優しい男にご用心

     沙紀は幸せの絶頂にいた。
     その手の内にあるものが、本物の幸せだと信じて疑わなかった――。
     沙紀には、圭吾という名前の恋人がいた。
     ある日、夜道を歩いていた沙紀は四人の男に声をかけられた。その時、男達に囲まれて震えていた沙紀を助けてくれた男、それが圭吾だった。
     それをきっかけに圭吾との交際をスタートさせた沙紀は、彼の母親が大病を患っていることを聞かされた。
    「友達から一緒に会社を立ち上げようって誘われてるんだ」
    「でもそれって大変なんじゃない?」
    「今までは給料と合わせて、貯金を切り崩しながら何とか入院費を払ってたけど、それもそろそろ限界だし、確かに成功するって保障はないんだけどさ。俺、挑戦してみたいんだ」
     真剣な眼差しで語る圭吾の手に、沙紀は自分の手をそっと重ねた。
    「私も応援する。だから私に出来ることがあったら何でも言って」

     灼滅者達が集められた空教室に、大きな機械が陣取っていた。仁左衛門と名付けられた移動型血液採取寝台。その名付親であり、持ち主である天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は無邪気な笑顔で灼滅者達を出迎えた。
    「みんな集まったことだし、説明をはじめるね!」
     まずはじめにカノンは、今回の敵はソロモンの悪魔に力を与えられた強化一般人の五人だと説明した。
    「……五人?」
     有栖川・真珠(人形少女の最高傑作・d09769)が形の良い眉を微かに歪めて聞き返す。カノンは彼女に頷き返してから説明を続けた。
    「今のでピンと来たかもしれないけど、沙紀ちゃんをナンパした四人と圭吾くんは、実はグルだったんだよね」
     五人は力を与えられたばかりで、沙紀は彼らの最初の標的である。彼らを野放しにすれば、これから手に入れた力で様々な事件を引き起こすだろう。
    「そうならないためにも、みんなでお灸を据えてあげて欲しいんだ。五人とも気絶させれば元に戻せると思うよ」
     カノンは眉を顰め、女の子は誰でも良かったようだと言葉を付け加えた。
    「誰かが沙紀ちゃんに道を尋ねたりして時間稼ぎをしている間に、囮となる一人が四人と接触するっていう作戦が有効かな」
     圭吾が囮となる女の子の助けに入った所を狙って残りの灼滅者達が合流すれば良い。カノンはそう言いながら地図を広げた。彼女が戦闘場所に指定したのは、神社だった。
    「この神社は、町民が当番制で管理しているんだ。だから夜に人が来る心配はないし、広さもそれなりにある。五人をここに誘導出来れば心置きなく戦うことが出来ると思う」
     彼らは自分達の力を試したくてうずうずしている。挑発すれば必ず乗って来るとカノンは断言した。
     そしてカノンは、金髪が悠太、茶髪が真治、黒髪で唇にピアスをしているのが良哉、銀髪が章、圭吾は黒髪を短く切り揃えていると、五人の特徴を簡単に告げると、次に彼らの戦闘力についての説明に移った。
    「戦闘経験はまだないから、連携攻撃とかはあまり使って来ないかもね。あ、だからと言って油断は禁物だよ」
     圭吾は、魔法使いに似たサイキックを使い、悠太と良哉はガンナイフ、真治と章はリングスラッシャーを使用すると言う。ポジションは、クラッシャーのような前衛タイプが多いので積極的に攻撃を仕掛けて来るだろう。五人の中で一番戦闘力が高いのは圭吾のようだ。
    「どんなソロモンの悪魔が裏で糸を引いているのかは分からない。その辺は抜かりが無いね」
     カノンは悔しそうに唇を噛んだ。
    「今ならまだ引き返せる。みんなで彼らの目を覚まさせてあげて!」
     カノンは、真剣な眼差しで灼滅者達に訴えかけると、頭を下げた。


    参加者
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)
    天雲・戒(紅の守護者・d04253)
    希・璃依(一等星・d05890)
    高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)
    枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)
    石神・鸞(仙人掌侍女・d24539)
    楯無・聖華(悪夢の伝道師・d35708)

    ■リプレイ

    ●彼女の幸せを願って
     沙紀は、アパレル会社に務めている。入社して二年目に突入した今でも、覚えることはまだまだ沢山あるし、上司も厳しい人で、大変なことも多い仕事だが、だからこそやりがいがあると感じていた。
     日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)は、前方からやって来る沙紀をスマホ越しに見つめた。もうすぐ沙紀が圭吾と出会う予定の地点に到着する。それを阻止するのが、彼女の最初の仕事である。
    「えっと確か、この辺のハズ……」
     翠はスマホの画面を見ながら、すれ違いざまに沙紀の肩に自分の肩を少しぶつけた。カシャン、と音を立ててスマホが地面に落ちる。沙紀は慌てた様子でスマホを拾うと、謝りながら翠にスマホを渡した。
    「ご、ごめんなさい!」
    「こちらこそ、ごめんなさい。実は道に迷ってしまって。ウエルズさんって方のお家を探しているのですけど、ご存じありませんでしょうか?」
    「ウ、ウエルズさん、ですか……?」
     その時、丸眼鏡をかけた少女が二人の隣を通り抜けた。通り過ぎる何人かの男は知的で優しい雰囲気の少女を振り返って見つめていく。男達の視線を釘付けにする少女の正体は、囮役のためにエイティーンで18歳の姿に変身した枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)である。二人は、沙紀に気づかれないようにアイコンタクトを交わした。
    「今のみおって……どう見えるのかしら?」
     ふう、とため息を吐き、手鏡に映る自分の姿を見つめる。すると、間もなくして、手鏡に男の姿が半分映り込んできた。
    「金髪は悠太さん、だったかな」
     水織は、後ろからついてくる男達に気づかないフリをしながら、ポツリと呟いた。
     なるべく人の多い道を選びながら神社に向かう。
    「こんな時間にお参り?」
     四人は、鳥居をくぐった時を見計らったように声をかけてきた。金髪、茶髪、黒髪に口元にピアス、銀髪、この四人で間違いない。もう少し早い段階で声をかけられるかと思っていたが、うれしい誤算だ。
    「この近くに住んでるの? よかったら送ってくよ」
    「……いいえ。もうすぐ面接があるので、近くまで来たついでに神社で合格祈願をしていこうかと……」
    「俺達も一緒に神様にお願いしてあげよっか?」
     気安く肩を抱いてくる男に嫌悪感を抱いたが、水織はその感情をぐっと飲み込んだ。もうすぐ圭吾が現れるハズだ。そして、仲間達も――。
    「お前達、そこで何してる!」
     ――来た!
     黒髪を短く切り揃えた圭吾。彼が学生ならサッカー部のエースでいそうなタイプだ。あくまで見た目だけの話だが。
    「何してる、は君もだろ?」
    「……!?」
     背後から急に声をかけられて圭吾は驚いた顔で振り返った。そこには、神社の出口を塞ぐようにして楯無・聖華(悪夢の伝道師・d35708)と天雲・戒(紅の守護者・d04253)が立っていた。
    「予定通り、強化一般人五人と接触した」
     翠に作戦成功を伝えた戒はスマホをポケットに仕舞うと、圭吾達を見渡した。
    「で、あんたたち、グルなんだろ? 同じ臭いがするぜ」
    「君達にお灸を据えるのが、今回のお仕事でね」
     聖華が放つ殺気に息苦しさを覚える。
     気がつくと圭吾達は、七人の灼滅者に囲まれていた。
     翠はスマホを耳にあて、沙紀に不自然に思われないように話をしながら戒からの報告を聞いていた。
    「道に迷ってしまって、今人に道を聞いているところです。場所? えっと、青木っていう本屋が近くに……え? 隣町!?」
     驚いたフリをした翠は、ペロッと舌を出して照れ笑いをした。
    「ごめんなさいです。私、勘違いをしていたみたいで……」
     翠は重ねて謝罪すると、その場から走り去った。
    「沙紀さん、とっても良い人でした。そんな人の気持ちを踏みにじるような行為は、ぜったいぜったいダメなのですっ」
     急げ、急げ。仲間達の元へ――。

    ●溺れる者
    「少し遊んでやろう……三下」
     叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)はサウンドシャッターを展開しながら、圭吾達に挑発的な言葉を投げかけた。圭吾達が顔を真っ赤にして眉を吊り上げる。今回の事件にアモンが関与している可能性はゼロに等しいが、その姿が脳裏にチラつき、宗嗣も自然と表情が険しくなってしまう。
    「お仕置きタイムだっ! ふりる、クールにあつーいお灸をアイツらにすえてやろうっ」
     希・璃依(一等星・d05890)の言葉に返事をするようにライドキャリバーのふりるは、エンジンを吹かした。
    「力とは、乙女の恋心を弄ぶためにあるのではありませんよ」
    「ナンパなんて元々、気分の良いものじゃありませんけど、あなた達はそれの更に上をいきますね」
     サボテン姿を取った石神・鸞(仙人掌侍女・d24539)は諭すように言い、高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)の方は、呆れ顔だ。
    「何で俺達のことを知ってんのかは知らねぇけど、邪魔をされると面倒だな」
    「ああ。この力も試してみたいし、丁度良いんじゃねぇ?」
     人数も経験も力量も、自分達が灼滅者に勝るものは何一つないと言うのに、余裕なものだ。五人に、宗嗣は低く告げた。
    「一凶、披露仕る……」
     宗嗣は地面を蹴り、敵の懐に飛び込むと、指で弄ぶようにリングスラッシャーを回していた真治を鋭い銀爪で切り裂いた。
    「うわぁぁ!」
     尻餅をついた真治が掠れた悲鳴を上げた。宗嗣の半獣化された片腕を見て、四人が後ずさる。
    「今更、危機感を抱いても遅いですよ」
    「後悔先に立たず、という言葉がございますが、ご存知でしょうか?」
     暗に逃がさないと告げる紫姫と鸞。
     紫姫は除霊結界を構築して霊的因子を強制停止させた。
    「お前らの性根、俺が叩き直してやるよ。覚悟はできているんだろうな?」
     戒もまた、厳しい視線を投げかけた。
     コオォォ……!
     戒のオーラが拳に集束されていく。
    「残念ながら俺は人を騙そうとする奴は大嫌いでね」
     ――ヤバイ!
     そう思った時には、もう手遅れだった。
     戒は、悠太の体に何度も何度も拳を打ち付ける。あまりの衝撃に悠太は声も出せなかった。
    「ちょっと痛いけど我慢してね」
     敵だからと言って、むやみやたらに痛めつけるのは水織のポリシーに反する。しかし、彼らは気絶さえさせれば元に戻せるという。少々痛い目を見てもらうことになるが、大目に見て欲しい。水織は謝りながら圭吾に向かってマジックミサイルを放った。圭吾も魔法使いによく似たサイキックを使うらしいが、こちらは本物である。万が一にも負けることはないだろう。
    「だけど、油断は禁物。何事にも全力で!」
    「調子に乗るんじゃねぇよッ!」
     圭吾が叫ぶと、パキパキと音を立てて周囲にあった木や灯籠が凍っていく。冷気の波が津波となって灼滅者達に襲いかかる。
    「…………ッ!」
     体が凍り付き、いう事を利かない。灼滅者達の動きが鈍った今が好機とばかりに、五人は勢いを取り戻した。
    「おい、てめぇ等! 今のうちにやっちまえッ!」
     圭吾の声が響くのと同時に、リングスラッシャーと弾丸が灼滅者達に襲いかかった。ジワジワと体力が削られていく。
     その時、翠が神社に飛び込んで来た。
    「ふわぁ! なんだか冷凍庫の中にいるみたいです。みなさん、すぐに回復しますですっ」
     祈りを捧げる彼女の思いに応えるように呪符が光を放った。
    「……チッ、まだ仲間がいやがったのか」
     ふわり、と優しい風が吹く。翠は軽やかに神楽舞を踊り、更に灼滅者達の傷を癒した。

    ●お灸を据える
     真治と章がリングスラッシャーを飛ばす。しかし、璃依、紫姫、鸞は、それをひょいひょいと、簡単にかわしてしまう。
    「ちゃんと狙ってください。でないと――」
    「いつまで経っても、平行線のままでございますよ」
     鸞が紫姫の言葉を繋いだ。
    「おーにさーんこちら、てーのなーるほうへっ」
     おどけた調子で、二人を挑発しながら、璃依は魔導書をパラリと捲る。明るい表情とは裏腹に、精神を暴走させる原罪の紋章を真治と章の体に刻み込んだ。
     悠太と良哉も追尾型の弾丸を放ったが、宗嗣と戒に相殺されてしまった。思うように攻撃が決まらずに、五人のストレスだけが溜まっていく。
    「何をモタモタやってんだ! さっさと……」
     圭吾が、ハッとする。バラバラに散って戦っていたハズの五人が、一所に故意に集められていたことに漸く気づいた。
    「ポッと出の能力者なんかあたしがまとめてぶっ飛ばしてやるよ!」
     聖華が放った流れ星のような煌めきを持った矢が頭上から雨のように降り注ぐ。ある者は、頭を抱えながら悲鳴を上げ、ある者は、パニックを起こして逃げ回った。
    「大人しくしていてください!」
     紫姫はそのうちの一人、逃げ回っていた良哉を殴り付ける。漆黒の翼が良哉の動きを封じた。
    「な、何だこれ! クソッ、動けねぇ!」
    「下手に動かない方がご自身のためかと……」
     鸞は落ち着いた声で話ながら、良哉の体に注射器を突き立てた。良哉は自分の体から力が抜けていくのを感じた。
    「な、何なんだよコイツらっ」
     仲間を置いて逃げようとする章の横腹にふりるが体当たりを食らわせる。
    「ぐぅ……」
     呻き声を上げて膝をついた章を璃依が殴り付けると、影が章のトラウマを呼び起こす。苦しみながらも逃げようとする章の顎を紫姫が蹴り上げ、その衝撃で浮かび上がった体がどさりと音を立てて地面に落ちる。章はそのまま動かなくなった。
    「章……っ!」
     青褪めた顔で仲間の名前を呼ぶ真治に紫姫は、答えた。
    「ちゃんと手加減はしました」
    「なめんじゃねぇッ!」
     安堵の表情を浮かべる真治を押しのけるようにして良哉が吼える。
    「真治、ぼさっとしてんじゃねぇ! どうせコイツらは俺達を逃がす気なんてねぇんだよ!」
     圭吾の怒鳴り声に怯えたように真治、は再びリングスラッシャーを飛ばした。
     しかし――。
    「おい! どこ狙ってんだよ!」
    「ワ、ワザとじゃねぇよ!」
     動揺からだろうか。リングスラッシャーは灼滅者ではなく、少し離れた場所にいた悠太に当たってしまった。
     僅かに出来た綻び――。
     翠が素早く印を切る。
    「ケンカ両成敗ですっ」
     風が激しく渦を巻き、四人を空高くへと浮かび上がらせる。成す術もなく、空に放り出された彼らは、風の刃の餌食となった。
    「どいつもこいつも甘ったるいねー。そんなんじゃあたし達は倒せないよー!」
     聖華が、悪人を裁く光線を乱射する。宙に浮いたままの状態の彼らに、それから逃れる術などなかった。
    「これで終わりだと思うなよ」
    「こんなコトしてると、オマエの黒歴史になるぞっ」
     宗嗣が射出した漆黒の布槍で悠太の体を貫き、璃依は影を宿した武器で良哉を殴り付けた。ふりるも機銃掃射を彼らに浴びせ、灼滅者達を援護する。
     次々と倒されていく仲間の姿を目の当たりにした真治は、半狂乱になってリングスラッシャーを周囲に飛ばした。
    「ごめんね。すぐに元に戻してあげるから」
     そんな真治の背後に回り込んだ水織は、悲しそうに眉を下げながら、リングスラッシャーを彼の背中にぶつけた。周囲の人間に感化されたのか、ただ力に溺れてしまったのかは分からないが、元は優しい男だったのだろう。ふとした拍子に別人のように変わってしまうこともある。それは、灼滅者にも言えることだ。地面に倒れ伏す真治を見てそんなことを思った。

    ●差し出された掌
    「クソ……ッ! こんなハズじゃ」
     悪態を吐きながら圭吾は出口に向かって走る。しかし、バイクのエンジン音に気づいて足を止めた。
    「お前のその性根を叩き直してやるって言っただろ?」
     竜神丸に乗った戒が先回りをしていたのだ。
     逃げることは出来ないという現実。灼滅者達との実力の差をハッキリと実感した圭吾は、歯を食い縛るようにして、表情を歪めた。
    「逃がさないよ!」
     聖華は、クロスグレイブで痛烈な打撃を食らわせる。 スイッチが入ったのか、聖華の赤い瞳は、燃え盛る炎のように輝いていた。
     宗嗣が瞬時に死角に回り込んで斬り裂き、戒がオーラを纏った拳で圭吾を打つ。空高く飛び上がった紫姫は強烈な飛び蹴りを炸裂させ、圭吾の機動力を奪った。その隙を逃さずに、翠は呪符を五芒星の形に浮かべて雷を撃った。圭吾の体から煙が上がる。
    「ク、ソ、がァァッ……!」
     最後の力を振り絞り、圭吾がマジックミサイルを放った。
    「出鱈目に撃ってもダメだよ」
     水織もマジックミサイルで迎え撃つ。ぶつかり合った魔法の矢が空中で粉々になりパラパラと降り注いだ。
    「――っ!」
     止めに璃依と鸞が両側から手加減して攻撃を加える。
     それは、今日受けた中で一番軽い衝撃だったが、圭吾の意識は、そこでぷつりと途切れた――。
     圭吾が目を覚ますと、そこは子供の頃からよく訪れた、いつもと変らない神社だった。友達とかくれんぼをしたり、祭りを楽しんだ、思い出の場所だ。
    「…………?」
     戦闘の痕跡などない。何もなかったですよ、とでも言うように、夜の静けさだけがそこにあった。
    「漸く、お目覚めか」
     全部、夢だったのだろうか、と思った矢先に後方から声がかかった。振り返ると、八人の灼滅者と四人の友人がこちらを見ていた。
     呆然としている圭吾に、戒が告げる。
    「お前達が手に入れた力はこれで消えた。これからは真っ当に生きるんだな」
    「ごめんね。痛かったよね?」
    「まあ、ちょっとやり過ぎたかも、な……」
     水織が心配そうな表情で圭吾の顔を覗き込んだ。聖華もバツの悪そうな顔で頬を掻いている。その横で、少し憂いだ表情で紫姫が言った。
    「ですが、遅かれ早かれ、痛い目を見ていたでしょうね。世の中にはもっと力を持った『バケモノ』がいくらでもいるんですから」
    「一応、聞いておく。お前達に力を与えたのは誰だ?」
     宗嗣が訊ねる。しかし、五人とも、その時のことは何も覚えていないのだと言う。
    「やはり、何の情報も得られませんでしたね」
     残念そうに聞こえる声で、そう言う鸞を励ますように翠が言った。
    「でも、被害が広がることは避けられましたです。これにて、一件落着です」
    「真っ当に生きていい男になるんだぞー。 アタシの彼氏のようになっ」
     帰ったら彼に話していっぱい褒めてもらうのだ、と璃依が弾んだ声で話す。
     そう、恋とは人を幸せにするものだのだ。決して、人を傷つけるための手段であってはならない。
     水織は振り返って、小さくなっていく五人の背中を見つめた。
    「今まであった事件とは少し毛色が違うような……。もしかして、無差別に力を与えている悪魔が? でも、一体なんのために……」
     彼女の呟きは、誰にも気づかれることなく、闇に溶けていった。

    作者:marina 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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