鬼が来たりて豆を撃つ!

     これは、神西・煌希(戴天の煌・d16768)が聞いた噂の一部始終である。
     都内の郊外にある、一軒のコンビニ。その片隅に、見切り品コーナーがある。
     うずたかく積み上げられたのは、豆の袋。節分で売れ残った、豆まき用の豆である。
     だが、時期が過ぎればただの豆。顧みられることもなく、皆が通り過ぎていく。
     しかしある時間になると、決まってロングコートの男が現れる。
     頭に2本の角。顔は赤く、首には虎柄のマフラー。そして両手にはショットガンが一丁ずつ。
    「豆をぶつけたくてうずうずするぜ。ひゃっはぁー!」
     奇声一発。ショットガンをぶっぱなすと、周囲の人間を構わず撃ち抜く。
     その弾丸は、豆である。ただし、サイキックエナジーで強化された、強力な弾丸だが。

    「神西先輩が聞いたという都市伝説の出現を予知したぞ」
     初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)の招集を受け、煌希もまた、教室を訪れていた。
    「節分で売れ残った豆の無念が、鬼と化して復讐に現れる……そんな噂がまことしやかにささやかれていたのだが、それが実体化してしまったようだな。都市伝説、その名も『ビーンズガンナー・オーガ』」
    「めっちゃ強そうだなあ。名前だけは」
     一説には豆まきは夜に行うとよいとされる事からか。
     この都市伝説は、午後六時ごろになると見切り品コーナーに出現し、だれかれ構わず、豆の弾丸をぶっ放す。
    「まかれる事のなかった豆のフラストレーションが暴発し、トリガーハッピー状態になっているのだな」
     基本的には、コンビニ店内が戦場となる。遮蔽物などを利用する事が、戦闘を有利に運ぶ要因かもしれない。狭いスペースでの戦闘は、灼滅者の腕の見せ所だ。
     オーガは、二丁のショットガンを駆使して銃撃を行う。装填された弾丸は豆……。
    「つまり、豆鉄砲ってことかあ」
    「うまい事言うな先輩……」
     手を打った煌希を称賛する杏だが、ビハインドのニュイはスルーであった。
     敵のサイキックは、全て遠距離攻撃に特化している。ポジションは、当然のようにスナイパー。
     もっとも、相手の戦闘スタイルに合わせる必要はこれっぽっちもないので、近距離戦を挑むのも悪くないだろう。
    「鬼を退治する豆、それをまく鬼をこちらが退治するわけか。ややこしいな……。せいぜい派手に退治して……はダメか。店内だしな」


    参加者
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    皇・銀静(陰月・d03673)
    火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)
    月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)
    蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925)
    ライ・リュシエル(悪夢から逃げたい・d35596)
    加持・陽司(炎の思春期・d36254)
    柚木・柚香(マジカルゆずりん・d36288)

    ■リプレイ

    ●豆を撃つ鬼、怖い鬼
     ここはコンビニのバックヤード。
    「ここは僕に任せて。君はゴミ捨てやっといて」
    「あっ、はい」
     同僚から言われ、若い店員が片付けを始めた。
     同僚の正体は、変装した神凪・朔夜(月読・d02935)。プラチナチケットのお陰で、すっかり溶け込んでいる。
     店員がゴミをまとめるのを見届けると、朔夜は店内に移動する。するとちょうど、蒼上・空(空の上は蒼き夢・d34925)が殺界形成で、客を人払いしているところだった。
     客達は、買い物、あるいは立ち読みを切り上げ、足早に退店していく。
    「よし、こっちは準備OKっす!」
     店内を再確認し、加持・陽司(炎の思春期・d36254)が、皆と共に店内に身をひそめる。
     その位置取りには、皇・銀静(陰月・d03673)が、事前にチェックして得た情報が生かされている。
    「店内は自分達だけになりました。後は、オーガの出現を待ちます」
     火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)が、携帯電話を介し、状況を店の外にいる別働班に伝える。
    「了解です」
     携帯のスピーカーから聞こえた連絡に、月影・木乃葉(人狼生まれ人育ち・d34599)が応じていると、店員さんがゴミ捨てに出てきた。
     それを、ライ・リュシエル(悪夢から逃げたい・d35596)が、魂鎮めの風で眠らせ、安全な場所へ連れ出す。
    「少しの間だから、大人しくしててね」
    「こちらも下準備はおしまいですね。まだまだ寒いですから、これで体を温めてください!」
     そう言って、柚木・柚香(マジカルゆずりん・d36288)が皆に手渡したのは、ゆずレモンだった。ちゃんとホットである。あたたかーい。
    「羅刹とは戦闘経験がありますが……人の想像する鬼と羅刹……その違いを見るのもまた一興でしょうか」
     冷える体を温めながら、銀静がつぶやく。
     都市伝説の出現時間は、刻一刻と迫っている。

    ●無念の具象はトリガーハッピー
    「豆まきの時間だ、ひゃっはぁー!」
     午後六時を知らせる店内放送に、陽気な歓声が被った。
     トレードマークのロングコートを大仰に翻し、現れたのは鬼男……ビーンズガンナー・オーガ。
     あたかも見切り品コーナーの主であるかのように、雄々しく仁王立ちする。そのショットガンのトリガーに指がかかった瞬間。
    「豆まきするなら、いい的を提供するっすよ!」
     通路を占拠するライドキャリバー。陽司の相棒・キツネユリだ。
     すぐさまそちらをターゲットするオーガを、反対側から飛び出した空が、挟みうつ。
    「そんなに豆をぶち撒けてほしけりゃやってやるさ、鬼は外ってな」
    「あのね、オーガさん。節分はもう終わってるよ? 今更何やってるかな?」
     朔夜が言うなり、オーガが天井に威嚇射撃した。
     だが、その発砲音は明のサウンドシャッターに阻まれ、外には届かない。
    「見てわかるだろ? ……豆まきだ」
    「いやそれもう豆まきじゃないし。大体、鬼でしょ? 豆まかれる側が何故豆まいてるの?」
    「豆はまかれるものって決まってるだろ。それ以上の理屈がいるかよ?」
     朔夜がオーガとやり取りするうちに、明は、外班へ再び連絡を入れた。
    「というわけで、オーガが出ました。よろしくです」
    「それじゃあ、いきましょう」
     木乃葉の合図で、突入する店外班。入店を知らせるチャイムが、オーガを振り向かせた。
    「新しい的か? いらっしゃいませ!」
    「いらっしゃいました! まかなくてもいい豆が泣いている! マジカルゆずりん、見・参!」
     びしい、ときっちりポーズを決める柚香。
    「可哀そうだけど、好きに暴れさせる訳にはいかないんだ」
    「都市伝説の鬼、やはり独特の存在感がありますね」
     入り口側から挟撃する銀静、そしてライ。都市伝説の暴走は、元をただせば人の噂が原因。しっかりと、眠らせてやらなければ。
     8人と1台と1匹が、包囲網を形成した。しかし、オーガがひるむ様子は、微塵もない。
    「豆の念なら豆らしく摩滅してください……」
    「はッ、こんだけ的がいりゃ、さぞかしいい厄払いになるだろうさ。楽しい豆まきの始まり始まり、ってな!」
     木乃葉の言葉を鼻で笑い飛ばすと、オーガが犬歯をむき出しにした。

    ●今宵の戦場、便利で狭い
    「店には極力被害を与えないようにしないといけませんね」
     明と朔夜が、ダイダロスベルトを精密に繰り、オーガの間合いを侵食する。
    「くらいやがれ!」
     人が変わったように勇ましい声が、朔夜の口からあふれる。
     迎撃に放たれた豆を弾きつつ、二条のダイダロスベルトがオーガの四肢を、次々と刻む。
    「ちっ、自慢のコートが!」
    「鬼を気取るなら、格闘も少しは気取るべきでしたね」
     銀静が間合いを詰めつつ、オーガの巨躯を蹴り飛ばす。交叉させたガンでガードするも、衝撃は殺しきれず、床を転がる。
     だが、すぐさま体勢を整えると、オーガが双のショットガンを融合させた。瞬時に1つの砲を形成すると、空を砲撃した。
    「どうした!? そんなんじゃ餓鬼の一匹も追っ払えネェぞ!」
     衝撃と圧力をこらえつつ、空は反撃した。栄養ドリンクコーナーから、オーガのいるドリンク系冷蔵庫へと疾走。杭打機で貫通する。
    「楽しんでくれよ? こっちも楽しませてもらうからよォ!」
    「なら、撃たれても泣くんじゃねえぞ?」
     分離された銃が、火を噴いた。いや、豆を噴いた。
     ほぼゼロ距離からの発砲をかわし、棚に身を隠す空。
     そこに合流すると、ライがダイダロスベルトを巻き付けた。傷を受けた部分を治療と同時に、強化するように、鎧をくみ上げる。
    「これで大丈夫」
    「助かる。即席防弾チョッキってとこか?」
     短く言葉を交わす2人の横を、木乃葉とオーガが通り過ぎていく。
     木乃葉は手甲を構えると、
    「そっちが豆鉄砲なら、こっちは手裏剣です!」
     コートを翻し、連射された手裏剣を防ぐオーガ。しかし、何枚かがガードを破り、その身を毒に浸す。
    「食い物の豆を毒入りにしようってか! 粗末に扱うもんじゃないぜ」
    「そういう自分が一番食べ物粗末にしてるじゃないっすか!」
     うめくオーガを、陽司が論破した。……しっかり棚の陰に隠れながら。
    「出てこいチキン野郎!」
    「うわ!」
     足元を豆弾で穿たれた陽司は、キツネユリとともに、鋼の弾丸をお見舞いした。
     一度引き金を引けば、途端にトリガーハッピー。落花生ガトリングVS豆鉄砲。
    「どうっすか!? 出てこいって言ったのはそっちっすからね!」
     撃たれても平気……とは言わないが、オーガはむしろ楽し気にショットガンをリロードする。その手順は滑らかで無駄が無い。
    「愉快な豆まき、第二幕の始まり始まり、ってな!」
    「外に撒いた豆は食べれなくなって残念なのですよ。折角それを免れたのに、撒きなおそうなんて、食材が泣くのです」
     移動してくるオーガを急襲したのは、柚香。
     拳型祭壇を振りかぶると同時、オーガも銃口を向けるが、柚香が一瞬早かった。
    「食材を救えとゆずが叫ぶ! マジカルユズパーンチ!!」
    「ぐほおっ!」
     柚香は一発くれてやると、すぐさまスイーツコーナーの陰に離脱する。
    「にしても、意外とやりますね」
     銀静が、銃創を自己回復しつつ戦況を窺う。
     何せオーガの射程は、店内全て。しかも、こちらの盾役をすり抜けて狙ってくるので、一瞬たりとも気が抜けないのだ。

    ●オーガ、ゴーホーム
    「見たところ、やはり格闘戦は苦手とみました」
     床を蹴り、駆ける明。後退しようとするオーガに追いすがり、火炎蹴りをヒットさせる。火炎魔法(物理)である。
    「俺が豆を一番うまくばら撒けるって事を教えてやるぜ!」
     ばららっ! 明に吹き飛ばされながらも、オーガが射撃した。
     視界を豆色で埋め尽くす弾丸から逃れる術はなく、ライと陽司が、その餌食となった。
    「やってくれるじゃねえかっ!」
     クルセイドソードで豆弾を弾きながら、朔夜が、オーガを袈裟切りにした。
     仰け反るオーガの視界の端で、空のバベルブレイカーの推進器が、火を噴く。
    「風よ! 鈴の音の響を持ちて厄をば払わん!」
     オーガの腹部をえぐる空の耳に、しゃらん、と涼やかな音が響く。
     ライが鳴らした鈴が、癒しの風を呼ぶ。それは自らと、傷ついた陽司を優しく包む。
    「節分の豆だからって、それ以外にも意味はあるでしょうに」
     オーガの厚い胸板に、銀静の拳の乱打がめりこむ。その速度は、豆弾の連射速度にも劣らぬ。
     拳が引かれた一瞬の隙を見抜き、ショットガンを突きつけようとしたオーガ……その腕が、強引に引っ張られた。
    「忍法、影縛り……なんてねっ」
     組んだ指で忍者のようなポーズをしながら、ぺろっ、と舌を出す木乃葉。遮蔽物の影さえも利用したのだ。
    「さっきから邪魔しやがって……おうっ!?」
     オーガを驚かせたのは、棚の上から斬りかかった霊犬・幸茶。
    「豆は食べる事が第一の利用法なのです! マジカルユズシュート!!」
     反射的に銃を向けた時には遅く、柚色の気をまとわせた柚香の、キックが炸裂した。合わせて、捕まりそうになっていた幸茶を奪還する。
    「あいつ、もうふらふらっす! そろそろ決めるっすよ!」
     ここぞとばかり、陽司が弾丸を乱射する。
    「鬼は外……っていう事で、ぶっ飛びやがれ!!」
     仲間の援護を受けた朔夜の鬼の腕が、オーガを店外へと殴り飛ばした。
    「たっぷりと撒かせてもらったぜ……またな」
     にいっ、とニヒルな笑みを浮かべたかと思うと、オーガが無数の豆に分解し、消えた。
    「ごめんね。人の無責任な噂に巻き込んで……おやすみ」
     ライの言葉は、消えゆくオーガに届いただろうか。
    「ダイナミック豆まき、これにて終了ですね……」
     ふう、と一息つく木乃葉。
    「さて皆さん、怪我の手当てをしないといけませんね」
     銀静が振り返る。重傷者こそいないものの、無傷な者も1人としていなかった。割と恐るべし、豆まき鬼。
    「これでよし、と。後は、取りあえず……片付けますか」
    「ですね」
     銀静に頷き、店内の片付けに取り掛かる朔夜は、すっかり穏やかさを取り戻している。
     それとは裏腹に、店内はすっかり荒れていたが。
    「わかっていた事とはいえ、これ、学園がなんとかしてくれないものでしょうか?」
     丁寧に床を掃除しながら、明が本音を口にした。
     陽司や木乃葉が、元凶ともいえる、見切り品の豆を手に取る。
    「また都市伝説になったりしたら困りますし、一袋おやつに……陽司くんも?」
    「そうっす! いやあ、食べ物を武器にするとは全く悪いやつっすね」
     ほりぽりと豆を食べる音を耳にしながら、おまけの鬼面を拾い、空がつぶやく。
    「そういややってネェな、豆撒き……来年は考えてみるとするかね」
    「あの、豆もいいですが、ゆずのよさも1つ!」
     威勢の良い声に皆が振り返ると、そこに、ゆずレモンジュースをたっぷり抱えた柚香の笑顔があった。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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