富士の迷宮突入戦~白の王の懐深く

    作者:六堂ぱるな

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     
    ●喉笛に食らいつけ
     最近は大規模作戦の周知が珍しくない。呼集に応じた灼滅者たちの前に現れた埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)が一礼した。
    「先の琵琶湖大橋の戦いでは学園と天海大僧正側の大勝利となり、安土城怪人を撃破したことでかの勢力は自壊寸前に追い込めた。諸兄らの奮戦に感謝する」
     安土城怪人勢力の残党は、今は本拠地だった竹生島に立て籠もっている。しかしカリスマだった安土城怪人を失い、グレイズモンキーは戻らず、中立の立場ながら高い支持を得ていたもっともいけないナースが灼滅されて、多くの者が離散し見る影もないという。
     一方で田子の浦の戦いでの学園側の被害は甚大だ。軍艦島にいた勢力は白の王セイメイに合流して、これまでの彼の失策を補うに余りある勢力を為している。
    「田子の浦での行方不明者は全力をもって捜索するが、改めて諸兄らに対応を願いたい事案が発生したので説明する。というのも、白の王セイメイの迷宮の所在が明らかとなった」
     教室にざわめきが広がった。

     一報をもたらしたのは新たなクロキバである白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)だった。
     軍艦島勢力のうずめ様、ザ・グレート定礎、緑の王アフリカンパンサー。そしてソロモンの大悪魔のひとり、海将フォルネウス。彼らを迷宮へ招き入れたセイメイは、入口をクロキバに発見されたのだ。
    「迷宮の入口を通過できる人数には限りがあり、学園の全軍をもって挑むことはできない。そしてこの機を逃せば、迷宮に再び侵入することは不可能だ。これは白の王セイメイだけでなく、田子の浦の戦いでは不可能だった、軍艦島勢力のダークネスを討ち取る千載一遇の好機となるだろう」
     狙うべきは敵の首ばかりではない。白の王が長い時をかけて準備してきた作戦が何かは不明のままだ。それが人に害を為すものなら放っておくことはできない。

     とはいえ、迷宮内部の詳細はわからない。確かなのはセイメイの迷宮である以上、アンデッドが多数出るだろうことぐらいだ。
     注意せねばならない点として、白の王の迷宮には防衛機構がある。内部から迷宮を破壊しようとすれば外へ弾きだされるのだ。これは逆に、迷宮内で危機に陥った場合、迷宮自体を攻撃することで緊急脱出ができるということでもある。
    「迷宮そのものへの破壊工作は出来ないが、安全に戦線離脱ができるのはメリットだ。考慮に入れて作戦行動を定めて貰いたい」
     脱出は容易だが、敵の拠点を制圧するには戦力が足りない。向かう班それぞれが明確に作戦目標を絞り、効率的な作戦行動や役割分担が必要となる。
     また、白の王セイメイを灼滅できれば、白鐘・睡蓮はクロキバの後継者という役割を終える為に闇堕ちから救出できるだろう。
    「諸兄らの健闘を祈る。田子の浦の雪辱を果たし、必ず無事に帰還して貰いたい」
     重要事項を記した資料を配布して、玄乃は深々と頭を下げた。


    参加者
    稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    蒼月・碧(中学生魔法使い・d01734)
    赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)
    雛護・美鶴(風の吹くまま・d20700)
    夏村・守(逆さま厳禁・d28075)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)

    ■リプレイ

    ●白の王の迷宮
     淡く光る岩が視界を埋め尽くし、圧迫感が少し息を詰まらせる。迷宮内部は幸い照明が要らない程度の明るさはあった。とはいっても、目が慣れるまでは少し手間取る。
    「こんな風になってるなんてね」
     いつものきわどいリングコスチュームの上から暗色系の上着を羽織り、稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)は迷宮の中をつくづくと眺めた。
    「緊張するし、暑い……けど、我慢よね、今は」
    「しばらくは頼む。しかし手の込んだ仕組みだ」
     夜間迷彩仕様のアーマーで平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)が嘆息した。
     集ったのは早朝5時の富士山の裾野、樹海の中を1時間ほども進んだ場所にある風穴の一つだ。軍艦島勢力の迎え入れと、クロキバの何らかの操作のためだろう。風穴の壁にチラチラと、二重写しに見える場所があった。そこに体当たりすると迷宮へ出る――明らかに自然の洞窟ではない。
     一行は暗色のフードや上着を羽織り、音の出にくい靴と万端の準備で臨んでいた。
    「今日こそ完全にケリをつけてやる……! かくれんぼもここまでだぜ!」
     天方・矜人(疾走する魂・d01499)が低く呟いた。スマホを用意しイヤホンをしているが、迷宮に入ってからおよそ携帯もハンドフォンも無線も機能しなくなっている。
     アリアドネの糸は今回活用できないが、スーパーGPSは問題なかった。地図を作り同じ場所を通らないよう、曲がり角では鏡を使い慎重に進んでいく。
     まもなく後方から戦う音が聞こえてきた。囮班が活動を始めたのだろう。
    「今動いてる色んな連中の狙いって、結局よくわかんないんだよな。ハルファスは自分等を対王軍って言ってたけどさ。王ってどんな連中の事なんだろ?」
     夏村・守(逆さま厳禁・d28075)の疑問に答えられるものはいなかった。少なくともそのうちの二人がこの迷宮にいるはずだが、事情は喋ってくれそうにない。
     仲間について歩を進めながら、蒼月・碧(中学生魔法使い・d01734)は無意識に「大丈夫、大丈夫……」と己に言い聞かせるように呟いていた。憧れのクラブの部長と共にこなす大規模作戦だ、頑張らないと。
     その肩に、そっと手が置かれた。赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)が微笑む。
     彼女の緊張は痛いほどわかった。けれど自分を救ってくれた仲間に、今日共にいる戦友。自分を慕う部の後輩も、敬愛する先輩レスラーも、相談を密にした心強い仲間もいる。怖いものなどない。
     雛護・美鶴(風の吹くまま・d20700)も高い戦意でこの戦いにきていた。
    「裏で大勢の命を弄んで、今も何かしようとしてる。きっとロクでもない事……絶対にさせるもんか」
     たくさんの人を巻き込み不幸にする敵を、今日こそ討ち取る。
     若桜・和弥(山桜花・d31076)は音をたてないよう、慎重に歩を進めながら考えていた。
     編入したのはわりと最近で、まみえたこともない白の王に思い入れがあるわけではない。好ましからざる者ならば、心おきなく殴っていいとも思っていない。
     だから今回もいつも通りだ。
     いつも通り敵は強く、状況は困難で――しかし負けられない理由がある。先の田子の浦がどうのと持ちだすまでもない。だから。
    「私も、為すべき事を為そう」

    ●因縁が導く聖域
     地図で行く先を絞り込み進んでいくと、通路の先から戦闘が行われているような音が響いてきた。後方なら囮班の活躍であろうが、この迷宮の最奥で戦っているものがいるとすれば、クロキバの可能性が高い。
    「虎穴に入らざれば虎子を得ず、ってか。覚悟は出来てる。心残りは……まあ、あるが」
     渋面で和守が呟いた。彼には付き合い始めたばかりの恋人がいる。はっと我に返った和守は首を振った。
    「って、自分で死亡フラグ立ててどうする。……何としても生きて帰るぞ」
    「そうそう、その意気だぜ」
     矜人が抑えた笑い声をあげた。
     物音へ近づいてゆくにつれ、通路の様子は変わっていった。岩が剥きだしの洞窟という状態だったのが、幾つも鳥居の連なるものになっていったのだ。守が思わず呟いた。
    「これは……アタリ、かも」
     そうするうち、他の道から他のチームが現れだした。音に近づくほどに増え、最終的には一行含め九班もの大所帯となった。
     別ルートを通っていたはずだが、どうやら何本もの通路は物音のするほうに収束しているらしい。集まってしまえば敵の注意を引く――事前に警告があった為、灼滅者たちは互いに警戒をしあいながら通路を奥へ目指した。

     鳥居の連なる厳粛な雰囲気の通路を抜けると、神社のような空間が広がっていた。社殿とその前には境内。境内にはノーライフキングの死体が転がっている。クロキバに斃されたのだろう。その他に数人の人影。
     近づいてみると、中の一人はクロキバの頭を両手で掴んだセイメイだった。顔を近づけて何か囁きかけているようだ。セイメイの周りには陰陽師のような衣装を身につけたノーライフキングが数体、それに闇堕ちした灼滅者と思しき者が二人いる。
    「まさか、あのクロキバが灼滅され、新たなクロキバが生まれるとは思いもしませんでした。おかげで、私の計画が根底から崩されてしまいました。しかし、この帳尻はここで付けさせてもらいましょう」
     聞き耳をたてていると、とんでもない言葉が続いた。
    「あなたというクロキバを再び、私の傀儡とする事ができれば……。やり直しは何度でも出来るのです」
     灼滅者たちは顔を見合わせた。先代のクロキバの悲劇が脳裏をよぎる。
     アイコンタクトで意志をはかり、他のチームと共に一行は境内へ一気に駆け込んだ。
    「ふざけんなセイメイ! もう好き勝手させねぇ!!」
     誰かの叫ぶ声がする。驚いたのはセイメイだ。クロキバから手を放し、素早く配下のノーライフキングたちの後ろへ回り込んだ。
     ぐったりと倒れ伏したクロキバがうめき声をあげているのが聞こえる。
    「灼滅者ですと! まさか、うずめの手引きだとでも言うのですか。なんという、なんという……」
     セイメイが怒りも露に言い放った。うずめ様たち軍艦島勢力を迎え入れた途端これでは、そう思っても不思議はない。それでもセイメイはなんとか気を取り直した。
    「あの者達の目的は、おそらくクロキバの救出です。クロキバの奪還を許してはなりませぬ。クロキバの身柄を押さえ、灼滅者達を追い払うのです」
     烏帽子に狩衣姿の屍王、それに闇堕ちした灼滅者が命令に従って動き出した。敵を撃破しなければセイメイまで手が届かない。灼滅者の一班はクロキバ救助に動いた。
     一行を抑えるべく突出してきた、両手が水晶化した屍王も狩衣に烏帽子姿だった。セイメイの近くにいるならば雑魚ではないだろう。
    「もう脱いで大丈夫ね!」
    「やっとですわね!」
     羽織った暗い色合いの服を脱ぎ捨て、晴香と鶉は笑った。晴香愛用の深紅のリングコスチュームと鶉の青いリングコスチュームが露わになる。

    ●白の王の盾
     ノーライフキングから目を灼く光が放たれた。鶉を庇って碧が飛び出し、ダメージを引き受ける。軽いステップで光を避けた晴香の腕で雷光が弾け、エルボースマッシュが屍王を襲った。
    「行きますよ!」
    「はい、鶉部長!」
     鶉が碧と頷きあい、縛霊手を振り上げて挑みかかった。ラリアット気味の一撃でたたらを踏んだノーライフキングを、碧のギターの旋律が揺さぶる。矜人も愛用の『タクティカル・スパイン』を軽々と手の中で回し、回りこんで抉るような突きを見舞った。流れ込み弾けた魔力で屍王が呻く。
     挟撃位置に滑りこんだ和弥の槍が螺旋を描いて突き刺さった。その隙に和守が碧のダメージを回復し、盾の加護をかける。
     人の姿を解いた守の身体が不意にその丈を増した。黒い幾つもの体節、何対もの足。見る間に巨大な大百足と化した守を見上げて絶句するノーライフキングへ、美鶴が間合いに飛び込み槍をふるった。
    「押し通るよっ! 絶対に、ここでっ、仕留めてやるんだからっ!」
    「我が主のため、行かせぬ!」
     なんとか我に返り吠える屍王へ、体に取り込んだクロスグレイブを向けた守が砲撃する。かろうじてかわした屍王が舌打ちした。袂から取り出した赤い糸が迷宮内の風に逆らい、一行めがけて複雑に広がる。
     かわしようもない巨躯となった守を碧が庇い、避けきれなかった晴香が身体の数か所を引き裂かれ、思いがけない重い傷に息をのむ。

     攻撃偏重の布陣で臨んだ一行だったが、たまたま敵する屍王がキャスター布陣であるなど予想はできない。屍王も自身の安全より時間を稼ぐことに徹していた。
     と、突然、戦場に強い閃光が走った。
    「なんだ?!」
     目を庇った和守が呟く。セイメイの近くの仲間から悲嘆の声が聞こえた気がしたが、それ以上の観察は目の前の屍王が許さなかった。
    「余所見はさせん」
     後衛めがけ放たれた凍ったような糸を水晶化した手が引く。和守の首を裂こうとしていた糸の前に碧が飛び込んだのは同時だった。美鶴も切り裂かれながら悲鳴をあげる。
    「碧ちゃん!」
     血に染まる碧を受け止めた和守がすぐに傷を塞いだ。庇い手が彼女一人では傷が嵩む。
    「急ぎましょう」
    「しぶといのよね!」
     頷きあった鶉と晴香が同時に仕掛けた。懐に飛び込んだ晴香のチョップのラッシュが屍王を打ちのめす。勢いで後じさったところへ、鶉のエルボーが叩きこまれた。塞がりきらない傷をおさえ、碧もダイダロスベルトを疾らせる。
     狩衣とその下の肉を裂かれ、ふらつく屍王の鳩尾に和弥が鋼すら砕く拳を捩じこんだ。
     その身を守る加護ごと非物質化した刃で屍王を斬る矜人に続き、ぎちぎちと音をたてる真黒大百足の影が伸びあがって切りつける。
     猛攻にさらされた屍王が一行を抑えていられたのも、しめて八分のことだった。
     咲き誇るだけが能ではない――和弥のまとう闘気『春の嵐』が拳に力を与え、骨まで擦り潰さんばかりの拳の嵐が屍王を叩きのめす。
    「もうし、わけ……あ、り……」
     黒い炎に焼かれるように、ノーライフキングは崩れ落ち消えていった。
     心霊手術をしている暇はない。
     すぐさま隊列を整え、灼滅者たちは既にセイメイと相対している仲間たちに合流した。
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     決意をこめて高らかに告げ、矜人が死者を操るセイメイの前に迷いなく飛び込む。
     セイメイと学園の長い因縁を、クロキバと共に決着させるため。

    ●滅びへの流れ
     この時点で、既にセイメイを三班が包囲していた。アクシデントがあったのか、既に前線から退いている班もいるようだ。一行の参入で包囲は四班に及ぶ。
     己が追い込まれつつあることを、セイメイは認めなかった。
    「この私の遠大なる計画が、たかが予知如きに遅れをとるなど……許しません」
     業を喰らうというセイメイから放たれる白い光。攻撃は後衛を狙っていた。咄嗟に美鶴の前には和守が、碧の前には鶉が立ちはだかる。予想を超える攻撃力に二人と、避けきれなかった和弥が苦痛の声をあげた。
     防具が軋みをあげ、和弥自身まで届く打撃をなんとか半減させた。まだ戦える。誓った通り、為すべきことをここで為すのだ。
    「初手から大技ってのは、プロレス的にはご法度だけどっ!」
     セイメイへ迫り、晴香は勢いをつけてラリアットを見舞った。セイメイを覆っていた加護の一部が弾け飛ぶ。よろけた一瞬、鶉の放ったドロップキックがしたたかに肩をとらえた。勢い余ってたたらを踏むセイメイへ、周りの灼滅者から次々に攻撃が繰りだされる。
    「あなた達になんか、絶対に負けないからっ!」
     どこまでも灼滅者を下に見るセイメイに、碧は怒りをそのまま乗せてギターを掻き鳴らした。激しい音波攻撃にセイメイが顔をしかめる。
    「負けませんとも。1人ではないのです!」
     碧の決意に鶉が頷く。負ける気はしない。
    「いつもの余裕ぶった顔はどうした!」
     雷光閃く拳を握りこみ、矜人が思い切り鳩尾へ捻じこんだ。呼吸を合わせた和弥も、鋼すら打ち砕く拳撃を背中から叩きこむ。セイメイが苦鳴をもらすのが聞こえた。
     息つく暇も与えず、和守の意志に従い『戦闘救急包帯セット改』が鋭くセイメイめがけて迸った。深々と切り裂いて戻ると狙いを修正する。忌々しげなセイメイへ、見上げるような真黒大百足が体節の間から十字架を押し出し、半ば体当たりするように殴りかかった。言うまでもなく守だ。
    「と、そだ、此処まで頑張ってきたから考えて教えてくれないかなーなんて。ソロモンの悪魔の勝利って、どんな状況だと思う?」
     守の問いに答えは返らなかった。歯がみするセイメイが足を引きずり距離をとる。
    「倒れさせない……っ!」
     自分と碧を庇った庇い手二人を、美鶴は懸命に癒す。それが自分の戦いだ。
    「貴方はトキオ校長先生とは知己なのですか? 一体どんな関係があるんです?」
     けれどもはやセイメイには、鶉の声は聞こえていないようだった。灼滅者たちのただ中で唸りをあげるチェーンソー剣を両手で操り、当たるを幸い引き裂いていく。しぶく血の中で灼滅者たちの生命力を吸い上げながら、その目は唯一、それを見ていた。
    「あなた達を倒し、クロキバを傀儡とすれば、私は王の中の王になれる……なれる……、クロキバー!」
     怨嗟の声が地の底の岩屋の中を、どこまでも響いた。
     傷が癒えたのだろう、呼応するようにまっしぐらに駆けるクロキバ。
     セイメイを真に殺せる彼女が参戦するまでに、出来る限り削っておかねばならない。
    「お前はサイキックハーツに何を求める、セイメイ!」
     攻撃をまともに喰らった鶉の傷を癒し護るため和守がダイダロスベルトを疾らせ、矜人が破邪の光を放つ黄金の『聖鎧剣ゴルドクルセイダー』の斬撃をセイメイに浴びせたが、矜人の問いに応えはなかった。

    ●因縁滅するとき
     回りこんだ和弥が動きを封じようと脚目がけて斬撃を見舞い、軋む音をたてて威嚇するように体半分を立てた守が、とりこんだクロスグレイブから氷の砲撃を撃ち込んだ。
     足が止まったセイメイの顎を、懐に飛び込んだ晴香のエルボーが打ち抜く。
    「弱くても、できることは一杯あるんだっ!」
     晴香を庇った和守へ癒しの矢を射ちながら声をあげる碧に笑ってみせ、鶉は注射器を構えてセイメイの背へ突き刺した。奪われた生命力がいくらか戻る。

     矜人へ傷を癒す霊力を放ち、美鶴は緊張に渇く唇を噛んだ。
     追いこんでいる。討てるはずだ。足掻けるぎりぎりまで打倒を諦めないと誓った敵が今、全身を血に染めふらついている。

     五芒星が輝いた。邪なものを退ける癒しの術をセイメイが操ることは皮肉でしかないが、彼が充分に消耗しているという現実でもある。
    「おのれ、おのれ、あの裏切り者のせいで」
     セイメイを囲む灼滅者たちの間を一息に抜け、クロキバが襲いかかった。苦痛の声をあげるセイメイへ肉薄し、晴香が不敵に笑う。 
    「たまにはお姉さんに……カッコいいとこ、取らせなさいっ!」
    「私達は、勝つ!」
     完璧に呼吸を合わせて鶉も飛び出していた。セイメイをとらえ、晴香がバックドロップへ持ち込む瞬間、縛霊手を起動した鶉が霊力を込めたSTOぎみのラリアット。渾身のツープラトンを受け、セイメイは受け身もとれずに洞窟の岩に叩きつけられた。隙を逃さず、他の灼滅者たちも攻撃を繰り出す。
     ふっと音もなく槍の間合いに飛び込んだ和弥の繰り出す穂先が、螺旋を描いてセイメイの腹を貫いた。続く他のチームの灼滅者の攻撃を受け、一歩、二歩とセイメイが勢いに押され後じさる。
    「スカル・ブランディング!!」
     背骨を模した矜人の『タクティカル・スパイン』は、間隙を縫って打ちこまれた。流れた魔力が体の裡で弾ける。たたらを踏んだセイメイが他の灼滅者の一撃を受けて後ろへ下がった瞬間を見定め、和守が狙いを絞った。必ず戻ると誓った人と生きていく、その世界にセイメイはいらない。
    「轟け、FH70ビームッ!」
     迸る光が白の王の胸を穿つ。洞窟の岩を甲殻類の多脚が流れるように動き、守が半ば体当たりのように、とりこんだ十字架をセイメイへ叩きつけた。残る力を振り絞って美鶴が岩を蹴り、星のきらめきを宿す蹴撃は狙い過たず、白の王の首を打った。
    「きっちり引導渡してあげるんだもんね!」
     続く灼滅者の攻撃が幾つも、避けることすらできないセイメイを続けざまに襲う。
     そして。

     ふらり、セイメイが歩を進めた。
     それは攻撃のためというよりは、妄執がそうさせていたようで。
    「前クロキバよ」
     朗々と響く声は、彼の前に立ち塞がったクロキバから発せられた。
    「かつてクロキバだった者達よ。私に力を与えてくれ」
     白い炎をまとった得物が振りかぶられる。
     為す術のないセイメイの喉が、唇が震えるのが見えた。
    「あなた達、灼滅者と因縁を持ってしまったことが」
     この私の最大の失策であったというのですか……。
     こみあげる血を吐きだし紬ぎ出された言葉を追うように、クロキバが渾身の力で最後の一撃を加える。白い炎が噴き上がり。
     それが、白の王セイメイの最期だった。

    ●地底に別れを告げ
     誰もが、決して軽くない怪我をしていた。
     へなへなと座りこんだ碧に駆け寄った鶉が集気法をかける。陰陽師相手の戦いで碧の消耗は激しかった。まだ状況が信じられない碧が、鶉に問う。
    「鶉部長、終わったんですか?」
    「ええ、終わりました。セイメイは灼滅されたんです」
     まだしも軽傷の和守が和弥や、やっと人間の姿に戻った守を診て、晴香や矜人も美鶴の治療を受けて一息ついた。
     立ち去ろうとしたクロキバには、知己らしき灼滅者が説得にあたっているようだ。
     不意にクロキバがぐらりとよろめいた。スサノオたる彼女の身体を覆う黒い獣毛のようなオーラがほどけ、ちぎれて舞い――膝から力が抜けた彼女を誰かが支える。
     どうやら無事、『クロキバ』から灼滅者白鐘・睡蓮へと戻ったようだ。
     と、不気味な鳴動が迷宮を揺るがしはじめた。
    「……これは、あの、アレっぽいですね?」
    「そんなとこまで定番じゃベタだろ? 思うよね?」
    「定番といえば定番だが、崩れそうだな」
     半笑いの顔で呟く和弥と守に、和守が頷く。美鶴も疲れきった声をあげた。
    「やっとセイメイ倒したのに、岩の下敷きなんて嫌だよー」
    「長居は無用ね。お暇させて貰いましょう」
    「おっ、電波が通じるようになったな」
     晴香の言葉に反対意見など出ようはずもなく。無線をいじった矜人が驚きの声をあげ、一行は脱出のためひと固まりとなって、迷宮の壁に一撃を加えた。

     クロキバと灼滅者たち。二者の連携により、白の王セイメイは倒された。
     長らくの因縁にけりをつけ、彼らは学園へと戻る。
     大きな戦果を掲げて。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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