
「拘束……拘束……拘束……ふふ……ああ、似合っている似合っているわ……あなた、とっても良い素材よ」
六六六人衆、美鍵レコはうっとりと呟く。
ダークネスの視線は、彼女自身の手による作品であるドレスを着せたモデルに釘づけとなっていた。
(「う、うう……どうして、こんなことに」)
ゴシック調の漆黒のドレス。
それに、手も足を完全に封じられ。あまつさえ口までも拘束具で動かすことができない状態となった少女――夢原チサは心の中で絶叫していた。
「……これまで幾人にも……私の作品を着せてきたけど……あなたを見かけた瞬間に……衝動的にさらってきた甲斐が……あったわね」
(「そう……私、この人に誘拐されて、いつの間にかこんなことに……!」)
薄暗く、数々のドレスに溢れた室内。
美鍵レコのアトリエの中には、チサ以外にも煌びやかなドレスを着た少女達が転がされていた。気を失っているのか、ぴくりとも動かない。
(「ううう……あの人達は、大丈夫なのかなあ?」)
「ああ……他の子が……気になる?」
六六六人衆は、チサの視線に気づいたのか妖艶に微笑む。
思わず、ぞくりと背筋が凍るような笑みだった。
「私のドレスはね……生命力を搾り取る力があるの……そして、モデルの子の全てを絞り取って……ドレスと一体となった瞬間に……私の作品は完成する」
いつの間にか、美鍵レコの手には革張りの眼帯が握られていた。
目隠しをそっと、チサへつけて視界を塞ぐ。
「さあ……あなたも……私の良い作品に……なってね?」
「綵・麗(生命を断ち切る瞳を封じる者・d35918)さんからの、情報提供により六六六人衆の動きが確認されました」
五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者達に依頼を説明する。
「拘束ドレスで人を殺す六六六人衆、美鍵レコが一般人の少女達を自身のアトリエに連れ込んでいる模様です」
この六六六人衆は、拘束ドレスを一般人に着せモデルとしている。そして、ドレスを着た者は次第に衰弱して最終的に死に至ってしまうのだという。
「このままでは、捕まった少女達が危険です。皆さんには一般人の救出と、六六六人衆の撃退をお願いします」
場所は閉め切られた六六六人衆のアトリエ。
人気のない山奥の、山荘といった外観であるとのこと。
「アトリエには、二十人ほどの一般人が監禁されています。ドレスで拘束されており、ほとんどの人は弱り切って気絶しているため自力では動くことができません」
ドレスを脱がすことができれば、とりあえず一般人達はこれ以上衰弱することはない。また、六六六人衆を倒せばドレスは消滅するようだ。
「捕えられた一般人を助けようとするのが見つかれば、当然六六六人衆はそれを阻止しようとするでしょう」
動けない一般人を巻き込めば、大きな被害がでてしまうかもしれない。
拘束ドレスの能力を使ってくる六六六人衆の力も侮れない。
「決して油断はできない相手です。皆さん、どうかお気をつけて。捕えられた少女達をどうかお願いします」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806) |
![]() 緒垣・翠(空の青夕日の赤・d15649) |
![]() 茂多・静穂(千荊万棘・d17863) |
![]() シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226) |
![]() 月姫・舞(炊事場の主・d20689) |
![]() 莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600) |
![]() 黒絶・望(果てる運命にある無力な花・d25986) |
![]() シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186) |
●
(「突入前にバベルの鎖と美鍵レコに気づかれないようにアトリエの外見から逃走経路を把握しておきましょう」)
静かな人気のない山荘を前にして。
月姫・舞(炊事場の主・d20689)は、周囲の道を確認する。念の為、戦闘の邪魔にならない光源を持っていた。
「拘束ドレス凄く着たい。という欲望はさておき、嫌がる人に着せた上殺すのではお話になりませんからね。ここできっちり終わらせるとしましょう」
茂多・静穂(千荊万棘・d17863)は、仲間に頷いて見せてアトリエの扉を破る。光源が乏しい室内を、事前に用意したヘッドライトと据え置きライトで照らす。
舞は、アトリエを見渡し外見を見た時と合わせて構造を把握しておく。一際大きな部屋に出ると、目的のものを見つけて皆に報告しつつ戦闘へと移行する。
「見つけましたよ」
「あら……? お客様が来る予定は……無い筈だけど?」
六六六人衆、美鍵レコが首を傾げた。
薄暗い部屋の中にはダークネスと、色とりどりのドレスと、転がされたモデル達。
(「一般人は全員目隠しされているな。戦闘音に恐怖を感じてしまうかもしれない」)
シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)は、せめて声を掛けしておきたいと考えていた。
「助けに来た、もう少し辛抱してくれ」
「助けに来た……? ああ……貴方達は……灼滅者ね」
その言葉に、一番に反応したのは六六六人衆だった。
御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)は、ひとまず救助を後回しにして短期間で撃破を狙う。
「死を撒くものは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
特に構えは無いまま。前触れ無く目の前から消え失せ、次に現れた瞬間には敵の首元へ斬撃のごとき蹴りを放つ。
「……ぐっ……私はドレスを……作っているだけなのに」
「素敵なドレスを見るのは嫌いじゃないけど、愛している人以外の拘束は嫌なの」
暗がりに莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)の、血の赤の瞳が輝いた。全員でレコを取り囲み総攻撃の態勢、その際チサや他の一般人が巻き込まれぬ様に留意する。
「拘束ドレスとか変態ですか? そんなもの付けられて喜ぶ人なんて数える程しかいませんよ」
六六六人衆と一般人を引き離さんと。
目隠しをしながらも、黒絶・望(果てる運命にある無力な花・d25986)のレイザースラストが正確に敵をとらえる。積極的に前にでて、相手を煽って注意を引きにかかった。
「随分と……ひどい……ことを……言うのね?」
(「拘束された一般人達と出来るだけ距離を取った場所で戦い、かつ敵を引き離すように仲間と連携しながら陣を取れれば良いのですが……」)
シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)はクラッシャーとして攻撃に専念。スターゲイザーで、足止めを行う。
「ああ……貴方達……私の可愛い……モデルさん達を……奪いに来たのね?」
「てっ手出しは、させない、の……いっ痛い……」
緒垣・翠(空の青夕日の赤・d15649)は、一般人に目が行った時の為それを庇う役目を担う。六六六人衆の刃を受けながら、仲間と一緒に取り囲みに入り。一般の人々に手を出させない。
「拘束ドレスなんて全くわかりません! 拘束なんて気持ち悪いです!」
普通の女性らしい服を着てきた静穂が、ダイダロスベルトを振るう。一般人を狙わせないように視界を阻害するよう動き。できるだけ敵を拘束された人々から押し離し、奥に追いやるようにする。
「……気持ち悪い? ……失礼しちゃう……わ」
「貴方は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら?」
舞はスレイヤーカードを開放。
手にした黒影布で、敵を斬り裂きにかかる。
(「危機やチャンスを逃さぬよう集中だ……」)
後方より味方を広く確認できる立ち位置を意識。
敵および味方の動きを観察しながら、シグマはメディックとして回復役を務める。癒しの矢で、味方を癒しつつ狙い精度を高めた。手に持つ弓と竪琴が、漆黒に溶ける。
(「目標の意識を被害者達から逸らす」)
白焔は螺穿槍で飛び込む。
近距離での機動戦で撹乱、視界への侵入と死角へ離脱を織り交ぜて集中を削ぎ機を伺う。
「っ……ちょこまかと……それなら」
「ん、拘束ドレスが来ます」
想々が、味方に警告を報せる。
六六六人衆の合図に合わせて、部屋に置かれていたドレスが動き出す。
「そうね……まずは……人を変態呼ばわり……した、あなたから……」
純白のドレスが、望へとまとわりつく。
スタイリッシュにデザインされた鎖が、灼滅者の身を縛りつけた。
「はうっん……! きっキツイですっ……! やっあぁっ……!」
苦しそうに望が悶える。
半分は本音だが、もう半分は演技である。不快そうな振りをして、注意を引く算段だった。
「ああ……いいわ……あなた……よくお似合いよ」
美鍵レコは、うっとりとため息をつく。
薄暗闇において、その身体は淡く輝き出す。それはドレスの着用者から、生命力を吸収しているのを表すかのよう。
「ですが、隙だらけです」
「……あう」
シャノンが、恍惚とする敵へと狙いを定め。
十字架先端の銃口が開き、業を凍結する光の砲弾を放つ。油断していた六六六人衆は、氷にまみれた。
「みっみんなを、守らなきゃ……」
翠はディフェンダー陣に、ソーサルガーダーで盾付与を行き渡らせる。攻撃にはスターゲイザーで、敵の機動力を奪う。
「……あら? あなたは……もしかして……オトコノコ……かしら?」
そんな灼滅者を、六六六人衆はまじまじと見やった。
確かに翠は、完全に女の子然とした外見である。
「えっえーと、はい……」
「ふふ……さっきの子といい、可愛らしい、わね……あなたも、綺麗なドレスが似合いそう」
デザイナー心を刺激されたのか、美鍵レコは積極的に呪われたドレスで灼滅者達を囲もうと試みる。静穂は幻狼銀爪撃で爪を相手に喰い込ませた代わりに、藍色のドレスできつく拘束されてしまった。手を縛られ、目も覆われる。
「嫌……っ! 動けない、吸われる……っ」
「……うん」
「見えない、見えない、怖い!」
「…………すごく、映える……のだけど」
(「拘束されるのいい♪」)
「………………何故かしら……あなたとは……お友達になれる……気がするわ」
戸惑い苦しそう、嫌がりそうな声を懸命にあげて。趣向を刺激し、注意や攻撃を誘う……のだが、六六六人衆は少し不思議そうに微笑んだ。
●
「また、来ます」
舞が十字架戦闘術を使いながら、拘束ドレスによる攻撃の予兆を皆に警告する。注意深く観察して、逃走する気配や、一般人への攻撃を見逃すまいとする。
「……皆……私のドレスで……綺麗に着飾って……あげる」
「今回見る死は一つだけって決めてんだ」
誰も死なせないことをひっそり胸のうちに誓って。
シグマは影業を体に纏って戦う。観察、注意喚起をし後方支援に徹する。
「無知のまま逝け」
回避軌道の終端、攻撃直前直後などを狙って仕掛けられる立ち回りを意識。白焔が、零距離格闘に入る。
軌跡すら見せぬ機動戦。
脳天へ一撃加える人型の悪夢が、視界に映る間合いを一足で侵略する。
「……ぬ……痛い……わ」
「そんなに拘束が気に入ってるなら、貴方が縛られてみればいい――」
土茶になった髪をなびかせ。
想々は、足止めと火力を集中させる。
「影、踏んだ」
影で作った触手が放たれ、六六六人衆を絡めとる。
影を踏まれたダークネスは、顔をしかめて身をよじらせた。
「……私……縛られるのは……趣味じゃないのよね……やっぱり、人を縛るのが……好き」
美鍵レコがパチンと指を鳴らす。
すると、ダンスのステップを踏むようにドレスの群が躍りかかる。灼滅者達は、拘束を受け力を絞りとられていった。
(「このドレス……キュアでも脱げません」)
最も早く拘束を受けた望は、体力を奪われながらも一般人を含めて味方を庇う。ラビリンスアーマーとシャウトで回復も行うが、肝心なドレスの方は外れる気配がない。
「はっ外れない……」
翠も薔薇で彩られた深紅のドレスで、力を吸われる。
シャウトで解除を試みるが、空振りに終わった。仕方なく祭霊光で回復しつつ、グラインドファイアで攻撃にかかる。
「ふふ……無駄無駄……大人しく……私に飾られなさいな」
高貴な緑のドレスがまた。
シャノンへと圧しかかる。手枷、足枷、何重ものベルトが、灼滅者の身体全てを絞めにかかり――
「生憎ですが見ての通り、このドレスは私には似合わないようですので」
だが。
人造灼滅者の姿へと変化。
下半身を茨と爬虫類の混ざった怪物へ変え、上半身を縛られたまま触手を伸ばして反撃し。牙でドレスを噛み千切って脱出する。
「! ……私の……ドレスが……」
「ドレスが、それほど大切ですか?」
追い討ちをかけるよう。
静穂は影業やダイダロスベルトで、敵のドレスを破壊して怒らせることを狙う。
「……ああ……何てこと……」
六六六人衆は、怒りはしなかった。
ただ、ゆらゆらと頭を抱えて血の気を失う。
「悪を極めんとした男の業(わざ)と業(ごう)を見なさい。血河飛翔っ、濡れ燕!」
そこへ、舞がティアーズリッパーをみまう。
愉しげな表情を張りつかせて、高速の動きで敵の死角に回り込みながら、身を守るものごと斬り裂く。
「うう! ……痛い、痛いわ」
「今がチャンスだ。逃がすな」
六六六人衆の動きを、シグマが敏感に察知。
影色に似た漆黒の竪琴で、リバイブメロディを奏でて仲間を後押しする。
「――」
交戦中は言葉少なながら、その武勇を存分に発揮。
白焔は自身が起点となって、味方が攻める機を作りに仕掛ける。
「そのドレスは確かに美しいかもしれない。けれど着る人を呪い殺す様なそんな服、燃やしつくす」
緋牡丹灯籠の炎が舞う。
キュアが効かぬとみるや、想々もドレス自体の破壊を行って相手を追い詰める。
「……燃える……燃えてしまう……私の作った子達が……」
「美鍵レコ。ほら、こっちもですよ」
望もドレスへの攻撃を敢行。
拘束されたまま純白の影が伸び。そして、純白のダイダロスベルトが自身を縛っていたドレスを斬り裂く。
「今度は貴方が命を啜られる番です」
シャノンがライフブリンガーで噛み付く。
敵に突き刺したものを通じて、生命エネルギーを吸収する。
「う……うう……離れ……なさい」
苦しげに刃を振るい。
六六六人衆は、何とか灼滅者から逃れる。細い身体は、ぶるぶると震えていた。
「……せっかく……せっかく……皆、綺麗だった……のに」
「こっこれ以上、手出しは、させないんだよ……」
体力の少ない味方を、翠が庇って癒す。
おどおどとしながらも、敵の刃を的確に止めて壁の役目を果たす。
(「本当の事言いますと実は拘束好きです。少し違えば仲良くなれそうでしたけど、ね」)
短期決戦のためにも、静穂もクラッシャーやスナイパーを積極的に庇おうとする。カウンターでトラウナックルと妄葬鋏を叩きこむ。
「序列を教えていただけませんか?」
「……序列? ……序列より……私には……私のドレスの方が大切……だわ」
「――人質を取ろうとしても無駄ですよ」
舞と六六六人衆が真っ向から向かい合う。
レイザースラストと敵の白刃が交錯し、互いの傷が増え続け。随時シャウトで回復しても追いつかない。
「……ぐっ……うう……何で……あなた達は……そこまで」
「決まってる」
死や失うに敏感と言われても、今は絶対に見たくないから。
紫黒にゆらめく不定形の影を操って、シグマは敵へと異形の手を伸ばして縛り喰らいにかかる。
(「もう、少し……」)
白焔の姿が消える同時に、ダークネスの目前に現れる。
グラインドファイアによる炎の蹴りが、ドレスに包まれた敵の身を燃やし尽くす。
「……私は……私の……美しいものを……」
「芸術は人を苦しめる物じゃない。その美しさは、偽物だわ」
想々が鮮血の如き緋色のオーラを宿し。
紅蓮斬の一撃が、閃光のように薄暗闇に輝く。六六六人衆は、衣装を血に染めながらゆっくりと倒れ伏す。
「ああ……あなた達、本当に……良いモデルだったのに……」
それが、美鍵レコの最期の言葉だった。
六六六人衆の身体は、ゆっくりと光の粒となって弾けた。
「着るなら、体に合うものがいいな、なんて」
想々は、その様を見届けてぽつりと呟く。
灼滅者達は、息をついて囚われていた一般人達の介抱へと向かう。
「チっチサお姉ちゃん達、大丈夫かな……」
翠が全員の無事を確かめる。
皆、朦朧として激しく弱っているが、命に別条はないようだった。ドレスを脱がそうとすると、拘束が自然と消滅する。
「……拘束……絞められるのは……もう嫌……」
夢原チサは夢の中で、呻いていた。
仲間達の了解をとって、翠は吸血捕食を行った。
「衰弱が激しい人が多いですね」
「ヒールしておきしょうか」
静穂と望は一般人にヒールを施す。シグマはドリンクバーを使って栄養補給を促した。
「さあ、これを飲んで」
「応急処置が済んだら、病院に連絡しておきます」
シャノンは一般人達の治療を行うとともに、搬送の手続きをする。救助が一通り終わり、撤収していく段になり。
舞は、アトリエの中をそっと見回した。
現場には、作者を亡くした世にも美しい衣装たちが未だ多く残されている。
「貴方がいたという証にこれは貰っていきますね」
灼滅者は、遺品となったドレスをそっと手に取った。
何の偶然か。その品は特別にあつらったように、寸分違わず舞のサイズにぴったりで――
| 作者:彩乃鳩 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年3月5日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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