「猫が集まる公園があるみたいなんだ」
嬉しそうな笑みを見せながら、みんなに話しかけたのは葉純・須凰(大学生神薙使い・dn0136)だった。2月22日と言えば、にゃー、にゃー、にゃーな猫の日だ。
なぜ突然猫の日なのかと言えば、猫の可愛らしさに目覚めてしまったらしい。そんなわけで、猫が集まる公園への遊びのお誘いだ。
公園の敷地は広く、至るところに猫がいる。芝生で日向ぼっこしてうとうとしている猫たち、林の小道で風に吹かれて舞い上がる木の葉にじゃれついている猫たち。
噴水の周りには、その愛らしい舌で水を飲む猫たちもいる。さらに人懐っこい猫が遊んでもらおうと擦り寄ってくる。
まさに猫好きには堪らない、猫天国なのだ。特にご機嫌な日中の暖かい時を狙って遊びに行こうと思う。
もちろん猫がいなくとも素敵な公園なので、猫目的じゃない方も大歓迎だ。季節がら少し寒くはあるが、芝生でのピクニックや林の小道での散歩ができる。
青々とした林に囲まれるのとは少し違った、独特な雰囲気の散歩を味わえるだろう。
「たくさんの猫と遊べるなんて幸せだよね」
思う存分に猫と戯れる予定の須凰なのだった。
●
「やーいい天気だね」
ごろごろには持って来いと城・漣香が体を伸ばす。しかし月影・静夜はそんな漣香を見て突っ立っていた。
ごろごろするってどうするんだ……?
「ほらほら、寝っ転がればいいんだよー」
昼寝中の猫の隣にだらんと寝転んで見せる。
「寝っ転がる……?」
まぁ、試してはみる、が……と静夜が横になる。けれど気を休めるということに慣れていないせいか、力んでしまう。
「駄目だ、難しい!」
そんな静夜の隣で、漣香は猫の首を撫で回している。動いていないと落ち着かなくなった静夜が、魔法の粉をこっそり漣香にかけてみる。
「……ん? さっきよりも数が増え……いや圧倒的に……増えて……」
粉をかけられたとは知らずに、漣香が戸惑う。
「ちょっまっうおあー!?」
飛びついてくる猫たちに、漣香が悲鳴をあげる。そんな様子に静夜が暗黒微笑みを浮かべた。
静夜の究極の楽しいという表情なのだ。
「……なんだ、静夜さんごろごろできてんじゃん」
猫は可愛いと優しくあやしている。動物には甘いのだ。
「たまには優しくていいんだよ?」
言われた静夜が不思議そうに首を傾げる。
「貴方にも優しいだろう」
無自覚な静夜の腹黒っぷりに、漣香の肩が落ちる。
「漣香さん。俺は……貴方の友達だろうか?」
「当たり前じゃん、何言ってんの?」
きょとんとする漣香に、だったら良いんだと静夜が返す。
「またどっか遊びにいこー」
「あぁ。……また」
明るい漣香の声に、静夜が頷いた。
「わ、わ。猫さン、沢山! 猫さン楽園…!!」
駆け出した壱寸崎・夜深の後を追って、塵屑・芥汰も芝生に足を踏み入れる。春に向けて風も日差しも暖かくなってきた。
さらに愛らしい猫たちと、隣には夜深がいる。とてもぬくもる幸せな一日になりそうだ。
「ふふ。幸福、一日。間違イ無、の! 用手招呼!」
両腕を広げて猫を抱き上げてなでなでする夜深も、同じことを思っているようだ。シートを敷いて横になると、猫が近寄ってくる。
人慣れしているのか、近づいても逃げる様子はない。柔らかそうな猫のもっふりお腹に、芥汰は顔をうずめた。
ひだまりのいい匂いがする。そんな芥汰の様子に、思わず夜深の唇が少しだけ尖った。
でも寛大に、猫が相手だし、焼きもちしない、良妻になるのだと我慢する。
「夜深もほら、一緒に寝よ」
「!! 一緒、寝ル!」
尖っていた唇がすぐに弧を描いて、嬉しそうに隣にころりと横になる。さらに猫のように芥汰に擦り寄った。
増えていく猫に伴って、温かさも増して……。二人で猫のように自由気ままにあくびして転がる。
「んん……幸福、ネ?」
うとうとしながら、ふにゃりと夜深が笑う。そのまま瞳が閉じてしまった夜深に、芥汰が子守唄を口ずさむ。
夢にまで響く恋の歌を……。
「えへへ。だいすき……」
柔らかな寝息と共に、夜深の甘い声が芥汰の耳に届いた。
「こちらでございます」
猫の集まっている心地よい場所に、片桐・巽は織部・霧夜を案内した。言われるままに座った霧夜が、擦り寄ってくる猫たちを撫でる。
そんな霧夜にお茶をお出ししようとしていた巽の動きが止まった。膝を付き、身を屈めた途端に猫に飛びつかれたのだ。
右肩に重みが乗ったと思ったら、今度は膝の上に別の猫がよじ登っている。思わず困った笑みを浮かべて、霧夜を見た。
「……お隣宜しゅうございますか?」
言いながら、動けないのでと巽は心の中で言い訳を付け足す。霧夜もまた、座る許可を求めたのは初めてだなと思いながらもただ小さく頷いて応えた。
隣に座った霧夜が、肩に乗った猫を抱き直して手袋を外した。そして喉や耳の裏など、猫が喜ぶ場所を撫でてやる。
心地よさそうに目を細める様子に、ふと巽は顔を上げた。
「霧夜様も猫姿の時は、撫でると心地良い場所は同じなのですか?」
「……さあな」
執事である巽からの問いに少し悩んだ後、霧夜は答えをはぐらかした。そして小さめな猫を巽の頭に乗せた。
身動きを完全に停止した巽の様子に、口元に笑みが浮かべる。
「今度確かめてみるか?」
動けませんと言おうとしていた巽は、その言葉と表情に目を丸くする。
「……是非。リラックスして頂けるように頑張ります」
素直ににっこりと笑った巽に、霧夜は小さく笑い声をあげた。冗談で口にしたつもりだったのだが……。
「楽しみにしているとしよう」
●
よじ登ってきた猫を抱き上げながら、御神・白焔はたくさんの猫を眺めた。猫たちは元気で、見ているだけで幸せな気持ちになれる。
「そっちにいきましたよー!」
そんな白焔に綾町・鈴乃が手を振っている。
「そっちにも行ったぞ鈴乃」
白焔の声に瞳を輝かせた鈴乃が猫を追って走り出す。
「逃げないで欲しいのですー」
猫に夢中になっている鈴乃も実にかわいいと思っていた白焔の瞳が微かに見開いた。
「あっ」
鈴乃から驚きの声が上がる。夢中になりすぎて猫しか見ていなかったせいで、ぼうっと猫が行ったり来たりするのを見ていた七六名・鞠音にぶつかったのだ。そのまま鈴乃が押し倒す形で転がる。
「……大丈夫ですか?」
自分の胸に顔をうずめている鈴乃に、鞠音が声をかける。
「すずのは大丈夫なのです」
鞠音の胸が柔らかかったおかげでノーダメージとは口に出さない鈴乃だったが、じーっと見られて恥ずかしくなってくる。赤くなる鈴乃を見て、鞠音が首を傾げた。
「皆が仲良しで嬉しいけど、怪我しないように気を付けて」
いつの間にかそばに来ていた白焔を二人で見上げる。そんな様子をうっとりと見つめながら、お弁当の準備をしていた色射・緋頼が声をかけた。
「足元、気を付けてね。猫とか踏まないように」
少しだけ二人に注意してから、緋頼が微笑んだ。
「お弁当にしようか」
並べられた重箱の中身は緋頼の手作りだ。
「えと、ここでいいのです?」
転んだ流れのまま、なぜか鈴乃は鞠音の膝の上にいる。問題ないというように頷く鞠音に少し遠慮しつつも、頂きますをする。
「とても美味しいのですよっ」
「美味しい。良いお嫁さんになるぞ」
「……おいしいです。こういう時は、また腕を上げた、といえば良いのでしょうか?」
膝の上にいる鈴乃が羨ましいなと思っていた緋頼が、三人の言葉に顔を上げた。それぞれの美味しいという言葉が嬉しい。
「ありがとう。白焔のお嫁さんにいつなっても良いように練習してるの」
嬉しい気持ちそのままに、緋頼は白焔の頬にキスをする。そのキスが嬉しくて、白焔も頬にお返しのキスをした。
その後は、白焔がけしかける猫たちと戯れて、穏やかな時間を過ごすのだった。頭上から白焔に猫を乗せられた鞠音が上を向いてにゃーと鳴いた。
「写真を撮らせてくれないかな?」
クラシックカメラを構えた無道・律が、木の葉にじゃれて転がったっまま停止した猫に声をかける。控えめに頭から背、そして尻尾に指を滑らせた。
優しい声とその指に、猫が気持ちよさそうに目を細める。
「君は可愛いね。とても美人に写ってるよ」
どの猫も個性的で魅力があって、律を惹きつける。興味が移ろいやすいのも、可愛らしく見える。
褒めながらシャッターを切る律に、だんだんと猫が近づいてくる。ふと気づけば周りに猫が来て、その手で律を誘う。
膝を開けると、嬉しそうに乗ってきた。
「やぁ、来たの? 撫でていい?」
柔らかく笑った律の声ともふもふの温かさが、冷たい風すら忘れさせるのだった。
●
「猫が集まる公園というか、猫が集まる為の公園ね」
全部を見て回りたいところだが、よりゆったりできそうな林を目指しながら鳳・紗夜は呟く。芝生に林、流れる水……場所によって性格的な傾向もあるのだろうか。
林の中で、自分とちょっとした荷物が置ける位のスペースを見つけた紗夜がシートを敷く。程よく林の中が見渡せて、木もれ陽も楽しめそうだ。
毛布に魔法瓶の紅茶、軽食と共に森林浴気分でのんびりする。人懐こいせいか、さっそくというように寄ってくる猫をそっと撫でた。
構ってもらえるとわかったのか、紗夜の膝の上に乗ろうとしてくる。
「一緒に遊んで欲しいのかしら?」
優しく問いかける紗夜に、猫が甘えた声をあげた。
「括は、寒くない?」
日中とはいえ、まだ冷えが残る雨水の頃だ。そっと花宮・括の指に触れて、見崎・遊太郎が驚きの声をあげる。
「って、指がすごく冷たいね」
人もいないし、手をつないで歩こうかと手を差し出した。
「! 手つなぎたいデス」
指が冷たいから逆に遊太郎が冷えてしまわないかと、少し遠慮がちに括が手を重ねる。温もりが伝わってきて、自然と括の口元が緩む。
「ふふっ、猫って可愛いよねぇ」
同じように柔らかな笑みを浮かべた遊太郎が猫を褒めている。確かに猫はまぁまぁ可愛いとは思う括だ。
でも人狼だからなのか、括は犬派なのだ。けれど遊太郎は楽しそうだ。
「ねぇ、括もそう思わない?」
嬉しそうに自分を見た遊太郎の様子に、猫より遊太郎が一番かわいいと言ったら拗ねてしまうかと首を傾げた。同時に繋いでいた温もりが離れて、遊太郎が木の後ろに消えてしまう。
自分もちょっと猫を撫でてみようかと、括が丸くなっている子に近づいた。全く動かない。
ヒゲをちょこっとひっぱってみても起きない。警戒心ゼロだ。
「あったかい、ふふ、猫カイロだね」
その間に手懐けたのか、猫を抱いて遊太郎が戻ってくる。遊太郎の方に振り返った括は、ぱちぱちと瞬きしていた。
「……隙あり!」
鼻に冷たい感覚、視界に猫の顔。
「猫と鼻ちゅー……?」
きょとんとする括が可愛くて、遊太郎は笑う。猫以上に、括の存在に癒されているのは秘密なのだった。
日当たりのいい場所にごろんと横になった諸星・千聖がうとうとしていると、視界いっぱいに猫の顔が広がる。
「先輩みてみて!」
思わずマギー・モルトに声をあげて、手を伸ばす。
「ほら、かわい~っ」
しかし大きな声に少しだけびっくりした猫は走って行ってしまう。しょんぼりする千聖にマギーが声をかけた。
並べられたお弁当に気を取り直した千聖の表情が再び輝く。今日一番のお楽しみ、マギーの手作り弁当なのだ。
「わぁ、どれもおいしそっ」
頂きますと声をあげて、サンドイッチをぱくんと一口食べる。すると千聖の表情がふにゃーんととろけて幸せそうににやけていく。
「千聖には前にクッキーを作ってもらったから……お返し」
誰かと食べるために作るのは初めてで、疲れてしまったマギーだ。でも誰かの事を思いながら作るのはとても幸せだった。
「先輩も一緒に食べたらもっとしあわせですっ」
頑張って作ってくれたんだと思うと、本当に嬉しくてしょうがない千聖だ。そんな千聖のおかげで、普段よりマギーも美味しく食べられる。
「猫さん達は具合を悪くしちゃいけないから」
美味しい匂いに集まってきた猫に、マギーが用意してきた猫缶を差し出す。さっき行ってしまった猫も、そーっと近づいてくる。
マギーにならって、千聖が猫缶を差し出すと嬉しそうに食べ始める。
「かわりにちょっと抱っこさせてくれる?」
マギーが猫を抱き上げると、他の猫も擦り寄ってくる。
「……ネコ、やきもちは焼かないのよ」
なでなでしてあげるからと言うマギーの隣で、気づいたら千聖も猫に囲まれている。
なにこれもふもふ天国……!? 気づいたときには千聖にも猫がよじ登っているのだった。
●
霊犬のたまと一緒に魔法の粉をかけてもらった紅・なこたがダッシュをかける。誘われた猫たちがだんだんと増えて、いつの間にかかなりの猫がなこたを追っていた。
遊具を軽業でひょいひょいと越えるなゆたに、だんだんと追いついて来た猫たちが体に飛びついていく。
なこた号と化して乗車した猫を運ぶなこたは、そこはかとない笑顔を浮かべる。そして芝生で日向ぼっこする須凰に突撃した。
「うわっ!」
猫たちとなこたのダイブに驚いた声があがる。
「あのね。実は2月22日僕の誕生日なのです」
本当の誕生日は覚えていない。だから好きな数字を登録しただけの誕生日だ。
それでもなこたには特別な日で……。
「お誕生日おめでとう、なこた」
須凰の言葉に、たまと猫たちを抱きしめる。
「素敵な時間をありがとうですよ」
そう言って、なこたがふわりと笑った。
噴水の淵に座った唯手・聖香の膝で、猫が喉を鳴らす。猫用おやつがだいぶ気に入ったようだ。
「ふわふわだ……」
撫でてやると、さらにゴロゴロと音を立てる。やっぱり今日来て良かったと思って、微かに笑んだ。
けれどすぐ少し悲しそうな笑みになる。聖香の心を占めるのは、片思いの人。彼もこの公園に来ているのだ。
「本当は一緒に居たかったな……」
呟いた聖香に顔を上げた猫が首を傾げる。そんな猫に癒されて、温もりを求めて猫の背を撫でた。
水のそばだからか、空気は冷たい。けれど日差しは暖かく、寝不足気味な聖香の眠気を誘う。
「っは?! あ、危なかった……」
気づいたらうとうとして、びしょ濡れになりそうになった聖香だった。
「二人でお出かけは、初めてだね」
神代・蓮が作ってくれたお弁当を前に、シャオ・フィルナートが呟いた。自分に合わせて少量で作ってくれているのがわかる。
代わりにシャオはデザートを用意した。いちごとアイシングクッキーだ。
「折角だから、猫関係でまとめてみたんだ」
いちごはチョコチップとつまようじでネズミ型。クッキーは猫の形。
「……口に合えば、いいんだけど……」
自分はあまり食べられないから、少しでも蓮に喜んでもらえたら嬉しいと思う。可愛らしいデザートをシャオが用意してくれたと思うと、自然と蓮の口元が緩む。
「抱っこしても、いい?」
そばに寄ってきた猫に、シャオが優しく問いかけて手を伸ばす。猫を見ると懐かしくもあり、寂しくもなる。
なるけれど、蓮の前では悲しい顔を見せられない。了承するように、手に頭をコツンとされて抱き上げる。
「……ふふっ……かわいいね、蓮さん」
誘ってくれてありがとうという気持ちを込めて、シャオが蓮を見るのだった。
公園を出る前に、蓮は足を止めて猫のぬいぐるみを差し出した。シャオがクラブで変身したサファイアの瞳の黒猫がモデルだ。
そこに溢れるほどの癒しの力を込めながら作ったのだ。
「分かるまでずっと待ってやるから」
蓮が告白の返事のことを言っているのがわかって、シャオはもらったぬいぐるみを強く抱きしめる。そんなシャオに、繋いだ手から自分の愛がどんなものか伝わったらいいのにと思う蓮だった。
作者:奏蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年2月22日
難度:簡単
参加:20人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 7
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