富士の迷宮突入戦～深き迷宮に求めるは

■リプレイ

●潜入
「……じゃ、お互い頑張ろうなっ！」
　幾つもの班が潜入した跡に薄暗い迷宮に足を踏み入れると、住矢・慧樹（クロスファイア・d04132）が共に入った他班に別れを告げる。それぞれ離れた上層で、敵の注意を引く為にアンデッド相手に大立ち回りを始めるのだ。
「……此処が、セイメイの、迷宮、ですか………今度は、何を、するつもり、なの、でしょうね……」
　きょろきょろと神宮時・蒼（大地に咲く旋律・d03337）が物珍しそうに周囲を見渡す。探索したい気持ちもあるが、今は他班の為に囮となろうと戦意を高める。
「できれば直接大悪魔の灼滅を狙いたかったけど、役割分担は必要だからね」
　黒揚羽・柘榴（魔導の蝶は闇を滅する・d25134）は少し残念そうにしながらも、有力な敵を倒すには裏方の仕事も必要だと割り切る。
「セイメイさんをギャフンと言わせるために頑張りますなのですよ！　ゾンビ100人抜きでもどんとこいなのです！」
　元気一杯に日輪・かなめ（第三代 水鏡流巫式継承者・d02441）は拳を挙げる。
「前のクロキバはアンデッドから戻せなかったな。もし、仲間がアンデッドにされたら…戻す方法あるんすかね？」
　そんな話題を口にしながら、嶋田・絹代（どうでもいい謎・d14475）はいつでも戦えるように武器を手にしていた。
「よーし地図は任せろ、その代わり、周りの様子は気にできなさそーだからソコは皆頼んだぜ！」
　慧樹が方眼紙に道を書き込む。
「ってあれ……電波が通じないのか？」
　ダンジョンに入る前は繋がっていた無線機が沈黙を続ける。
「ハンドフォンも駄目だな……だ、大丈夫かな？」
　須野元・参三（絶対完全気品力・d13687）がESPを試してみるが、全く反応しなかった。予定外の事に参三は不安そうな顔を隠しきれない。
「他の班とは連絡が取れませんが、やるべき事は決まっています。敵を引きつける為に一体でも多く倒しましょう」
　周囲を警戒しながら桐屋・綾鷹（真淵探紅月・d10144）が歩を進める。
「サイゾーどうです、敵の位置が分かりますか？」
　内山・弥太郎（白狼騎士・d15775）が前を歩く霊犬のサイゾーに呼びかけると、鼻をくんくんと動かしてワンと吠えた。
　その通路の奥から音が聞こえる。目を凝らすと人が４体歩いていた。その次に感じたのが鼻が痛くなるような生ゴミのような異臭。はっきりと視認できる距離になれば、それが腐った死体であることが分かった。ダンジョンを守るアンデッド達が現われたのだ。
　両者の目が合う。気付いたのはほぼ同じ、だが先に動き出したのは作戦を決めていた灼滅者達だった。
「では始めましょうか」
　綾鷹が戦闘音が広がらないように音を封じる。
「まずは自分が相手っすよ」
　絹代が前に出て魔導書を開くと、ゾンビ達に原罪の紋章を刻みその狙いを自らに集中させる。
「最初のゾンビの群れなのですッ！　水鏡流……、天津荒風ぇ！！」
　その群れに横からかなめが飛び込み、中心で竜巻のように回転しながら蹴りを放つ。
「……確実に、一体ずつ、倒していきましょう……」
　倒れたゾンビに向かい、蒼が腕を大きく膨れ上がらせて獣の腕を振り下ろした。肉球に潰されるようにゾンビがぺしゃんこになる。
「ボクたちが囮になれば、その分有力敵を灼滅するチャンスが増えるはず！　ダンジョン内の雑魚は全部倒すくらいのつもりで殲滅していくよ！」
　柘榴の瞳がゾンビ達を映す。五芒星の魔方陣が描かれると腐った体が凍りつき動きを鈍らせた。
「他の班がイイ戦果出せるよう、俺達が支えるんだぜ、おっしゃー！　行くぞー！」
　大きな声で気合を入れた慧樹は、黒き槍に炎を宿し横薙ぎに振り抜く。ゾンビの首を飛ばして勢い余った刃が隣のゾンビの腕も斬り飛ばした。
『アッォォッ』
　頭を地面に転がしながらも、言葉にならない唸り声を漏らしてゾンビは腕を伸ばしてくる。そこへライドキャリバーのぶんぶん丸が突っ込み撥ね飛ばした。
「ひっゾンビ！　こっちに来るなぁ！」
　そのグロテスクな見た目に脅えながらも、参三は縛霊手を展開させ顔を逸らしたまま結界を張り巡らせてゾンビの動きを止めた。
「一体ずつ、確実にですね！」
　そこへ弥太郎が懐から取り出した注射器を刺し、ゾンビを動かすエネルギーを奪い取った。
「まだ先は長いですから、ダメージは極力受けたくないですね」
　その腕を綾鷹が蹴り飛ばすと、霊犬の義龍が銭を弾丸のように撃ち込んだ。

●アンデッドの群れ
　ゾンビの群れを倒したと思った矢先、ゾンビ達がやってきた通路からカタカタッと音が近づいてくる。身構えると、そこには動く人の白骨死体が数体こちらへ向かってくる姿が見えた。
「もう次が現われたのです、必殺！　徹甲爆砕拳ッ！　……なのですッ！」
　かなめは鬼の如き腕を振り抜き、拳がスケルトンの体を粉々に砕いた。
　すると後衛のスケルトン達が弓を構え、矢が一斉に放たれ灼滅者を傷つけていく。
「危ねぇっ！　今度はこっちからお返しだぜ！」
　敵の矢を慧樹は槍で弾き、お返しとばかりに突き出した槍から氷柱を飛ばしてスケルトンを撃ち抜いた。
「……まずは、飛び道具を、潰し、ます……」
　敵の矢を躱しながら蒼が鞭剣を振るう。しなる刃が弓ごとスケルトンの体に巻きつき体を骨を削り取る。
「連戦ですか、長い戦いになりそうです。回復には気をつけないといけませんね」
　綾鷹が黄色い標識を立て、仲間達の傷を癒すと共に耐性を与える。それに続いてサイゾーも瞳を輝かせ傷を癒す。
「骨には注射が刺し難そうですね、それならこれではどうですか！」
　弥太郎は白髪に白い獣耳に尻尾を生やして飛び込み、鋭い獣の爪でスケルトンを切り裂いた。もう一体が弥太郎に向けて剣を振り上げる。
「戦場でよそ見してると危ないっすよ」
　絹代は髪の毛を編み込んだ真っ赤なスカーフを振り抜き、スケルトンの腰に巻きつけると引っ張って骨をへし折った。そのまま倒れたスケルトンの頭を踏み抜く。するとカタカタと骨がぶつかる音がまたもや近づいてくる。
　増援を倒したと思えば、ぞろぞろとまた新たな剣や斧を持ったスケルトンとゾンビがやってくる。
「また現われた！？　しかもゾンビも一緒に！」
　ひぃっと声を漏らしながら参三は背を向けて大砲をぶっ放し、スケルトンを粉々に吹き飛ばした。
　その爆風の中から怯むことなく生き残ったスケルトンが向かってくる。それを遮るようにライドキャリバーのヴィネグレットが割り込んで機銃を掃射した。
「ほらほら、こっちだよ！」
　柘榴の背中から帯が翼のように広がり、アンデッドの群れを包み込むように覆い縛りつける。
「まだまだ元気なのですッ！　水鏡流が発勁の奥義！！　天地神明ッ！」
　大きく踏み込んだかなめが両の掌を叩き込み、流し込んだ神気がゾンビの体を内部から破壊した。
「……戦い、続けるしか、ありません……」
　すぐに現われる増援に向け、蒼は近づく前に風の刃で先制する。
『ゥォァッ』
　ゾンビは唸りながら腕を振り回して突進してくる。その胴が斜めに切断され炎に焼かれる。
「どんどんこい！　全員燃やし尽くしてやるぜ！」
　慧樹が槍を振り回す。穂先に宿る炎が渦を巻くようにアンデッド達を斬り裂いていく。
「個として強くなくても、数の力は馬鹿にできません」
　仲間の傷が増えていくのを見て、綾鷹は少しでもサポートしようと標識を立て続ける。サイゾーも忙しなく傷を癒す為に力を使い続ける。
「何か音が……こっちからも来たぁ！？　こないでぇっ！」
　参三が振り向けば反対側からもゾンビ達がやってくる。慌てて飛び退きながら参三は結界を張って足止めをする。
「もうお代わりっすか、ちょっとペースが早い気もするっすね」
　絹代が注意を引く為に魔力を放って自分を狙うように紋章を刻み付ける。
「持久戦になりそうですね、少しでも体力を回復しておかないと」
　ゾンビの背後から弥太郎が首筋に注射を刺し、エネルギーを吸い上げて自らを回復する。
「心霊手術をする暇もないね、でもこの程度じゃ止められないよ！」
　柘榴が魔方陣を輝かせ敵の群れを凍りつかせる。そこへ走りこんだ義龍が咥えた刀で斬りつけた。
　火縄銃を持ったスケルトン達が銃撃を行う。そこへヴィネグレットは車体を割り込ませて弾を受け止めた。
　すると剣を持ったスケルトンが斬り掛かり、ヴィネグレットを両断した。

●最後の増援
　大きな盾を構えたスケルトンが正面から突っ込んでくる。その後ろにはゾンビ達が続く。
「何体だって相手になるのですッ、あーたたたた……ほぁた！！　絶招『驟雨』なのですッ！！」
　神気を纏ったかなめの拳がスケルトンの体を盾ごと打ち砕く。もう片方の手で剣を振ろうとするが、その前にかなめの拳が両肩を破壊していた。
「……こっち、です……」
　ローラーダッシュでゾンビに近づいた蒼は、そのまま相手を炎を纏った足で蹴り上げる。そして空中でもう一度蹴り飛ばして壁に叩きつけた。ゾンビの体は燃え上がって灰となる。
「またきやがったな！　吹っ飛びやがれ！」
　勢いよく跳躍した慧樹がゾンビの顔を蹴り飛ばした。そのまま胴体に着地して踏み砕く。もはや汚れや臭いを誰も気にしなくなっていた。周囲は崩れ落ちた死体だらけで、既に鼻は麻痺していた。
「傷は癒しても、そろそろ疲労が溜まってくる頃ですね」
　疲れた様子の仲間を見渡した綾鷹が、護符を飛ばして仲間を守るように傷を癒す。サイゾーもそれを手伝って回った。
　一体を倒してもすぐに次の一体が攻撃を仕掛け、灼滅者達は終わりの見えない戦いに消耗していく。
「まだ出てくるの？　数え切れないくらい倒したのに……もう許して！」
　参三が近づかせまいと大砲を撃って先頭のゾンビを爆散させた。
　両足を失ったゾンビが這うように近づいて腕を伸ばす。その攻撃を義龍が刀で弾き飛ばして斬り捨てた。
　新たに長槍を持ったスケルトン達が槍衾を作るようにして突進してくる。
「まだまだやられる気は無いっすけど、流石に鬱陶しいっすね……」
　絹代はスカーフを盾にしてスケルトンの攻撃を受け止め、逆に腕に巻きつけて斬り飛ばす。深手は負っていないが、体中に傷を受けていた。小さな傷でも蓄積されると軽視できないものとなる。
『ア、アゥァァッ』
　そこへ傷つきながらもゾンビがしがみ付こうと腕を広げて近づく。
「そうはさせませんよ」
　刀を抜き放った弥太郎は間合いの外から刃を一閃させる。すると刀身が伸びて鞭のようにしなって敵の体に巻きついた。それを引き抜くと、ズダズダに肉が削れてゾンビは崩れ落ちた。
「一体でも多く倒してしまいましょう」
　弥太郎は気力を振り絞って剣を振り続ける。
　倒しても倒しても敵の増援が途絶える事は無い。新たなゾンビが現われるのを見ると心が折れそうになる。それでも灼滅者達は戦い続ける。
「敵が多く来るほど他の班が動きやすくなるんだ！　ここが頑張りどころだよ！」
　気合を入れた柘榴の影が広がり敵の呑み込んだ。そこへヴィネグレットが機銃の集中砲火を浴びせる。
　斬り、殴り、蹴り、撃ち抜き、凍らせ、焼き殺す。灼滅者達は時間感覚を失ったようにただ戦い続け、周囲には死体の山が築かれていた。
「はぁはぁ……休憩する暇もないのですッ」
　肩で息をしながら、かなめは蹴りを放ち拳を見舞う。だが次々遅い来る波状攻撃にその手足は傷だらけだった。
「……流石に、これ以上は、無理、ですね……」
　蒼が獣の拳で目の前のゾンビを吹き飛ばしながら、延々と沸き続けるような敵の増援を見やる。
「う、うわぁああ！」
　迫るゾンビの迫力に参三は腰砕けになりながらも、蹴り飛ばして難を逃れる。
「俺の炎で燃え尽きろ！」
　慧樹はゾンビの胸に槍を突き刺し、内部から炎で燃やし尽くす。そして重そうに槍を地面に突いて体を支えた。
「そろそろ戦い始めて20分は経つな……」
「ここが潮時かもしれません。これ以上は戦線を維持できないでしょう」
　後ろから仲間達をフォローしていた綾鷹が、冷静に判断を下す。
「自分はまだまだいけるんすけど……まあ引くっていうなら従うっすよ」
　絹代は目眩しのように殺気を放ってゾンビどもの動きを阻害する。
「それじゃあ最後に大きいのを一発叩き込むよ！」
　柘榴が魔力を放とうとした時だった。それが現われた。
　黒の喪服に身を包んだ男が現われる。その隣から女性型の黒衣のビハインドが首に抱きついている。
「この力は……ダークネスです！」
　最初に気付いた弥太郎が鋭い声で仲間に警告する。
　男がこちらに気付いて振り向くと、胸元のアネモネが揺れた。涙を流す左目が灼滅者達を捉える。それは闇堕ちした柴・観月（あまほしの歌・d12748）だった。
「騒がしいと思ったら人間の侵入者だね。神様はどうして欲しい？」
　尋ねるとその耳元にビハインドが何かを囁く。
「そう、そうだね。邪魔なものは消してしまったほうがいいよね」
　うんと頷き、観月は魔力を手に集中させて灼滅者に向ける。
「これはやばいな、逃げるぜ！」
　そこで素早く決断した慧樹は仲間に声をかける。疲労しきった体で相手が出来る敵ではない。
「だいぶ時間は稼げたはずなのですッ、これが最後の一撃なのですッ！！」
　かなめが最後に双掌打を近くのゾンビごと壁に打ちつけた。仲間達も壁へ攻撃する。
　すると壁が波打ち、衝撃が灼滅者達を包み込む。観月の放った魔力が灼滅者を飲み込む前に、その姿はダンジョンから消え去った。

●脱出
「……外ですね、脱出できたみたいです」
　景色が一変した周囲を見渡した弥太郎が安堵の息を吐く。そこは自然に囲まれた迷宮の外だった。
「ふっ、大したことはなかったね」
　ぱさりと髪をかき上げた参三が、戦闘時の醜態などなかったかのように余裕の笑みを見せる。
「その通りっすね。ヤルつもりなら最後までやれたんすけど」
　傷だらけでも絹代は軽く笑って強気に胸を張る。
「……闇堕ちした、戦力を、こちらに、引き寄せられたのは、成功、ですね……」
　雑魚だけでなく主力の一人を引っ張り出せたと蒼は満足そうな顔をしたが、すぐにかつての学園の仲間を放置してしまった事に心を痛める。
「奥へ進んだ班が成功しているといいですね」
　後は結果を待つだけだと、綾鷹はやり終えた顔で口元に笑みを浮かべた。
「そうだな、後は信じて待つしだけだ！」
　慧樹も力を抜き、暫くは歩けそうにないと座り込んだ。
「大丈夫、きっと何とかしてるよ」
「そうなのです、朗報を待つなのですッ」
　緊張を解いた柘榴が微笑み、かなめもぐっと握り拳を作って応援するように腕を上げた。
　役目は果たした。多くの戦力を引きつけることで、他の班の陽動となっただろう。今は全体の流れを見渡せないが、後は仲間の成功を祈り待つだけ。
　灼目者達は疲れを癒し、仲間達の帰還を待つのだった。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年3月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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