富士の迷宮突入戦~進軍せよ、敵の懐この好機

    作者:飛翔優

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     
    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、晴れやかな笑顔とともに口を開いた。
    「皆さん、琵琶湖大橋の戦い、お疲れ様でした。無事、武蔵坂学園と天海大僧正側の大勝利と終わりましたね」
     安土城怪人勢力の残党達は、本拠地であった琵琶湖北側の竹生島に立てこもっているが、カリスマである安土城怪人を失ったことで離散した者も多く、その勢力は大きく減退してしまっている様子。
     更に、安土城怪人に次ぐ実力者であったグレイズモンキーが拠点に戻ってこなかったこと、中立的な立場ながらその献身的な活動で支持されていたもっともいけないナースが灼滅された事もあり組織としての結束力も無く、遠からず自壊してしまうことだろう。
    「一方、軍艦島勢力が合流した白の王勢力は大幅に強化されてしまいました」
     エクスブレインとは全く違う予知能力を持つうずめ様、現世に磐石の拠点を生み出す事ができるザ・グレート定礎、ソロモンの大悪魔の一柱海将フォルネウス。そして、セイメイと同じ王の格を持つ緑の王アフリカンパンサー。
     彼らは、白の王セイメイのこれまでの失策を補って余りある力を持っているだろう。
    「しかし、多くのダークネスを富士の迷宮へと招き入れた事は、白の王に致命的な隙を与えることになりました。富士の樹海で探索を続けていたクロキバに、その迷宮の入り口を発見されてしまったのです」
     闇堕ちしてクロキバになった白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)は、先代達の意志を継ぐべく、白の王の迷宮に挑もうとしている。
     同時に、武蔵坂学園に対してこの突入口の情報を連絡してくれた。
     今こそ、白の王セイメイだけではなく、田子の浦の戦いでは討ち取る事ができなかった、軍艦島のダークネス達を討ち取る千載一遇の好機となることだろう。
    「もっとも……残念ながら、白の王の迷宮の入り口を通過できる人数には限りがあり、全軍で攻め入る事はできません。また、この機を逃せば再び侵入する事はできなくなります」
     迷宮を突破し有力なダークネスを灼滅する事は難しい。しかし、挑戦する意義はある。
    「ですので……皆さんでどういった結果を求めるのかを相談し、作戦をまとめて突入して欲しいのです」
     また、白の王の迷宮は、内部から迷宮を破壊しようとすると外にはじき出されるという防衛機構がある。そのため、危機に陥った場合は迷宮自体を攻撃することで、緊急脱出が可能となっている。
     逆に、この防衛機構により迷宮への破壊工作もほぼ不可能となっている、その点には注意が必要となるだろう。
    「これまで様々な暗躍をして来た白の王の懐へと入り込み刃を突きつける今回の作戦は、重要なものとなるかと思います。一方、迷宮からの脱出は難しくありませんが、攻め込める戦力は多くない……全てを達成するのは難しく、目的を絞る必要もあるかもしれません。上手く事が運べば、白の王セイメイを灼滅することも可能。そして、白の王セイメイを灼滅することができれば、クロキバとなった睡蓮さんを闇堕ちから救出することも可能だとは思いますが……」
     ともあれと、葉月はまっすぐに灼滅者たちを見つめて締めくくった。
    「どのような作戦を取るにせよ、全力での行動を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    古室・智以子(花笑う・d01029)
    氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)
    霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)
    七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)
    神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)
    グラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798)
    香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)
    真風・佳奈美(愛に踊る風・d26601)

    ■リプレイ

    ●迷宮を抜けた先
     雲に満たされ、陰る空。
     乏しき光を拾い集め、朝露は緑葉に煌めかせる。樹海の奥、隠された風穴の入り口へと灼滅者たちを導いていく。
     土草の匂いを運んでくる冷たい風に艶やかな黒髪をなびかせながら、氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)は風穴を眺め目を細めた。
    「何だか、誘い込まれてる気がしないでもないけど、チャンスはチャンスよね」
     風穴の奥に隠されている迷宮。その主たるセイメイを討つために集いし多数の灼滅者。行動を共にする七人の仲間と視線を交わし、風穴内への侵入を開始する。
     行き先を照らし、幾つもの氷柱をくぐり抜けながら進むこと十分。雰囲気の異なる氷柱を発見。
     周囲を見回せば、壁の一面がちらついた。
     灼滅者たちは視線を送り合った後、壁に向かって突撃し――。

     壁を突き抜けた先、闇が世界を満たした。
     程なくして目が慣れて……薄明るい輝きが点在する、迷宮だという事がわかる。
     敵に悟られぬ内に進軍せんと、灼滅者たちは行動を開始した。
     早々に、通信機器などは使えぬことが判明する。
    「でも、音や振動は伝わりますね。かすかでも情報を得られるのは、ありがたいです」
     神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)は簡易マップを記しながら、聴覚にも意識を向け始めた。
     迷わぬよう、分かれ道には印をつけ、罠を発見したなら解除、あるいは警告の証を残し、行き止まりならば踵を返し……時には散発的に襲い掛かってくるゾンビやスケルトンをなぎ払い、灼滅者たちは前へ、前へと進んでいく。
     曲がり角の手前で立ち止まり、壁に背を当て向こう側を伺う中……七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)は静かな息を吐き出した。
    「今のところは順調だね。崩れてて進めない場所もないし、罠も敵も少ないし……」
    「……」
     頷き返した後、古室・智以子(花笑う・d01029)は後方へと視線を向けた。
     耳を澄ませば聞こえてくる、戦いの音。
    「きっと、みんなが引きつけてくれているの。でも……」
     瞳を伏せ、前方へと向き直る。
     進むに連れて、戦いの音が大きく聞こえるようになっていたから……。
    「なら、前から聞こえてくるこの音は……」
    「……」
     一呼吸の間を起き、悠里は帽子をかぶり直した。
    「多分、先行しているクロキバが戦っている音じゃないかな。
     一呼吸の間を置き、目を細める。
    「……急ごう。時間をかければかけるだけ、クロキバの危機が……こちら側の危険が増えるからね」
     頷き、あすかは歩き出した。
    「背中をあまり気にしないで良い状況だしね。もちろん罠にかからないよう慎重に、けれど少しでも早くたどり着けるよう大胆に……」
     歩調を早め、薄明るい通路を進んでいく。
     変化が訪れたのは、それからしばらくした後。
     神社の鳥居のようなものがいくつもいくつも連なった、厳粛な雰囲気を放つ空間で……。

     鳥居。
     領域を隔てる、一種の門。
     いくつも、いくつも連ねられている鳥居の下を合流した仲間たちとも一緒に進む中、真風・佳奈美(愛に踊る風・d26601)は瞳を細めていく。
    「こんなに並べて、何と隔てているんでしょうね? あるいは、何かの意味が……」
     帰還時に欠片でも拾って帰りたい。
     そうすれば学園の誰かが解析してくれるはずだから。
     静かに頷き返しながら、香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)は鼻をひくつかせていく。
    「……まあ、ここに至っちゃもう必要ないとは思うが……やっぱり、強いな」
     力を用いて探るまでもなく、聞こえてくる戦闘音。
     肌がひりつくような殺気。
     血の、臭い。
     歩調を早め進んだ先……閉ざされているはずの迷宮であるはずなのに、神社のような空間へと到達した。
     最も多くの気配がする境内へと視線を向け、霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)は身構える。
    「っ、あれは……」
     石畳の上に転がる、陰陽師の姿をしたノーライフキングの死体。
     悠然と佇むセイメイに、配下と思しき数体の陰陽師風ノーライフキングたち、闇堕ち灼滅者たち。
     セイメイに頭を掴まれた、クロキバ。
    「まさか、あのクロキバが灼滅され、新たなクロキバが生まれるとは思いもしませんでした。おかげで、私の計画が根底から崩されてしまいました。しかし、この帳尻はここで合わせさせてもらいましょう。あなたというクロキバを再び、私の傀儡とする事ができれば……。やり直しは何度でも出来るのです」
    「っ!」
     絶奈は腰を落とす。
    「行きましょう、クロキバの援護に」
    「うん、頑張らなきゃ……!」
     赤い二つの角を額に林、瞳を赤く染めたグラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798)は、頷きながら駆け出した。
     同道する多数の仲間と共に、境内へと躍り出る。
     セイメイは即座にクロキバを打ち捨てた。
    「灼滅者ですと! まさか、うずめの手引きだとでも言うのですか。なんという、なんという……」
     視線が灼滅者たちへと向けられていく中、配下たちの後ろに回った。
     眉根を寄せながら、努めて冷静な声音で宣言する。
    「あの者達の目的は、おそらくクロキバの救出です。クロキバの奪還を許してはなりませぬ。クロキバの身柄を押さえ、灼滅者達を追い払うのです」
     呼応し、灼滅者たちの元へと向かってくる配下たち。
     クロキバを救うため、何よりもセイメイを討つために、灼滅者たちもまた走りだす!

    ●阻みしものを打ち倒せ!
     クロキバの元へと駆け寄ろうとしたグラジュたちの前に、一体の陰陽師風ノーライフキングが割り込んできた。
    「招待状無き客人よ、申し訳ないが主は多忙。退いて頂ければ幸いだが……」
    「セイメイを倒すためにも、遊んでいる時間はないの!」
     会話を交している時間も惜しいと、智以子は拳にオーラを宿して殴りかかった。
     慌てることなく札を操り、拳をさばいていくノーライフキング。
     軌道の合間に狙いを定め、悠里は氷の塊を放っていく。
    「さて、今まで裏で悪巧みしてた奴には痛い目見てもらわないとな!」
     拳を放ち終えた智以子と入れ替わるようにしてノーライフキングの元へと到達した氷の塊は、脇腹の辺りを捉え凍てつかせた。
     動きを乱すことなく、ノーライフキングは十二の札を虚空へ放つ。
    「なれば仕方あるまい。貴殿らの死を持って、無礼を贖ってもらおうか」
     札は半ばにて干支に似た十二の異形へと変貌し、前衛陣へと襲いかかった。
     即座にあすかは交通標識を振り回し、襲い来る異形をさばいていく。
    「可能な限り早く、けれどできるかぎり被害を抑えて……そのために……!」
     腕を、肩を切り裂かれながらも異形を弾き、ノーライフキングの懐へと踏み込んだ。
     縛霊手をはめた拳が振るわれていく中、翔は交通標識を制止を促すものへと切り替えた。
    「いい加減セイメイとの関係は終わりにしたい所なんだ。ここで終わらせられるなら、それに越したことは無いんだよ」
    「ならば近づかねば良かろう。貴殿らが近づかねば、それだけ関わる機会は減るが故」
    「はっ! 知らねぇ!」
     強い光を宿した瞳で見据えつつ、交通標識を掲げ走りだす。
    「オレは皆の剣だから難しいことなんて分からない。ただ、目の前の敵を倒すのがオレの仕事。望まれている限りそれを成す! まずはお前を、ぶっ倒して!!」
     間合いの内側へと入り込み、腰の入ったフルスイング。
     鉄のように硬い札とぶつかり合い、力比べへと持ち込んだ。
     直後、智以子はバベルブレイカーを点火し瞬く間も与えず距離を詰めた。
     素早く翔を弾いたノーライフキングの中心に、杭を突き出していく。
    「いい加減、知恵者気取りの三流役者には退場願いたいの。その三流役者の配下であるあなたにかまっている暇はないの」
     杭は札を突き破り、ノーライフキングの中心を貫いた。
     さして応えた様子なく、ノーライフキングは新たな札を取り出していく。
    「此方にとっても同じ事。貴殿らを早々に打倒し、主のもとへ参じねばならぬが故に」
     放たれた五枚の札は前衛陣を囲うように舞い降りて、五芒星の結界を作り出し……。

     深き傷は、佐祐理の歌声が治療する。
     一方、複数人へと施された呪縛を早期に解く手段に乏しく……加護を重ね、攻撃の手を緩めることで保つ……という状況になっていた。
     七分の時が経過して、戦況は概ね五分といった所。
     気になる点があるとしたら、少し前にどこからか聞こえた悲痛な叫び。
     ――二体逃げました!! 誰か止めて!!
     聞こえたのはどの方角か。探る暇もないままに、前衛陣を五芒星の結界が囲っていく。
     絶奈はバベルブレイカーのトリガーを引き、ドリル状に回転する杭で結界を穿ち貫いた!
    「治療が足りているわけではありません。ですが、手をこまねいていては勝機を逃してしまいます。……セイメイらしく、厄介なことに」
    「あなたにかまってる暇はないんです!」
     杭が盾として突き出された札をも穿ち貫いていく様を前に、佐祐理は高らかなる歌声を響かせた。
     積もっていた傷が癒えていくのを感じながら、佳奈美は腕を刃に変えていく。
     静かな息を吐きながら、周囲の様子を伺っていく。
     セイメイへと到達できた仲間たちの戦況が良いとは、言えない。
     けれど、勝機が近いだろうチームもある。
     いかようにも、状況はひっくり返す事ができる!
    「……あなたを倒して、続きます。私たちも、セイメイに引導を渡すため。セイメイの策を潰すため」
     決意とともに大地を蹴り、ノーライフキングの懐へと踏み込んだ。
     大上段から振り下ろし、札ごとノーライフキングを斜めに切り裂いていく。
     よろめきながらも、ノーライフキングは十二枚の札を放った。
    「させぬ、我が主の邪魔はさせぬ!」
     十二枚の札は、干支の形をした異形に変わる。
     牙を、爪を角を、エアシューズを滑らせ受け流しながら、けれども鼠に似た異形の前歯に左肩を貫かれながら、グラジュは槍を握りしめた。
    「っ……みんなの役に、立つ……! まだ、負けられないから……!」
     気を吐き、氷の塊を発射する。
     異形の間を駆け抜けて、ノーライフキングの顎へとぶち当たった。
     弱点を増やしたノーライフキングに、灼滅者たちは攻撃を重ねていく。反撃も激しく否応にも勢いは減るけれど……それでもなお最小限に抑え、限りなく多くの攻撃を注ぎ続けた。
     グラジュの斧がノーライフキングの肩に食い込んだ時、ピシリと、骨が砕ける音がした。
    「今だよ!」
    「ええ」
     頷き、絶奈が踏み込んだ。
    「ぐ……」
     ノーライフキングを守るように舞い始めていく札を腕で払い、炎に染めた足によるハイキック!
     後頭部へとぶち当て、引き倒し……。
    「……」
     足を戻し姿勢を正す中、ノーライフキングの体が黒ずんでいく。
    「む、無念……せめて、我が主の……」
     炎と共に燃え尽きて、この世界から消え去った。
     絶奈は静かな息を吐いた後、セイメイのいる方角へと視線を向けていく。
     時間に直せば、おおよそ九分の時が経過していた。
     状況を此方側へと傾けるため、すでに多くの仲間たちがセイメイのもとへと到達している。
     一方、先ほど聞こえた声が……他の仲間たちをセイメイの配下が突破したらしい声が脳裏をよぎった。
     ――二体逃げました!! 誰か止めて!!
    「……」
     絶奈は拳を握りしめた。
     勝負の天秤を傾ける事ができるのは、灼滅者たちだけではない。
     セイメイの側も同様だ。
     合流を許せば、あるいは……。
    「行こう!」
     いち早く、グラジュが踵を返す。
    「奴らの合流を防ぎに。その方がかえって」
    「……こいつは俺たちに任せて!」
     声の方角へ向かわんとした時、八人の仲間たちがグラジュたちの横を駆け抜けた。
     視線を向ければ、二つの影に彼らが立ち塞がっていく。
    「分かった! それじゃ……いや」
     彼らに任せようと踵を返しかけた時、グラジュは止まった、
     青い影が、彼らの横を抜けてくる様が見えたから。
     グラジュは静かな息を吐く。
     行く先を示すため、いの一番に駆け出した!
    「止めよう、奴を! 目の前の敵と止めるんだ、みんなの為に!」

    ●合流阻止、そして……
     セイメイを討つためにも、後顧の憂いを断つ。
     いち早く決断したグラジュに従い、灼滅者たちは青い影の前に立ち塞がった。
     青い影は……青い烏帽子を被っている陰陽師風ノーライフキングは、足元をふらつかせながらも忌々しげに顔を歪めて行く。
    「邪魔立てするか!」
    「それはこっちの台詞なの。いい加減にして欲しいの」
     抑揚のない声音に怒りを交えつつ、智以子は足に炎を宿して回し蹴り。
     不可視の力に阻まれながらも蝕む炎を与える中、絶奈は鋏を握り間合いの内側へと踏み込んだ。
    「さっさと倒して、援護に向かいましょう」
    「此方とて、その望みに違いはない!」
     刃が肩へと食いこむ中、ノーライフキングはあすかに指を突きつけた。
     激しき光が放たれた時、佐祐理は歌う高らかに。
    「その程度の攻撃、通じると思いますか?」
     癒やしの力を歌に乗せ、あすかを包み込んでいく。
     焼け付いていた光が消えていくのを感じながら、あすかは縛霊手をはめている拳を握りしめた。
    「あまり長い時間をかけてはいられません」
    「今やれることを、一生懸命やれば、きっと……!」
     グラジュも踏み込み、跳躍する。
     真っ直ぐに突き出されていく拳に合わせ、斧を力任せに振り下ろした。
     拳を不可視の力で受け止めたノーライフキングの左肩に、斧が深く食い込んでいく。
     姿勢を崩しながらも、ノーライフキングは距離を取った。
     灼滅者たちの攻撃を捌いた後、佳奈美を指し示していく。
    「灼滅者風情が、セイメイ様の邪魔をするな!」
    「っ!」
     とっさに佳奈美は目をかばい、激しき閃光を回避した。
    「……目眩ましにもなりませんよ」
     静かな息を吐きながら、右腕を刃に変えて走りだす。
     横を抜け背後へと回りこみ、背中を斜めに切り裂いた。
    「ぐ……」
     よろめき、前方へと踏み出していくノーライフキング。
     受け止めるかのように、悠里は氷の塊を放っていく。
     胸元へとぶち当て、凍てつかせた。
    「今だ! 胸元を狙うんだ!」
    「はいっ」
     今が好機と、治療に注いでいた力をオーラに変換。
     手元に集わせ、胸元めがけて解き放つ。
     オーラは不可視の力をも貫いて、ノーライフキングを打ち倒した!
    「が……セイメイ様の元へ至れれば……同志と共にあったなら……こ、この様な若造に……」
     粉々に砕け、消滅していくノーライフキング。
     佐祐理は視線を外し、セイメイのいる方角へと向き直り……。
    「あ……」
     視線の先、クロキバに討たれ倒れていくセイメイ。
    「あなた達、灼滅者と因縁を持ってしまったことが、この私の最大の失策であったというのですか……」
     最後の言葉を聞きながら、佐祐理は拳を握りしめる。
     瞳を閉ざし、思いを巡らせていく。
     佳奈美は肩の力を抜き、得物を収めた。
    「成し遂げてくれたみたいですね」
     最初に戦力を分散させたからこそ、最後に合流を許さなかったからこそ、成し遂げることのできた勝利。
     余韻に浸っている暇はあまりない。
     佳奈美は手を叩き、踵を返した。
    「さあ、後は関係のありそうなものを可能な限り持ち帰りましょう」
    「……そうですね。後に繋げるためにも」
     佐祐理が、他の仲間たちも頷いて、探索へと……。
    「っ!」
     移ろうとした時、迷宮が鳴動した。
     床に、壁に天井に、大きな亀裂が走り始め……。
    「……崩落するわね、このままだと」
     あすかが仲間たちへと視線を送る。
     悠里は頷き、得物を抜いた。
    「目的は果たした。帰ろう、武蔵坂学園へ!」
     頷き合い、彼らは撤退を開始する。
     道中、可能な限りものを拾い、勝利の報を胸に抱き、他所へと向かった仲間たちの戦果を楽しみにしながら。
     この、閉ざされた迷宮から、光ある世界へと……!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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