出現! 巨大猫をもふもふせよ!

    作者:ライ麦

     春の兆しは見えてきているものの、まだまだ寒い2月のこと。公園にいる野良猫達も、互いにくっついては暖をとっていた。1匹2匹は当たり前、時には3匹も4匹も、何匹も折り重なるように寝ていたり。その光景を見た一人の幼女は思ったらしい。

     ――あのねこさんたち、そのうちがったいしてすっごくおおきなねこさんになったりするのかなぁ。

     幼女が周囲に話したその想像が、やがて一人歩きして噂となり、サイキックエナジーと結び付いて実体化することになる。

    「……にゃ、にゃー……」
     いつもと違って猫耳装備の桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)が教室で恥ずかしそうに鳴いていた。
    「……にゃあ」
     たまたまそこに入ってきた榛原・七月(廃墟と悪戯・dn0228)が、軽く手を挙げて挨拶を返す。
    「にゃー……って違うんだよ! こんなことしたいわけじゃなくって! 依頼の説明です!」
     いい加減恥ずかしくなったらしい美葉が猫耳をかなぐり捨てて叫ぶ。
    「ああ、そうなの? 罰ゲーム的な何かかと思ってた。で、何? 何の依頼?」
    「と、都市伝説です。巨大猫です」
    「巨大猫?」
     七月が興味ありげに瞳を煌かす。
    「ええ、おっきい猫さんの都市伝説が出たので……それでさっき、こう、ああいうことを」
     美葉が赤くなって猫耳をしまいながら弁解する。あんまり関係ない気もするがともかく。美葉は咳払いをひとつして続ける。
    「とある公園で、野良猫さん達が何匹もくっついて暖をとっているのを見た女の子が、そのうち合体して巨大な猫になるんじゃないかと思ったらしくて。それを周囲に話したところ、噂になってついには都市伝説になってしまったんです」
     尤もこの都市伝説、別に人を傷つけたりするような意志はない。単にこう、あったまりたいだけだ。
    「とはいっても、体長3メートルを超えるような巨大猫なので……万が一一般人の方が見つけてうっかり近づいてしまうと、危ないかなって。単に寝返り打っただけでも潰されてしまいそうですし……」
     尤も、出現して日が浅いこともあり、またこの季節まだまだ寒いと出歩いてる人も少ないため、幸いまだ誰にも発見されていないのだが。公園という場所柄、放っておけば近い将来必ず誰かに発見されてしまうだろう。
    「そうなる前に、この巨大猫さんをなんとかして欲しいんです」
     美葉はそう言って深々と頭を下げた。
     単に戦って倒すだけなら簡単だと美葉は言う。
    「というのも、この巨大猫さん、とっても弱いので……今の皆さんなら一分かからずに倒せるレベルだと思うんです。相手はせいぜい、手加減攻撃レベルのひっかきとか噛み付きしかしてきませんし……」
     だが、相手は別に人を傷つける意志もなく、実際今のところはまだ誰も傷つけていない猫だ。そんな相手を問答無用で灼滅するというのは、少し可哀想な気もする。
     なので、と美葉は指を立てた。
    「私からは、別の方法を提案させていただきます……もふもふしてください」
    「もふもふ?」
     七月が首を傾げた。
    「ええ、もふもふ……別におしくらまんじゅうでもいいです。とにかく、猫さんをあっためてあげてください。そもそもこの都市伝説、暖をとりたいだけなんです。十分にあったまれば、おのずと消滅してくれるはずです」
     美葉が力説する。まぁ、数人がかりで一斉にもふればそれなりにあったまりそうだしな。
    「この方法をとる際の欠点は、時間がかかることでしょうか……何しろ猫さん、おっきいですしね。数時間は見積もった方がいいかと」
     もちろん、目的はあっためることなのでもふもふという手段だけに拘らなくても良い。一緒に遊んであげるとか一緒に運動するとか、そういう体を動かすやり方でも暖まるだろうし。皆で必ずしも同じ事する必要もない。各自思い思いのやり方で暖めれば。
    「そっか、巨大猫かぁ」
     なんとなくウイングキャットのクロを抱っこしてもふもふしながら七月が呟く。
    「ね、ところでその猫何色?」
    「まだらです」
    「まだら?」
    「ええ、元々複数の猫が合体して巨大化するって噂から生まれた都市伝説ですから。様々な体色が混ざり合って、なんかすごい色になってます」
     それでも可愛いですが、と美葉は付け加える。
    「そっか、まだらかぁ。黒がよかったなー」
     七月が相変わらずクロを弄くりながら言う。黒猫が好きらしい。それでも好奇心に瞳が輝いているところを見ると、彼も行く気まんまんなようだ。
    「灼滅者の皆さんなら、万が一潰されても大丈夫だと思いますしね。なんだったら、ちょっとぐらい猫さんのお腹でお昼寝してもいいと思いますよ」
     美葉はそう言って灼滅者を送り出しつつ、ちょっと羨ましそうな瞳を向けたのだった。


    参加者
    垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)
    黒乃・璃羽(キングダム系怪人ハンター・d03447)
    柏木・イオ(凌摩絳霄・d05422)
    緒垣・翠(空の青夕日の赤・d15649)
    後野・祭(大学生七不思議使い・d19479)
    ルティカ・パーキャット(黒い羊・d23647)
    ガル・フェンリル(ダブル尻尾の狼わんこ・d24565)
    月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644)

    ■リプレイ

    ●キングなスラ……ネコ。
    「小さな生き物が合体して大きな生き物になる……何かあの有名な国民的RPGのザコキャラのような都市伝説ですね」
     黒乃・璃羽(キングダム系怪人ハンター・d03447)はその様子を想像して呟く。同じ事思った人も多いだろう。何となく事前に買ってきた王冠を弄りながら、
    「何にしても猫好きとしては残念ですが被害が出てしまってはいけません。早々に満足させて成仏? させてあげましょう」
     と前を見据えた。件の公園はもう目の前だ。
    「おっおっきい、ねこちゃん? ……こっこわくは、ない、の?」
     人の影に隠れるようにして、おどおどと呟く緒垣・翠(空の青夕日の赤・d15649)とは対照的に、ガル・フェンリル(ダブル尻尾の狼わんこ・d24565)はワクワクと大きく二本の尻尾を振る。
    「大きい猫、もふもふすると気持ち良さそう! でも、私だって、もふもふなら負けないよ! 一杯遊んで、楽しむよ! わんわんおー!!」
     元気よく吼えて、いざ公園へと走っていく。その後を追って公園に入った後野・祭(大学生七不思議使い・d19479)は百物語で周囲の雑霊をざわめかせ、呟いた。
    「この前は猫神様、今回は巨大猫さん。いつも、もふもふな猫の都市伝説さんばかりだと、うれしいのですが……」
     その猫神様依頼で一緒だった柏木・イオ(凌摩絳霄・d05422)はうんうんと頷きつつ、サウンドシャッターを展開する。そこに榛原・七月(廃墟と悪戯・dn0228)の姿を認めると、軽く手を挙げた。
    「よ、七月! ヴァンパイア依頼ぶりだー♪」
    「ん。久しぶりー」
     頷いて挨拶を返す七月に、イオは少し胸を反らしながら言う。
    「何か七月と依頼行くって言ったら二人も付いてきたけど……まぁ、仲良くしてやってな!」
    「二人?」
     七月が首を傾げたその時、春兎が思いっきりハグ突撃をかましてきた。
    「七月くーん! 手伝いに来たよ! まだまだ寒いよね、風邪引いてない?」
    「あ、うん大丈夫……むしろ……ちょっとあつい」
     初っ端からのハグ攻撃に、七月が戸惑い気味に呟けば、小気味良いハリセンの音が響く。
    「やっほー、七月君、イオちゃん! 春兎君を見張りに来たよ☆」
     ハリセンツッコミしながら、ニコニコと言うのはレビ。はたかれた頭を押さえながら、
    「見張りだなんて、レビ君ってば心配性だよね。大丈夫、本筋から逸れるような真似はしないから! 巨大猫さんを温めるどさくさに紛れて、七月君に抱き着けるチャンスなんて微塵も思ってないよ……!」
     と春兎はいい笑顔でサムズアップした。絶対、少しは考えてる。七月の瞳に若干の呆れの色が浮かんだ。
    「……まぁ、ちょっとぐらいならいいけど」
     それはさておき。レビは朗らかな笑みを浮かべて言う。
    「まぁ、見張りっていうのは半分くらい冗談でー、俺にも大きな猫さんもふらせてー♪」
     そう、本筋はそれだ。その時、
    「わうっ、わんわんおー!」
     とガルの感激したような吼え声が聞こえてきた。

    ●もふもふん
     公園の真ん中に、ちょこんと座っているまだら模様の猫。ただし体長は3メートル越え。見上げないと顔が見えない。
    「わうー!」
     ガルがその大きさを確かめる様に、ブンブンと尻尾を振りながら周りをグルグル駆け回っている。猫はその様子を、くりくりと瞳を動かして見ていた。
    「猫……ちゃん……!」
     月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644)はきらきらと瞳を煌かせて手を組む。こんなにでかくても、やっぱり猫は可愛い!
    「おっきいにゃんこー! もふもふー! こんな都市伝説を生み出してくれて幼女ありがとうなんだよ!」
     垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)も大きく手を広げて、全身で喜びを表した。
    「おー……すっげー! でかにゃんこー! この間会ったのは幼稚園児くらいだったけど、今度は3メートル超かぁ……でけぇな、すげぇなっ!」
     猫を脅かさないよう、イオは小声で大はしゃぎ。その横で、ルティカ・パーキャット(黒い羊・d23647)は腕を組む。
    「話には聞いておったが、現物は更にデカいのお。教室にさえ収まらぬのではないかえ? 確かにこれを暖めるは至難じゃのう」
     だが、それでこそやりがいがあるというもの。ルティカは早速、持参したダンボールを敷き詰め、その上に緋毛氈をばーっと敷いて暖かい場所を作る。
    「冷えは足元からと云うでな。垰田殿、良ければ湯たんぽはこちらに置かぬかえ?」
     そう言って緋毛氈を叩くと、毬衣もそうだね、と頷いて持参した大きな湯たんぽにお湯を注ぎ、タオルでくるんでそこに置く。璃羽も買い込んだ巨大タオルや湯たんぽを一緒に置いてみた。
    「これ温かいよー、傍に置いてあげるんだよー」
     毬衣が呼びかければ、猫はくんくんと湯たんぽの匂いを嗅ぎながら緋毛氈の上に乗ってきた。すかさず、璃羽はキングなアレっぽく頭に王冠を被せてみ、毬衣は埋もれるようにして抱きつく。表面こそひんやりしているものの、埋もれてみればふわふわした冬毛がそこに待っていた。
    「はぁぁ……とってももふもふして柔らかくて温かいんだよ……」
     もふもふしながら、恍惚として呟く。灰色のトラネコ着ぐるみ装備で、あったかさも倍増!
    「にゃんこ、寒いのか? それならこうすりゃ温かいぞ!」
     イオもうりゃーっ、と抱き着いて埋もれに行く。こちらもコートにマフラーにニット帽、ホッカイロ装備であったかさ申し分なし。ぬっくぬくにしてやんぜっ♪
     レビも意気揚々とその隣にもふり突撃。
    「ふふ。大きなにゃんこさん可愛いねぇ、イオちゃん」
    「へへ、だよなー! めっちゃ和む」
     笑顔向け同意するイオに、レビはこれはオフレコなんだけど、と前置きして話す。
    「俺の双子の弟、密かに動物好きなんだよねぇ。この子見せてあげたいなぁ……見たらどんな反応するんだろう」
     考えながらもふもふ。祭もそっと手を伸ばして猫に触れた。
    「ふかふかですね」
     微笑む祭。翠もおそるおそる近づいて、そぅっと撫でてみる。ふわっとした感触が伝わってきた。
    「……あ……」
     その最高の触り心地に、翠もほっこり笑顔になる。そのまま勢いで抱きついて、ずぶずぶと顔をのめりこませていった。
    「ねっ猫ちゃん……かっ可愛い、ね……しっ灼滅、したく、ないなぁ……こっこんなに、おっおとなしいのに……」
    「です……ね。攻撃はせず遊んだりもふもふさせてもらって消滅狙いたい、です」
     もふーっとぎゅーっと抱きしめながら、噤も相槌を打つ。その一言で、戦わずとも消滅させられると気づいた翠はほっと安堵のため息を漏らした。戦闘して灼滅しなきゃいけないかな、と思ってたから。
    「よっよかった……猫ちゃん、き、傷つけたくない、もんね……」
    「はい、です」
     頷いて、ふと視界の端で揺れた月の飾りに目を向けると、七月がぽふぽふと軽く猫を撫でていた。
    「あ……七月先輩と月の飾りがお揃いなのです……です」
    「そうだねー、おそろい」
     頷く七月に、噤はさらに話しかけてみる。
    「猫好きなのですか? なら、一緒にもふもふしましょう……です……!」
    「うん、黒猫が一番好きだけど、それ以外のも好きー。もふろー」
     そうしてもふもふふわふわ。一方ルティカは、皆がもふっている隙を見計らい、ブラッシングを試みる。
    「毛と毛の間に空気の層を作ると温まるらしいでのう。乱暴にする訳にはいかぬで、丁寧にほぐしていかねば」
     意気揚々とブラシをかけはじめたルティカだがしかし、この大きさだとブラシをかけるのも一苦労。
    「うう、思ったより重労働のような気がして来たのじゃよ……」
     思わず弱音を吐く。かくなる上は、と一旦ブラシを置いて、既にブラシをかけたところをもふりにかかった。梳かす前とはまた違う、整って空気を含んだつやつやの毛並み。堪能できるのは梳かした我の特権じゃよ、とルティカは満足そうに体を預けた。

    ●あそぶ
     もふもふが一段落したところで、祭は
    「猫さん、猫さん。一緒に私達と遊びませんか?」
     と声をかけ、持ってきた魚を見せた。猫の髭がピクリと動く。
    「お魚を持ってきました。食べませんか?」
    「みゃん!」
     嬉しそうに返事して、ガバァっと口を開けてパクつこうとした、その牙が空を噛む。
    「ちょっとの間、お預けです」
     すかさず身を引いた祭が、魚をひらひらさせながら走り出す。まずは運動させて暖めることが先決。お預けをくらった猫は、不満そうに
    「みゃぁああああああ」
     と鳴きながら追いかけてきた。体が大きい分一歩の幅も大きく、追い付かれないように走っているだけで息が切れてしまう。でも、なんだか楽しい。しばらく追いかけっこを楽しんだ後、「お疲れ様でした」と撫で撫でして魚をあげると、猫は嬉しそうに一息で飲み込んだ。
    「私も負けていられませんね」
     璃羽も釣竿にリボンやらふわふわの飾りやら、色々つけた自作の猫じゃらしを取り出す。それを猫の前でひらひらぴょこぴょこさせれば、猫はじーっと飛び掛かるタイミングを見計らって、お尻をふりふり。可愛い。毬衣も、ぴょこぴょこ動く猫じゃらしにウズウズ。
    「がぅーっ! アタシも遊ぶー!」
     たまらず猫と一緒になって飛び掛かる。中身も獣のようだ。猫が飛びついた所を引いて、更に飛びつかせて。無表情ながら、璃羽は楽しそうにそんなお約束を繰り返した。
    「猫じゃらしが出たら大人しくはしておらぬじゃろうなあ……であれば、一緒に遊ぶとするかえ。ほらほら、こっちじゃよ」
     ルティカも赤い髪を軽く纏めてぶんぶん振ってみる。
    「あ、遊びますか? 遊ぶのにも付き合うです…です」
     噤も長いリボンを出してひょろひょろ動かしてみた。きょろきょろと交互に視線を動かす猫の目がだんだん大きくなる。
    「みゃっみゃっ!」
     カッカッ、と器用に両方にじゃれながら、「みゃぅ~」と時折先っぽを捕まえてガジガジ。リボンの噤はまだいいとして、髪を使ってるルティカは引っ張られてちょいと痛い。
    「こ、これこれ、あまり引っ張るでない……全く」
     苦笑しつつも、楽しげに目を細めた。
    「わうー、私もー!」
     ガルも自慢のダブル尻尾を猫じゃらしの代わりに見立て、ブンブン振って猫を誘う。すかさずじゃれてきた猫に、そのまま尻尾を強弱つけて振りながらガルは駆け出した。
    「わふわふっ! わふん!」
    「にゃぁー」
     楽しそうに追いかける猫。尻尾を振りながら、軽やかに駆けるガル。まるで動物映画のワンシーンのような追いかけっこ(※ただし猫は体長3メートル)がしばらく続いた末に、猫は捕まえた、とガルに飛びついてガジガジと甘噛みしながらぺろぺろ舐めてきた。痛いしべたべたになるけど、何か嬉しい。なお唾液で汚れた体は毬衣がクリーニングで綺麗にしてくれました。
    「皆でおしくらまんじゅうをやれたらやりたいです」
     祭のリクエストに、ルティカも大きく頷く。
    「押しくらまんじゅうもどんと来いじゃ! 皆で力いっぱい押して押して押しまくれ!」
    「がぅーっ、あっためてあげるんだよー!」
     すかさず毬衣が着ぐるみのまま飛び込んでぎゅーっと押す。
    「よしきたー。どすこーい」
     七月もぎゅっと背中を押し付ける。無表情だけど楽しそう。翠も傷つけないように、そーっと背中で押してみた。ふわふわの毛並みに体が埋まる感触はすごく気持ちよくって、温かい。
    「あっ、あ、あったかい、ね……で、でも、猫さん、いっ、痛くない、かな……?」
     気遣うように見上げる翠に、
    「ああ、相手が痛くないよう気をつけねば……と思うたが存外大丈夫かの?」
     ルティカも猫の顔を見上げて首を傾げた。何せこの巨体である。少々押された所でたいして痛くもないらしく、むしろ嬉しそうにむふー、むふーと鼻息を吐きながらぱたぱたと尻尾を振っていた。
     その光景を眺めながら、春兎もうずうずと両手を握ったり開いたりを繰り返す。いいなぁ、自分も男の子と温まりたい……(そっちか)。けど我慢我慢!
    「だってほら、この和み空間を壊すような真似は控えないとね? それに猫と戯れる美少年を見るだけで胸きゅん心の芯までぽっかぽかだよ……!」
     自分に言い聞かせるように呟く春兎に、イオは
    「春兎もそんなとこ居ないで来いよなー!」
     と手招きする。
    「一緒におしくらやるー?」
     七月もそう手招きすれば、
    「キミと!? 喜んでー!!」
     途端に飛びついてぎゅーぎゅーしてきた。
    「……あったかいけど、これをおしくらまんじゅうとは言わないよね……」
     春兎の腕の中で、七月が小声で突っ込む。
    「全くー、仕方ないなぁ。イオちゃん貸してあげるから落ち着いて?」
     どうどうと春兎をひっぺがしつつ、レビはさっとイオを差し出した。
    「ちょっ……レビ!? いや、春兎も待てってー!! てか貸すって、俺はお前のじゃないぞ!」
    「あはは☆」
     イオの非難は笑って誤魔化し、レビは引き続き猫もふもふ。イオがじたばた暴れるのもなんのその。春兎は慣れた手つきで押さえ込んで、ぎゅっと抱きしめる。
    「ぬくい可愛い……」
     ほくほくしながら、姿を消した弟を思い出し、春兎はもっとぎゅぅっと強く抱きしめた。

    ●そして……つかれてねむる
     一通りの遊びが終わると、猫も少し疲れたのか。ぐーっと足を伸ばして寝転がった。ガルはそのまま猫に寄り添うように寝そべりつつ、尻尾でモフモフしてみる。もう片方の尻尾もうまく使って、仲間もモフモフしてみた。ちょっとくすぐったいけどふかふかであったかくって、噤ははにかむ様に微笑む。春兎の抱擁から解放されたイオも、猫の顔の方に行って頭の上や顎の下を撫でてやった。
    「うりゃうりゃ。ここ、気持ちいーか?」
     猫は気持ちよさげに目を細めてごろごろと喉を鳴らしている。かなりリラックスしてるっぽい。今ならいけるんじゃないかと、璃羽はそっと前足に近づいた。目的はもちろん、肉球。猫と言えば肉球。魅惑のぷにぷに、触らずにおられようか。いや触るでしょう……とセルフ反語しながら、ゆっくり優しく触ってみる。
    「にゃぁぁぁぁ」
     それでもやっぱり触られるのは嫌らしく、猫は低い声で鳴きながら爪を立ててくる。でももうちょっとだけ……と触っていたら、びたんと踏みつけられた。
    「だっ、だ、大丈夫……!?」
     心配そうに駆け寄る翠に、
    「いえ、むしろご褒美ですありがとうございます」
     璃羽は無表情のまま満足そうに答える。肉球の下敷きになったまま。これが一番巨大な肉球を堪能できる気がする。全身で肉球のぷにぷにを味わえる! あの独特の匂いを嗅ぎながら、肉球をふにふにと触ってみて、
    「これは富士山型……っぽいですね。富士山のように自分がトップにならないと気がすまない、常に自分が注目を集めていないと満足できないので、飼い主の気を引くためイタズラを仕掛けることもしばしば……だそうです。本当かどうかは分かりませんが」
     と性格判断をしてみる。手相ならぬ、肉球相というのがあるらしい。当たっているかどうかは神のみぞ知る。
     ともあれ。璃羽が肉球を堪能し終わって這い出してくると、猫は前足をたたんで座り直した。もう触られないように、という意味ではない。これは香箱座り、猫がリラックスしている時にやる座り方だ。それを見た噤はそっと話しかけてみる。
    「ふかふかな感触を心に焼き付けたいのです……その背中にも乗せてもらえますか?」
     猫はみゃ、と肯定するように短く鳴いた。ありがとうございます、とお礼を言って、ダブルジャンプを使ってその背によじ登る。いつもより高い目線で眺める景色も、ふわふわな感触も、心地良い。暫し背中からの眺めを楽しんだ後、ぽふっと抱きついてもふもふに埋もれてみる。柔らかくて、暖かい。
    「猫ちゃん可愛いです……です。ずっとこうしてもふもふにうずまっていたいのです……です……」
     まどろんでいるうちに、いつしかすやすや。気が付けば、猫を含め、皆が陽だまりの中で暫しうとうととしていた。もふもふして、皆で遊んで、お昼寝してあったまって。心地良さそうに喉を鳴らす猫の姿が、次第に薄らいでいく。
    「満足できましたか」
     璃羽がそっと頭や首を撫で撫ですると、猫は「んみゃぁ」と微かに鳴いて頭を擦り付けてきた。
    「私と一緒に来てくれますか?」
     祭が前足をとって問いかけると、猫は「にゃおん」と頷くように一声鳴いた。そのまま、消滅すると同時に吸収されていく。
    「……わんわんおー!!」
     その光景を眺め、ガルが大きな声で吼える。
    「猫ちゃんありがとうです」
     噤がぺこりと頭を下げ、毬衣は猫が消えていった跡を名残惜しげに見つめていた。
    「もっもうちょっとだけ、ナデナデ、しっしたかったな……」
     翠も少し残念そうに呟く。
    「後野どのに吸収してもらえたのじゃし、また会えれば良いのじゃが。また皆でもふる機会があると良いのぅ」
     ルティカも呟き、
    「あー……何か名残惜しいな。そうだ、折角だし公園の野良猫たちと遊んでいかね?」
     イオの提案に、皆が諸手を挙げて賛成する。
    「よーし、まだまだ遊ぶんだよー!」
    「わんわんおー!」
     楽しげに駆け出していく仲間達を眺めながら、
    「おっお姉ちゃん、猫ちゃん、好きかな……」
     と翠はふと義姉を思い呟く。
     灼滅者達のもふもふタイムは、まだまだ続きそうだった。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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