これは、予兆!?
まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!
予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
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「みんな、琵琶湖大橋の戦いお疲れ様。みんなのおかげで大勝利を収めることができたんだよ!」
有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)が灼滅者達を労う。有力者を灼滅や撤退に追い込み安土城怪人達の組織は遠くない内に自壊するだろう。
「ただ軍艦島勢力と合流した白の王の勢力は強化されたんだ。ボク達と違う予知能力を持つ『うずめ様』、盤石の拠点を生み出せる『ザ・グレート定礎』、ソロモンの大悪魔『海将フォルネウス』、セイメイと同じ『王』の『緑の王アフリカンパンサー』……これまでセイメイのやらかしてきたポカを帳消しにするくらいの力、なんだけど……」
クロエは不敵に笑うと次の言葉を放つ。
「招き入れる事自体がポカだったんだよね。大勢力だからどうしても目立つんだけど、それをクロキバになった白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)さんが見つけて学園に連絡してくれたんだ。場所は富士の樹海。そこに白の王の迷宮があるんだ」
その事実が分かった事で突入作戦を行える。
「ただ武蔵坂学園全てで突入することは数的にできないから、みんなにはこういう感じで集まってもらったんだ。こんなタイミングは1度きりだから慎重かつ大胆に作戦をまとめて攻略して欲しいんだ」
なお退路は迷宮を内側から攻撃すれば外にはじき出される仕組みらしいので緊急脱出が出来るらしい。安全の確保は簡単だがその分、迷宮を直接破壊するということはほぼ不可能なので気を付けたほうがいいだろう。
「なんだかんだで武蔵坂学園と長い因縁のセイメイだけど、やっとここでとどめを刺せる可能性のあるこの作戦はとても重要なものになると思う。迷宮からの撤退は簡単だけど、逆に踏み込める戦力は多くないから目的をきちんと定めたほうがいいかもしれないね。白の王を灼滅できればきっと色々な事が動くと思う、例えばクロキバとなった白鐘さんを闇堕ちから救出すること、とか。田子の浦で逃した敵もここで決着をつけられるかもしれない。……それじゃみんな、頑張ってね」
参加者 | |
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石弓・矧(狂刃・d00299) |
アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160) |
ミネット・シャノワ(白き森の旅猫・d02757) |
久織・想司(錆い蛇・d03466) |
月見里・无凱(深遠揺蕩う銀翼の泡沫・d03837) |
野乃・御伽(アクロファイア・d15646) |
新路・桃子(パスティヤージュ・d24483) |
土屋・筆一(つくしんぼう・d35020) |
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富士の樹海、一般にそう言われているそこは草木生い茂る観光名所であり、同時に自殺の名所とも呼ばれる場所である。そこに不死の王にして白の王のセイメイが迷宮を構えるのはあまりに嵌りすぎていた。ましてや富士は不死とも書くという胡散臭い話も揃えばここに極まりだろう。
けれどもそんな与太で灼滅者は楽観はできない。森の中を歩いている中でも灼滅者達の表情からは緊張が消えない。
「……彼も思わぬところでツキに見放されたものですね?」
ミネット・シャノワ(白き森の旅猫・d02757)がなるべく木の根を避けるように歩を進めながらこの先にあるであろう迷宮の主について零す。
「ん? あ、はい」
石弓・矧(狂刃・d00299)がはっと彼女の言葉に返す。彼もまた足元に気をつけていたものの、どちらかと言うと何か彼にとって恐れるものがいないかを探していたようだ。
「……?」
久織・想司(錆い蛇・d03466)が矧の表情に胡乱げな視線を向ける。どうも白の王以外に目の前の彼には懸念すべき事項があるようだがそれが何かは分からない。そんな彼らの様子よりはミネットの言葉に意識を裂かれた野乃・御伽(アクロファイア・d15646)が小さく肯定する。
「ああ。まあそんなもんさ」
自分のどうしようもないところで致命的な何かが起きるなんていうのは、どこにでも転がっているありふれた事情に過ぎない。
「まあ……こちらにとっても今のクロキバの行動は予想外だったわけですが」
「それで丁度良いのさ。全部掌で動かしているつもりのセイメイに泡を食わせるにはこれほどおあつらえ向きなのはないね」
新路・桃子(パスティヤージュ・d24483)が嘲るようにミネットの言葉に答える。
「そうですね。セイメイや他の敵を倒すにはまたと無いチャンスです。必ず倒しましょう。有り触れた悲劇を起こさせない為に」
アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)がこれから自分達が戦うべき相手を思い浮かべて瞑目する。彼らが目指すは緑の王アフリカンパンサー。彼女と白の王の首級を取れば『王』を同時に二体倒せる事となる。
「見えてきました、あれが入り口のある風穴でしょうか?」
土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)が指し示す先には岩で囲まれた穴が大きく開いていた。既に何組かの灼滅者達が足を踏み入れているようだ。彼らも風穴に潜り込み先を急ぐ。
各々の明かりを頼りに彼らが進めば彼らの前に不可思議な壁が出迎える。壁と迷宮が二重に重なって見えるそれに、他の灼滅者達が体当たりをするように飛び込めばするりと中に入り込むように消えていく、これが『入口』なのだろう。彼らも戦いが近いと即座にスレイヤーカードから力を引き出す。
「総てを肯定し抗い続けるEndless Waltz!」
月見里・无凱(深遠揺蕩う銀翼の泡沫・d03837)の解除の言の通り、この戦いの先に一応の決着はあるだろうか。
●
白の王の迷宮。そこは通路でさえも思いの他広く、ゆうに複数の班が同時に通れるくらいの横幅があった。また彼らと目的を同じくするアフリカンパンサー狙いの班とも同道となる。少なくとも目的である強敵のアフリカンパンサーを少数で倒すことは難しく、また移動中に遭遇する敵も素早く倒せれば敵に悟られることも減るだろう。迷宮内では生憎と通信機器が使えなかったが、それは向こうも同じ条件のはずだ。彼等は少数のアンデッドを時折駆逐しつつ、上層の温暖な道を選んでいく。
(「協力プレイもワクワクしますね」)
矧が蛇に変身して角の先を窺いに行っている間に想司が声にならない声で小さく呟いた。普段ではあまり無い――最近は多いが――大きな作戦ではこういう機会も良くある。息を殺して帰って来た彼を迎えると、彼は御伽に向かって首を横に振る。
(「グレート・ザ・定礎?」)
桃子が口だけを動かして何がいたかを訊けば、矧はやや苦みばしった表情で頷く。灼滅者達は流石に迂回しての別ルートに向かう。やや時間はかかってしまうが前哨戦にしては似が勝ちすぎる。
(「この植物は……アフリカのものですね」)
筆一が自らの持参したスケッチと見比べて辺りに生えている植生を確認する。
(「『アガルタの口』になりつつあるようだね」)
无凱は記憶の中にあるそれと同じものがあるのを見てアフリカンパンサーが近いことを察する。
(「見てください、あれアフリカンご当地怪人じゃないでしょうか?」)
ミネットの指す方向には油断しきっているご当地怪人の姿があった。他の班の仲間達と目配せをして、一気に踏み込む。この場でこの程度の相手に手間取っている時間は無いのだ。
(「行きましょう。ここで時間をかけるわけには行きません」)
アルヴァレスをはじめ灼滅者達はご当地怪人を蹴散らしていく。
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ばしゃり、迷宮内に水が跳ねたような音が響く。踏みしめる異国の草と鑑みてみるのなら川で水浴びしている野生動物の映像が浮かぶ。けれどもここは迷宮の奥、ならばその音を出している相手は。
(「……いよいよ、ですか」)
他の班の様子もこの先に何がいるのかを悟っているようだった。御伽は桃とアルルーナと目配せして意を決して行くべき方向へと視線を向ける。そこには水浴びをしているアフリカンパンサー、隙だらけの今ならば打ち取れるだろう。
――一斉に駈け出した。繰り出されるサイキックの嵐、そしてそれら不意打ちに対していち早く身構える緑の王アフリカンパンサー。
「あれっどうしてかな、どうしてかな? こんなところに灼滅者!」
「王の一角、とらせてもらいます」
矧の言葉の通りの灼滅者達の猛攻を前に、手にしたガイオウガの力の篭った骨で灼滅者達の前衛をなぎ払う。
「へえ、やるじゃないか」
想司が仲間達を守りながら受けた一撃に対してそう評を下す。だがそれは彼の愉しみが溢れて軽く聞こえるに過ぎない。実際にはまるで油断ならないほどの威力を誇っている、複数を相手取る攻撃の威力としては高い。
「い、今癒やします!」
筆一が前衛に向かって癒やしの霧を放つ。ガイオウガの力に依ってか身についた炎の幾ばくかを振り払う。それでも全く油断ならない相手だ。
「何しに来たのかな? 覗きかな?」
泉から出ながら放った蹴りが灼滅者の一人を吹っ飛ばす。複数相手の攻撃で高い威力ならば、それが一人に向けば即戦闘不能すらありうる。
「これがガイオウガの力ってやつか」
いとも容易く狙いすまされたクロスグレイブの一撃の威力を削がれて御伽は口角を上げる。
「自分で在り続けるためには、贄を要求する神なんて居ちゃあいけない。殺してしまわなくては」
赤黒い霧の奥から鬼灯色の瞳を輝かせて桃子は吐く。刃は相手に届かないものの、意識を向けさせて別の刃を案内する。自らに殺到する攻撃を受け、あるいは払いながら怒りの表情を浮かべてアフリカンパンサーは呟く。
「こんなに簡単に侵入されてるなんてね。――しっかりしてほしいな!」
再びガイオウガの骨が振り回される。無論只で済む一撃ではないがギリギリで耐えられないこともない。またアフリカンパンサーもアガルタの口の影響か徐々に回復しているようだが、それを差し引いてもこの勢いなら灼滅できそうだ。
「行けそうだね」
「ここで終わりにさせてもらいましょう……!」
无凱とアルヴァレスが全力で攻撃を叩き込む。激戦にはなるだろうがこのまま行けば勝利をおさめることが出来るだろう。だが。
「そこまでです。それ以上の弱い者いじめは許しませんよ」
「さゆきっち!」
●
突如緑の王との戦いに冷気とともに現れたのは田子の浦の戦いで闇堕ちしてそのまま消息が不明だった加賀谷・彩雪(永遠なる天花・d04786)その人だった。六花の女王とも言える姿は闇堕ちする前の幼い姿とは大きく違う。そして更にその後ろから現れるものがいた。
「この迷宮は最早磐石では無い。撤退するぞ」
重い声の持ち主、それはザ・グレート定礎だ。確かにこの戦場とグレート定礎がいたと思われる場所は近かった。それがこのように影響しようとは。
「グレートも来てくれたの! わかったよ、地下の研究は興味深かったけど、しょうがないね」
突如敵側に現れた増援、そして彼等は撤退の意思を見せるがアフリカンパンサーの灼滅を目的に来た灼滅者達にそれを許す道理はない。
「いい機会です……貴様等を灼滅する……詫びる積もりは無い…!」
「今の貴方達にできるかしら?」
彩雪はふんわりと此方側の前に立ちふさがる。他方にもアフリカンパンサーとグレート定礎がそれぞれの班を前にしている。
「……してみませましょう」
「これ以上の言葉は不要でしょう?」
ミネットと矧が目の前に現れたダークネスの向こう側へ至るために武器を構える。そして灼滅者達に呼応するよう凍てつく吹雪を彩雪が放ち前衛を凍らせていく。
「……今は耐えられますけど、ですが……!」
筆一とミネットが前線の傷を癒やす。彩雪単体だけならばまだなんとかなる相手だ、けれども灼滅者達はアフリカンパンサーとの戦いで受けた傷がまだ残っている。
「不測の事態って言うモノ……面白くなってきたじゃないか」
「この氷と俺の炎、どっちが先に音を上げるか」
桃子と御伽が不敵な笑みを浮かべて果敢に踏み込んでいく。対する彩雪は迫り来る相手に対し、氷の礫を放ち更に熱を奪っていく。
「楽しい事この上ないですね」
想司の傷が増えるごとに口元の角度が上がっていく、だがそれは灼滅者達に限界が来ていることを示している。
「ぐっ……!?」
ついに、倒れた。无凱だ。これまで回復と意思で立っていたが流石に力尽き、影技も使い手の意識とともに消えていく。
「……これであなた達は彼女を倒せませんね」
彩雪の言うとおり攻撃の要である无凱を失った状態では、彩雪を倒せたとしてもアフリカンパンサーを倒すのは至難の業だろう。アルヴァレスだけでは足りまい。そして他方の戦場もダークネス達が勝利を収めようとしている。
「それでは」
彩雪が振り返ればグレート定礎とアフリカンパンサーが彼女を待っていた。
「ごめんなさい、遅れました」
「長居は無用」
「そうだね! 二人共行こう!」
灼滅者達はそうやって迷宮から撤退していく3体のダークネスを見送ることしかできなかった。
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重い空気が場を支配する。乱入者がいなければ恐らくは倒せていたであろう。だが取り逃がしてしまったのは仕方がない。本命のセイメイが打ち取れていることを期待するしか無い。无凱の傷を癒しつつ、後悔の滲んだ表情を筆一は浮かべている。
「……ゾンビ?」
桃子が近くまで近づいてきた存在を見て立ち上がる。無論彼女だけではなく他の戦える灼滅者達もだ。目に見える限り大した強さではない。無理せず撤退する班の後を引き継ぎ少数のゾンビ達を蹴散らしていく。
「……だが何だ、この違和感は」
御伽は訝しげに攻撃しながら呟く。想司は手応えのない相手につまらなさそうだが。あっさりと片付けるとアルヴァレスが言葉を贈る。
「さようなら、黄泉路にお気をつけて」
そんな中ミネットが目をつぶり何事かを考えている。そんな中矧は徐ろに口を開く。
「帰りましょう。私達の出来る事は終わりました」
斯くて灼滅者達は迷宮を後にする。彼等がこの迷宮で何が起きていたのかを知るのは出てからであった。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年3月2日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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