富士の迷宮突入戦～灼滅者達の目指すもの

■リプレイ

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「もみじ饅頭を食べることで内なるガイアの力を引き出しテンションを高めるよ」
　亜麻宮・花火（パンドラボックス・d12462）が、饅頭を一口。
　気合を入れる。
　富士の迷宮の入り口は、富士裾野の樹海の中にあった。鬱蒼とした道なき道を一時間弱進み。隠された風穴の一つへと着く。穴の内部を１０分ほど進んだ場所には『氷柱』があり、その先が『セイメイの富士の迷宮』につながる入り口となっていた。
（「大事な作戦、しっかり気を引き締めていきましょう。セイメイの企みもここで終わらせてやる！」）
　一宮・光（闇を喰らう光・d11651）は、無線機とスマートフォンの連絡先を中継班と他の下層班と交換する。侵入後の灼滅者達は、敵に察知される前に、チーム毎、目的地に向けて駆け出していく。
「めろが先に行くね」
　歌枕・めろ（迦陵頻伽・d03254）は、犬変身。先に敵がいるか確認しながら安全な道を探して、仲間の先導をする。
　この組の目的は、生命の作戦破壊。
　白の王が準備してきたものを探すため、下層を目指す。
「シーキングはニンジャの本領発揮でござるネ！　お任せでござるヨ、ニンニン！」
　アリソン・テイラー（アメリカンニンジャソウル・d26946）は、小声で叫ぶという器用な真似をしつつ、気合いを入れる。罠に注意しながら探索して、物音は立てないように気をつける。
（「睡蓮先輩……戻ってきて欲しいですよ……」）
　現クロキバこと、尊敬する先輩を案じつつ。
　花凪・颯音（花葬ラメント・d02106）も移動中の物音に注意していた。足音は消音ブーツで消している。スーパーＧＰＳを起動し、手書きでも方眼紙でのマッピングを行い迷宮経路記載して、尺縮は一定を保ち高低差があれば記入する。
（「闇堕ちして捕獲された灼滅者の行方や、アンデッドダークネスをメインに、他にも何かあれば探りたいです」）
　仲間達を結ぶアリアドネの糸を確認しつつ、ファムネルエルシス・ゴドルテリアミリス（わんわんにゃぁにゃぁ・d31232）もセイメイの企みを探索する。
「ハッハー、隠されてるってなると暴きたくなるってのが、男の心理ってモンよな」
　一橋・智巳（強き魂に誓いし者・d01340）の目が、徐々に慣れてくる。迷宮内部は淡く光っており、ライトなどがなくても、特に支障なく行動できる。月が明るい夜の雪明りの道くらいの明るさだ。
「……ん？　ハンドフォンが使えないみたいです」
　敵に気づかれないよう音を殺して動いていた牧野・春（万里を震わす者・d22965）が、あることに気づく。携帯電話・無線などの通信機器が不通で、迷宮内部では通信できないのだ。
　迷宮内の何かが影響して電波が繋がらないようだった。
　ＥＳＰのハンドフォンも、相手の携帯電話と話すＥＳＰなので、使用できない。
「自然の洞窟というわけでも無いから、その可能性も高かったということかな」
　光も自分の携帯電話が、使えないことを認める。
　ただ、今回の依頼においてセイメイの企みの調査を行うメンバーは、他班を含めると一番の大人数かつ大戦力を誇る。結果として固まって動くような形となり、下へ下へと全員で向かった。
「うん？　……敵ですね」
　颯音は索敵や先行がし辛い場所では、望遠鏡での索敵などをしており。そして、敵潜伏はないか確認していた手鏡に、スケルトンの姿が映った。犬変身しためろも、前方にアンデッドを捕捉した。
「サウンドシャッターで遮音して……行くよ」
　戦場内の音が聞こえないようにして。
　花火が、螺穿槍で攻撃力の強化を図る。
「いきますよ。わんさん。にゃぁさん」
　ファムネルエルシスの手にはめられた、犬のぱぺっとから伸びるケルベロス状の影。アンデッドの一体を捕縛し、相手の動きを鈍らせにかかる。
「ま、寧ろ俺の担当はココさ」
　智巳が蹂躙のバベルインパクトで火力を発揮する。
　戦闘は出来るだけ避ける方針だが。やむを得ない場合は、クラッシャーとして敵を叩き潰すのに是非もない。
　武器がかち合い、金属音が響き合う。
　味方のクラッシャーとメディックを優先して庇いながら、春は黒死斬を見舞った。
「防御を固めていきましょう」
「アンデッドの相手は疲れるでござるナ！　骨だけに！」
　アリソンとその霊犬は回復重視で行動。
　仲間との連携を意識、増援が来ないか警戒して。バッドステータスのキュアを行う。
「さて、お仕事と行きますか」
　光がクルセイドスラッシュを軸にして、影縛りと影喰らいで敵を牽制する。狼の形をした影が、猛々しく敵へと迫った。
「白の王の縁とは一層腹立たしい……邪魔です、失せなさい」
　情が深く穏やかながらも、颯音は敵対者には無慈悲な少年となる。
　スナイパーに布陣して、ブレイドサイクロンで敵群に斬撃の嵐を吹き鳴らした。　
「行くよ、式部」
　犬変身を解き。
　めろがオールレンジパニッシャーの砲門を開く。ウイングキャットの式部は肉球パンチで主人に続いた。戦いは激しさを増しつつ、灼滅者達の優位へと進む。
（「もし、予期しない強敵が来たら……闇堕ちしてでも」）
　強い決意を胸にして。
　花火がフォースブレイクを正確に、敵へ叩きこむ。スケルトンは内側から爆発して、骸骨は粉々に散った。
「ごしゅじん。この調子にゃ」
「マスター。他の班も奮戦してるわん」
　ファムネルエルシスのパペットの言葉通り。
　他の班の灼滅者達もアンデッド達と、刃を合わせて道を拓いていく。決して敵が弱いというわけではないが、こちらの兵力はそれを軽く上回っていた。自然、結果はあるべき方向へと収束する。
「これで、終わりか？」
　智巳の抗雷撃がアンデッドに直撃。
　塵となったところで、周囲にはめぼしい相手はいなくなっていた。
「出来るだけ、敵との遭遇は避けたいところですね。慎重に行きましょう」
　春の言葉に、皆が頷き。
　灼滅者達は探索を再開した。
（「現在位置、進んだ経路、敵や罠の発見や痕跡……注意すべき点は多々ある」）
　明かりは最小限。
　光は上下左右を警戒し、常に音を立てないよう注意し行動して奥へと進む。調査の類は得意分野だと自負している。
（「周囲の警戒を怠らずに、静かに移動しないとね」）
　花火も気を張り巡らす。
　植物が邪魔をするような道では、智巳が隠された森の小路を使って安全なルートを作る。マッピングをしながら出来得る限り情報を探り。敵に用心して、無用な戦闘は避けた。
　それでも、途中に何度かアンデッドに遭遇することはあったが、そこは大戦力で蹴散らしていった。
　順調に迷宮攻略が進む中。
　強烈な生臭い匂いが、めろの鼻を刺激した。
（「ゾンビがいるのだから、生臭いのは仕方が無いけど。普通のゾンビは、死んでから時間が長いから……ここまで生臭くない筈だよね」）
　更に、下に進むにつれて。
　その匂いは更に強烈になっていく。
「何だ、この匂いは……妖しいな」
「……この先の空間、他と造りが違うみたいですね」
「どうやら、最下層のようでござるネ」
　智巳が不穏な匂いに首を傾げ。
　床や壁の模様や材質の変化に敏感になっていた、春とアリソンが迷宮の様子がこれまでと異なっていることに気付く。
「ここは――」
　最下層は大広間になっていた。
　ドームが何個か入りそうな空間。そこは保管庫のようであり。そして、そこには……一万体近い『死体』が集まっていた。
「ゾンビに噛み付かれて殺されたような死体が多いわん」
「これは、セイメイの計画に関係して……なのかな？」
　見渡す限りの死体に囲まれて。
　ファムネルエルシスと花火は、腐臭の原因はこれだったのだと理解する。
（「つい最近殺された死体ばかり……セイメイは、ここで何を研究していたのか？」）
　可能な限りの情報の収集をと。
　光は、冷静に大広間を調査にかかる。何か手がかりがあれば持ち帰りたいところだった。
「白の王……何ということを」
　巨大な広間を覆う死の数。
　颯音はそのあまりの有様に静かに憤っていた……だが、真の恐怖はここから始まる。
「気をつけろ！」
「死体が、動き出したぞ！」
　近くにいた他班から、そんな声が聞こえてきた。
　一万体の死体。その半数近くを占めるゾンビが、灼滅者達へと襲いかかってくる。

●
「これは、また凄い数でござるネ」
「ざっと見積もって、全体で五千体ってところか」
　アリソンはアイテムポケットで持ち帰られる様な研究資料や怪しい物体を発見したら、調査のために学園に持ち帰るつもりだった。だが、これはさすがに持ち帰れそうにない。代わりに写真と動画で記録をしておく。
　大量のゾンビの群れに、智巳は油断なく戦闘の構えをとった。他班の灼滅者達も、既に交戦状態に入っている。
「数は多いが、それだけとは思えないにゃん」
「セイメイの研究成果というのなら、ここで全滅させておかないとね」
　ファムネルエルシスの猫のぱぺっとから、伸びるマンティコア状のオーラが展開される。めろは聖碑文の詠唱と共に十字架の全砲門を開放し、光線の乱射で敵群を薙ぎ払いにかかった。
（「ゾンビに殺された死体のようなゾンビ……何か嫌な予感がする」）
　春はイカロスウイングで、ゾンビ達を列ごと攻撃にかかった。どこを見ても敵だらけで、狙いをつけるのもバカバカしくなるほどだ。
「しかし、こういう薄気味悪いところで得体の知れないことをやるセイメイってやっぱり気味悪い」
　破邪の白光を放つ強烈な斬撃。
　クルセイドソードを、光は振るって敵群を散らす。相手の戦闘力は、それほど高くはない。だが、数が数だ。
「ランドセルを背負った小学生に、若いスーツ姿の学生……」
「それにセーラー服姿の女子学生、ゴルフのクラブを持った老人……つい最近まで生きていた人々なのは間違いないようですね」
　ゾンビ達の姿は、実に多種多様だった。
　唯一共通しているのは、そのどれもが噛み殺されたような跡があることだ。花火と颯音は、同じスナイパーとして連携して砲火を重ねた。生前は物心つく前の子供だったと思われるゾンビが、崩れて四散した。
「何とも悪趣味な所業でござるネ」
　アリソンがジャッジメントレイの鋭い光条を放ち。ゾンビがまた一体倒れた。智巳はジェット噴射で敵に飛び込み、鋭いパイルを敵へと叩きこんだ。
「地獄絵図ってのは、こういうのを言うのかもな」
　倒しても倒しても。
　まだまだ、ゾンビの死臭が四方に漂っている。その元になっている死体は、恐らく罪なき一般人だったろうことは想像に難くない。
（「セイメイが原因で、一体どれくらいの人が犠牲になったんでしょう……」）
　複雑な感情を抱えながらも、ファムネルエルシスとしても手加減するわけにはいかない。交通標識を持ったパペットが、ゾンビを殴り倒した。
　絶え間ない攻防が繰り返され、消耗が続く。
　何体ものゾンビが倒れ。更に、めろがクルセイドスラッシュを繰り出した時――それは起きた。
「え？」
　剣の迫った仲間を助けるように、他のゾンビがその個体を蹴り飛ばす。めろの白刃を辛くも逃れたゾンビは、しかし、蹴られたことで力尽きたように動かなくなった。
（「あれは、ただ蹴られただけ。つまり、サイキックでない攻撃で……ダメージを受けた……？」）
　その様子を見ていた、春が戦いながら思案に沈む。
　よくよく観察すると、ゾンビ達にはそのような行動が度々見受けられた。
「……もしかすると」
　同じく訝しんでいた光が、試しにサイキックを使用せずにゾンビを武器で殴り――敵はよろめいて、そのまま動かなくなった。
（「サイキック以外の攻撃が効かないというのは、バベルの鎖の能力だ。ということは、同じバベルの鎖の能力である、情報が過剰に伝播しないという効果も無くなっているかもしれない」）
　もし、バベルの鎖の無い状態のゾンビが大量に出現すれば、日本は大パニックになってしまうのでは。
　光達の頭に、セイメイの描いていたシナリオの一端が垣間見えたような気がしたが。確かなことは、まだ分からない。
　未だに、辺りはゾンビだらけでゆっくりと検証している暇もない。
「クロキバ……睡蓮先輩。戻ってくると信じているから。だからわたし達はセイメイの企みをぶっ潰すよ！！」
　花火がレイザースラストを射出。
　敵の額をダイダロスベルトが正確無比に貫く。
「負けられない、絶対に誰も奪わせない！！」
　気迫を込めて、颯音が神薙刃を振るう。
　集中砲火で確実に、殲滅を。ゾンビの大群を一つ、一つ潰す。斬って斬って、殴って殴って、撃って撃って……気の遠くなるほどの作業。
「こう敵だらけだと……」
「さすがに、傷だらけでござるナ」
　めろがラビリンスアーマーとセイクリッドウインドで味方を回復。アリソンもジャッジメントレイや癒しの矢などで戦線を支えた。
「なるだけ攻撃に手を回す。そのほうが総合的には被害が少なくなりそうだからな」
　雷を帯びた智巳の拳が、ゾンビを粉砕。
　飛び上がりながらのアッパーカットが、敵を高く高く巻き上げる。
「除霊結界にゃ」
　ファムネルエルシスが、内蔵した祭壇を展開し、霊的因子を強制停止させる結界を構築する。敵が次々と消えていき、それは他班も同様なのが見てとれる。
「気になることは多いですが」
「まずは、こっちを」
　エンジェリックボイスと集気法で回復して。春がティアーズリッパーを打ち放ち、光の影の狼がゾンビを飲み込んだ。
（「まだ、抗えるからね」）
　高速の動きで敵の死角に回り込みながら、花火が身を守るものごと斬り裂く。普通なら逃げるしかない敵の数も、大兵力を誇る今回の灼滅者達は押し切っていき。
「そこ！」
　颯音が音頭を取って。
　大男のゾンビを討ち取ったとき。気が付けば、周りの敵はほとんど灼滅し終えていた。
　同時に。
　迷宮全体に激震が走る。
「な、何だ？」
「たった今、通信が繋がった！」
「セイメイが死んだ！　白の王を狙っていた連中がやってくれた！！」
　不通だった無線類の開通。
　驚きの急報。
　大きく揺れて崩れかかる迷宮。
　突然のことに、他班の者達の大声が飛び交う。　
「セイメイが斃れたことで、迷宮にも影響が出たのかもですね」
「このままじゃ危険だ。とにかく、とっととはじき出してもらうぜ」
　春が崩壊していく迷宮の欠片を手で払う。取り残されてはかなわいと、智巳が迷宮自体に攻撃を加えた。
　灼滅者達は迷宮の効果により『転移』する。
　一瞬で景色が入れ替わり、立っているのは見慣れぬ校舎の中だった。
「ここは……どこかの学校？」
「他のチームは……見当たらないですね」
　花火と颯音が周囲をうかがう。
　どうやらチーム毎に別々に飛ばされたらしく。特に変哲もない学校の廊下に、居るのは自分達のチームと。
「味方はいないけど――」
「代わりに、妙なのがいるでござるナ」
　めろとアリソンが指差す方向には。
　先程まで戦っていたゾンビが一体だけ、のそのそと近付いてきていた。
「こちらの転移に巻き込まれたのか？」
「とにかく、倒すわん」
　光が剣を振りかぶり。
　ファムネルエルシスの影縛りが、場に似つかわしくない敵の足を止める。
「他の人達の状況も気に掛かります」
「ああ。さっさと倒して――」
　春がディーヴァズメロディを放ち。
　智巳達も最後の敵に、一斉に攻勢をかけた。颯音のレイザースラストが飛び。花火が槍で的を穿つ。
「うん、皆で帰ろう――」
「で、ござるナ」
　アリソンからヒールの後押しを受け。
　めろのクルセイドスラッシュが決まった瞬間に、ゾンビは断末魔の叫びをあげてこの戦いの終わりを告げた。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年3月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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