胸が小さいことよりも

    作者:飛翔優

    ●からかわれることのほうが辛い
     小学校、中学校を経て高校生活も一年が過ぎようとしている。けれども成長の兆しをみせてくれない、小さな膨らみ。
     個人差がある、むしろ強みにもなるだろうと前向きに考えている。実際、多少のからかいならば気にならない程度に学園生活を過ごせていた。
     あるいは、それがいけなかったのだろう。
     それを持ちネタと判断されたのか、男子たちのからかいは日々を重ねるに連れてエスカレートしてきた。諌めることもあったけれど、始めの頃に許してきたから真面目に受け取られることはなく、辞める気配はまるでない。
     気にしていない……と言っても、日がな日がなからかわれては流石に堪える。
     殺意が、湧いてくる。

    「……」
     優しい電灯に照らされた、綺麗に整頓されている部屋の中。高校一年生の少女・小峰未来(こみね・みらい)は、胸の小ささをからかってきた男子生徒の名を……その後ろに死因を記したノートを閉ざした。
     死因の多くは人の手で……未来の手でも行える現実的なもの。想像の中で殺すことで、未来はおさえていた。
     殺意を。
     からかってきた男子への。
     あるいは……誰でも良いから殺したい。そんな、無差別な殺戮衝動を。
     いつから湧き上がってくるようになったのかはわからない。
     けれど、抑えなければ自分が自分でなくなってしまうことは分かっている。
     だから記す。学校から帰るたび、自らの胸の小ささをからかってきた男子たちを。自ら手を下すための死因と共に。
     いつか現実に手を下してしまうかもしれない。そんな恐怖を抱いたまま……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、真剣な表情のまま説明を開始した。
    「小峰未来さんという名前の高校一年生の女の子が、闇堕ちして六六六人衆になる……そんな事件が発生しようとしています」
     本来、闇堕ちしたならばダークネスとしての意識を持ち、人としての意識は掻き消える。しかし、未来は闇堕ちしながらも人としての意識を保っており、完全なダークネスとはなっていない状態なのだ。
    「もし、未来さんが灼滅者としての素養を持つのであれば、救い出してきて下さい。しかし……」
     完全なダークネスとなってしまうようならば、灼滅を。
     続いて……と、葉月は地図を取り出した。
    「皆さんが赴く日の夕方五時頃。未来さんはこの家……未来さんの住む家の自室にいます」
     故に、赴けばインターフォン越しに会話を行う事ができるだろう。
    「幸い、未来さんは現状をある程度認識している状態。ですので、誠実に対応すれば呼び出すのも簡単かと思います」
     呼び出し場所を移した後に、本格的な説得となるだろう。
    「続いて、未来さんについて説明しますね」
     小峰未来、高校一年生。明るくて前向きな女の子。胸の小ささすらも個性と認識し、前向きに捉えることができているほどに。
     多少ならばからかいも許せるが……あるいはそれがいけなかったのだろう。男子たちのからかいは日に日にエスカレートし、今では叱りつけてもしつこく繰り返す……そんな状態になっていた。
     胸の小ささを気にしていない、と言っても、流石に毎日のようにからかわれれば気にも触る。あるいは……そんな鬱憤が、六六六人衆という闇を呼び起こしたのかもしれない。
     今、未来は殺戮衝動を……特にしつこくからかってくる男子たちへの殺戮衝動を抑えるため、名前とともに死因を記したノートを作り続けている。想像の中で殺すことで殺戮衝動を抑え、自分を保っている状態だ。
    「ですので……そうですね。具体的なアドバイスを行い、殺人ではない方法で行動を起こせる……そんな、前向きな思いを抱かせる事ができれば良いのではないかと思います」
     そして説得が成功するにせよ失敗するにせよ、六六六人衆と化した未来と戦うことになる。
     未来の六六六人衆としての力量は、さほど高くはない。全力を尽くせば苦もなく打ち倒すことができるだろう。
     技は三種。治療を封じる包丁の一刺し、加護を砕くフライパン。そして、まな板を盾代わりに構え身を癒やす……と言ったもの。
    「以上で説明を終了します」
     葉月は地図など必要な物を手渡し、締めくくりへと移行した。
    「自分が気にしてないとしても、他人からしつこく言われれば嫌なもの。たとえそれが、コミュニケーションの一環として放たれた言葉だとしても。それでも自分を押さえ込んでいる未来さんはきっと、強い方なのだと思います。ですのでどうか、全力での救済を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    御門・心(日溜りの嘘・d13160)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    シャロン・ルナージュ(孤高の文学少女・d17850)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    ジェルトルーデ・カペッレッティ(幼きアッセディグイーダ・d26659)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    平坂・穣子(中学生神薙使い・d36486)

    ■リプレイ

    ●何度も何度も言われ続けて
     公園で遊んでいた子どもたちが帰路につき、買い物に勤しんでいた主婦たちも夕食の準備へと取り掛かる。商う者たちも一日の終りに訪れた忙しい時間に向けて気合を入れ直す、静かな風吹く午後五時頃。
     多くのことを仲間に託し、影道・惡人(シャドウアクト・d00898)は夕焼け空を眺めていく。
     今回の案件。六六六人衆になろうとしている少女・小峰未来に対し色々と思うところはあるけれど、後に待つ戦いのためにもそれを口にすることはない。ただ、数十分後に始まるだろう戦いに備え、一人仲間たちの様子を伺っていた。
     きっかけを作るためにも接触を果たさなければならない。
     秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)は最初のきっかけを作るため、小峰の表札がかかった一軒家の門の前に立っていた。
     インターフォンを鳴らし、待つこと数秒。小さな雑音が響くと共に、内部との回線が開かれた。
    「はい、どちら様でしょうか」
     紡がれたのは、少女の声。恐らく、小峰未来のもの。
     清美は仲間たちと頷きあった後、静かな調子で切り出した。
    「私たちは、武蔵坂学園というものです。異常な力に悩んでいるという話を聞いて参りました。未来さんのお力になりたいので、出てきていただけないでしょうか?」
    「……え」
     戸惑いと、驚きが混じったような声。
     希望へと変えるため、清美は続けていく。
    「私達は同じ力を制御する技術がありますので、未来さんにもお教え出来ると思います」
    「……」
     一陣の風が吹き抜けるとともに、小さな雑音。
     内部との回線が閉ざされ、風の音が聞こえる沈黙が訪れた。
     誰ひとりとして言葉を紡ぐことなく、待つこと数十秒。小さな音を立てながら、玄関扉が開かれた。
     中から出てきたのは、一人の少女。話に聞いていた容姿を持つ、小峰未来……。

     人数の多さゆえ、近くの公園へと移動した。
     公園の中心、時計台を囲うように幾つか設置されているベンチへと到達し、灼滅者たちは未来へと向き直った。
     未来は立ち止まり、不安げに瞳を伏せていく。
    「それで……その、どうすれば……」
    「先ずは心を強く持つ事が大事です。悩みで心が弱ると制御出来ません。悩みがあるならお聞かせください」
     歩み寄ることはせず、ただ、清美は未来を真っ直ぐに見つめた。
    「……」
     視線を逸し、口を閉ざす未来。不安げに両手を組み合わせ、震わせた後……ぽつり、ぽつりと語りだした。
     男子が、毎日のように胸が小さいことをからかってくること。
     それ自体が悩みで……いつしか、抑えようのない殺意を抱くようになっていたこと。
    「駄目だ……ってわかってる。でも、抑えきれない……いつか、抑えきれなくなる。だから……」
     唇を震わせ、うつむく未来。
     清美は静かな呼吸を刻んだ後、自らを指し示していく。
    「私も中三ですが見てのとおりです。気持ちは良く分かります。むしろ、前向きな未来さんを尊敬します」
     前の開かれたコートの下に除いている、未来同様起伏のあまりない体つき。
     未来の視線を受け止めて、優しく微笑んでいく。
    「男子を止めたいなら、友達に守ってもらうのが一番ですよ。複数の友達に悩みを打ち明けて、周りの人たちから嫌がっているのを伝えてもらえれば、流石に男子も分かると思います。口でなら男子には負けませんからね」
    「……伝えてもらったことはあるの。でも……それも、いつもどおりのことだと思われて……」
     なんでもかんでもいつものことに変換し、あるいはまともに受け止めず、からかいを止めない男子たち。
     積み重なっていく想い、軋む心。
     影を宿す横顔。
     四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)は瞳を細め、一歩前に踏み出した。
    「話を聞いていて……私はこう思いました。やっぱり自分で気にしていないと思い込んでいることが、そもそもの間違いなんじゃないかって」
     眉が、ピクリと動いた。
     動きが止まった。
     唇が何かを紡ぎだすことはなかったから、悠花は続けていく。
    「身体的なことは頑張ればどうこうなるものではないし、そこはしっかりと言い返してやらないとですよ。例えば、そういうことを言う人は、大っ嫌い! とか言ってやれば、絶対、男の子は精神的ダメージを受けます。だから、我慢してはダメです!」
    「胸の大きさを気にしているようだけど……」
     シャロン・ルナージュ(孤高の文学少女・d17850)が繋いでいく。真っ直ぐに未来を見つめたまま。
    「胸が大きければ良いという訳では無いわ。胸の小さな人が良いって言う人もいるだろうし、そういう人には人気出ると思うわよ」
     胸の大きさで、女性の価値がそのまま決まるわけではない。
    「あと、貴女の名前の未来……これは貴方が未来に健やかに過ごせる願いが込められていると思うから、無理に今の貴女を変える必要も無いと思うの」
    「……」
     沈黙を続ける未来を見つめたまま、シャロンもまた言葉を終えた。
     灼滅者たちが見つめる中、未来は瞳を伏せていく。
     時計が六十の秒を刻んだ時……ゆっくりと首を、横に振った。
    「それも、言われたわ。男子に、本当は気にしてるんだろう、って。だから嫌がるんだろう……って」
     口元は持ち上がり、けれど瞳は伏せられたまま。
    「でも、考えてみてちょうだい? どんな些細な事でも……髪の長さ、背の高さ。あるいは身体的なことじゃなくても……気にしてないようなことでも、普通は気にならないだろうことでも、毎日のようにからかわれれば嫌にならない? ……私は、なったわ」
     再び開かれた瞳に、感情らしき光は宿っていない。
     ただただ、地面だけを写していて……。

     風た冷たさを増していく。
     ブランコが軋む音だけを運んでくる。
     未来が沈黙すると共に沈みかけた空気を打ち破るため、御門・心(日溜りの嘘・d13160)が切り出した。
    「そうですね……こう考えてはどうでしょう。殺しちゃダメでも殴るくらいならいいんですよ、しても」
    「え……」
     顔を上げ、瞳を見開いていく未来。
     表情を変えぬまま向けてきた視線を受け止め、心は微笑みかけていく。
    「下手に溜め込むから鬱屈しちゃうんでしょう。舐められたらやり返しなさい、やり返さない程度に。私の友達とか本気でやり返してきますからね、マジで」
     静かに瞳を細めると共に手を叩き、自らの胸に手を当てた。
    「とりあえず、そこら辺から実践してみましょうか」
    「……」
     再び瞳を伏せ、視線を逸らしていく未来。
     手の震えは収まっていた。
     瞳にも光が宿り始めていた。
    「でも……」
    「君は自分なりのやりかたで我慢し続けてきたんだね」
     口を開き首を横に振ろうとした未来を、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)が呼び止める。
     彷徨う視線を受け止め、真っ直ぐに見つめ返していく。
    「それは、君の強さと優しさだ」
     けれど……と瞳を伏せ、首を横に振っていく。
    「それじゃ相手は気づかない。ワザとでもいいから泣いてみるのもいいかもな。結構効くよ?」
    「我慢するのは時には必要なことだけど、嫌なことははっきりと口に出して言わないとな。相手が面白半分なら尚更だ。」
     宿り始めた光を逃さぬと、平坂・穣子(中学生神薙使い・d36486)もまた切り出した。
    「怒鳴りつけるなりひっぱたくなり、意思表示をすることが大事だ。さっきは上手くいかなかったと言っていたが……今一度、今度は実力行使も含め、一緒に抗議してもらうのも良いかもしれない」
     本音を語ってしまえば、自分がセクハラ小僧どもにお級を据えてやりたいところ。
     けれどもその役目は友人が、叶うならば未来の手で成すべきこと。
     瞳を揺らし、けれども宿す光は徐々に強まり、再び地面を見つめていく未来。
     それはきっと、未来へと進むため。
     前へと歩き出すための道を探すため。
     導くため、ジェルトルーデ・カペッレッティ(幼きアッセディグイーダ・d26659)は精一杯の声音で伝えていく。
    「女の子の胸の話は、デリケートなのに、からかうなんて、ひどいよね! だけど、何度も何度もからかうってことは、きっと、未来さんの反応が、よかったんだね」
     表情はあまりかわらぬけど、その分身振り手振りを大げさに。
     一生懸命の思いを込めて、言葉を紡ぎ続けていく。
    「たぶんみんな、未来さんのこと、すきなんだよ。もっと魅力的なとこ、見せてあげて、そっちで夢中に、させちゃお!」
     させちゃお、のポーズで締めくくり、未来を真っ直ぐに見つめていく。
     風の訪れとともに、静かな笑い声が聞こえてきた。
    「……ふふっ、そうなの、かもね。うん、そう、だよね……言葉で言ってもダメだから我慢して来たけど……うん、他にも方法はあるんだよね。どの手段をとれるのかはわからないけど、でも……」
     半ばにて、明るく笑う未来が暗き闇に抱かれた。
     灼滅者たちは即座に距離を取り、武装。
     六六六人衆へと変わりゆく未来を救うため、戦うための準備を整える……。

    ●殺戮衝動を抑えこみ
     右手に包丁を、左手にフライパンを携え、佇んでいる六六六人衆。
     言葉を紡ぐ気配がないさまを……未来が抑えこんでくれているのだろうさまを眺めながら、心は透き通った刃を持つ花をあしらった大鎌を握り駆け出した。
    「さ、それでは取り戻しましょうか」
     微笑みながら大鎌を振るい、フライパンと撃ち合い出す。
     三度目の斬撃で上方へと弾いた後、手首を返して体を斜めに切り裂いた。
     よろめきながらも、六六六人衆は姿勢を正す。
     どこからともなくまな板を取り出して、盾のように構えていく。
     一部始終を観察していた悠花は首をひねった。
    「……一体、どこからまな板を取り出したんでしょう……」
     考えても答えは出ないだろうと思い直し、足に炎を宿して歩み寄る。
     まな板に防がれながらも炎上させることに成功させた直後、一塊のオーラが六六六人衆を後方へと押し返した。
    「こいつぁ手応えあり……っと」
     口元に笑みを浮かべたまま、惡人はガンナイフを引き抜いていく。
     最も有効となる力を調べんと、追跡の力を秘めた弾丸を込め始める。
     さなかにも、灼滅者たちの攻撃は続いていく。
     時に受け、時にははねのけた六六六人衆はバックステップで距離を取り、膝を畳む。
     膝をバネ代わりに跳躍し、清美の懐へと踏み込んだ。
     突き出された包丁を、清美はオーラを盾代わりに受け流す。
    「大丈夫です、このくらいの攻撃を受けたりなんてしませんよ」
     六六六人衆の中で眠っている未来に語りかけながら、炎に染めた足による回し蹴り。
     背中を蹴りつけ、六六六人衆を包んでいた炎にさらなる火力を足していく。
     炎を標に灼滅者たちの攻撃が集う中、惡人は最も有効だった影を解き放った。
    「おぅそいつにゃ神秘が効くぜ」
     影は六六六人衆の体を包み込み、暗き世界へと閉ざしていく。
     影の内側めがけ、放たれていく灼滅者たちの力。
     全ては未来を救うため。
     未来をあるべき姿へと戻すため。
     シャロンの放った鞭剣が、影の中心に立つ六六六人衆を縛り上げた。
    「捕まえた、今よ」
    「ああ、行くよプリューヌ」
     即座にクレンドが踏み込んで、プリューヌの並び立つ形で六六六人衆の正面に立つ。
     刃を重ねる形で振り下ろし、影に鞭剣にとらわれている六六六人衆を打ち据えた。
     よろめいて行く気配を感じながら、穣子は魔力の矢を降り注がせていく。
    「さあさあ、一気に終わらせちまうぞ!」
    「終わらせ、る!」
     魔力の矢が降り注いでいく場所の中心目指し、ジェルトルーデが跳躍。
     落下の勢いを乗せながら、杖を思いっきり振り下ろした!
     手応えを感じた直後に魔力を爆発させ、影を周囲に吹き散らす。
     鞭剣が解かれていく中、倒れていく六六六人衆。
     着地したジェルトルーデは即座に歩み寄り、倒れてきた六六六人衆を……未来を抱きとめた。
     小さな体で一生懸命支える中、耳元に聞こえてきたのは安らかな寝息。
     安堵の息を吐きながら、灼滅者たちは事後処理へと移行する……。

    ●後悔させてあげなくちゃ
    「んじゃ後は任せたぜ」
     治療だけを行い、いち早く帰路についていく惡人。
     残された灼滅者たちは周囲の片付け、ベンチに寝かしつけた未来の介抱を行った。
     治療なども済んだ頃、未来は目を覚ます。
     目をこすりキョロキョロを周囲を見回し始めた未来へと、ジェルトルーデが声をかけて行く。
    「おはようござい、ます。調子はどう?」
     調子はどう? のポーズを決めたなら、状況を思い出したのだろう……未来は恥ずかしそうに頬を染めながらも、力強く頷いた。
     再び顔を上げた後、紡がれたのは感謝の言葉。
     受け止めた上で、心は尋ねた。
    「未来さんはこれから、どうしたいですか?」
    「そうね……」
     瞳を伏せ、考え始めた未来。
     すかさず、口を挟んでいく穣子。
    「俺だって今は絶壁だけど、成長期なんだし、まだまだこれからだ!」
    「……え?」
    「大きさだけが全てじゃない! むしろ、最近の男はそっちのほうが好みだぞ! そんな阿呆な男子は、マザコン呼ばわりしてやれ!」
     自らの小さな胸を叩きながら笑いかけ、力強く頷いていく。
     未来は戸惑う様子を見せたあと……静かに、笑い始めた。
    「ふふっ……でも、私はそれはいいかな。でも、そうね……それじゃ、魅力を見せつけてやろっかな。私にしかない魅力を、ね」
     横顔に影はない。
     瞳に映る光に揺らぎはなく、前だけを見つめ続けていた。
     悠花が頷き返し、肩の力を抜いていく。
    「ま、男の子なんて好きなこの前じゃ素直になれないんだから……きっと未来さんのことも」
    「ふふっ、それだったら楽しいかも」
     いたずらっぽく笑う未来。
     もう、大丈夫だろうと、シャロンは携帯電話を取り出した。
    「また悩みがあったら、いつでも相談に乗るわ」
    「それから、これは相談なんだけど……」
     クレンドは切り出した。
     学園へのいざないを。
     未来は一通りの説明を求め、受けた後……頷いた。
    「この力が役に立つのなら……それに、だったらなおさら後悔させて上げなくちゃ。こんないい女を逃がしたんだ、って」
     力強い言葉に、悩んでいた時の気配は欠片もない。
     契を交わし、連絡先も交換し……未来は、新たな道を歩み出す。
     堂々と胸を張り、真っ直ぐに前だけを見つめ……自らの望む、未来へと!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ