富士の迷宮突入戦~後悔のない道を

    作者:相原あきと

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     
    「琵琶湖大橋の戦いは大勝利で終わったわ! みんな、お疲れさま!」
     エクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆を笑顔で労う。
     だが、今回は皆を労う為に呼んだわけではない。
    「実は皆に、白の王の迷宮へ向かって欲しいの!」
     珠希が説明するには、先の琵琶湖大橋の戦いの結果、安土城怪人勢力の残党達は竹生島に立て籠ってはいるが遠からず自壊するのは間違いないとの事。
     しかし問題は、軍艦島勢力が合流した白の王勢力だ。
     エクスブレインとは全く違う予知能力を持つ『うずめ様』、現世に磐石の拠点を生み出す事ができる『ザ・グレート定礎』、ソロモンの大悪魔の一柱『海将フォルネウス』、そしてセイメイと同じ『王』の格を持つ『緑の王アフリカンパンサー』。
     白の王セイメイの勢力は今まで無い程の力を持っているとも言える状況だ。
    「でも、多くのダークネスを迷宮へと招き入れた事で、白の王はミスを犯したの」
     そう、樹海で探索を続けていたクロキバに迷宮の入り口を発見されてしまったのだ。
     クロキバとなった白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)は、白の王の迷宮に挑もうとしているが、同時に武蔵坂学園に対してこの突入口の情報を連絡してくれたと言う。
    「つまり、今こそ白の王セイメイだけでなく、田子の浦の戦いで討ち取る事ができなかった軍艦島のダークネス達を討ち取る千載一遇のチャンスなの!」
     珠希の口調にも熱が入る。
     もっとも、白の王の迷宮の入り口を通過できる人数には限度があり、武蔵坂の全軍で攻め入る事はできず、そしてこの機を逃せば再び侵入する事はできなくなるともいう。
    「迷宮を突破して有力なダークネスを灼滅するのは大変かもしれない……でも、挑戦する意義はあるわ」
     参加する皆は、どういった結果を求めるかを相談し、作戦をまとめて突入して欲しい。
     ちなみに、白の王の迷宮は内部から迷宮を破壊しようとすると外にはじき出されるという防衛機構があるようで、危機に陥った場合は迷宮自体を攻撃する事で緊急脱出が可能となっているらしい。もちろん、その防衛機構により迷宮への破壊工作は不可能となっている点には注意が必要だ。
    「狙うべき目標はいくつかあると思うけど……」
     白の王セイメイを討ち取る事に成功すれば、クロキバは役割を終える為、闇堕ちから救出する事もできるだろう。
     クロキバは白の王セイメイを討ち取る為に潜伏しながら探索しており、上手くやればクロキバと共に白の王セイメイの灼滅を目指す事ができるかもしれない。
     もちろん、うずめ様、ザ・グレート定礎、ソロモンの大悪魔海将フォルネウス、緑の王アフリカンパンサーなど、軍艦島勢力の灼滅を目指す事も可能だ。
     ただし、うずめ様を狙った場合、うずめ様の予知能力によって作戦全体に不利な状況が発生する可能性がある。もっとも、この予知能力はうずめ様自身が狙われない限りは発揮する事が無いらしく、うずめ様を狙うか否かは慎重に判断する必要があるかもしれない。
     それ以外のダークネスとして、当然、楢山御前など、元から白の王配下であるダークネスの灼滅を目指す事も出来ると言う。
    「他にも敵の灼滅ではなくて、白の王が長い年月をかけて準備してきた作戦が何なのかを調査、可能ならその作戦自体を破壊する事ができれば、その功績は計り知れないわ」
     と珠希は言う。
     有力敵は迷宮の上層部、白の王が準備してきた何かは下層部にあると推測されるらしい。
     突入する入り口は中層部にある為、どちらを狙うかで探索の方向は大きく変わるだろう。
     少数精鋭とはいえ多数のチームが一気に動くため、より多くの灼滅者が向かった側の戦況が有利になる。それはつまり、他のチームの作戦にも注意を払いつつ方針を決めた方が良いと言う事だ。
    「有力敵の灼滅や、白の王の作戦以外にも、白の王配下のノーライフキングの撃破を行なったり、わざと敵を退き付けてクロキバや他のチームの潜入を助けるという行動も可能よ。それ以外にも全く別の作戦を試してみるのだって有効だと思ったのなら試して良いと思うわ」
     選ぶべき選択肢は多く、何をするかも灼滅者次第。
     それゆえに目的は絞った方が良いと珠希は言う。
    「皆で良く相談して後悔が無い選択をしてね……大丈夫、私は皆を信じてるわ!」


    参加者
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    エイジ・エルヴァリス(邪魔する者は愚か者・d10654)
    白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    四方祇・暁(天狼・d31739)

    ■リプレイ


     クロキバからの連絡で辿り着いた富士の迷宮の入り口は、曇天の空の下、樹海を一時間程進んだ先にある風穴の一つであった。
     中へ入り慎重に進む事約10分、一桁代だろうと思われる気温も納得の氷柱が見えて来た所で、どうも先の風景が二重写しになっている。ここから先は本格的な迷宮へと繋がっているようだ。
     今回、富士の迷宮へと突入するチームは全37班、そのうち約半数たる18班がセイメイの画策する「何か」を目的に下層へと向かう。一方、上層の有力敵の灼滅を目指すチームの中、セイメイを標的とする班は9つ。
    「――ったく、面倒な連中が手を組みやがって。ま、放置したら厄介事になるのは不可避だからな……ここらで因縁にケリを着けないと」
     そう言いながら迷宮を進むはセイメイ灼滅を目的とする班のうちの1つに属する月雲・悠一(紅焔・d02499)だ。
     進みながら何度か他班と連絡を取ろうと試みるが通信機器はなぜか繋がらない。突入してからさっぱりな所をみると、迷宮内の何かが悪影響を及ぼしているのかもしれなかった。ふと、別班に所属する恋人の身を案じ一瞬だけ拳に力が入る悠一。
     悠一達が上層部の最奥へと向かって進んで行くと、後方から戦闘音が僅かに聞こえてきた。たぶん囮役をかって出てくれた班が戦闘を開始したのだろう。
     だが、今回囮として立候補した班は僅かに3班のみ。つまり――。
     神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)が皆を制して足を止める。
     前方からはカタカタと乾いた音と、何かを引きずりながら歩いてくる音が聞こえ、やがてそれ等はスケルトンとアンデッドの混成部隊だと解る。即座に殲術道具を構える灼滅者達。
    「危険な敵ばかりいる場所だけど、怯まずに強気で進むわよ」
     明日等の言葉と共に、灼滅者達は一気に敵アンデッド&スケルトン混成隊へ奇襲を開始したのだった。

    「はっ!」
     白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)の裂帛と共に、暴風を纏った回し蹴りが並んだスケルトン達を壁へと叩きつけ、ガラガラとその骨を砕き散らさせた。
     2度目の遭遇戦が終わった所で、エイジ・エルヴァリス(邪魔する者は愚か者・d10654)と四方祇・暁(天狼・d31739)が怪我をした仲間を回復させる。
    「だぶるニンジャ・メディックでござるな!」
     エイジが言えば暁も「――で、ござる」と息を合わせる。
     何が起こるか解らない今回の作戦、メディックが2人いるのはかなり心強い。
     と、前方から戦闘音が聞こえてくる。後方なら囮だろうが、前方というなら――。
    「クロキバ……?」
     誰もが無言で頷き、その方角へと先を急ぐ。
     やがて天然の洞窟だった通路の様子が変わっていく。
     神社の鳥居のようなものが1つ、2つ……次々と連なって行き、いつの間にか和風の神域へと入り込んだように周囲の空気もどこか厳粛な雰囲気へ上書きされた。
     フローレンツィア・アステローペ(紅月の魔・d07153)は警戒しつつ猫の状態で先行、そして……。

     そこは神社のような空間が広がっていた。果たしてここが富士の風穴の中だという事を忘れてしまう程に、ここは厳かで空気が重い。
     神社の周囲には陰陽師風ノーライフキングの死体が数体転がっており、境内では今まさにセイメイとクロキバがぶつかり合っていた。戦局はセイメイ有利、なぜならセイメイの側には陰陽師風のノーライフキングが十体前後残っており、他にも闇堕ちした灼滅者が2名――巨大な熊のぬいぐるみを連れた黒い拘束服の少女と、龍角龍尾が生えた陰陽師の青年――が加勢していたのだから。
    「まさか、あのクロキバが灼滅され、新たなクロキバが生まれるとは思いもしませんでした」
     優勢なセイメイが隙を付きクロキバの頭部を両手で掴むと、顔を近づけ語り出す。
    「おかげで、私の計画が根底から崩されてしまいました。――が、この帳尻はここで付けさせてもらいましょう。あなたというクロキバを再び、私の傀儡とする事ができれば……やり直しは、何度でも出来るのです!」

    『セイメイッ!』
     先代クロキバへ行った事と同じ事をしようとしていると感じた灼滅者達が、一斉に声を上げ境内へと雪崩れ込む。
     それは猫変身を解いたフローレンツィアやその班メンバーばかりではない、ここへやって来た他のチームもだ。
    「灼滅者ですと!」
     ブンッと即座にセイメイに攻撃しようとした灼滅者達への牽制を含め、掴んでいたクロキバを打ち捨てるセイメイ。
     同時に配下の陰陽師ノーライフキング達と闇堕ち灼滅者2名がセイメイを背後に庇う。
    「まさか、うずめの手引きだとでも言うのですか。なんという、なんという……」
     配下の後ろから怒りを露にするセイメイ。
    「灼滅者達の目的は、おそらくクロキバの救出です。クロキバの奪還を許してはなりませぬ。クロキバの身柄を押さえ、灼滅者達を追い払うのです」
     なんとか配下に命令を下すセイメイ。
     陰陽師ノーライフキング達の目が光り、闇堕ち灼滅者2名が武器を構える。
    「あなた達にかける言葉なんてないわ。襲ってくるなら倒してあげる。目覚めたいなら、レンたちの邪魔したくないのなら、自分の力で抗いなさい」
     フローレンツィアが闇堕ち灼滅者達に言葉を浴びせるも、2人はこちらに向かわずそれぞれ別のチームと戦い始める――そこに因縁の相手がいるのか、それとも……。
     闇堕ち灼滅者と戦う班以外も、クロキバの救出に向かう班、陰陽師ノーライフキングに向かう班とそれぞれが戦闘を開始する。特にクロキバに向かった1班の元へは陰陽師ノーライフキングが3体も向かっている、あれはかなり厳しいだろう。
    「セイメイ討伐のチャンス到来! でも、それはこっちも危ないって事だおっ、みんな覚悟は……聞くまでも無いんだおっ」
     マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)の言葉と共にクロキバへ向かった班の救援に向かおうとするが、眼前に回り込むよう1体の陰陽師ノーライフキングが立ち塞がる。
    「ヌシ等の相手はワシがしてやろう……セイメイ様の御許まで辿り着いた事は驚嘆に値するが――」
     ガッ!
     銀朱の薄刃が陰陽師ノーライフキングの顔を貫くも、咄嗟に首を捻って避わしたか薄刃は烏帽子だけ貫き落としていた。
    「語りの一刻すら待てぬか」
    「いや、なんとなく」
     薄刃を放ったレオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が「つい」と言う感じで答え、烏帽子を失った水晶髑髏の陰陽師が苛立ちを声に出しサイキックエナジーを解放する。そして、戦いが始まる。


     そこかしこで派手にサイキックが弾け、激しい戦闘がいくつもの場所で開始される。
     跳び蹴りと共に飛び込んで来た雅を半歩下がって回避する髑髏陰陽師だが、雅はその足を起点に星の力を束ねた巨大な光の十字架をお見舞いする。
    「ぐっ!?」
     油断していたのか直撃を食らいたたらを踏む陰陽師。瞬後聞こえるはフローレンツィアの声――来なさい、黒き風のクロウクルワッハ!――底光りする眼窩で振り向けば、鉤爪を備えたフローレンツィアとすれ違う。
     ドシュッ!
     交錯すると同時に斬り割かれる陰陽師の背。しかし、灼滅者の攻撃はまだ終わらない、視線を僅かに後ろに投げた隙に正面に現れる気配。咄嗟に背後へジャンプするが気配はピタリと寄り添い陰陽師の腹に接触すると同時、雷を纏った拳が叩き込まれる。誰が……と見れば視界の端に僅かに映るは暁の姿、だが、その姿も瞬く間に闇へと消え姿を消す。代りに飛び込んでくるのは火の神の名を冠した戦鎚を振りかぶりし悠一。
    「ナメるでないわ!」
     髑髏陰陽師が顔面ギリギリに迫った戦鎚を受け止め――ようとした腕が、横合いから放たれた帯によって弾かれた。
     メグシャと音を立てて戦槌が陰陽師を殴り倒す。
     横から帯を放って援護した明日等が、倒れ起き上がろうとする陰陽師を指差し。
    「私達相手に余裕でいられると思わないでよね。あんた達もセイメイも、みんなまとめて灼滅してあげるわ」
    「ほ、ほぅ……どうやら、ワシはヌシ等の力を甘く見過ぎていたようだ……ならば見せよう、このワシの――」
     ガスッ。
     髑髏陰陽師の胸から破邪の光を纏った剣が生える。
     ブンッ!
     陰陽師の水晶の腕が振られるも、それを交わしたレオンは破邪の光を放つ剣を持ちつつ。
    「やっぱ、刺せば死ぬ……というわけにはいかないのがノーライフキングだよねぇ」
    「1度ならずと2度までも!!!」
     本気になった髑髏陰陽師の攻撃は決して生易しい物ではなかった。さすがはセイメイが側近として連れるダークネスの1人である。まるでセイクリッドクロスのような技1つ見ても、回避する隙間の無い光線が無数に放たれ灼滅者達の体力をガリガリと削っていく。
     そんな中、周囲の戦闘や状況に気を配るのはメディックの暁とエイジだ。俯瞰で戦場を把握し仲間を回復させつつ他班の状況を確認する。
    「どう思うでござる」
     暁に問われたエイジがラビリンスアーマーで雅を回復させつつ視線をソレに向ける。
    「拙者らに寝返った……のでござろうか」
     視線の先では灼滅者の班と共闘しセイメイを襲っている龍角龍尾が生えた陰陽師の青年――闇堕ちしたカリルがいた。ダークネスの気配が消えていない所を見るに説得し正気に戻ったわけではなさそうだが……とりあえず、少しの間くらいはセイメイを彼らに任せても良さそうだった。
    「さーってマリナは妨害特化、放置は面倒だおっ?」
     眼前の戦いではマリナの剣が敵陰陽師の腕を半ばまで切り裂き、その腕の動きを鈍らせた所だった。
    「ならば、ヌシから黄泉の国へと送ってくれよう」
     ビリビリと痺れる腕をマリナに向け、その掌から黒き光条が一閃。
     避けられないんだお!?
     マリナが覚悟を決めるのと背後から何かに突き飛ばされるのは同時だった。次の瞬間、黒き光はマリナを庇ったエイジの霊犬に直撃、そのまま大地へ倒れる。
    「ジョン!」
     エイジの声に健気に立ち上がるジョン。マリナのジャマー攻撃で威力が削がれていたのも功を奏したのだろう。
    「放置は面倒……か、確かにそのようだ」
    「お、お、でも前衛を放置するのも効率が悪いんだおっ?」
     嬉しそうにマリナが言い、髑髏陰陽師が悔しそうに口の骨格を歪ませる。
    「小賢しい灼滅者どもが!」


    「忍法! リバイブメロディ!」
     エイジが印を組みつつ後衛の仲間達の気力を一気に回復させ、さらに暁にはジョンが浄霊眼を使い追加で回復を行なう。その間に髑髏陰陽師には雅が地獄投げをお見舞いし、倒れた所へフローレンツィアが投げた赤い光が突き刺さる。
     敵は狩衣をボロボロにしつつも立ち上がるも、すでに息は荒く立っているのがやっとのよう、もう少しで倒し切る事ができそうだ。
     暁がセイメイの戦況をチラリと確認すれば、闇堕ち灼滅者カリルと1チームはセイメイ1人に追い詰められているようだった。だが、いち早く陰陽師ノーライフキングを仕留めた班が1つ、今まさにセイメイに向かおうとしているのも見える。ギリギリ間に合う――そう思った瞬間。
     セイメイが口を開くと共に光を放つ。
    『あなたは、悪縁良縁を操ると言っていましたね。ですが、あなたの裏切りは悪縁であり業そのもの。つまり私は、その業を喰らえばよいだけでございます」
     瞬後、白き閃光が収まると――。
    「闇堕ち灼滅者が!?」
     カリルが……消滅していた。説得できれば灼滅者に、元の武蔵坂の仲間に戻れたかもしれない青年が……死んだ。
     僅かに騒然とする武蔵坂の灼滅者達。それは暁達の班も同様。
     ボロボロなれど未だ立ち塞がる髑髏陰陽師がクハハと笑う。
    「滑稽滑稽、セイメイ様を裏切ったダークネスを消滅させただけだと言うに……クハハッ」
     灼滅者達の目が笑う髑髏へ向けられる。
    「ヌシ等などセイメイ様の足元にも及ばぬと知れ! そしてセイメイ様の策が成就し世界は変わるのだ」
    「違うでござる」
     一陣の風が仲間達の間を吹き抜け祝福、その風を放った暁が言う。
    「策とは強固な土台の上に成るものだ。一度揺らいだ時点で、貴様等の策は下策と化した」
    「セイメイ様の策を……下策だと!?」
    「もう後手には回らない」
     陰陽師の言葉に返すは明日等、手に持つ槍に螺旋の捻りを加えながら敵へと突っ込む。回避行動を取る陰陽師、だがマリナによって放たれた影に束縛され足が止まる。
    「今度ばかりは、先手を取らせてもらうわ!」
     明日等の槍が陰陽師の胸の中心を貫き砕く。
    「グ、ガッ」
     さらにダメ押しとばかりに悠一の戦槌が弧を描いて腰骨を砕き、レオンの“CUT OFF THEIR LIMBS”が髑髏の鼻より上を切り離す。
     ドサリと倒れる髑髏陰陽師。だが……。
    「クハハ……ヌシ等は、強い、だがその傷では、セイメイ様には勝て、まい……て……」
     塵芥に風化していくノーライフキングの末期の言葉に。
     レオンは負傷と比例して上がったテンションのまま。
    「苦痛など、笑い飛ばしてやればいい」
     そして悠一は傷から炎を立ち昇らせながら言う。
    「俺達は、自分たちの出来る事を、やるだけさ」


     闇堕ち灼滅者のカリルを消滅させたセイメイは、駆けつけた灼滅者達を両手のチェーンソー剣で切り刻み口を開く。
    「裏切り者は既に始末しました、あなた達にもはや勝ち目はありません」
     すでに最初から戦っていた1班は退き、セイメイの前には入れ替わりで入った1班のみ。だが――。
    「例え誰が散ろうとも、『拙者達』は必ず貴様を討ち果たす!」
     エイジ達が場へと乱入、さらに同時期に陰陽師ノーライフキングを倒したもう1班も戦場へ駆けつけ、セイメイ1人と3班が相対する構図へ。そのまま即座に攻撃へ移る灼滅者達。こちらの班からもフローレンツィアと悠一が先陣を切り、死角から鉤爪でセイメイを切り裂き、戦槌を自身の血で更に急加速しヒットさせる。
    「この私とした事が、傷を負いすぎましたか」
     僅かな攻撃タイミングの間に、セイメイが五芒星を描き自らの傷を回復。だが、灼滅者の攻撃の波は即座に再開。
    「いつまでも隠れて策を弄せると思わないでよね!」
     明日等の放った冷気のつららをセイメイは半身で避けるも僅かに右肩が切り裂かれ、飛び込んだマリナが上段から振り下ろした日本刀はチェーンソー剣にて受け止められるも、その隙に地表スレスレから走り込んだ暁の雷を纏う拳がセイメイの顎を穿つ。
     さらにここに来て新しくもう1班がセイメイ戦の戦線に加わる。
    「この私の遠大なる計画が、たかが予知如きに遅れをとるなど……許しません」
     セイメイの呟きと共に灼滅者達の『業』が食らわれる。力を増すセイメイ。放たれるは先ほど闇堕ち灼滅者を死に追いやった《業閃光》の白き光!
     狙われたのは後衛。エイジをジョンが、リインフォースが明日等を庇い消滅し、暁を庇ったレオンが膝を付く。
    「ヴァーミリオン殿!」
     暁の声を手で制し。
    「いかげん、真っ白野郎との因縁も終わりにしたいしね……ギリギリまで、盾になるつもりだよ。だから……」
     レオンは魂の力で立ち上がる。
    「みんな、頼りにしてるぜ?」
    「任せて!」
     セイメイへ走り込みながらレオンに返すは雅、髪がこげ茶に瞳が黒へと戻っていくと共に太陽のごとき光の粒子が蹴り足に収束していく。
    「足止め出来れば十分だなんて思わない……!」
     雅が飛び上がり、そのままセイメイに向けて急降下!
     流星の煌めきと重力、そしてサンライトオーラを宿した跳び蹴りがセイメイに決まり吹き飛ぶセイメイ。
    「絶対、ここで倒す!」


     灼滅者の猛攻は続き、もう1班が合流……すでにセイメイと戦う班は4チームになっていた。それだけならまだしも、さらにクロキバまで戦線に復帰しセイメイへと挑み掛かる。
     さすがのセイメイも四方から多数が押し寄せる現状、全てを捌ききれるはずもなく――。
    「新宿では一方的にやられるばっかりでしたものね」
     鉤爪を構えセイメイに肉薄するフローレンツィア。背後に迫った気配にセイメイが振り向くも。
    「今こそ――その血、証を、もらうとするわ」
     魔力を宿したソレがセイメイの首筋に突き立てられる。
     怒りに染まるセイメイの瞳、それを受け流し即座に距離を取るフローレンツィア。
    「おのれ、おのれ、あの裏切り者のせいで」
     五芒星を描き自らを回復させながらも、怒りの籠った怨念の声を吐くセイメイ。
     だが、4つの班&クロキバの嵐のような攻撃は最高潮を迎える。
    「他の班の奴らと合わせるぞ!」
     悠一が掛け声と共にセイメイへオーラキャノンを放つ。それを見た仲間達も同じよう他班と連携し一斉にサイキックを発動。
    「白の王、貴様の王威は地に落ちたと知れ!」
    「御首頂戴いたす!」
     暁が冷気のつららを放ちエイジが「忍法! スターゲイザー!」と流星の如き飛び蹴りを放つ。
    「私達は歩みを止めなかった……だから辿り着けた、あなたの終着点に!」
     明日等のレイザースラストがセイメイを刻み、マリナの影がセイメイを縛れば、拘束された僅かな機を逃さずレオンの蒐執鋏がセイメイを装飾品ごと傷つける。
     そして、セイメイの前へと回った雅は炎を纏った激しい蹴りを放ち、轟と纏っていた火炎が一瞬視界を埋め――。
    「前クロキバよ」
     同時、朗々と響く声。
    「かつてクロキバだった者達よ。私に力を与えてくれ」
     クロキバだ。
     クロキバが、その頭上に白く燃え上がる得物を振り上げる。セイメイの喉が、口が震える。
    「あなた達、灼滅者と因縁を持ってしまったことが――」
     ――この私の最大の失策であったというのですか……。
     血を吐き出しながら紡ぎ出されたセイメイの言葉。
     そして炎を振り下ろすクロキバの表情は、誰も、何も、読み取ることはできなかった……。


     セイメイの灼滅。
     武蔵坂学園にとって因縁深きダークネスの一角を、ついに自分たちは倒したのだ。
     その場で崩れ落ちる者、へたりこむ者、気丈に仲間を鼓舞する者、慌てて他者を治療する者、そして通信機器が使えるか試し、使えると気が付き他の班に連絡を取る者……。
     それぞれが少しずつ緊張の糸を緩ます中、レオンは内ポケットの録音機に何か呟き停止させる。
    「どうしたでござるか?」
     暁に聞かれ、なんでも無いとジェスチャーし。
    「あのマヌケ野郎に吠え面かかせられたな、ってさ」
     思わずセイメイの最後を思い出す仲間達。
     だが、緊張の糸が緩み切る前に異変は起こった。
     迷宮が鳴動し崩壊を始めたのだ。
    「急いで撤退した方が良いと思うわ」
     明日等の言葉に皆が頷く。
     迷宮を攻撃し次々に脱出していく灼滅者達。
     長い間武蔵坂と相対していたセイメイの灼滅、それは、それこそ、確かな覚悟の結果だったと言えるだろう。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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