富士の迷宮突入戦~探索目的は何、それとも何処か

    作者:陵かなめ

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     
    ●依頼
     琵琶湖大橋の戦いは、武蔵坂学園と天海大僧正側の大勝利と終わったと、千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が切り出した。
    「安土城怪人勢力の残党達は、本拠地であった琵琶湖北側の竹生島に立てこもっているんだけど、カリスマである安土城怪人を失った事で離散した者も多くて、その勢力は大きく減退しているようなんだ」
     灼滅者達はじっと太郎の説明に耳を傾けた。
     更に、安土城怪人に次ぐ実力者であった『グレイズモンキー』が拠点に戻ってこなかったこと、中立的な立場ながら、その献身的な活動で支持されていた『もっともいけないナース』が灼滅された事もあり、組織としての結束力も無く、遠からず自壊するのは間違いないと言う事だ。
     逆に、軍艦島勢力が合流した、白の王勢力は大幅に強化された。
     エクスブレインとは全く違う予知能力を持つ『うずめ様』、現世に磐石の拠点を生み出す事ができる『ザ・グレート定礎』、ソロモンの大悪魔の一柱『海将フォルネウス』、そしてセイメイと同じ『王』の格を持つ『緑の王アフリカンパンサー』。
     彼らは、白の王セイメイのこれまでの失策を補って余りある力を持っていることであろう。
    「けどね。多くのダークネスを富士の迷宮へと招き入れた事は、白の王に致命的な隙を与えることになったんだよ」
     太郎は身を乗り出し、その件について説明する。
     そう、富士の樹海で探索を続けていたクロキバに、その迷宮の入り口を発見されてしまったのだ。
     闇堕ちしてクロキバとなった白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)は、先代達の意志を継ぐべく、白の王の迷宮に挑もうとしている。
     同時に、武蔵坂学園に対して、この突入口の情報を連絡して来てくれたのだ。
    「今こそ、白の王セイメイだけでなく、田子の浦の戦いでは討ち取る事ができなかった、軍艦島のダークネス達を討ち取る千載一遇の好機となると思う」
     残念ながら、白の王の迷宮の入り口を通過できる人数には限りがあり、全軍で攻め入る事はできない。
     また、この機を逃せば、再び侵入する事はできなくなる。
     迷宮を突破し有力なダークネスを灼滅する事は難しいけれど、挑戦する意義はあるだろう。
    「そこで、参加する灼滅者のみんなは、どういった結果を求めるかを相談して、作戦をまとめて突入して欲しいんだ」
     なお、白の王の迷宮は、内部から迷宮を破壊しようとすると外にはじき出されるという防衛機構があるよだ。
     そのため、危機に陥った場合は、迷宮自体を攻撃する事で緊急脱出が可能となっている。
     ただ、この防衛機構により、迷宮への破壊工作もほぼ不可能となっているので、その点は注意が必要との事だ。
    「これまで様々な暗躍をしてきた白の王の喉下に牙をつきつける今回の作戦は、非常に重要な作戦になるだろうね」
     太郎は、ぎゅっとくまのぬいぐるみを抱きしめる。
    「迷宮からの脱出は難しくないけど、反面、敵拠点に攻め込むには戦力は多くないよ。成果をあげるには、目的を絞る事も必要かもしれないね」
     白の王セイメイを灼滅できれば、クロキバとなった白鐘さんを闇堕ちから救出することも可能だろう。そうすれば……。
     太郎は何かを言いかけて首を振った。
    「この戦いは、田子の浦の戦いの雪辱戦でもあるよね。みんな、頑張って」
     最後にそう言い、説明は終わった。


    参加者
    西羽・沙季(風舞う陽光・d00008)
    ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)
    室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)
    焔月・勇真(フレイムエッジ・d04172)
    琴鳴・縁(雪花の繭・d10393)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    三和・悠仁(残夢の渦・d17133)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)

    ■リプレイ


     室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)は琵琶湖・田子の浦の戦いから引き続き参戦している、と言う気持ちで眼前の『セイメイの富士の迷宮』につながる入り口へ進んだ。『武蔵坂学園』としての雪辱戦のつもり……でもあるが。
    「……なんですが、私達の目的は探索なんですよね……」
     とりあえず、セイメイの目的を探り、一泡吹かせてやろうと言うもの。
    「何としても阻止しないと」
     マテリアルロッドを握り締め、西羽・沙季(風舞う陽光・d00008)が頷いた。やや表情硬く、少しでも皆の力になればよいと思う。
    「勝利を我らに、……今度こそ」
     ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)が促すと、残りの仲間達も次々に迷宮へと足を進めた。目的は決まっている。セイメイの企みを探ることだ。
    「ここまで散々好き勝手してくれたんです、その成果、掻っ攫わせてもらいましょうか」
     霊犬の清助を撫で、琴鳴・縁(雪花の繭・d10393)が微笑む。穏やかと言うよりも、腹の中で山ほど黒い思いを蓄えていそうな笑みだった。
    「ここが富士の迷宮なんですね」
     周辺を見渡し夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)が言う。
     上層へ向かうチームや自分達と同じく下層へ向かうチームが各々移動を開始した。
    「セイメイさんのお宅訪問して、どんなコタツを使っているのか……いえ、何の準備をしてきていたのか調査しましょう」
     炬燵はそう言って笑い、下層を指差す。
    「大きな道が一つか。これだけの人数がいれば、音を立てないようにって、気にしても無駄っぽいな」
     実に百数十名の灼滅者が下層を目指していた。チーム毎にまとまって行動しているが、これだけの大人数で移動すればそれは仕方がないことだろう。
     白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)は周囲を警戒しながら、仲間達を見た。
    「そうですね。ライトも必要無いようです」
     迷宮内部は、淡く光っている。そのため、用意していたライトは使わなくて済みそうだ。三和・悠仁(残夢の渦・d17133)は通信機器を操作している焔月・勇真(フレイムエッジ・d04172)に目を向けた。
    「ハンドフォン、インカム、うーん、どうやら使えないようだね」
     ここは自然の洞窟と言うわけでもないのだし、その可能性も高かった。
     勇真は無線の使用を諦め、そのように説明した。
     その時、周辺から危険を知らせる声が聞こえる。
    「早速、お出ましだ」
     小さく舌打ちをし、ニコが踏み込んでいった。
     見ると、道の向こう側に二体のスケルトンが武器を構えている。近くで行動している別チームも敵を見つけ戦いを始めたようだ。
    「戦うなら、速攻で倒すぜ」
     歌音もすぐに地面を蹴り、より近くにいた敵に閃光百裂拳を叩き込む。
     仲間も次々にサイキックを放った。
     こちらに向かってきた二体のスケルトンは、集中砲火にあえなく沈む。
    「では、気をつけて進みましょう」
     仲間に傷が無いことを確認し、のぞみがほっと胸をなでおろした。今回、自分は回復役だ。回復役は仲間の生命線とも言える。誰も傷つけさせない。自分も倒れたりしない。その思いを胸に、また先に進む。
     灼滅者達は、現れる敵を蹴散らしながら下へ下へと進んでいった。


     途中いくつか小道はあったが、下層へ続く大きな道は一つだった。灼滅者達は目に入る敵を撃破しながらどんどん奥へと移動していた。戦力は十分にある。仲間達も、まだ体力に余裕があった。
    「やっぱり重要な場所は隠されている可能性が高いのかな」
     壁や床など不自然な場所が無いか、沙季が周辺を見る。
    「隠された場所から、敵が襲ってこないとも限りませんよねえ。気をつけましょう」
     頷きながら、炬燵は仲間を守るように一歩前を歩き、警戒するように辺りを見回した。今は周囲に敵の姿は無い。だが、どこから敵が現れるかわからないのだ。数の圧倒的優位があるにせよ、油断はできないと思う。改めて気を引き締め、灼滅者達は進んでいく。
    「それにしても、少々匂いますね」
     ずっと気になっていたのだが、ついに悠仁がそれを話題に出した。
     仲間達も一瞬顔を見合わせ、頷きあう。
     下層に下りてきたあたりから、強烈に生臭い匂いが漂ってきているのだ。ここに来るまでに何度かゾンビとも戦った。ゾンビがいるのだから、生臭いのは仕方が無い。
    「だが、普通のゾンビならばここまで生臭いのは不自然だ」
     ニコは口元に手を当て考える。そうだ。普通のゾンビなら死んでからの時間が長いので、ここまで生臭くは無いはずだ。
    「これもセイメイの作戦によるものなのでしょうか? それは、セイメイの賭けに関わる様な何かなんでしょうか……」
     縁が鼻に手を当て、辺りを窺う。足を進めるにつれ、匂いはさらに強烈になってきた。
    「何にせよ、何考えてたのか突き止めてやろうぜ」
     仲間を励ますように、勇真が努めて明るくそう言った。難しいことはわからないけれど、セイメイの企みは知りたいし、できれば阻止したいと思っている。
    「そろそろ最下層じゃねぇの?」
     最前列で戦い続けてきた歌音が、その先を見て指差した。
    「あれは……、広間でしょうか?」
     のぞみが奥を覗き込む。
     共に最下層を目指してきた学園の仲間達も、すぐそこが目指した場所だと確認したようだ。遂に辿り着いたのだ。一同は表情を引き締め、警戒しながら大広間に足を踏み入れた。


    「あ、これは……こんな……」
     よろよろと、沙季が後ずさる。強烈な匂いと痛烈な光景が灼滅者達を迎えた。
    「これが、セイメイの、企みですか?」
     縁は穏やかな笑みを浮かべ、持参したビデオのスイッチを押す。だが、その光景を見て平静で居られようか。スイッチにかけた指先が、一瞬制御しきれずに震えた。
    「何だよ、これ。……だから気に食わない。アイツ、在り方もやり方も!」
     イラつくように舌打ちをして、悠仁が拳を握り締める。
     周囲の仲間達も、愕然とその光景を見ていた。
     死体だ。
     どこも、かしこも、そこも、ここも。
     この広い間に、見渡す限りの死体死体死体死体死体。
     東京ドーム数個分にもなろうかと言う大広間に、一万体近い死体が集まっているのだ。
     あるいは驚き、あるいは憤り、灼滅者達は意を決して死体へと近づいた。よく見ると、ゾンビに噛み付かれて殺されたようなものが多いことに気づく。状態から見て、つい最近殺された死体であろうか。
     もう少し良く観察してみようかと、足を進める者もいる。
    「下がって! 下がってください!」
     その時、炬燵の切羽詰ったような声が響いた。
    「何てことだよ、ちくしょうッ」
    「死体が動いた?! あれは、ゾンビ!!」
     すぐに勇真と歌音が戦う体勢を取る。
     勇真は、ライドキャリバーのエイティエイトをディフェンダーに走らせ、自分はクルセイドソードを手に取った。
     歌音は、今までそうしてきたように仲間の最前列に躍り出てオーラを拳に集めた。
     生者の気配を感じたのだろうか。言葉通り、死体が動き出したのだ。目の前の死体のうち、動き出したものは約半数。五千体ほどがゾンビだったというわけだ。
    「数が多いですね。けれど、それだけとも思えません」
    「そうだな。これがセイメイの研究成果と言うのなら、ここで全滅させなければ」
     のぞみとニコは、自分達に向かってくるゾンビを見て頷き合う。
     ゾンビが五千体ほど。本来であれば、あまりの数の多さに撤退も考えただろう。だが、今この時に、周囲には学園の仲間が多数居る。一チーム、ざっと見積もって三百体を相手にする計算だ。
    「やってやれない事はありません」
     悠仁は普段の口調を取り戻し、仲間達に確認する。今回でセイメイの目論見をつぶせたら、どれだけ胸が空くだろうと思っていた。だが、目の前の光景はあまりにも無残だ。それでも、悠仁は技を振るうだろう。ただ、殺すための技を。
    「うん。そうだね。ゾンビに殺された死体のようなゾンビ……何か嫌な予感がするけど、今はやるしかないよ」
     沙季も一つ大きく呼吸をし、しっかりと両足でその場に立った。
     マテリアルロッドを両手で持ち、迫り来るゾンビ達を見据える。
     仲間達は確認し合い、地面を蹴った。
     周辺でも戦いの始まる音が聞こえてくる。
     三百体のゾンビを相手に、血戦が始まった。


    「ァアアア、ヴァ、アアア」
     言葉にならない叫び声を上げ、ゾンビが腕を振り下ろす。
     その攻撃をステップして避け、沙季は祈るようにロッドに力を込めた。瞬間、敵の周辺が凍り付く。
    「――、――――」
     氷に襲われ、ゾンビが身悶えた。
     そのゾンビは、真新しいエプロンを付けていた。手には料理用のフライ返しを持っている。沙季の目の前でロングスカートが翻った。夕飯を作っていたお母さんが襲われてゾンビになったなら、きっとこんな姿なのだろう。エプロン姿のゾンビには、かみ殺されたような痕が見えた。
     一瞬、沙季は下唇を噛んだ。
     ゾンビが崩れ去る。
     こんな。つい最近まで生きていたような姿のゾンビが。日常を思わせる風貌のゾンビが。
     沙季の心にやるせない気持ちがこみ上げてくる。
     その時、真横でゾンビが吹き飛んでいくのが見えた。
    「大丈夫か?! 怪我は?」
     勇真が沙季を狙っていた別のゾンビを蹴り付け、距離を取らせたのだ。サイキックで仕留めようとしたが、蹴ったゾンビはダメージを受けたようで動かなくなった。
     一旦武器を下ろし、勇真が沙季を見る。
    「うん。うん、大丈夫だよ。早く終わらせよう」
    「よし、行こうか」
     沙季は何度か頷き、また走り出した。
    「皆、まだ行けますか? 数は減ってきています」
     仲間の状態を確認しながら、悠仁も戦い続けていた。フォースブレイクで敵を内側から爆破し、次の敵へと走り詰める。沈んだゾンビから、何かの名札が飛び散ってきた。傷もあまり無く新しいものだ。
    『**小学校 *年 *組 ******』
     ちらりと、名札の文字が瞳に映る。
     今蹴散らしたゾンビも、噛み殺されたような痕が在った。ゾンビに噛み殺されたような痕だ。
     ああ、気に食わない。
     セイメイに対しては、それのみだ。気に食わない。気に食わない。
     悠仁は知らず舌打ちをし、次のゾンビを斬り付けた。ただ斬り、潰して行くだけ。それだけだった。
    「流石に数が多いぜ! そこ、気をつけろよ」
     歌音はリングスラッシャーを飛ばし、崩れかけた敵を確実に静める。
     ゾンビ一体一体は、灼滅者の敵ではない。一つ二つ攻撃を叩き込めば、簡単に潰す事ができた。だが、やはり敵の数が多い。ほんの少しずつではあるが、ダメージが蓄積されつつあった。
     一体のゾンビが歌音に踏み込んできた。
     間合いが取り辛い位置だったため、歌音は敵の腹を蹴り飛ばし距離を無理矢理作り出す。追って閃光百裂拳を放とうと構えたが、すでに敵が動かなくなったと気づいた。
    「オレはまだ行けるぜ!」
     まだまだ周辺にはゾンビが動き回っている。
     歌音は次の敵を目指し走った。


    「傷の状態はどうですか? 順に回復します」
     のぞみは気を配りながら、仲間の状態を確認していた。まだ戦える。けれど、傷は確実に増えている。
     癒しの風を招き、のぞみは前衛の仲間を回復させた。
     そこで、ニコが不自然な動きをしているのが目に入る。
    「どうかしましたか?」
    「……変だ」
     ゾンビをただ殴りつけ、ニコは難しい顔をしていた。
     殴り飛ばされたゾンビは、地面に体を打ちつけ、崩れ落ちる。
    「今のは、サイキックの攻撃ではないですよね?」
    「やはり、おかしいですね」
     戦いながらもずっとゾンビの様子を見ていた縁も疑問を口にした。戦いが始まりビデオを撮る余裕は無かったけれど、これがセイメイの企みだというのなら自分達はそれを調べに来たのだから。
    「そうだ。先程から気にかかっていたが、サイキックを使わない攻撃でゾンビにダメージが入る」
     ニコの言葉に縁も頷く。
    「……そう言えば、死体の半数は普通の死体でしたね」
     この大広間に、最初は一万近い死体があったはずだ。ビデオを録画した縁は、はっきりと覚えている。そして、その半数が襲ってきたのだ。
    「ゾンビと死体との違いは何か無いでしょうかねえ?」
     近くで仲間の回復を行っていた炬燵は、きょろきょろと辺りを見回した。
     何か他に気づいたことはあるだろうか?
     セイメイは何の準備をしてきたのだろう?
    「ゾンビも死体も殺された傷があるのは同じですけど……」
     襲ってきたゾンビを蹴散らしながら炬燵が首を傾げる。
    「そうです。ゾンビを見るのではなく、ゾンビとなっていない死体の共通点は?」
     はっと、縁が顔を上げた。
     その場に居た者が、地に伏している死体に目を走らせる。
    「撲殺された死体が目立つか? 何か理由が?」
     呟く様なニコの声を仲間達が聞いていた。
    「ァアアア、ヴァ」
    「ァアアアアアア、ァアァァァァ」
    「そっちに行ったよ。一度散って!」
     勇真の叫び声が聞こえる。
     近づいてきたゾンビの集団を見て、話し合っていた仲間も一旦散会した。


     その後数十分以上、灼滅者達は戦い続けた。
     こちらの体力も流石に削られてきた、けれど。
    「あと少しだね」
     オーラキャノンを放った沙季が大広間を見渡した。入り口は? いや、怪しい壁に潜むモノは? どこから何が現れてもおかしくない。沙季は調査を仲間に任せ、周囲を警戒しながら次々にゾンビを崩していった。
    「ああ、あと少しだぜ! 動いてるゾンビは減ってきたじゃん!」
     リングスラッシャーで敵を潰した歌音も、勢いよく頷く。
     体力の減ってきた仲間を鼓舞するように声を掛け合っていた。皆もあと少しだと攻撃を繰り返した。事実、大広間のゾンビの数は確実に減っている。
    「他のチームも、ほぼ灼滅に近いですねえ」
     炬燵は仲間を庇いながら、近くの仲間を癒していた。
     こちらも、受け持っていたゾンビの群れを、あと少しで壊滅に追い込むことができるだろう。
    「まだ、皆さん戦えます。大丈夫、回復が届きます」
     のぞみは、シールドを飛ばしながら皆の体力の減り具合をずっと確認していた。まだ誰も倒れていない。あと少しで敵を全滅させることができる。このまま行けば……。
     そう考えていたまさにその時、大広間に、いや迷宮全体に激震が走った。
    「これは、一体?!」
     衝撃でよろめく体のバランスを取りながら小さく舌打ちし、ニコが声を上げる。周囲の仲間も、状況が分からず慎重に辺りを見回した。
    「あ! 無線が?! あ、え、ええ?!」
     迷宮に入ってから使えなかった無線が急に使用可能になった。勇真がそれに気づきインカムを耳に当てる。
    「何が起こったんですか?」
     悠仁に問われ、勇真は叫んだ。
    「セイメイと戦っていた仲間が、セイメイを倒したんだってさ!」
    「え?! それでは、ここは?」
     セイメイが倒された。しかし、それを喜ぶ前に考えなければならないことがある。ここは、『セイメイの富士の迷宮』だ。縁が清助を手元に呼び寄せた。
    「そうだ、崩壊するって!」
    「急いで脱出しましょう」
     勇真の言葉を確認し、炬燵が武器を振り上げる。
     皆も一斉に迷宮を破壊しようと壁に床に武器を振り下ろす。
     瞬間、灼滅者達は迷宮を脱出した。


    「……ここは?」
     気づけばここに居た。のぞみはゆっくりと辺りを見回す。
     先程の風景から打って変わって、どこかの学校の校舎の裏庭のようだ。
    「皆さん、無事ですか?」
     どうやらここにいるのは自分達だけらしい。あんなに沢山居た学園の仲間達とはバラバラに飛ばされたようだ。炬燵が仲間の無事を確認しながら声をかける。
    「待て、後ろだ!!」
     鋭いニコの声。
     迷宮を脱出して一息つきたかったが、そうもいかないようだ。
     とっさに仲間達はその場から飛びのいた。
     そこに、二体のゾンビが蠢いている。
    「ァアアアア、ァ」
    「ヴァア、ア――」
    「私達の転移に巻き込まれたのでしょうか」
     今にも襲い掛かってくるそぶりを見せるゾンビを見て悠仁が言った。
    「そうかもしれませんね。――清助」
     頷きながら縁が清助を敵に向かわせる。
    「やるしかなさそうだよ!」
     勇真もライドキャリバーを突撃させ、その間に炎をクルセイドソードに纏わせた。ありったけの炎を叩きつけ、ゾンビを消滅させる。
     仲間達も畳み掛けるようにもう一体に攻撃を集中させた。
     程なくして、二体のゾンビを撃破する。
    「もう本当に、敵は居ないんだな」
     歌音が確認するように周辺をきょろきょろと見渡した。
    「うん。大丈夫みたいだね。皆で無事に脱出できたんだよね」
     ほっとした表情で、沙季が武器を持つ手を緩める。
     あのゾンビの群れを蹴散らし自分達は迷宮を出ることができた。
     灼滅者達は、ようやくそれを実感したのだった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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