富士の迷宮突入戦~乱れに生じた波紋は強く

    作者:ねこあじ

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     

    「琵琶湖大橋の戦いは、武蔵坂学園と天海大僧正側の大勝利で終わったわね!」
     お疲れ様! と遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)。
     鳴歌は今の情勢を整理し、声にする。
     安土城怪人勢力の残党達は、本拠地であった琵琶湖北側の竹生島に立てこもったようだが、カリスマであった安土城怪人を失った事で離散した者も多いらしい。
     その勢力は大きく衰退してしまっているようだ。
     更に、安土城怪人に次ぐ実力者であった『グレイズモンキー』が拠点に戻ってこなかった事、中立な立場ながら、その献身的な活動で支持されていた『もっともいけないナース』が灼滅された事もあり、組織的結束力も無い今、遠からず自壊するのは目に見えている。

    「けれど、逆に軍艦島勢力が合流した、白の王勢力は大幅に強化されてしまったわ」
     エクスブレインとは全く違う予知能力を持つ『うずめ様』、現世に盤石の拠点を生み出す事のできる『ザ・グレート定礎』、ソロモンの大悪魔の一柱『海将フォルネウス』、そしてセイメイと同じ『王』の格を持つ『緑の王アフリカンパンサー』。
     彼らは、白の王セイメイのこれまでの失策を補って余りある力を持っているだろう。

    「でもね、多くのダークネスを富士の迷宮へと招き入れた事は、白の王に致命的な隙を与えたの」
     それは、クロキバ。
     富士の樹海で探索を続けていたクロキバに、その迷宮の入り口を発見されてしまう事態。
    「……ツイてないな、セイメイ」
     同情の余地ナシな声で、ぼそっと呟く灼滅者。失策に続き、またしても、なところ。
     闇堕ちしてクロキバとなった、白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)は、先代達の意志を継ぐべく、白の王の迷宮に挑もうとしているようだ。
    「同時に、こちらに、この突入口の情報を連絡してくれたの。
     ――これって、白の王セイメイだけでなく、田子の浦の戦いでは討ち取る事のできなかった、軍艦島のダークネス達を討ち取る千載一遇の好機と思うの」
     だが、迷宮だ。
     それなりに厄介な場所ではある。
     残念ながら、白の王の迷宮の入り口を通過できる人数には限りがあり、全軍で攻め入る事はできない。
     そして、この機を逃せば、再び侵入する事はできなくなる。
     迷宮を突破し有力なダークネスを灼滅する事は難しいかもしれないが、挑戦する意義はあるだろう。
     この作戦に参加する灼滅者達は、どういった結果を求めるかを相談し、作戦をまとめて突入して欲しい。
     と、鳴歌は言った。
    「白の王の迷宮は、内部から迷宮を破壊しようとすると外にはじき出されるという防衛機構があるみたい。
     危機に陥った場合は、それを使って緊急脱出してね。迷宮自体を攻撃することで防衛機構は働くから」
     逆に言えば、この防衛機構により、迷宮への破壊工作もほぼ不可能となっている。この点は注意が必要だ。
    「これまで色々な暗躍をしてきた白の王の喉元に牙をつきつける今回の作戦は、とても重要な作戦になると思うわ。
     迷宮からの脱出は難しくないけれど、反面、敵拠点に攻め込むには戦力は多くない……成果をあげるには、目的を絞る事も必要かもしれない。
     白の王セイメイを灼滅できれば、クロキバとなった白鐘さんを闇堕ちから救出することも可能だと思う。そうすれば……。
     ううん。この戦いは、田子の浦の戦いの雪辱戦でもあるわね。みなさんの健闘を祈っているわ」
     頑張って!
     ぐ、と拳を作って、鳴歌は灼滅者達を激励するのだった。


    参加者
    大神・月吼(禍憑に吼える者・d01320)
    ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)
    木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)
    斉藤・キリカ(闇色子守唄・d04749)
    ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)
    天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)
    上里・桃(生涯学習・d30693)
    矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)

    ■リプレイ

    ●富士裾野の樹海、午前六時頃
     クロキバの情報を受け、樹海を一時間程進むと風穴を見つけた。
     世間の情報にはない風穴だ。内部を更に進んだ場所には氷柱。
     その先に風穴の壁があるのだが、チラチラと二重写しのようになっている。
     意を決して勢いよく踏み込めば――そこは迷宮であった。
     上里・桃(生涯学習・d30693)は闇堕ちしてしまった友達のことを想った。
    (「もしかしたらここにいるのかな……すごく不安で心配だけれど」)
     揺らぐ瞳。頭を振った。
     そして奥へと続く迷宮を見据える。
    (「琵琶湖大橋の戦いが終わったと思った矢先に富士の迷宮とか、ほんとに白の王は迷惑ね。
     今度こそきっちり決着付けたいわね」)
     と、木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)が心の中で呟く。
     上層に向かう灼滅者達。
     大神・月吼(禍憑に吼える者・d01320)は、本格的に探索へ挑む前に一度、携帯を確認したのだが電波が繋がらない。
    (「完全に分断ってことか……ま、自然の洞窟ってわけじゃないしなぁ」)
     迷宮内部は淡く光っていた。とは言っても月が明るい夜程度のもの。光を拾い、暗視ゴーグルが視界をクリアにしていた。
     備えあれば憂いなし。準備が万端であれば探索はスムーズに進む。
     分かれ道ではナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)が音の響きを確かめ、桃が『進め』のハンドサインを後方に向けて行う。
     周囲を警戒しつつ、思わぬ罠に飛び込まぬよう、慎重に、静かに、加えて足早に迷宮内を進んでいく姿はまるで――ナハトムジークを見たのち、客観的に、自身を改める灼滅者達。全員、隠密ゆえに雰囲気が忍だった。
     と、湿度の変化に気付くナハトムジーク。
     暖かい気配を感じる方向へ行くのだが、その先は何かしている定礎怪人がいたため、彼らは大回りしていくことにした。
     向かうのは他に二チーム。固まって動くのは危険だということで、適度に距離を置き進んでいく。
     ビハインドのイヴァンと後方を警戒しつつ、下層に向かっている誰かさんのことを思うと大きな溜息が出そうになって、斉藤・キリカ(闇色子守唄・d04749)は指先で唇を押さえた。
    (「なんつーかさぁ……ホントそろそろ退場してくんないかしらねぇ?」)
     この迷宮の主が絡むと、誰かさんが機嫌悪くなって面倒くさいことこの上ないらしいキリカ。
     判断早く素早く動く仲間の背を追って静かに駆けた。
     どんどんと空気は変化していき、
    (「ちょっと怖いけど、逃げるわけにはいかない」)
     と、矢崎・愛梨(中学生人狼・d34160)は自身を奮い立たせる。
     温かな気配を逃さぬよう、注意して迂回する灼滅者たちは、やがてアフリカっぽい雑草が生えはじめた通路を見つけた。
     仲間達の足取りが微かに緩み、滑らかにユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)は三歩分ほど前に出て、奇襲があった際に仲間を庇える最適な位置を維持する。
     そろそろ位置取りを変更する頃でしょうか……? と思い、天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)は周囲を注意深く見た。
     淡い光を放つ迷宮内に、アフリカっぽい植物――その先にいるのは、数体のアフリカンご当地怪人であった。
     草を食んでいたり、くつろいだり、何やら草地のなか居心地よさそうに過ごす彼らは迂回できそうには無い。と、なれば。
     サウンドシャッターが施され、仲間が駆けると同時に緋弥香が影を飛ばす。
    「う、うわ、なんだキリンー!?」
     接敵前、一瞬にして緋弥香の影に覆われ喰われるキリン風味怪人。
    「久しぶりに喋る気がするね。んじゃ、キリン君からいこっか」
    「さくさく倒すわよー!」
     ナハトムジークの声と、気合いを入れるキリカの声。
    「そんじゃいっちょやりますかねっと」
     身を屈め、軽く拳を作った月吼が駆けた。
     ずっと探るように動いてきたせいか、喋るのも、仲間の声を聞くのもどこか新鮮に感じる。


     湿度の高い空間のなか、御凛の周囲の温度が一気に下がる。冷気のつららを作り出す槍の妖気。
    「キッ、キリ、キルキルキル!!」
     本能丸出しに暴れるキリン風味怪人は長い首を振り回し、御凛へ突進してくる。
     ユエファが駆けてくるのを目の端におさめた御凛が、声をあげた。
    「大丈夫よ――ここで、ぶっ飛ばす!」
     放った冷気のつららが敵の首元を穿ち、キリン風味怪人は派手に仰け反って倒れた。
    「倒したわよ!」
     御凛の声。クロスグレイブを肩に抱えたナハトムジークが振り向き様に、真後ろのサイを叩き潰す。何だか四角いサイだ。
    「次、サイコロ嬢!」
    「おっけー!」
     断罪輪をぶん回し、自身を軸にしたキリカが遠心力に任せてサイコロ怪人を斬り回す。続くイヴァンが霊撃を放った。
    「コ、コロコロされちゃうサイ~!」
    「さて」
     ぐっと踏みこみ、腰を落とした月吼は右のバベルブレイカーで下段から殴るスタイル。
    「何が出るかな、っと!」
    「サ、サイ~」
     殴り攻撃に思わず身構えたサイコロ怪人――の真下。月吼の影がうねり、伸びたそれが勢いよく絡みつく。
     先端に重しを付けているかのように、ぐるぐると影は弧を描いた。
    「回復する!」
     愛梨の凛々しい声。前衛にセイクリッドウインドを送る。
    「ウウ~、灼滅者、コロコロするサイー!」
     怒った声でサイコロ怪人が荒々しく走り回り、ユエファと桃が猛進を止めるべく前に出た。
     超重量級の体当たりに、銀雷を間に挟み衝撃を逃すユエファが真後ろへと飛ばされる。
     桃が畏れを両手に集束させ、突進してきたサイコロ怪人へ叩きこんだ。その距離、零。同時に突進を胴に受け、桃もまた振り飛ばされた。
     二人とも素早く起き上がったので、受けたダメージは少ないようだ。
     すぐにユエファが接敵して、超硬度の拳で撃ち抜く。
     間を置くことなく攻撃が続き、サイコロ怪人の動きが鈍くなった。
     紫蘭月姫に緋色のオーラを宿す緋弥香が、怪人へ一閃。
    (「あなた方に用は無い」)
     薙刀は敵の身を斬り裂き、サイコロ怪人は地に崩れ落ちる。

     この場にいる灼滅者二十四人でアフリカンご当地怪人達を倒し、アフリカにあるような草木が生えた場所を進む。
     ある地点で、桃が止まった。
     並行していたチームもまた、足を止めていた。
     桃は『敵発見』のハンドサインを送る。
     ばしゃばしゃと跳ねるような水音に視線を向ければ、濡れた金髪が淡く照らされ艶やかに光っている――水浴び中のアフリカンパンサー。
     露出の高い服そのままに、その身は泉の中。
     彼女はまだこちらに気付いていない。並行していたアルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299)、そして野乃・御伽(アクロファイア・d15646)と視線を交わし、頷きあった。
     御凛が魔術を繰り、閃雷をアフリカンパンサーに向かって撃つ!
     その時にはもう灼滅者達は敵めがけて走り出していた。
     岸辺から跳躍したナハトムジークが炎を纏う蹴りを放てば、水飛沫が蒸発していく。
     対し、泉に飛び込み接敵するのは月吼だ。接近戦に入る姿勢――が、ばしゃりと水が跳ね、影が飛び出しアフリカンパンサーに絡みつく。
    「あれっ、どうしてかな、どうしてかな? こんなところに灼滅者!」
     アフリカンパンサーがガイオウガボーンロッドを振り回す。前衛の灼滅者達を次々と殴打し、炎上させた。発生した鋭い音は、身が焼ける音なのか、水が蒸発する音なのか。
     泉から出るアフリカンパンサーを灼滅者達が追う形で、攻撃を放つ。
     濡れた姿のアフリカンパンサーが動くたびに、褐色の肌は蠱惑的な色気を放つよう。
    「はぁ……只の露出狂にしか見えないのは何故でしょうか……?」
     呟く緋弥香が敵を喰らう影を放ち、その影に紛れて月吼がバベルブレイカーを打ちこむ。
    「何しに来たのかな? 覗きかな?」
     アフリカンパンサーの王者の如き堂々たる蹴りは、庇いに入ったユエファへ強く放たれた。
     転がりつつ体勢を立て直すユエファだが、流石に衝撃が強く、体が呼吸を思い出すのに二拍。
    「ユエファ……! 覗きとか、んなわけないっしょ!」
     声の勢いと一緒に、キリカが転輪の如く全身を回転させる。
     牽制的に燃え盛る炎の如き武器をぶん回し、迫る灼滅者を打ち払うアフリカンパンサーだが、やはり数には勝てない様子。
    「こんなに簡単に侵入されてるなんてね。――しっかりしてほしいな!」
     イフリートの王『ガイオウガ』の力を秘めた骨で前衛列を殴打し、灼滅者達の身が燃え盛る。
     桃が術を繰り、雷を撃てば、手の動きに炎の弧が描かれた。愛梨の聖剣から放たれる浄化の風が、赤き火を払っていく。
    「恨みは無いけど、ここで逃すわけには」
     と、愛梨。
     攻撃を繰りだせば確実に手応えはある。
     三チームが連携し、回復の手も厚い。
     このまま、攻撃を重ね続けていけば――その時、声が、した。


    「そこまでです。それ以上の弱いものいじめは許しませんよ」
     白いドレスと白のティアラ。腰に巻かれる青みを帯びた銀色のリボン――田子の浦で闇堕ちした加賀谷・彩雪(永遠なる天花・d04786)だった。
    「さゆきっち!」
     思わずといった様子で呼ぶアフリカンパンサーへ、もう大丈夫ですと返す彩雪の背後から、巨大な影が出現した。
     ザ・グレート定礎だ。
    「この迷宮も最早盤石では無い。撤退するぞ」
    「グレートも来てくれたの! わかったよ、地下の研究は興味深かったけど、しょうがないね」
     伝達するザ・グレート定礎に応えたアフリカンパンサーへ光の砲弾が放たれる。
    「逃すわけにはいかんのでね。分断はちと、痛い気もするが」
     ナハトムジークが戦場の位置取りを見た。そして目前のアフリカンパンサーへ視線を戻す。
    「さあ、気合い入れていくわよ!」
     御凛がマテリアルロッドを薙げば、魔術によって引き起こされた青白い閃光が瞬き、稲妻が走った。
    「意地があんのよね、あたしらにも! イヴァン、前よろしくっ」
     キリカが分裂させた小光輪を中衛の緋弥香へ飛ばし、防護を固めた。今のところ、アフリカンパンサーの攻撃は近しい者に繰り出されている。
     敵の死角を目指し駆ける緋弥香と連携し、月吼がアフリカンパンサーの目前に迫る。
     腕を振り上げ、上段から拳を打ちこむが、
    「甘いよっ」
     アフリカンパンサーが月吼の腕を掴む。
    「そっちがな!」
    「!」
     月吼のフェイント、敵の体を這い上がる影。その時、アフリカンパンサーの鋭い呼気を聞いた月吼が投げ飛ばされる。荷物のように、背後にいる緋弥香への牽制として。
     それを避け、緋弥香が赤色標識で殴るも、仰け反って一撃を減殺させたアフリカンパンサーは流れる動きで緋弥香を蹴り上げた。
     ひゅ、と風を切り下ろされた脚は地に留まらない。
     次撃に備え、敵は駆けた。ナハトムジークが動く。
    「……く、っ」
    「天神さん! 回復しますっ」
     受け身はとったがサバンナキングアタックの威力に、立ち上がり時は体をよろめかせた。回復手の二人に聞こえるよう、声をかけた桃の祭霊光が緋弥香に放たれる。
    「強い」
     愛梨は眉を顰め、セイクリッドウインドで前に立つ仲間を癒していく。前に届く単体回復があればなお良かっただろう。
     愛梨は注意深く敵を見る。どうにもならないと思った時、迷宮内を攻撃して共に離脱するつもりだった。
    「桃も、気を付けんのよ!」
     キリカが桃の防護を固めた。
     ガイオウガボーンロッドが力強く振られ、長柄で受けるもユエファが押し負ける。
    「貴方が力の蒐集者と言うするなら、その力から仲間を守るが私の役目です」
     地につく石突を軸に滑り、間合いから離脱するユエファ。
    「この身が存在する限り、全力を持って貴方の力を阻むします……よ」
     龍因子を解放し、自身の身を固める。アフリカンパンサーを八人で相手する以上、先は激戦だ。


     ビハインドのイヴァンを失った前衛。
    「愛梨、火消し任せるっ」
    「分かったわ!」
     キリカが消耗の激しいユエファに小光輪を飛ばし、愛梨が破邪の聖剣を掲げる。
    「援護しますわ」
     緋弥香の優しき風を二人に送れば、二人の身に纏わりつく炎が消え去っていく。
     三チームで戦った時こそ、アフリカンパンサーとの戦いは灼滅者が優勢であったはず。
     よく敵を観察する者なら気付くだろうか。
     アフリカンパンサーが――それなりに疲弊したはずの彼女が、時間が進むたび、その身に活力を取り戻していくのを。
     俊敏に力強く、密林化しつつあった迷宮内を駆け、王者たる蹴りを放つアフリカンパンサー。
     跳躍しての回し蹴りは、緋弥香の背を押したユエファの骨を砕く。
    「――ユエファさん!」
     草地を穿ち滑ったユエファは、一度呻き声をあげたきり、ぴくりとも動かない。その手は銀雷を離すまいと握られたまま。
     更に二手。
    「ガイオウガボーンロッド! どっかーんだよっ」
     たった一人、盾役として立つ桃をイフリートの王『ガイオウガ』の力を秘めた骨で殴打する。
     地面に叩きつけられ、その身を焦がす桃。
    「上里!」
     呼ばれる声に起き上がろうとするも、腕に激痛が走り力が入らず崩れ落ちた。指先から痛みが薄れていくのと同時に意識も遠のく桃。
     刹那、ナハトムジークがクロスグレイブを盾のように掲げ、突っ込んだ。
     そのままアフリカンパンサーを突き飛ばし、彼我の距離を作る。
    「月吼君、よろ!」
    「任せな!」
     大きな声。アフリカンパンサーが振り向けば、迫るバベルブレイカー。
    「悪りぃな、後ろだ!」
     捕縛に動く影は敵の背後から襲い掛かり、そこへ御凛の集束されたオーラが放たれた。
     前衛を失った激戦の最中、撤退を告げる声に、アフリカンパンサーが飛び退き言った。
    「そうだね! さゆきっち、行こう。――じゃねっ、灼滅者」
     ガイオウガボーンロッドで迫る灼滅者を強く打ち払い、踵を返してアフリカンパンサーが駆けていった。
    「待ちなさい……っ」
     槍の妖気を冷気へと変換するも、その射程を目にした御凛がふっと息をついた。場の熱気が冷気を散らしていった。
     最後に彩雪が合流していく。
    「ごめんなさい、遅れました」
    「長居は無用」
    「そうだね! 二人共行こう!」
     灼滅者達はそうやって迷宮から撤退していく三体のダークネスを見送ることしかできなかった。

    「ユエファ、桃、いますぐ治療すっからね」
     倒れた二人の意識が戻り、キリカが話しかける。
     だが。
     ダークネス達が撤退し、また、怪我人が多かったことから手当てを行うその最中、突然、ゾンビが現れ始めた。
    「……この数なら何とかなるか。二人を頼んだぜ!」
    「行ってくるわね」
     月吼がキリカと愛梨に言い、御凛が駆け、ナハトムジーク、緋弥香。四人が戦線に加わった――やけに打たれ弱く感じたゾンビの掃討は、すぐに終わる。

     迷宮、離脱。午前七時前。
     空気の変化に一瞬呆然とした後、ハッとした。
    「……ここは」
     緋弥香が呟き周囲を見回した。どこかの教室のようだ。
    「これが迷宮の転移ってわけね」
     御凛が仲間の数を確認した。八人。
     電波がきた携帯を使う月吼が現在地を調べ……「げ」と声をあげた。
    「どうしたのかね、月吼君」
    「や……ここ、富士に全然近くねぇとこなんだわ」
     ナハトムジークと月吼の会話を聞きながら、教室という慣れた日常の場所に灼滅者達は安堵する。
     この後、様々な情報が携帯に寄せられるのだが、今は小休止に身を委ねるのであった。

    作者:ねこあじ 重傷:ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758) 上里・桃(遍く照らせ・d30693) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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