富士の迷宮突入戦~勝利への選択肢

    作者:叶エイジャ

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     

     琵琶湖大橋の戦いは、武蔵坂・天海勢力の大勝となった。
    「敵勢力の残党は、琵琶湖北側の竹生島に立てこもってるみたいだよ」
     天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)の話によれば、カリスマである安土城怪人を失った事で離散した者も多く、その勢力は大きく減退しているとのこと。
     加え、右腕であった『グレイズモンキー』は拠点に戻らず、献身的な活動に支持のあった『もっともいけないナース』が灼滅され、組織としての結束力はもはや無いらしい。遠からず自壊するのは間違いないようだった。
    「……反対に、白の王の勢力は大幅に強化されたよ」
     こちらは軍艦島の勢力と合流したためだ。エクスブレインとは全く違う予知能力を持つ『うずめ様』をはじめ、『ザ・グレート定礎』、『海将フォルネウス』、そして白の王と同じ『格』をもつ『緑の王アフリカンパンサー』。
     いずれも尋常ならざる力の持ち主たちだ。
     だが、多数のダークネスを富士の迷宮へと招き入れた事で、白の王は致命的な隙を生じさせてしまった。
    「『クロキバ』になった、白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)ちゃんがね、迷宮の入り口を発見したみたいなんだ!」
     睡蓮はクロキバとして、先代達の意志を継ぐべく白の王の迷宮に挑もうとしている。
     と同時に、武蔵坂学園に突入口の情報を連絡してくれたのだ。
     今こそ白の王セイメイや、軍艦島のダークネス達を討ち取る千載一遇の好機。
    「相手の力量も考えたら、本当なら総力でっ……というところだけど。迷宮の入り口の性質を考えると、一度に通過できる人数には限りがあるみたい」
     突入のチャンスは一度。この機を逃せば、再び侵入する事は不可能だ。
    「迷宮を突破して、有力ダークネスを灼滅するのは困難なことだと思うけど……やってみる価値はあると思うよ!」
     突入作戦に参加するとして、どういった結果を求めるか。
     灼滅者たちにその相談が、委ねられることとなった。
     なお、白の王の迷宮は、内部から迷宮を破壊しようとすると外にはじき出されるという防衛機構がある。
     そのため、危機に陥った場合は、迷宮自体を攻撃する事で緊急脱出が可能となっている。代わりに、迷宮への破壊工作もほぼ不可能となっているので、注意が必要だ。
    「脱出は難しくないけど、敵拠点に攻め込むには戦力はそう多くない。成果をあげるには、目的を絞るのが肝心かもしれないね!」
     白の王セイメイを灼滅できれば、クロキバとなった白鐘を闇堕ちから救出することも不可能ではないだろう。
     そんなエクスブレインの言葉を聞きながら、灼滅者たちの相談が始まった。


    参加者
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    リーグレット・ブランディーバ(ノーブルスカーレット・d07050)
    ナタリア・コルサコヴァ(スネグーラチカ・d13941)
    神宮寺・刹那(狼狐・d14143)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    夜伽・夜音(トギカセ・d22134)

    ■リプレイ

    ●朝六時ごろ
     見上げた雲が薄く明るんだと思ったあたりで、灼滅者たちは目的地に到着した。
    「ここが風穴の入り口か」
     片倉・純也(ソウク・d16862)の吐く息が一瞬白くなって消える。
     富士裾野に広がる樹海の中を一時間弱。
     今、彼らの目の前に大きな岩の裂け目が広がり、光届かぬ闇を奥に潜ませていた。
    「随分と不用心ですわね」
     簡単にそれと分かった入口に、マーテルーニェ・ミリアンジェ(散矢・d00577)が青い瞳を細める。リーグレット・ブランディーバ(ノーブルスカーレット・d07050)は炎色の髪を揺らせて、静かに同意を示した。
    「罠でなければ、セイメイが放っておくはずもないだろうな」
    「クロキバさんのおかげかもしれませんね」
     ナタリア・コルサコヴァ(スネグーラチカ・d13941)の言葉通り、セイメイを狙う今代のクロキバが何かした可能性は高い。おそらくは、軍艦島勢力との合流も関係しているのだろう。予知であった「チャンスは一度きり」もそれを補強しそうだ。
    「セイメイが何を企んでいたか、明らかにしたいですね」
     その一回を逃すまいと、神宮寺・刹那(狼狐・d14143)は気合いのこもった言葉を発した。
    「うん。ああいう手合いの企みは潰したいところだ――慎重に行こう」
     応じた白石・作楽(櫻帰葬・d21566)を先頭に、灼滅者たちは風穴へと足を踏み入れた。あまりに静かで、壁を濡らす水が、暗い闇の奥へと消える音すら聞こえてくる。
     風の音色が頬を撫ぜ、冷たい歓迎を示した。

     入口から十分ほど進んだ通路で立ち止まった。視線の先には、無数の氷柱が立ち並ぶ岩壁がある。
     エクスブレインの言では、この先が『セイメイの迷宮』につながっているとのこと。
    「ここ、確かにおかしいね」
     夜伽・夜音(トギカセ・d22134)が示した壁には、チラチラと二重写しになっているように見える箇所がある。夜音が意を決して岩壁に向かえば予想した衝撃はなく、気付けば奥に続く通路が目前に広がっていた。
    「だまし絵のような仕掛けですね」
     後に続いて侵入を果たした詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)も、迷宮を見わたす。
    「ここが白の王の迷宮……」
     確かなそれはないが、壁から感じる気配は何かが違うように感じられる。
    「敵に察知される前に、行こう」
     他班の声が聞こえた。上層に向かう灼滅者たちだ。沙月は彼らが出会うだろう闇堕ち者たちの安全を祈りながら、最下層を目指す灼滅者たちに加わり駆け出す。
     そこにあるとされる『セイメイの研究』を探るために。


    「むう、つながらないさん」
     携帯をしまい、夜音は走ることに集中する。
    「自然の洞窟じゃないからかもしれないですね」
     刹那は並走しながら応えた。
     下層へ向かってから時は経ったが、まだ最下層には程遠く、怪しい部屋も見当たらない。
     上層との連絡は絶たれたが、幸いにも下層には十分な数の灼滅者が同時に探索していた。ハンドサインである程度の意志疎通は可能だった。
     加えて、迷宮内部は適度に淡く光ってもいた。慣れれば下層への道も見つけやすい。
     今、その薄明りの向こうに集団が姿を現した。
     ぎこちなく歩く姿――アンデッドだ。
    「琥界、援護をお願いね」
     ビハインドにそう言い、作楽が除霊結界を放つ。アンデッドたちの動きが鈍り、そこに灼滅者たちの攻撃が突き刺さる。
    「邪魔だ」
     リーグレットの魔杖がスケルトンを粉砕する。彼女の背後からゾンビが襲うが、今度はマーテルーニェの足元から影が湧き立ち、それが刃となって駆け抜けゾンビを両断する。
     凛々しさと、清廉さ。戦うスタイルが違えども、どこか共通した芯を感じさせ連携する二人に、ナタリアが微笑を浮かべた。転瞬、彼女のエアシューズに炎が宿り、蹴撃が新たなアンデッドを灼滅する。
     一体一体は弱いが、アンデッドたちは頭数がある。しかしなお数が多いのは灼滅者の方だった。蹴散らされたアンデッドたちが骸へ還っていく。
     大した被害もなく、最下層へと進む灼滅者たち――異変は、そんな時に起こった。
    「妙な臭いがするな」先頭を走っていた作楽が顔をしかめる。
    「……これは、腐臭か?」
     漂ってきた強烈な生臭さに、それまであまり表情を崩さなかった純也が眉を寄せた。それほどまでひどい腐敗臭だった。
     それは下へと降りるごとにはっきりと、より強くなってくる。
    「これは、ゾンビさん? でもこんなに臭ったっけ」
     夜音が首を傾げる。迷宮にはゾンビがいるのだから、生臭さは当然存在する。
     しかし普通のゾンビは、ここまで生臭くはならない。強いゾンビほど、死後に経過した時間が長いためだ。
     現にこれまで倒してきたセイメイ配下のゾンビは、ここまでの匂いは発していなかった。
    「セイメイの研究と何か関係があるのでしょうか」
     むせかえる腐臭に、沙月は着物の袖で口元を覆う。前方を見れば、ちょうど通路が終わるところだった。
     他に道はない。
     最下層の大部屋のようだった。

     通路を抜けたとたん、一気に視界が広がる。
     光景を目にした灼滅者たちは警戒を解かずとも、驚きを禁じ得なかった。
     ――広い。
     それまでと比べて、異様に広大な空間がそこにあった。あまりに巨大な空洞は、向こう側の岩壁がどれほど離れているのか遠すぎて分からないほどだ。
     そして、そんな空間に『それら』は横たえられていた。
    「これが、セイメイの研究……なの、かな」
     刹那が見、言葉を詰まらせたのは、この空間に腐臭を蔓延させた原因だ。
     目につく限りの、死体、死体、死体。
     男、女、大人、子ども。老いも若いも関係なく、数え切れないほどの死体がどこまでも横たわって並べられている。その端は小さな点となって判別もできない。
     千や二千ではすみそうにもない。おそらく死体の数は万に届くだろう。
    「……これが……研究……?」
    「こうも理不尽に扱われなければいけないのか、一般人は」
     呆然と呟く夜音。対照的に、純也の物言いはそれまでの淡々としたものとは違い、どこか熱を帯びたものになっていた。
    「どれも、最近殺されたものばかりみたいだな」
     生臭さの理由がわかり、リーグレットの中に気持ち悪さが広がっていく。
     ここにある死者の殆どは、たった数日前まで生きていたのだ。
     死体は、そのほとんどに噛み傷が付いている。おそらく、ゾンビによって噛み殺されたのであろう。
    「生きてる者は……いないだろうな」
     作楽が年端もいかぬ子の、恐怖を浮かべた相から目を背けた。動かした視線の先には琥界が、父娘らしき遺体を見つめているのを知って、握った拳に力が込められる。今目にしているのが全体のほんの一端だと思うと、目まいとともに怒りが湧いてくる。
     親子や、兄弟姉妹や、同じ学校の級友らしき子らや教師。命を奪われた者たちの姿は、時に灼滅者の過去をすら思い出させるものだった。
    「こんなことまでする目的とは、一体……」
     マーテルーニェのこぼした言葉に、答えられる者はいない。ナタリアは静かに目を閉じ、亡くなった者たちの魂を想い、祈りを呟いた。
     そんな時だ。
     呻き声が、死体の中からあがったのは。
    「……」
     沙月が瞑目する。ここで運良く生き残りがいたと思うほど、楽観的にはなれない。
     なにより、その声は生者のそれとは大きくかけ離れていた。
     アア、アアア……。
     死体の中から起き上がった数体のゾンビに、灼滅者たちはやるせなさとともに武器を構えた。リーグレットが魔弾を生み出す。
    「せめてもの情けだ。我が手にて眠れ――」
     それが言い終わる、寸前。
     アア……。
     ア、アア、ア。
     アアアアアアア!
     呻きのような、喘鳴のような、雄たけびのような。
     最初数体かと思われていたアンデッドの産声は留まることを知らず、どこまでも広がっていく。 ついには死体にさざ波が起こり、ゾンビたちが一斉に動き出す。
     十体は二十体に、二十体は百体に、百体はさらに――。
    「ちょ、ちょっと待って。これって……」
     幾千もの死者に見つめられ、刹那が息をのむ。
    「死者の半数近くはゾンビになっていたのか」
     純也が右腕を振るい、デモノイド細胞で自らを覆っていく。
     生者へと群がるゾンビたち。空間が亡者たちの声に震えた。


     作楽の神薙刃が手近なゾンビを灼滅する。被害者たちに思うところはあったが、こうなった以上は手心を加えている余裕はない。
     だが数千体のゾンビは倒す以上の速度で集結し、迫ってくる。
    「さすがに数が多すぎるな……どうする?」
    「戦おう」
     純也がダイダロスベルトを放ち、ゾンビの足を切断していく。
    「個体の戦闘力は高くないようだ。これだけ灼滅者がいるなら、戦況はほぼ互角だろう」
     純也の言った通り、下層に来た灼滅者は十分。
     本来なら撤退必須の物量だが、やってやれないこともない。
    「私も、覚悟を決めて戦うべきだと思います」
     刹那も戦いの気配に目つきが変わる。殲術道具でもあるオーラが勢いよくほとばしった。
    「セイメイの意図は分かりません。ですがこれが企みに関わっているのなら、少しでも数を減らした方が良いと思います」
    「……確かに、ただの物量作戦にしてはおかしいですわね」
     掴みかかってきたゾンビをサイキックソードで斬り捨て、マーテルーニェもその手応えの軽さに訝しむ。
     予兆で視た者も多い『セイメイとアフリカンパンサーの会話』では、アフリカンパンサーがゾンビたちに何かを見いだしていたようだった。
     それを踏まえて、ナタリアがゾンビたちを注視するが、変わった様子は見られない。
    「でも、きっと何かあるのだと思います。戦いながら、変わった点がないかも見てみましょう」
    「こんなトコまで来てゾンビハントか。まるで戦争だな。気が滅入る」
     悠然とリーグレットは言い、惜しげもなく全力の魔弾を連発していく。砲弾のごとき魔術がゾンビを粉みじんにするも、本当に減ったのか怪しくなる光景が距離をどんどん縮めてくる。
    「……我々と戦争するダークネスの気分が、今なら分かりそうだ」
    「回復頑張るさんなの!」
    「ええ、後ろはお任せしました!」
     夜音の声援とイエローサインに押され、沙月は駆け出した。手近なゾンビに雪夜を振るって倒す。すかさずにじり寄ってきた別のゾンビに、蒼い護符を投げつけて防御壁を作り、隔てる。
     背後の気配に振り返りざま斬りつけると、お腹が妙に膨らんだゾンビの首をはねた。
    「…………!」
     それが妊婦と分かって、沙月の息が止まる。倒れたゾンビを踏み越え、児童と思しきアンデッドたちが飛びかかってきた。沙月の剣にためらいが生まれた。
     そこに横合いから、ナタリアのビハインド・ジェドが小さなゾンビを弾き飛ばす。琥界が霊障波を放ち、動く屍たちにとどめを刺した。
    「長い刻をかけ、こんな光景を生み出すのなら、許すことはできません」
     沈痛な表情のナタリアが、強い意志を瞳に宿した。
     目前の光景が再現されぬよう、不穏な未来をここで革命する。
    「未来を革命する力を!」
     直後、獣化した獣の爪がゾンビを引き裂いていく。
     ア、アアア……
     苛烈になる灼滅者たちの攻撃も、しかしゾンビたちは意に介すこともなく進み、爪や歯で攻撃をしてくる。作楽が歯噛みした。
    「セイメイ……」
     腐敗が少ない分、ゾンビたちの多くは生前の面影を濃く残している。今、相手にしているのは制服を赤黒く染めた女子高生たち。自分と同じくらいの彼女らは、本当なら普通の生活を送っていたはずなのに――。
    「琥界、今日は思いっきり暴れて」
     いつもなら軽く「今日もだろ?」というような反応をするビハインドも、今回ばかりは静かに応じていた。作楽も無言のまま武器を振るう速度を上げた。
    「戦闘は、好きだけど……」
     いつもより高揚感少なく、刹那が拳を繰り出した。ゾンビたちは生前とさして変わらぬ姿に加え、首筋などに見られるゾンビの噛み傷が痛々しく、目に焼き付いてしまう。手応えもまたダークネスや眷属戦とは違って、どこか後味の悪いものがあった。
     彼らを流れ作業として『処理』していくのも、刹那にとって高揚しない要因だった。
     それでいて、途切れることのないゾンビたちの攻撃は、灼滅者たちに少しずつダメージを蓄積させていく。
    「くっ……!」
     刹那の腕をゾンビの爪が裂いた。そのまま掴みかかろうとするゾンビを蹴って、刹那が距離を取る。ゾンビは打ちどころが悪かったのか、首を妙な方向に曲げたまま動かなくなった。
    「え――」
     刹那が一瞬、妙な感覚に囚われて言葉をこぼす。自分でも分からないその感覚は、さまよわせた視線の先、純也と目が合って解決した。
    「今のって」
    「俺も見た。サイキックを使ってないのに倒せたな」
     純也がうなずき、手近で弱っていたゾンビを殴りつける。ただの素手による攻撃はゾンビを吹き飛ばし、その活動を停止させた。
    「どういうことだろう……?」
    「分からない」
     刹那と純也は短く言葉を交わしたあと、ゾンビたちの襲撃を慌てて回避した。まだどこもかしこも血戦が行われており、今の現象に気づいている者が果たしてどれだけいるのかも分からない。
     周囲を観察しながら、純也の目はゾンビになっていない死体へと向いた。
    「そういえば、死体の半数は普通の死体だった」
    「うん、そうですね。順番に並べていたってわけでもなかったし……ゾンビと普通の死体とに、違いはあったのでしょうか」
     刹那も目を走らせる。ゾンビも死体も殺された傷があるのは同じだが……。
    「ゾンビとなっていない死体の傷の共通点は……うーん、撲殺された死体が多いくらいでしょうか」
     それ以上は、この乱戦での確認は難しい。
    「何か理由があるのかもしれない」
     糸口は見えたが、ゾンビはまだたくさんいる。夜音の回復だけでは間に合わず、沙月が回復に入る。それでも、ゾンビの掃討とこちらの全滅のどちらが早いかはまだ分からない。手数の差が、だんだんと灼滅者たちの体力を削っていく。
    「今は、とにかく数を減らそう」
     純也がそう言って、クロスグレイブから光条を、刹那が腕を鬼へと変化させて攻撃を続行した。
     その後、数十分以上戦い続けたところで、迷宮に激震が走った。


    「なに……!?」
     ちょうど、殆どのゾンビを灼滅し終えたところだった。迷宮全体を揺るがす震動に、リーグレットが油断なく視線を飛ばす。
    「何か起こるのか?」
    「あ、携帯がつながったよぉ!」
     夜音が声を上げ、連絡内容を確認する。
    「緊急連絡さん! セイメイを倒したみたい!」
    「では、この揺れもその影響ですの?」
     マーテルーニェの推測は、すぐに現実のものとなった。
     一向に収まらぬ揺れに、空洞の天井から崩れた岩が降り出してきたのだ。
    「えっと……迷宮が崩壊するみたいだねぇ」
     夜音が続く連絡で確定させる。
    「すぐ脱出しよう」作楽が言った。「完全に崩壊するまで、転移は可能と信じたいところだ」
    「行きます」
     壁に近かったナタリアが岩壁へと攻撃を行う。
     転瞬、灼滅者たちの空間が歪み、視界が波立ち闇に包まれる。
     そして気づいたときには、暗く静かな空間に立っていた。
    「――ここは、学校でしょうか?」
     沙月が周囲を見まわす。非常ベルの赤い光に椅子や机が浮かび上がって見える。教室のようだった。不思議なことに、他のチームの気配はまったくしない。
     代わりに、
     ア、アアア!
    「俺たちと一緒にきたのか」
     机の間から起き上がった数体のゾンビに、純也と刹那が再び武器をとる。
    「もう、お眠りなさい」
     先んじて、マーテルーニェの影がナイフと化して伸び、ゾンビの一体を斬り裂いた。

    「とにかく、みんな無事で良かったの」
     ゾンビを灼滅し終え、夜音が大きく息を吐く。
    「セイメイの真意は分からなかったけど、灼滅出来たから結果オーライ、かな」
     刹那の言葉に、純也もうなずき同意を示す。作楽が呟く。
    「もう、あのような光景を見なくて良いと思いたいが」
    「そう、ですね……」
     沙月が目を閉じ、富士の地下深くに埋まった死者たちを想う。ナタリアがその手に触れ、励ますように微笑みかけた。
     そう。色々あったが、仇敵ともいえる白の王を灼滅出来たことは大きい。
    「やれやれ、こんな長丁場になるならティーセットの一つでも持ってくるんだった」
     リーグレットが、マーテルーニェにそう愚痴る。マーテルーニェは静かな口調で返した。
    「良い案だけれど、染みついた臭いを消してからにしたいですわね」
     全員の顔つきが変わった。
    「い、ESPさんを使うの!」
     夜音の言葉に反対意見は出なかった。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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