来ず。
    「お母さん、良いって言ってくれました」
    「ようこそ、これから刺激的な毎日が待ってますよ」
     母娘の会話を終えた少女が笑顔で告げれば、望が笑顔で歓迎の意を示し。
    「良い母親だな。大切にしろよ?」
    「はい」
    「それじゃぁ……母子水入らずでね」
    「ありがとうございます」
     七火の言葉に頷いた少女は葉月の言葉へ礼を言って母親の元に戻って行ったのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月24日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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