富士の迷宮突入戦~ダンジョンダイバーズ

    作者:君島世界

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     
     ――鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)が、両手に多数の資料を抱えて教室に入ってきた。教壇にそれらを置くと、まずは集まった灼滅者たちに一礼。
    「ご足労いただきましてありがとうございます。今回の話はちょっと長くなりますので、メモのご用意などしていただければと思いますの。……はい、ではさっそく。
     先日の『琵琶湖大橋の戦い』は、私たち武蔵坂学園と、天海大僧正側との大勝利に終わりました。一方、敗北した安土城怪人勢力の残党は、本拠地であった琵琶湖北側の竹生島に立てこもってはいますが、求心力を持った安土城怪人を失ったことで去っていった者も多く、その勢力を大きく減らすこととなりました。
     それに加えて、安土城怪人に継ぐ実力者であった『グレイズモンキー』が拠点に戻ってこなかったことと、献身的な活動で多くの支持を集めていた『もっともいけないナース』が灼滅されたこともあり、安土城怪人勢力残党は、組織としてはすでにガッタガタですの。そのうち自壊することは間違いないと見られていますわ」
     と、安土城怪人勢力と書かれたマグネットシートを、黒板の隅に移動させる仁鴉。武蔵坂学園と天海大僧正は、一応近接した場所に据えておいて、次のシートを取り出す。
     
    「さて、軍艦島勢力が合流した白の王勢力ですが、これは大幅に強化されました。私たちエクスブレインとは全く違う予知の力を持つ『うずめ様』、現世に磐石な拠点を生み出すことの出来る『ザ・グレート定礎』、ソロモンの大悪魔の一柱『海将フォルネウス』、そしてセイメイと同じ『王』の格を持つと言う『緑の王アフリカンパンサー』。これらのダークネスは、白の王セイメイのこれまでの失策を補って余りある実力を持っていることでしょう。
     ですが。
     多くのダークネスを富士の迷宮に招き入れた事は、白の王セイメイにとって、致命的とも言える隙を与えることになりました。
     と言いますのは、富士の樹海で探索を続けていた、新たなクロキバ――『白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)』様に、その迷宮の入り口を発見されてしまったのです」
     その名を聞いて、灼滅者たちの間にざわめきが生まれた。
     
    「今は――今は、クロキバとお呼びしますわね。クロキバは先代たちの遺志を継ぐべく、白の王の迷宮に挑もうとしておりますの。と同時に、私たち武蔵坂学園へ、この突入口の正確な位置情報を連絡してくださいました。
     皆様、これは、千載一遇のチャンスですの。
     白の王セイメイだけではなく、田子の浦の戦いでは討ち取る事ができなかった軍艦島のダークネスたちを、今度こそ討ち取る好機となりますわ。
     白の王の迷宮の突入口を通過できる人数には制限があり、残念ながら武蔵坂全軍で攻略に当たることはできませんの。また、この機を逃してしまえば、再び侵入することは不可能となるでしょう。
     チャンスは一度きり、さらに迷宮を突破して有力なダークネスを灼滅することは難しいかもしれませんが、挑戦する価値は大いにありますの。
     ですので、この作戦に参加される灼滅者の皆様は、どのような戦果を求めるかをよく相談し、綿密に作戦をまとめた上で突入していただければと思っております。
     あ、白の王の迷宮に関して、わかっている事実が一つありますわ。それは、『内部から迷宮を破壊しようとすると、外にはじき出される』という防衛機構が存在している、ということですの。迷宮の壁に穴を開けて一直線に進むという力任せな攻略はできなくなりますが、その代わりに迷宮自体を攻撃することで、どこからでも緊急脱出することが可能となっていますわ。危機に陥るようなことがあれば、この機構を使えばよろしいかと思います」
     
    「――これまで好き勝手に暗躍してきた白の王セイメイ、その喉元に直接刃を突きつけることのできる今回の作戦は、今後のダークネスとの戦いにおいても非常に重要な転機となりえるものですの。皆様、心して取り掛かってくださいませね。
     迷宮からの脱出こそ容易ですが、ただ、戦力自体は少々心細いもの。戦果を上げるには、その目的を絞ることも必要でしょう。ただ、白の王セイメイを灼滅するできれば、クロキバとなった白鐘様を闇堕ちから救出することも可能だと思いますわ。そうすれば、きっと……ね。
     加えてこの戦いは、田子の浦の戦いの雪辱戦でもありますわ。皆の無事とご健闘を、学園にてお祈りしておりますわ。――がんばって!」


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    病葉・眠兎(紙月夢奏・d03104)
    廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(松芝悪子は夢を見ている・d11167)
    夜川・宗悟(彼岸花・d21535)
    倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)
    秦・明彦(白き雷・d33618)

    ■リプレイ

    ●ヒット・エンド・ラン
     下層探索を担当する灼滅者は、18チーム144名に登る。
     数を頼りに彼らは、一丸となって迷宮を突き進んでいった。
     その圧倒的な戦力の前に、しばしば遭遇する程度のスケルトンなどはなんの障害にもなり得ない。見つけ次第の集中攻撃で、こちらにさしたる被害も出さずに突破することができるのだから。
    「これはこれでヒャッハーで良いのだが……もっとこう頭脳プレイというか、曲がり角の先を手鏡で確認して忍び足で近寄って闇討ちするような、そういうのを想定しておったのだがなー」
     ワルゼー・マシュヴァンテ(松芝悪子は夢を見ている・d11167)は、既に灼滅されて灰になっていくゾンビを横目にぼやく。
     そのため息を察知してか、側に控える倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)が同意に頷いた。
    「いやまったくじゃのぅ教祖様。折角決めたハンドサインも、これでは使うタイミングが……」
    「別に日常会話で使ってしまっても構わんのだろう?(しゅばばばばば)」
    「あ、それもそうじゃな(しゅばばばばば)」
     と、2人は同時に集団から飛び出すと、また通りすがりに新たなスケルトンを撃退した。討ち洩らしも別の灼滅者たちが順次処理をしていく。
    「ふ、鎧袖一触じゃな!」
    「すまないが急ぐ道行きなのだ……。さらば」
     万事この調子である。そんな中で二夕月・海月(くらげ娘・d01805)は、大急ぎでマッピングをし続けていた。駆け足移動に揺れるクリップファイルを、影業の『クー』で支えている。
    「ワルゼー、姫月。今の脇道、その先はあったか?」
    「いや、袋小路だったなー」
    「そうじゃの。おそらくだが隠し扉もあるまい」
    「了解――」
     マッピングをすると同時に、『スーパーGPS』での現在位置確認も行う海月。光点はずっと樹海内部を示しており、気づかぬうちに別の地点へ飛ばされるようなことは、今のところ無いようだ。
    「――ところで無線は、やはり繋がらないままか?」
    「Disturbed……はい、依然通信不能です」
     と、ヘッドセット型無線機を装着した病葉・眠兎(紙月夢奏・d03104)が答えた。
    「こうして固まって動いているので、下層班での情報共有自体はスムーズですが。……あ、海月さん、ここに目印になりそうな岩がありましたので、記入を」
     眠兎はそう報告し、横から地図に小さな丸を書き加える。と、インカム付き携帯電話を掲げた廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)も、同じく、と続けた。
    「同じく、携帯も繋がらないままだね。やっぱり何か妨害されているのかな――というわけで!」
     燈はそう答えると、携帯電話を戦闘の邪魔にならないようにポケットにしまった。すこし速度を上げ、前線でスケルトンをひき潰している灼滅者たちと合流しに行く。
    「燈もちょっとオフェンス行ってくるね! 着信があったらすぐに戻るから!」
     戦闘大好きっこの燈としては、その血が騒ぐのだろう。嬉々として向かっていった。
    「……ところで、みなさん。何かお気づきになられたことなど、ありましたらご報告を」
     眠兎が問うと、夜川・宗悟(彼岸花・d21535)が手を挙げた。
    「あるよ。気づいている人も多いようだけど……この、匂いだ」
    「匂い? うん、そういえば」
     海月が鼻を揺らす。死体の血と腑の臭いが交じり合った、『生臭い』匂い。
    「でもこれは、アンデッドがいるなら当然――いや」
     答える間に、その匂いはより強くなっていった。もはや『強烈な』と言ってもいいほどに。
     アンデッドとの遭遇戦が頻度を増したわけでもない。なら、何故か。
    「そう。風化しきった死体であるスケルトンなら、本来ここまでの生臭さはないはずなんだ。
     ここまで強烈に生臭いのは、おそらく……」
     嫌な予感に、宗悟は表情を曇らせる。
     そして、ある一線を超えた途端、灼滅者たちは全員が、その恐るべき臭気と光景の前に立ちすくむこととなった。

    ●セイメイ地獄、暴かれた事実
     ――セイメイの迷宮、その最下層である大広間に踏み込んだ灼滅者たち。
     広さとしては、東京ドーム数個分に相当するだろう。障害となる壁や遮蔽物もなく、しかし彼らは、その足取りを一旦止めることを余儀なくされた。
    「な……」
     一様に言葉を失う。立ち尽くす力を失い、膝を付く者もいた。涙を流す者もいた。驚きに目を見開く者もいた。怒りに震える者が最も多かった。
     それは、かつて見てきた地獄とも、文字通り桁の違う惨状。
     捨て置かれた概算1万体の人間の死体。
     その多くに、ゾンビに噛み付かれたかのような傷が付いていた。加えて『新鮮な』死体であることも、一見してしまえばわかる。
     生臭さの理由は、つまりこれだ。セイメイの目的とも無関係ではあるまい。
     しかしどうすればよいのか、判断を持て余す灼滅者たち。どうあっても、どこかでこのやり切れなさを――振り切らねばならないだろうことは、皆わかっていた。
     故に千布里・采(夜藍空・d00110)は行く。
    「行きましょか。セイメイさんの目的、これはもう微塵に潰さないとあきません」
     死体を跨がぬよう踏まぬよう、細心の注意を払って奥へ。その行為は同時に、無残に殺された死者を見下ろし見つめることでもあり、采はひどく悲しくなった。
     これまでと比べれば圧倒的に速度を落とし、灼滅者たちは行く。
     そして。
     全くもって予想通りに。
     死体たちは新たなゾンビとして起き上がった。
    「おおおおおおおおおおおおおおおッ!」
     秦・明彦(白き雷・d33618)の怒号が、大広間をつんざく。起き上がり、彼の首に腕を伸ばしてきた学生服のゾンビが、袈裟懸けに両断され死体に戻った。
    「人の誇りを……何だと思っている! セイメイィッ!」
     当然その1体だけで終わる訳はなく、あちこちで死体が起き上がり始める。そうならないものもあることから、おそらく『半数程度の死体』がゾンビとなるのだろう。
    「明彦さん。これ……セイメイの研究結果とやらは、ここで全滅させましょ」
    「同感だ。それに、手応えでわかってしまったが、どうやら勝算ならありそうだ」
     明彦は刀身についた血を払い、正眼に構えた。采もスレイヤーカードをひらめかせ、霊犬を呼び出す。周囲の仲間たちも、それぞれの殲術道具を手に取った。
     144名の灼滅者、対するは5000余体のゾンビ。絶望的な戦いが始まる――。

    ●優しさと怒りの果て
    「………………っ」
     まさか直視するわけにも行かず。
     それでいて目を背けるわけにも行かず。
     ジレンマに苦しみながらも燈は、マテリアルロッド『桜雫』に、俯いたまま魔力を通した。
     新鮮な死体であるこれらのゾンビは、外見において、かなりの部分で彼らの生活を色濃く残したままであった。学生鞄を携えた高校生、ネクタイをはためかせるサラリーマン、古い割烹着に身を包んだ老婦人、おそろいのパジャマを着た姉妹……。
     安らかな日常が全て非道に殺され、ゾンビの材料とさせられたわけである。
     そんな彼らを、ヴォルテックスが一息に吹き飛ばした。地に落ちたそれらは、灰と化し、泥と溶け、塵に帰り、しかしその表情に安らぎが戻ることは無く……。
    「燈は……燈、は……!」
     無言の慟哭が、そこかしこから立ち上っている。燈は、前へと進んで行った。
    「ヴァウッ!」
     采の霊犬が、斬魔刀の一振りで若い女性のゾンビを地に返す。それでも静かに佇むその背を、采はそっと撫でて。
    「そや、意趣返しやあらへん……八つ当たりも違う……。弔いや、これは」
     采の影業が、するりと無音で飛び出す。獣の翼を象ったそれは、背後から襲い掛かるゴルファーゾンビを、瞬く間に影縛りで行動不能に追いやった。
    「上層に行った人たち、うまいことやったやろか……頼むで、今回ばかりは」
     続けて影業は沼のように走り、また別のゾンビを影喰らいに捕まえる。
    「後生や」
     飲み込まれまいともがき、地面に爪を立てる少年ゾンビを、采はそっと蹴り飛ばした。
     ――ガウンッ!
     宗悟の撃ち出した制約の弾丸が、野球帽を被ったゾンビに命中する。魔法が走り、その死んだ神経系を侵した。ぐるんと白目を剥いて倒れていくゾンビを、宗悟は捨て置いて次の敵へと向かう。
    「随分と……やってくれたねセイメイ。これがあんたの企んでいたことだって言うんなら」
     しかし表情は、激しい怒りに燃えていた。七不思議奇譚を準備しながら、睨み付けるのはここにはいない黒幕、セイメイだ。
    「潰すさ、この人数で。僕たちで」
     奇譚を解き放つ。具現化する都市伝説の力が、ファミレス制服ゾンビを押し倒した。
    「こん……のっ!」
     と、ワルゼーは襲い掛かる老人ゾンビの噛み付きを身を回して避け、遠心力のままに螺旋槍をぶん回す。穂先に捉えられたゾンビは、濁った血を撒き散らしながら吹き飛んでいった。
     零れた血の残滓が、その老人の肌着をゆっくりと汚していく。息をつく暇もなく畳み掛けてくる新手からの攻撃を、間に入った姫月が正面から受け止めた。
    「教祖様、ここは我に――ったあああああ!」
     姫月は上から大口開けて圧し掛かってくるゾンビをぐるりと逸らすと、わずかに開いたスペースを助走距離として、強烈なスターゲイザーをゾンビに叩き込む。頚椎を砕かれたか、びくんと痙攣したそれは、すぐに動かなくなった。
    「様相は正しく地獄なれど、ご一緒出来て光栄です、教祖様……御身は我が剣がお守りします!」
    「心配無用……だが、頼りにしておるぞ、姫月殿」
     ほ、と息を抜くワルゼー。気心の知れた相手が側にいることで、少しだけ、楽になった。
    「……! 身に余るお言葉、もったいのうございま邪魔じゃあああッ!」
     と、背後を取った痩身ゾンビを、とっさの肘打ち裏拳で突き放す姫月。これは敵の攻撃に対する防御行動であるため、とどめを刺すためにはサイキックを打ち込まねばならない……はずだ、が。
    「あ、あれ?」
     痩身ゾンビを、今の牽制で倒してしまったようだ。立ち上がってこず、ぴくりともしない。
     サイキック以外の攻撃で、なぜ……?

    ●疑念
     戦闘開始から数十分、同じような現象が、戦場のそこかしこで起こっていた。
     確かに戦いの流れの中では、例えば前蹴りで敵の勢いを殺したり、腕を取って投げ飛ばしたりすることはある。しかしそれらは全て防御行動であって、ダメージが通るはずは無い。そこから改めて攻撃サイキックを放つことを常としていた灼滅者たちにとって、これは異常なことであった。
    「シッ!」
     ダッキングからのショートフック。海月の攻勢はそこで終わらず、ゾンビ婦人の胴体部分を拳撃で埋め尽くしていく。
     ダダダダダダダダダダッ!
    「せめて顔は無事のまま、眠ってくれ」
     閃光百裂拳。海月のストレートが、ゾンビ婦人の心臓を打ち砕いた。もとより機能を果たさない臓器であったが、それが止めとなり、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
    「――そこだな、クー!」
     別のゾンビが振り下ろしてくる凶器を、咄嗟に『クー』の触手を伸ばして払う海月。体勢を崩したゾンビは、倒れた衝撃でどこかを打ったらしく、やはり動かなくなってしまった。
    「! 今のは!?」
    「わかりません……が、何でしょう。偶然とは言い切れない頻度で発生しているようです」
     眠兎がカバーに入る。空いた両掌を下に向け、影業をその高さへと引き上げた。
     拙い動きで近寄る僧服のゾンビを、キッ、と見つめる。
    「あ……あぁ、お、が……」
    「影に沈みなさいっ……!」
     双の腕をクロスさせ、影喰らいの波を起こす。どぷん、と飲み込まれた僧服ゾンビは、間もなくその姿を消滅させた。
    「もしかして、ですが。試す価値はあるかと思います。その――『サイキックではない攻撃』を」
     眠兎自体は、あまりクロスレンジの戦闘を行うタイプではない。故にこの疑惑を確かめるためには、仲間との協力が必須となる。
    「了解した、素手で行く。実は俺も、そのことは気がかりだったんだ」
     応えたのは明彦だ。聖剣を鞘に収めると、間合いを計っての左ジャブを敵に浴びせ掛ける。
     活性化したいかなるサイキックとも違い、また手加減攻撃ですらない攻勢だ。万一の事態に備えいつでも抗雷撃を打てるように準備していたが、敵ゾンビはあっけなくKOされた。
    「……見ての通りだ。このゾンビはサイキックで無い攻撃で倒せる。しかし、どういうことだ?」
     倒れた敵ゾンビの側には、別の、ゾンビにならなかった死体がある。それらを見比べて、明彦はある事実に気が付いた。
    「ただの死体の多くが、撲殺されている……対して、ゾンビになった死体には、必ず『致命的な噛み傷』があるようだ」
     どういうことだ? と、再度の疑問が脳裏をよぎった時、突然。
     ゴォオオオオオオオオン!
    「な……この揺れは!?」
     大広間に激震が走った。時を同じくして、燈が血相を変えて走り寄ってくる。
    「べ、別チームからの緊急連絡! セイメイが灼滅されて、無線が復活したみたい! で、この迷宮、崩壊するって! 急いで逃げよ!」
     騒然となる大広間。天井に亀裂が走る。壁までは遠く、ゾンビがうごめく中を突っ切って行ったのでは間に合わないかもしれない。なら……!
    「足元、床を抜くよ!」
     言うが早いか、燈は全力でマテリアルロッドを振り下ろし――。

    ●帰還、そして
     ――生臭さが付きまとい、離れない。
     それを嫌ってか、宗悟は反射的に、そこにいたゾンビを斬りつけた。
    「ん? 付いてきたのかな、僕たちの脱出に」
     気づいている。ここは既に迷宮の外だ。倒されたゾンビが風化してしまえば、冬の心地よい早朝の風が、彼と彼らに吹き込んできた。
     あの血生臭い大広間ではない。采は久々に深呼吸を楽しんで、感慨深げに呟く。
    「帰れましたなあ。あの地獄から。さて」
     見回すと、同じチームの8人は全員近くにいた。迷宮に攻撃をしたのは燈だけのはずだったが、考えてみればチーム単位で飛ばされるのは妥当である。……ゾンビが引っ付いてきたのは予想外だったが。
    「今ので、敵ゾンビの気配は消失しました。私たちについてきた個体は、全て倒されています」
     と、眠兎が断言する。他の面々もそれぞれ探り、それが正しい情報であることを確認した。
    「……で、ここはどこかの学校か? 武蔵坂ではないようだが」
    「えっと、携帯のGPSだと、どうやらここは山口県の端っこのようだよ。山梨県からは随分飛ばされちゃった、ね」
     海月の問いに、燈が答える。直線距離にして700kmは離れているだろうか。
    「そして、セイメイは灼滅されたのだったな。……作戦終了、帰還しよう」
     明彦の言に、疲れきった様子の仲間は皆頷いた。
    「あー、教祖様ー、ご無事でなによりでした……」
     護衛を成し遂げた姫月の表情にも、疲労が色濃い。
    「……我輩も、此度の物量はさすがに堪えたよ。ゆっくり休みたい」
     労う様に微笑みながら、ワルゼーも全身の強張りを緩めていった。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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