富士の迷宮突入戦~目指すのは何か

    作者:雪神あゆた

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     
     教室で、姫子は灼滅者たちに説明を開始する。
    「琵琶湖大橋では、武蔵坂学園と天海大僧正側の大勝利。
     安土城怪人勢力の残党達は、本拠地であった琵琶湖北側の竹生島に立てこもっていますが、カリスマ・安土城怪人を失った事で離散した者も多く、勢力は大きく減退してしまいるようです。
     更に、安土城怪人に次ぐ実力者であった『グレイズモンキー』が拠点に戻ってこなかったこと、中立的な立場ながら、献身的な活動で支持されていた『もっともいけないナース』が灼滅され、組織としての結束力も無く、遠からず自壊するのは間違いないでしょう。

     逆に、軍艦島勢力は白の王に合流。白の王勢力は大幅に強化されました。
     エクスブレインとは違う予知能力を持つ『うずめ様』、現世に磐石の拠点を生み出せる『ザ・グレート定礎』、ソロモンの大悪魔の一柱『海将フォルネウス』、そしてセイメイと同じ『王』の格の『緑の王アフリカンパンサー』。
     彼らは、白の王セイメイのこれまでの失策を補って余りある力を持つでしょう」
     けれど、姫子の目には希望が宿る。
    「が、多くのダークネスを富士の迷宮へと招き入れため、白の王に致命的な隙ができました。
     結果、富士の樹海で探索を続けていた、クロキバが、迷宮の入り口を発見したのです。
     闇堕ちしクロキバとなった、白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)は、先代達の意志を継ぎ、白の王の迷宮に挑もうとしています。
     クロキバは同時に、武蔵坂学園へこの突入口の情報を連絡して来てくれました。
     今こそ、白の王セイメイだけでなく、田子の浦の戦いで、討ち取れなかった、軍艦島のダークネス達を討ち取る千載一遇の好機となるでしょう。
     また、白の王セイメイを灼滅できれば、クロキバとなった白鐘さんを闇堕ちから救出することも可能だと思われます」
     姫子は灼滅者たちの目をじっと見つめ、補足する。
    「残念ながら、白の王の迷宮の入り口を通過できる人数には限りがあり、全軍で攻め入る事はできません。
     そのうえ、この機を逃せば、再び侵入する事はできなくなります。
     なお、白の王の迷宮は、内部から迷宮を破壊しようとすると外にはじき出されるという防衛機構があるようです。
     そのため、危機に陥った場合は、迷宮自体を攻撃する事で緊急脱出が可能となっています。
     この防衛機構により、迷宮への破壊工作もほぼ不可能、その点は注意してください」
     姫子はまじめな表情で続ける。
    「緊急脱出が可能とはいえ、迷宮を突破し有力なダークネスを灼滅する事は難しいです。が、挑戦する意義はあるでしょう。
     参加する灼滅者の皆さんは、どういった結果を目指すか相談し、作戦をまとめて突入してください」
     お願いします、と姫子は頭を下げた。
     顔を上げ姫子は言う。
    「これまで様々に暗躍してきた白の王。その喉下に牙をつきつける今回の作戦は、非常に重要な作戦と言えます。
     迷宮からの脱出は難しくありませんが、反面、敵拠点に攻め込むには戦力は多くありません。成果をあげるには、目的を絞る事も必要かもしれませんね。
     皆の健闘をお祈りしています」


    参加者
    神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)
    忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)
    上名木・敦真(大学生シャドウハンター・d10188)
    クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)
    影守・討魔(演技派現代忍者・d29787)
    七那原・エクル(ヒロイック魔導探偵・d31527)

    ■リプレイ

    ●探索の先に遇う者
     壁や床がぼんやり光っている。ここは迷宮の中。樹海より潜入した灼滅者たちは、今、上層めざし、歩いている。
     慎重な足取りの灼滅者。無線や携帯電話は通じないときづいたが、怯えた様子などみせず前へ。
     ふいに、最後尾の上名木・敦真(大学生シャドウハンター・d10188)が止まる。
    「後ろから足音がします。音からして、私たちに気づいてなさそうです……」
    「なら、そこに隠れよっかー」
     最前列の高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)が、前方の岩を指す。
     八人は岩陰に隠れ、息を潜めた。灼滅者のすぐ横をゾンビが通過し、前方に消える。
     ゾンビたちが十分に離れたのを確認し、灼滅者は前進を再開。
     行き当った三叉路では、忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)が「右側の道から、腐臭がするわ」と指摘。
     影守・討魔(演技派現代忍者・d29787)が自作の地図を見つつ指示。
    「なら、迂回だ。少し引き返して、分かれ道から先に進もう」

     迷宮内のゾンビの数は多い。が、灼滅者は接近を事前に察知。隠れ、迂回し、的確に動くことで、戦闘を回避。着実に進む。
     探索開始からしばらく経過し。神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)が口元に指を当て、「(静かに)」と指示、「(あそこを)」と目で前方を示す。
     人影――定礎怪人らしき者が前方の十字路を横切っていたのだ。
     七那原・エクル(ヒロイック魔導探偵・d31527)は「(先行偵察をするから待ってて~)」と仲間に合図。
     空飛ぶ箒で、怪人を尾行。角を右に折れ、直進、今度は左に曲がり……そして、エクルは目を見開く。
     前方には、広い空間があり、そこに七体の定礎怪人、そして巨体に巨大な定礎石の頭部の、グレート定礎が、いたのだ。彼らは穴を掘っている。
     エクルは音を立てずに、道を引き返す。
     一分後。戻ってきたエクルから報告を受け、鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)は仲間の瞳をじっとみる。
    「他の班は近くにいないようですし、連絡も取れない。でも……ボクたちがグレート定礎と戦うことで、他の戦場の邪魔を止めれるかもしれません」
     音々に、皆が賛同。
     音々は仲間と、エクルが教えくれた道を行き、グレート定礎たちのいる空間の入り口にたどり着いた。

     クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)の目には強い意志。
     クリミネルは、仲間たちとともに、グレート定礎たちに近づく。
     はたしてグレート定礎や手下たちはクリミネル達に気づいた。顔を灼滅者に向ける。
    「ほう……灼滅者か。八人だけのようだな」
     驚いたような感心したようなグレート定礎の声。
    「ただの八人で我の相手をしようとは、つくづく勇猛よ。その気骨、評価しよう。――皆、控えよ。この者らは我が一人で相手をする」
    「かしこまりました!」
     グレート定礎が言うと、手下たちは速やかに、灼滅者やグレート定礎から遠ざかる。
     灼滅者を見下ろすグレート定礎。
     巨体を前に、クリミネルはたじろがない。
    「余裕やな。けど、うちらかて全力でいったる」
     鋼鉄製のクロスグレイブ-改-『鈍色の墓碑(グレイブ)』を振りかぶる。

    ●グレートへの挑戦
     クリミネルは走る。敵の足を潜り抜け、ジャンプ。「まずは一撃や!」相手の背中へ半獣化した腕を叩きつける!
     振り返り、定礎と書かれた頭部をクリミネルに向けるグレート定礎。
     その巨体を、麦、音々、討魔が取り囲む。
    「聞きたいことがあんだよねー。日本のガイアパワーに愛はあるだろ? アフリカンパンサーの簒奪、どう思ってんの?」
     と飄々とした口調で麦。音々は悩ましげな表情を作り、
    「うずめ様に手を貸すのはどうしてですか?」
     討魔は、
    「なぜ、いま動いた? お前の正義は何だ? なんのために戦うのだ?」
     二つ目と三つめの問いに、力を込めて問うた。
    「黙れ」
     帰ってきたのは、低く重い声。
    「そして聞け。我等ご当地怪人の目的は一つ、グローバルジャスティス様に栄光あれッ!!!!」
     グレート定礎は右腕――ハンマーの形をした腕を床にたたきつける。
     床が揺れ、さらに、床のそこかしこから黒いガスのような怨念が出現。
     怨念にまとわりつかれ、クリミネルは顔を歪めた。麦もその場に膝をつく。
     麦は膝をついたまま、清めの風を発動。前衛に取りつかんとする怨念を払った。
     さらに、音々もムラサキカガミを呼び出す。「皆しっかり!」言霊と紫煙を出現させ、前衛の傷を癒す。
     グレート定礎は再び腕を振り上げていたが、討魔が跳んだ。グレート定礎の膝めがけ、足裏で蹴りつける!
     白金は体を捻る。マフラーが靡いた。
    「いい機会だ。どの辺がぐれいとなのか見極めてやろう」
     白金は指先から伸びる鋼糸をグレート定礎の足に括り付ける。強引に足を動かそうとするグレート定礎に、敦真が告げる
    「畳みかけます。体勢を立て直す暇など与えませんよ」
     敦真のベルトが急速に伸びる。先端が槍の如く定礎の腹を突いた
     全身全霊を一撃一撃に込める灼滅者。
     それでも、グレート定礎は止まらない。右腕が床に突き刺さる。
    「ザ・グレート大噴火!」
     床の一部が赤く変色し――そして、マグマの塊があふれ出た。マグマは灼滅者前衛を襲う。エクルもマグマに肌をやかれ、激痛に歯を食いしばる。
     さらに追い撃ちの構えをグレート定礎は見せる。
    「ザ・グ……」
    「させないわっ」
     玉緒が敵との距離を一気に詰める。敵の足へ糸を繰り出す。糸で肌と防具を裂く!
     エクルはいまだ激痛を感じていたが、玉緒の奮闘に奮い立つ。仲間の回復を信じ、
    「弾幕をはるよ」
     拳を突き出す。魔法の矢を玉緒がつけた痕めがけ、放つ!

    ●連携、全力、そして……
     麦と音々が前衛と後衛から必死の治療にあたる。敦真も仲間を庇い戦線を支えた。
     討魔や白金が着実に攻撃を当て、玉緒が敵の死角から攻撃を放つ。
     クリミネルやエクルも激しく己の肉体と武器を振るった。
     グレート定礎の体に少しずつ、傷が増える。
     敦真は攻撃に転ずる。敵の眉間に指先を向ける。息を吐き、精神を研ぎ澄ます。そして、制約の弾丸!
     敦真の魔力が、グレート定礎の頭部に命中。かすかではあるが、敦真の魔力は石にひびを入れていた。敦真は叫ぶ。
    「クリミネルさん、今です!」
    「了解や! おおおおおおっ」
     答えたのは、クリミネル。両腕を広げる。グレート定礎の足を掴み、持ち上げた。
     クリミネルは強引に巨体をひっくり返す!
     巨体は仰向けに倒れた。もうもうと起こる土煙。
     土煙の中、エクルが腕を持ち上げた。倒れた巨体の方向にガトリングガンの銃口を向ける。
    「絶対に当てる!」
     エクルは弾丸を放つ。さらに放つ。大量の弾丸を、巨体へ叩きこむ!
     攻撃は確実に命中している。灼滅者数名の顔に希望が浮かんだ。
     しかし。
    「我が力はいまだ絶えず――ザ・グレート大震撃!」
     重い声。同時に仰向けになったままのグレート定礎の右腕、ハンマー型の手が地面を叩いた。
     一瞬後に、敦真とクリミネルが、宙に浮かぶ。頭から壁に突っ込んだ。
     グレート定礎が起こした衝撃と怨念に吹き飛ばされたのだ。
     仲間を守らなければ、との想いからか、敦真は立ち上がろうとするが――できない。仲間を庇っていたこともあり、傷が深すぎた。敦真は倒れたまま、目を閉じる。
     グレート定礎は立ち上がろうとしていた。
     玉緒は背筋を震わせた。
    「(強いわ。八人じゃとても勝てない。でも、これが他の有力敵と合流したら……一分でも多く足止めしないと)」
     玉緒の背筋の震えが止まる。立ち上がったばかりの定礎を、青の瞳で見据える
     玉緒は鋼糸をつけた手を振る。が、それはフェイント。玉緒の足元で影が動き、立体化する。玉緒は影をグレート定礎へ噛り付かせる。
     定礎は足元に顔を向けた。その定礎へ、討魔が跳びかかる。
    「流石は揺るぎなき偉大な定礎の化身よ。けれど、私たちとて簡単に退くわけにはいかない」
     討魔はグレート定礎の足を踏み台にして、さらにジャンプ。胴へ肩へ移動。そして炎の蹴りをグレート定礎の顔面へ!
     さらに、白金が敵の前に立つ。
    「そうだ。たしかにぐれいとだったが、それでもただ降参はできない」
     普段の口調を崩さない、白金。
     白金の手がしなやかに動く。糸が伸び、グレート定礎の首に絡みつき、締め付ける!
     中衛や後衛の仲間が、必死に足止めの攻撃を行っている傍らで、麦はfirst sunriseを嵌めた手を、特に傷の深いクリミネルにかざす。光を浴びせた。
     光に込められた麦の力が、クリミネルを癒す。
     さらに、音々も弓を引く。清浄な魔力で麦の傷を癒し、彼の体にとりつかんとした怨念を消し去った。
     攻撃の妨害と、回復とで灼滅たちはさらに少しの時間を稼ぐことができた。
     しかし、
    「ザ・グレート大震撃ッ!!!!」
     グレート定礎のハンマーがまたも床を震わせ、灼滅者前衛を吹き飛ばした。
     衝撃に飛ばされ、クリミネル、エクル、麦は、それぞれ床に落ちた。
     麦は、
    「……これ以上は危険だね……悪いけど、俺たちを連れて、撤退を……」
     それだけいって目を閉じた。クリミネル、エクルも、それぞれ動けないようだ。
    「仕方ありません。撤退しましょう!」
     そういうと、音々は傷の浅い仲間と協力し、戦闘不能になった者の体を抱える。そしてDCPキャノンを壁へと放つ。
     空間が歪む。別の場所に転移しようとしているのだ。
     グレート定礎が配下に言うのが、聞こえた。
    「逃げるか。ならば、我らも撤退の準備を行おう。ここまで敵に入られた以上、この迷宮は既に盤石ではない」
     その声を聞きながら、灼滅者たちは、空間を移動する。

    ●帰還
     次の瞬間、灼滅者たちの目に、古びた黒板が目に入る。灼滅者たちは見知らぬ教室の中にいた。
     玉緒は、教室内を点検。そして、ドアに近づき、廊下を確認していう。
    「どうやら、地方の学校の一階ようね……今は敵の気配も、人の気配もないみたい」
     討魔も敵の気配がないのを確認してから、仲間たちの傷の具合を確認する。
     他の三人と手当てを行いつつ、討魔はいう。
    「しかし、グレート定礎は……強かった……」
     ぽつっと呟く。それを契機に四人は、今回の戦いについて話し合った。
     探索をスムーズに行い、ほぼ無傷で遭遇することができた。相手に勇気を示し八対一の戦いに持ち込み、巧みな連携で敵をいささかなりとも傷を与えた。
     しかし、グレート定礎を倒すには、戦力が足りなかったのだ。
     会話をしながらも、四人は最低限の手当てを終えた。白金はマフラーを整えつつ、
    「いこう……窓の外に人家が見えた……そこで帰り道をきくことができるだろう……」
     白金の言葉に、皆が頷く。意識を失った仲間に肩を貸しつつ、一行は教室を出て、校舎の外へ。
     彼らの頭上で雲と雲の合間から見えた太陽が、暖かな光を投げかけた。灼滅者は学園に帰還するため、歩を進める。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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