富士の迷宮突入戦~迷い探し求めるは

    作者:佐和

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     
     
    「琵琶湖、大勝利」
     灼滅者達を前に呟いた八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)は、いつもと変わらぬ様子ながらどこか少し嬉しそうだった。
     安土城怪人ともっともいけないナースを灼滅できたことで、竹生島に立てこもった安土城怪人勢力は、もはや残党と言えるほどに減退した。
     グレイズモンキーが竹生島に戻らなかったことも大きく、組織としては遠からず自壊してしまうのではないだろうか。
     武蔵坂学園と天海大僧正側の大勝利、と言って過言ではない。
     だがその一方で。
     白の王セイメイや楢山御前などの元に、軍艦島勢力である、うずめ様、ザ・グレート定礎、ソロモンの大悪魔たる海将フォルネウス、そして緑の王アフリカンパンサーが合流してしまった。
    「でも、好機」
     しかし、秋羽は告げる。
     多くのダークネスを迎え入れた富士の迷宮は、そのために、クロキバに発見されてしまったのだと。
     今のクロキバは、闇堕ちした白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)。
     それゆえか、クロキバは自身が迷宮に挑む際、武蔵坂学園に迷宮の入り口を知らせてくれたのだ。
    「みんなでは、行けない。迷宮も、壊せない。
     だけど、やり方、考えれば、きっと何か、できる」
     学園全軍で突入できるほど入り口は広くなく。
     この機を逃せば、再びの侵入はまず無理だろう。
     そして、白の王の迷宮は、内部から破壊しようとすると外にはじき出される防衛機構が備わっているため、破壊工作はほぼ不可能。
     だが、逆にそれらを利用すれば、危機に陥った場合、迷宮自体を攻撃することで緊急脱出することができる。
    「目的、絞って行けば、きっと成果、ある」
     最初で最後となるだろう、富士の迷宮攻略のチャンス。
     脱出は容易だけれども、少ない人数での作戦。
     また、白の王を灼滅できれば、睡蓮はクロキバの後継者としての役割を終える。
     そうなれば睡蓮を闇堕ちから救うこともできるかもしれない。
     他にも、田子の浦の戦いで逃した相手との再戦や、暗躍していたセイメイの狙いを探ることも、できる。
     多くの危険と多くの可能性。
    「気を付けて、ね?」
     不安と期待を込めて、秋羽は灼滅者達を見送った。


    参加者
    白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)
    羽柴・陽桜(ましろのはこ・d01490)
    宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)
    逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461)
    神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)
    志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    神前・ミランダ(朝露の歌・d18727)

    ■リプレイ

    ●富士迷宮
     まだ朝陽も見えない、冷たい早朝。
     富士山の裾野に広がる樹海を1時間程進んだだろうか。
     1つの風穴を見つけた灼滅者達は、次々とその中へと入っていく。
     こういった風穴の中には、階段や手すり、明かりに案内板などが整備され、観光地となっているものも幾つかあるが、ここにはそんな人工物は見当たらない。
     未発見の風穴……もしかしたら、セイメイが隠していたのかもしれない。
     そこに今、あっさりと入れてしまっているのは、軍艦島勢力を迎え入れるためか、それともクロキバの仕業か。
     何であれ2度とないことであるのは確かで。
    「先日の……琵琶湖の戦いを終えて……ゆっくりしようと思っていたのですが」
     足元に頭上に気を付けて風穴を進みながら、神前・ミランダ(朝露の歌・d18727)はおっとりと呟く。
    「この好機を……逃す手は……ありませんよね」
     頑張りましょう、と続ければ、無線機を手に連絡役を任された羽柴・陽桜(ましろのはこ・d01490)が頷いた。
    「前回の戦いで闇堕ちした皆がセイメイに何かされる可能性もあるし。
     今回は負ける訳にいかないよ」
     気合いの入る崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)は、田子の浦に向かっていた1人で、幾人もの闇堕ちを目の前で見てきていた。
     堕ちた者達も迷宮に迎えられているのでは、という情報もあり、セイメイの関与は強い不安要素となって來鯉の胸中に燻る。
     その隣を行く志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)も闇堕ち者を案じる1人。
     ただ、友衛が思う相手は、確実にこの迷宮内にいる。
     それは今のクロキバである白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)。
     だが、友衛も來鯉も、狙うのは闇堕ちした者達ではない。
    「セイメイの元へ向かう皆の助けになるように、しっかり囮を務めよう」
     班の皆で決めた役割分担。
     思いを他の仲間に託し、それが遂げられるように敵を引き付ける援護役。
     だからあえて隠れずに堂々と、また同じ囮を目的とする他班と共に風穴を進む。
    「全力で大暴れさせて貰うよ!」
     力強く宣言した來鯉に、霊犬のミッキーが応えるように吠えた。
    「どんな場所でも、安心して背中預けられる仲間が一緒なら頼もしーや」
     その前を行く白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)は、普段通りの気楽な口調でそう言って、同じクラブの仲間達を眺める。
     どれだけ重要な作戦でも、構えすぎないのは大事だし。
     やっぱり仲間と共に居れるのは、心強い以上に嬉しいから。
     神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)もにこにこと笑って、周囲を照らしていたライトを彰二へと向けた。
    「彰二先輩や兎紀の頭を照らしたら目立たないかな?」
    「案外いいんじゃない?」
     いつも通りの軽口に、宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)も柔らかく微笑んで、こちらの明かりは逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461)へと向く。
     光に輝くのは、毛先を虹色に染めた金髪とショッキングピンクのメッシュが入った金髪。
    「冬人遊んでんなっ!」
     メッシュと同じ色でこれまた目立つ兎耳パーカーを揺らして、兎紀が怒って見せる。
    「それに天狼、お前それ自分もなの分かってんの?」
    「そうそう。天もだよねえ」
    「わっ、眩しい……冗談ですよー」
     2つのライトを向けられて、天狼は金髪と星型の黒子との間で灰瞳を細めた。
     その楽しげな様子を見たミランダは、好ましげに微笑んで。
    「頼もしい、ですね?」
    「あーもーっ! とにかく行くぞっ!」
     彰二は慣れた騒ぎに安堵しながらも、照れたようにそれらを振り切って前へ進む。
     そして眼前に広がるのは、氷に覆われた一角。
    「すごく綺麗ですね……」
     ひやりとしたそれにライトを当てて、陽桜が藍色の瞳を輝かせた。
    「氷柱、だな。天井からしみ出した水滴が凍ってできたものだ」
     本物を見るのは初めてだが、と言う友衛も、こんな観光をしている時ではないと分かっていても、好奇心にその青瞳を奪われる。
     恐る恐る触ってみるミランダに、來鯉はふっと笑みを浮かべて。
    「そこの壁が入口みたいだね」
     氷柱が並ぶ先に見えた、不思議な壁を示した。
     これまで通って来た道と同じ岩壁……に見えるが、じっと見ているとそこに別の景色がちらりと重なって見える。
     まるで、壁の写真と洞窟の道の写真、2つを半透明にして重ねたかのようで。
     確かにここが『入口』なのだろう。
    「とにかく行ってみようか」
     冬人の言葉にそれぞれ頷いてから、灼滅者達は二重写しの壁に体当たりするように、迷宮へと足を踏み入れた。

    ●迷宮探求
     壁を通り抜けた先は淡く光っていた。
     さすがに持参したライトよりは暗いが、行動に支障が出るものでもない。
     だが、囮役として目立つために明かりを消さぬまま、一行は洞窟のような道を進んで。
    「みっけたっ!」
     ほどなくして出会った5体のゾンビを兎紀が指差すと、彰二と合わせて2人分の殺気が放たれ、ゾンビ達を覆う。
     その黒い領域が晴れる前に、手前の1体の背後へと冬人が回り込みつつ斬撃を繰り出し。
     炎と共に飛び込んだ天狼が、ゾンビを蹴り倒した。
     楽しげな掛け合いそのままに息の合った4人に遅れまいと、友衛も銀色の槍をゾンビの身体深く穿ち。
    「広島のご当地ヒーロー崇田來鯉!
     第二のご当地武蔵坂の仲間の為、全力で参る!」
     軍服の上に甲冑を着込んだ來鯉が、名乗りと共に射出した帯でゾンビを貫く。
    「さぁレイモンド、参りましょう」
     ミランダの傍らに現れたビハインドの執事・レイモンドが恭しく礼を送ると。
     顔を上げざまに放たれた霊撃を見送りながら、ミランダは黄色にスタイルチェンジさせた標識を降り抜いた。
     囮役ゆえに隠れたりする必要もなく、遠慮なしに戦いを挑む仲間達。
     それをメディックとして支えながら、陽桜はその合間に無線機を操作し、戦ううちに分かれた他班に状況を伝えようとして。
     気付いたその表情が曇る。
     ロッドを構えながら視線だけで問うてくる天狼に、陽桜は声を上げた。
    「連絡が取れないんです」
     無線機は誰の声も届けず、携帯電話が圏外表示であればハンドフォンも使えない。
     準備してきた事が役に立たないことに、陽桜の動揺は強い。
     しかし、普通の洞窟ならともかく、ここは敵の本拠地として作られた場所なのだ。
     似て非なる状況でもおかしくはない。
     だから友衛は、蝋燭の青炎を揺らして攻撃を続けながら、落ち着いた声色で問いかける。
    「大丈夫か?」
     その静かな響きに、陽桜ははっと息を呑んだ。
     胸元をぎゅっと握りしめるように手を組んで、ゆっくりと深呼吸。
    「不安がないって言ったら、嘘になります、けど……」
     万全の体勢ではなくなった今だけでなく。
     たくさん決めてたくさん誓ってここまで来た自分自身。
     それがまた揺らいでいるのを感じながらも、陽桜は周囲を見る。
     案じるような視線を向けてくれる友衛を。
     敵を倒し、食い止めてくれている仲間達を。
     1人ずつ順に見渡して、大きく頷いて見せた。
    「でも。絶対、大丈夫、ですよ」
     それは答えるというよりは、自分自身に言い聞かせるようだったけれども。
     力の戻った瞳に、友衛がふっと柔らかく微笑み返す。
     そして。
    「そりゃそーだ。連絡とれなくたって、作戦もやることも変わんねーんだから」
    「とにかく倒せばいいんだろ?」
     赤い標識でゾンビを殴り倒す兎紀と、炎を纏って蹴り倒す彰二。
     迷いなくきっぱり言い切る2人に、天狼は頼もしさを感じながら。
     でもそれを表に出すことなく、いつも通りににっこり笑う。
    「兎紀も彰二先輩も単純でいいね」
    「天狼ぉー?」
    「何か褒めてなくないかそれ!?」
    「ほらっ。前中衛は前向いててよね!」
     振り向く2人を戻すように帯を射出しながら、天狼は前を指差した。
     冬人は楽しそうにそれを眺めてくすくす笑い。
    「さあ、次が来たよ」
     穏やかな物腰で、敵の増援を知らせる。
     最初に遭遇した5体のゾンビを倒しても、戦いが終わるわけではない。
     続いて現れたスケルトンに、來鯉は曾祖父の形見でもある先祖伝来の刀を上段に構えた。
    「囮に敵が寄って来れば来るほど、他の皆が動きやすくなってるはずだからね」
     言って真っ直ぐ振り下ろした斬撃は、スケルトンを切り伏せて。
     ミランダも同意するように頷きながら、今度は標識を赤く変える。
    「俺達は俺達の仕事を、きっちりこなすだけだよ」
     告げる冬人の影が鎖ナイフの形を模して、スケルトンを捕えていった。
     重ねられる言葉に聞き入る陽桜の隣に天狼は並んで。
    「折角の好機、みんなで生かしてこう!」
    「はい。敵さんがびっくりするほど大暴れしなくちゃ、ですね。
     今できる事、精一杯頑張りましょう!」
     返って来た笑みは、強がりではない、晴れやかなものだった。
     改めて敵に向かい合い、陽桜は癒しの歌声を響かせる。
     その間にスケルトンは数を減らし、だがすぐさま新たなゾンビが現れた。
     怯むことなく、彰二が祭壇を展開して相手の動きを留めれば、冬人のバベルブレイカーと天狼のマテリアルロッドが叩きつけられて。
     兎紀が炎を、來鯉が氷の槍をばら撒いていく。
     レイモンドと共に仲間を庇うミランダに、ミッキーの眼が向けられた。
     畏れを纏った友衛の斬撃にゾンビはその数を減らし。
     間髪入れずにゾンビとスケルトンがまた現れる。
     目立って敵を引き付ける、という囮役としては成功とも言える状況だが。
     倒した傍から補充されていくアンデッド群相手では、ダメージは確実に重なっていく。
    「代わるね」
     傷が深くなったミランダに声をかけ、前衛に出たのは來鯉。
    「はい。お願いします」
     素直に頷き、レイモンドを残して、ミランダは後方に下がった。
     長期戦を見据えて、ダメージを分散させるためのポジション移動。
     その隙を狙われないようにとクラッシャーの冬人と友衛は積極的に打って出る。
     しかしそこにもゾンビがスケルトンが襲い掛かり。
     盾となり庇う彰二にまた傷が増え、陽桜のシールドが展開される。
     高度な戦略を持たないアンデッドゆえか、やはり前衛陣に攻撃は多く向けられて。
     まずレイモンドがその姿を消した。
    「へばってんじゃねーぞ、彰二っ!」
     彰二もさすがに疲れてそうだと思うけれども、兎紀は心配の代わりに野次を飛ばし。
    「うっせ、へばってねーよ! エンギだ演技!」
     返って来た声ににやりと笑う。
     しかしそれもやせ我慢に近く。
    「んー、でも作戦だからね。彰二先輩、交代ですよー」
     だからと天狼が前へ出た。
     ディフェンダーを減らさぬように作戦を組み。
     1人でも多く長く戦えるよう、灼滅者達は耐える。
     しかし、ゾンビの一撃にミッキーも掻き消えて、ミランダがふらりと崩れ落ちる。
     すぐさま來鯉の刀がそのゾンビを屠るが、その向こうでまた増えるアンデッド。
     影のナイフで切り込んだ冬人は、その動きでナイフに繋がる鎖を操りスケルトンに絡ませ捕え、声をかけるより早くそこに駆け寄った彰二が蹴り崩す。
     攻撃を受け止めながらも立ち塞がる天狼を盾に、兎紀が赤い標識を振るえば、また1体が倒れていく。
     その一方で、積み重なる傷を癒しきれないと陽桜の顔に焦燥が浮かぶ。
     仲間を自分を信じて、諦めないと前を向くけれども。
     倒しても倒しても、戦いの終わりは見えない。
     そのうちに、來鯉が、彰二が、天狼が膝をつき、立ち上がれず。
     代わりにと前へ出た兎紀も、数に押し負けていく。
     掴みかかって来たゾンビを斬り伏せた友衛の足ももつれ、立っているのが精一杯で。
    (「ここまで、か……」)
     撤退を考えた、その時。
     そのダークネスは現れた。

    ●夢魔遭遇
    「ほーら、やっぱり。武蔵坂学園の灼滅者じゃん」
     ゾンビ達の向こうから歩み寄ってきたのは、羊の角を持つ1人の淫魔。
     悪魔のような翼と尻尾を揺らしながら、浮かべるのは見下すような笑み。
     黒い紋様が描かれた肌を見せびらかすように上半身は裸で、シルバーアクセサリーが歩く度にじゃらじゃらと音を立てていた。
     眼鏡はなく、肩まで伸びた黒髪も浅黒くなった肌も、違うけれども。
     こちらを眺めるツリ目に、天狼はかつて依頼で一緒になったことがある彼の面影を見る。
    「桐人先輩……?」
    「お? 俺を知ってる奴もいたぜ。
     なら、相手してやるのも面白いか?」
     淫魔は……いや、闇堕ちした結城・桐人(貪汚の律動・d03367)は、軽薄な笑みで天狼を見据える。
     堕ちた者達も迷宮に迎えられている。
     聞いた話が本当だったのだと目の当たりにして、愕然とする來鯉に。
    「撤退するよ!」
     動けないミランダを抱え上げた冬人が叫んだ。
     声に振り返った來鯉は、倒れ傷ついた仲間達の状況を見て。
     もう1度、嘲るように笑う桐人とまだ増えるアンデッド群を見て……。
     刹那の逡巡。
     ぎりっと奥歯を噛みしめながら、法華一乗を迷宮の壁へと叩きつける。
     ……そして。
     灼滅者達は見知らぬ学校の教室に、いた。
     淡く光っていた迷宮の岩壁は、黒板やロッカーが並ぶコンクリート壁に変わり。
     平坦な天井には未点灯の蛍光灯が並ぶ。
     扉にある硝子部分の小窓からは廊下が見えて。
     反対側に並ぶ窓の向こうには、中庭らしき広場が見下ろせた。
     空っぽの机が並んだ、薄暗い空き教室。
     そこにはゾンビもスケルトンも、桐人の姿も、消えてしまったかのように、ない。
     いや、消えたのは敵ではなく。
    「これがあの迷宮の防衛機構、なんですね」
     迷宮を破壊しようとすると外に転移させられる。
     事前に聞いていた話を実際に体感して、陽桜は呟いた。
    「皆、いるな?」
     問いかけながら友衛は仲間の姿を確認し。
     8人全員揃ってこの教室内にいることに安堵の息をつく。
     そして力が抜けたように、その場にへたり込んでしまった。
     ミランダを横たえた冬人も、陽桜に回復を頼んで手近な椅子に座る。
     戦いは、終わった。
     少なくとも冬人達の戦いは。
     何十体のアンデッドを倒しただろうか。
     その数が充分だったのかは分からない。
     だが、闇堕ちした桐人が姿を見せた。
     それは、セイメイや他の有力敵の元にいたかもしれない戦力を引き寄せることができた、ということに他ならない。
     足止めすらできなかったけれども、それでも囮としての成果は大きいと確信して。
     冬人は淡く笑みを浮かべ、座ったまま天井を見上げた。
    「ほれ彰二。終わったぞ起きろー」
    「……あと5分ー」
     相変わらずな兎紀と彰二のやり取り。
     ゆっくりと昇ってくる朝陽が窓から差し込んできて、周囲が少しずつ輝いていく。
     机に寄りかかるようにして何とか立ち上がった天狼は、その光に目を細めて。
     窓の外に見える景色に、淡い桃色があることに気付く。
     それは早咲きの桜。
     まだ満開ではないけれども、優しく揺れる桜花に、自然と口元が緩んでいく。
     椅子に腰かけた來鯉も、鮮やかに色づいていく世界を眺めて。
     ゆっくりと、長く長く、息を吐いた。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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